エル様漫遊記・覇軍の策動偏
街は静か過ぎるほどに静まり返っている。
「これはこれは♡」
すばらしいまでに恐怖や不安…といった負の気が充満してますねぇ♡
そんなことを思いつつ、にこやかに言っているゼロス。
あたし達が先日、この街に立ち寄ってから数日もたっていない。
「この前見たときには道の端々に露天が並んでいたのに……」
街の光景を垣間見て、ぽそりと言っているミリーナに。
「子供たちの姿も見えませんよ?」
きょろきょろと周囲を見渡していっているアメリア。
「…というか、外にあった大量のあのどす黒い染みは……」
「血でしょ♡」
なぜか門の外においていくつものちょっとした染みを大地に認め、顔色の悪いシルフィール。
通りを歩む人々の姿もまだらとなっており、皆急いで家路にとついている。
ディルス王国首都、ガイリア・シティ。
マイアスと合流し、翌日の昼時首都にとたどり着いているあたし達。
「先日きたときにいた兵士の姿もないな。」
外壁の門にいた兵士の姿すらぱったりと姿を見せていない。
そんな様子を確認してつぶやいているゼルに、
「こりゃあよっぽど命令系統こわれてんなぁ~……」
状況をざっと確認し、そんなことをいっているルーク。
「とりあえず。皆さん。私の家にいらしてください。そこで話でも……」
そういいかけるジェイドの声をさえぎり、
「あ…あの、ジェイド様……」
申し訳なさそうに、そんなジェイドに話しかけているマイアス。
そして、口ごもりつつも、
「……その……コードヴェル家のお屋敷は…その…取り壊されて……
……瓦礫が残っているだけとなっております……」
『なっ!?』
マイアスの言葉に面白いまでに驚いているジェイド。
…そういや説明、このジェイドは受けてなかったわよね。
あたしも話してないし。
「――そんな!?」
認めたくないがゆえに、ジェイドは何やら叫んでいるけど。
「ここでどうこういうよりも、とりあえず確認のために家にいってみる。というほうがよくないか?」
家まで壊されているとは穏やかじゃないな。
などと内心思いつつも、そんなジェイドにと話しかけているゼル。
「そ…そうですね。…こちらです。」
ゼルの言葉をうけ、多少動揺しつつも、ふらっとした足取りでジェイドは街の中枢。
つまりは城の近くにあるはずのコードヴェルの屋敷にと足を向けてゆく。
「……本当にないな……」
「ご丁寧に屋敷まで壊してるなんて……」
呆然と一点を見ていっているルークに、そしてまた信じられない、と思いつつつぶやいているミリーナ。
「これは見事なまでの瓦礫置き場ですねぇ♡」
「ゼロスさん。その言い方はないと思います。」
目の前の光景。
つまりは元コードヴェルの屋敷があった跡地には、壊れた瓦礫の山があるのみ。
気持ち程度、屋敷の土台らしきものも残っているけども。
「でも庭木とかはそのままね。」
「どうせなら完全に更地にすればいいのに。」
至極最もな意見を交わす、あたしとユニットとは対照的に、
「…とりあえず、先に情報収集といきませんこと?」
「ミリーナの言うとおりだな。」
ここでじっとしていても仕方がない。
そう的確に判断し、何やらいっくてるミリーナに、そんなミリーナにすぐさま同意しているルーク。
「この辺りで人の話が聞けそうな所ってありますか?」
そんなミリーナの言葉をうけ、マイアスとジェイドにと問いかけているアメリア。
アメリアの言葉にしばし考え込み、そして。
「…確か、よく兵士達が利用する酒場兼食堂が……」
何やらいってくるジェイド。
そんなジェイドの言葉に。
「なら決まりですわね。いきましょう。」
一人仕切っているメフィ。
「ま。たしかに。話は聞いたほうがいいわね。」
あたしの言葉をうけ、全員が顔を見合わせ、そしてこくり、とうなづき。
ひとまず、他の人間の話をも聞くべく兵士達が利用する、という食堂へと足をむけてゆくことに。
「……知らねぇよ。何が起こっているか。なんてよ。」
アルコール度百のウォッカを一気にコップ一杯分飲み干して、吐き捨てるようにいってくる男。
街の一角にある酒場兼食堂。
一般向けの店でもあるので、内装などもいたって代わりばえもなく。
そしてまた、まだ陽も高い時間帯だというのに、店の中には様々な人間がたむろしていたりする。
「…どうでもいいが、ずいぶんとガラの悪い奴等が多いな。」
周りを見渡しぼそり、とつぶやくゼルに。
「というか皆さん昼間からお酒をのんでますけど?」
この場にいる客のほぼ全てがウィスキーやアルコール度の強いお酒を飲んでいるのに気づき、
アメリアが何やら指摘しているけど。
マイアスが声をかけたのもまた、そんな中の一人。
一応兵士の格好はしているものの、
アルコール度の摂取により、にごった目と、まだらに伸びた無精ひげとが、
その辺りにどこでも転がっていそうな『ごろつきその一』に仕立てあがっていたりする。
「わけがわかんねぇからこうやって昼間から飲んでるんだよ。
呑まなきゃやってられるかってのっ!そんなこともわかんねぇのか!?あん?マイアスさんよぉ~」
次のウォッカをコップに継ぎ足し、そんなことを言ってくる。
年頃の若い女性が幾人もあたしを含めている…というのに絡んでくる人間すらいない。
彼らにとって、今は『女』よりも、『現実逃避』のほうが何よりも重要視されているからに他ならないけど。
「も…もちろん。知っているだけのことでいいですから。
ここ数日、私事情があって街を留守にしていて……
それゆえにこの数日間に何があったのかは知らないんですよ。」
「ほほぉう。留守にしてた。ねぇ~……五体満足こうしてまた戻ってきたわけだ。
行きも帰りもそれはまた運のよかったことで。
街に残っていたオレ達の苦労、どんな思いをしたのかお前にわかるか?ん?おまえにわかるのか?」
据わった目をしてマイアスに詰め寄っているけど。
「ああもうっ!うっとうしいわよっ!」
どごっ!
とりあえずぐだぐだという男の上に、二階の廊下においてあった石像もどきを落としておく。
「げふっ!?」
何か小さく呻いて動かなくなっている男に向かい、
「まったく。黙って聞いていればくだくだと。昼間からいじけてお酒をのんで現実逃避をしておいて。
『オレの苦労』も何もないでしょうが。それに説明もなしでそんなこといわないのっ!」
「……お~い、生きてるかぁ?」
「……リナ、やりすぎだと思うぞ……」
びくりとも動かない男をつんつんとつついて呼びかけているガウリイに、
じと汗流してあたしに言ってきているゼル。
「あら?でも何か偶然落ちてきたこの石像もどきって、木製ですし♡そんなに重くないですよ?」
そんなゼルに向かってにこやかに言っているユニット。
「…大丈夫ですか?」
像の下から男をひっぱりだして、
「…うって…今のは何だ?」
アメリアたちの術により回復し、気づくと同時に何やらあたしに対していってくるけど。
「あら?ぐだぐだと文句をいっていたからきっと天罰が下ったのよ♡」
「何が天罰だ!何がっ!」
何やらつっかかってくるし。
「あ。ミルガズィアさん♡何か空気がぎすぎすしているので、
ちょっと場を和ませるのに冗談の一つでもいってみませんか?」
「「――げっ!?」」
「「――んなっ!?」」
「「「―――え゛!?」」」
にっこりとミルガズィアにと話しかけるユニットの言葉に面白いまでに固まっているゼルとルーク。
そしてゼロス、シルフィール、アメリアにミリーナ。
ジェイドとマイアスは意味がわかっていないらしく首をかしげ、
冗談くらいでこの空気が変わるのか?
などと思っていたりする。
「……?何なのだ?いきなり?…まあ、かまいはせんが……」
「えっと…魔王様特製の耳栓、耳栓…と……」
「魔力強化した耳栓をしなきゃですっ!」
「…なんつ~恐ろしいことを…ミリーちゃんは……」
「…ルーク。それより早くしないと。精神崩壊しかねませんわよ?」
ゼロスはいそいそとS特製の耳栓を取り出し、
アメリアもまた念のために魔力強化して作っていた耳栓をセットして、
そしてルークとミリーナにいたっても『それ』が何を意味するのかわかっているがゆえに、あわてて耳栓をし。
さらには耳を両手でふさぎ小さくその場にうずくまる。
「――どういう意味かな?人間達よ?ともかく…とりあえず。
しばらく前、私がメフィと共に旅をしていたとき―――」
ユニットの言葉をうけ、ゼロスたちの様子を横目でみつつ、淡々と『その話』を始めるミルガズィア。
しぃぃん……
ぴくぴく…
バッタ~ン……
静かな食堂の中、人々が痙攣を起こしている音や、気絶しそのまま椅子から倒れているもの。
ガッシャァン…
バタッ!
手にしていたコップを落とし、そのままコップと共に床に倒れる者など人それぞれ。
そんな光景がその場において見受けられていたりするけど。
ドラゴン族の冗談って…精神面にダメージ与えられるからねぇ。
寒い、というより凍りつく…というのすら通り越してるし。
「…どういう意味かな?人間達よ?」
マイアスとジェイドはまともに耳にして床に倒れ泡を吹いて気絶してるけど。
「ふぅ。どうにか助かったか。」
「竜族のギャグって魔王様クラスにも大ダメージ与えられますからねぇ~……」
「…そういえば、ミルガズィアさんの冗談って…精神攻撃がかなり有効でしたね。」
「純魔族くらいすんなりと倒せられるしな。」
各自耳栓を外しつつ、そんなことをいっているルーク・ゼロス・アメリア・ゼルたち。
一方、一人でぴくぴくと体を震わせお腹を抱えてうづくまっているメフィといえば、
「さ…最高ですわ!叔父様!今のギャグ……」
などといって一人でうけて、お腹を抱え笑いをこらえていたりする。
「…ねぇ?リナ?」
「…いわないで。ユニット……」
ユニットが言いたいことはわかっている。
確かにあたしも面白そうだから、というのでやったはいいものの。
ちょっと失敗したかも…と思えなくもないんだし。
まあ、はたからみている分には面白いので問題ないけど。
ひとまず気絶し倒れている男を抱き起こし、気付けをしているゼル。
「…うっ……」
ゼルの気付けをうけて目を覚まし、
「…済まん。オレが悪かった……何でも話すから勘弁してくれ……」
なぜか怯えつつもいってくる。
未だにマイアスやジェイド、そして他の客にいたっては気絶しているままだけど。
まあそれはそれ。
「…で?いったい 何があったんだ?」
そんなルークの淡々とした問いかけ、
「…この数日、昼夜を問わず時々デーモンが出てきやがる。
…おまけに得たいの知れない『くろっぽい人型をしている何か』まで……
並みの攻撃呪文はつうじねぇ。おまけに城は門を閉ざしたまま増援どころか何の命令もありゃぁしねぇ。
他に助けを呼ぼうにも、外壁から出たらそこいらにたむろしているデーモンに襲われる。
……あんたらはみなかったのか?街の外にいくつもあるどす黒い染みを……
ありゃ、この街から逃げ出そうとしたヤツラがデーモンに襲われた跡だ。
死体はヤツラがもってっちまうから残ってないけどな。
何とか上の者に訴えようとしろに向かったやつらは誰一人とて戻っちゃきやしねぇ。
デーモンが怖くて城の中に閉じこもっている…という様でもないだろうしな。
ともかく…確かにいえることは、もう皆つかれきっちまっている。ということさ。
街を決死の覚悟で出てゆくヤツラもいる。運がよければデーモンにやられることはないはずだ。
といってな。仲間もすでに何人も怪我をして動けなくなったり、死体ごと行方不明になっちまっていたりする。
いつ、どこにいてもデーモンが現れればそれまで。どこにいても安全って保証はねぇ。
酒でも飲まなきゃやってられるかってんだ。」
そんな男の言葉をうけ、
「その城が閉ざされている理由や、噂とかは聞いてないですか?」
ミリーナがそんな男に淡々と問いかける。
「噂ならいくらでも聞くぜ。いくらでもな。
王様が臆病風に吹かれて立てこもっている。ってのや。
どこかの国の暗殺者に王が殺されて、それがバレないように城を閉ざしている。というのや。
王が女傭兵と一緒に寝室にとじこもりよろしくやってて、それをたしなめたモノ達を次々と処刑していってるとか。
実はとっくに城の中はデーモン達にやられて壊滅してるんじゃあ。っていう説もあるぜ。」
「国王暗殺うんぬん、だとすればすっごく楽だが……」
「『楽』じゃないですよ。ルークさん。」
ぽつり、とつぶやくルークに突っ込みを入れているシルフィール。
「その場合だと確かに、国家レベルの問題となるのは確かだな。」
「何をいってるんですか!今回の一件の覇王一派の魔族が絡んでいるというのは、
今までのことからして間違いないんですよ!?
だからこそ!ここは正義の仲良し組みメンバーで今こそ覇王も正義の道に……っ!」
ぽっかっ。
「~~う~……」
一人場所柄を踏まえず、拳を握り締め、自分の世界に入りかけているアメリアの頭を軽く叩いているゼル。
「……いやあの…今……」
魔族って…いわなかったか?
アメリアの言葉に反応し、問い返してくる男に対し。
「それより、城の中の様子とかはわからないんですの?城勤めの人とか、出入りの商人とかから。」
さり気に話題を買え、男に対し問いかけるミリーナの言葉に。
「…え?あ…ああ。出入りの商人や城勤めをしている人たちも全て、
城への出入りが一切できないんじゃあどうしようもねぇしよ。
中の様子を知るために壁超えなどに挑戦したやつらもいたらしいが…一人も戻っちゃきていねぇ。
呪文が多少使えるやつが、外壁の空から中を見たこともあったらしいが、
不気味なほどの人の姿が一人も見当たらなかった。ってもっぱらの噂だしな。」
「――ともかく、つもりはしろに侵入しないと真実はわからねぇ。ってことか。」
男の言葉にしみじみといっているルーク。
そんな会話をききつつも。
「…なあ?」
それまでほとんどうつらうちらと眠りかけていたガウリイが、ふと顔をあげ、ある一点を見つめて一言もらす。
そんなガウリイの様子を気にするわけでなく、
「――とりあえず、助かりましたわ。」
いってぺこり、と頭を下げてお礼をいっているミリーナ。
ひとまず軽くお礼の言葉を一部の存在たちを除き言いかけるその最中。
「あと、それと余計なことかもしれねぇが。もうひとついっといてやるよ。
傭兵とかを募集していたせいで、街の中にゃあ血の気の多いのがたむろしてやがる。
それでデーモンとか以外でもいろいろと物騒になってやがる。
城は閉ざされっばなし。他の警備の連中もほとんどオレと同じだし…な。
だからよ。気をつけたほうがいいぜ。あんたらも。」
未だに多少顔色もわるく、そう自嘲気味にいい、コップのウォッカを一気にあおる男に対し。
「大丈夫ですわ。もし何かあったりしたら、相手をがつん、と懲らしめてあげればよいだけですから。」
さらっと至極最もなことを言っているメフィに対し。
「「それはやめとけ。」」
「「「それは手加減したほうが……」」」
ルークとゼル。
そしてアメリア・シルフィール・ミリーナの声が同時に重なり。
「あ、それも面白いかも♡」
「まあ、やったとしても街がちょっぴり崩壊、または消滅する程度でしょうしね。」
至極最もなユニットとあたしの言葉もまた同時に重なる。
そんなあたし達に対し。
「…なぁ?」
またまた声をかけてくるガウリイ。
「?ガウリイ様?どうかなさったのですか?」
そんなガウリイをさすがに疑問に思い、問いかけているシルフィール。
というか、気づいてるの、あたしとユニットとゼロスとガウリイだけだし……
「さっきから。あそこで何かタコのようなやつがこっちをみてるぞ?」
ガウリイの言葉と同時。
よら……
ガウリイが視線を向けていた天井部分の角の一角がゆらリ、とゆがみ。
そして……
「――ほう。よくわかったな。そこの黄金竜やエルフより先に気づくとは…な。」
天井の角にふよふよと浮かんでいる一つの影。
くすっ。
ようやく楽しくなってきたわね♡
-続くー
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あとがき:
薫:・・ミルガズィアさんのギャグ・・・・まともに聞いてしまった人たちに合掌(汗
とりあえず、ようやく少しはまとも(?)な魔族の登場です。
って常にゼロスという魔族(笑)は一緒にいますけどね。
ちなみに……未だに覇王一派、エル様が関わってるの…まだ気づいてません。
…合掌(まて
何はともあれ…次回で、タコ魔族の登場です(笑
ではでは。
また次回にて。
2006年3月3日某日
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