エル様漫遊記・アトラス偏


こんこん。
ドアにノックを二度叩く。
「誰だ?」
デイミアの使用人が出てくる。
なぜか、あたし達をみて固まっている。
「……何のようだ?」
どうでもいいという口調のその言葉。
あらら…こいつ、仕事する気ないわねぇ……
「すいません。あたし達、デイミアさんに聞きたいことがあるんですが。」
なんか、さんづけするのが馬鹿らしいけど。
いきなり、呼びすて…というわけにもいかないからねぇ。
あたし的にはかまわないけど。
後ろでは、ランツとガウリイが硬直してるし。
「……何をだ?」
「ハルシフォム評議長のことでお耳にいれたいことがありまして。
  何なら、ここで言いましょうか?外に聞こえてかまわなければ。」
あたしにしては、丁寧な言葉遣いよね♡
そんなあたしの言葉に、かなりあわてて、
「ちょっ…ちょっとまてっ!!すぐ戻る!!」
あわてて、奥へとひっこんでゆく。

まつことしばし。

「入れ。」
あたし達は、いともあっさりと家の中へと招きいれられてゆく。

扉をくぐり、ガウリイとランツは足をとめる。
ちょっとした広さの空間が広がっている。
まあ、そんなに広くないけど…人としてみたら広い程度といえるだろうけど。
扉の先にあるのは、正円形の部屋。
この部屋のみで、この屋敷の四分の三の広さを閉めている。
そこに、床いっぱいにかかれた巨大な魔法陣。
破邪を意味する北を頂点とした五芒星。
破法封呪ルーンブレイカーと呼ばれているもの。
五芒星を使った結界を作り、その中での魔力干渉を弱める。
つまり、精神世界とのつながりをちょっぴし弱める役目を果たす代物。
この術の特徴は、その結果意の力が陣を作った術者の力量ではなく。
ただ、単にこれは結界の総面積に比例する。
ある程度の大きささえあれば、誰が作った結界であろうとも、
魔道士の一人や二人の術を封じ込めることができる。
あくまでも人の力量で換算すればだが。
竜などの魔力容量を持っているのを封じようとしたら、
まず一つの国以上の広さをもつ、陣を必要とする。
だけど、それくらいの大きさのものだと、逆に死の世界を招くことにもなるけど。
あたしにとっては、例えどんな大きさのものだとしても関係ないけど。
部屋の反対側には祭壇があり、その前にたたずんでいる一人の男性。
ぎょろりとした目はおちつきがなく、きょろきょろと始終動いている。
半分はげあがった頭。
漆黒の髪とひげ。
その顔には、狂気の笑みが浮かんでいる。
精神がちょっとばかり蝕まれているようだけど。
「……ミスター、デイミア?」
ランツが声をかけると、ずざっと退き。
「タリムの客か!」
いきなりかん高い笑い声とともに、狂気の声を発するデイミア。
ガウリイとランツは、なさけないにもたじろいでいる。
「ふふはふはふは、やはりそうだったか!!やはりそうか!!あのひきがえるめ!!
  わたしにあんなことをやらしておいて、最後は私を殺すつもりだったんだ!!
  ひはひは!!そうとも!!ひはは!!私には始めから解っていたのだ!
  そんなことは!!知らないと思ったのか!この私が!!ひはは!!」
完全に目が精神錯乱しているのを物語っている。
別に、ちょっと魔族にちょっかいをかけられた程度で錯乱しなくても。
しっかも、あぁぁぁぁんな下っ端に。
思わず、顔を見合わせているガウリイとランツ。
……おいおい。いっちゃってるよ。このおっさん。
そんなことを二人して思っているみたいだけど。
「やだよぉ、兄貴、このおっさん、完全にキレてますぜ……」
「泣くな……。泣いてもどうにもならん……」
ガウリイとランツが二人でぼやいている。
なおも、反対側で意味不明の言葉をつぶやき、高笑いを交えながらひはひはいってるデイミア。
「あのねぇ、あたし達は、別にあんたに危害くわえるつもりはないんだけど?」
あたしの言葉に。
「よくもまあ、口からでまかせを……」
「五月蝿い!」
ぼぐっ。
とりあえず、見えない塊でランツをどついておく。
「刺客じゃない?・そうか!!はひはひ!!わかったぞ!!
  そうとも!!わかっているんだ!!タリムの刺客じゃないことは!!
  お前たち、この私のかわいい、合成獣キメラ達を盗みにきたな!」
まったく…あの程度で完全に精神が錯乱してるし……
「わかっているとも!!しかし、わたさん!!
  あれは、私のかわいい、かわいい、子供達!!
  渡してなるものか!!わたさんぞ!!はひひひ!!」
はぁ……
「違うってば。刺客でもないし、盗賊でも、強盗でもない。」
「……強盗じゃ…ない?」
まじまじとあたし達をみるデイミア。
「はひひひ!!そうか、わかったぞ!!強盗じゃないということは貴様らタリムの刺客だろうが!!」
どでっ!!
面白いことに、その言葉にガウリイとランツがその場にてこけている。
あたしは思わずこめかみを押さえてしまうけど。
…まったく……
ちょこっとあいつに精神を乱されたくらいで、どうしてここまで錯乱するのやら。
あのギオとかいうやつがデイミアの精神自体そのものに、
何やらちょっぴしチョッカイかけているからみたいだけど。
だからといって、この人間は情けないったら。
そんな程度で錯乱するなんて…ねぇ?
「…そもそも、まともな会話を期待しようというのが間違ってたわけだな。」
そんなデイミアをみつつ、ぽつりとつぶやいているガウリイ。
「そうですね。…ここまで、いっちゃってるとは……」
ガウリイに続いてランツもまたつぶやいてるけど。
何はともあれ、そのまま無視して一歩ディミアのほうにむかって近づくと、
ランツとガウリイもあたしの後ろからあわててついてくる。
「く…くるなぁ!!こっちにくるんじゃない!!
  ふははは!!貴様ら、下賤の身の分際で、この青のデイミアを傷つけるつもりか!?
  できはせん、できはせんぞ!!そんな真似は!!」
誰が下賤な身だか。
「それ以上、近づくと……近づくと……」
「近づくとどうなるって?」
ランツがディミアの言葉に思わず突っ込みをいれてるけど。
ランツの言葉をうけて。
「こうなる。」
ぐい。
がこん。
デイミアが手近にあった紐をくいっと引っ張る。
『あ』
床にと描かれていた足元の魔法陣が、そのまま落とし穴に早変わり♡
そのままあたし達は床にあいた穴から地下にと落ちてゆく。


「リナ!!!魔法で何とかしろ!!」
ガウリイがいってくる。
けど。
「何言ってるのよ?上に戻るんじゃなくて♪
落下するわけでもなくて、下に降りるわよ♡」
『は!?』
あたしの言葉に、なぜかランツとカウリイが同時に声を上げてくるけど。
穴を閉じた上の部屋では、一人でまだデイミアはわらっていたりする。
声が少しばかり響いてきてるし。
「何で降りるんだよ!!上にあがるんじゃなのいかよ!!」
ランツがわめくけど。
用事があるのは下だってば♡

びちゃん。
少しして、あたし達三人は、とある水ばっかりの場所にとたどり着く。
真っ暗で、普通なら、何も見えないその空間。
ま、あたしには全然暗さなんて関係ないけど。
ひとまず、ガウリイたちも水面上を歩けるようにちょっぴっと干渉を加えてたり。
そのまま水面上にと立っているあたし達。
「ここにいても、何だし、移動しましょ♡
  あ、普通に歩けるように、術かけてるから♡歩いていってね♡」
水面上に立ちながら、横にいるガウリイたちにと話しかけると、
「……っていっても…こう暗いんじゃあ……」
ランツが何やらぼやいてるし。
この程度で暗いなんて……視力、わるいんじゃないかしら♡
「あっそ。明りライティング。」
いって光の球を部屋の空中へ放り投げる。
今回は昼間の明るさ程度にと明るさは抑えてあるけど。
それとともに、光があたりを照らしだす。
「こ…ここは!?」
ガウリイが水面に呆然とつっ立ったままでつぶやき周囲を見渡しているけど。
見渡す辺り、一面に水が広がり。
水面から上には、
小さな部屋がいくつかつくれるくらいの太さを持った柱が、少しだけ顔を覗かせている。
あたし達が水面上を歩いて移動して今いる場所も、その中の一つ。
プールの形は、綺麗な正円形。
五本の柱で北を頂点とした五芒星を形成している。
「……な…なんだ?ここ……」
呆然としつつ、何やらランツがつぶやく。
辺りは一面の水の張られたプール。
部屋中が、水に埋まっている。
「あら。だから破法封呪ルーンブレイカーよ。」
あたしがいうと。
「何だ?それ・・いや、なんですか?」
ランツが言い直しつつも聞いてくる。
「簡単に説明すると、この中ではというかこの結界の中では。
  普通なら、呪文の力が弱まるって代物よ。あたしには、何の影響もないけどね♡」
詳しくこの陣の説明をしても理解不能だろうから、簡単に説明しておく。
「けど?何だって、水なんかが張ってあるんだ…?ここは?」
水の中を覗きこみながらガウリイがいってるけど。
「まあ、デイミアが水と愛称がいい。人でいうところの曰く、水のステータスを持ってるからでしょ。」
「何だって?」
あ。
やっぱしわからなかったわね。
ランツは、完全に首をかしげている。
ガウリイも解ってない。
「ま。すっごぉぉく、簡単に説明すると。人を例えて、狐みたいとか猫みたいな性格とかいうでしょ?」
「……ふむ。」
あたしの言葉に間をおいて、うなづくガウリイとランツ。
「つまり、魔法にも似た様なことがいえるわけで。
  火と相性がいい人。水と相性がいい人。なんてのがあるの。」
まあ、この説明は、風火水土の精霊呪文に限ってのことだが。
黒魔術、精神世界を応用した精霊魔法、白魔術に神聖呪文等やその他全てにいたるまで。
それら全てに説明を拡大すると、まず理解不能だろうしね。
というか説明しても、混乱を招くだけと判りきってるし。
まあとりあえず、その辺りは無視して説明するあたし。
世の中の仕組み、というか世界の成り立ちの仕組みを完全に理解したら、誰でも出来ることだけど。
それがなかなか…本当になぜか……なぜかなかなか出来ないのよねぇ。
多々といる存在達って……なっさけないことに。
「で。たとえば。水と相性がいい人が、水に関係する術を使った場合。
  その効力が増すなんて現象が起こるのよ。」
「…つまり、水のステータスがあるっていうのは、水と相性がいいってわけか?」
ガウリイがいってくる。
「ま、そういうこと♡そういった、タイプの人は、
  術に何らかの形で、その要素を関らすことによって、術の力を増すなんてこともできるの。
  たとえば、結界に水を張ってその力を増量する…とかね。」
「ふぅん。」
ガウリイはあたしの説明に腕をくむ。
「つまり、デイミアは魔法を弱らせる結界を作り、
  それを水浸しにすることによって、その効力を増した・・ということか?」
しばし考え込て、ランツが何やらそんなことをいってくるけど。
間違ってはあながちいないのでかるくうなづきつつ、
「そういうこと♡」
ひとまず返事をしておくあたし。
そんなあたしに。
「で…?何で降りてきたんだ?」
「ちょっとね♡」
あたしは再び、明りライティングを唱え・・別に唱えなくても出来るけど。
人目のある手前から物事には形もひつようだし♡
光の球を水の中……、つまりは水面下に叩き込む。
と。
「……あれ?」
水中で、輝く光球を眺めながら、ランツとガウリイが不思議そうな顔をする。
あらら。
「何で、水の中なのに、消えないのかって、でも思ってるんでしょ?」
『あ・・ああ。』
あたしの言葉に、ガウリイとランツは不思議そうに光を見ながら首を縦にふる。
「この『明りライティング』ってのはね、魔法の光。
  何かが燃えて、光っているわけじゃないのよ。
  だからたとえ、水の中でも、酸素がなくても、消えたりはしないの。」
あたしの説明に。
「へぇ……便利なものだなぁ……」
ガウリイがつぶやく。
「あれ?兄貴、これって……深くないかい?」
酸素って何だ?
それより…などとそんなことを思いつつ、ランツがいってくる。
そうでもないけど。
人間の視点からみたらそうともいえるかもしれないけど。
この結界の深さって数十メートル以上につくってあるし♡
「…ん?あれ何だ?」
結界の中心に何やら、巨大なエメラルドの固まりらしきものを発見してガウリイがいう。
スライムの一種に入るのだが、それが固まって沈んでいる。
中に当然のことながら人が入っている。
この人間、実は元たる魂が身体の中に入ってないのよね♡
これがあのセイグラムと契約結んでいる人間だし。
失踪したと言われている前魔道士協会豹議長、ハルシフォム。
「オレには、でっかいエメラルドの中に人が入っているように見えるんだが……」
「ええええぇぇぇぇ!!」
そんなガウリイの言葉に、ランツが思わず声を張り上げる。
「兄貴!!んな深い場所というか遠くが見えるんですか!?」
なにやら、ガウリイに言っているけど。
「いや。普通見えるだろ?」
当然のように言っているガウリイ。
「二人とも、ちょこっとだまっててね♪」
あたしは一言だけそういって、水の中へと入ってゆく。
別に濡れるわけでもないし。
ただ、水のほうが勝手によけるし♡
でもガウリイたちやあいつをごまかすためにも一応は力を使ってるようにみせかけますか♡


                               -続くー


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   あとがき:
     薫:んっふふふふ♪
       ようやく、エル様・・少しは活躍・・するシーン・・かな!?

      ま・・それでは・・・・次回で・・・・

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