エル様漫遊記・クリムゾンの妄執偏

「…姉…さん?」
ベルの言葉の意味がわからずにつぶやくアリアに。
そっと、アリアの肩をだき、自分から引き剥がし。
「――カイラスは…こうなるべきだったのよ……
  反逆者の汚名をきて……名誉も命も失う……こうなるべきだったの……
  ……このわたしからあの人も…あの子も目の前で奪っていき…幸せを奪ったのだから……」
そんなベルの言葉に、はっとなるアリア。
――今、『あの子も目の前で』って……姉さん…そういわなかった?
そうアリアが戸惑うのと同時。
「…カイラスは…笑ってたわ…産まれたあの子が…男の子だったからって用はないって……
  わたしの目の前で呪文で粉砕しておいて……わらってたの…
  …あの子が産まれたとき…わたしとカイラスしかいなかったのに…
  …そして…何事もなかったかのようにまたわたしを犯し始めたの……
  だから……カイラスを変えるように仕向け……みんなも変えさせたの……
  反乱を起こさせて……ふさわしい汚名とともに死にゆくように…って……」
そうつぶやくように言うベルの言葉をさえぎり。
「な…何をいってるの?姉さん?『わたしがかえた。』って……」
戸惑うアリアに。
「……わたしね。アリア。
  あの人の子供がいたから…カイラスにあの人のなきがらの前で犯されても生きようと思ったの……
  ……あれは悪い夢だったんだって思うようにして……
  でもね?アリア…あなたがわたしと同じような目に……
  ……あなたが複数の男達にいいようにされて……あの人のところに送られてもいいのか?
  …ってわれて…カイラスが求婚してきたとき…わたしははねつけようとした……
  …けど…そういわれ…できなかった……逆らえなかった……
  アリアまで犠牲にさせたらいけない…死なせてはいけない…って…
  ……そのためにはいうことを聞くしかない…って……
  あの人の子供がいるから平気だって思うようにして……
  けどね?わかったのよ。心のそこには憎しみが少しづつ積もっていつていたことに……
  だからだから…だから、あの人との子供をカイラスに殺されたとき……わたしは……
  だからこそ……カイラスに彼女からもらったアレを渡し……反乱をするように仕向けたのだから……」
表情一つ変えずに、淡々と言い放つベルに。
「嘘!うそ!うそよ!そんなこと!
  だったら…だったら私は姉さんと戦っていたことになるじゃない!
  だって…姉さんにできっこないもの!そんなこと!
  姉さん、魔道のことなんて何にも知らなかったじゃない!それなのに…できっこないよ!」
首を横にふりつつ、震える声で叫ぶアリアに。
「……そうね。わたしは魔道のことなんて何も知らない…カイラスは結婚したわたしを閉じ込め……
  ほとんど外に出さずに幽閉状態にして毎日のように迫ってきたから……
  魔道の知識を覚えることなんて……できるはずも……
  そのときのわたしはあの人との子供を守ることで必死だったもの……」
いくら嫌いな男にその身を汚されようと自我を保っていたのは、
愛する人との子供の存在があったからこそ。
そんな彼女の言葉に。
「――つくづく、あのカイラスって男は最低ですわね……」
ベルの気持ちが痛いほどわかり、はき捨てるように言い放つミリーナ。
「同感。」
それにつづいてうなづいているルーク。
「すべてを憎んでも何の力もなかったわたしにあのひとが力をくれたの。
  ……名前も教えてくれなかった。けど…わたしが力を欲しているのに気づいてくれた……
  そして……力をくれたの。カイラスだけを殺そうと思えば簡単だったわ。
  …でも…それだと許せなかった……
  カイラスの所業を知っていて見て見ぬふりをしていた町の人達が……そして国が……」
いいつつ、すいっと窓辺に近づき、窓を背にしてそしてあたし達の方をふりむき。
「……だから、カイラスと同じ穴のムジンであったアイレウスを操って……
  『カイラスが留守の間に旅の商人が魔力剣を持ってきた。』そういわせるだけで……
  ……あとは簡単だったわ……。カイラスは前からいっていた。
  自分は王族の血縁者なのに追いやった国の中枢部にいる王族の人々より、
  自分のほうがより国王にふさわしい…って……
  だから――力を手にいれればカイラスが反乱を起こすのはわかっていた…
  あのひとから聞いてカイラスが合成獣の実験をしていた、ということも知っていたから……
  ほうっておいてもカイラスは人々を……自分の手ごまにするために変えていった…
  ……わたしの思ったとおりに……」
そう淡々と遠くをみつつ視点の定まらない表情で話しているベルの言葉に。
「そういえば…カイラスさんって人。町を出ようとした人達とか、住んでいた人達とか使って。
  昔から合成獣キメラ研究してましたっけねぇ。別に問題ないので僕らはほっときましたけど♡」
にこにこと、そんなベルの言葉に笑みを浮かべて言うゼロスに。
「――あなたたち魔族にはそうなんでしょうね……
  ……獣王ゼラス=メタリオムに仕える魔王の五人の腹心たちの次に実力を持つ……
  別名、『竜を滅するものドラゴンスレイヤー』――獣神官ゼロス……」
ドゥールゴーファと同化しているがゆえに、さらりとゼロスの正体をあっさりいうベルに。
「嘘よ!姉さんっ!……って…ま…ぞ…く?」
ベルに向かって叫び…そしてふと、
今のベルの言葉を思い出し、思わず、掠れる声でつぶやきゼロスにと視線を移すアリア。
「ベルさん♡僕はその名前は好きではないので♡
  僕のことは謎の神官、とか怪しい神官とか呼んでくださいね♡」
「もしくはパシリ神官。ね。」
「…しくしく…リナさぁん……」
しごくもっともなあたしの言葉になぜかしくしくいじけ始めているゼロス。
「まあ、ゼロスはほっといて。でもね。まあ気持ちはわかるけど。けどベル?
  あなたが闇に染まるのを純粋に止めてくれ。って願っている魂が二つ。
  あなたの側に常にあるのよ?最も、今はドゥールゴーファがそれ押さえてるけど。
  閉じ込めといて…二人からの負の感情を楽しみつつ、食べているみたいね。
  ってことで、ドゥールゴーファ?ベルの子供とベルの恋人のアロンを開放なさいな。
  ――まさか、この【あたし】の言うことが聞けない訳ないわよねぇ♡」
びくくくうっ!!
ゆらっ。
あたしの言葉と同時、ベルの横にと浮ぶ一つの影。
「「――あれはっ!?」」
それをみて、叫んでいるルークとミリーナとは対照的に。
「おやおや。ドゥールゴーファさん♡お久しぶりです♡困りますよぉ♡
  覇王様やシェーラさんはきちんと連絡をゼラス様達と取っていただかないと♡
  ――ですから、又リナさんが面白がって…もとい、関わられることになったんですよ?
  ま、自業自得ですね♡」
にこやかに言っているゼロス。
そんなゼロスの言葉に。
『……シェーラ様の命令でこの女に手を貸し同化したまで……ですが…わかりました…開放しましょう……』
何やらカタカタと、その刃身というか、剣の姿そのもの、
というかそのこの場に残されている精神体そのものすらをも震わせつつ。
そのベルの横に浮んでいるソレがあたしにむけて言ってくる。
「「――な…何っ!?」」
理解できていないアリアとディラールがそれをみて、何やら驚愕し、驚きの声を上げてるけど。
「――アリア…御覧なさい。これがわたしが彼女からもらった力なのよ?――ね。ドゥールゴーファ。」
いって自分の横にと浮んでいる剣にと手を伸ばすベル。
そして。
「…ごめんなさいね。あなたたち関係のない人まで巻き込んでしまって……
  でも……すぐに終わりますから……たとえカイラスがどんな男だったとしても……
  罪のない子供たちまで巻き込んだわたしのやり方が正しかった、とは思ってません。
  わたしも死にます。あの人以外の男に…それもカイラスに穢され……
  理由はどうあれ、あの人を裏切ってしまったわたしは生きていてもしかたありませんし……
  ですが…カイラスには反逆者の汚名を着てもらわなければなりません……」
いって、あたしに視線を移し。
そして。
ドゥールゴーファの【知識】からこの【あたし】が【誰】か―といっても正確ではないけども。
だが、しかし、彼女は実は両親がまだ生きていた小さいとき、
ゼフィーリアの旅人から、この【あたし】のことを聞き知っている。
その【記憶】とドゥールゴーファの【知識】が一致し。
「―――虫のいいお願いだ。とは思いますが……
  ……アリアを……そして罪のなかった町の子供たちを……よろしくお願いします…
  ……わたしの命をもって…カイラスがすべての元凶であった…と世間には……」
ベルが何をいいたいのか理解できないルークとミリーナが首をかしげ。
そして、次の瞬間。
『――まさか!?』
とある可能性に気づき、二人が叫ぶのと同時。
ドシュッ!!
「ね……ねぇさぁぁん!!!」
その言葉とともに、ベルはその手にしていたドゥールゴーファを自らの胸にとつきたてる。
「アリアちゃ……!」
「姉さんっ!」
押しとどめようとするディラールの手をふりほどき、アリアはベルにかけより。
そして。
ベルの手の中の剣を引き抜こうとする。
――が。
その剣というかドゥールゴーファで貫いたベルの胸の辺りから徐々にベルの体は黒く染まってゆく。
そして。
「―――アロン…そして坊や……ごめん…な…さ……い……」
ドゥールゴーファで胸を貫くのと同時に、
その中に自らの愛する人と、そして抱擁することすらかなわなかったわが子の姿を認め…
そして瞬時に悟る。
自分の側に常に駆られがいたことを。
自分の憎しみを増させるためにとドゥールゴーファが二人の魂を閉じ込めていたことを。
涙と共に、ベルの体はそのまま黒く染まってゆく。
「姉さっ!…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ばちっ!!
必死に姉が姉自身につきたてた剣を引き抜こうとするアリア。
剣にと手を伸ばしていたアリアの体が瞬間、黒い稲妻によってはじかれる。
そして。
どっ!!!
それでも剣から手を離さなかったアリアはといえば。
力を入れて抜き放ったソレがそのままくろい稲妻によって手からはじかれ……
そのはじかれた瞬間に手を離し、倒れているアリアの体の上にと鈍い音とともに突き刺さる。
それとともに。
ドゥールゴーファがベルから食べていたベルの記憶が、アリアの中にと瞬時に流れるようにと伝わり。
「…ねぇさ…ごめ…ん…なさ…い……」
そのまま、黒い稲妻に包まれるようにして――アリアも体も又、ベルと同じように瞬時に黒く染まり。
そして、次の瞬間。
そのまま二人の体は黒い塵と貸してゆく。
それはほんの一時の間にも満たない出来事。
「ア…アリアちゃんっ!?」
それをみて、悲鳴をあげているディラールと。
そして。
『ここでの用はすんだのて失礼します……』
ふっ。
アリアとベル。
二人の体が塵と化すと同時、声をこの場に響かせそのまま精神世界面アストラル・サイドに掻き消えるドゥールゴーファ。
あらあら。
このあたしがこのままほっとく、とでも思ってるのかしら♡
そんなドゥールゴーファに少し力を加えると同時。
『ギャッ!?』
何やら小さく声を上げ…そのままこちらに残されていた分身体は瞬く間にと精神世界面アストラル・サイドより消滅する。
ソレが消滅するのとほぼ同時。
「……今…何が…ベル…さんは?アリア…さんは?」
震える声で黒い塵と化した二人の、床に残っているあとをみて呆然とつぶやくミリーナ。
「どうやらベルさんは自らの命で――この旅の償いをしたかったんでしょう。
  悪いのは彼女でなくて。
  あの『カイラス』とかいう男の所業をしってても、ただ王族の血縁者だからって。
  断罪することなく、その王族としての権利だけを剥奪して、おいやった王家の人々と。
  自分たちかわいさに、彼が何をしようがしらんぶりしていたこの国の上層部の人達と…
  王家を敵に回したくないからって、その所業をしっていながら見てみぬふりをしていた。
  そんなこの町の人々の体制にあるのにね。
  しかも、国ににらまれるのが怖くて町ぐるみで隠蔽工作もしていたようだし。」
静かにいいつつ、二人の人の形だけが床に黒くかろうじて残っているその部分にと手をつくゆくっと。
と。
ふわっ。
その黒き人型の部分から、四つの光の球が浮き上がる。
「はい。リナ。もうどうするかきめてるんでしょ?」
いって、その四つの光の球――
つまりは、アリア・ベル・ベルの婚約者のアロン。
そして名前を死んだ後につけられたアロス…つまりはベルとアロンの子供。
その四人の魂の球体をあたしに手渡してくるユニット。
「ま、方法はどうであれ、ここで生き返らせてもベルはすぐに自殺するでしょうしね。
  あの状態のままだと。だから―――するのよ。」
「「「???」」」
あたしの途中の言葉というかその言葉の意味すら理解できず、
聞き取れずに首をかしげているルーク・ミリーナ、そしてディラールの三人。
そして。
「?それは?」
いって、あたしの手のひらの上にと浮んでいる四つの球体をみて問いかけてきているルーク。
二人を助けれなかったことをかなり悔やんでいるようだけど。
「ああこれ?ベルとアリア。
  そしてベルの側に常にいたベルの恋人のアロンに、カイラスに産まれてすぐに殺されたベルの子供
  さっきベルやカイラスが言ってたでしょ?。その四人の魂よ。」
―――特にこの赤ん坊。
自分の存在そのもの。
つまりは魂そのものが消滅してもいいから両親を助けてほしい。と願ってるし。
純粋に、魂だけの存在で、生れ落ちてすぐに殺された、というのにもかかわらず。
アロンにしては自分はどうなってもいいからベルを助けてほしい、と純粋に願ってるし。
ベルは…自分自身を責め続けているけど。
ゆえに、自分は完全に消滅してかまわないから、
だからこそ、子供と恋人が次に生まれ変わったときには彼らが幸せでありますように、と願ってるし。
本当、人間って自分のことよりも他人のことを優先するところがあるからねぇ。
そういうようにした、というかそういう面をも持たせたのも他ならないあたしだけど。
さらり、と答えるあたしの言葉に。
「――生き返らせることは…できないんですか?」
リナさん、今までも簡単にそんなことしてましたし…
そんなことを思いつつ、声を震わせあたしに聞いてきているミリーナ。
そよそよと、外からの風が部屋の中を突き抜ける。
「このまま生き返らせたとしても。それでどうなるの?
  アラアには自分のせいで姉がカイラスのところに嫁いだ事実を責め続けて?
  ベルは生き返らせてもすぐに命を絶つでしょうね。ベルの恋人を生き返らせたとしても――
  ま、それは魂はここにあるから不可能ではないしね。
  でも、ベルは自分をこのままだと許せないでしょうし。
  ミリーナ?あなたなら…どう?ベルの立場だったら?」
あたしの問いかけに。
「―――……そう…ですわね………」
いってそのままうつむくミリーナ。
生きていれば、出来ることも出来ないこともまたあるけども。
つらい記憶を持ち、生き返ったとしてもそれは……
それでも生きなければならない、というのが本来なれど、
だがしかし、死人を生き返らせる、ということがどのような結果を生むか……
それらを考え黙り込むミリーナ。
「ま、このままじゃああまりに気にの毒だしね♡
  でも、ここで生き返らせたとしても彼らは幸せにはなれないし。
  だから別の場所で生き返らせて新たな生活を始めてもらう。というのがベストでしょうね。」
そんなあたしの言葉に。
『…別の場所で…って……』
などと津ヴ焼いているルークとミリーナ。
そして。
「けどリナ?それでもあのベルさんは生き返っても死を選ぶんじゃあ?」
いって、あたしに問いかけてくるガウリイの言葉に。
「このままだったらね♡だ・か・ら♡
  ディラールに対するお仕置きを、女性の姿に変えたんじゃない♡」
『――は??』
意味がわからずに動じに間の抜けた声をだす、ルークとガウリイ。
そして。
「ああ、なるほど。カイラスさんに関する記憶をそこのディラールさんにおしつけて。
  もとい引き取ってもらって。そしてちょっぴり時間や空間、
  そして記憶をいじくって生き返らせるわけですか♡後はどうとでもなるでしょうし♡」
ぽんっ。
あたしの言葉にぽんと手をうちつつ、にこやかに言っているゼロス。
それに、エル様が【再生】されるのならば、どうとでもなりますしねぇ。
肉体の時間率とかその他もろもろのこどても。
そんなことを思っていたりするゼロスだし。
ま、そうだけどね。
ゼロスがにこやかにそんなことを言っている間にも、
一人目の前でアリアとベルが消滅したのをうけ、未だに混乱しパニックになっているディラール。
「「……いや、どうとでもなる……って……」」
いったい、このリナ(さん)って……
そんなことを二人同時に心で思いつつ、つぶやいているルークとミリーナ。
「――とりあえず♡ディラールに引き受けてもらいますか♡」
パチン♪
あたしが指を鳴らしたその刹那。
四つの魂の中からカイラスに関する記憶が抜け出て、
そしてそれはそのままディラールの脳内にと直接に移動してゆく。
それと同時に。
四つの光の球は天井にむけてうかびあがってゆき、次の瞬間には瞬く間にこの場から掻き消える。
そんな同じような光景が待ち中にて起こっている事実は、当然ミリーナたちは気づいてないし。
ま、どうでもいいけどね♡


                            -続くー


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あとがき:
薫:のこり、あと5ページですv
  次回、ちと哀れ?(まて)なディラールと。
  そして・・・アリアたちのゆくすえ(までいけるかな?)をお送りします。
  ではでは、また次回にてv
  2005年3月11日某日


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