エル様漫遊記・覇軍の策動偏

昨夜の…というか、夕刻からの夜の騒然とした空気もようやく落ち着き、
空に輝いていた星星がうっすらと視界から消えかけ、東の空より空が明るく染まってくる。
マイアスの見送りをうけつつも、朝も早く、日も昇っていないゆえか、
人の気配もまったくない道を周囲を気にしつつ進んでゆくグライア。
彼が目指すは城の中。
ともかく、一刻も早く国王陛下を保護しなければ。
リナ殿たちの言うとおり、あのシェーラが魔族だとすれば…陛下の御身すら危うい。
相手がどうみても『人間に見える』、ということは、『力ある魔族』だ、ということを示している。
本当に魔王の腹心の一人、
覇王ダイナストの直属の部下なのか、その真意を確かめるすべは自分には…ない。
…いや、あるにはあるが……
などとそんなことを思っているグライア。
彼は今現在は自宅にて謹慎中となっているディルス王宮、元神官長。
ブランデッド=グリューンから、あることを聞いている。
即ち…『あたし』に関することを。
情けないにも、大概の魔族や神族。
そして多少知識のある存在達は、『あたし』のことを口にするのすら畏れ多い…
とかいって、滅多と口にしないのよね。
中にはそれだけで消滅したり、死んだり滅んだり、または弱体化する存在までいたりするし……
そこまでこのグライアは詳しくはないものの、だがしかし。
彼は『大概の魔族は金色の王ロードオブナイトメア』の名を耳にするのも、
また口にするのも畏れ、それは彼らの弱体化につながる。
そのように聞いているる
…まあ、それをブランデッドに教えたのもあたしだけど。
全ては…一言の言葉で真意が判明する。
そんなことをグライアは思いつつ、緊急避難用のとある隠し通路より、城の中にと潜入してゆく。


「…しかし…陛下っ!」
「くどいっ!」
「アルス将軍。陛下の命が聞こえなかったのか?」
グライアが城にと潜入した同時刻。
未だに騒然となっている城の中。
『町にデーモン出現』の報が入ると共に、
城の中に人々は彼らにとっては見たことすらもない『人型の何か』に襲われた。
一体いつ城内に入り込まれたのかすら、人間達にはわからない。
ましてや、それがここしばらくの間に行方不明となっている同僚や、役職についていた人々だ……
などと、いうことは誰一人として想像だにしていない。
何とか人数にものを言わせ、多大とも彼らからすれば言える被害をうけつつも、
それらを撃退し終えたのは空が明るくなりかけたころ。
夜があけるとともに、呼び出しがあり、謁見室にと出向いたところ、
いきなり命じられたのが。
『城の門を全て閉じ、城からの出入りを一切禁止せよ。』
というもの。
さすがに抗議の声を上げているアルスではあるが。
「アルスよ。この城の中にあのようなものが出現した。
  シェーラの意見によれば別の場所から来た可能性が否めない。とのこと。
  万が一、アレが兵士や城の誰かになりすまし、外にでたらどうする?」
「…それ……は……」
城内に出現したモノの中には、あからさまに異形の存在。
……魔族としか表現しようのないものもいたのは紛れもない事実。
それが判っているがゆえに。
…たしかに、ヴェルズ陛下の言うことは判るが……
などと戸惑いをおしころし、
「しかし…だからといって城壁より入ってきたものは、身分構わずに牢屋に入れろ…など……」
絶対に各自の持ち場から鼻゛ルことはならず、さらには城の外にも外出禁止。
もし城から出ようとするならば、反逆とみなし処罰する…など……
つまりは…各自、自宅にすら戻れない…ということをそれは意味している。
「アルスよ。これは命令だ。不服か?」
「…くっ……」
アルスとしては言葉に詰まるしかない。
そんなアルスを一瞥し、
「陛下。このようなものを城の中においておいては規律も乱れましょう。面と向かって陛下に異を唱えるなど。」
未だにアルスが気づいていない、ヴェルズ=ゼノ=ガイリアその人だ。
と思い込んでいるその横にと立っている女性がそんなことを言っているけど。
全ては彼らの思惑通りに事は進んでいる。
最も、『あたし』が関わった…というのには、未だに気づいていないようだけど。
「それもそうであるな。――アルスよ。本日をもって将軍職を解任いたす。
  おって沙汰があるまで自宅で謹慎しておるがよい。」
「陛下!?」
「くどいっ!下がれ!」
「衛兵!そのものを城より追い出せ!」
交互に言う、『国王』と『シェーラ』の言葉に、アルスは歯軋りをしつつも、
やはり…この国はもう……この女の手の中で踊らされている……
そんな思いが彼の中に去来する。
シェーラの声をうけ、謁見室の前にと控えていた衛兵数名が、部屋の中にと入ってくるが。
「そのものをひったてぃ!」
そういうシェーラの言葉に。
「…あ…あの?アルス将軍を…ですか?」
一人が戸惑い問いかける。
「よもやそのモノは将軍ではない。陛下にたてついた罪として陛下直々に、先ほど解任とあいなった。
  陛下より処罰が下るまで、自宅謹慎を言い渡された、ひったてぃっ!」
凛として、強く言い放つシェーラの声に、おろおろと戸惑う兵士達。
「何をしておる?その方らもこの我の命に逆らうか?」
深く、それでいて響くような声で彼らにとっては主…実際は違うけど。
ともかく、【ヴェルズ国王】の声をきき、思わず彼らは顔を見合わせる。
そして、何かが間違っている…と各自それぞれに内心思うものも、だがしかし。
【国王自らの命】に逆らうことなど、彼らにはできるはずもなく。
「…はっ!…失礼いたします。アルス…殿。」
将軍、といいかけて、呼び方をかえ、アルスに近づいてゆく彼らたちであるが。
「いい、自分であるける。…陛下。このアルス。いつか陛下の目が覚める、と信じておりますぞ。」
幼いころから、ヴェルズのことは知っている。
だからこそ…そう一言いって、礼をとり、部屋を後にしてゆくアルス。
そんなアルスの後をあわてて追ってゆく衛兵たち。

バタン……
扉が閉まり、二人のみとなったところで。
「シェーラよ。あの御方の耳に入る前に、何としても魔王様の欠片を目覚めさせるぞ。」
「はっ!!」
あのアメリア…というセイルーンの姫はあの御方とかかわりがある…というのは聞いている。
何としても、一つでも欠片を見つけられれば!
そんなことを思っているようだけど。
……完全に失念してるわねぇ。
あたしにわからないことなんてない。
というその事実を。
ま、それはそれで面白いから別にいいけどね♡


「…陛下はかわってしまわれた……」
廊下を歩きつつ、つぶやくアルスに。
「どなたのせいですか!?」
歳和解、一人の兵士が、そんなアルスの後ろを歩きつつも、冷ややかに言い放つ。
「よせっ!」
別の兵士が止めるものも、
「そもそも!あんたがあんな女を引き入れるからっ!」
誰もが思っている憤り。
…あの女、シェーラが来てから国王はかわった。
しかも、アルス…という、一人の人間が陛下のご機嫌取り、とばかりに、陛下に女を引き合わせたばっかりに、
この城の兵はほぼ全て同じ思いを抱いている。
ただそれを表だっては口にしない、というだけで。
そんなまだ若い兵の言葉に、ただ黙るしかないアルス。
自分はよかれ…と思ってしたことが、陛下をあのようにしてしまったのも……
彼らは【国王と覇王ダイナストグラウシェラーがいれかわっている。】、という、
その根底にある事実に誰一人として気づいていない。
全てはシェーラのせいで、国王が変わった…と思い込んでいる。
みただけで普通判るでしょうに……
悲鳴とも捉えられる若い兵士の言葉に、ただうつむくしかないアルス。
…この我が命を差し出せば…陛下は目を覚ましてくれるであろうか?
そんな考えも脳裏に浮かんでいたりするが。

そんな会話をした後、誰一人として何も口にすることなく、
北の建物の中から本殿へと移り、進むことしばし。

角を曲がると同時。
『……なっ!?』
出会いがしらに、アルスと…そしてグライアが対峙する。
城内に侵入したグライアは、謁見の間にと向かっており、ゆえにアルスと鉢合わせているのだけど。
「――…グライア殿?!」
「…なっ!?アルス将軍!?」
『グライア様!?』
アルスが目の前の人物を認めて叫び、グライアもまた、アルスの姿を認めて思わず叫ぶ。
そしてまた、アルスを外まで連行していた三名の兵士達のうちの二人もまた同時に思わず叫ぶ。
彼らもまた、グライアのことは見知っていたがゆえに。
本来ならば、他の人間も呼ぶべきであろう。
…だがしかし、グライアを知る兵士達は、グライアの父親が、謀殺された…そう信じている。
それも、このアルス将軍。
もしくは、息のかかったものたちの手によって。
他の兵を呼びたいが、心情がそれをおし止める。
しばし、アルスとグライアはにらみ合い…そして……
「――…アルス将軍。お聞きしたいことがあります。――山ほど。」
すらり、と剣を抜き放ち、アルスに対してつきつけ低い声で問いかけているグライア。
問いただしたいことは、彼にとっては山ほどある。
シェーラのこと。
父親の死の真相。
そして、この国が今、どうなっているのか。
だが…今は、そんな悠長なことをいってはいられない。
一刻も早く、シェーラの真偽を確かめ、国王陛下を保護することが何よりも優先。
そんなことを思いつつ。
「――…しかし…今は一つだけ……あの女…シェーラは今。どこにいます?」
剣をひたり、とアルスにつきつけたまま問いかけるグライアに対し、アルスは小さくふっと息をつき、
「あの女…か……」
先ほどまで、そのことに対して後ろにいる若い兵士にもなじられていた。
……自分でも遅すぎる…とは思うが判っている。
……だが……
深くため息をつきつつ言うアルスの言葉に一瞬戸惑い、グライアは突きつけていた剣を思わず下ろしかける。
後ろにいる三人の兵士達は、どうしてよいのかわからずにただただ戸惑うばかり。
グライアが一瞬、剣を下ろしかけた隙をつき。
ギッン!
アルスの抜き放った剣が、グライアの剣を跳ね除ける。
そして、アルスもまた、剣を構え。
「――答えを知りたくば、このわしと戦ってかってみせろっ!おまえたちは手出し無用!」
グライアと…そして、背後にいる兵士達にといっているアルス。
「望むところっ!」
そんなアルスの声をうけ、再び剣を構えなおし、そのまま地…というか、床をけり、
アルスに向けて切り込んでゆくグライア。

ガッキィィン!!!

…戦いは、瞬く間に瞬時にと決着をみせる。
アルスが振りかぶる剣をかわし、グライアの一撃が中を凪ぐ。
それだけで十分。
「…っ!!」
その場にがくり、と膝をつくアルス。
グライアの一撃は、アルスの右肩から下を浅く斬っている。
深くグライアが踏み込んでさえいれば、アルスにとっては致命傷…ともいえるであろうが。
だがしかし、グライアにとっては相手…即ち、アルスを殺すことが目的ではない。
「「「~~~!!?」」」
その様子に思わず、その場にいる兵士達が駆け寄ろうとするが。
「手出しは無用、といったはずっ!」
いって血を流している肩を手で押さえ、右手でだらり、と剣をもってたちあがりつつ。
「……さすが…グランシス将軍のご子息…近衛団、第三部隊隊長だったことはある。
   ……わしの腕では到底届かぬ…か……」
などとアルスは言っているけど。
……というか…アルスがただ単に弱すぎるだけ…と、あたしとしては思うけど……
「いまさら、父におべっかですか!?父を謀殺しておいて!?」
そんなグライアの言葉に、アルスはかるく左右に首をふり、
「それは……」
それは違う。
といいかけた言葉を再び左右に首をふって飲み込んで。
「…いや、何をいわれたとて仕方のないことか。
  …あの女を陛下に紹介し…この国を腐らせたのは…間違いなくこのわしなのだから……」
よろけるアルスを三人のうちの一人の兵が支える。
どうでもいいけど…たかが、かすり傷、ともいえる程度の傷で大げさだし…
命に関わるような傷でもないし。
多少、その肩のところから、赤身が見えていたりするけど、怪我としては些細だし。
「まるで父の死に自分は関係ない。とでもいいたげですね。」
「信じろ。とはいわん。疑うのも最もだ。…グランシスと私は決して仲がよかった、とは言えんからな。
  ――わしは、ヴェルズ陛下を敬愛している。それだけは偽ることなき事実だ。
  敬愛しているお方に喜んでもらうこと…それが悪いことだとは、わしは思わん。」
いって、グライアと、そして三人の兵士をちらり、とみつつ。
「…しかし、中にはそれをご機嫌伺い、太鼓持ちの真似。とそしる者もいることも事実。
  グランシス将軍もその一人であったからな……
  わしがシェーラを陛下にお引き合わせしたのも……
  …飛びきりの逸材を手にしたことをお喜びいただきたかったがゆえ。
  しかし…それでは終わらなかった。それ以降、あの女がどうやって陛下に近づいたのか。
  …正直いってわしはよくは知らん。だが…気がつくと…陛下のそばには常にあの女がいるようになった。
   しかし、わしはそれでもよい。とおもった。それで陛下が満足なら――」
側室どころか、妻すら娶っていない国王。
お世継ぎの声も内々に出ていたというのも事実だが。
「…そして…そしてあの日も…『シェーラの要望』で城に貴殿の父上が呼び出され……
  それから、数日もしないうちに…お父上拍子の報が流れた……」
『・・・・・・・・・・・・・』
アルスの話を無言でじっと聞いているグライアと、そして三人の兵士達。
「…その頃からわしは…思い始めたのだ。…わしは間違っていたのでは…と……」
そんなアルスの事は輪をききつつ。
「初めからあの女は危険だ。と周りのものが幾度も忠告していたのに、聞く耳をもたず、
  耳を貸さなかったのは、あなたです。」
ぴしゃり、とそんなアルスに言い放っているグライア。
そんな彼の言葉に小さく呻き、
「…そう…だな…・・・ 」
今になってみれば、おかしい…と思える節は多々とあった。
周りが何といおうとも、だがしかし、陛下が喜んでいるならばそれでいい。
とそう思って、耳をふさいでいたのは、ほかならぬ自分。
そんなことを思い、小さく息をつき。
「…わしは…後悔し始めていた……陛下がお喜びくださるなら、それでいい。
  …そう思っていたのは事実。だが…しかし、たとえ陛下をご不快な気分にさせようとも、
  駄目なときには、駄目と申し上げることも必要ではなかったか…とな。」
そんなアルスの懺悔の声をききつつ、
「…ふぅ……」
深く息をつき、そして、そのままパチン、と手にしていた剣を鞘にと収め、
「…治癒リカバリイ
ぽたぽたと、未だに血が止まっていないアルスの肩にと手をかざし、呪文を唱えるグライア。
そして。
「…あなたを裁くのは私ではない。たとえ、あなたのせいでこの国が危機に陥っているのだとしても。」
そんなグライアの言葉に、
「…すまん……」
しばし顔をふせ、そして。
「……過日、陛下は私をおよびになってこう申された……
  『おまえの名でグライア殿…貴公と貴殿の弟君の追放礼をだせ』…と。
  そのときにも、陛下の傍らにはあの女…シェーラがいた。
  そして…先刻。シェーラの意見で、わしは陛下から将軍職の任を解かれ……
  陛下に反逆したものとして…自宅にて処分が決まるまでまて…といわれた。
  …わしは…気づくのが遅すぎた。今…この国を動かしているのは…あの女だ……
  陛下ですらあの女の言いなりになってしまっている……
  そして…わしもまた、そんなうちの一人となりはて腑抜けになっていた……」
さすがに、将軍職を解かれた…という言葉に驚きを隠せないグライア。
だが、今さら…自業自得、ともいえる。
と心の片隅では思っていたりするけど。
ま、確かに本当に『今更』だしねぇ。
ほんと、人間っていろんなヤツがいるわよね。
ふふ。


              -続くー

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あとがき:
薫:この量でとりあえずノート3P半……
  まだまだ先は長いです……
L:・・・というか、あたしがまったく活躍してないじゃない?
  あたしの!主人公の漫遊でしょうが!?
薫:・・・・・エル様でたら、すぐにおわ・・もとい。面白くなくなるからって。
  直前までご自身が関わっていることを隠していらっしゃるじゃないですかぁぁ!(涙
L:それはそれ。ともかく!あたしの活躍の場を広げなさい。いいわねっ!
薫:・・・しくしく…はい……
L:さってと、何やら足元が溶岩地帯に陥った場所で続きをかいてる薫はおいといて。
  それでは、また次回でねvそれじゃ、まったねv

2006年2月25日某日

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