降魔への旅立ち
いつからだっただろう。
意識し始めたのは。
分かっている。
彼女が異世界の魔族で、その魔王の腹心である。
ということは。
いつからだろう。
意識し始めたのは。
いつも、リーダーとしての能力を活用して。
仲間といても、どこか気分が安らげる。
そういったことはなかなか無かった。
だがしかし。
リーアンと共にいれば。
その同じ使命と、その使える本質の存在が異なるにしろ。
光と闇。
その違いのみ。
自分と同等の力を持っている、相手が彼女達の世界にはいない。
ということもあいまって。
だからなのか。
仲間意識が芽生え・・それが、違う感情に発展していったのは。
さほど時間は・・・互いにかからなかった。
「大丈夫だって、スピカ。」
自分に手を差し伸べてくる若い女性に、にっこりと語りかける。
そのお腹が大きく膨らんでいるのは。
気のせいではない。
異なる属性を持つ間同士。
その間に出来た、小さな光の命。
その力を狙ってか。
神、魔、その上層部から。
追われ始めたのは。
妊娠が発覚してから間もない時。
だがしかし、いくら、実力があろうと。
あまり、公に目立つことを好まない、この二人。
リーアンとカノン。
旅をしている最中。
人の争いに巻き込まれて、見世物にされていた、目の前にいる少女・・・スピカ=ドナ=エッシェンスを助けたのは。
数ヶ月前のこと。
別に光に属する、存在だからといって、闇に属する存在だからといって。
差別することなく。
それ全ては。
全ての母の元、
全ては等しい。
そういう感覚である、スピカだからこそ。
彼等・・・リーアンとカノンの恋愛には。
どちらかというと協力的。
正体を隠して、というか、その使う力はあくまで。
人が使う精霊魔術などに絞り。
旅を続けている、リーアン、カノン、カイ、そして・・スピカ。
只今、カノンはリーアンの子供を身ごもって。
約三年が経過し始めている。
互いに属する性質が異なるせいか。
または、その身を物質化として、生み出すためか。
ゆっくりと時間をかけて、その精神と、その肉体を育てている結果。
あと、数ヶ月もしたら、新たな命がここに生まれてくる。
「この子には、何も争いとか、その力とかに振り回されることなく。幸せに生活してほしいから。」
いくら、その負の感情を糧とする魔とはいえ。
その感情はある。
どんな存在でも、母親の愛情は、いずこも同じ。
そっと、お腹に手を当ててにっこりと微笑むカノン。
その顔が少しばかり青いのは。
その行動が、
『全てを無に還す』
という彼等の本質に矛盾しているからに他ならない。
まあ、いくら矛盾したからといって。
流石に、彼女のように、高位の存在であればあるほどに。
その程度で滅びたり、死んだりするようなことはまずないが。
それでも。
少しばかり、その力がそがれ、弱体化するのは仕方のないこと。
彼等の糧は、世界の闇の波動。
対する、リーアンたちのような光に属する生き物の糧は。
光の波動。
だが、それは、表裏一体。
たとえば、子供が泣いてほほえましいと感じる人と。
うっとうしいと感じる人がいるように。
それは、視点を変えればどちらがどちらでもおかしくない、その力。
世界は、さらに混沌を極め。
すでに、どこにいっても、争いの火種が巻き起こっている。
それは。
別に魔が干渉したとかでなくても。
勝手に少しばかり、何かを進言しただけで。
どんどん暴走してゆく人間達。
疑心暗鬼に満ちたそんな人間達は。
こぞって、自分がやられる前にやり返す。
といった観念に元づき。
今では、侵略戦争。
といったような、国と国との争いが、耐えず発生して、
何処にいっても、こげた匂いと死臭と、そして、争いの気配が。
どんな場所にいても感じられるほどに。
あまりに、拡大する、それらを憂いて。
少しばかり、手を貸す光に属する、竜王も中には、影からいたりするが。
だがそれでも。
絶えることなく続く、混乱の世界は。
それは、逆に、より強い力を人が求める結果と成り果てている。
あまりに、人の争いに巻き込まれそうになった、彼等は。
スピカの案内のもと。
昔から、そんな争いなどに干渉せずに、
ゆっくりと過ごしているという。
彼女の一族。
彼等が住まう、聖地である、その場所に向かっているのである。
「崩霊裂(ラティルト)!!!!」
ゴウ!
辺りを青白い炎が突き抜ける。
その、漆黒の黒髪に紅い瞳。
どことなく、誰かを連想させる雰囲気の少女が一人。
「お疲れ様です。シルナ殿。」
そういって話しかけてくる、兵士風の男性が一人。
彼女が放った一撃によって。
町を覆いつくすほどに、人が召喚していたレッサーデーモンは。
ものの見事に消滅していたりする。
シルナ=ド=ミドガルド。
彼女の両親のことは誰も知らない。
ただ。
その桁外れに強い魔力と、そして、剣の腕。
それらは。
国などが放っておくには、まず絶対に。
そんなことなどあるはずもなく。
その、見た目の容姿からして。
彼女を側室に。
そう願う国王や王子なども少なくない。
シルナ=ド=ミドガルド=ラグナデス。
かつての、二人の人物。
シル=ラティス=ドナ=ラグナデス。
ラグナ=ミドガルド=ウル=アスィスガルド。
このシルとラグナの、唯一の忘れ形見である・・・・。
「きゃぁんvシルナちゃん、すごい、すごい♡」
パチパチパチ。
何処にいっていたのか。
数ヶ月前に、人間達の争いの中で出会った一人の少女。
艶やかな少し肩より長い髪にウェーブの入った黒い瞳。
なぜかなつかれてしまい、無碍にも出来ないシルナは。
なし崩しにこの少女と共に行動を共にしている今現在。
「・・・あのね、ヘラ、何処にいってたの?」
あきれつつ。
そう問いかけようとするが・・・。
「・・・・・・・・。」
すぐにその理由は理解した。
「ね!みてみて!これ、かわいいの、売ってたのよ!」
どっさりと。
袋をその両手に持ちきれないのか。
何らかの術により、紙袋を自らの周りに浮かせて。
かるく、一目みただけでも、その大きめな袋が十個。
あるのが見てとれる。
「・・・・・・はぁ。」
溜息一つ。
いつものこととはいえ・・・・。
この少女、見た目の年齢は、シルナと同じもしくは少ししたくらいか。
歳のころは、十五歳前後。
シルナもそれくらいの年齢ではある。
「・・・あのね、いつも言ってるけど・・・。そんなに買って・・・どうするのよ・・・。」
思わずこめかみを押さえる。
旅に品物は邪魔なだけ。
そーして、いつものことながら。
結局、それらの品物は。
ヘラが、どうやっいるのかは知らないが。
何でも、異空間に創り出した物質格納庫。
そこにしまいこんでいる状態。
「いいじやないvねvシルナちゃんもたのしまなきゃv女の子の特権よ♡買い物は♡」
にこにこというその言葉に。
「だからってぇぇぇ!いつも、金貨数百枚以上に相当する買い物はやめなさいよぉぉ!」
・・・・・シルナの絶叫が。
いつものことながら、空にと響き渡ってゆくのであった・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・。人選・・・間違えた・・かな?」
つぅ・・・。
額に伝う一筋の汗。
とはいえ。
あの子が一番、警戒心をまず抱かせないのは分かっている。
さすがにあのレベルまでの力をもっていると。
何かの理由で正体を悟られかねない。
彼女・・・ヘラならば。
まずその性格からして、・・・・・疑う余地がない。
のは分かっている。
まさか、面白いことが大好きで。
チョッカイをかけまくり、そして、買い物好き。
まあ、よくいる若い人間の女の子。
そのかなりミーハーとも言える女の子。
そんな感じの性格だからして。
空間に映し出した、二人の様子をみつつ。
思わず、手にしたコップをピタリととめて。
つぶやく、見た目完全に美少年としか表現できない一人の少年。
「・・・だけど、ヘルをあてがったら・・それこそ。絶対にいけないしね。」
まあ、一番頼りになるのはヘル。
そして、その次に、ダイアナ、アルテミス、ノルン・・・。
といった具合だろうか。
だがしかし。
今、彼女達は。
竜王の行動に目を光らせつつも。
そしてまた。
その人の魂のうちに封じられている魔王を捜すべく。
旅人として、それとなく、人物探査に乗り出している今の現状。
中には、とある国の女王と入れ替わり。
戦いを広げていたり。
という部下もいる。
「グラウ達も一応、頑張っているしねぇ。」
今回の作戦は。
腹心全員が一致して行動しているその結果。
そのためか。
この、殺伐とした、混乱に満ちた世界において。
かつて、水竜王に人に封印されてしまった魔竜王も。
つい先日。
覚醒しかけている今現在。
あと少しすれば。
間違いなくようやく、五人、全てがそろう。
それとなく、人間の社会に入り込み。
争いの火種を少しだけ、ほのめかしているその結果。
彼等にとっては何処にいても、おいしい食事が楽しめる。
そんな状況に今は陥っている。
逆に、そんな混乱と殺伐した情勢であるがゆえに。
神の力は弱まっている。
今がチャンスなのだ。
「・・・でも、まさか・・・。黄金竜に殺されるとは・・ね。」
そういいつつ、その顔が少し歪む。
彼に魔王が封印されているのは、もはや確定的であった。
だがしかし。
妊娠していた、シルを助けるべく。
彼・・・ラグナは命を落とした。
その意思を受け継ぎ、力を脅威と感じた、とある竜王の配下でもある黄金竜達から身を隠して子供を産み落としたシル。
だがしかし。
その子がもつその力に押しつぶされそうになりつつも。
後をそれまで一緒に行動していたヘルに頼んで、子供を残して先に死んでしまったシル。
まあ、それはいい。
別にどうでも。
問題は、その後。
怪しまれないように、とある場所に家を構えて。
そして、シルナを育てたヘル。
彼女や、彼・・フィブリゾには。
その魂のうちに、彼女自身に封じられているわけではないが。
その欠片があることは。
すでにもう先刻承知。
だが。
その魂自体にあるわけではなく。
フィブリゾが輪廻転生をみて、気付いたこと。
それは。
やがて、シルナが身ごもるその子供が。
紛れもなく、自らの主である。
ということ。
だから、側に誰かをあてがった。
一応、帰る場所として、ヘルは普通の女性として。
シルナが戻ってきたときに限り、そこにいって育ての親として振舞うことを命じている。
それ以外は、この争いをさらに広める工作を命じていたりするのであるが。
「ま、いっか。」
それですませて。
「・・・・さて。そろそろ本格的に。どの竜王を攻めるか、考えようかな?」
くすくすと。
その手にもっている小さな駒を。
コン。
軽くはじくフィブリゾであった。
-第10話へv-
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まえがき:
よっしゃぁぁぁぁぁ!!!
ついに・・ついに、リーアンとカノンたちの旅に入ったぞ!?(まて!)
え?この後の展開?
それは・・・ふふふふふv
多分絶対に分かるはずv
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あとがきもどき:
薫:ふふふふふv暗躍しておりますv
この辺り、一気に年代が飛んでゆくのは・・・・・・・・きにしないよーに(こらまて!)
次回、シルナとヘラの前に出現する。
とある黒い神官とは?(ってばればれだってば・・爆!)
んではではv
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