エル様漫遊記・覇軍の策動偏

一方。
さすがは下っ端、ということはあり、意味がわからず、ともかく一瞬戸惑うものの、
命じられたとおりに身近な相手――つまり、ガウリイ目指して向かっていっている゛元゛ジェイド。
ガウリイに向かってゆくと同時にその顔を、『ジェイド=コードウェル』のものにと変貌させている。
人の心理、というものは面白いもので相手が見知っている存在だと油断し、隙を与える。
だがしかし、意識を集中させ、ジェイドに憑依している魔族の本体を探っているガウリイには通用しない。
…リナの無差別攻撃が始まる前に、こいつを倒さないと……オレ、いくら命があっても足りないぞ!?
などと心でガウリイは叫んでいるようだけど。
あら。
簡単に死亡させるはずないじゃない♡
ガウリイにはまだまだ楽しませてもらう予定なんだし。
ふふ♡

ガグワァァ~!!
部屋の中、なぜかサーディアンとファリアールの悲鳴が響き渡る。
二人とも、たかが数本のちょっとした長さの針で本体ごと幾度か突き刺しただけで、
なぜか物質化をまともにとることすらかなわなくなり、
その場にてアメーバのようにどろり、と固まった姿になっていたりする。
まったくもって情けないったら。
あたしが、『誰』なのかすら、いまだに判ってないようだし。
こいつらって、あたしのことを【ルナの妹】。
つまりは、赤の竜神騎士スィーフィードナイトの妹だ、としか聞いてないようなのよねぇ。

「……僕は石、僕は石………」
一方で、なぜかその場にうづくまり、ぶつぶつつぶやいているゼロスの姿も垣間見えているけども。
まったく……この程度のことで……

「…しかし、あの兄ちゃん……本当に人間か?あのリナはともかく。」

ルーク達のほうからは、あたしの場所は黒いもやに包まれていて見えていない。
変わりに、ぽつん、とうづくまっているゼロスと、ジェイドを器とした魔族と戦っているガウリイの姿が見えるのみ。

呪文の詠唱もなしに打ち出される魔力球をガウリイはあっさりとかわし、時には剣でその光を叩き斬りつつ。
そしてまた、続けざまに放たれてくる力を剣の柄で叩いて爆発させ、それと同時に後ろに飛んで威力を削ぐ。
ぽりぽりとクッキーをかじりつつ、ユニットが出現させているテーブルを囲み椅子にと腰掛け、
そんなことを繰り返しているガウリイをみていっているルーク。
「リナのやつとともに旅をしてるんだ。ヤツは。
  人間場慣れした行動が進化していかないととうに死んでるぞ。いくらガウリイでも。」
「でも、ゼルガディスさん?リナさんは死人もあっさりと生き返らせますし。
  それはそうと、このクッキー。おいしいです♡」
ルークのつぶやきに答えるかのように、そんな会話をしているゼルとアメリア。

じわり、じわりとジェイドに憑依している魔族の本体を見極めつつ、
肉体の方にはダメージを与えずに、自らの勘にしたがって斬妖剣ブラストソードの波動を魔力の波動にあわせ、
「でやぁぁ~~!!」
掛け声とともにねジェイドの目前にてその剣を振り下ろす。


「……何が起こっているのだ?」
「……えっと……あ、おいしそうですわね。私にももらえますか?」
ガウリイが本体を見定め、剣を振り下ろすその直前。
部屋にと入ってきたミルガズィアがうなるようにとつぶやき、
メフィにいたっては半ば現実逃避をしつつ、アメリアたちがいるテーブルにとむかってゆく。
そして。

「……こ…これは……」
部屋に入るなり、その場にうづくまっているアルス。
この部屋の中はちょっとした宇宙空間の一部と同化しており、異なるのは一応地上と同じ空気が存在している。
ということのみ。
その気になれば、そのまま宇宙そらへ出ることも可能。
……最も、人間達が生身の体で何の対策もほどこさずに、宇宙空間に出るならば、それは即死を意味する。
体が膨れ上がり、その体は宇宙空間を漂い続けてゆくのだけど。
ゼルたちに説明しても理解できないでしょうしねぇ。
「あれ?メフィさんたち。お帰りなさい。あ。クッキー食べます?おいしいですよ?」
メフィに気づき、声をかけるそんなアメリアをみつつ、
「……いや。だから…これは一体…何が起こっているのだ?」

「はぁぁ!」
ざっん……

ミルガズィアの二度目の問いと同時。
ガウリイの剣がジェイドに憑依していた魔族の本体のみを叩き斬る。
ガウリイの手にしている剣は周囲の魔力を切れ味とする魔力剣。
ついでにいえば、あたしがちょっぴりとある紋様を書き入れていることでその効果はさらに増している。
それゆえに、魔族の本体たる精神体のみを斬ることも可能。
「ミルガズィアさん。深く気にしないほうがいいとおもうぞ?
  この空間は異界黙示録クレアバイブルによって視た映像と酷似している。
  ……となると、リナが今使っている【力】はおのずと推測できるしな。」
そんなミルガズィアにと、ため息とともに何やら言っているゼル。

それと同時。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!』
なぜかファリアールとサーディアン。
二人の絶叫が再び辺りにと響き渡る。
……まったく・・・ …
ちょぉぉとあたしの気配を察しただけで、悲鳴を上げて滅びなくてもいいでしょうにねぇ。
しかも、ちょっぴり虚無の塊を取り出して二人に投げてみただけだ。
というのに。
とりあえず…還ってきたこいつらには、しっかりとお灸を据えるために、実験部屋にでも送っときましょっと♪

「…あ、終わったようですよ。」
どさりと、その場に倒れるジェイドの肉体と、あたしの周囲の黒いもやが晴れるのを見てとり、
何やら手をとめていっているアメリア。
そしてまた、
「……うう……どうにか……って…おや?ミルガズィアさんたち。もどってきてたんですか?」
ふらふらしつつも、どうにか立ち上がり、ようやくミルガズィアたちにと気づき声をかけているゼロス。
「……というか…今のは………本気で何が……」
さぁ……
ミルガズィアのつぶやく声と同時。
ひとまずこの場を元の部屋にと戻しておく。
夜が一気に晴れるかのごとく、何ごともなかったかのようにと戻りゆく普通の部屋がここにはある。
とりあえず、アメリアたちの据わっていたテーブルのみを残し、元通りの部屋に戻ったのを確認し、
「……本気でリナって……『何者』なんだ?」
などと、ぽつりと言っているルークの姿もあったりするけど。
「あら♡あたしはあたしよ♡とりあえず。ゼロス。このジェイドの回復はあんたがやりなさいね♡」
「……はい……」
あたしの言いたいことを察し、ジェイドの肉体に残っていた魔族の痕跡を消し去るゼロス。
一瞬、ジェイドの体が崩れ灰と化すものも、
パチン♪
かるくあたしが指を鳴らすと同時、灰が集まり、それは瞬時にジェイドの姿にと戻りゆく。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「……あ、あの?今、リナさんは何を………」
それをみて、戸惑いの声を出すミリーナに、
「ミリーナさん。気にしたらダメです。大丈夫ですっ!そのうちに嫌でも慣れますからっ!」
「…アメリア。それは答えになってないぞ?」
ジェイドの姿が異形の姿から灰に、更には灰から元の人の形に戻ったのを目の当たりにし、
何やらほのぼのとした、そんなやり取りをしているミリーナ、アメリア、ゼルの三人。
そしてまた、
「…とりあえず。本体だけを斬ったが…あれでよかったのか?リナ?」
剣を鞘におさめつつ、あたしに確認してくるガウリイ。
「いいけど、時間かかりすぎよ♡」

「……だから…いったい何が……」
一人、意味が理解できず、いまだにその場に呆然と立ったままのミルガズィアのつぶやきは、
しばしあたし達のほのぼのとした会話の中に掻き消されてゆく。

「そういえば、ミルガズィアさん達は大丈夫だったんですか?」
「というより。ジェイドと引き離されて…何があったんだ?」
ジェイドが魔族もどきにと変わっていた。
ということは、【何かがあった。】ということを暗に示しているる
交互にミルガズィアにと問いかけるアメリアとゼルの言葉に対し、未だに戸惑いながらも、
「……お前たちと引き離されて。気がついたらそこのアルス殿たちとも引き離されていてな。
  私とメンフィスの二人。異空間にと招待されて魔族の歓迎をうけていた。
  人の形をしたものが数十体ほどいたが。」
そんな淡々としたミルガズィアの言葉に、
「……あんたら、よく突破できたな。」
思わず驚き聞いているルーク。
ルークとて、【人の形をしている魔族】というのもは、
普通のそこらにいる雑魚魔族より【力あるもの】だ、と理解している。
「メフィがいきなり、ゼナファの完全装甲モードで暴れ始めたのでな。
  驚いた魔族たちが統率を失ったところを各個、撃破した。
  ――その後、再び別の異空間において、そこのアルス殿を発見し、
  ……しばらくして基の空間に戻ると、シルフィール殿がいたのでな。
  話をきき、我らもこうしてやってきた…というわけだ。」
シルフィールが兵士達の手当てをしている最中、その部屋にと再び踏み入ったミルガズィアたち三人。
怪我人の手当てをシルフィールにと任せ、そしてあたし達を追いかけ、
……で、こうして追いついてきたんだけども。
そんな会話の最中、
「……う……」
元の姿に戻ったジェイドが小さく呻き目を覚ます。
そして、
「……?私……は?」
何やら混乱し、戸惑っているジェイドは呆然とつぶやきつつ、
自らの手足などを確認しつつ、その視線を周囲にとさまよわせる。
「おや?気がつかれたようですね♡リナさん、ジェイドさん。気がつかれましたよ♡」
あたし達の会話にわって入りつつ、ジェイドが気づいたことをうけて、
あたしに対し言ってきているゼロスの姿。

「――それで?時に。一体本当に何があったのだ?」
再度問いかけてくるミルガズィアに対し、
ああ。ただ単に亜魔族と化していたジェイドの中にいた【魔族】をガウリイに斬らせて。
  あと根性のなっていない二体の魔族に対してちょっとお灸を据えただけよ♡
  あいつらは、魔族としてプライドも何もあった態度じゃあなかったし。
  まったく…存在している以上、それぞれの種族に応じた『プライド』というのもは大切なのにねぇ~。」
さらり、と答えるあたしに続き、
「……まあ、やっぱりリナが関わっている。ということには気づいてなかったようだし。
  ――それはそうと、あんた、何があったんだ?」
一言のうちに済まし、そして未だに呆然と座り込んだままきょろきょろしているジェイドにと近づいていき、
ぽん、と肩にと手をおいてそんなジェイドにと問いかけているガウリイ。
「……え?あ……私…私は……」
そんなガウリイの言葉に、はっと我にとかえり、戸惑いの声を出す。
そしてまた、そんなジェイドの声にこちらもまたようやく我にと戻ったらしく、
「――ジェイド殿!!」
ジェイドの名前を叫び、ジェイドのほうにと駆け寄っているアルスの姿。
くすっ。
「まあ、ここでこのまま話し込むのも何だし♡もう一つ机だすから。きちんと座って話しましょ♡」
パチン♪
再び軽く指を鳴らすと同時。
ユニットが出していた机の横に猛一つ白い椅子とテーブルが出現する。
「……だから、一体…リナさんやミリーさんって……」
それを目の当たりにし、ぽつり、とつぶやくミリーナに、
「まあリナさん達ですし。」
「だな。」
一言のうちにと済ましているアメリアとゼル。
くすっ。
「さっ。とりあえず、座って。それから簡単なそれぞれの事情説明とでもいきましょ♡」
いって、すたすたとテーブルに近づき椅子にと座るあたしをみつつ、
「――……一体…本当にリナ殿は『何者』なのだ?」
「それは秘密です♡」
問いかけるミルガズィアの言葉を、さらり、と交わしつつ同じく椅子にと座っているゼロス。
かなり気になりはしつつも、ミルガズィアたちもまた、戸惑いながら椅子にとこしかけ、
そしてアルスとジェイドもまた、状況が飲み込めないままに、促されるようにして椅子へと腰掛ける。

「…それで?一体、アルスさん達に何があったんですか?」
とりあえず、先ほどのことは気にしない。
みなかったことにして席にとついたアルスとジェイドに問いかけるアメリア。
リナさん達に関しては、深く追求したら余計に混乱しますし……
などと心で思っているようだけど。
どういう意味かしらねぇ~♡

どう説明していいかわかりかねているジェイドに代わり、
「兵士達のいたあの部屋より、外にと出た。…はずだった我らは、扉をくぐると同時。
  気がつくと儂とジェイド殿の二人きりとなっていた。」
いって、淡々と語り始めるアルス。


「…これは……」
「皆の姿がみえませんね。」
余りの事に思わず声を上げるアルスに、前後を確認しつつぽつり、といっているジェイド。
確かに外にと出たはずなのに、二人が今いるのは廊下らしき場所。
「――…とにかく、先に進みましょう。」
「…いったい……」
後ろに行こうにもそこは、真っ暗闇の空間が広がるのみ。
しかも、何か壁のようなものに阻まれて進むことすらままならない。
だがしかし、廊下の先にぽつり、と明かりが見えている。
二人戸惑いながらも、顔を見合わせうなづき、明かりのほうにと歩いてゆく。

「「……ここは……」」
思わず二人してつぶやくのは道理。
見慣れた部屋の中。
まっすぐに伸びた絨毯に、無人の玉座が一つ。
だが、どこかが違う。
彼らにはどこがどう違うのかは、はっきりとはいえないが。
そして――その玉座の横に立っている女性が一人。
青い地に銀の縫い取りの礼服。
伸ばした髪を三つ編みにし後ろでまとめている長剣わ携えた一人の女性。
「「――シェーラ(殿)!?」」
その姿をみて二人同時に叫ぶアルスとジェイド=コードウェル。
そんな二人にと視線を向け――

「入り込んでいたのはお前たちか。アルス。ジェイド。
  お前たちは謹慎、または追放中の身でありながら、陛下にたてつく気か?」
などと二人に向かって言い放つシェーラ。
どうしてシェーラがここにいるのかはわからない。
判らないが、だがしかし、
「ほざけっ!全てはお前が陛下をたぶらかしさえしなければ!
  ちょうどいい!今ここでお前を倒し陛下をお救いするのみつ!」
いって、言うが否やすらっと剣を抜き放ち、シェーラにと突きつけるジェイド。
そんなジェイドの様子に口元に笑みを浮かべ、
「――できるのか?お前に?」
などと挑発ぎみに言い放つシェーラ。
実際に挑発しているのだけど、そのことにはまったく気づかないジェイド。
シェーラとしては、アルスはともかくとして、
『アメリアたちに関わったのはコードヴェル兄弟で、彼らの依頼者でもある。』
という経緯は把握しているがゆえに、依頼主がこれ以上、アメリアたちも関わることなく、
それゆえにあたしの耳に入ることは防げるだろう。
と思い、この二人を自らの魔力で作り上げたこの異空間にアルスとジェイドを招待したようだけど。
だ・か・らぁ。
あたしはすでに判ってるし、というかすでに関わってるんだけどねぇ。
いまだもってして気づいてないし……


「ミルガズィア殿たちと、気がついたら離れていて。
  しかもなぜかシェーラと出くわしたので、よい機会…とばかりに勝負を挑んだんです。」
少しうつむき加減にアルスに続き、ぽつり、と語るジェイドの姿がしばし見受けられていたりする。
まったく。
きちんと説明していた…というのにねぇ。
ふふ♡


              -続くー

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あとがき:
薫:う~ん・・・まだまだ10P以上あるんですよねぇ・・・
   一体…何話にこれ…なるんだろ(汗
   などとぼやきつつも、しばしジェイドたちの回想シーンにお付き合いくださいな。
   ではでは。
   2006年3月16日某日

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