エル様漫遊記 ~ヴェゼンディの闇偏~
「ここだよ?」
男の子が、あたし達を案内したのは、とある一件の家。
まあ、人間の屋敷の内では、一応、そこそにこセンスはいいほう。
あたしにとっては狭いけど、人の基準でいうなれば、そこそこの広さもある。
「この家の持ち主はね。この町屈指の商人なんだ。」
歩きつつ、少年がびくびくとあたし達に説明していたので。
アメリア達も一応、ラドックのことは噂程度には理解できている。
先代というか、ラドックの父親が生きていたころには、この町随一の商人だったようだけど。
今の二代目のラドック=ランザードの代になってからは、かなりの落ち目。
だからって、何裏の副業に、【あれ】を選んでいるのかしらね♡
「さて…と♡いきましょうか♡」
屋敷の前であたしが言うと。
「…俺はここで別れる。」
といって、何やら言い出すゼル。
「何いっているんですか!ゼルガディスさんもいきましょうよ!」
しかっ!
そういうゼルの手をしっかりと掴んで放さないアメリア。
「ゼロス♪ゼルを引っ張ってでも連れてきなさいね♡」
うっ!?
あたしの言葉に、なぜか少し怯えつつ。
「……ゼルガディスさん。…逆らわないほうが身のためだと僕は思いますが……」
そんなことをゼルに言っているゼロスだけど。
どういう意味かしら♡
「……ちっ。仕方ない……あとが怖いからな……」
「こら!ゼル!どういう意味よ!あたしはこぉんなに優しいのに♡」
いって、ゼロスの言葉に、冷や汗かきつつ、しぶしぶながら納得しているゼルの姿。
そんなゼルやゼロスににっこり微笑みかけつつもいうと何やら二人は硬直してるし。
そんな会話をしているあたし達とはうって変わり。
「リナお姉さんって人、つれてきたよ?」
屋敷の門番に話しかけている案内役の少年の姿。
その一言で、あたし達一行は屋敷の中にと通される。
男の子は、門番から、金貨を受け取って、逃げるように足早に立ち去っているけど。
根性がないわよねぇ。
いくら子供だからって♡
屋敷の中のその奥にある応接室にと通されて、待つことしばし。
出されたお茶菓子なんかを食べつつ時間をつぶす。
しばらくして。
―カチッ・・・
部屋の奥の扉が開き、そこから入ってくる一人の老人。
あら♡
ふふふふふ♡
あっさりと出てきたわね♡
こいつは♡
入ってきたのは、白い髪を後ろで束ね、撫で付けている、見た目完全な老紳士の姿。
もうちょっと、姿くらい若くしてもいいでしょうにねぇ♡
「もうすぐラドック様がお見えです。」
いいつつ、ちらりとこちらに視線を走らせる。
ゼロスがいるのに気がついて、かなり内心驚いているようだけど。
外見上のそぶりにはまったくみせず。
本来なら、『様』付けなどでは呼ばないにしろ。
今は、そんなことをなりふり構わなくなっているみたいだし。
ま、その程度で滅びる力量でもないしね。
力を認めて『様』付けで呼んでいるのではなく、あくまで、儀式的に呼んでいるだけだし。
こいつは。
老人もどきがそういったその刹那。
ガチャリ。
今度は別の扉が開く音がする。
扉を開いたのは老人の姿をしているそれだけど。
結構様になってるじゃない、執事姿♡
「…あんたがリナ=インバースか!?」
叫びつつ、喧嘩口調で入ってきたのは、中年男性。
やっばりねぇ。
くすくすくす♪
同化しているままだし、こいつってば♡
入ってきたのはこの家の主人、ラドック=ランザード当人。
本当、人間って裏でいろいろとやってるから面白いわよねぇ♡
入ってきたラドックの手には、ご丁寧に一枚の紙切れが握られている。
「初対面の人にその口の聞き方はないんじゃないですか!?」
アメリアがそんなラドックに抗議の声を上げているが。
まあ、そこはそれ。
ラドックの後ろから、一人の青年も続いて入ってくる。
こっちは、普通の人間だけどね。
歳は二十一になったばかりだけど。
ラドックは、いきなり叫んで。
抗議の声を上げているアメリアを完全にと無視して。
つかつかとあたし達が座っている応接室のテーブルにと歩み寄り。
バン!
テーブルにと手にした紙を叩きつけ、
「儂がラドック=ランザードだ!」
何も知らないアメリアや、ゼル達の目からは、何かに怒っているように彼の姿は映っている。
事実は違うのだけど。
はき捨てるようにいって、空いている椅子にと腰をかけるラドック。
そして椅子に座り、あたし達のほうをひたりと見つめて。
「それで!?これは一体どういうことだ!?」
いいながら、先ほどテーブルにとたたきつけた紙を、あたし達が座っている方側にと突きつけてくる。
「……?何のことですか?一体??」
アメリアが疑問の表情を浮かべたまま。
その差し出された紙を手に取り、そこにかかれている文章に目を通す。
それをみたその直後、大きく目を見開くアメリア。
「り…リナさん!!こ…これ!」
いって、ゼルにとそれをみせているアメリア。
「・・・な゛!?」
ゼルもその紙にかかれている文章をみて、何やら小さく叫んでいるけど。
そこにかかれている文面。
【ラドック=ランザード。お前を殺す。死にたくなければリナ=インバースを雇え。ズーマ】
そう描かれた文章の下に、ゼロスを除く、あたし達一行の特徴が文章で表されている。
アメリアが驚愕しているその前で。
「…ズーマとかいう、暗殺者の名前は私も知っている。」
ぶすりとした表情で、不機嫌なまでにはき捨てているラドック。
そんなの当然でしょうにねぇ♡
くすっ♡
「この文章から察するに、どうやら儂は、あんたを呼ぶための出しにされたようなんだがな!?
一体何がどうなっているのか、説明してもらおうか!?」
一方的にわめき散らしているラドック。
「あら、そ♡自殺したいんだったら、勝手にすれば?そんな一人芝居を作ってまで♡」
くす。
小さく苦笑し、ゼルから手渡されていたその紙を、テーブルにとパサリと放り出し。
そして。
「じゃ、いきましょ。皆♡」
そのまま、椅子を立ち上がり、その場から離れようとするあたしに。
「何だとぉぉぉ!!!!?」
顔を怒りの色に染めて、ラドックは声を張り上げる。
「おいおいおい、リナ!?」
「リナさん!?それは、いくらなんでも正義じゃないです!」
そんなあたしに言っているゼルとアメリア。
「あら?どうして?
だって、ズーマ本人が♡自分を殺すって言ってるんだから♡自殺じゃないのよ♡
それを止める義務なんて、欠片もないわよ♡ねぇ?ズーマ=ラドック=ランザード?」
くすり。
くすくすと笑みを浮かべつつ、ラドック=ズーマの方をみる。
「……な゛っ!?」
そんなあたしの言葉に言葉を失っているラドックに。
「と…父さん!?」
そんなラドックをみて言葉をかけている青年。
「それで?あの、こちらの方々は?」
今だにわなわなと震えているラドックを完全に無視して。
にこにこと、青年と老人を目で示して、言っているゼロス。
「ああ、それは、執事のラルタークに、息子のアベルだが……
だが、今、何と!?この儂がズーマだとぉ!?馬鹿もいい加減にいえ!!」
真っ赤になって怒鳴っているラドック。
あらあら♡
面白いことに、かなり戸惑いの負の感情が溢れ出ているわね♡
わなわなと震えつつ、叫んでいるラドックを呆気にとられて見ているアメリアとゼル。
ガウリイにいたっては。
何、このおっさん、本当のことを言われて怒っているんだ?
という表情でラドックをみているが。
「あら♡だったら、証明しましょうか♡今、ここで♡
この間ズーマを見たとき、セイグラムと同化していたからねぇ♡
もし、セイグラムが出てきたら、間違いなくあなたはズーマってことよ♡」
うきうきしつつ。
あたしの左隣にと座っているゼロスを見て。
「あ、ゼロス♡ラルタークは抑えておいてね♡何かちょっかいかけてきそ~だから♡」
「あ…は、はい。」
そういいつつ、ラルタークの横にと移動しているゼロス。
「お…おい?リナ!?どういうことだ!?一体!?」
ゼルがそんなあたしに抗議の声を上げてくる。
「そうですよ!?リナさん!?一体!?」
「…なぁ、リナ?セイグラムって…オレ、どこかで、聞いたような気がするんだが?」
口々にいっている、ゼル、アメリア、ガウリイの三人。
「ふふ♡それは、今かからのお楽しみ♡」
そんな三人の方をみて。
「じゃ♡始めましょうか♡」
嬉々として、ラドックに向かっててをかざす。
かなり、軽い精神攻撃をまず始めに…っと♡
あたしが手をかざしたその刹那。
「ぐ…ぐわぁぁぁ!!!!!?お…おのれっ!?な…なぜ、人間どこきにこんなまねが!?」
いきなり、胸をかき乱し、暴れ始めるラドック。
その口からは、ラドックの声でない声が紡がれている。
「ああ、何だ。この声と気配、あのアトラスの魔族の人か。セイなんとかって魔族の人だな。」
そんなラドックをみて、さらりといっているガウリイ。
「……お゛い゛!」
「…な゛っ!?」
そんなガウリイの台詞に、ゼルとアメリアの突っ込みが一致し、次の瞬間。
『な……なん(だとぉ)(ですってぇ)!?』
完全にアメリアとゼルガディスの叫びが一致していたりするけども。
驚愕するアメリア達の目の前で、今だに苦しんでいるセイグラムことズーマ。
「く…くそ!」
苦しみつつも。
ふっ!
瞬間にして、部屋が薄暗い結界にと閉ざされる。
「あら♡まだそんな根性あったのねぇ?感心♡感心♡」
くすくすとあたしがそんな苦しんでいるズーマ=セイグラムを見ていると。
「…やれやれ。人間相手にずいぶん困っているようだな…セイグラム……」
「……本当に情けないわねぇ~……」
窓のあったその場所に、ふわりと白い物体が浮き上がり。
それは、二つの形となってゆく。
一つは、長く乱れた長い髪。
黒いローブに身をつつみ、猫背気味で背中はかなり曲がっている。
ナメクジがはったような、白くぬめったその顔の表面には、目も鼻もなく。
ただ赤い口だけば大きく笑みの形にとなっていたりする。
もう一つは、はっきりいっておかしいデザインの黒いマントに、ツバ付きの黒い帽子をかぶり。
顔にも頭にも髪の毛もなく、ただ真っ黒い硬質の卵形の顔の持ち主。
「…な゛!?魔族!?」
アメリアがそれをみて声を漏らしているけど。
「…こんな外見をしている人間がいるか?」
そのアメリアの言葉に突っ込みを入れているゼル。
「…ふふ。グドゥザと呼んでもらおうかねぇ。もう一人はドュグルドよ……」
しわがれた老女のその声でいっている、黒髪の魔族。
「…くっ。我が呼びかけに答えてくれたか……我が古き友よ……」
ズーマであった、セイグラムが口を開く。
「…やれやれ。そこの女と金髪の男だけは、自分の手で倒したい。
といってたわりに、こうもあっさりとやられているとはねぇ。」
デュグルドの言葉に。
「ああ!こんな女なんて、何て恐ろしい呼び方を!?」
その言葉に、顔を真っ青にしているゼロス。
「まあ、こっちの始末はするから。ま、頑張な。」
そういってグドゥサ達は、アメリアとゼルの前にと立ち塞がる。
「……ほぉう。」
そのグドゥサの言葉に、ゼルがぴくりと眉を動かしているけど。
「言ってくれるな…下級魔族ごときが…」
はき捨てるゼルの言葉に。
「ムキになるなよ。
ゼルの一番気にしていることを言っているデュグルド。
「っ!何だとぉ!?」
ゼルの言葉にと殺気がこもる。
「ムキになるなよ。といったのさ。坊や。」
完全にゼルを見下しているグドゥサ。
そういうが否や、にらみ合いを始めているゼルとデュグルドこの二人。
「そうすると、私の相手は貴女ですね!」
いって、アメリアは、グドゥサをびしっ!と指差して。
「さあ、今すぐに改心して、真人間になるのです!魔族だなんて因果な商売をやめて!」
浪々と言い放っているアメリア。
一瞬、そんなアメリアの言葉に、呆気にとられるが。
「…くふふ。人間の断末魔の苦痛か…しばし食っておらんな…」
そんなアメリアをみて、真っ赤な口を笑みを浮かべて吊り上げているグドゥサ。
「…何だ!?何がどうなって!?」
いきなりなことで、何やらパニクっている、ラドックの一人息子のアベル。
「なぁ?リナ、オレは?」
あぶれたガウリイがのほほんと聞いてくるけど。
「あら、アベルの護衛でもしててね♡」
いいつつも、すでにあたしはちょっぴしセイグラムで遊んでいたり♡
ことごとくセイグラムの放つ攻撃を霧散させ。
その攻撃をそのまま、セイグラムにとはじき返し、
ついでにちょっと、力を上乗せして返却してみたり♡
そんなあたしの目の前で。
なぜか、黒い瘴気を撒き散らしながら。
面白いほどに絶叫を上げてのた打ち回っているラドックの姿がそこにはあるけども。
それはそれだし♡
そんな光景をみつつ、半ば呆然としているアベルに。
な…何なのじゃ!?あの…人間は!?
ラルタークは、そんなあたしをみて、精神体を引きつらせつつ、
なぜかかなり恐怖を感じているみたいだけど。
この程度でねぇ?
ゼロスはといえば。
「……えと。…ま…まあ…世界が滅びるよりは……」
といって、脂汗をながしつつも、あたしを見ているけど。
あたしがセイグラムと同化しているラドックで遊んでいる最中。
一方のアメリアとゼルガディスの方はといえば。
「
「
ゼルとアメリアが呪文を唱える。
『何いぃ!?』
声を情けないことに同時に上げているグドゥサとデュグルド。
剣に魔力を込めたゼルをみつつ。
「…残り物呼ばわりしたのは、取り消してやるよ。
なるほど、普通の剣に魔力を込める術か…初めてみたぜ、そういう芸は。」
つぶやいているデュグルド。
……あんたは、ど~いう相手と今まで戦ってたのよ……
普通、こんなの、赤ん坊でもできるわよ?
「さて…と。それなら、こちらも少し本気で相手にしてやろうか!」
いうデュグルドの周りに数十個の闇のつぶてが出現する。
まあ、こいつ程度が意地になっても、ゼルには勝てないでしょうねぇ。
何しろ、ゼルやアメリアも。
こいつ達より上のカンヅェルとマゼンダと、やりあった経験ありだしね♡
ついでにいえば、ゼルにいたっては、Sのやつとも経験ありだし♡
「いくわよ!」
アメリアが床をける。
結界が張られ、その床が地面と化してはいるけども。
「ふっ。無駄なことを……」
声と同時にグドゥサの影がアメリアにと忍び寄る。
が。
「何の!」
どがばぎゃ!
「・・ぎゃ!?」
素手で自分に触れられて、かなり驚いているグドゥサだし……
素手でその影を叩き落して、一撃を入れ。
「ふっ!これぞまさしく正義の拳!
さあ、その身を闇においている魔に染まった相手であるからには!
この、アメリア、手加減などはしませんよ!この正義の拳で目を覚まさせて上げます!」
高らかに言い放っているアメリア。
魔族相手にそれは無理と思うけど♡
「くっ!人間の小娘風情が生意気なまねを!」
いいつつ、じわりと間合いを詰めているグドゥサ。
…あのねぇ。
あんたらは、仮にも、いくら下っ端とはいえ!魔族でしょうが!
相手の実力くらい、見極めなさい!グドゥサ!デュグルド!!
完全に、戦闘態勢にと入っているゼルとアメリア。
あたしの方は、まったく気にかけてないし。
ま、いっか♡
-続くー
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あとがきもどき:
何気に、あと今回の6巻分の話し・・・。
五ページだけだったりして(笑)
かなり、短いです。この回はvんではではvv
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