スイート・メモリーズ     ~第14話~

「……いやあの…?長が?」
思わず目を点にする。
久しぶりに隠里を訪れた。
彼が一族の一員となって、はや等しい。
すでにもうあれからかなりの年月が経過しているにもかかわらずに。
それでも昔と同じようにゆっくりと時間を経過しつつすごしているのは、
彼が一族の一員になったからに他ならない。
そこで知らされた驚愕の事実。
「ええ。長が女王候補に選ばれました。…あの?カティス殿?
  ……一体、今この宇宙に何が起こっているのでしょうか?」
長が女王に選ばれること…すなわちそれは、
この宇宙に何らかの出来事が起こっていること。
それはもう長い歴史の中で一族の皆はわかっている。
その言葉に少し顔を伏せ。
「それは……今の俺の口からはいえないな。」
わかっている。
何が起こっているのかは。
だがそれをいってもし外に伝われば……パニックなることは必死。
それでなくても全身全霊の力でもって、
この世界を支えているアンジェリーク女王陛下の負担を、さらに負わさせることとなるのは……
……元緑の守護聖であるからこそ、彼…カティスはよく理解している。
「まあ、何とかなるさ。」
その言葉に不安をにじませつつ。
それでも元守護聖様がそういうのであれば、と安堵する一族のメンバー。
彼らに不安にならないようにさとしつつ空を見上げる。

「――陛下……無理はなさらないでくださいよ?」

滅多に自分たちの前にも現れなかった現女王。
その理由は……わかっているからこそに、願わずにはいられない。
「……しかし……アンジェリーク=ユニバース様が自ら…となると。……やはり大事なのだろうな…」
噂ではとある別の宇宙にて試験が始まっているとかいないとか。
「……ちょっとかつてのツテをたどって……真意を確かめてみるか。」
自然界の声を聞くところによれば、
すべての命をひとつの星を媒介として…新たな宇宙にと、この世界すべてを移動させるつもりとか。
その声を聞いているからこそ。

聖地とも違いまた飛空とも異なる惑星上にて。
一人の男性が真実を確かめるために……行動を開始し始める。

彼はしっている。
現時点のこの一族・・・すなわち自分が加わっている一族の長が。
……宇宙の創造主といわれている【アンジェリーク=ユニバース】。
その人の化身である……という事実を。


「えええええ!?マルセルだけずるいです!」
案の定。
マルセルが種を貰った。
という話を聞いて。
地の守護聖ルヴァがうらやましがったのは……いうまでもない。

今日も今日とて平和に試験は滞りなく進んでゆく。



豊かな台地。
なだらかな気候。
確かに完璧なまでに育成をしているのに。
それなのにいったいどこがアンジェリークと違うというのか。
自分の大陸は確かに豊かな大陸にと成長を遂げている。
この地に人が住まうのにも何の問題もないであろう。
それなのに対するアンジェリークの大陸はというと。
砂漠、高山、湿地帯…エトセトラ。
どう考えても人が住める……といった安定した台地ではない。
気候すらも場所によって異なるように地形的に変動している。
なのに……なのに。
である。
アンジェリークの大陸には目に見える生命体が。
自分の大陸にはいない…
よくいうところの絵本などでしかみたことのない、『妖精』『精霊』という存在が、
誰の目にも見えるようにと発展を遂げている。
生まれたときから時期女王として疑うことなく、
そしてまたそのように教育を受けていたロザリアにとっては、初めて感じる…その感情。
どこかで何かが自分は、彼女に負けている。
そう理解してしまうのは…なぜかひどく自分がむなしくなってくる。
心のどこかで。
― どうして自分は彼女の代わりになれないのか……
というささやきが自分でも知らないうちに漏れ出してくる。
それがいったいどのような由来からくるものなのかは……ロザリアは知らない。
「……女王の資質……か。」
思わずそんなことがふともれる。
今まで自分は自然などを重点に考えていたことがあるだろうか。
ただ完璧に。
考えてみれば人間を中心に育成を考えていたような気がする。
だがアンジェリークの育成している大陸は、確かに起伏に富んでいるが。
そこに誕生した命にとっては確かにすみよいのであろう。
誕生した様々な生命ひとつをとってもそれは明白。
ロザリアの大陸にはそれなりの確かに生命は存在している。
だがしかし。
砂漠、湿地帯、高山、エトセトラ。
そのような気候や地形をもつアンジェリークの大陸は、
存在している生命の数ではロザリアの大陸の比ではない。
相手の大陸を見るたびに。
どのように相手が大陸を育成しているのかが見てわかる。
自分の意思で大陸を育ててゆく。
それはもう物心つく前から教育を受けていたのに。
どこか自分の意思がなかったのではないか?
と大陸の育成具合のひとつをとっても思ってしまう。

「……ふぅ。」
ゆっくりと目を見開く。
「ご苦労だったな。ロザリア。」
ゆっくりと目を開くとそこはいつもの研究院の一室。
遊星盤がある王立研究院の部屋の一角。
ここより精神を飛ばし育成しているこの飛空大陸の下にある惑星を育成してゆくのが、
今回の女王試験の内容。
今ロザリアは自分の大陸を見てから後にもう一人の女王候補のアンジェリークの大陸を見てきていたのだ。
そんなロザリアに声をかけているのはこの研究院の責任者であるパスハ。
「今日のとりあえず結果だ。参考にするがよい。」
数式の上で出された数値と本当の星の望みが一致していない。
そんなことを思い知らされる。
だがそんなことは表面にはひとつも示さず。
「ありがとうございます。」
そういって研究院ではじき出された望みの力の一覧を受け取るロザリア。
そのまま研究院を後にする。

「…あの子がいってた意味。……今さらながらにわかる気がしてきたわ……」
形だけの上では見えないこともある。
― すべてに意識を向け、何が最良か確かめてから育成してるもん。
研究院が指し示す力とはまったくことなる育成をしていたアンジェリーク。
そのときに、ロザリアが忠告をしたことがあった。
そのときにアンジェリークのいった言葉が。
今、こうして結果と現れていればおのずとその意味はわかってくる。
「……わたくし……何もかんがえてなかったのですわね……」
女王とは自らの意思ですべてを守りはぐくむもの。
与えられたものをこなすのがすべてではない。
すでに気候も大陸も安定してきている。
数日前、女王候補の二人が呼び出され。
近日中にあの惑星に人たる種族の命を賜ることが決定された。
そう報告は受けている。
突発的に人が誕生するわけではない。
その人にいたる進化は…すでに大陸の中で起こっている。
生命を賜りこれからさらに発展してゆくであろう二つの大陸。
エリューシュオンとフェリシア。
「……はっ!ファイトよ!ロザリア!そうよ、気づくこと、それも試験をしている意味がありますわ!」
ふと弱気になりかけている自分に気づき。
活を入れているロザリアの姿が。
研究院から寮に戻る道すがら見受けられてゆく。


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