降魔への旅立ち
「本当、ここ、平和よね。」
まるで、今この世界そのものが。
争いの中にあるのが嘘のようなまでの。
外部との交流がはっきりいって。
この村から出る唯一の道筋にある森や街道に。
魔族・・・つまり、野良デーモンが出現している。
そのために、外部と連絡のとりようがない。
という事実を覗いても。
この村は、あまりに平和で。
村に住んでいる人達も、リルナ達に好意的。
いつものように、出来た野菜などを差し入れしてきたりなど。
さすがに、小さな村だけのことはあり。
あまり人数は多くはないが。
「ダイアナさん、これこちらでいいですか?」
「ああ、ありがとう、そこにおいておいて♡」
無償で、やがて生まれてくる子供のためにベビーベットを作って提供してくれる村人に。
妊婦にはこんな食べ物がいいから。
といって、毎日のように差し入れしてくる、隣、近所の村人達。
小さな村ではあるが。
この先の森の奥に。
天然の露天風呂なども存在し。
そこを共通の風呂としている村人達。
よくもまあ、こんな自然がよく残り。
露天風呂もあるような場所が、今まで狙われずに残っているものであるが。
そんなことも疑問に思うが。
まず、この場所事態が、かなり山と山との麓にある。
ということもあいまって。
その交通の便からいっても。
ここにたどり着くまでに通る道は、道なき道。
いわゆる獣道。
だからこそ、見つからなかったのかもしれない。
と、一人納得しているシルナではあるが。
「・・・・・・なぜ私なのだ?」
怪訝そうに問いかけてくる、淡い金髪の女性。
「いやぁ、だって、ガーヴなんて、そんな演技、絶対に!不可能だし。
グラウにいたっては、生真面目すぎるから。何処でボロがでるか分からないし。」
にこにこと。
意味がよくわからない手土産持参してやってきた。
自分達の同僚である見た目少年の言葉に。
怪訝そうに問いかけているのは。
この宮殿の主たる、一人の女性。
「ダルもいるだろうが・・。」
そうつぶやくその言葉に。
「・・・・・・・ゼラス、本気でいってる?ダルフィンだったら・・・どうなると思う?」
その目が本気で何かを危惧しているように潤んでいる。
「・・・・・・・うっ!!?(汗)」
その言葉にしばし凍りつく。
確かに。
ダルフィンなら・・・。
何かしでかしかねないな・・・(汗)
同僚の一人であり、そして、その性格が。
何かしらにつけて面白くする。
という性格の持ち主たる、海王のことを思い出し。
精神世界にある彼女の宮殿というのにも関らずに。
器用に、汗まで具現化している彼女は。
この宮殿の主、獣王ゼラス=メタリオム。
彼等、魔族は。
精神生命体。
つまり、精神だけの存在である。
その本体を精神世界に置き。
その実力と力と根性で、物質世界において、具現化して形を取っているに他ならない。
だがしかし。
どういうわけか。
彼等のような魔族や、そして、神族。
そういった存在が創られた当初において。
なぜか、そんな形のない世界というのにも関らずに。
精神世界においても、自らの宮殿や・・つまり、物質化したときのように姿を取り、行動すること。
という制限が、誕生したときより、成されているのであるからして。
それが、たとえどんな形を取るにしろ。
一応、何らかの形を成している彼等達。
「つまりは消去法で、残ったのが、ゼラス、君だけなんだよv別に僕一人で近づいてもいいんだけど。
それだと不自然でしょ?計画はこうだよ♡」
にっこりと笑い。
ついと。
手を横に伸ばす。
ゆったりとしたその太ももにかなりのスリットの入った、服を着て椅子に座っているゼラスの前で。
手を伸ばした先に、少年の・・・・フィブリゾの計画の内容が。
彼らの文字で書き示される。
「・・・・というわけで、この方法だと。相手も油断するしね。」
「・・・・・さすがだな。」
その内容に感心する。
この辺りのことは、流石に、彼等・・腹心の五人のうちでリーダーだけのことはある。
周りから固めて、絶対に水も漏らさないようにしてからの。
最後の大詰め。
そのために。
少なくとも、一つの国を消滅させて。
そしてまた。
生活の場を確保するためだけに。
とある村を壊滅させて。
そこに、彼の思い通りに動かせる一度は死んでいるはずの、人間をあてがい。
そこに、対象者を向かわせるなど。
「それはそうと・・その計画では。この私の夫役も必要ではないのか?」
少し眉をひそめていうその言葉に。
「ああ、それだったらどっちでもいいよ。どうせこれから忙しくなるんだし。
ゼラスはゼロスと一緒に行動してても、かまわないんじゃ?」
「・・・・な゛っ!フィブ!//」
真っ赤になって怒鳴る同僚でもある、ゼラスの言葉に。
「君たち、仲、いいもんねぇ。」
ある意味、すばらしい上司と部下の関係といえるであろう。
公私にわたり。
彼が・・もし。
部下達にそういうように形だけでもふりをしろ。
となど言おうものなら・・。
まちがいなく。
彼の直属の部下達の間で争いというか、何かしらの揉め事が起こるのは必死。
「それに、ゼロスはシルナとかいう人間と関り、少しだけあったし。その方が、相手も油断しないと思うよ?」
人間という生き物は、面白いもので。
あまり深く知り合っているわけでもないのに。
知り合いだ。
というだけで油断する生き物である。
「・・・・ふむ、確かに一理あるな。では、いつ行動する?」
腕を組んで作戦に賛同しているゼラスの言葉に。
「そうだね・・・・早ければ早いほうが・・」
そういって、にっこりと。
天使の微笑みを湛えているフィブリゾの姿が。
ここ、獣王宮にて見受けられているのであった。
「この奥にも、確か聞いたところ、病気などに効くという、温泉があるって話しだけど・・・」
今日は、ヘラもダイアナも。
村人達を相手に。
一人は集会に借り出され。
一人は、壊れかけた集会場の修理にと借り出され。
そんなこんなで。
この辺りは安全であろうという思い込みというか、安心感から。
一人。
村の裏口から、向かった先にある。
村にと面した森の中のその奥にあるという。
自然に湧き出ている、温泉の水を求めて森にと分け入っているシルナ。
そのお腹が、臨月がすでに近く。
あと一ヶ月もしないうちに、そろそろ誕生であろう。
というほどに大きく突き出ている。
シルナ、只今、妊娠十ヶ月。
そろそろ、生まれてもおかしくない時期ではある。
「修理・・・・か。」
くすり。
思わず笑みがこぼれる。
それ以外の何だというのであろうか。
何しろ、この村は・・・・。
そう思いクスクス笑う。
シルナがいなくなっているその一時の間。
ただそこには、無言のまま立ち尽くす人々の姿が。
あるものは、家の中で、静かに眠り。
あるものは、道にたったまま。
「とりあえず、いつものように、行動してもらっていないと困るからね。」
束縛は、シルナがこの村の半径一キロいないにいるときに限る。
というもの。
それ以外においては、この村人達は、ただの・・・・。
軽く魔力をすこしあてがっただけで、壊れた建物が。
今修理したばかりのような形を取る。
この村の全ては。
彼等の主、冥王の力にて、具現化されているのに他ならないのだからして。
「そういえば、この森の奥にいくの・・・。私はじめてじゃないかしら?」
生まれてくる子供のために。
そこの、温泉を汲み置いておこうと思ったのは。
今朝方のこと。
自分の体のこと。
先のことも少しばかり視れるシルナである。
明日の朝には、陣痛がくるのもすでに分かっている。
そして、産まれてくる子供が。
男の子であることも。
一人、人気のない森の中を進んでゆく。
「??どうして気配が一つもないの?」
村の周りの森などでは。
生き物の気配はしているというのに。
この辺りはまったく生き物の気配すらない。
それが意味しているのは・・・・。
「ル゛ヴァァァァァァァァ!!!!」
「な゛!?プラスデモンにレッサーデーモン!?」
獣道である。
そんな道なき道を進んでいると。
シルナの前に、突如として。
一ダース、つまりは十二匹のデーモン達が、その先にと立ち塞がる。
町に下りる道筋に、デーモン達が、発生しているのは知ってはいたが。
まさか、村の奥にまで発生しているなど、聞いたことがない。
「くっ!」
すでにもう、臨月というか、出産間近。
そんな中で、人の身であるシルナは魔力が使えない。
それは、人ならば誰にでも言えることなのであるが。
妊娠している女性は、極力魔力が使えなくなるのである。
ましてや、臨月に近いとなると。
だからといって。
このまま、ただやられているわけにはいかない。
魔力が使えなくても、シルナには剣の腕がある。
腰に刺しているロングソードを抜き放ち構えるものの。
どうしても、お腹を庇うような姿勢になってしまうので。
機敏な動きが取れないこともわかっている。
「冥魔槍(ヘル・プ゛ラスト)!!!」
ドド゛ト!
「・・・・・・え?」
構えるその視線の先で。
いきなり、茂みの奥の方から。
子供の声とともに。
黒い槍が出現し。
「ぐがぁぁぁぁあ!?」
その黒い槍に貫かれて。
あっさりと消滅してゆく、デーモン達。
一体何が起こったものか。
しばらく意味が理解できずに。
呆然としていると。
「うーん、このあたりも物騒になってきたねぇ。」
がさりと。
何やら、しみじみとつぶやきながら。
茂みの奥から出現してくる一人の人物。
艶やかな少しウェーブの入った肩より少し長い髪。
「・・・・・・え?」
記憶の片隅にのこっているとある女性の姿と思わずダブル。
そこまで、その子は似ていた。
まだ両親が生きていたときに。
そんな両親と共にいた、一人の女性というか、巫女。
ヘル。
ヘル=ネクロミスト。
そのヘルとまったく同じ。
同一人物ではないであろうかと思えるほどに。
だがしかし。
目の前に現われた子供は。
歳のころならば、十歳前後であろうか。
艶やかな黒い髪に黒くぱっちりとした大きな瞳。
一見、男の子か女の子か分からない。
どちらかといえば、女の子。
といったほうが、殆どの人間は納得するであろうが。
だがしかし。
彼女・・・シルナには、その身にまとう少年のオーラというか、気で。
その子供が男の子であることが見てとれる。
「・・・・・・あれ?どうかしたの?というか、ここに人間が来るなんて・・・久しぶりだよね。」
キョトンとした視線を投げかける。
ざあ。
その刹那風が吹きぬけ。
「・・・・あ。」
あわてて、風になびく髪を押さえる、今シルナを呪文で助けた少年。
風により、なびいたその髪のしたに見えた耳が。
その先が普通の人間より少しばかり大きく尖っている。
―エルフ?
いや・・・違う。
尖った大きな耳は、エルフ族の特徴。
よくよく観察してみれば。
確かに、エルフの気配もあるものの。
違うことが視て分かる。
「・・・・・・・・・僕・・・・・・ハーフエルフ?」
思わず呆然と聞き返す。
ハーフエルフ。
それは、エルフ族と人の種族の間に産まれた、子供のこと。
エルフの高い魔力を引き継いでいることから。
今、このようなご時世である。
そんな彼等を借り出して戦争にあてがおうと。
闇のルートでは高く取引などが成されて。
逆を言えば、エルフなどの村を襲い。
エルフの女性を捕まえて、無理やり子供を産ませたり・・などと。
かなりひどいことをしている人間達。
そのシルナの言葉にはっとなったように。
思わず身構える、目の前の少年。
「・・・・・僕を突き出すの?」
その目がかなり怯えている。
今までにどんな目にあってきたのかが。
その表情でかなり理解できる。
「フィブぅ!?何処にいるのぉ!?」
「あ、ゼラス、ここ、ここ!」
がさりと。
茂みをかきわけて。
今度は別の女性が出現する。
鋭い目つき。
まるで肉食獣を思い立たせるような。
そして、淡い金色の髪。
その長い髪を後ろでみつあみにして一つにまとめていたりする。
服装は、何処にでもあるようないたって普通の旅人風。
そして。
シルナの前にと現われたその女性は。
シルナに気付き。
「!?フィブ!人間に近づいてはだめでしょ!?」
そういいつつ、フィブと呼ばれた少年を自分の方に引き寄せる。
「おやおや、大丈夫ですよ。ゼラス様、その人間は・・・・。お久しぶりですねぇ。シルナさん♡」
「・・・・・・・・・え?」
どこか聞き覚えのあるその声に。
思わず振り向くと。
あれは一体いつのことだったろうか。
かつて、とある場所にて一度だけであった、黒い法衣に身を包んだ一人の神官。
「?何だ?ゼロスお兄ちゃん、知り合い?」
キョトンと、そんな男性に問いただしているゼラスと呼ばれた女性の後ろに。
隠れている少年が現われた男性にと問いかけている。
「ええ、この人は大丈夫ですよ。」
「そうなの?僕達を見世物にしたり、売り飛ばしたり、迫害したりしないの?本当に?」
恐る恐る問いかけているその言葉に。
ちくり。
シルナの胸がかなり痛む。
この子は・・・。
今までどんな目にあっていたのかと思うと。
やるせなくなる。
それをやっていたのが自分と同じ人間である。
ということがわかるから余計に。
「・・・・まあ、ゼロスがいうのであればそうなのであろうが・・・・。人間よ?何しにきた?
もうここには・・・お前たち人間の手によって。ここにあったエルフの隠れ里はもはやないぞ?」
その言葉にはっとする。
よくよくみれば。
多少ゼラスと呼ばれた女性の耳も。
髪に隠れて見えないだけで、尖っているような気がする。
いや、気配からして。
彼女が人でないのが見てとれる。
―エルフ。
気配がそう物語っている。
「え・・ええと、この奥にあるという温泉を求めて。出産するときの産湯に使おうと思って・・・。」
ゼラスの言葉に答えるシルナ。
その言葉に少しその目が優しくなる。
「・・・・・なるほど、確かに。その方は妊娠しているようであるな。
人間は妊娠していると優しくなるというのは本当のようだな。
そういえば、あの村の人々は・・・われ等に対して、かなり有効的であったな。でもお前はあの村の人間では・・ないな?」
すっと目を細めていうその言葉に。
「え・・・ええ。この間から近くの村に住んでいるシルナといいます。」
そういいつつ、ペコリと頭を下げる。
「あのね、あのね、僕はフィブっていうの!」
害がないと分かったのか。
人懐っこくよってくるかわいい男の子。
「まあ、そういうことならば案内しよう。・・・すでにこの森に住んでいるのは、われ等だけだしな。」
そういいつつ、道を促す。
あるきつつ。
以前ここにエルフの村があったこと。
村人達の努力の甲斐もなく。
その村は、人間達の襲撃にあい。
壊滅してしまったということ。
そして、今この森に住んでいるのは、彼女達。
だけだということ。
かなりいた村の人間達も。
その時を境に、あまり人と関りを持たなくなったということ。
そんな、会話をしつつ。
やがて。
シルナは、ゼラスとそして、かつて出会ったことのある、ゼロスとかいう神官と、そして、フィブと名乗った少年に案内されて。
森の奥に湧き出ている、自然の温泉の水をくみ上げる。
話しの最中。
シルナとゼラス達は、意気投合して。
村まで、温泉の水を運ぶのを手伝ってもらい。
森の中に彼等だけで住んでいるのは、あまりに危険。
という、シルナや村人達の説得に応じて。
彼等もまた。
シルナ同様、その村に。
生活の場を確定するのは。
シルナとともに村を訪れたその日の内。
ぱたぱたぱた。
「フィブリゾ様!?お湯の準備はこれでいいですか!?」
なぜか。
ヘラやダイアナが。
フィブという男の子のことを様づけにしているのは気にはなるが。
それは、別に気にもせずに。
深夜、予想通りに陣痛に見舞われて。
脂汗を流すシルナの周りでは。
出産の手助けをするために。
数名の女性たちが、ばたばたとあわただしく行動している。
「はぁはぁはぁ。」
さすがに初産ということもあり。
かなりきつい。
だがそれでも。
「ほら、頑張って!」
村の女性に励まされ。
力を入れる。
「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
元気な赤ん坊の泣き声が。
夜が明けて朝日が窓から差し込むその最中。
村中にと響き渡ってゆく。
「おめでとう、元気な男の子よ。」
産湯につけられ、産着に身を包んだのは。
父親によく似ている男の子。
「・・・・・・レイ・・・・・。」
思わずつぶやく。
この子の父親の名前。
すでにこの世にいない人の・・・・。
「レイ?いいわね。その名前。」
その言葉にはっとする。
「・・・・名前、どうするの?」
出産後の周りを片付けつつ。
問いかけてくる出産に立ち会った、
この村での唯一の助産婦のその言葉に。
「・・・・・レイ。レイ=マグナス。」
思わずつぶやく。
父親の名前から。
子供の名前の一部につけたのである。
レイ=マグナス=ユグラシドル。
レイ=ビフレスト=マグナス=ウル=ユグラシドル。
今やもうない、ユグラシドル王家の最後の生き残り。
その彼の忘れ形見。
その名前から、我が子にと、その名前をとり。
つけているシルナであった。
-第15話へv-
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まえがき:
前回で、レイの誕生にまでいけなかったので。
今回が本当の誕生偏v
ではでは、いくのですvv
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あとがきもどき:
薫:ふふふふv
ようやくレイ=マグナス誕生ですv
え?レイ=マグナスは誰かって?
そんな人はいないと思いますが?(笑)
ええ、スレイヤーズ世界では、暗黙の了解v
後書きでいつもエル様にいじめ・・もとい。
相手をしてもらっている、北の魔王。
氷付けになっている部下Sの依り代となってる、
人間じゃないですかv
んふふふふv
これより、フィブリゾの作戦は。
かなり大詰めを迎えていきますのですv
んではではではvv
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