降魔への旅立ち




王家の者しか入れない洞窟。
それは、山の麓に位置し。
一見しただけでは分からないように結界が張られている。
「何かこの辺りが怪しいよね?」
何でもないように言い放ち。
フィブリゾが手をすっと横に移動させただけで。
そこに。
―ガゴン。
音と共に、何かの入り口らしきものが出現する。
レイの目にはそこに入り口があるのは見えてはいたが。
どうやって入るのかまでは理解がまだできていなかった。
にも関らず、一目しただけで、その仕組みを理解し。
結界を解除したフィブリゾに感心するレイ。
「フィブリゾさま?中には何かいますが?」
そういいつつ、どこか声が震えている様子のシェーラのその言葉に。
「そうみたいだね?ま、何とかなるよ。」
そういいつつ、口に人差し指をあてて、にっこりするフィブリゾ。
「サファイア、離れるんじゃないよ?」
「うん!お兄ちゃん・・・。」
兄の言葉に従って、ぎゅっとレイにと抱きついてくるサファイア。
そのまま。
山の麓にぽっかりと開けた何らかの遺跡の入り口に向かい。
足を進めてゆく彼ら四人。



中に入ると。
― ここは、王家の血筋以外のものが入ることはまかりならん。
― 無関係のものにはそれなりの裁きを・・・。
その言葉と共に。
ごばっ!
おそらく古から、何らかの術が施されているのであろう。
部屋一杯に出現する、異形の存在。
― 人々がレッサーデーモンやプラスデーモン。
そして・・・。
どうみても、人でない姿をしたもの・・・。
精神体を実体化している、生き物・・。
即ち・・・魔族。
「ふぅん?僕達の邪魔するの?いい度胸だね?君?」
にっこりとそう笑うフィブリゾの言葉に。
ぴくり。
『人間風情が・・・。』
そういいつつ、表情をこわばらせて。
人の言葉を紡いでゆく、体全体をねばねばした何かで覆い。
そして。
手足が八本あり、目は四つ。
口は八つあるそんな物体。
「フィブリゾ様、ここは、私にお任せを。」
そういいつつ、すっと前に出るシェーラ。
その言葉に顔をさらにしかめて。
『人間風情があの御方と同じ名前を名乗るんじゃない!』
不快感をあらわにしているそれ。
「シェーラ、ほどほどにね?」
くすりと笑って移動するフィブリゾ。
「?フィブ?シェーラさん一人に任せておいて。いいの?」
彼女の実力が高いのは。
旅の中でわかってはいるが。
だが、相手はくさっても魔族。
一人で相手をするなどとは・・・。
「大丈夫だよ。あんな雑魚。」
そういいつつ、くすっと笑い。
「それより、早くその地下にあるとかいう『知識』を手にいれるのが。先だよ?レイさん?」
そういってにっこりと微笑むフィブリゾのその言葉に。
「私なら大丈夫ですわ。―こんな雑魚、ドゥールゴーファ。」
そういって手を横にすっと伸ばすシェーラのその手に片刃の黒い剣が出現する。
確か先ほどまで腰に刺していたはずの剣である。
まあ、彼らに常識があまり通用しないのは。
この旅の間に理解はしているが。
どうやら、魔力の応用で、その力にて。
いろいろとできるということは。
彼・・レイとてそれはできるので、あまり気にしてはいない。
「久しぶりのお食事ですわ。ふふ。」
そういいつつ、どこか怪しい笑みを浮かべるシェーラに。
どこか違和感を感じつつ。
「あまり無理はしないでね?シェーラお姉ちゃん?」
心配そうにくいくいとそんなシェーラの服のすそを引っ張るサファイアに。
「大丈夫よ。サファイアちゃん。」
くすりと笑って髪の毛をくしゃりとなで。
異形のそれに向きなおす。
「ともかく、ここはシェーラに任せて僕達は先に進もう?」
そう促され。
まあ、確かに。
彼女の実力は。
外見からは判断ができないほどに。
レイですら、未だに。
その剣の腕にはかなわない。
何しろ。
レイの剣の稽古は。
このフィブリゾとシェーラが主に行っているのであるからして。
まあ、神殿に入門していたときには。
黄金竜などを相手に稽古などもしていたりしたが。
「本当に気をつけてね?シェーラさん?」
そういいつつ。
先を進まないといけないのは、確かではあるので。
気にしつつも先を進んでゆく。
確実に、この地に向かって。
何かの殺意が向かってきているのを。
レイは確かに漠然とであるが。
感じ取っているのである。



部屋の奥にある小部屋から。
地下にと続く長い階段に差し掛かり。
やがて、レイ達とシェーラは互いに姿が見えなくなる。


それを確認し。
くす。
「古に人に召喚されし、愚かな存在よ今その束縛を解き放ってさしあげましょうね?」
くすくす笑いつつ。
すっと、片手を上げ。
剣を突き出す。
『ほざくな!人間風情が!』
人に馬鹿にされるのは好きではない。
自分達よりも遥かに劣った人間などに。
そう思いつつ、突っかかってゆくが。
― だが、突如として動けなくなる。
なぜか、この目の前の人間とは戦ってはいけないような気がする。
そう本能が継げている。
「ああ、確か、あなたは、私達の一派のかなり下っ端のやつだったわね。
  そういえば、千年ばかりまえに人に召喚されたとか報告があったわね。
   ま、どうでもいいけど。あなた程度でも、ドゥールゴーファの食事くらいにはなるでしょ?」
何かに思い当たったらしく。
そうつぶやきつつ。
「ドゥール。あまりおいしくないけど。とりあえず、まだかのお人は覚醒はまだのようだから。ここで少しでも食事しておきなさい。」
そういって。
手にもった剣に語りかける。
刹那。

その剣が・・・勝手に動いたように見えるのは。
気のせいでは・・ない。

剣より伸びる無数の黒い触手がそれを包み込んでゆく。
『―な゛!?』
あまりのことに思わず、魔族であるはずの自分が恐怖に捉われる。
くす。
くすくすくすくす。
「やっぱり、魔の負の感情もまた格別ですわよね。」
くすくすくす。
そういいつつ、そんなそれが発する恐怖という名前の負の感情を味わいつつ、くすくすと笑みを浮かべて笑っているシェーラ。
「―・・一番おいしいのは・・・光に続するものの負の感情なんですけどね。」
光が強ければ強いほど。
それに反発する闇は強く。
それが彼女達にとってはかなりのご馳走となる。
「あなた程度。別にいてもいなくても関係ないですから。
   ここは大人しく、ドゥールの餌と化しなさい?ね?タラス?」
そういきなりシェーラに名前を呼ばれて目を見開く。
なぜ・・・なぜ人間が・・・自分の名前を知っているのか。
いや・・・。
この女性は・・・・本当に人間か!?
ようやくそのことに思い当たり。
刹那。
― シェーラ。
その名前にはっとなる。
面識などあるはずもない。
だがしかし。
一応は名前くらいならば知っている。
・・・・自分が一応所属していたグループではある。
くすり。
その感情の戸惑いは面白いほどにシェーラに直接伝わってゆき。
「ふふふ。タラス、あなたのような下級のものが。ドゥールゴーファの餌となることを。誇りに思いなさい。
    この子は。ドゥールゴーファ。この私の武器でもあり・・・そして、部下。」
そういいつつ、剣に軽くキスを送る。
驚愕の表情をしているタラスと呼ばれた魔族に対して。
「私はシェーラ。覇王将軍(ジェネラル)シェーラ。タラス、あなたは栄光の滅びを迎えうることでしょう。」
そういって、にっこりと微笑むシェーラ。
『あ・・・あ・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
上司に・・・いや、力あるものに喧嘩を売っていた。
それだけでもかなりの精神的ダメージは多い。
それ以上に。
その言葉と同時に。
本体そのものから、何かに蝕まれ、消滅してゆく感覚が感じ取られ。

断末魔をあげつつ。
やがて、タラスと呼ばれたその異形の魔族は。
黒い触手にと飲み込まれるようにと。
その場から完全にと消滅していくのであった。






「・・・・何!?」
上から聞こえてくる何かの叫び。
それがシェーラのものではないとわかっても、さすがに気にはなる。
もしかして、シェーラさんに何かあったのでは?!
レイが思わず階段を戻りかけようとすると。
それを手で制し。
「大丈夫だよ。シェーラがあれを滅ぼしただけ。その断末魔だから。」
確信に満ちたその言葉。
長い、長いらせん状の階段である。
まるで終わりが見えないほどに。
術で一気に掘り進んでいったら楽ではあるのであるが。
いかんせん。
この遺跡そのものが。
それら全て、魔力の干渉を受けにくい、オリハルコンがふんだんに使われ。
この中では、さしたる魔法は使えない。
まあ、それに関係なく、使っているフィブリゾの魔力容量に。
感嘆の溜息を漏らしているレイではあるのだが。
レイとてまったく使えない。
というわけではない。
伊達に、水竜王の神殿で勉強していたわけではない。
そして、毎日欠かさずやっている精神集中。
それが功をそうしてなのか。
昔よりは格段に魔力容量は上がっている。
そんな会話をしていると。
フィブリゾの胸元にあるブローチから声が聞こえてくる。
その青い水晶のようなブローチからは。
『フィブリゾさま。こちらは終わりました。何やら外が騒がしいようですが?外を見回ってもよろしいでしょぅか?』
まったく何事もないかのようなシェーラの声が聞こえてくる。
離れていても、互いに通信できる品物らしいということをフィブリゾから聞いて知っているレイ。
未だに離れていても話しができる。
そんな品物は成功した。
という話しは。
かつて伝説の中ではあったという。
伝説の眠れる竜の大陸にあったという王国のみ。
それしか知られていないが。
まあ、深く考えずに。
何しろ、その知識などもなぜか半端でない彼ら。
当のフィブリゾが記憶がないから答えようがない。
そういうのであれば追求のしようもない。
そんなブローチから聞こえてくるシェーラの声に。
「ほどほどにね?シェーラ?」
そういってくすりと笑うフィブリゾ。
『はい。』
短い返事とともに。
そのまま通信は途絶えてゆく。

「さ、僕達は先を進もう?」
そういってにっこり微笑むフィブリゾにしたがって。


どこまでも続く螺旋階段を下りてゆく、レイとフィブリゾ。

まだまだ先は長そうである。




「お許しが出ましたし。ほどほどに遊ぶとしましょうか?ねぇ?」
くすり。
そう笑って。
今この地にやってきている人間達の軍勢をみて。
くすくすと笑みをこぼすシェーラ。
そして。
「こういうのをしたら・・どうかしら・・ね?」
パチン。
くすくすと、そんな彼らを視つつ。
軍勢の中心。
その中の数名の人間達に精神世界面から少しばかり干渉する。

ただ。
近くにいた、下級魔族達に。
彼らに憑依するように命令を出しただけのこと。

人の精神は、強いようでもろい。
刹那。
『ぐわぁぁぁ!?』
メキメキ・・・メキっ・・・。
この地に眠る力を欲して。
侵攻してきていた彼らの部隊のその中心で。
数名の兵士が、いきなり叫びつつ、その体を変化させて。
やがて。
異なる存在にと変化を遂げてゆくのを。
ただただ。
何が起こったのかわからずに。
しばらくみつめ。

ゴリュ。

その一つが近くにいた人間の頭を掴んで握りつぶしたことにより。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?』

シェーラにとっては。
たったのそれだけのことで。
彼らの部隊は完全にとパニックになってゆく。
そんな光景をみつつ。
ただただ。
くすくすと上空から見下ろしているシェーラの姿は。
誰一人として気付いてなどいないのであった。





胸騒ぎがどんどん大きくなる。
早く何か、目的のものを見つけないと。
何かこの地に・・・何かよくないことがやってきている。
それはもう・・・すぐそこに。
そんな思いを抱えて進むレイのその視線の先に。
「あ、どうやら、扉のようだよ?ここが最深部のようだね?」
そういって指を指すフィブリゾの指の先には。
壁一杯の扉が。
そこにあり。
どこか母から貰った首飾りと同じ文様が刻まれている部分をみつけ。
それを無意識でなぞるレイ。

ポウ・・・。

レイがその文様をなぞると。

その扉が一面青く光り。
その文様を中心として、らせん状にと光が壁一面にと走りぬけ。
その青い光が何かの文様を描き出す。

やがて。

ゴコ・・・・ゴゴゴゴ・・・・・・・・。



音をたてて。
その扉は左右にと開いてゆく。


「・・・・・・・・・・・・ここは!」
思わずその部屋の中に入ったレイは息を呑む。
そこは・・・・。

周りに水晶が立ち並ぶ。
不思議な空間であった・・・・。



                             −第26話へv−

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あとがきもどき:

薫:・・・・・うーん。
  仕掛けの表現が上手にできないよぉ(涙)
  何はともあれ。次回は。
  この国にやってきている。軍隊の末路です・・な(まて!)
  そーして、とあることを手にいれるレイ。
  んでもって・・・。覚醒の決定打・・っと。
  よっし!あと少しで覚醒だ!
  ・・といっても・・。覚醒しても・・・・まだ続くのよね・・・。
   降魔戦争の序曲でしかないんだから・・(汗)
   んではでは・・・・・。

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