エル様漫遊記・覇軍の策動偏
だが、その考えを振り払い、
「――で。だ。つまりは…今回の一件は。やはりかつての降魔戦争を再発させようとしていたのだな?」
確認の意をこめて問いかけているミルガズィア。
心なしか声が震え、さらには顔色も悪いけど。
それは他の存在だとて同じこと。
この場に立ち込める腐敗臭や瘴気などをうけて、体調すら崩しかけている存在すらいたりする。
まあ、それは関係ないし。
「――そう捉えてもらってよい。」
他にも目的はあるが、それを説明するわけには…などと思い低くつぶやくグラウシェラー。
魔族の力の源は生きとし生ける存在が発する負の感情。
不安と不満。
恐怖と絶望。
苛立ちや、やるせなさ。
町といわず、周囲…つまりは惑星上にそれらを広めることにより、【魔族】の力は拡大する。
あたしがよくSを中心にお灸を据えているせいか、魔族の力はここしばらく衰退ぎみ。
それは別に魔族に限ったことではなく、神族側にもいえることだけど。
ともあれ、あちこちで出現している下級の輩――
レッサーデーモンやブラスデーモンも、いわば魔族の力の回復のために出現させているのに他ならない。
「…普通、私たちでは勝ち目はないはず…ですのに……」
未だに目の前にしているグラウシェラーをみて、何やらいっているメフィ。
先ほど、本体の一部でもある具現化していたグラウシェラーの一端の倒し方。
それを彼女たちに教えてみた結果。
きちんと理解して、そのとおりにできたメフィたち。
だがしかし、倒しはしたものの、本体が無事であることからすぐにまた具現化したこともあり、
その現実を見て改めて力の差を感じ取っているようだけど。
こいつなんてまったく力はないほうなのにねぇ~。
「ま。リナだしな。…それで?元に戻せるのか?こいつら?」
一言のうちに済ませ、のほほ~んとあたしに問いかけてくるガウリイ。
「…お前なぁ~……。こんな姿になっていても、仮にもこの国の国王だぞ?『こいつ』はないだろ?」
「そうですよ。ガウリイさん。せめて、肉の塊…とか……」
「アメリアさん。そのほうが酷いと思います……」
なぜか目の前にとある肉塊をみて顔をしかめつつも、
そんな会話をしているゼル・アメリア・シルフィールの三人。
「できるわよ?とりあえず手っ取り早く術が解けるように、こいつには少々お灸を据えとくとして…っと♪」
「まあ、人まねばかりして、きちんと策を練っていない。というのもあるしね♡」
にこやかなあたしとユニットの言葉に、面白いまでにグラウシェラーから【恐怖】の気が発せられる。
くすっ。
「そ・れ・に♡このあたしに気づくのにもかぁぁなり遅れたし…ね♪」
「「ぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!!!」」
なぜか、部屋の中といわず、
グラウシェラーの何とのいえない【声】がしばし響き渡る。
ちょっぴし本体にお仕置きをかねて黒い球状の塊をぶつけただけ。
だというのに。
……ザァ……
たかが、それしきのことで実体化するだけの力すら失い、
具現化していたグラウシェラーの体は塵のごとくに掻き消える。
『・・・・・・・・・・』
それをみて、なぜか無言になっている他のものたちの姿が見受けられていたりするけど。
ドロ……
術をかけていた当人が力を一時失ったのをうけ、
グラウシェラーによって術をかけられ肉塊と化していたウェルズもまた、
腐った肉のような臭いを発しつつそのまま解け崩れる。
「あ…あああ……」
かすかな声を立てつつ、床にそのまま液体状にとわだかまり何やらいってるけど。
「あ♡こっちのは私がやる♡」
ぐざっ!!
ふっとその手に淡く光る長剣を出現させると共に、
その剣を一歩も動くことなくもう一つの肉の塊にとそのまま剣を突き立てる。
「ひ…ああぁぁ……」
何ともか細い声とともに、その肉塊はといえばそのまま剣の光に飲み込まれ、
やがて。
パッキィィン……
澄み切ったわれる音と共に、光の刃にその肉塊の全てが吸い込まれてゆき、
そしてキラキラと光の粉をはじけ飛ばしつつ掻き消える。
「…いや……今リナ殿はいったい何を……」
その光景をみて、何やら呆然とつぶやいているミルガズィア。
彼らの中ではこの術。
即ち、
術者の魔族が滅ばないかぎり、未来永劫苦しみつづける。
という常識が定着している。
本来は他にもいろいろと術を解く方法はある、というのに。
つまりは……
【その術者である魔族よりも上の存在の力を使い消滅させる。】
という考え方が一般的。
別に滅ぼすまではいかなくとも、
様は他のことにまで力の干渉力を及ぼすだけの力をその魔族から削げばいいだけのこと。
たかがそれだけで、術はあっさりと解除される。
「え?たかが術が解除される程度にちょっぴりお灸をすえるのをかねて力を削いだだけですけど?
今リナは。何をいってるんですか。ミルガズィアさん♡」
そんなミルガズィアに、にこやかに説明しているユニット。
くすっ。
「そうそう。それに今ユニットがやったのは、光の中に一度肉体もどきを吸収させて、
そしてそれを媒介にして術と器を砕いただけだし♡」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
なぜかあたしとユニット以外が無言と成り果てているそんな中。
「…とりあえず……っと♪」
パ…ン♪
軽く手を叩くと同時に床と天井の中央付近に姿の透き通った二つの影がふよふよと出現する。
「「……へ…陛下!?」」
その姿を見て、声を上げるアルスたち。
そして。
「「……なっ!?英断王!?」」
幾人かは、もう一つの影をみてそんなことを言っていたりする。
「……いや。つ~か…だから、お前ら…何をしたんだ?」
額に一筋汗を流しつつ、あたしとユニットに聞いてくるルークに対し、
「別に何も?」
「え?別にこれといってしてませんよ?強いていえば魂を肉体、という器から開放しただけですけど?」
別に驚くようなことでもないでしょうに。
ただ、肉塊…即ち、肉体という器の中に閉じ込められていた元二人のこくおうの魂を開放し、
そしてこの場に出現させただけのこと。
「……本気でこのリナ殿たちって……」
「……私…めまいがしてきましたわ……」
解けることはない。
と思われていた術をあっさりと解き、
更には人間の精神体まで微弱な魔力しか持たないもの達にまで視えるように出現させるとは。
そんなことを思いつつ、何やら半ば硬直してつぶやいているミルガズィアとメフィ。
「…確か…以前見たことがありますわ。左側の人物…というか、幽霊……」
「……
どうやらかつてのディルス国王……ディルス=ルォン=ガイリア。
【英断王】と呼ばれている者だな。そしてもう一人が……」
「…さっきまで覇王さんが姿をとっていた現国王。
ウェルズ=ゼノ=ガイリア。その人のようですね。」
少しは免疫がつき始めている…というか、半ば『リナ(さん)だし』というので無理やりに自分自身を納得させ、
ふよふよと浮かぶ二つの人影を見ていっているシルフィール・ゼル・アメリアの三人。
「…で?リナ?ど~すんだ?」
あたし達以外。
即ち、一緒についてきた…というか、ついでに連れてきた兵士達や、アルスやジェイドといった存在に関しては、
目を見開いたままそれぞれ、何やらその場で固まってるし……
そんな彼らにちらり、と視線を向けるものの、
魂のもでふわふわと浮かんでいる二人に視線をむけて、あたしに問いかけてくるガウリイ。
くすっ。
「こうするのよ♡」
顔の横で左手を鳴らすと同時、ウェルズの精神体が光につつまれ、
ゆっくりと…だがしかし、はっきりとその姿を濃くしてゆく。
何のことはない、ただ単に肉体という器を再生させただけのこと。
「そっちはわかってるわよね?」
ひとりよがり。
ともいえる思いから、勝ち目のない戦いにと出向き、数千人以上。
という人間達…即ち存在達を見殺しのしたのは他ならぬこいつの責任。
ウェルズに関しては、世間知らずであった…ということがあるにしても。
彼の場合はグラウシェラーのヤツの計画に巻き込まれた。
という、たかがそれだけのものだし。
最も、【魔族】というえ存在をきちんと理解していなかった。
というのは二人に関して共通していることだけど。
姿がくっきりと成し終えると共にね
がくっ…ん。
どてっ!!
……あ。
落ちた。
そのまま空中より床上にとまっさかさまにと落ちてくるウェルズ。
一瞬その光景に全員無言になりつつも、はっと我にと戻り、
床にと伸びている国王の元にと真っ先にかけよるジェイド。
そしてしばい呆然としていたものの、
やや遅れてはっとこちらもまた我にと戻り、ウェルズにと駆け寄ってゆくアルス。
そして。
「……一体?今リナ殿は何をしたのだ?」
聞くのも怖いが、聞かずにはいられない。
などと思いつつ、おもいっきり動揺し震える声であたしに聞いてくるミルガズィア。
くすっ。
「え?ただ肉体の再生をしただけよ?」
「あら?ミルガズィアさん。何驚いてるんですか?誰にでもできることですよ?」
『……誰にでも…って……』
絶対に出来ないと思(うぞ)(います)(うんですけど)……
あたしとユニットの至極当たり前な説明に対し、なぜか他の存在たちが同じようなことを思っていたりするけど。
「まったく。肉体の再生くらい簡単よねぇ?」
「よねぇ?ここの世界でも同じような理屈で
「器たる肉体がなくなれば新たな器を用意して精神体を乗り移らせる。
そういった実験は以前レティディウスでもやってたし。」
「失敗した人もけっこういたようだけどね♡」
何ともほのぼのとした会話をあたしとユニットがしているそんな中。
ふと。
「……あ。そういえば…あのシェーラさんの姿が見えませんが……」
今更ながらにそのことに気づき、シルフィールがいってくる。
どうやらガウリイ以外。
そのことにすら気づいていなかったようなのよねぇ~。
なぜか精神世界面で行ったグラウシェラーへのお仕置きを視て、
実体化どころか存続することすら危ういまでにダメージうけてるし……
ちょっぴりシェーラにも槍もどきを一本。
というのに。
『この程度で滅んだりしたら本格的なお仕置きね♡』
と先に伝えていたがためか、かろうじてどうにか根性を出して滅ぶまでにはいたってないようだけど。
それはグラウシェラーとて同じこと。
「シェーラさんなら、
そんなシルフィールのつぶやきに、さらりと答えているユニット。
『行動不能って………』
ユニットの説明に、またまたそんな声が誰ともなく発せられていたりするけど。
「そんなどうでもいいことより♡
とりあえず考えのないグラウシェラーのやつの一件はこれでひとまづ一件落着したわけだし♡
後はあんたたちの仕事。そうでしょう?アルス?」
いまだに気絶しているままのウェルズに駆け寄っているアルスたちにと視線を向けて話しかける。
そんなあたしの言葉に。
「まあ。いろいろと気になることとかはおいとくとしまして……
確かに。リナさんのいうとおりですね。覇王の悪の企みは、私たちの手により阻止されたわけですし。
やはり、常に正義は私たちと共にありますっ!天は常に私たちの味方ですっ!」
「……何やら他にもいろいろと突っ込むことが多すぎて……何をどういえばいいものか……」
「……同感ですわ。ルーク。今回は。私ももうどうにも何をどういえばいいものやら……」
リナ(さん)に関わったら、常識では信じられないことが目の前で繰り広げられ、思考力が麻痺してしまう。
そんなことは今までの経験上当たり前とはわかってはいるものの……
二人して同じようにそんなことを思いつつ、額に手を当ててうなっているルークとミリーナ。
一方で。
「さあ!これから始まるこの国の建て直しに私たちも協力しましょぅっ!」
とりあえず、ウェルズが元の姿に戻ったことや、
グラウシェラーが
更にはゼラスたちも協力しにやっきていること。
それらを見越して、今後の行動を勝手に決めて叫んでいるアメリア。
「……突っ込めよ…お前は……色々とあるだろうが……」
アメリアの気持ちは判る。
判るが……
「はぁ~……」
ぶつぶつとつぶやきつつも、内心そんなことを思いながら、心に葛藤を抱えそんなことをいっているゼル。
「……色々と疑問は残るが……まあ、一応覇王の企みは阻止できた…ということか?」
更にリナ殿が何者なのか…という謎は強まったが……
ぽそり、とそんなことをいっているミルガズィア。
「…それより。あの幽霊……リナさんはどうする気なんでしょうかか?」
多少現実逃避を死体固めに、未だにふわふわと漂ったままの、
ディルス=ルォン=ガイリア元国王と思われるものにと目をむけるメフィ。
まあ、メフィは彼とは面識なかったし。
一応当時もメフィは存在してはいたけども。
人見知りが激しくて家の中や、村の周辺しか出歩かなかったからねぇ。
このメフィは。
「ま。ともかく。王様も元にもどったんだし。これでひと段落。ってことだろ?」
場の空気をまったく読まずにさらっとにこやかに言ってくるそんなガウリイに対し、
「ガウリイ様。まだまだこれからですわ。
人々の誤解を解いたりもしないといけませんし。それに……」
町や城に出現しているという魔族たちの駆除もまだですし……
暗にそういう意味をも含めてシルフィールがそんなガウリイにと話しかける。
「はっはっはっ。気にすることはないって。シルフィール。
どうせリナにいわれなくてもゼロスの母ちゃん達が何かしてるって。
それにほら。何かレイナードのときにもきた。何とか竜王っていう人達の気配もしてるし。
多分オレ達のすることはないと思うぞ?」
「「……ちょっとまて……」」
「――まってください。」
「――かなりまて。」
ガウリイの暴露にレイナードの一件を知っている
そんな彼らの声を意に介することもなく、
「それに万が一、何かするにしても。頭脳労働力に関してはオレは員数外だし。
つまりオレはひと段落ってことだろう?」
「……いばっていうことか?それ?」
きっぱりと言い切るガウリイの園言葉に、ルークが何やらいってるけど。
「あら♡ガウリイはまだまだすることあるわよ♡」
そんなガウリイにとにっこり微笑み、
「一人でこの辺り一帯。つまりこの町付近にいる雑魚たちの一掃ね♡」
「…で……でぇぇ~!?オレ一人でかっ!?」
なぜかガウリイの叫びがこだまする。
「あら。あたし達は他にもいろいろとすることあるし♡それにいい訓練になるじゃない♡」
「そう言う問題か!?」
「ま…まあ。確かに。町の外にいるレッサーデーモンたちも放っておけませんしね。」
そんなあたしとガウリイのやり取りに、どこか遠い目をしながらいっているシルフィール。
くすっ。
「そういうこと♡あ。ミルガズィア達もついでにゼラスたちやバールウィンたちと一緒に事後処理ね♡」
いまだになぜか呆然としてるミルガズィアにも話しかけるそんなあたしの言葉に、
「…もしかしてそれって……」
「……もしかしなくても…天竜王様…だな……」
なぜか声を震わせているメフィに、ため息とともにそんなことをいっているミルガズィア。
なぜか。
だからどうして…いったいこのリナ殿は……
あの一件の時も、あの時もおもったが…神々たる竜王様方や、腹心たち。
挙句は異界の竜神や魔王まで畏れ、したがっているように見受けられるのは一体……
リナ殿は、本当に何者なのだ!?
などと心でそんなことを思いつつ、葛藤を抱えているようだけど。
事実を知ったらどんな反応するのかしらねぇ。
くすっ♡
「ま、とりあえず♡事後処理開始よ♡」
あたしの声を皮切りに、
とりあえず、今回の一件の後始末をそれぞれ分担して担当することに――
さって、すこしばかり楽しみますか♡
-続くー
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あとがき:
薫:一番気の毒なのはきっと意味がわからないままの兵士達……(汗
と思うのは私だけ?
L:あら?別にどうってことないわよv
姫:そうそうv
薫:・・・・・・・・・・・・・・・ノーコメント…
さて。ようやく事態も解決(?)し、これからラストにむけて一直線v
・・・といかないのが漫遊記(汗
何はともあれ、ではまたv
L:まったねv…といいたいところだけど!あんたっ!
いい加減にあたしが活躍するところを打ち込みなさいっ!
薫:ぴぎゃぁぁぁぁぁ~~~~~!!!
(薫、何かにがりがりと音をたてられつつ飲み込まれてゆく……)
姫:それじゃ、何かご飯になった人はおいといて。
まったねv
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