スイート・メモリーズ     ~第9話~

シィィィン。
思わずその場が一瞬静寂にと包まれる。
「ま…まあ、確かにいうとおりではあるけどね……」
どう答えていいものか呆然とそんなことをつぶやいているオリヴィエ。
目を凝らしてもう一度リモージュをみれば。
確かに一瞬見えたはずの羽は、やはりそこに存在などしているはずもなく。
そんなことをつぶやいていたりする。
「まあ、確かに根源ともいえますね。それは。」
リモージュの背中に確か今一瞬では見えたあの羽は……
そんな羽を持っている少女は…この宇宙に一人しか存在していない。
その白い羽ですべてを包み込んでいる…宇宙を支えている彼らの女王。
そうおもいつつもそういって目を見開きつつリモージュをみているルヴァ。
リモージュの今のその返答に驚きを隠せないように目を見開いているジュリアス。
彼とてそれが宇宙が求めている姿だと理解している。
伊達に長いこと守護聖をしているわけではない。
だがその理想には生き物の…特に人の心はなかなか通じないもの。
それゆえに争いなども後を絶たないということも。
だが目の前の少女の今の口調だと…まるですべてをわかっていて、それでも根源はそこにある。
まるでそう物語っているかのように。
そして…一番に驚いたのはほかでもなく。
手を胸の前でくみ少し目を閉じたリモージュの背中に。
確かにジュリアスもまた、彼女の背中に淡く輝く金色の白い羽を見出したからに他ならない。
……この少女は……
その場にいた全員が思わず同じ思いにとらわれていたりするのだが。
「アンジェリーク、よくわかった。もういい。」
どうにか内心の動揺を押し殺しそう言い放つジュリアス。
女王候補なのだから白い羽がその背にみえる幻覚があっても不思議ではないであろう。
などと自分に納得させつつ。
そんなリモージュの言葉をきき、すこしうつむき加減に。
「…わたくし、少し失礼いたしますわ。」
そういい少し席を立ち外のバルコニーに向かってゆくロザリア。
「あ、まって、ロザリア。すいません、私もちょっと外の空気を吸ってきます。」
立ち上がったロザリアの後をおいあわててロザリアを追いかけてゆくリモージュ。
「アンジェリーク、ロザリア。」
不安そうにディアがそんな二人を呼び止めているが。
二人が席を立ってすぐに。
「私もそろそろ下がらせてもらおう。今日は面白いものを見ることができた。礼をいうぞ。ディア。」
ジュリアスにあそこまで驚いた表情をさせるとはな。
あの少女は。
さすがあの時の……
と思いつつディアにと話しかけているクラヴィス。
「オレもそろそろ帰るぜ。やりかけの仕事があるんだ。」
そういって立ち上がるゼフェルに。
「あっ!メカチュピの改造でしょ!?」
などといっているマルセル。
「メカチュピ?何だそりゃ!」
「今度はちゃんとコントロールできるようにしてよね!」
などと言い合っているゼフェルとマルセル。

そんな会話がなされているそんな中。

「……ロザリア?」
噴水をみつつたたずんでいるロザリアに話しかけているリモージュ。
「あ、アンジェ。あんたって……ううん、何でもない。」
学園にいたときから感じていたその気持ち。
それが何なのか今一瞬少しだけだけどわかったような気がする。
アンジェはすべてをまるで包み込むかのような視線ですべてを受け止めている。
そのことが今のジュリアス様の質問でわかったから。
― 勝てない、絶対に。
でも…わたくしは……
幼いころから女王となるべく育てられそれを自らの望みにしてきたロザリア。
だが一緒に女王候補に選ばれた少女は…
自分が思いつかなかったようなことを、いとも簡単に当たり前のごとくに答えたのである。
確かに、惑星を育成する…というのは別にそこにいきる人間、つまりは民だけではない。
そこにあるすべての自然や命もまた育成する、ということをロザリアはすっかり失念していたのだ。
そして…確かに、ロザリアもまた。
アンジェリークが答えたときに。
その背中に輝く淡く金色に輝く白い羽を、確かにその目に捉えたのだ。
白く輝く羽。
その持ち主は…宇宙を統べる女王陛下、その当人に他ならない。
勝てないかもしれない。
このアンジェリークには。
そんな思いが初めてロザリアの中に芽生えた一瞬ではあった。
「アンジェ、あんたはすごいわよ。わたくしは民のことしか頭になかった。」
そうふと本音をつぶやくロザリアに。
「あら、ロザリアもわかってるわよ。それを自覚してないだけで。
  だって惑星を育成する、ということはそうでしょ?それに女王陛下になる、ということも。」
にっこりと当然のごとくに微笑むリモージュの言葉にはっとする。
確かに惑星を育成するのはただの試験。
だが彼女の目標である女王になる…ということは。
宇宙に満ちているすべての命を預かり守るということで。
「ふっ。当然でしょ。このわたくしを誰だとおもってるのよ。
  少し緊張していただけですわ。お~ほっほっほっ!」
「うん、そのほうがいつものロザリアらしいよ?」
気を取り直しいつものように高笑いをするロザリアを見て微笑むリモージュ。
二人がそんな会話をしていると。
「アンジェリーク、ロザリア、ディアさまがお呼びですよ。早くおいきなさい。」
部屋の奥からてでくるリュミエール。
「う~ん、あのお姫様とお嬢ちゃん、これからどうなるのかかなり楽しみだな。」
そういいつつそんな二人を少し離れた場所でみていたオスカー。
「オスカー、あなたは気づいてないのですか?」
そういってくるリュミエールのその言葉に。
「何がだ?」
首をかしげるオスカー。
「いえ、気づいてないのでしたらいいのです。さ、私たちもいきましょう。」
意味ありげな言葉をのこして部屋の中にと戻るリュミエールをみつつ。
「……何を気づいてないっていうんだ。気になるじゃないか……」
一人その場につぶやくオスカーが残されてゆく。

「ごめんなさいね。気軽な食事会のつもりでしたのに。」
そういいつつ二人にいってくるディアに。
「いいえ、ディア様、ジュリアス様の意見も当然ですわ。
  先立ち私たちの意見を聞いておくこと、それはこれからの育成に大切なことですし。」
そういってディアにいっているロザリアに。
「明日からは試験が始まることですし。あ、ディア様、片付け手伝います!」
にっこりと笑いてきぱきと食事の後を片付け始めているリモージュ。
「あ、わたくしも。」
アンジェリークとロザリア。
二人はすでにその場を去った守護聖達の食事の後の片付けを、しばし手伝ってゆくのであった。

「アンジェリーク、いい?一言いっておくわ。明日からはわたくしたちはライバル同士。
  ライバルならライバルらしくしてちょうだいよね。わたくしの調子がくるうわ。
  まあ、期待はしてないけどね。ほほほほほっ。」
「うん、いつものロザリアの調子にもどったわね。」
「ちょっと!女王になるのはこのわたくしですからね!アンジェ!」
馬車の中でそんな会話をしつつやがて二人は女王候補寮にとたどり着く。

明日より、本格的な、惑星育成試験。
女王試験が開始されることとなる。


   -第10話へー


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