スイート・メモリーズ     ~第12話~

「……いったい……」
いったい全体あの女王候補は何を考えているのか。
もう一人の女王候補。
ロザリアは視察と共にはじき出された王立研究院が指し示す数値のままに。
必要な力を大陸にと注ぎ育成を開始している。
その結果。
ゆっくりではあるが確かに台地は安定し緩やかな気候にと発展を遂げている。
だがもう一人の候補は…
数値とはまったく異なる育成の仕方。
意図があるのかすらもわからない。
だが……しかし。
どこか確かに普通の育成とは異なる…というのは感じられる。
それが何かはわからないが。
何というか息吹の鼓動があるというか何というか。
表面上は確かにかなりロザリアと比べたら……進化は遅れている。
育成は遅れている…としか言いようがないのに。
どこか……
そう何というのか何かが。
何かが……起こっている。
大陸に名前をつける。
というのも前代未聞ではあったが。
アンジェリークが育てる大陸にはアンジェリークがエリューシュオン。
ロザリアが育てている大陸にはフェリシア。
互いの女王候補が自らが育成する大陸につけた名前。
「パスハ様。本日までの報告書、まとまりましてございます。」
「ごくろう。」
報告書をまとめ……今までの結果を報告するために。
研究院を出て宮殿の執務室にと向かう王立研究院所長、パスハ。
竜の惑星の水竜族出身。
実際は長であったのだが、
それはまあいろいろとあって、火竜族の占い師サラとともにこの地にと赴任してきている彼。
外にでると今女王試験が開始されている。
というのがうそのような晴天。
この地の天気もまた女王の庇護下にある。
どのような意味をもつのかなどとはわからない。
ましてや大陸の育成など前代未聞の試験である。
そのようなことをおもいつつ
…彼、パスハは今までの報告をするために、光の守護聖、ジュリアスの執務室にと足を向けてゆく。



ゆったりとなだらかな地形。
そこに芽吹く緑の数。
なだらかまでの気候。
それがロザリアの育成する大陸フェリシア。
対して。
起伏の激しい大地。
なだらかな地形もあれば起伏の激しい高山などもあり、そしてまた……砂漠に湿地帯。
変化にとんだ地形とそしてまた気候の変動も激しい大陸。
それがアンジェリークの育てている大陸エリューシュオン。



「……それは……まこと…か?」
報告を受けて思わず目を丸くする。
「はい、間違いはありません。数値的にもそう示されております。」
その言葉に思わず目を丸くする。
一体全体どうやったら……あの存在が目に見えるようになるというのであろう。
「フェリシアにはない鼓動が、確かにエリューシュオンには。
  ……そして……あの地では……当然のことごとくに精霊、妖精が誕生しています。」
そう、普通ならば人の目には見えない存在。
いてもなかなかにそれらの存在にはお目にかかることは…まずはない。
御伽噺の中の生き物、と片付けている星や人々も少なくない。
だがしかし、事実そのような生き物がいるのは守護聖である彼らや、
そしてまた研究院に努めている彼であるからこそ知っている。
そして、それがどのような意味を持つことなのか、説明を受けるまでもなくわかっている。
普通は自然と心を通わして初めて、
精神世界というか物質世界とは異なる世界の住人と、つながりを持つことが可能。
それでも文明などが進んだところではそのようなことは…まず起きない。
悲しいかな。
いったい何を考えての育成なのか。
と幾度アンジェリークを呼んで説教を施したことか。
研究院がはじき出した結果とはまったく違う育成を行っているアンジェリーク。
そのためかアンジェリークの育成する大地はかなり変化に飛んでいる。
……なのに…である。
よもや。
「…よもや…エリューシュオンに……妖精が……」
思わず目を丸くし頭をかるく抑えるのもまた当然。
普通、やろうと思ってできることではない。
…妖精たちなどが自由に物質的な世界で生きられる環境を整える…などということは。
アンジェリークの育成の方針は……誰にもわかるはずもない。
だが。
確かにあの少女が普通とは違う何かの力を持っている。
というのは妖精をはじめに誕生させたその実力からしてわかりすぎるほど。
報告をうけしばし話し合うパスハとジュリアスの姿がしばらくそこに見受けられてゆく。



「すべての命はみな平等。そしてまた…すべてが共存する世界。」
それが望み。
たとえ自らを高めるために戦いなどを行っても。
そしてまた弱肉強食の定めを…再び組み入れたのもまた自分であっても。
それはよりよい命をつなげるために必要と思ったからに他ならない。
だが基本的なところは共存。
そこにとにかく視点を置いているアンジェリーク。
そもそもそれこそが彼女が昔からひとつだけ望んでいる究極の望み。
すべてが共存する世界。
それはそれで難しいことなのかもしれない。
だけどもすべてには心というものがある限り、それは可能だとアンジェリークは信じている。
― エリューシュオンに満ちる命のすべてよ。我が意思のもと新たな世界への旅立ちを・・・・ ―
すっと目を閉じ意識を集中させる。
この地のすべての意識が流れ込んでくる。
いや。
いつも聞こうとすればこの地だけでなく、
すべての世界の声を聞くこともアンジェリークには可能なのだが。
サワ……
彼女の言葉をうけ、エリューシュオンに穏やかな風が吹き抜けてゆく。


「……いったいどういう育成をしたらああなりますの?」
初めアンジェリークが何をやっているのかわからなかった。
示された力とはまったく異なるやり方で惑星を育成していたアンジェリーク。
だが、時間がたってみれば。
確かに彼女、ロザリアの育成する大地はなだらかで穏やかな気候となり、
生命が活動するのに何の支障もなく成長していっている。
が。
対するアンジェリークの大陸はというと。
起伏にとんだ大地。
といっても過言ではないであろう。
どこかに意図があるのかないのかすらもわからないが。
山があり、標高の高すぎるほどの山々もあれば逆に雨が少ない地もあり、
それは…大地の成長途中だというのに砂漠化している場所もあり。
逆に湿地帯とも呼べる場所やそしてまた火山帯。
気候もまたそんな地形のためか場所によってはかなり異なる変化を遂げている。
だが…それでも。
ロザリアが信じられないと目を見開いたのは……
アンジェリークが育成する大地に、
絵本の中でしかお目にかかったことのないような、精霊や妖精としかいいようのない命が誕生している。
ということに他ならない。
普通そのような存在は自然と心を通わせたりしなければ見えない。
と、幼いころに聞いたような気もしなくもないが。
アンジェリークの育成する大陸をみて、呆然と半ばしているロザリア。
でもどこか…どこかでこの光景は……
どこか心の奥底で懐かしいような思いにとらわれるその意味を、まだロザリアは思い出してはいない…


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