降魔への旅立ち
パタパタパタパタ!!
お腹を抱えて走り出す。
「いたぞ!こっちだ!」
「あっちにいたぞ!」
はあはあはあ。
息が切れる。
一体全体どうなっているのか。
いつものように、町に買出しに行ったその日。
その日・・・・。
何らかの、神託が、その町にと下された。
―紅の瞳は闇にいざなう鍵となりさしめん―
そんな神託が。
どこかの神殿に降りたらしく。
丁度、紅の瞳をもつ人間・・いや、生き物全てが。
その闇=これ以上の恐怖。
と捉えた人間達が、紅い瞳の生き物狩り。
をしていた町にと不幸にもやってきてしまった、シルナ。
身ごもっている身ゆえに。
魔法は今は使えない。
逃げつつ、お腹を庇うことのみが必死の状況。
殺伐とした世の中である。
村人達が生きるために、旅人を殺したり・・・などといったことも。
今や、公にはならないが、暗黙の了解で、
いたるところで見受けられている今の情勢。
今回のように・・・。
たとえ、罪のない、生き物を殺しても。
誰も・・そのことをとがめるどころか。
逆にどれだけの命を奪ったかによって、報奨金が出る。
そうなれば・・・生きるために必死となっている人々は。
もはや、もう、ただの殺戮者に他ならない。
たとえ、相手が無力な赤ん坊であろうとも、身重な女性でも。
とにかく、その紅い瞳を持って神殿にやってくれば。
一つにつき、金貨十枚を与える。
そんなお触れが出ている・・・この町、オニキス・シティ。
だがしかし、すでに臨月も近いお腹を抱えてでは。
完全に逃げ切れるわけもなく。
「・・・・くっ!早くこの場から逃げないと!!!」
数日前に。
とりあえず、子供を産み、育てる場所が。
何処か言い場所ないか。
相談し。
いい場所を探してくる。
そういって、今、少しの間だけ。
別行動をしている、仲間であるヘラのことを思い出す。
やはりというか。
彼・・・シルナの恋人であった、レイは。
王宮に入ってすぐに、その国王の地位を奪っていた、とある人でない彼の姿を模していた何かを道づれに死亡した。
そう風の噂に聞いた。
そのために。
今や、あの国は、治めるものがいなくなり。
余計に混乱に満ち溢れた場所と成り果てている。
フラ。
逃げ惑いつつも、それでも、やはり女性の体力。
しかも、臨月に近いお腹を抱えて。
そんな状態で、全力で走れるわけもなく。
思わず、裏路地に隠れていたところ。
よろけてしまう。
「まだこっちを捜してないぞ!?」
町の人達の声がする。
掴まれば。
間違いなく、はりつけである。
すでに。
紅い瞳をしている。
という理由だけで、この町で。
ここ、数日の間にあっという間に百以上の生き物たちが。
人に関らず、動物、そのほか、全てにおいて処刑されている事実がある。
走りすぎて朦朧とする意識の中で。
町の人達の声を聞く。
・・・・もう・・・・駄目なの?
そんなの・・・・絶対に!
諦めるなんてしたくない。
あの人の・・・あの人の忘れ形見がいる限り。
かといって。
相手は普通の人間である。
・・・・父や母から聞いた、魔力を使わずに使える術を使うわけにもいかない。
・・・・あれは、そのコントロールを間違えると。
まず十キロ四方は完全に吹き飛ばすほどの威力を持っている。
神と魔、竜神と魔王の力の融合呪文。
父と母から。
神魔融合呪文について、いろいろと幼いころに教わっているシルナである。
たとえ、身重の身であるがゆえに、魔力が使えないにしても。
だがしかし。
そんな状態でも使える力というものは存在する。
そう。
魔力でなくて精神力を使ったたとえば力など。
後は生命エネルギーを力にと変換する気功術など。
いろいろと応用された使える力はあるものの。
もし、今使って、お腹の子供に何かあったらと思うと出来ない。
だがしかし。
ここで、このまま掴まって、殺されるよりは・・。
そう、霞む視線をどうにか押し上げ。
決意を新たに精神を集中させ始めるシルナのその手を。
ふい。
後ろから・・・というか、路地の一角にあった家の中から。
白い手が伸びてきて。
トン。
シルナをその家の中にと引き寄せる。
そして。
「いたぞ!?」
「あ!空を飛んで逃げたぞ!追えぃ!」
扉の向こうの路地から。
聞こえてくる町の人々の声が遠くに遠ざかるのをききつつ。
思わず唖然とするシルナ。
くすくすくす。
後ろからくすくすと笑う声がする。
「もう大丈夫よ。始めまして。シルナさん。噂は、ヘラから聞いているわ♡」
くすくすと。
思わず何がどうなったのか理解できない彼女の耳に。
後ろから聞こえてくるまだ若い女性の声。
思わず、自分を助けてくれたその人物の声に振り向けば。
紺色の髪に琥珀色の瞳をしている、ショートカットの少女。
歳のころならば、十七か八くらいであろうか。
「あ・・・あの?あなたは?」
知らない人物にいきなり、自分と一緒に旅をしているヘラの名前を出されれば。
まず驚くのも無理はない。
「あ、始めまして、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はダイアナ、ヘラの姉よ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「嘘!!!!!!!」
どう見ても・・・・どう見ても・・・ヘラより・・・・年下である・・・・・。
思わず、その言葉に。
シルナは・・・思いっきり叫んでいた。
冥将軍(ジェネラル)ダイアナ。
冥将軍(ジェネラル)ヘラの同僚であり。
そして。
冥王の参謀としても活躍している少女・・・・ダイアナ。
だが、しかし。
当然のことながら・・・・数年以上ともに行動を共にしているというのに。
シルナはヘラの正体を知っているわけでもなく。
いきなり、
目の前に現われた。
どうみても、自分達より年下である少女が。
ヘラの姉だと名乗られても。
疑いの言葉を発するのは。
当然といえば当然のこと。
「まあまあ、細かいことにはきにしないで。」
にこにこという、ダイアナと名乗った少女の言葉に。
「・・・・いや、全然細かくないんじゃ・・。」
思わず突っ込みを入れているシルナ。
そんな言葉ににっこり笑い。
「とりあえず、私は、あなたの母親、シルさんを知っているから。
その辺りのこともあってね。あなたのことをよろしく頼まれてたのよ。」
そういいつつ。
息を未だに整えているシルナに暖かいスープを手渡す。
嘘ではない。
ただ、頼まれていたのが、ダイアナでなくてヘルだったということと。
ヘルから、自分がいたのでは、あまりに年齢などの関係で。
人でないとばれかねない。
という意見もあってのこと。
そろそろ、時期的に、近くに現われても、あまり不自然ではない時期である。
「・・・・母様を?」
その言葉に眉をひそめる。
「私、こう見えても五十は軽く越えてるのよ♡まあ、容姿なんて、魔術を使えば若く見せられるからね。」
実際、そういうことが出来る。
ただ、彼女が使っているのはそれではない。
というより、彼女にとっては、姿、形など、あってなきがごとし。
どんな姿にもなることができるのであるからして。
そういえば、父と母から。
魔術によって、若く保てる方法がある。
と、遥か昔にちらりと聞いたことがあるような気がする。
そう、一人納得しつつ。
「・・・・・それで?一体・・どうして町の人達はあさってのほうを追いかけていったの?」
何もないはずの空を指差して。
わめきながら走っていったらしいというのは。
聞こえてくる声で何となく想像がつく。
「ああ、別にたいしたことじゃないわよ。この町の全員にちょっとした幻影をみせただけ。
それより、無事でよかったわ。・・・まったく、ヘラは・・・・側にいないと駄目じゃないのよ・・。」
最後の言葉に何らかの怒気がこもっているような気がするのは。
シルナの気のせいであろうか?
「・・・・町の人達全員にっ・・・・・って・・・・。」
かなりの実力を持っていなければ。
町の人々全てに幻影を見せるなど。
普通は不可能である。
さすがにその説明に絶句しているシルナに。
「とりあえず、ここから出ましょうか。でも人間も馬鹿よねぇ。
紅い瞳っていったら、闇にいざなうものだけでなく。光にいざなうものもいるのに・・ね。」
くすくすくす。
くすくす笑うその姿が。
なぜか、とてもオモシロそうに笑っている。
事実。
生まれたばかりの赤ん坊。
紅い瞳をしている。
という理由で、すでに五十人ばかりこの町の人々は殺している。
全ては神託が示した正義の名前の元に。
というたいそうな御託を並べて。
・・・彼等は気付いてもいない。
その神託を下したのは・・・・神族側でなく。
魔族側・・だということを。
その五十人の中に・・。
神の欠片を宿した赤ん坊がいるなどと。
到底夢にも思ってもいない。
まあ、欠片を宿しているとはいえ、それは、別に伝説の、『赤の竜神の騎士』のレベル。
というわけでもなく。
本当の欠片を宿している。
というだけのこと。
だが。
今のこの状況で。
少なくとも、彼等に害をなしかねない存在は。
自らの手を下さずに排除しておくべき。
という、冥王の少しばかりの指示によるもの。
神託と思い込んでいる彼等人間は。
面白いほどに、魔の手のうちで完全に踊って。
その思惑通りに行動をしているのである。
「とりあえず、頼まれていることもありますし。
あなたが無事に赤ん坊を育てられるように。私も協力しますわ。よろしく、シルナさん。」
そういってにっこり微笑むその言葉に。
「・・・あ、こちらこそ・・。」
その笑みにつられて。
シルナもまた、にっこりと微笑み、手を差し出しているのであった。
ダイアナと名乗った少女の力。
つまりは、幻影の術を使い。
シルナがその町を後にしたのは。
それから、数時間後のこと。
あまりに力は強大で。
その対抗策として、なぜか、異界の存在と契約を交わしていた、
それが、彼女達・・カノンたちがいるエンシェントドラゴンの神殿に攻撃を仕掛けてきたのは。
リーアンとカノンの子供が一歳になる少し前のこと。
「・・・・・あれは・・・。」
思わず顔をしかめる。
「・・・・・・確か、別次元の混沌の存在じゃない?」
あきれつつ、それを見やる。
確かに。
それは、ここの次元・・・というより、
金色の母が創り出した世界のうちの存在ではない。
「・・・・・・・・・・・変なもの・・・召喚してるわね・・。」
「・・・・・・・・だね。」
あきれるより他にはない。
あんなものをここに召喚すれば。
どうなるか、結果は見えているというのに。
まあ、彼等にしてみればそう映るのだが。
実際は、それも金色の母が創り出した世界の一つにて、誕生した存在であるのであるが。
ただ、彼等が知っている世界の中で誕生した。
というわけではないので。
まったく別次元の存在、そう捉えているに他ならない。
まあ、あたっているともそうでないとも言える。
かつて。
無謀にも、金色の母に反旗を翻して。
その怒りを買い、何処の世界にも属さなくなっている、全てを無に戻す性質を持っているそれ、カオス。
「・・・・でも、結界を張ったとしても・・・被害は免れないわよ・・・。」
さすがのカノンの声も震えている。
全力でどうにか戦って、どうにか封印、もしくは押し戻すくらいしか、出来ない実力を持っている相手。
「・・・・うーん、俺の力を全力で出して・・・
とりあえず、ここの銀河から・・離れた場所にあれを移動させて、 戦わない?」
ここで戦えば。
間違いなく、その攻撃の余波だけで。
こんな小さな星や、銀河系、もしくは、この銀河を含む大銀河。
それらが消滅するのは見てとれる。
「・・・・それしかない・・・・わね。」
何も手をこまねいて、あれに全て、この世界そのものを飲み込まさしてしまうわけにはいかない。
特に、今現在、それに気付いているのが自分達二人。
そうなれば、話しはまた別。
全力で、それを排除することを決意しているリーアンとカノン。
「・・・・・・・・カイ、ルシフェルをお願いね・・・。」
まず、運がよくて、この今では別にどうってことがないが。
人の形態を取るのは、まず不可能になるであろう。
年月を得れば、再び形を成すことも出来るであろうが。
少なくとも。
しばらくは、物質世界に干渉ができなくなるのがわかっている。
「俺の力は、全てカノンにあげるから。だから・・いくか?」
「・・・・そうね。」
そういいつつ。
目の前に広がり始めた無の空間をしばらくみつめ。
やがて。
パサリ!
その背中に、黒い翼と、白い翼を出現させて。
その無の空間の中心に向かって飛び立つ二人。
リーアンとカノン。
そのリーアンの額の中央に見開かれた第三の目は。
この世界を成している四つの火、水、地、風。
その全てを自在に操れることが出来るという存在の証。
無限ともいえる神通力。
とも言われている力の象徴。
その瞳が金色に光ったその刹那。
カッ!
その辺りを一瞬、金色の光が覆いつくし。
後には、何もはじめからなかったかのごとくに。
青い空が広がるのみ。
リーアンの力をもってして。
カオスを別の宇宙空間に移動させたのである。
カノンとリーアンは。
この星を戦いに巻き込まないために・・・・。
「・・・・とりあえず、面倒な二人は、チェックアウト・・・っとv」
あれがまさか召喚されたときにはどうしようかと戸惑ったが。
だがそれでも。
「うーん、本当、あの火竜王は僕達の特になるようなことをしてくれるよねv」
くすくす笑う。
一番問題であったのは。
紛れもなく、あの黄竜王と、そして、闇を撒く者の腹心の二人。
さすがに、彼等を相手に勝てる自身など・・・・彼・・フィブリゾには勝算が薄い。
まあ、この世界を巻き込む覚悟で戦えば、どうにか相打ち。
くらいにはなるかもしれないが。
それでも。
今は、彼等の主がここの世界においては封印されているその理由から。
本来の力が完全に発揮できない今の状況。
そんな中で。
下手に戦いを挑むのは、得策ではない。
まあ、もう一人残ってはいるけど。
あれは、多分、人間かぶれしはじめているから。
ガルヴェイラの言葉の通りに、あの子供を守るのに徹するだろうから。
それもまた問題なし。
ゆっくりと、時間を掛けた甲斐があったねv
そう心でつぶやきにっこりと微笑む。
今、世界は、彼の思惑通りに。
間違いなく、進行を始めているのであった。
・・・・・・・・・・・・・ドサリ!
神殿の中に何かが落ちてきた。
「・・・・カノンを・・・・。」
消滅しかけた愛する存在に、その力の全てを注ぎ込み。
やがて、目の前で消滅してゆく、黄色の髪に金色の瞳。
・・・・彼等、黄竜族は、その力を全力で発揮するとき。
その瞳の色は金色となり、髪の色は黄色と変化する。
視点の定まらない視線で。
横にある、一振りの弓にと目を向けて。
「・・・・ずっと・・・側にいるよ・・・。」
自らの魂から、精神力そのものを。
全て。
横にいる弓の形状となりつつ、姿が消えかけているそれにと声をかける。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?リーアンさん、カノンさん!?』
周りのエンシェントドラゴンの一族の者達の悲鳴を聞きながら。
リーアンの精神は。
やがて、完全にカノンの精神の内部にと溶けこみ・・融合してゆく。
さすがに、かなりの力を消耗し。
どうにか、やはり、倒すことはできないまでも。
相手にもかなりのダメージを与えて、再び封印し、押し戻すことに成功した。
だがそれは。
カノンとリーアンにもかなりの力の負担をかけ。
カノンなどは消滅寸前にまで追い込まれ。
それを残った力の全てを使い、カノンが滅びないように。
全てを捧げたリーアンは。
その体から、精神、魂の全てにわたり。
全てをカノンに捧げて。
今ここに。
最後の生き残りであった、黄竜族は。
リーアンを最後に滅びを迎えているのであった。
・・・後に、一人の子供を残して。
「・・・・・・ガルお姉さんには休息が必要です・・。」
それでも、かなりの疲労と衰弱は見てとれる。
リーアンが全てを捧げなければ。
間違いなく、カノンは滅んでいたのもすぐに理解する。
あのガルヴェイラがここまでなる相手・・というのに、さすがに身震いが起こるものの。
それでも。
カノンから任された、二人の間に生まれている子供。
彼だけは、少なくとも、守り通さなければならない。
というのはよく理解している。
・・・・そうでなければ。
目覚めたとき・・・ガルヴェイラからどんな仕打ちを受けることか。
・・・カノンが怒った時の行動は。
・・・彼等の主である闇を撒く者(ダークスター)ですら。
・・・・・・・・・押さえが効かないのである・・・・。
「別の世界の住人というのに・・・ゆっくりと休んでくだされ・・。」
こくん。
全てのエンシェントドラゴンの一族と。
そして、カイの力。
そして、カノン自らの力を利用して。
『今ここに、カノン=ガルヴェイラに休息を!』
ヴン!
その声と共に。
光の封印をたたずまえ。
エンシェントドラゴンの神殿の奥深く。
力を取り戻すために、長き眠りにガルヴェイラがついたのは。
カノンとリーアン、二人の間の一人息子が。
まだ一歳と数ヶ月目のことであった。
-第13話へv-
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まえがき:
こんにちわ。
ちなみに、これ・・多分、出来るだけ午前中に打ち込んでいるかと・・・。
あ、でも更新履歴に書くのは夜ですけどね(まてまてまて!)
いや・・・時間的に・・ねぇ?(だからまて!)
・・・・なぜか最近、こっちを中心的に打ち込む気分になっている私・・・。
・・・・とゆーか・・漫遊記とか・・リレー(書き殴りにて)・・・どうなってるんだ?
私ってば・・(滝汗)
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あとがきもどき:
薫:さってさって。
・・・・・・勘のいい人は判るはずv
え?ルナはどうしたかって?
・・・・でてきますよぉ。ええ、当然(笑)
とりあえず。
次回、よーやくのやくでレイの誕生!
んではでは、また次回でvv
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