降魔への旅立ち




きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


鋭い悲鳴が辺りに響く。
「何があったの!?」
「くっ!みろ!ブラスデーモンの群れが!」
みれば。
 空を覆いつくすがごとくに。
視界の先の空に。
ある一点に向かって、空が黒くなるほど埋め尽くしている、俗にいう、魔族の姿が。
この辺り。
唯一、まだ・・。
戦争を繰り返す国々とは違い。
かたくなに、そんな無意味な戦いには、加わらなかった、国の首都。
それが気に入らなかったのか。
数国の攻撃を受けている割に。
その、力でどうにか持っている、今の現状。
ここ、フリーグランド・シティ。
そこに向かっていた、シル達、一行。
「急ぐわよ!」
「リーアン!こらまて!空を飛んでいこうとするな!」
あわてて。
その背中に、羽を生やして。
飛んでゆこうとするリーアンの背中をがしっと掴むラグナ。
「で・・でも!早くしないと、町の人達が!」
悲鳴に近いその言葉。
リーアンには、感じられる。
どんどんと、命の気配が少なくなっているのが。
「分かってる!いくわよ!」
そういいつつ、小さくつぶやくシル。
「水と大地と光の祝福の元にわれらの道に光をさししめさん。」
その言葉と同時に。
ぽう。
シルたちの体を淡い、青い色の光が覆いつくし。
次の瞬間には。
シュ・・。
その場から、シルたちの姿は。
その、道沿いから掻き消える。

シルが得意とするのは、この世界の神である、竜王達などの力を使った、俗にいう神聖魔法。
その応用で、ある程度の距離ならば。
今のように、瞬間的に移動ができる。
別に幼いころから、知っていたわけではない。
ただ。
あまりのこの世の中の殺伐さに。
そして。
彼女が、まだ七つにも満たないときに。
戦争に巻き込まれて、両親が他界。
そのために。
幼馴染であった、ラグナと共に。
そのとき、生き残った町の人間は。
子供達のみ。
大人たちが、子供達を率先して。
町の地下に建設途中だった、地下室に、閉じ込めたがゆえに。
子供達だけ生き残ったのである。
地下室から、出ると。
そこにはもう、何もなかった。
それまであった、町並みも何もかも。
鋭い轟音と共に。
その地下室ですら、一部、崩れてきた瓦礫で。
見知った子供達の顔が・友達たちが、生き埋めになり。
被害を免れた子供達で、必死に瓦礫をのけようとするものの。
どんどん崩れてくる壁に。
泣きながら、そこを離れるしかなかった、彼女達。
もし・・・あのとき。
少しでも、呪文を使える子達がいたならば。
そう悔やまれてならない。
だが。
少しでも、呪文が使える子供達は。
両親や町の人達の手助けをするために。
地下室からでて・・・そして、帰らぬ人と成り果て。
残っていたのは、普通の子供達。
だから。
ラグナと、シル。
そして、残った子供達は。
二度と、そんなことが起こらないように。
自ら、各自、進んで。
魔道の研究や、その道にと進んでいった。
この世の中。
子供だけで生活できるほど・・・世間は甘くないがゆえに。
どこかの神殿や、住み込みができる、場所などを探して。
その中で。
シルを始めとする、十人の子供達は決意を秘めて。
霊山。
として、大人たちが、あがめ、恐れていた、その場所。
カタート山脈に昇ることを決意し。
長い旅を始めたのは。
彼女達が、八つになるか為らないかのとき。

長い道のりの果てに。
水竜王をあがめている、水竜王の神殿にたどり着き。
様々な知識を習い、吸収している、シル。
ラグナは、シル同様に、知識なども習ったものの。
彼は、その性質からか、どちらかといえば、愛称がよかったのは黒魔術。
そして、彼は、剣の腕を磨き。
彼女達が、十歳になるとき、神殿をあとにして。
そして今。
彼女達は、こうして、旅をしつつ。
少しでも、人々を助けるために、行動している。




町につくと。
すでに、町並みは、瓦礫と化し。
そこに何があったのかわからない状況。
「・・・・・・・・・・・。」
ふるふると。
傍らにいる、リーアンの体が打ち震える。
その視界に映ったのは。
子供を守るようにして、完全に黒い塊と化している、かつては、人であったはずの・・・・物体。

所狭しと、転がっている、細切れのような物質に。
原型をどうにか留めているもの。
そして。
辺りに充満しているのは、鉄さびにも似た匂いと・・熱気と、そして・・焦げ臭さ。
「う・・・う・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一声叫ぶと。
その、金色の瞳が一瞬揺らめき。
次の瞬間には。
リーアンの周りから、吹き出た黄金の光の柱が。
未だ、辺りにいる、デーモン達を一瞬にして消滅させてゆく。

「リーアン!落ち着きなさい!」
あわてて、そんなリーアンを抱きしめるシル。
リーアンの額に。
見間違いではないであろう。
第三の目・・それが出現しているのは。

カラ・・・・。

「・・・・・え?何?ルナ?」
小さなその手が。
ぎゅっと母親であるリィナの服を掴み、とある一点を指し示す。

みれば。

「・・・・・う・・・・。」
瓦礫の下から、確かに聞こえてくる・・人の声。

赤ん坊であった、その子は。
旅の最中に、今、ようやく一歳を迎えるまでになり。
その小さな体で。
彼らと共に、旅を続けているのである。

「大変!誰かが、下敷きになってるわ!」
あわてて、その瓦礫に駆け寄り。
そこにある、瓦礫を急いでのける。
ガラララ・・。
崩れる瓦礫の中に。
ぐったりとした、見た目は、まだ少女ともいえる、世代の女の子。
少しウェーブの入ったその艶やかな黒い髪は。
おそらく、攻撃などでこげたのであろう。
その、見事なまでの艶やかな長い髪が。
かなり、その毛先などがこげて。
まるで、蜜柑を焼いた時のような匂いがその髪からしていたりする。
その、上下に別れた、服は。
もはや、あまり原型を留めないまでに、破れ、焼け焦げ。
それでも、奇跡としか言いようがなく。
その肌は、少しの火傷程度で治まっている。
だがしかし。
ぱっくりと開いた、足の傷口からは。
赤い肉が見えて、その奥にちらりとみえる、白い何か。
始めは、赤い、朱色の服なのかとも思ったが。
そうではなく。
原型は、何色であったのか。
よくよく見れば。
少女の血にて。
完全に、その服が朱色にと染まっていることにようやく気付くシルたち。
その青白いまでの顔色で。
血を流しすぎ、意識を失いかけているのだと。
すぐさまに理解する。
「早く、リザレクションを!リーアンは、自然の祝福を!」
「わ・・分かったわ!」
「分かった!」
すぐに、状況を理解し。
あわてて、手を組み、何かの印を結ぶリーアン。
そして、その手から、出現した、何かの文様に近い文字が。
倒れている少女の傷に浮かび上がりつつ触れると、見る間に、傷口がふさがってゆく。

キシャァァァ!!!

まだ聞こえる、デーモン達の声。
「ちっ!シル!リーアン!その子を頼む!リィナさんは、他の生き残った人達を!」
「分かりました!」
「・・・・ママ?けはい、こっちにもあるよ?」
くいくいと。
母親の服のすそを掴んで。
どこかに案内しようとしている幼い子供・・ルナ。
母親譲りの、紫がかった青い髪に、紅の瞳。
物心ついたときから。
この子には、不思議と。
どこに誰がいる。
そういった気配が読み取れる。
そんな能力が備わっていたりする。
「ラグナ!?あなたはどうするの!?」
その言葉に。
「俺は、あいつらをしとめておく!そっちは頼んだぞ!」
そういいつつ。
剣をしまいつつ。
その場をシルたちに任せて走り出すラグナ。


「・・・・・うっ・・。」
その傷跡が痛々しい。
傷がふさがってゆくごとに。
その痛覚が戻ってきたのか、その顔に苦渋の色が浮かぶ。
「頑張って!」
必死で叫ぶシル。
死なせたくない。
まだ。
どうみても、十二、三歳の女の子でしかないこの少女。
艶やかな、漆黒の腰まであるであろう、長い少しウェーブの入った髪。
その、白いまでの肌は。
このままでも、完全に、美少女。
そういいきっても過言ではない。
「風と水と大地の精よ我が意思によりて我が力となせ・・。」
いいつつ、一番怪我がひどいと見れる。
足が、半分取れかかっているといっても、過言でない。
左足にと手をかざすリーアン。
その全身に、びっしょりと汗を流しているのは。
まだ彼が、自分自身の力を完全にコントロールできないがために。
もし、彼が力の制御を失敗すると。
よくて、目の前の少女が死亡するか。
悪くて、この辺り一体ごと、消滅するか。
そのどちらか。
その額に浮かぶ第三の目は、この世界の理をなしている。
水、火、炎、地。
この四大元素を全てその意思のままに操れる証。
その無限とも言われている、その力。
ゆえに。
彼の一族は。
この惑星に生きる存在達に、あまり知らされなかった。
そんな事実もあったりするが。


「ルナ?他に気配感じる?」
娘を抱きかかえつつ。
それでいて。
娘が示す方向のまま。
生き残った人々を。
大地の精霊に干渉する術を使いこなしつつ。
瓦礫などの下敷きになっている人々を助け出しているリィナ。
「んーと・・・あっち!」
母親に抱きかかえられたまま。
母親のいうとおりに。
感じる、気配を指し示しているルナであった。



「・・・・・けっ。悪いな・・。この俺に出会ったのが・・。運の尽きだな・・。」
そうまず、シルたちの前では、見せないような、冷たいまでの笑みを浮かべ。
そして、手にしていた剣をしまうラグナ。
そして、そのまま、手を横にと突き出すと。
ユラ・・・・。
その手に、シンプルながらも、紅く光る長剣が出現する。
飾りなども何にもない、ただのシンプルな剣。
そして、その剣を空にと突きつけて。
「手っ取り早く、終らせてもらおう!」
そう一言。
「EFXOW>XITBXQOI$*XSIQ」
そして、聞き取れない言葉を紡ぎだす。
次の瞬間。
「赤魔呪縛(ルビテッファック・レイク)!!」
聞きなれない力ある言葉を発するラグナ。

ラグナとシルが、水竜王の神殿を出た、もう一つの理由・・。
それは。
力を学べば学ぶほどに。
ラグナが、神聖魔術に対して、どこか、どうしてなのかは分からないが。
拒絶反応を起こし、あるとき、生死の境にまで追い込まれた。
という事実も一つあるのだが。
神聖魔術が、自分にあっていないことを、どうにか一命を取りとめ。
理解した彼は。
自身の力を高めるために。
逆の性質をもつ、闇の力を研究し。
今では、かなりのオリジナルの術をくみ上げている。

ラグナが今放ったのは、彼のオリジナル。
この世界の闇を統べているといわれている、伝説の中の魔王。
その力を使った、呪による、魔術。
伝説では、かつての戦いにおいて、この世界の竜神が。
つに分けて、どこかに封じ込めたといわれている。
その―『赤瞳の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ』その力。
それを使った魔術。
そして、彼が今手にしている剣は。
彼自身の、精神を具現化させて作り出している剣。
あるとき、唐突に。
自分の力を具外化させて、武器にできることに気付いたラグナ。
その切れ味などがかなり鋭く。
滅多と使わない代物。
これを表に出したとき。
ラグナは自分でも、なぜか、魔力が異様に高まるのを感じるがために。
あまり、得に、シルたちの前では決して使わない・・・この力。


ラグナが放った術は。
辺りを黄昏色の光で覆いつくし。

ザァァァァ・・・・・。

その光に掻き消えるように、辺りの空を・・または、大地を闊歩していたデーモン達は。
瞬く間に掻き消えてゆくのであった。




「・・・うっ・・。」
開いたその目は・・・漆黒の色。
その瞳の中に・・あきらかに戸惑いの色。
「気がついた?」
その瞳に、自分が映っているのに気付いて。
ほっとそれでも。
気がついたことに安堵の溜息をつきながら話しかけるシル。
「あ・・・あの?私・・・。」
そういいつつ、立ち上がる。
ふと、よろけそうになる、少女の手をとり。
「あ!駄目よ!まだ無理しちゃ!かなりの大怪我だったんだから!」
そういって、あわてて支えるシル。
「君、瓦礫の下敷きになってて、今にも危なかったんだよ?」
そういいつつ。
「はい。」
自分がもっている腰に巻きつけている袋の中から水筒を取り出して。
少女に手渡しているリーアン。
「あ・・ありがとう・・。」
その水筒を手にとり。
こくん。
こくこくこくこくこくっ!
よっぽど、喉が渇いていたのか。
必死で、水を飲み干していき。
「・・・・はっ!そうだ!みんな・・は!?」
顔色を変えて叫ぶ少女。

・・・・・・・・・・・

一瞬、しばしその場に沈黙が訪れる。

「・・・・あなたの近くでは・・生きていたのは・・あなただけよ・・。」
顔を伏せてぼつりとつぶやくシルに。
「・・・・確か・・いきなり・・・・ああ!いやぁぁ!」
思い出したのか。
いきなり絶叫を上げて、首を左右に降り始める少女を。
「しっかりして!もう、大丈夫だから!大丈夫!」
しっかりと、その胸に抱きしめて優しく慰めるシル。

やがて、落ち着いたのか。
大人しくなる少女。

見れば。
あれほどいたはずの、空を覆いつくすデーモンはもう影も形も見えない。
「・・貴女・・名前は?」
そう問いかけるシルに。
「・・私は・・・・ヘル。ヘル=ネクロミスト。」
そう、小さく・・本当に小さく、震える声で答える少女・・ヘル。
それも当然かもしれない。
一瞬にして、家族を・・友達を、自分以外・・少女は失ったのだろうから・・。
そう、シルとリーアンは思い。
少女の心情を察して・・しばらく、そのまま。
ただただ。
何もいわずに、その場に佇んでいた。


家族もいない。
親戚は・・もういない。
というのも、彼女、ヘルの両親は。
長く続く、混乱とした世の中で。
お互いに孤児であった当人たちが結婚し。
そして。
話しを聞けば、同じような境遇の子供達を集めて、ここで孤児院を開いていたらしい。
だが・・。
助かったのは、彼女のみ。
その両親も、何もかも・・。
もはや、影も形も。
この世に、存在していない。


その話を聞いて。
彼女をどこか、信頼できる場所に・・。
せめて、彼女が一人で生活できるようになるまで。
一緒に旅をすることを決意しているシル達であった。
自分達と一緒だとそれはそれで危険かもしれない。

だからといって・・。

放っておけば、両親の後を追い・・・折角助かった命なのに死を選びかねない。

そんな光景は・・・。
彼らは、これまでの旅の中で。
いやというほどに味わっているのである。

そんなことには・・させたくないから・・。

「・・・・一緒に・・くる?といっても・・。私達と一緒だと安全・・というわけでもないんだけど?」
そうそっと、ヘルを抱き寄せて、ささやくその言葉に。
ヘルはこっくりと小さくうなづいていたのであった。






「ふーん。さすが、ヘルv」
くすくすくす。
まさか、ああいう方法を取るとは。
さすが、僕の影武者を兼ねているだけの、実力持ってる子だけのことはあるよねv
くすくすくす。
カラン。
手にもっている、クリスタルのワイングラスの中の氷が音を立てる。
椅子に座りゆったりと。
くつろぎながら、目の前に映るは。
人間達の姿。
今、彼が、注目している一人が含まれている、とある人間の旅の一行。
くいっ。
そのグラスに入った赤い何かの液体を飲み干しながら。
「・・でも・・・まさか・・・・黄竜族の生き残り・・とは・・。みっけもんだね♡」
くすくすくす。
ただ気になるのは・・。
「・・・どうやら、まだ覚醒はしてないようだけど・・・。」
どうにか・・・覚醒する前に・・始末できないかな?
などとも思うが。
「ま、下手にちょっかいかけて、覚醒されても、困るし。ま、ヘルに任せておくのが一番だよね♡」
そういいつつ、クスリと笑い。
パチン。
軽く指を鳴らすと。
少年の目の前に浮かんでいた映像が、ふと掻き消える。
そして。
くすくすと笑いつつ。
「ふふ。さあって、どうやら、一人、発見vあとは、他の欠片を見つめてみせるよ?ねvお父さま♡」
くすくすくす。
その広い、広い空間の一角で。
ただただ。
見た目、まだ子供である、少しウェーブの入った漆黒の髪を肩の辺りまで伸ばしている。
愛らしいどう見ても、一見美少女にしか見えない、少年・・・冥王フィブリゾは。
にっこりと微笑みつつ。
くすくすと笑っているのであった・・・。


ヘル=ネクロミスト。
彼女の本名を、冥将軍(ジェネラル)ヘル。
この世界の魔王の腹心のリーダーでもある。
冥王(ヘルマスター)フィブリゾの直下の部下であり。
一番、その実力を持っている存在である魔族であることを・・。
シルたちは・・知るよしもないのであった・・・。



                                     -第6話へv-


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   あとがきもどき:
         薫:ふふふv
           只今、メッセでランさんとお話しつつの打ち込みしている、
           2003年4月11日の夜の只今23時(爆!)
           ではではv
           今回の後書きは短めにvではではvまたvv


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