エル様漫遊記・ソラリアの謀略偏


「……よぉ。おそろいだな。」
いって、肩を押さえて、ふらふらとしつつも、煙の中から出てくる人影が一つ。
「あら。ワイザー。」
「あ、ワイザーさん♡」
その姿をみて同時にあたしとユニットが名前を呼ぶ。
土煙の中からよろよろと姿を現し出てきたのは、ベルギスを追って先に一人で行っていたワイザー本人。
「大変!怪我を!」
いって、駆け寄り回復魔法をかけようとするミリーナだが。
「そんなとより……くるぞ。」
よろよろとしながらも、壊れた壁の向こうを見つつ言っているワイザー。
煙の向こうに、ゆらり、とうごめく影一つ。
「~~~!!??」
「どわぁぁぁぁ!」
……何やらそれをみて、兵士達が悲鳴を上げたり声にならない声を上げて口をパクパクさせてるけど。
…情けないったら……
中には腰を抜かしているものや、パニックになって、その場でバタバタしている兵士達の姿。
見た目、明らかに人でなく、水死人のような蒼白い肌に左右非対称に生えている三本のねじくれた角。
そして、ぐにゃり、と歪に曲がっているその全身。
そして、全身からどんな鈍感な存在でもすらわかるほどに放たれている瘴気。
まったく、こんな姿をみたくらいで驚いてどうするのよ……
まがりなりにも、兵士でしょうに……こいつらは……
兵士達は何やら絶句し、ミリーナがとりあえずワイザーに回復魔法をかけていると。
「――ほう。みなさん、こんなところに。どうやら降りる部屋を間違えたようだな。」
そういう声はその後ろから。
その影よりゆっくりと姿を現すベルギス。
『ラーヴァス様!?』
その姿をみて、兵士達が叫ぶのと。
「てめぇ!このごに及んで悪あがきをしやがって!
  そんなデーモン一匹出してきたところで今さらどうにもなるもんでもねぇだろうが!?」
ルークが叫びつつ、剣を抜き構えるのとほぼ同時。
「――ふむ。――おや?あなたたち?命令違反ですか?いたしかたありませんねぇ~…」
などといいつつ、ちらり、と兵士達と、そして彼の横にいる【生き物】にと視線を向け。
「こいつは今の今まで培養液の中で眠らせていましてね。
  いつだったかザインがリナさんたちをご招待した施設の地下に眠っていたのと同じ実験の失敗作ですよ。
  先ほどもそれを見たのでしょう?攫ってきた人々を使って実験していたその成果を。」
いって、にこやかにかるく、それに視線をむけつつ言い放つベルギス。
『――なっ!?』
ここにいたり、本人の口からそれをきき。
何やら絶句しているクロウリー達等といった兵士達はまあほっとくとして。
「ということは、あそこに並んでいた合成獣達や先ほどの男女問わず子供までが変形していたアレは……
  やはり、あなたがどこからか攫ってきた人々なのですね?」
静かにそう言い放つ声の中に怒りを押さえ込み、言い放つミリーナに対し。
「そんなところですね。何しろ皆さん、非常に非協力的でしてね。
  なので部下たちに命じてただ実験の素体となるモノを集めただけですよ。」
いって、にこりと微笑み。
「このデーモンもちょっとした特殊な実験体でしてね。
  いろいろな能力を見境なしに付加してみたんですが……
  肉体的に負担がかかりすぎてね。ごらんの通りの姿となったわけですよ。
  不安定でバランスは悪いが…その分、いろいろな能力がありましてね。」
そういい、言葉をきり、宝物庫の中にいるあたし達にと視線を向け。
「紹介しましょう。この地で栄えあるハーフデーモン実験体第一号。
  ベイサム=フリッツ=ラングマイヤー。本来ならばこの地の次の領主ロードになるべき人物です。」
「「――なっ!?」」
にこやかにいう、ベルギスの言葉に。
今度こそあたし達についてきていた兵士達が絶句する。
今の今までこのベルギス、というか彼らこの人間のこと『領主の隠し子』と信じてたからねぇ~……
あからさまにあれほどまでに怪しい行動してたのに……
「てめぇ!何てことを!?」
叫ぶルークの言葉を、さらっとかわし。
「なにぶん、ここは本来ロードラングマイヤーの城と領地。
  私が活動するのに何かと邪魔になるものも多くてね。
  そこのリナ=インバースさんと、ミリアム=ユニットさん。
  そしてワイザー=フレイオンと正体不明のよくわからん高笑い女。
  あなたたちさえいなければ、私は私の国でこの実験の成果を成し遂げられたんですけどねぇ。
  おかげで遠回りしてしまいましたよ。障害となる人間もこの地には多くてね。
  それゆえに――邪魔者は消せ――という言葉がありますし。
  まあ、邪魔な相手を抹殺することはたやすいですが、
  しかしその抹殺の証拠を隠し通すのはなかなか難しいものでね。
  ゆえに、邪魔な相手を実験台に使えば邪魔者も消え、私も糾弾されることもない。
  ――なかなか合理的だと思いませんか?」
にこやかに、そんなことをいってくるベルギスに対し。
「――そういうのは合理的。でなくて非道ってゆ~んだよ。」
いいつつも、剣を抜き言い放つルーク。
あからさまな怒りをその目に湛えたまま。
「――ベルギス。もはや観念するのだな。」
ミリーナによって傷をふさがれたワイザーが立ち上がりつつも、ベルギスに向かって言い放つ。
「ふむ。やはり俗物には先鋭的な合理主義は理解されないものですね。」
いって、何やらつぶやくベルギスに。
「まあ、どっちにしろ、よくわからんが。あんたをほっとくわけにはいかねぇな。」
いって、こちらもまた、剣を構えているガウリイ。
「あ、ガウリイ。その剣なら別に折られることもないけど♡これ使ってね♡」
いって、ガウリイに先ほど手にした剣を投げ渡す。
「?」
ガウリイがあたしが投げたその剣を手にするのと同時。
『我が命によりて本来の姿に変わりゆかん。』
ぴくっ!
パッキィン!!
少し声に力を多少込めてつぶやいたその刹那。
なぜかその場に一瞬固まっているベルギスとベイサム。
そして。
「「……がっ…ぐっ…がぁぁぁ~~!!?」」
何やらそれと同時、二人して苦しんでるし。
そして又。
「??」
手にした剣の鞘がいきなりはぜ割れ、首をかしげているガウリイと。
「?何か空気が一瞬変わった……か?……ま、ともかく、チャンス!」
何かこの部屋自体の空気が変わったような気がするんだが……
そんなことを思いつつも。
いって、喉をかきむしり、苦しんでいるベルギスに向かってかけてゆくルーク。
が。
「……ぐっ!わけのわからん術を……行け!ベイサム!」
どうにか体制を整え、何やらぜいぜい息をつきつつも、
横の【ベイサム】に向かっていっているベルギス。
あら♡
別に術とかじゃないんだけどね。
勝手にあたしの【ちょっとした力】にそれぞれが反応しただけだし♡
「ぐろうわぁ~!」
その言葉と共に、なぜか合成されているデーモンたちも又、今のでパニックに陥っているがゆえに、
辺りかまわずに十数本の炎の矢を叫びとともに出現させ、解き放つ【ベイサム】。
「ちっ!」
ザシュッ。
その炎の矢をことごとく、刀身があらわになった、
なぜか紅く輝きを放つその刃でいともあっさりと叩き斬るガウリイ。
そして。
「魔風撃!」
ガウリイがとりあえず、ベイサムを動けなくしよう、と思い突っ込んでゆくのと同時。
ルークの剣が風を薙ぎ、剣は虚空に烈風を生み、こちらに向かってくる炎の矢を薙ぎ散らす。
「――ほう。魔力剣か」
まだ少し荒い息をしつつも、それをみて感嘆の声を上げるベルギスと。
「はぁっ!」
ザッシュ!
ルークが放ったその風の威力をその剣により切り裂きつつも、ガウリイはベイサムの懐にと突っ込み…そして。
ザッン!
ベイサムの足の腱をいともあっさりとたたき斬る。
「がぐわぁ~!?」
「……え?」
叫ぶ【ベイサム】に、とまどいの声を上げるガウリイ。
「おい!あんた!?何やってるんだ!?」
それに対し避難の声をかけているルーク。
「……いやあの……オレ…足の腱をきっただけのつもりだったんだが……」
何やらざっくりと、足首、そしてヒザの後ろが半分近く斬り取られ、
なぜかその程度のことでバランスを崩し床にと崩れ落ちる【ベイサム】。
と、同時に。
だがしゃぁぁ!
【ペイサム】は倒れこむのと同時に積み上げられている品物の上にと突っ込んで盛大に音を立ててたり♡
その予想外の切れ味に何やらつぶやいているガウリイだけど。
「あ♡ガウリイ。言い忘れてたけど。
  さっきの『言葉』でそれ、上にかぶせてあった銀が取り除かれてるから♪
  それ一応周囲の魔力を取り込んで切れ味にするやつだから、
  気をつけないと何でもさくさく斬り刻むわよ♡」
そんなあたしの言葉に―――
「だっ!?なっ!?馬鹿な!?そんな剣のことは聞いたことなどはないぞ!?」
何やら叫んでうろたえているベルギスだけど。
「あら?ここにあったんだけど♡ベルギスさん♡」
そんなベルギスに向かってにっこりと言い放っているユニット。
未だに戸惑っているガウリイはひとまずおいとくとして。
「……今だ!!」
だっ!
それを好機、と見て取り、駆け出すルークとワイザー。
そして、二人同時に剣を繰り出し――
ギィィン!!
瞬間、金属音と共にルークとワイザーの手にしている剣が砕け散る。
軽くベルギスは手を横に払っただけ。
当然、彼は武器などは持ってはいない。
「がっ!?ぐわっ!?」
それと共に先ほど倒れた【ベイサム】の悲鳴が部屋の中にと響き渡る。
見れば、ガウリイが斬り裂いた場所から、全身に肌が黒くなり、徐々に崩壊を始めてたりv
それをみて、
「ふむ…。思ったよりバランスが悪かったか……
  いろいろな能力を付加し、多少の傷なら即座に回復し、動き続けるはずなのだが……
  ある程度のダメージを受けると自己治癒能力がおかしな風に暴走する…か。
  意外に役に立たなかったな。まあ、これで処分の手間は省けたが……」
崩れ落ちてゆく【ベイサム】を見て、落ち着き払った口調でそんなことを言っているベルギスだけど。
くすっ♡
「どうかしらね♡」
いいつつ、その崩れた黒々と土くれと化しかけているそれにと手をかざす。
―――と。
もこっ。
土がゆっくりと左右に分かれるようにと盛り上がり、その中から出てくる一人の青年。
「「……なっ!?ベイサム(様)!!??」」
それをみて、後ろのほうで完全に固まっている兵士達と、
そしてまた、驚愕しつつベルギスが声を上げていたりするけど。
「さってと。とりあえずあなたたち。このベイサムさん連れてここから出ませんか?
  最も、あのベルギスさんと戦いたい♡というんだったら別ですけど♡」
そんな叫んでいる兵士達にと、にこやかに話しかけているユニット。
一方で。
【ベイサム】の元肉体であった土くれが、ぽこぽこと盛り上がり、
『がるぐぁぁ~!!!』
いって叫び声をあげる土を器としたベイサムの中にと組み入れられていた下級魔族たち。
『――なっ!?』
それをみて、何やら驚きの声を上げている、あたしとユニット、そしてガウリイを除いた全員。
ちなみに、先ほど土から出てきた青年――ベイサムは気絶したままだけど。
「さて♡あんたたち。あんたたちをいいようにしていたアレに対してどうにかなさいね♡
  でないと…問答無用で消滅ね♡」
びくくっ!
あたしが、『誰』かは判らないものの、本能的にそれらは恐怖を感じ取り…
中にはその土くれの器を元にして自力で実体化するものも。
十三体の下っ端魔族達。
つまり、ベイサムの中にと合成されていたそれらは、ベルギスにむかってあたし達には目もくれずに進んでゆく。
「何っ!?」
それをみて、何やら叫び、それらに対して手をかざすベルギス。
刹那。
その手から槍の様なとがった触手が伸び、向かいくる土くれ魔族たちをなぎ払う。
そして。
「……まさか、合成していた魔を切り離し、味方につけるとは………
  まあいいでしょう。全員、この場で死んでもらおう。」
いって、その顔を少しゆがめ。
両手に数十本のとがった触手を生み出して床にとたれ下げつつも、
あたし達を見つつ言ってくるベルギスの姿。
「……あなたも人間をやめている口でしたのね……」
「けっ。人魔ってとこか……」
その姿をみて、構えも説かずに言い放つ、ミリーナとルークに対し。
「……人魔…か。なかなか面白い呼称だ。」
いいつつ、ゆっくりとこちらにと歩み寄ってくるベルギスだけど。
「とりあえず…邪魔だし♡あなたたちはここから出ていてくださいね♡」
ユニットがいつのまにか出現させていたロッドを、
ベイサムを抱えてなぜか固まっている兵士達に声をかけるのと同時に向けてゆく。
刹那。
ぱっ!!
光に包まれ、次の瞬間。
彼らの姿は一瞬のうちに、謁見の間にと移動していたりするけど。
まあ、どうでもいいことだしね♡
「――何!?…まあいい。貴様らを始末してからでも遅くはない。」
ベイサムに逃げられたのをみて、そんなことを言ってくるベルギスだけど。
だから、そんなことは絶対に無理だって♡


                            -続くー


    HOME     TOP     BACK    NEXT


#################################### 

あとがき:
薫:ここで区切らないとかなり長くなりそーなきが・・・
  なので、一度ここで区切ります・・・。あと残り8ページ・・・何話しになるのかな?これ・・・
  何はともあれ、次回、エル様(リナ)達VSベルギスですv
  んではではv
  2005年2月26&27日某日


    HOME    TOP     BACK    NEXT