エル様漫遊記・覇軍の策動偏
「……な、何だ?ありゃぁ……」
それをみて顔色を変えてつぶやく男に。
「…またか。」
「またですわね。」
その姿をみてしみじみといっているミルガズィアとメフィ。
そしてまた。
「頼むからメフィ。あんたはゼナファアーマーを解放するなよ?!」
メフィならここで発動させかねない。
とゼルは今までの付き合い上理解している。
それゆえに、いち早くメフィに対して釘をさしているけど。
ま、メフィなら確かに、宿の中だろうが食堂の中だろうが、おかまいなしに発動させるわね♡
「…魔族ですよね。」
それをみて戸惑いつつも、あたしに聞いてきているシルフィール。
そんなシルフィールに対し、
「下っ端もいいとこだけどね。」
とりあえず答えておくあたし。
シィィン……
なぜかその姿を目にし、静まり返るこの場にいる人間達。
昼間からアルコールを摂取していた人々も、【それ】に気づき、
面白いまでに全員がその一点をみて固まっていたりする。
天井の一角に浮かんでいるのは、黒っぽいタコもどき。
大きさとすれば、人間の大人とさして代わり映えはしないが、
厚みがない三角形の半透明の体の向こうには、天井がしっかりと透けて見えている。
そしてその三角形の中心に、見開かれた目がこれだけまともに具現化して浮いていたりする。
「手も足もないし。まあまあ楽しいデザインよね。」
「正月のタコ遊びみたい♡」
「あ。それ的確♡」
「…何なのだ?その正月…だの、タコ遊び…だの?」
ほのぼのとしたユニットとあたしの言葉に、首をかしげ問いかけてきているミルガズィア。
「「ないしょ♡」」
まあ、ここって正月の風習もタコのようなおもちゃもないし。
まああれらも、ある惑星上の一部の風習だけど。
それは、あたし達の方にぎゃろり、と目玉もどきを向け、
「シェーラ様から話は聞いている。アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。そしてゼルガディス=グレイワーズ。
かの折、リナ=インバースという人間とガウリイ=ガブリエフという人間と共に、
そしてまた、異界の魔王。ダークスター殿の一件にもかかわり、
…お前たちは『殺すな』といわれてはいるが…目的を達成するまで多少静かにしていてもらおうか。」
などといってくるけど。
「……気づいてないのか?こいつ?」
「…何で私たちだけなんでしょう?」
自分達が名指しされたのに、あたしとガウリイ。
そしてゼロスについては触れてこないそれの言葉に、思わず顔を見合わせているゼルとアメリア。
「…多分、リナさんが気づかれないようにしてるんじゃないですか?僕にすら気づいてませんし……」
ため息をつきつつ、浮かぶタコもどきを見てそんな二人にいっているゼロス。
「――今、目的。といったな。お前たちは何をたくらんでいる?」
タコもどき魔族に向かい、淡々と語りかけているミルガズィア。
他の客たちは未だに動くことすら出来なくなっているまま。
…結界も張らずにこいつ出てきてるからねぇ。
「答える必要はない。いくら
無関係な人間を巻き込むことになるからな。」
「……くっ!」
確かに…下手に攻撃をしかければ人間達を巻き込むことになってしまう。
そんなことを思いつつ小さく呻くミルガズィア。
「だが……」
ざしゅっ!
鈍い音と共に、何かが貫かれる音。
あざけるように言うと同時、タコもどきの体から十本のこれまた姿が透けている触手が出現し、
食堂の中にいた二・三名の人間達の体を貫いてゆく。
しばし一瞬の静寂の後、
「「うわぁ~!!」」
「「きゃぁ~!!」」
面白いまでに混乱と化してゆく他の人々。
この場から逃げ出そうとして皆一斉に出入り口にとむかってゆき、机や椅子が人の波に押し倒される。
「――卑怯な!」
それをみて声をあげるアメリアに、人々の動きの波に巻き込まれないように、
タンっ!とカウンターのテーブルの上に上っているゼルとルーク。
そしてまた、互いに顔を見合わせて、術を唱え始めているミリーナとシルフィール。
「あなたには正義の心というものがないんですか!?
北の魔王と呼ばれているレイさんですら正義の心をもっていたのにっ!」
「――あれはただ単にリナ達が怖いから…だとおもうぞ?」
ぴしっと人並みの中でももまれることなく、立ち尽くし指を突きつけて何やら言い放っているアメリアに、
そんなアメリアにとぽそり、と突っ込みをいれているガウリイ。
「レイさんも人助けをしていたのに。あなたは何ですかっ!
関係ない人を巻き込んで!それでいいとおもっているんですか!?」
「――ちょっとまてっ!…そこでどうして『北の魔王様』のお名前がでてくるっ!?」
「レイさんは今、ルナさんと共に異世界の人々を助けるために頑張っているからですっ!」
きっぱりはっきりアメリアが言い切るのをうけ、
「――それは……」
どういう…
とタコもどき、…ちなみにこれの名前はどうでもいいけどエッゲィといったりする。
ともあれ、そのタコもどきのエッゲィがそういいかけると同時。
ルークとゼル。
そしてミリーナとシルフィールが唱えていた呪文がものの見事に同時に完成する。
…アメリアに気をとられて、四人が呪文を唱えていたのにも気づいてないし…こいつは……
『
『
ゼルとシルフィール。
そしてルークとミリーナ。
それぞれ二人づつ同時に放った二つの呪文がそのままタコもどきのそれにと直撃し――
「ぎゃっ!?」
…短い悲鳴を残し、いともあっさりと滅びさる。
「・・・・・・・・・・」
「ああもうっ!仮にも魔族が情けない!」
あっさりと魔族が滅んだのを目の当たりにし、またまた静まり返る人々。
そしてまた、思わず叫んでしまうあたしに対し、
「……えっと……、と、とりあえずひとまず悪は滅び去りました!」
「――お前は何もしとらんだろ~が……」
Vサインを出すアメリアに、ぽそり、とカウンターから降りて突っ込みをいれているゼル。
「くすっ。とりあえず怪我人の手当てをしときましょ♡」
先ほどうすっぺらな触手もどきに体を貫かれ、痛みを訴え、
また完全に気を失い倒れている人々の報にとくすり、と微笑みつつ近づいていっているユニット。
「……何かミモふたもなくありません?」
自分が何をするまでもなく、あっさりとタコもどきが消えたのをみて、つぶやくメフィに、
「それはともかくとして。あの魔族。リナ殿やゼロスの姿が見えていなかったようだが……」
…特定のモノに対し、気配や姿を隠すことは出来ないことはないが……
そんなことを思いつつ、うなるようにいっているミルガズィア。
「ともかく。けが人の手当てが先じゃあありませんか?」
淡々としたミリーナの声に、顔を見合わせているミルガズィアとメフィ。
怪我、といってもそれほど酷くはない。
よけるのが下手だったというか、動かなかったというか。
肩を貫かれ、ぽっかりと穴が開き血まみれになっているもの。
わき腹を貫かれ、その傷口から内臓が多少みえているもの。
そしてまた、パニックになった人々に踏まれたり、圧されたりして五体にアザや打ち身。
そして流血を伴っている存在など。
未だにざわめくその場…といっても、ほとんどの者が帰路につき、残っているのはあたし達と数名くらい。
「さってと。とりあえずこれからどうする?」
倒れたテーブルや椅子を指を一つならして元通りにし、テーブルの椅子に腰掛けミルガズィアやゼル。
そしてジェイドやマイアスに視線を向けて問いかける。
「…お前は本当にどうじねぇな。」
「……まあ、リナさんですし。」
さっきの今。
というのにそんなことを思いつついってくるルークに、一言で済ましているミリーナ。
「でもどうやら、ゴキブリがいっていたように魔族が何かをたくらんでいる。というのは判りましたわね。」
「ひどっ!メフィさん、ごきぶりって……」
「何だかんだといってもゼロスさん。自分のことだと認識してますよね。」
「なれだろ。」
席につきつつ、ちらりとゼロスをみて言うメフィに、ゼロスが抗議の声をあげ。
そんな二人のやり取りをみて同じく椅子に座っているアメリアとゼル。
「…あ、あのぉ?ここで話すんですか?」
戸惑いながら聞いてくるジェイド。
「……みなさん、どうしてそう平然としていられるんですか!?」
そしてまた、一人、なぜか未だにパニックとなっているマイアス。
「気にしてたらリナについていけないぞ~?こんなの序の口だぞ?」
そんな二人に、にこやかに話しかけているガウリイ。
「どこででも話すようなことではないと思うのですが……」
そんなシルフィールのつぶやきに、
「大丈夫ですよ。シルフィールさん。誰もそれどころじゃないですから♡」
あからさまに、『魔』としか言いようのない物体を目撃し、
さらにはそれによって同じ屋根の下で飲んでいた仲間が傷を負い……
たかがこれしきのことで、未だにこの場に残っている数名の人間達もまた未だに混乱していたりする。
「どこで話しても同じだってば♡」
ユニットとあたしの言葉に、
「確かに……、聞いちゃいないだろうしな。この状況で他人の話など。」
周囲をみてそんなことをいっているルーク。
「しかし、この前の宿のときも思いましたが。どうして人間の集まるところは温かみがないわね。
壁や床が漆喰でぬり固められてたり。外と空気がつながっているのは窓や扉だけだし。
何より木の一本も生えていないっていうのが欠点ですわね。」
「何やら生やしましょうか♡」
「やめとけ!というか、お前なら本気で出来かねんからな。」
メフィのぼやきに答えるあたしの言葉に、すかさずゼルが突っ込みを入れてくる。
「リナさんなら出来そうですわね。
まあ、メフィさんの文句はあとで好きなだけゼロスさんにでも向かっていってもらうとして。
これからどうするのですの?」
さらり、と同意してそんなことをいっているシルフィール。
「……シルフィールさんまで……しくしく……」
何やらいじけているゼロスはほうっておくとして。
「どうする。っても、やっぱり城に忍びこんで調べるってのが一番手っ取り早いんじゃねえか?
ちょいと乱暴なやり方かもしれねぇけどよ。」
ルークの言葉にミルガズィアもうなづき、
「確かに先ほどの人間の男の口ぶりから察するに。
これ以上聞き込みを続けたところで有益な情報が手に入る可能性は低いだろう。
それにまた、別の魔族が出てきて他の人間を巻き込む恐れもある。
あの魔族の口ぶりだと…どうも『アメリア殿とゼルガディス殿は殺すな。』と命令をうけていたようだが。
おそらく、リナ殿がそれで関わってくるのを防ぐ気でいたのだろう。
……向こうはリナ殿やガウリイ殿。そしてパシリ魔族には気づいていなかったようだしな。
今まで出てきた魔族の反応からしても間違いないであろう。」
腕を組み、淡々とそんなことをいっているミルガズィア。
「それではどうします?今からもぐりこみますか?」
そんなシルフィールの問いに、
「でも今から…って。
ジェイドさんは当事者で今までリナさんと一緒だったのもあり、免疫少しはついたでしょうけど。
このマイアスさん…多分、というかまちがいなくついてこれませんよ?」
「まあ…アメリアの言うとおりだな。
俺やアメリアは嫌というほど高位魔族にリナ絡みであっているせいか、少々では驚かんが……」
「わたくしも。レイナードにて、獣王や海王といった存在に出会っていますから少しは……
……未だになれませんけど。」
少々顔色も悪くうつむき話すシルフィール。
「…そういえば、我らもなれたのかもしれん……」
「ですわね。何しろあのレイ=マグナス殿がカタートで氷付けになっているという『北の魔王』と知ったり…
挙句は、私たちまで異世界に飛ばされたり……以前ほど驚かなくなってきているのも事実ですわね。」
しみじみとそんなことをいっているミルガズィアとメフィ。
「まあ、リナはいきなりどっかの世界の魔王とか呼び出してこき使ってるからなぁ~…よく。」
「「……『よく』って……」」
あっさりというガウリイの言葉に、なぜか絶句状態となっているジェイドとマイアス。
「あら?ガウリイさん。所詮魔王といえどもただの中間管理職の使いっぱしりなんですよ♡
それに役目をもってても彼らって弱いですし♡」
「確かに弱いわよねぇ。
たかがちょっと気合を入れるのに、スコップやハンマーで突き刺したり叩くだけで動かなくなるし。
中にはあっさり死んだり滅んだり、消滅しかけるやつまでいるしねぇ~。
何の為の『魔王』や『竜神』という職につけているんだか。」
『―――・・・・・・・・・・』
「その基準はリナとユニットちゃんにしか通じないとおもうぞ?間違いなく。で、結局どうするんだ?」
なぜか黙り込む一同とは打って変わり、じと目であたし達をみていいつつも、
この後どうするのかを聞いているガウリイ。
「そこのジェイドという人間は止めてもついてくるでしょうから仕方ないとしても。
このマイアスという人間は足手まといの何物でもないとおもいますわ。
あんな低級魔族に対して何も出来ませんでしたし。」
まあこのマイアスはただただうろたえているばかりだったしね。
「――それは……」
「…もう少しもののいいようってものがあるだろうに……」
メフィの言葉に、マイアスをみやり、ぽつり、と漏らしているアメリアとルーク。
「ともかく。何だな。あんたは町に残って他のやつらと共に人々の保護をしたほうがいいだろう。
さっきのやつの姿をみて外に出て行ったやつらが、
不安をさらに煽るようなことを言いふらしでもしたら、この街は大混乱だ。」
毎日つづくデーモンの襲撃。
しかも建物の中にまで出てきた…と人々が知れば、人々の不安や恐怖は限界を超え、
不安に駆られた人々は暴動などを起こしかねない。
言外にこのことを含ませ、マイアスにといっているゼル。
「…そう…ですね。私は私の。皆さんには皆さんの役目がある。ということですね。」
そんなゼルの言葉をうけてうつむき、多少震える声で答えてくるマイアス。
今回の一件に魔族が関わっているならば、術も使えない自分は足手まといでしかない。
痛烈にそのことを思いながら、そして、
「……私が皆さんがご無事に戻ってこられるのをこの街で祈っております。
そして不安にかられている人々のためにも出来ることをしつつ……お待ちしております。」
戦力となれないのならば、国民を守るのが騎士たる…そして国に勤める兵の役目。
心でそう思いつつ、あたし達にといってくるこのマイアス。
「とりあえず。それじゃ、ざっと城を空から偵察した後、城内に侵入。それでいいわね。」
そんなあたしの言葉に、一同こっくりとうなづいてくる。
さってと。
グラウシェラーのやつをからかいにいきますか…ね♡
-続くー
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あとがき:
薫:ようやく城に突入ですね。
L:あたしの活躍は!?
薫:……エル様が活躍したらあっさりと……
L:何かいった!?
薫:・・・何でもないです(汗
……とりあえず、もう少し先になると思います。
L:とっとと打ち込みしなさいね!
あと、あたしの活躍を他でもふやしなさいっ!
薫:…努力します……
L:よろしい。それじゃ、とっとと打ち込みするように♡
薫:……はい(汗
L:さってと。薫が納得したところで、それでは、まったね♡
薫:ではでは……
2006年3月5日某日
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