エル様漫遊記・覇軍の策動偏
淡々とうつむき加減にジェイドの説明は続いてゆく――
傍目からみれば、ジェイドがシェーラをおしている。
と見えなくもない。
散々シェーラが高位魔族だ、とジェイドは聞かされているのにも関わらず、
力を読み間違えシェーラに挑んでいるジェイド。
というか、一般に言われている、俗にいう『高位魔族』の力を…ジェイド理解してないし……
息一つ乱さずに、薄く笑みを浮かべてジェイドの剣を受けるシェーラにアルスは違和感を覚えざるをえない。
――何かがおかしい。
アルスがその意味に気づくよりも先に、
キィィン……
シェーラの手にしていた剣をジェイドがはじく。
そして、シェーラに再びその剣を拾わせないために、
剣をシェーラに向けたまま、黒い剣の柄にと手をかけるジェイド。
…ジェイドもアルスも気づいていない。
シェーラがわざと剣を手放し、そしてジェイドに拾わせるように仕向けたことを。
ジェイドが剣をつかむのと同時。
ジェイドの全身を黒い稲妻が走りぬけ――
それと共に、今まで彼らがいたはずの部屋もまた、その姿をけし、周囲を暗闇が包み込む。
彼らが【謁見の間】だと思っていた場所はシェーラの力で見せかけられていた空間の一つに他ならず、
つまりは、アルスとジェイドの二人を油断させるためのもの。
暗闇の中、絶叫が響き渡り、そして……
「…いきなり。肩をつかまれ……振り向くと、ミルガズィア殿がいたのです。」
換わりゆくジェイドの姿を視界の先でかろうじて捉えていたアルスは、その程度のことで混乱し。
そして魔族たちを撃退し、同じ空間へと移動してきたミルガズィアと共に、
混乱しつつもその場をかろうじて抜け出し―――そして今に至っていたりする。
「まったく……。きちんと話していたでしょうに。ドゥールゴーファのことは。
それに、グライアやグランシスの姿をみているんだから、十分に判っていたでしょうに。
同じ過ちを繰り返すなんて、さすが親子よねぇ。」
そんなあたしの言葉にジェイドは終始無言。
魔族だの何だの…とは聞いてはいても、シェーラはあの通り見た目は人間。
目の前にいるこのゼロスと同じく。
心のどこかで疑っていたのは紛れもない事実。
それゆえに自分一人でも勝てる…と、相手の意図すら読めずに突っ走り、相手のコマにさせられてしまった。
ということも。
漠然とながら、憑依されてからの記憶も残っているがゆえに、彼としては無言になるしかないようだけど。
ともあれ、そんなアルスやジェイド。
そしてミルガズィア達の説明を聞き終え、
「で。それじゃあ、話もついたことだし。そろそろいきましょうか♡」
一通り話しがひと段落したのをうけ、カタン、と席を立ち上がる。
「確かに。あまりのんびりしていても次の魔族が出てきかねませんものね。」
そんなあたしの言葉にうなづき、ミリーナもまた、立ち上がる。
「それじゃ。そろそろいきますか♡」
パチン♪
ふっ……
ユニットの言葉と同時。
あたしが指を鳴らすと今まで使っていた椅子とテーブルが瞬く間にと掻き消える。
「……何度みてもなれませんね。」
それをみて、ぽそり、とつぶやくアメリアに。
「以前ほど驚かなくなっている俺たちではあるが…な。」
慣れてきているのが自分でも判るから怖い……
などとそんなことを思いつつも、いってため息をついているゼル。
そして。
「……本当にリナ殿は一体……」
何やらつぶやいているミルガズィア。
「まあまあ。そんなことより。先にいきませんか?」
そんな彼らに対し、にこやかに言っているゼロス。
くすっ。
「とりあえず行きましょ♡」
いまだなぜか納得のいかない顔をしたミルガズィアやルークはともかく無視するとして、
そのまますたすたと宮殿にと続いている扉のほうにと向かってゆく。
地下にと続く階段をおり、その先にとある廊下を歩くあたし達。
『…うぐぉぉぉ……ひぃぃぃ………』
「……悲鳴?」
無人の廊下を歩きながら、その声にと気づきミリーナが声を出す。
「つ~か。声だな。」
さらりとそれを聞き、言い切るガウリイに、
「確かに声だな。最も、声、というよりは遠い悲鳴のようだが。」
あっさりとガウリイの言葉を肯定しているミルガズィア。
「ディルス二世。ディルス=ルォン=ガイリアの呻きよ。
Sのやつに
そんなあたしの言葉に、顔色も悪く、
「…いやあの……Sって……」
二世国王陛下は魔王により呪いを受けているはずだが……
そんなことを思いつつ、つぶやくアルスに、
「……そういえば…父や兄から聞いたことがあります。
何でも昔の国王が魔族の呪いで今も生きていて、城のどこかに閉じ込められているとか何とか……」
ふとそのことを思い出し、もらしているジェイド。
「正確にいうならば。今から約二十年ばかり前のことですけどねぇ。
何を思ってか当時の国王。ディルス=ルォン=ガイリア国王が、
人間達の部隊を率いてカタートに踏み込んできたんですよ。
まったく、身の程を知らない人は困ったものです♡
とりあえず、見せしめと、二度と馬鹿なことをしでかさないように、という意味合いをこめて。
指揮をとっていた国王さんにちょっとした術をかけて送り返したんですよ。」
そんなアルスやジェイドに続き、にこやかに追加説明し、
「ま。本来普通の人間が僕達魔族にかなうはずもないんですけどね。
不意をついたり、一撃必殺等、といったことででも仕掛けないかぎり。
…最も、それは人間を舐めてかかっている魔族の人たちに限りますけど。
人間を舐めているから、実力をださずに、それであっさりとやられちゃったりするんですよねぇ~。」
しみじみとそんなことを言うゼロスに対し、
「でもゼロスさん。ゼロスさん達って、いっつもリナさんにいいように使われてるじゃないですか。
ゼロスさん達魔族だけでなく、どうやら神族も…みたいですけど。」
さらりと言っているアメリア。
「あら。アメリア♡所詮、魔族や神族っていっても、
使い方によってはただの便利なアイテムその一に過ぎないのよ♡」
「――まあ、『アレ』の力を使えることができ、なおかつ関りがあるであろうリナには逆らえんだろう。
――それより、一体どこに向かっているんだ?」
歩きつつもふとあたしに問いかけてくるゼル。
「どこって…シェーラとグラウシェラーのところに決まってるじゃない♡
それとも先に、地下にとある、二つになってる肉塊のところにいく?何かこの声って二人分だし♡」
びくっ!
あたしの言葉にあからさまにアルスが体を震わせる。
「言われてみれば…確かに。この声は二つ重なってるな。」
そしてまた、あたしの言葉をきき、のんびりとそんなことをこれまたさらりと言っているガウリイ。
「……二人分って……」
何かかなり嫌な予感がしますけど……
そんなことを思いつつ、つぶやくように言っているミリーナ。
くすっ。
「ま。視れば早いわよ♡」
にっこり微笑み、言い放つと同時。
トッン♪
軽く横の壁を叩く。
それとともに、壁が一瞬水晶のようにと透き通り、その中にとある一室が映し出される。
内臓をこねくりまわしたような肉の塊が二つ。
絶えずそれらの肉の塊からは、にじみ出る液体と、内部から産まれてはその肉を食いちぎる蛇の姿が見てとれる。
そしてその肉塊もどきの中央より少し下の辺りには、肉に埋もれてはいるものの、
はっきりとわかる人の顔がそれぞれ一つづつ。
『……うっ……』
思わずそれを視て、目を背けるミリーナ、アメリア、メフィの三人。
そしてまた。
『……なっ…!?』
なぜかその顔をみて絶句しているアルスとジェイド。
「何とかっていうあの術をかけられていた人と似てるけど。アレと同じなのか?」
以前のアトラスでのデイミアを思い出し、あたしにと聞いてきているガウリイ。
「そうよ♡」
「どうやら、グラウシェラーさんは。今の国王さんに術をかけて、そのまま成り代わってるみたいね♡」
それを視つつも、にこやかに会話をするあたしとユニットの言葉の最中、
『あ…ああぁ……』
『…ころ…殺してくれ……』
何やら二人の元ディルス国王たちの声が壁の向こう、正確には映し出されている映像の中より聞こえてくる。
『――陛下!?』
その二人のうちの一人の声をきき、アルスとジェイドが反応し叫ぶと同時、
ふっと、目の前の映像が映し出されていた壁は元の壁にと戻ってゆく。
「…今のは……」
壁にと映し出されていた光景をみて、顔色も悪く誰にともつぶやくルークに、
「今のはどうやら。この城の地下の一角にとあるディルス二世国王さんが幽閉されている部屋のようですね。
まあ、『元々あった肉の塊が二つになっても誰も気にしないだろう。』
というのが
にこやかに、そんなルークにと答えているゼロス。
そんなゼロスにと、づいっと詰め寄り、
「ゼロスさん!あなたたち魔族には心というものがないんですか!?
わかっていながら今まで何もしなかったんですか!?」
ぴっと指をつきつけていっているアメリア。
「そうは言われましても……別に僕の仕事ではないですし。
仕事でもないのに何かする理由はありませんよ。今の僕のお役目は、『リナさんのお供』ですから。」
そんなアメリアに対して、さらりと言っているゼロスの姿が。
「……だから。どうして空間を簡単につなげて、しかも第三者に映像を視せることが可能なのだ?」
今の映像は真実、この城の中の一室で起こっていることと確信しつつ、あたしに問いかけてくるミルガズィア。
「あら?ミルガズィアさん。そんなことで驚かれましても。私でも出来ますよ?ルナさんも出来ますし。」
「そうそう♡――で?そういえば、アルスとジェイドはどうする?
今視たとおり、本来の国王はある部屋において一緒にアレと軟禁されてるけど。
どちらにしろ、アルスはあの部屋の場所知っているだろうし。
あんたたちの目的は、『シェーラを倒すこと。』と『国王を保護すること。』。この二つらしいけど。
で?どっちにする?ちなみに、戦う場合を選んだら自分の身は自分で守ってね♡」
少々彼らにはお仕置きをかねて遊ぶつもりなので、少々では壊れない…というか、
あたしやユニット以外では、解除できない空間を創造って楽しむつもりだし♡
ミルガズィアたちには気づかれない程度で♡
「……それは……」
言いかけて口を一瞬つむり、
「…今の映像が真実かどうか……『国王陛下にお会いしてきめたい。』と……」
嘘であってほしい。
という思いをこめてつぶやいてくるアルスに、
「今の映像は……?ともあれ、私は陛下に申し上げたいことがございます。」
国王が覇王とすり替わっている。
…というのを未だに完全には認めていないがゆえにそんなことをいってくるジェイド。
「ま、いいけどね♡でも自分の身は自分できちんと守ってね♡
とりあえず、あいつらが力を解放したとしても、城とか国や大陸が崩壊しないような空間にするつもりだし♡」
「まあ。確かに。グラウシェラーさん達が力というか気を開放したら、
こんな国程度なんかあっさりと壊滅どころか消滅するしね♡」
「まったく。どうせ町などを造るんだったら。それくらいの耐久性くらい持たせればいいのにねぇ。」
そんなあたしとユニットの会話に、
「いや。それは無理かと……」
何やらぼそり、といっているゼロス。
「……ま、まあ。どうあがいたとしても…だ。リナがこちらにいる。というのは。
どうも
リナにどう考えても喧嘩を吹っかける…とはおもえんし。
何にしても、俺たちは『今回の一件を止める。』それしかないが。」
……いくら
リナのやつ、魔王にすら勝つからな……
内心そんなことを思いつつ、淡々と言っているゼル。
「リナ殿の正体に関しては、未だ我らとてわかってはいないが……。
むしろ説明がつかぬことばかりだ。
…だが、たしかに。リナ殿がこちらにいるとはヤツは気づいていないのだろう。
正直私とて、リナ殿がいなければ、わざわざ
と判っているのにこの一件に関わろうとはおもわん。
どうあがいても、我ら竜族はもとより人間も当然かなう相手ではないのだからな。」
あっさりと言うミルガズィアの言葉に、
「おいおい。黄金竜のあんたが『かなう相手ではない。』なんて……」
思わず突っ込みをいれているルーク。
「ま。ゼロスにすら勝てなかったしねぇ。あの当時。」
そんなあたしの言葉に、顔をしかめるミルガズィア。
勝てる方法、ミルガズィア持ってるのに…ねぇ。
ふふ♡
ミルガズィアは冗談の一つでもいえば一発なのに♡
滅んだり、死んだりとはかろうじていかないまでも、かぁぁなりのダメージをうけるしねぇ。
あいつら……
最も。
その程度でどうにかなっりしたら、後が怖い。という思いが先立ち根性で持ちこたえている。
…というのもあるようだけど。
「あっさりと一撃で決着ついちゃいましたからねぇ~。あのときは。ま、大丈夫ですよ♡
本来、人間や竜族、といった方々は僕ら魔族から見れば『取るに足らない存在。』
と、捉えている方々が多いですし。むしろ食事をするための…『恐怖』という負の感情をいただく相手。
とみている方々が多いですしね。それゆえに皆さん、本気で仕掛けることとかしませんし」
いってにっこりと笑い、
「ま、僕は別に相手を問わず。お仕事とあらば、手加減しませんけどね♡」
「――リナでもか?」
「そんなっ!リナさんにそんなことをしようとでもするなら……
……一瞬で僕はともかく、世界そのものが消滅しちゃいますよっ!」
『……一瞬で…って……』
ルークの問いに驚愕の声を出すゼロスに対し、なぜかぽそり、とつぶやいているミルガズィア達。
「ゼ・ロ・ス♡いらないことはいわないの♡」
「す…すいませんっ!」
「あ♡そんなことより。話してたらついたわよ~♡」
話をしつつ、進んでいたあたし達。
そんな会話をしていると、いつのまにか目的地にとたどり着いていたりする。
目の前には一枚の扉。
相手の目くらましをかねて、本来の道とは異なり関係者専用の通路から進んできていたのだけど。
「…ここは……」
「謁見の間よ♡」
つぶやくルークにさらり、と答え、視線でガウリイやゼルたちにと合図をうながしそのまま軽く扉を開ける。
その刹那。
扉の向こうにて殺気がはじける。
扉の向こうは閉じられた結界の部屋と化している空間。
そして、その中にうごめいている数十個の黒い影。
さってと…楽しみますかね♡
-続くー
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あとがき:
薫:・・・ようやく謁見の間にやってきました(汗
でもまだまだ先は長いです・・・残りのPが・・・2、4、6・・・・(汗
・・・40話までに収まるかな?(滝汗・・
何はともあれ、続きをいくのですv
ではでは。
2006年3月20日某日
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