エル様漫遊記・覇軍の策動偏
全ての原因は、元はジェイド。
正確にいえば、グライアをグランシスが殺しにかかり。
そして、それを目撃したあたしに攻撃を仕掛けようとしたこと。
先ほどの会話からそのことを察し、
八つ当たり…とは判っているものの、剣を引き抜きそのままジェイドにと向けるシェーラ。
最も、ルークとミリーナに攻撃して、万が一、あたしのお仕置きがあっては…という心情もあるようだけど。
う゛…んっ!
ドゥールゴーファが風を凪ぎ、黒い衝撃波を生み、ジェイドとアルスめがけて突き進む。
「危ないっ!」
突っ立ったままの二人を突き飛ばそうと、
「風魔咆裂弾!!」
人型もどきの元人間達であったそれらに向けて術を放問うとしていたアメリアが、
その対象を二人に変えて解き放つ。
ぶわっ!
まともに吹き飛ばされ横手に吹き飛ぶ二人に続き、
「「…ぐわっ!?」」
シェーラの一撃は、後ろのほうでおろおろとしている兵士の一人を飲み込み、その体の一部を破壊する。
最も、この空間内では、たとえ手足がもげようが、薄皮一枚で体がつながろうが、
何をされようがはっきりいって死ぬことはない。
傷をうけても、苦痛と痛みが残るのみ。
「螺光衝霊弾!」
やられたらやり返す。
それがルークの信念。
先手必勝とばかりに術を繰り出すが、左手を突き出し霧散させようとし……
「――なっ!?」
一瞬シェーラに浮かぶ動揺の色。
人間の魔力ならば、左ての一つも使えば軽く無効化できる。
――だが、それが力を多少なりとてこめなければいけない…などとは……
……あの御方…もしかしてこの人間達の魔力…上げてるのかも……
そんなことを内心思い、態勢を整え再びシェーラは身構える。
あたらずとも遠からず。
この空間内においては、物質世界も精神世界も、それらに対する両方の隔たりは取り払ってある。
ゆえに、本当は普通の存在でも『力ある言葉』のみで術などは発動するんだけど。
力の仕組みを理解している存在ならば誰でも。
…ま、ルークに関していうならば、それゆえに内にと眠っている『力』が増幅されてはいるけども。
…あいつ、あたしの気配を幾度か受けているので…目覚めたくないようなのよね……
職務怠慢。
という以外にないったら……
「何!?」
ルークにしてみれば、片手で術が防がれたのをみて驚愕の声をあげてるけど。
「烈閃咆!!」
続けざまにミリーナがシェーラに向けて術を解き放つ。
…どうでもいいけど、どうしてわざわざ具現化している一部の方へと攻撃を仕掛けるのやら……
本体そのものへと攻撃をしかけたほうが効率いいのに……
「…あの二人に加勢しなくていいのか?」
そんな様子をみて、あたしに聞いてくるミルガズィア。
「あ。平気よ。いったでしょ?『死ぬことはない。』って。
それより。いい機会だし。ミルガズィア達も魔族との戦いになれないとね♡
以前みたいにゼロスの一撃であっさりと壊滅しないように♡
プラスとマイナス。その二つが混じりぶつかり合う力はこの星のためにもなるんだし♡」
「それに、この空間って精神世界面にか~なり近くなってるから。
魔族側も。それに人間側といった存在達も。全ての存在において本質たる精神力が高くなってますし。
ミルガズィアさん達も感じるでしょう?自分の中に力が満ちている…というのは♡」
あたしとユニットの交互の説明に、何やら顔を見合わせるミルガズィアとメフィ。
そしてまた、
「…あ、あのぉ?リナさん?…わたくし…けが人の手当てに回りますわ……みてられませんし……」
自らよりも弱い存在には強気で向かっていっている人型もどきの下級魔族たち。
アメリアとゼルがどうにか憑依している魔族の本体に対し攻撃を仕掛けているものの、二体数十体。
それゆえに多少手間取っていたりする。
あの二人もまだまだねぇ。
怪我をして倒れてゆく兵士達をみつつ、シルフィールがあたしにといってくる。
どうも彼女の身を案じ、断ってもついてきた兵士達が気になってしょうがないようだけど。
彼らって、シルフィールがいくら断っても、シルフィールを守るとかいってここまでついてきたからねぇ。
足手まとい以外の何者でもないのに。
「別にほっといても死なないわよ?この空間ってある力によって形作られてるし」
「……その『ある力』…って……」
「決まってるじゃない♡全ての源たる力よ♡」
正確にいうならばあたしの力だけど♡
嘘はいってないし♡
戸惑い問いかけてくるメフィにさらり、と返し、
「せっかくだし♡シルフィールも参加すればいいのに♡」
こいつにお灸据えるのってシルフィールたちにとってはいい経験になると思うんだけど♡」
そんなあたしの言葉に、いまだにびくびくしながら、
「…エル様ぁ~……」
などといってきているグラウシェラー。
ザクッ♪
まったく。
その呼び方はやめなさい。
と幾度もいってるのに。
ひとまず、そんなグラウシェラーに対しては虚空からピッケルを出現させて突き刺しておく。
何はともあれ…っと。
「ほらほら♡ミルガズィアもぼ~としてないで。ガウリイですら頑張ってるんだし♡」
なぜか呆然としているミルガズィア達にとにこやかに話しかける。
彼らの視界にと入っている闇の大きさと、ガウリイとではその差は歴然。
だがしかし、ガウリイはあたしやユニットの暇つぶしをかねた遊びに付き合っていることもあり、
人間の常識の域をあっさりと超えている。
…ま、ガウリイも様々な種族の血が混じっているから、あっさりと人間の壁を乗り越えられるんだけど。
最も、それでも肉体がその精神…というか【力】に追いつかない、ということもあるけど。
「ガウリイさんの持っている剣は斬妖剣だし。あ。覇王さん……あせってる♡」
グラウシェラーから見れば、ガウリイはちっぽけな存在。
だがしかし、大概の存在にいえることだけど、
その【取るにたらない小さな存在】と思っている輩に敗れることは少なくない。
そう。
一滴の水が年月をかけて岩や大地を削り穴あけるかのごとくに。
そもそも、【魔】と【神】との戦い。
即ち、プラスのエネルギーとマイナスのエネルギー。
それらの相反する力が存在する理由は、バランスの取れた世界の構成。
どちらかがかけても、また増大してもバランスは崩れる。
つまりは、どちらかが驕り高ぶってもバランスは崩れる。
それぞれにおける戦いは、【互いを見つめなおし向上を測る。】という意味合いをもっている。
最も、様々な種族の内部においては、その【戦い】の意味をはき違え、
無意味な殺戮と化した戦いをするものもいるけども……
「ほらほら♡何ごとも実践あるのみ♡せっかくエルフ達と共同で武器を開発したんでしょ♡
威力はきちんと確かめないと♡実戦で♡」
倒れているグラウシェラーに対し、
突き刺さっているピッケルをぐりぐりと回しながらにこやかにあたしが言うと、
「……な…何か……」
「……だな。何か覇王が哀れに見えてきた……」
などといっているメフィとミルガズィア。
シルフィールは少し悩んだ末に、やはり放ってはおけないから…と、兵士達の保護に回ってるし……
別に放っておいても問題ないのにねぇ。
そんな会話をしつつも、とりあえず、あたしたちはそれぞれ、
グラウシェラーを初めとする一派に対し、しばしお灸を据えることに―――
-続くー
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あとがき:
薫:♡覇王
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