エル様漫遊記・覇軍の策動偏

店を出てみれば、面白いまでに右往左往している人々の姿。
ふわり、と浮き上がり、デーモン達がいる方向を確認しているシルフィールとミリーナ。
町の人間達は面白いまでに完全にパニックになっており、通りは人でごったがえしていたりする。
そして屋根の上で互いに顔を見合わせて、すとん、と降りてくる二人の姿。
「デーモンはあちらからからのようです。」
いって多少顔色の悪いシルフィールが町の北側を指差し、
「かなりの数のようです。表の道は人であふれかえっていますから、裏路地をいきましょう。」
シルフィールに続けていいつつも、裏路地に向けて駆け出してゆくミリーナ。
それに続き、あたし達もまた、彼女たちの後にとつづいてゆく。

さすがに狭い裏路地には人の気配はまったくなく。
あるのは表の通りから聞こえてくるパニックになっている人々の悲鳴やざわめきのみ。
右に、左に折れ曲がり、人気のない裏路地の通りをあたし達十一人は一列にと駆け抜け……
といっても、ゼロスは姿を消しているので正確にいうならば十人だけど。
『―――!?』
そして、やがて広い通りに出たところで、ぴたり、とミリーナが足を止め。
それに気づき剣を抜き放っているゼルとガウリイ。
「な!?何なんですか!?」
ゼルやガウリイのただならぬ様子にジェイドが何やら叫んでいるけど。
あれほどざわめいていた人々の姿が辺りにはまったくなく、あるのはまったく無人の町並みのみ。
「――?本当にこっちなんですか?道を間違えたんじゃぁ……」
そういうグライアの言葉に。
「馬鹿やろう。俺のミリーナがそんな間違いするか。」
どさくさまぎれに、さらり、といっているルークに対し。
「あなたの。じゃあないわ。」
そんなルークにきっちりと突っ込みをいれているミリーナ。
「どうやら道を間違った。というわけではないようですわね。人々のざわめきが消えてますし…それに……」
いいつつも、なぜか顔色の悪いシルフィール。
「――なっ!?何なんですか?これ?」
シルフィールにいわれ、そのことにようやく気づきとまどいの声を上げているグライアに。
「――…どうやらお客さんのようだぜ?」
「だな。」
ガウリイはすでに剣を抜き放ち構え。
ゼルはゼルで剣に魔皇霊斬アストラルヴァインの術をかけていたりする。
「もしかして、経験ないんですか?あなたたち。これは簡単な結界ですよ♡」
戸惑っているジェイドとグライアに、にこやかに説明するユニットに続き。
「――そういうことだ。」
ユニットの声に続き、別の声が通りにと響き渡る。
「……な、何だ?…アレは……」
「…なっ!?」
ゆらり。
と姿を現したそれをみて、呆然とした声を上げるコードヴェル兄弟に。
「――…やはり魔族か。」
はき捨てるようにと言っているゼル。
通りを挟んだ向い側。
そこにいる数体の姿を目にし、なぜか硬直しているコードヴェル兄弟の二人に。
そしてまた。
「ついに出ましたね!!さあ!あなたたち!
  一体何の目的があって、ジェイドさんやグライアさんを襲うのです!
  今度の覇王は何をたくらんでいるのですか!?」
びしっ!
と、そんな彼らの姿を見ても驚くことなく手を伸ばし、指を彼らにと突きつけて言い放っているアメリア。
そんなアメリアの言葉に。
「…きさまら?何ものだ?…何をどこまで知っている?
  ……まあいい。お前たちにはここで死んでもらおう……」
いいつつも、ゆっくりと広場にと出てくるそれらたち。
ほとんど見た目はぼろきれ同然のマントを羽織り、
ほぼ骨だけだと見受けられる細い全身を覆った肌は黒ずみ、顔には目も鼻も口もなく、
二つの目だけが見開かれ、にごった視線をこちらにむけていたりするけど。
「……あのねぇ。レビフォア!せっかく自力で物質形態をとるんだったら!
  もうちょいまともな人間の姿になんなさい!仮にも魔族でしょうが!あんたは!!」
あたしのそんな至極当然な意見に。
「……あんたはどっちの味方なんだよ……おい……」
なぜかあたしにつっこみを入れてくるルーク。
「あら?でも情けないとおもわない?
  自力で具現化するくらいならば、デザインセンスくらい視野にいれなきゃ♡」
そんな当たり前なあたしの言葉に。
「でもこいつ。あんまり力ないやつみたいだし。無理なんじゃないか?それって……」
そんなあたしにと言ってくるガウリイ。
「……いやあの……」
「ななななな!?なんなんですか!?アレ!?」
なぜか戸惑っているグライアに、何やらパニックになっているジェイド。
「確かにあまり力ないわねぇ♡で?わざわざ仲間までつれてきて何の用かしら?レビフォアさんは♡」
にこやかに、それに向かっていっているユニット。
そんなあたしやユニットの言葉に。
「――なぜに貴様ら…我が名を知っている?」
ぎょろり、とした視線をあたしとユニットに向けていってくる【レビフォア】。
『見ればわかる(でしょ)(じゃない)♡』
きっちし、きっぱりと同時に言い切るあたしとユニットに。
「……ま、スミレちゃんたちですし。」
「…だな。」
『……確かに。』
うんうんうなづいている、アメリア・ゼル・そしてガウリイ・ルーク・ミリーナ達。
「……まあいい。どちらにしろ貴様らには死んでもらおうと思っているしな。
  ――我らに気がついたことは褒めてやろう。出て来い。お前たち。」
レビフォアがいったその刹那。
キッン!
それと共にガウリイ達の頭上より響く金属の音。
それは、そのまま間合いをとり、前の通りに着地してこちらとの間合いをとる。
「――出ましたね!グライアさんを付けねらう悪の手先!」
その姿をみて何やら言い放っているアメリア。
今攻撃してきたのは、いうまでもなく。
コードヴェル兄弟の父親が元となっている魔族――【グランシス=コードウェル】。
それと共に別の殺気があたし達に向けられてくる。
大きさは人と同じ。
というか平均的な人間の大人の大きさと同じくらい。
左手よりでてくるそれは、その両手にロングソードを構え、
――その顔、というか顔そのものがないその体をゆっくりとこちらにむけて、鎌首を構えているけど。
そして。
ピッシャン……
水音が滴る音と共に、一番後ろにいたあたし達の横手の建物より、ずるり、と這い降りてくる一つの物体。
そして。
「うわぁぁ~!?」
「面妖な!?」
あたし達の横の建物より女の首がぶら下がっているのを目の当たりにして。
何やらそれをみて腰を抜かしているジェイドに、震えながらも剣を構えているグライア。
小さく揺れる黒く伸びた髪に端正な顔にどんよりとにごった瞳。
色を失い、小さく開いたその口から、もれ出る水が髪を伝って道にと落ちてはじけてゆく。
首から下には無数に伸びている人間でいうところの血管もどきのような蔦がうねり。
たゆたいながら、壁にとはりついていたりする。
「……四体…か。」
それをみて、はき捨てるように行っているゼルと。
ひっく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!気味が悪いですわ!!」
いって顔を多少ひきつらせ、何やら叫んでいるシルフィール。
それとともに。
ざっ!
それから発せられる殺気をうけ、思わず左右に飛んでいるルーク・ミリーナ・グライア・ジェイドの四人。
それと同時に。
ぶぴしゅっ!
それの口から吹き出した水が奔流となり、あたし達がいた路地の地面を薙ぎ裂いてゆく。
「そうでもないわよ?ゼル♡あ、気をつけて♡このミアンゾは分裂を得意としてるから♡」
――ぴっし。
あたしの言葉になぜか固まり。
そして。
ぎこちない動作で、ギギィ…とあたしの方を振り向き。
「……まじですか?」
あたしに聞いてくるアメリアに。
「――貴様、何者だ?我が名のことといい……ミアンゾのことまで言い当てるとは……」
何やらあたしをみて言ってくるレビフォアだけど。
「内緒♡それはそうとして、どうする?あたしやユニットがやってもいいけど♡」
「あ!私も少し遊びたい♡」
ずさっ!!
そんなあたしとユニットの言葉に同時にずざっと退きながらも。
「いや!オレ達で何とかするから!」
「そうそう。お前らはこの二人でも守ってててくれ。」
「私たちだけで十分です!」
なぜか涙目になって、間髪いれずに言ってくる、ガウリイ・ゼル・アメリアの三人。
そしてまた。
「!?シルフィールさん!?それは!?」
一人ぶつぶつと何やら唱えているシルフィールに気づき、驚愕の声を上げているミリーナ。
「?何か貴様たちからものすごい負の感情がでてるんだが……。
  しかも、その女とその子供に対して……」
ガウリイ達とあたし達を見比べつつ、そんなことをいってくるレビフォアだけど。
シルフィールが何を唱えているのかにまったく気づいてないし。
「――おい!?」
それに気づきルークが声をかけてるけど。
こんな魔族達をいちいちあいてにしていたらキリがありませんわね。
結界内部ならば、町中で術を放っても大丈夫なはずですし。
そう心で思いつつ。
そして。
「――竜破斬ドラグスレイブ!」
「なっ!?」
シルフィールが放った竜破斬が、レビフォア。
そして、その彼の後ろに本体を隠していたミアンゾを、彼らが叫ぶ間もなく包み込んでゆく。
たかが、『人間風情にこちらは四人。』というのは大げさだと思うが、
命令で何としても『あの男二人と関わったモノたちは消せ。』といわれておるしの。
そんなことを思っていたレビフォアではあるが。
「……がっ!ぐっ!?こっ…のっ!?」
その瞬間、精神世界面アストラル・サイドにと逃げ込み、直撃をかわしたレビフォアが、
シルフィールに向かって憎悪の視線を投げかける。
――と。
ザッン!
シルフィールが放った竜破斬をみて一瞬動きが止まっていた頭がヒドラもどきの魔族を、
ガウリイがその本体である精神体ごと、いともあっさりと叩き斬り消滅させる。
そして。
こくり、と顔を見合わせて万が一、レビフォアが生きていたときの考えて、
螺光衝霊弾フェルザレード!」
青魔烈弾波ブラムブレイザー!」
二人同時に術を解き放つ、ルークとミリーナ。
「くっ!?ミアンゾ!!」
ざっ!
その術が直撃する直前。
レビフォアがミアンゾを呼び、
地面より十六体のミアンゾの頭がその蔦のような蔓をもっている状態で、レビフォアの前をふさいでゆく。
と。
「……ああぁぁぁ……ぎゃっ!?」
それと同時にルークとミリーナの放った術がレビフォアの前のミアンゾたちを包み込み。
それはやがて、か細い悲鳴と共に、やがてその場からミアンゾは消滅してゆく。
「――…っ!?退くぞ!」
まさか、これほどの力を人間が持っているなど。
先ほどの力といい……
そんなことを思いつつ、未だに動くことなく間合いを取っていた【グライア】に向けてレビフォアは言い放ち。
その声と共に、あっさりと身を翻す。
「――あ!?逃げる!?」
それをみて何やら叫ぶグライアに。
「深追いは禁物ですよ。
  この空間はおそらく、アレが張った結界でしょうから、追いつけるはずもないでしょうし。
  下手に追いかけたら、各個分断されて叩かれる恐れがあります。」
そう、冷静に状況を分析しているミリーナに。
「おお!さすがは俺のミリーナ!」
「何度もいいますけど。あなたの。ではありません。ルーク。」
ミリーナに声をかけるも、いともあっさりと冷たく言い返されて、
多少いじけているルークの姿があったりするけど。
「――…確かに。そうですわね。……けど、どうやってここから出るのですの?」
いって首をかしげているシルフィール。
「シルフィール。いきなりドラ・スレはやめとけ。リナみたいになるぞ?」
そんなシルフィールにといっているゼル。
「ええ!?そんな!?わたくしはただ……」
そんな恐ろしいこと!
などと思いつつ、叫んでいるシルフィール。
「ふぅぅん♡ゼル♡シルフィール♡二人ともどういう意味かしらねぇ?ん♡」
そんな二人にと話しかけると。
びしっ!
なぜか固まる二人の姿。
「とりあえず、あのレビフォアさんが逃げ切ったら解除されるわよ♡――あ、ほら♡」
そんな会話をしている中。
ユニットがにこやかに言い放つと同時。

ざわっ!
ユニットの言葉と同時に、町に再びざわめきが戻ってくる。
それまで誰もいなかった通りに、こちらからみればいきなり人の姿が通りに溢れかえり。
また、町の人々からみれば、あたし達の姿は瞬間的に通りにと出現していたりする。
いつもならば、いきなりあたし達が目の前に現れたりとかしたら、驚く人々ではあるが。
今回はそんなことに気づいている人々はまったくいない。
人々にとっては、町にと向かってきているデーモンたちの群れのほうがよっぽど重要。
未だに右往左往と町の中は人々でごったがえしていたりする。
「―……なるほど。」
「……けど悠長にはしていられないみたいですわね。」
辺りに人々の姿を出現したのをみて、つぶやくルークに。
一点の方向をみつつ、額に一筋の汗を流しつつ淡々と言っているミリーナ。
「はっ!そういえばレサーデモンたちがこの町に向かっているんでした!とめないと!」
ふとそのことを思い出し、そのままダッシュをかけているアメリア。
そんなアメリアが走り出すと共に。
「いやぁ。シルフィールさん。いきなり竜破斬ドラグスレイブを放つとは。
  さぞやレビフォアさんたちは驚いたでしょうねぇ♡あっはっはっ♡」
レビフォアたちの気配がこの町から完全に遠のいたのを受けて再び姿を現しているゼロスが、
にこやかにアメリアに続いて走り出しているシルフィールの横で話しかけていたりする。
「――そういうあなたはどこにいたんですか?ゼロスさん……」
そんなゼロスに冷ややかに言っているシルフィールに対し。
「いやぁ。僕はあくまでも傍観者ですので♡」
にこやかに言い切るゼロスの言葉に。
「……相変わらずのお役所仕事は健在か……」
ため息をつきつつ言っているゼル。
「まあまあ。そんなことより。そろそろつきますよ♡」
すでにあたし達の周りには、あたし達以外の人影はなく。
町の出入り口の広場にはほうり出されたままの露店が無人の軒を連ねている。
そして。
そのさらに向こう。
北へと伸びる街道のその辺りに、ちょっとした数のうごめく影の姿が見え隠れしていたりする。
それをみて、なぜか足を止めるあたしとユニット、ゼロス以外の全員。

そして。

「――…まさか……」
「あれ全部すべてですかぁぁ~~!!??」
つぶやくミリーナに何やら叫んでいるアメリア。
「かるく数百はいるみたいね♡」
あたしの言葉に。
「……下手すりゃ、ある意味。さっきの魔族どもよりも面倒なんじゃぁ……」
それをみて呆然といっているルーク。
「――?その必要はないとおもうぞ?」
「?ガウリイ様?」
ガウリイが少し先にいる白い物体をみてそうつぶやくが、
ミリーナやシルフィールたちの目にはみえていない。
シルフィールがガウリイに問いかけたその刹那。
同時に。
ぴかっ!!
何かが光ると同時に、道の先にひしめいていたデーモンたちがまともに吹き散らされていたりする。
あらあら♡
またやってるし♡

              -続くー

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あとがき:
薫:最近ものすっごく眠いです・・・というか、頭の中が決算で、こんがらがっている。
   というのもあるんでしょうけどね・・・
   とりあえず、次回で、メフィとミルガズィアの登場ですv
   んではでは。
   また次回にて。
   2005年4月2日某日

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