エル様漫遊記・覇軍の策動偏
「城の外からの侵入者だ。牢を使わせてもらう。」
なぜか真っ青な顔をしつつ、ごく簡単に部屋の中にいた兵士にといい、
近くの扉を開き、地下への階段を下り始めてゆくゴシール。
あたし達の姿…つまりは、あからさまに怪しい格好のメフィにすら、不審の色をも浮かべずに、
建物の中にといる兵士達はただ儀礼的な敬礼をしてきたのみ。
「…こいつら…やる気なくなってるな……」
ルークがそんな彼ら兵士の姿をみて、ぼそり、と何やらいってるけど。
しばらく階段を降りてゆくと再び一枚の扉の前にとたどり着く。
扉の前にもやはり、気の抜けている兵士が一人。
あたし達の後ろからついてきていた兵士はなぜか、顔色も悪いまま、
先ほどの部屋に入るなり、うずくまっていたりしたけど。
それはそれで関係ないし。
ゴシールと儀礼的な敬礼を交し合い、懐から鍵を取り出し扉を開く。
地下特有の空気がまとわりつく。
まっすぐに伸びている石の通路。
通路の左右には獣脂の燃える臭いを放つ燭台と、鉄の格子が並んでいる。
ほどよく負の気などが充満している通路をしばし奥にと進んでゆく。
牢の中には様々な人間達の姿が垣間見れ、ちょっとした展示場もどきとなっている。
そして……
「…なっ!?貴公は――!?」
そんなあたし達…正確にいえば、ジェイドと、そしてアメリアの姿を認めて声をかけてくる一人の人間。
声のしたほうにとジェイドは目をやり、
「――アルス将軍!?」
驚きの声を出す。
牢の中には髭づらの男が一人。
「…これが?」
「例の元凶ともいえる『アルス将軍』……か。」
ジェイドの声に、ルークとゼルの言葉が同時に重なる。
くすっ。
「それじゃ、あたし達もとりあえず、中に入りましょ♡」
戸惑うほかのもの達を見渡し、にこやかにと話しかけ、
ひとまずあたし達はアルスのいる牢の中へと入ってゆくことに。
別に、すぐに牢から出る…ということもあり、一つの牢の中にと入っているあたし達。
ちょっぴし、というかかなりそれゆえに狭いけど。
「どうしてあなたがこのようなところに?」
あからさまに警戒しつつ、問いかけるジェイドの言葉に彼――アルスは深くため息をつき、
「…どうやら、グライア殿はそちらに戻られはしなかったのだな……」
いって淡々と、
グライアと数日前、城の中で出会ったいきさつ。
そして…国王の出した命令等を語り始めてくる。
「儂は…陛下に自宅謹慎を言い渡された…だが……」
町に昼夜問わず出現し始めたデーモン。
閉ざされた城。
城の出入りが一切できなくなっているという現実。
気にならないほうがどうにかしている、というもの。
「どうしても…今一度、陛下に申しあげようと、門が閉ざされたままの城に忍び込み…
そして見つかりあっさりとつかまった。というわけなのだが……」
ジェイド以外は、アメリアを多少彼は遠めに見知っているだけで、そのほかは彼にとっては初対面だ。
というのに、一人一人のことを詮索するでもなく、淡々と説明してくるこのアルス。
「――と、すると。やはり城の中では何が起こっているかはわからん。ということか。」
腕を組み、壁に背をあずけていっているミルガズィア。
「はっきりとしたことは判っておらぬ。
…だが、儂も任を解かれたとはいえ、この城で将軍の任にあったもの。
兵士達、それにヴェルズ陛下にもそれなりの顔はきく。
捕まった儂は陛下に取り次いでもらえるように兵士に頼んだが……
上から戻ってきた返事は、『命令違反者に会う必要はなし。極刑をもって死罪にせよ。』
という返事であったらしい。
おそらく陛下の耳には入らず、あの女…シェーラが下した命令であろう。
今儂がここにいるのは、国王陛下の耳に入れば…という兵士の情けでこうして生きているわけだ。」
ため息とともにそんなことを言ってくる。
「そういえば…一つ聞きたいんだが。国の中枢にいるであろう人物で、
なおかつ、一年以内に登用されたものはいるのか?」
少し考えてアルスに問いかけるゼルの言葉に。
「そういえば。約一年前のあの一件で大騒ぎになっちゃいましたよね。ほとんどの人が消えちゃって……」
ふとあのときのことを思い出して、続けざまにいっているアメリア。
「……?よくわからんが、それならばほとんどの者がそうだ。
心労にて先のディルス=クォルト=ガイリア陛下が病没され、御子がいないがゆえに、
今のヴェルズ陛下がご即位なされた。国の中枢に権力争いはつきもの。
この国王陛下の後退劇で、それまでの大臣、宰相のほとんどは、
別の任へと払われて、新たなものにとかわっている。
…かくゆう儂も、ご幼少の頃よりヴェルズ陛下の剣術指南などをしておったおかげもあって、
というのがあるのだがな。」
いって苦笑するアルス。
「そ~いえば、あのときガーヴ様がここを拠点にして、
人間達を盾にして北の魔王様に戦いを挑もうとしてましたもんねぇ。
いやはや、水竜王さんの術で人間の心が混じったからといって、思い切ったことをしてましたもんねぇ。」
「ま、この国であのとき。実質指揮を取っていたのは、
「でもあのときの
当の
そういえば、アメリアたちにはあの赤ん坊がガーヴ本人だって…説明してないしねぇ。
ふふ♡
そんなゼロスやあたし、そしてアメリアの会話をききつつ、
「……あんたら…どういう経験してきてるんだ?」
「聞かんでくれ……」
ゼルにと問いかけているルークに、ため息とともに、そんなルークに答えているゼル。
そして気を取り直しつつも、
「では。国王交代以降。その時には城にすらいなかったが、今は要職についているものがいるか?」
「?何がいいたいんですの?」
ゼルの意図を判りかねて、質問しているメフィ。
「つまり。だ。この城の中に入り込んでいるヤツはシェーラとかいう女将軍以外にもいるかもしれんだろう?
というか、リナの言っていたことを軸とすれば、ほとんどのものがすり替わっていてもおかしくはない。
おそらくヤツの目的は、魔王の欠片の復活。
北の魔王。レイ=マグナス=シャブラニグドゥがその力の一部のみを氷の封印より抜け出して、
欠片を探していることからしても間違いないだろう。」
さらり、とメフィの疑問に淡々と答えているゼルだけど。
「……いや、話がまったく見えないのだが……魔王とか…それに……」
そこまでいって言葉を区切るアルス。
「あ。それでしたら。もしかしたら…サーディアン交易大臣や宮廷魔道士のファリアール殿、といった人たちがいます。
サーディアン様はヴェルズ陛下の母君の血筋に当たられるかたで、
ファリアール殿は魔道士協会からの推薦。と聞き及んでおります。
どちらもあの女…シェーラより前に入った人たちですが。」
そんなアルスに変わり答えているジェイド。
…というか、その時点で気づいていれば、【ここ】もこんなにならなかったのにねぇ。
あの二人はいわば、偵察として先にもぐりこんでいたんだし。
「…なるほど。な。――ゼロス。これだけは確認しておくが……。お前は本当に見てるだけなんだな?」
「いやですねぇ♡いくら僕だってリナさんに逆らうようなまねはしませんよ♡
そんなことしたら一瞬のうちに消滅させられちゃいますよ♡」
「あら?ゼロス。そうしてほしいのかしら♡」
「……謹んでご遠慮させていただきたく存じます……」
そんなあたし達の会話をききつつ、
「なるほど。兄弟な力で巧みに隠されてはいるが。魔の気配は確かに建物の中より感じられるしな。
今までのことからしても、覇王将軍以外にも入り込んでいても不思議はないな。」
「未だにグラウシェラーさんは、私やリナがいることに気づいてないようですし。
ひっかきまわ…ではなく、こらしめるのにはちょうどいいと思いますけど。」
ミルガズィアのつぶやきに続いて、にこやかに言っているユニット。
「いやあの……その、貴殿達は一体何を……」
どうして先ほどから、魔王だの腹心の一人といわれている覇王だの、といった言葉が出ているのだ?
そんなことを心で思いつつ、アルスがあたし達にと疑問符を浮かべつつ問いかけてくるけど。
くすっ。
「だ・か・ら♡この国に入り込んでいる覇王一派をからかいがてらによってみたのよ♡アルス♡」
「覇王グラウシェラーさんもきっと話せば、正義の心に目覚めてくれるはずですっ!」
あたしの言葉と、アメリアの声が重なり、
「……あの?」
一人理解していないアルスが戸惑いながら聞いてくる。
「ですから♡アルスさん。
シェーラさんを含むグラウシェラーさんの一派がここで何か楽しそうなことをしているので、
暇つぶしをかねて、私やリナはやってきてるんですってば。
あのシェーラさんは、あれでも一応グラウシェラーさんの直属の部下ですし♡」
「……あのぉ?さらりと、今、何か『暇つぶし』とかいいませんでした?」
メフィのつぶやきはひとまず無視。
「……ま、話しても普通は信じないだろう。」
一人どこか遠くをみて言っているルークに、
「私たちはリナさんと知り合って『何が事実か』というのが判ってますしね……」
そんなルークのつぶやきに、なぜかしみじみといっているミリーナ。
「まあ、ついてくれば判るわよ♡アルスだってヴェルズを保護したいんだろうし。」
「……今の貴殿らのやりとのの意味はわからんが……
もとより、私もまた、陛下をお守りするのが役目。」
未だに理解せずにそんなことをいってくるアルスだけど。
「で?結局どうすんだ?リナ?」
のほほんと、あたしを見つつその場の雰囲気を捉えずに、あたしに聞いてくるガウリイに対し、
「あら。決まってるじゃない♡ここから出て、謁見の間にいくのよ♡」
パチン♪
ドシャ……
にっこり微笑み指を鳴らすと共に、全ての牢の鉄格子が音と共に砂と化し、そのまま石の上にと崩れ落ちる。
「さ。行きましょ♡」
『・・・・・・・・・・・・』
それをみて、なぜか無言となっているアルスとジェイド。
「……ま、リナさんですしねぇ~……」
「…だな。気にしだしたらきりがない。」
それで済ましているアメリアとゼル。
「……いやあの……」
未だに意味がわからずに戸惑うアルスに対し、
「さ。アルスさん、行きましょう。まさか自らは何もしない。なんていうわけありませんよね?
仮にも将軍職についていた人が、それこそ国や民に対して顔向けできませんよね?」
にっこりと的をついて、そんなアルスにと語りかけるアメリアの言葉に、
「アルス将軍。あなたが本当に心から悔いているのであれば。陛下を助け出すのに協力してほしい。」
そんなことを言うジェイドの声とが重なる。
「足手まといだと思いますけど。」
そんな会話をききつつも、さらっといったメフィの言葉に顔をしかめ、
「この儂とて将軍職の任にあったもの。他国の姫や他人に任せ、自らが何もしない。というわけにはいかん!」
などといって立ち上がってくる。
「……まあ、役にはたたんと思うが……」
「ルーク。本当のことをいわなくても。それに一応将軍なのですから。」
そんなアルスに対して、これまたさらり、と言っているルークとミリーナ。
確かに役には立たないわよねぇ。
「そんなことより。いくんだろ?」
一人のほほんといいつつも、牢から出ているガウリイ。
とりあえず、何が起こったのかわからずと惑っている他の捕らわれている人々をそのままに、
あたし達はひとまず、この地下牢から外にとでることに。
カチャリ。
石の階段を上りきり、最後の扉を開くのみ、というとき手をかけるまでもなく最後の扉が開かれる。
「ずいぶん早いな。もういいのか?こちらの話はつけておいた。…アルス殿もご一緒でしたか。」
などと扉の向こうより声をかけてくるのは、先ほどのゴシール。
「話をつけた…って…いいんですの?そこまでして……」
そんな彼にと戸惑い問いかけるシルフィールの声に苦笑しつつ、
「私はそこのリナ殿や、アメリア姫様を一年前に見ていることもあるのでな。
約一年前。この城といわずこの国全体に大量の魔族が入り込んでいた。
それらを解決してくださったのは、ほかならぬリナ殿たち。
一介の城の兵士、という道具でしかない私たちには何かを変える力はなくなっているのかもしれん。
しかし…リナ殿たちならば、この状況をかえてくれる。そう信じているのでな。」
などといってくる。
あのとき、このゴシールも、一介の兵として駆け回ってたわねぇ。
そういえば。
そんなゴシールの言葉をきき、
「違うな。」
「違う?」
淡々というルガズィアに首をかしげといかける。
「『何かを変える力はなくなってしまったかもしれん。』人間よ。お前は今そういった。
だが、それは違うぞ。現にお前は何かを変えるため。
現在よりも未来をよりよいものにしたいと願い、我らに力を貸してくれた。
それこそが、お前たちの中にいきとし生けるものとしての未来を紡ぐ力がある。
単なる道具に成り果てていない。ということの証明だ。」
ミルガズィアの言葉に、ゴシールはしばし沈黙し、
「…そういわれるとまんざらでもないな。礼を言わせてもらうよ。
……さ、ともかく。こんなところで話し込んでいても仕方がありません。気をつけていってください。」
ゴシールの言葉にうなづき、あたし達は示された扉を潜り抜ける。
そしてそのまま扉をくぐり、道をすすんでゆくことしばし。
やがてちょっとした部屋の中に再びたどり着く。
部屋の中には十八名ほどの兵士の姿がみてとれる。
「話はききました。がんばってください!」
「アルス将軍。自らの過ちの始末、お願いしましたよ。」
「あの女をど~んと懲らしめてやってくれっ!」
などと口々にあたし達にといってくる兵士達。
そんな彼らのいる部屋から外に出るべく、それぞれ一歩足を踏み出し……
「…え?」
思わず小さく声をあげ、足を止めているアメリア・ゼル・ルーク・ミリーナ・シルフィールの五人。
そして目を丸くしている十八名の兵士達。
「おやおや♡」
「本当に気づいてないのねぇ~♡」
「あ♡ジェイドさんとアルスさんは、ミルガズィアさんたちとは別なところに取り込まれちゃってる♡」
そしてまた、にこやかにそんな会話をしているゼロス・あたし、ユニットの三人。
「…おいおい。つ~か、またか?」
それが何を意味するのか気づき、うんざりしたルークの声に。
「どうやら、あちらも行動を開始…というところだろう。」
「大丈夫です!たとえ魔族が空間を歪め、こうして結界の中に私たちを取り込んで攻撃をしかけてこようとも!
正義は常に私たちに味方してくれますっ!」
ゼルに続き、アメリアがそんなことをいってるし。
「……あ。本当。ミルガズィアさんとメフィさん。それにアルスさんとジェイドさんがいませんわ。」
「となると…魔族の狙いは、ミルガズィアさんたち…、もしくはジェイドさん…あるいは私たち全員……」
ふと、ユニットの声に、ミルガズィアたち四人がいないのに気づきつぶやいているシルフィールに、
一人冷静に状況分析をしているミリーナ。
彼らの発した【魔族】という言葉に、兵士達のざわめきが面白いことに大きくなる。
根性ないわねぇ……
-続くー
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あとがき:
薫:打ち込みしてたら、いつのまにやら長くなり・・・キリのいい場所がなかったので。
とりあえず、魔族さんの登場シーン前で区切って見たり……
次回。一応純魔族(?)との戦闘(?)です。
魔族もだけど…免疫ない兵士達が一番もしかして・・・あわれ?(笑
何はともあれ、ではまた次回で。
2006年3月9日某日
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