スイート・メモリーズ     ~第11話~

「あら、アンジェ、あなたも朝の散歩?
  いっておきますけど今日から女王試験。というのを忘れてないでしょうね?」
寮にともどったアンジェリークにそんなことをいっているロザリア。
その言葉に。
「うん。今日からがんばろうね。ロザリア。」
少なくとも。
彼女がいるから今がある。
アンジェリークはそう思っている。
そう。
かつてのあの時から。
「さあさあ、女王候補のお二方、食事が冷めますわよ?」
そういって食事を用意しているメイドのその言葉に。
「あ、は~い。」
「あら、そうですわね。」
その言葉をうけ、朝食を開始してゆくアンジェリークとロザリア。



「ジュリアス様、今日より正式に女王試験が開始ですね。」
「ああ。あの少女たちに、この宇宙の未来が……」
そういいつつ窓の外をみる光の守護聖、ジュリアスのその言葉に。
「……しかし、われ等が宇宙が限界の今。新たな女王を選ぶその意義は……」
そういいかけるその言葉に。
「オスカー、そのことは軽々しく口にしないことだ。」
「はっ!申し訳ありません!」
その青い瞳で射抜くようにとにらまれて謝っているのは炎の守護聖、オスカー。
「とにかくわれわれは女王を信じて行動することだ。
  我々は女王の意思と。そして女王候補の意思により、力を使うことが許されている。
  これから忙しくなるぞ?」
「はっ。心得ましてございます。」
その言葉に姿勢を正して敬礼しているオスカー。


「とうとう今日からだね。試験。」
「けっ。あんな女たちに何ができるっていうんだよ。そもそも一人なんてどうみても子供じゃないか。」
「でもあのアンジェリーク、見た目は子供でも一応はロザリアと同い年だっていってたよ?ディア様が。」
そんな会話をしているのは緑の守護聖マルセル、鋼の守護聖ゼフェル、
そして風の守護聖ランディ。
この三人。
少し前の出来事…といってもマルセルが聖地にとやってきたとにかかわった事件以降。
この三人はよく一緒に行動することが目立っている。
そんな会話をしつつ今日より始まる女王試験に思いをはぜらせているこの三人。


「は~い。ルヴァvって、何よぉぉお!?この本の山はぁぁぁあ!」
ルヴァのところに朝の挨拶にきたオリヴィエの叫びがこだまする。
「おやぁ?オリヴィエですかぁ?今まだ調べ物の最中でしてねぇ。」
どこか本の山の中から声が聞こえてくるが。
「だぁぁ!やっぱり気になって様子を見に来たかいはあったわね。
  というか、ルヴァ!午前中は守護聖たちに招集がかかっているでしょうが!」
いったいどこにいるものか。
本の山の中にむかってそんなことを叫んでいるのは、夢の守護聖オリヴィエ。
その言葉に。
「おやぁ?でもそれは試験が始まる日のことで……」
「だぁぁあ!もう今日がその日だよ!まったく、あんたは!いつから調べ物をしていたのよ!」
おもわず叫ぶオリヴィエの声が、地の守護聖ルヴァの為に、
仮にと設置された、私邸の中にある書斎にと響き渡ってゆくのであった。


「クラヴィス様。また星星を眺めていらっしゃったのですか?」
閉じられた部屋の中。
窓辺に座っている一人の男性にと話しかけているのは水色の髪の男性。
その言葉に。
「…リュミエールか……少し不思議な波動を感じてな……」
そう、あの力は…まるで……
いや、女王の力に近いようで…それでいてそれではない。
しいていうならば…まるで神鳥にと程近い力。
それを少し前に感じた。
それはほんの一瞬のことではあったが。
「そうですか。とりあえず今日より始まる試験のことで。
  守護聖たち全員に女王候補より先に王立研究員に集合するように。との報告です。
  ……あまり根を詰めないでくださいね?クラヴィスさま。」
「……われわれは滅びに向かうか…それとも新たな光に向かうか……か。」
そういいつつ外を眺める長い漆黒の髪をした一人の男性。
闇の守護聖クラヴィスとそして水の守護聖リュミエール。


今日より正式に。
時期女王を決めるべく、女王試験が開始されることとなる。


惑星ε-α。
そこの大陸の育成によってそしてそこにそのうちに与えられる人間たちを。
惑星の中心にある中の島。
そこにたどり着き神殿の扉を開くことによって新たな女王は決定される。
その試験が今日からここ、飛空都市にて開催される。
女王試験の実地は公然の秘密。
それを口にすることなく人々は時代の希望に向けて祈りをささげる。
敏感な生き物は気づいているがそれでも現女王アンジェリークががんばっているがために。
よもや自分たちが住んでいる銀河系を含む銀河団のその星系そのものが。
寿命を迎えて滅びに突き進んでいるなどと…誰一人として想像すらもしていない。


「アンジェリーク、ロザリア。ではこれより各自の大陸を見聞してくるがよい。」
王立研究院の中にある遊星盤。
そこから意識のみを大陸に飛ばし。
女王候補の二人は大陸を育成することとなる。
そしてまた。
王立研究員所長パスハの言葉に従い、
各自それぞれに与えられた大陸に降り立つアンジェリークとロザリア。
いまだにそこには生命。
というものは目に見える形では存在していない。
大地もいまだに不安定。
大陸のいたるところからはいまだに、
この惑星が成長を遂げているのを示すかのごとくに、大地の底からマグマが噴出し。
そしてこの惑星に必要な成分を大気中にと散らしている。


風が気持ちがいい。
今ここには精神だけ。
つまりは魂だけの存在となり、肉体はこの惑星の軌道上にある飛空都市に置いたまま。
軌道下にある惑星に降り立ちそして大地の様子をみつつ。
これより後にこの地を育成することとなる。
この宇宙の安定を保っている九つの力を導きつつ。
「……九つの……力……か。」

女王試験。
思わずくすりと笑みがこぼれる。
確か初めての女王試験を行ったときには。
まだ、守護聖などという存在はここにはいなかった。
否、いた…ともいえるのかもしれないが。
本質となるその属性をもつ精霊たちが。
もともとそれらは九つの力を宿した光の球のような存在。
はじめはアンジェリークの身に着けてあったそれらの装飾品ともいえるそれは。
やがて長い年月とともに実体を伴うようになり…そして。
宇宙の安定とそして発展とともに。
その身をすべてにおいて投じるにあたり、新たなこの地を収める候補。
その属性というか素質をもつ少女を選んだのは…いったいあれはいつだったか。
もうそれははるかな過去のこと。
当時の彼女とともに生き残った人々は。
それぞれにできた新たな世界に赴き…そこにてその世界を発展させることに力を注ぎ。
ある場所はその血をもってその銀河団の安定を図り。
またある場所は収めるものが表面上はいないまでも、実際には見守る役目の存在を生み出し。
たった一つしか残らなかった。
何もない空間にただひとつ残った小さな空間。
それしかなかった暗闇でも…光すらひとつもないただ……虚無の空間。
それから始まったこの世界。
今では多種多様にこの宇宙全体は多様化し様々な命が息づいている。
だが、それはある約束に基づいてのこと。
もし【アンジェリーク】がその役目をもう終えたいと願い……そしてまた。
もし【あの場所】が滅びと共に虚無にと飲み込まれることとなれば。
それもまたまるで夢幻のごとくに掻き消える……それが約束。
― 別に後悔はしていない。
それが自分が選んだ道なのだから。
そして、今もまた。
そっと腕を伸ばし、風を感じる。
風、空気……そして大地。
目には見えなくてもそこには確かに命が存在する。
そして……それらの意思もまた。
― この宇宙のために…協力してね。
そんな形のない彼らにと話しかける。
さわり。
その言葉に答えるかのごとくに……大地が、やさしく揺らいでゆく。
風がゆっくりとアンジェリークの周りをそよいでゆく。


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