エル様漫遊記・覇軍の策動偏

「…グライア殿。わしの話。信じられぬならばそれでも仕方ない。わしをきりたくば斬ってくれ。
  そのかわり…というのはおこがましいが、頼みが一つだけある。
  あの女はおそらく今も陛下とともにいる。
  あの女をどうするつもりかはあえて聞かんが……頼む。陛下にだけは害をなさんでくれ……」
というか、ここにいたっても自分でどうにかしよう。
という気がこいつ、まるっきりないのよねぇ。
このアルスは……
ここにいたっても、『ヴェルズ陛下の命令だから』というので大人しく一度家にもどる気でいるし……
せめて、自分の手で決着を…という気概くらいもたないと♡
本当、当人の言うとおり、腑抜け以外の何者でもないわよね。
こいつは♡
「――…もとより。私もヴェルズ陛下を敬愛していますから。
  ……ですが、一つ。これだけは聞いておきたい。
  『シェーラは何者か。』そのことについて、まったく検討すらもついていないのですか?」
先の一件のこともあり、神官長が幾度となく忠告していたこと。
それすらも、このアルス将軍は馬鹿らしい、といって取り合わなかった。
「……?何者かはしらんが…言えることは、唯一つ。
  あの女は得たいが知れん…ということだけだ。話が長くなったな。
  ……シェーラは今。おそらく陛下とともに、宮殿の北の陛下の執務室にいるはずだ……」
「わかりました。…貴殿ら、後はたのむ」
「グライア様!私もお供させてくださいっ!」
三人の兵の中で、一番若い兵がグライアに対して申し出るが。
「…いやそなたの身を危険にさらすことはできない。…もし、彼女たちの言うとおりであるならば……」
そこまでいって、言葉を区切る。
もしここで、あの女が魔族…しかも、魔王の腹心の一人。
覇王ダイナスト直属の将軍…といったとしても、にわかに信じられる話ではない。
それゆえに。
「…もし、私が戻ってこないときには、
  貴殿達のような若い者たちがこの国を再生してゆく義務があるのだから。」
兵士の肩に手をおき、そう言い放ち、そのまま振り向きもせずに、奥にと進んでゆくグライアの姿。
そんなグライアを見送りつつ。
「…情けないな……わしは……」
命令に背いてまで忠誠をつくする
…それが、今の自分にはできない。
というか、しようとしない。
行動に移さぬものが何をどうこういってもただの言い訳。
そんなことをぽつり、とつぶやき、『国王の命令だから』と、城外にとある自分の屋敷に足を向けているアルス。
…どこの世界にも融通の利かないやつって…いるのよねぇ……
すこし自らが考えて行動すれば、解決する。
というのに



……静か過ぎる。
すでに謁見の間にまでやってきた、というのに。
いるべきはずの大臣たちの姿すら見当たらない。
「……何かの罠…か?」
そうは思うが、一刻も無駄にはできない。
そのまま静か過ぎる謁見の間を通り越し、その先の執務室にとむかってゆく。

…るぉぉぉ……
聞きなれた声が歩む耳にと届いてくる。
「…?」
何かいつもより声が大きいような……
一応、近衛隊長としての任を任されていたこともあり、グライアは地下の肉塊を見たことがある。
正確にいうならば、幼いときに、父や連れられてきたガイリアの城にてその姿を目にしたのだが。
魔族…というそれ自体、ほとんどの存在がただの伝説。
と思っている中で、その姿を見た彼は、剣術だけでなく魔術も惜しみなく勉学した。
その結果もあり、若いながらも【近衛隊長】という大任を承っていたこのグライア。
もし…本当に王がすでに……
考えるだけで寒くなってくる。
そんな考えをめぐらせつつ、廊下を走り抜けてゆくことしばし。
やがて、走るグライアのその視界の先にと見えてくる一枚の扉。
【執務室】と扉の横のプレートに刻まれている文字。
大きく息を吸い、そして意を決し、
バタン!
とその扉を開け広げる。
高位魔族…と聞いた。
あのシェーラは。
それゆえに、自分がかなう相手ではない、とも十分に理解できているつもりだ。
伝説によれば、かつてたった一匹の魔族が竜の一族を壊滅に追いやった…とか。
それが事実である、ということをグライアはミルガズィアの言葉から知っている。
それでも……
真実を。
そう願うのは、この国を、そして今の国王を愛すればこそ。
自分が戻れないとき…それは即ち……
自分が戻れなかった場合は、マイアスに伝言を言付けている。
だから…後は弟や…それに、リナ殿たちに任せられる。
それが唯一の救い。
…魔族がマイアスをどうこうしよう。
としようとしない限り、この国に…すこしは未来はあるはず。
そんな思いをめぐらせつつ、部屋の中にと一歩足を踏み入れるグライア。

グライアの正面には黒樫の机。
机の上には書類が数山。
………どうでもいいけど、ここで自分の仕事やってるし…グラウシェラーのやつは……
机に腰掛けている一人の男性の姿が目に入り、そしてその横には女性の姿も。
…本人であってほしい。
そんな目の前の人物、見た目の歳のころならば三十代半ばの長い黒い髪の男性をみて、
代わり映えのないその容姿にほっとしつつも、そんなことを思っているグライアだけど。

「…何者か?」
一匹のネズミが入り込んでいたのは知っている。
無謀にも一人でこの我にと向かってくるとは……
そんなことを内心思いつつ、表情一つ崩さずに、座ったままグライアにと問いかける。
そんな【国王】の姿にその場にひざまづき、
「…元、第三近衛部隊隊長、グライア=コードウェルにございます。
  陛下のご意思を無視しての突然の乱入。ご無礼、ひらにご容赦願います。」
「…グライア=コードウェル…?」
…まだアレは始末していなかったのか?
などと思いつつも、
「確か、そのほうは、近衛部隊の一員ではあったな。そしてグランシス将軍のご子息の内の一人。
  だがしかし、貴殿は今、無断で町を出奔したかどで追放の身ではなかったか?」
「御意に。されど国の大事に至り、禁を犯すことを承知であえて……」
そんなグライアの声をさえぎり、
「黙れ!乱心者!」
いうなりグライアを見据え、
「昨夕からの騒ぎ、お前の仕業であろうっ!狙いは何だ!?まさか陛下のお命か!?」
などといっているのは、一件したところ見た目、国王にそばにかしこづいている女騎士。
「――私は陛下と話がしたい。それだけだ。町の騒ぎについては私は関与しておりませぬ。
  あれは、町に入り込んだ【魔】の仕業です。」
「そのような世迷言をっ!」
グライアの言葉をまったく聞こうともしないけど。
こいつら、知られてる…って知らないからねぇ。
そんなシェーラの様子はすでに想定内。
それゆえに、
「…どうやらこちの話を聞いてくださる。という気はなさそうですね。」
判ってはいたが。
そう…判っていたことではあるが…
改めて思いなおし、ぎゅっと拳を握り締め、それでもどこかいちるの望みを託し、
「私は嘘はいっておりません。万物の母たる【金色の王】の名に誓って――」
「…き…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
み…みだりにあの御方の名を口にするでないっ!!!!!貴様!何ヤツ!?」
……あからさまに思いっきり叫んで姿すら消えかけているシェーラに。
そしてまた、狼狽して声を【ヴェルズ】という人間のソレではなくしているグラウシェラー…
……な…情けないっ!!
仮にもあんたたちは一応、ココで言うところの高位魔族でしょうがっ!
…Sがふがいないから部下までもが…くぅぅっ!
……お仕置き、まだ足りないかもね♡
「何であの御方のことをあなたのような人間風情が知ってるのよっ!!」
ディルス王宮はあたしが以前教えてるからあたしのことを理解してるってば♡
そこまで考えいたってないし…こいつらは……
そんなことを叫ぶシェーラの姿はほとんど消えかけていたりする。
…本当に情けないわねぇ~……
グラウシェーラにいたっては、いまだに狼狽してるし……
そんな二人のあからさまな反応に、
「……まさか……とはおもったが……」
やはり…このシェーラは魔族だったのだ。
そして…この【ヴェルズ陛下】も……
そう確信し、
「…何ゆえに再びこの国に入り込んだ!?本物の陛下はどうした!?」
――やはり、リナ殿たちがいっていたことは事実であった。
内心あきらめにも似た思いを抱き、それでもいちるの望みを託して問いかける。
「―――別に地下にうごめく物体が二つになっても問題あるまい?
  …おそらく、あのブランデッドという人間から聞いたのであろうが……知られたからには……」
自らが職を辞退…というか引退させた元神官長、ブランデッドという人間。
彼は【あの御方】のことを知っていた。
それゆえに、削除したい人間であるのだが…だがしかし、
どうやって知ったのか、赤の竜神とかかわりがあったためか、
かの御方の力をも汲み込んでいる護符ともいえる魔法陣にて、自宅を守っている。
ゆえに、手出しができないが……
そんなことを思っているこのグラウシェラー。
だ・か・らぁ。
教えたのはあたしなんだけど…ねぇ。
くすっ。
そんなことを思いつつも淡々といい、ちらり、と横にいるシェーラにと目配せし、
そして。
「「――来るがいい。グランシス。」」
「……なっ!?」
ぎぃ……
ヴェルズ国王の姿をしているグラウシェラーと、そしてシェーラの言葉をうけ、横手の扉が静かに開かれる。

そこには、グライアもよく知っている【魔族】とおぼしき人影が。
一度確かに自分を殺したはずの……
ルーク殿やゼルガディス殿たちは【シャーマン】と呼んでいた……
ぐるぐるめぐる思考の中、だがしかし。
「……い…今…何と……」
思わず声を擦れさせて問い返す。
…今、この魔族たちはねこれのことを『グランシス』と呼ばなかったか?
果てしなく嫌な予感がグライアの中を突き抜ける。
「――…せめてもの情けだ。人間よ。自らの父、グランシス=コードウェルの手により、今度こそ死ぬがよい。」
「心配せずとも、あなたのその肉体は、そこにいるグランシスという人間同様。
  他の人間達と同じく魔族の媒体の器となってもらいます。
  ――すぐにあなたの弟も仲間に入りますよ。」
淡々という、グラウシェラーとシェーラの言葉に。
「…馬鹿なっ!?」
否定はするものの、完全に否定する根拠もない。

心のどこかでもしかしたら…とは思っていた。
この【シャーマン】とグライアは剣を交えたことがある。
その太刀筋から…だが、それでも考えないようにしていただけのこと。
不安と戸惑い…そして…あせりと絶望。
それらの負の感情は逆に、目の前の【魔族もどき】の糧となり力となる。

「…芽はつむに限る。目的のためにも。」
「はっ。――やれ。」
グラウシェラーと、シェーラの声を合図に、元グランシスは飛び上がり、
そして跳躍しつつも、自らの息子にとどめをさすべく行動に移る。
媒体となっている人間の能力はそのまま受け継いでいるのがこの魔族もどきの特徴。
微弱ながらその意識を残すことで、その人間の使っていた技などを併用させるもの。
それをすることで、逆にさらに得る負の気は大きくなる。

「~~~~っっっっっっっっ!」
執務室の一角にて、グライアの悲鳴になっていない声が響き渡ってゆく……


              -続くー

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あとがき:
薫:ガイリア城サイド…一つの話にしようかと思ったら…
   打ち込みしてみたらけっこう容量ありましたねぇ…(目指せ平均20KB!
   なので2つに分けました(まてこら
   いや…一応、同じくらいの長さがいいかな…とおもって……
   各話の中で、一話だけ長い…というのも何かなぁ…とおもってね。
   どうせなら、長いのならば、全体的に長いのなら問題ないけど(笑
   しかし…グライアさん、一人で突入はやめましょうね。
   次回で、再びエル様…もとい、リナさん(?)達のサイドに移るのです。
   時間的に並行して異なる場所にて並行しておきている…といった具合ですので…
   あしからず…ではでは……
   2006年2月28日某日


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