エル様漫遊記・覇軍の策動偏
『――むろん。その全てだ……』
そんなミリーナの声にこたえるかのように、くぐもった声が天井から発せられてくる。
「ひいっ!?」
そして兵士のうち数人が、その声のしたほうにと目をやり、何やら悲鳴を上げているけど。
・・・・・・・・・・・・・
「…ああもうっ!仮にも魔族ともあろうものがっ!
せっかく自力で具現化してるというのにっ!その姿は何!?その姿はっ!
せめて形くらいは整えなさいっ!!」
声の主の姿を認め、指摘するそんなあたしの言葉に。
「…そういう問題か?」
なぜかじと目であたしをみつつ、突っ込みを入れてくるルーク。
天井より、ぶらん…とぶら下がっているものは、
人間の皮を剥ぎ、内部の欠陥などが浮き出ている状態の胸から上のみの状態の魔族が一体。
それでいてなぜか四本ある手は、黒い毛に覆われており、
二本ずつ人の手と、そしてなぜかカギ爪にと分かれている。
見開かれている二つの目からは、絶えず液体のようなものが流れ落ち、半ば半分ひらいている口からは、
腸に近いものがあふれだし、その口からはみ出している。
「せめて、そんな姿をとるくらいなら、まともに人間の皮を剥いだ状態の姿にするとかっ!
下半身を内臓のみにしてみる。とかという手もあるでしょうがっ!中途半端すぎよっ!」
まったく。
胸から上を人間のそれと同じにするくらいならば、もう少し考えればいいものを。
人の表面の皮を剥いだ状態で、さらには肩から生えている腕のみに毛が生えている…
そんな物質化をするなんて……
そんなあたしの至極最もな指摘に、
「……余計に見栄えが気持ち悪くなるアドバイスをすなっ!」
「…せめて、動物さんの姿であってくれたら……」
ゼルがすかさず何やらいってきて、シルフィールは何やらぶつぶつとその姿をみてつぶやいていたりする。
「……精神的にくるもんがあるな…これは。」
いってルークはため息をひとつつき、そして。
「でやっ!!」
ごうっ!
剣を抜き放ち、剣にと封じていた術の一つを有無を言わさず解き放つ。
「ゑ!!」
それと共に、その人体模型もどきの魔族が小さくつぶやき、
ルークの放った
ばしゃっ!
ルークの一撃をうけて、新たに作り出された分身の肉片もどきが天井より降り注ぎ……
…ジュッ。
かすかな音をたてて、それらがあたった壁や床が多少溶けてゆく。
「「うわぁ~~!?」」
仲間の幾人かが、体にそれをうけ肉が溶けてゆくのを直視し、
それまで固まっていた兵士達はなぜかパニックに陥り、無駄だ、というのは判りきっているであろうに。
なぜか槍やり剣を手にとり、あわててそれに対して身構えるものや、
そしてまた、迷わず側の扉をあけて逃げ出すものの姿がみてとれる。
が、剣や槍では当然天井まで届くはずもなく、また普通の物理攻撃では、人間達の力では、
一応純魔族であるそれに効果があるはずもない。
逃げ出した兵はといえば、この部屋そのものが結界に閉ざされているがゆえに、
部屋の反対側の扉から再びこの場所にと出現し、面白いまでにさらにパニックと化していたりする。
「あ♡言い忘れてたけど♡そいつが物質化している、その体液♡ちょっとした酸状態になってるから♡」
にっこりと微笑み説明するそんなあたしの言葉に。
「…お前なぁ~…何をのんきな……」
などといってくるルークに。
「リナ?私たちはどうする?参加する?する?」
わくわく。
目をきらきらと輝かせ、うれしそうにあたしにきいてくるユニット。
「あの~?僕はどうすれば……」
手を出すべきか。
それとも、傍観しておくべきか。
そんなことを思いつつ、あたしにと聞いてくるゼロス。
くすっ。
「とりあえず♡今ここにいるやつらは、下っ端ばかりがたったの四対だし。
ゼロスはその辺りにいる兵士たちの面倒でもみときなさいな。」
「判りました。」
あたしの言葉をうけ、ひとまず兵を見ているだけのゼロスだけど。
「さってと。あたしとユニットで、そのルヴィアナの相手はするから。
ガウリイやルークたちは、他のヤツラの担当ね♡」
あたしの言葉とほぼ同時。
もこっ……
人体模型もどき魔族、ルヴァイナの口元からはみ出すように出ていた内臓もどきが膨れ上がり……
ペシャ……
それは天井から床に伸びるように滴るように落ちてきて、
その内臓の塊は、ゆっくりと人の形に姿を変えてゆく。
ただし、それは形のみが人型をしている…というだけで、色などは元のどす黒い臓器もどきのまま。
「なっ!?魔族が魔族を…産んだ!?」
それを目の当たりにし、驚きの声を上げるミリーナに、
「じゃなくて。元々四体いるんだってば♡」
「あと二体いるけど……っと♪」
ベシャ!
あたしの声に続き、ユニットがにっこり微笑み、隠れていたもう二体の魔族をこの場。
即ち、精神世界面よから物質世界面にと引っ張り出す。
何かがつぶれるような音とともに、この場に出現してくる別の魔族たち。
四本の腕をもち、顔のない真っ白な人型をしているもの。
銀光のアメンボウのような姿をし、
人の背ほどの大きさで体の部分は内臓をこねくりまわしたようなもので構成されているもの。
そんな魔族が二体ほどこの場に出現……というか引っ張り出される。
「…げっ!?」
その姿をみて、なぜかうめくルークに、
「……四体。か。」
ため息とともにつぶやいているゼル。
そして。
「リナさん。あまり無茶をしないでくださいね?」
あたしに念を押してから身構えなおし、ちらっとゼルと視線をかわし、呪文を唱え始めているアメリア。
一方でパニックになっている兵士達はといえば、てんでや剣や槍。
そして弓などを繰り出して、自分達の仲間を逆に傷つけていたりする。
そんな兵士達を何とか落ち着かせようと、
「皆さん。おちついてください。」
などといいつつなだめているシルフィール。
くすっ。
「このルヴァイナは、こっちで遊…もとい、どうにかするから♡他の三体はまかせたわよ♡」
にっこりと微笑むあたしの言葉に、
「…リナ。くれぐれもオレ達にまでとぱっちりがくるやり方だけはやめてくれよ?」
「とことんの力の雨とか、光球とかもなしだぞ!?」
なぜか同時にいってくるゼルとガウリイ。
そんなあたし達の会話をききつつ、
「……なぜ我の名を……」
今更ながらにそのこと…つまり名前を名乗ってもいないのに、
あたしが名前をいっていることに対して疑問に思い、声を出してくるこのルヴァイナ。
「視ればわかるし♡」
「――まあいい。我らの目的はお前達の足止め……」
未だに、あたしはともかくゼロスにすら気づいてないし…こいつは……
いいつつも、口元をゆがませ、そしてずるり…とルヴァイナもまた床にとおりてくる。
「まったく…誰に向かって口をきいてるのかしらねぇ♡」
そんな会話をしいる最中も、ガウリイはいともあっさりと銀色魔族を切り刻み倒し終え、
そして兵士達の護衛にと回っていたりする。
ルークたちはルーク達で、四本腕の魔族と相対し、ゼルとアメリアは白い魔族と相対している。
何やらパニックになった人間達が下手に動き回り、それゆえに逆に被害を拡大していたりするけども。
この程度のことで、別にパニックにならなくてもいいでしょうにね♡
――動けない。
何なのだ?
攻撃をしかけようとするものの、本能がそれをおしとどめる。
そのことに対して戸惑っているこのルヴァイナ。
「とりあえず♡その姿はどうにかしないとね。」
バシュ!
にっこり微笑み話しかけると同時、
「「ぎゃぁ~~!?……なっ!?」」
面白いまでに叫び声をあげ、さらには戸惑いの声も同時に発しているルヴィアナの姿。
「あらあら♡たかが一部を消したくらいでそんな反応しなくても♡」
ルヴァイナの四つあった手が一瞬のうちに黒い闇にと飲み込まれ、瞬く間にときえてゆく。
「ルヴァイナさん。逃げないと完全消滅しちゃうわよ♡」
何のことはない。
ルヴァイナの本体をちょっぴり隔離して、その真後ろにちょっとした小さなブラックホールを出現させただけのこと。
それが判っているので、丁寧にルヴァイナに忠告しているユニットの姿があたしの横で見受けられていたりする。
「……がっ!?こ…これは……」
本体ごと引っ張り込まれるその感覚に戸惑い、なぜか混乱しはじめているこのルヴァイナ。
「……な……!?」
なぜ人間にこんなまねが……
何やら未だに判ってないようだけど。
そんな様子をみつつ、
「なるほど。簡易的なブラックホールですか。
…確かに、それなら近づかない限り巻き込まれることはありませんけど……」
それに気づき、何やらぽそり、とつぶやいているゼロス。
二、三名ほど小さなブラックホールの引力にひっぱられ、
ルヴァイナのほうにと飛んでいったりする兵の姿があったりするけど。
別にそれは関係ないし。
というか、どうしてこの程度でひっぱられないといけないのやら。
「……なっ!?ゼロッ…様!?」
ここに辺り、ようやくゼロスに気づき驚愕の声を上げるものの、
バシュ!
そのままルヴァイナの姿は、あっけなくも背後に出現した黒い闇に飲み込まれ本体ごと消滅してゆく。
「……根性ないわねぇ。あれくらい耐えないと……」
そんなあたしの至極もっともなつぶやきに、
「……今の力の気配はとことんだったろうが……普通無理だぞ?」
なぜか突っ込みをいれてくるガウリイ。
そしてまた、その光景を目の当たりにし、なぜか固まっている残りの兵士や魔族たち。
一瞬、ゼルたちもそれをみて唖然とするものの、すぐさま正気に戻り、
「「
「「
ルークとミリーナ。
そしてアメリアとゼルの術が同時に重なり、
光の螺旋はそのまま、なぜか固まったままの残り二体の魔族の体を包み込み、
やがてその姿そのものがその場から掻き消えてゆく。
「…弱すぎ……」
「……ねぇ~?」
ぽつりと素直な感想を漏らすあたしとユニットとは対照的に、
「……普通驚きますわよね。いくら魔族とはいえ……」
などとつぶやきつつも、怪我を負った兵の治療をしているシルフィール。
パニックになり、てんでばらばらに行動していたがゆえに、兵の半数以上は攻撃の余波などをうけ、
怪我ともいえない些細な傷を負っている。
「――…今のは……」
「つ……つよい……」
黒い何かがあの魔族の後ろに出現したと想ったら…姿を消滅させつつ…飲み込まれていったぞ?
などと思いつつ、半ば呆然とつぶやく兵士の一人に、唖然として何やらいっている別の兵士。
とりあえず、死に掛けていた存在に関しては、一応ゼロスが蘇生させているので問題はないけども。
薄皮一枚で手足などがつながり、息をしている兵士など、といった姿も垣間見える。
「おや?ルークさんたちもコツがわかってきてますねぇ。
まあ、人間相手だから…と油断するほうが悪いんですけどね。」
あっさりと倒されたそれらをみつつ、ゼロスがにこやかにいってるけど。
「まある大概コツはあるしね。」
「例えばほとんどの存在にいえるけど、短期決戦。一撃必殺、不意をつく。というのは定番だし。」
ほのぼのとしたそんなあたしやユニットの声に、
「…まあ、リナさんがいる時点でかなう人はいませんよ。…でも兵士達の傷もかなりのものですね。」
怪我をした兵士に近づきつつ、アメリアがそんなことをいってるけど。
…どういう意味かしらねぇ。
「まったく……、あの程度のことで怪我をしてどうするのよ。」
「それは仕方ないとおもいますわ。」
あたしの声にシルフィールがこたえ、
「とりあえず。どうやら部屋は元通りになってるみたいだけど。どうする?」
のんびりと、結界が解かれていることに気づいてガウリイが全員を見渡して問いかけてくる。
そんなガウリイの言葉に答えるかのように、
「――とりあえず、わたくしはここで兵士達の手当てをすませてから後からいきますわ。
リナさんたちは先にいってください。」
兵達のところで手当てをしつつ、振り向きいってくるシルフィールの姿。
「…いや、あんたたちは先にいってくれ。怪我の手当てなんぞオレ達でも何とかできる。
この城の中にどうして魔族がいて、何が起こっているのかは知らないが、
魔族相手なら何とかできるのはあんたたちだけだ。
――他人本願だというのは判っている。だが……」
いいかける兵士の言葉をさえぎり、
「いいえ。けが人をほうってはおけませんわ。それにわたくしは純魔族と戦うことには向いておりませんし。
……リナさん、わたくしはここでけが人の手当てをしてからおいかけますわ。」
きっぱりと言い切るシルフィールの声に、
「なら頼む。シルフィール。俺たちは先にいこう。
……ミルガズィアさんはともかく、ジェイドやアルス将軍のことが気になるしな。」
こくり、とうなづいていっているゼルの姿。
くすっ。
「まあ、そこまでいうんだったら。ここはシルフィールに任せて、あたし達は先に行きましょ♡」
「シルフィールさん。後はお願いしますね。」
「任せてくださいですわ。」
何やらそんなシルフィールにと声をかけているアメリアとミリーナ。
ともあれ、あたし達はシルフィールをその場に残し、先にと進むことに。
……どうでもいいけど、ジェイドもアルスも…あっさりと負けてるし……
あれだけシェーラが魔族だって、ジェイドには説明してたのに…ねぇ。
まったく……
まあ、それは今アメリアたちに言うことでもないので教えないけど。
どのみち、向こうのほうから来るし…ね♡
宮殿の裏口にとあたる北の扉の奥。
宮殿の中は静まりかえっている。
「…とりあえず、中には誰もいないみたいだぞ?」
内部の様子を気配で捉えそんなことを言ってくるガウリイに対し、
「……あんた……相変わらず人間離れしてんな……
……まあ、リナと一緒に旅をしているからかもしれんが……」
ちらり、とあたしをみつつ、そんなことを言ってくるルーク。
「うん?普通誰でもわかるだろ?」
「わからん。わからん。」
「「わかりませんって。」」
「それはお前やリナ達くらいだ。」
なぜか同時に突っ込みを入れてきているルークに、ゼロスとアメリア。
そしてゼルにいたってはため息とともにそんなことを言ってるし。
「あら。これくらい何でもないわよ。とにかく、中に入りましょ♡」
「そうですね。ですけど…どうも鍵がかかっているようですけど……」
あたしの言葉に続き、一人冷静に扉を調べて言ってくるミリーナ。
「外せばいいし♡」
トッ…ン♪
軽く扉を指で叩くと同時、内側にかかっていた鍵があっさりと外れ、
ギィ……
そのまま静かに扉が開く。
「……今、何をやったんだ?」
呆然とつぶやくルークに対し、ぽん、とその肩にと手をおいて、
「リナのすることをいちいち気にしていたらキリがないぞ?」
などといっているゼル。
「あら?誰にでも出来るようなことでおどろかないの♡」
『・・・・・・・・・・・・・・』
あたしの言葉になぜか無言と成り果てるアメリア・ミリーナ・ルーク・ゼル・ガウリイの五人に、
「まあ、リナさんですし♡」
それですましているゼロス。
「さ♡いきましょ♡」
なぜか無言となっているルークやゼルたちをそのままに、そのまま開いた扉から建物の中にと入ってゆく。
-続くー
HOME TOP BACK NEXT
####################################
あとがき:
薫:次回でようやくサーディアンたちの登場です・・でも先はまだまだ長いですね……
何はともあれ、のんびりといくのです。
それでは……
2006年3月11日某日
HOME TOP BACK NEXT