エル様漫遊記・覇軍の策動偏
夜の闇は町に沈黙をもたらしている。
あるのは静かな夜の夜空に響く虫の音色。
夜中とはいえ本来ならば明け方や深夜まで酒場などが開いており、
そこにたむろする酔っ払いや、遊びに出ている人々。
そしてまた、気分転換にと夜出かけ毛手いる人々の姿が見え隠れしているのであるが。
町の軒並みの家々に至ってはしっかりとかぎがかけられており、人々は早くから眠りについている。
酒場もまた、何かがあって、自分たちのせいにされてはたまらない。
というので早々と最近は根性のないことに店を閉めていたりする。
ゆえに、夜の街の通りを歩くのはあたしとユニット。
そしてその後ろにガウリイとゼロスのみ。
「しっかし、リナ?わざわざ盗賊イジメにいかなくてもいいんじゃないか?」
腕をくんで歩きつつ、あたしに言ってくるガウリイだけど。
それほど大きな声でないにしろ、あたりが静かなので声がよく通る。
「ま、いいじゃないですか♡ガウリイさん♡僕としてはお食事もできるのでありがたいんですけど♡」
そんなガウリイに、にこやかに片手に錫杖をもちつつ話しかけているゼロス。
「ま、路銀の補充みたいなもんよ♡協会から調査金として出たのはほんのスズメの涙だったしね。」
あたしの言葉に。
「そういえば……あの評議長さん。しばらく精神錯乱状態になっているらしいですけど……
ま、関係ないですよね♡」
ふと思い出したように、にこやかにいうゼロスに対し。
「…おもいっきり関係あるとおもうぞ?オレは……」
いいつつも、ため息ついているガウリイの姿。
今からおよそ十日前。
クリムゾン・タウンから戻ったあたし達は、
テルモード・シティの魔道士協会評議長に
簡単に経緯をまとめた巻物にするにも面倒なので、
瞬時に創り出したちょっとした厚さの本とちょっとした映像と共に、
クリムゾン・タウンでの経緯を報告によったのだけれども。
「……念のために聞くが……。この報告書に間違いないんじゃな?」
書物――しかもこの辺りではなぜかまだ大量に簡単に精製本に出来る仕組みが整っておらず。
しかも、あたし達が協会に報告に行ったときにはクリムゾンの町に国王軍が入ってほんの数時間もたってはいない。
なぜか異形と化していた例のアイレウスやミュカレ、そしてゾナゲンインなどを収めた映像を見せると、
テルモードの魔道士協会評議長は思いっきり顔面蒼白と成り果てていたりする。
だがしかし、その書物に書かれていることは信じることが出来ずに。
でたらめ……だよな?
などと思いつつ、あたし達にと聞いてくる。
「間違いありませんけど?というかそこに書いているとおりに証人は国王軍に一人渡してますし♡
それに、ベゼルドでの一件はこの辺りにも話しはきてるでしょうに♡」
くすくすというそんなあたしの言葉に。
「……じゃがのぉ。正直いって信じることができん。というのが本当のところじゃの。
覇王将軍の魔剣…それがあのベゼルドと今回のクリムゾンで起きた事件にもかかわっていたなどとは……
話しがとほうもなさすぎるわい。魔族、という存在そのものが胡散臭いしのぉ……」
などとそんなことをいってくる。
「というか近くにいても、あんたらはあいてが魔族とかもわからんのに?
何で信じられない、とかいうんだ?というかここにも一人ほど魔族のゼロスがいるのに?」
「ぶっ!」
さらり、といったガウリイの言葉に面白いまでに噴出しているゼロス。
「ガウリイさん!いきなりそういうことをいわないでください!僕のことは『謎の神官』でいいんです!」
いって、何やらガウリイに抗議しているゼロスだし。
「――ま、いまだに世界が平らな混沌の海に突き立った杖の上に存在し、それで世界が成り立っている。
なんて思っているここの人間達じゃ信じられないんでしょうけど。
何なら確認のために評議長さん♡今からカタートにでも赴いて魔族の存在確認します?」
にこやかに、そんな評議長にいっているユニット。
あらあら。
「ユニット♡この人間程度の力じゃあ、あのたちこめてる瘴気。
あれすら情けないことに耐えられないわよ。ま、魔族の実体を知るのにはいい機会かもね♡
ゼロス、あんた気をちょっぴり解放なさいな♡」
にこやかに、後ろにいるゼロスに言い放つと。
「ええぇぇ!?いいんですか!?
というかそんなことしたらこの町付近の一帯くらい僕の力に耐えられずにすぐに死滅しますよ!?」
何やら叫んでいるゼロスだし。
「この世界の高位魔族云々が信じられない、っていってるんだし。
そのせいで町が死んでもそれはこの評議長のせいってことで♡別にいいわよ♡」
あたしの至極もっともな意見に。
「ままま!?まってください!?その死滅する…って……」
何やらあたしの言葉をさえぎり叫びつつ聞いてくる評議長。
「あら?こいつこれでも一応高位魔族の獣神官だし。
なぜか根性のないことにちょっとした瘴気とか受けただけで生物って死滅したり気が狂ったりするからねぇ。」
そんなあたしの言葉に。
「……当たり前だとおもうぞ?それ……」
あたしの言葉に突っ込みを入れてくるガウリイだけど。
くすっ。
「評議長さんも聞いたことあるでしょ?千年前くらいから伝わっている噂♡
『写本あるところに謎の神官の姿あり。』ってね♡あれ、このゼロスさんのことだし。
一応これでもこのゼロスさん、約千年くらい前から写本の始末やってるし。
あとは、竜族とかエルフ族などといった存在達の一部の間では、
『
くすりと微笑み。にこやかに説明しているユニットの言葉に。
「……その呼び方は好きではないんですけどねぇ……。
ま、リナさんがやってもいい、というんだったらやりますけど?
どうせこんな小さな町が滅びようがどうなろうが僕には関係ないですし♡」
いって、すっとその目を見開き評議長を見つめるゼロス。
――ぞくっ。
その視線に対し恐怖を感じ……
「……どこまで真実かわかりかねますが……とりあえず、ご遠慮しておきます。
…と、ところで、話しは変わりますが。実は協会からちょっとした依頼があるんですが……
この報告書が事実だとしたら何でもない依頼、とでもいえるでしょうて。
最近多発しているレッサーデーモンやブラスデーモン大量発生の事件の調査。
これをすべての魔道士協会を代表してリナ=インバース殿に引き受けてほしいのじゃが……
噂どおりならば、リナ殿ならばたやすいでしよう?」
なぜか、ゼロスがちょっぴり目を見開いただけで。
それから感じる本能的な恐怖に恐れおののきつつ、その瞳に恐怖の色をたたえそんなことをいってくるけど。
「ええ!?まさかまたまだ人々気づいてないんですか!?あれの理由!?
普通わかるでしょうに。もう竜族もエルフ族も心当たりがあるからって動いているようなのに……
……魔道士協会の人達って…とろいんですね♡」
さらりと至極当然なことを評議長にむかっていっているユニット。
「気づかないほうがどうかしてるのよ。
これおもいっきり、グラウシェラーのヤツは以前のフィブリゾの一件を真似ているんだから。」
そんなあたしの言葉に。
「……あのぉ?リナさん?ユニットさん?人間は1014年ばかり前のことは覚えてないとおもいますが……」
そんなあたし達に言ってくるゼロス。
「でも普通わかるでしょうに。ディルス国王がグラウシェラーのやつによって、
英断王と同じく肉の塊にされて、同じ部屋にと転がされてたりするのや。
でもってあいつが国王に成りすまして軍備増強をかねてSの欠片を探していることとか。
そんな面白いことしてることくらい♡」
そんなあたしの言葉に。
「ええっ!?覇王様あの地で何かなさってたんですか!?
僕らにはまったく連絡してくださらないんですよ!?
何でも早く魔王様の欠片を見つけ出すためうんぬん、とかいって。」
そんな何とも当たり前なほのぼのとした会話をしていると。
「……お~い?リナ?どうでもいいけど、この評議長さん……唖然としてるぞ?」
何か見てみれば、たかがグラウシェラーとかSの呼び名――魔王とか、ディルスの英断王の肉塊。
そんな会話を聞いて、なぜか面白いまでにと混乱している評議長の姿がそこにあったりするけども。
そして。
「……少しきくが…今のグラウシェラーとか…フィブリゾとか……
…それは……あの魔王の腹心…と伝説でいわれているものたちじゃあ……」
何か声をかすれさせつぶやいてくるけど。
「伝説じゃなくて事実よ?ま、グラウシェラーをからかうのは楽しそうだし♡
ということで、あいつをからかうの賛成な人♡」
「はい!面白そうだし♡」
「って!ちょっとまってくださぁい!!」
「ちょっとまてぃ!」
あたしの問いかけに即座にユニットが手を上げて賛同し。
何やらゼロスとガウリイが叫んでるけど。
「はい♡全員賛成♡というわけで。その依頼うけますね♡
でも、まさか微々たる金額で調査しろ。などとはいいませんよね♡」
未だに呆然としている評議長にとにこやかに話しかけるあたしの問いかけに。
……今のは…冗談だよな?うん。
冗談で片付けよう。
などと一人勝手に自己完結をし。
「う……うむ。じゃが、今それ以上は……おお。そうじゃ。ちとまってくだされ。」
いって何やらごそごそと紙を取り出し。
そしてペンを手にしその紙にと一文を刻み。
「これを見せればどこの協会にも泊めてくれるし、食事も出してくれるじやろう。
――お金は無理じゃが宿と食事の現物支給…じゃな。」
とりあえず、今の会話はあまり深く考えないようにして、冗談、として自分の中で完結し。
今書いたばかりのその紙を封筒にといれ、私にと手渡してくる評議長。
「まぁ依頼は受けますけど♡とりあえず♡一応上に立つものとして事実は知っておかないとね♡
ということで、ゼロス。この人間のアストラル体引っ張り出すから、
あたし達がこの町に戻ってくるまでにしっかりと現実を教え込んでおいてね♡」
「?」
ぐいっ。
意味がわからずに首をかしげている評議長からとりあえずアストラル体。
…つまりはすなわち魂を抜き取り、表面上は眠っているかのようにと見せかけておく。
「なっ……ななっ!?私がふたり!?」
何やら自分と……そして寝ている自分をみて驚いている評議長だけど。
「あ♡ゼロス♡消滅しない程度ならどんな方法で教えてもいいわよ♡」
「わかりました♡」
「いやあの……教えるって……リナ殿!?ちょっとまっ!!」
スタスタスタ。
バタン。
その場にゼロスと評議長を残し、あたし達は協会を後にしてゆく。
そしてとりあえず、アリアたち――つまりは生き返らせた人々で作った町に様子を見にいったんだけど。
それが今から十日前のこと。
「……ま、オレとしてはあの評議長さんに同情するが……」
なぜか再びテルモードに戻ったとき、
目覚めた評議長は精神崩壊を起こしかけてた、と人々が噂してたりしたけど。
ま、それはそれであたし達には関係ないしね♡
そんなことをつぶやいているガウリイではあるけども。
「ま、とにかく、いきましょ♡そ・れ・に♡今からいくのは盗賊のところじゃないわよ♡」
にっこりとあたしがいったその直後。
ざわっ。
辺りの空気が一瞬のうちにと変化してゆく。
-続くー
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あとがき:
薫:ようやく覇軍の策動編ですv・・・それはいいんだけど、これ、次の降魔への道しるべ。とだぶってるのよね。
ちなみに、ノート的には60Pをこえてたり・・・あ・・・あはは(汗
・・・アメリア達の回想シーン・・・はぶくかな?(こらこら)
何はともあれ、次回で、アメリア達と合流ですvんではではv
2005年3月15&16日某日
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