見果てぬ夢・番外編~フィブリゾ偏~第3話~
「――・・・・ふむ。まあ様子をみましょう。フィブ。――そのうち、彼女も気がつきますよ。」
玉座に座っている長い黒髪の人物が目の前のウェーブが少しかかっている、男の子にいう。
「人は、愛するものから、取り残されることを怖れるふしがありますから。子供を利用するもよし。
……期待していますよ。フィブ。」
にっこりと、父たる人物に笑いかけられて、フィブリゾの表情が輝く。
「では、赤瞳の魔王(ルビーアイ)様♡
キュリアに対しては、今後も、干渉をつづけていってよろしいのですわね♡」
その横で、目をかがやかせる流れるような蒼い髪をしているダルフィン。
「――まあ、ほどほどにですよ。フィン♡」
ぴっと指を口にあてて、いう男性―赤瞳の魔王(ルビーアイ)。
「すると、残り、六つ。・・・いや、確か、あのルシオとかいう人間が一つだったから・・。あと、五つですね。」
妙にかたぐるしくいうゼラス。
「正確には、四つですよ。所在が確定してない私の欠片は。」
ルシオの中にあった、自らの欠片の一部は、すでにあきらめている魔王。
何しろ、あの御方がからんでいたのだ。
到底、無事だとは思えないのは・・・・当然の反応だろう。
所在が確定いている欠片は。
封じられている人間の精神を少しづつだが、蝕んでいる。
その人間が、自ら封印を解くのは、時間の問題であろう。
魔王はそう判断している。
「・・・・・・ガーヴはどうする?」
銀の髪の軍人らしき人物の言葉に。
「ふぅ・・・。ガーヴですか。まあ、反抗期みたいなものですよ。彼方たちも気にしなくていいですよ♡
子供は、反抗してても、かわいいものですから♡
それに、反抗期がないと、完全な大人になれないっていうじゃないですか♡」
〃そーだろうか???〃
魔王のその台詞に、一同心の中で突っ込む。
「それより、問題は・・・あのとき、エル様が助けた子供達のことですね。
生き残っているのは、あと一人。・・・・きっと、何かがありますし・・・・。」
腕組をして考え始める魔王。
約十数年前の出来事。
そして、つい先日の、1年前の出来事。
何かあると、踏んでいたら、案の定。
あのうち、数名は、すでに死んでいて。
死んでいるまま、生きているようになっていて。
しかも、今完全にこの世界に残って生きているのは、一名のみ。
後に、シルメリアやフィルに関ることとなるガイルス=パロ=ウル=ガイリア。
―アヴァロン=ドレイクである。
今は、名を変えて、アヴァロンとして傭兵として時を過ごしているのだが。
下手に関ると、命がないと判断したのか、魔王は彼に対して、ちょっかいかけないように、指示を出していたりする。
その気になれば、アヴァロンにかかっている自らの呪法の残り波動をとらえ、居場所を特定することも可能なのだが。
さわらぬ神にたたりなし。
気にしないようにしている魔王である。
魔王がそれでいいとは、思えぬが・・・・・・。
「まあ、駄目な場合は、シルメリアを魔族に組み入れましょう♡そうすると、いやでも彼女も従うでしょうから♡」
にこにこと自らの子供達―腹心の部下四人にいっている魔王の言葉は。
二年後。
みごとに、その予想を超える結果を迎えることとなる。
二年年後。
どくわぁぁぁぁぁんん!!!!!
「敵襲!!!!敵襲!!!!!」
王宮に、あちこち火の手があがる。
アストリア王国。
アストリア王宮。
―!?
この気配は!?
キュリアだけがそれに気づく。
「・・ママ、ママ??」
母親の険しい表情を見て取って、
ひざの上で遊んでいた2歳になる少し前の、幼い幼女が、その小さな手で、ぺたぺたと母親をたたく。
ペトペト。
その何とも愛らしいちいさなもみじの手に、キュリアはかるく口付けする。
「―ウラヌス!!レティシア!!シルメリアをつれて、隠れて!!早く!!」
『・・・・・・・・??』
そのけわしい表情に、首をかしげる海神官レティシアと海将軍ウラヌス。
……間に合わない!!
説明している時間がない!!
がしり。
娘をきつく抱き上げて。
部屋の隅にあるクローゼットの中へ娘―愛しいシルメリアをいれるキュリア。
「―シルメリア!!何があっても、ここでじっとしているのよ!!」
「―?」
きょとん。
目を丸くしているシルメリア。
「―シルメリア、愛してる!!」
強く娘を抱きしめて、おでこにかるくキスをし、そのまま扉を閉めるキュリア。
シルメリアは、いわれたとおりに、中でおとなしく。
また、大好きな母親が扉をあけてくれるのをひたすらまっている。
――それが、二度とないとは知らぬまま―。
「キュリア様!?一体!?」
レティシアがキュリアに詰め寄る。
キュリアは、しばし目を閉じて。
「―来たわね。」『来たな。』
ごうっ!!!!
キュリアから発せられる濃い瘴気。
「―これは!?」
ウラヌスも身構える。
キュリアの口から発せられたのは、キュリアの声と魔王の声。
「―!!!危ない!!レティシア!!!」
どんっ!!
キュリアがレティシアを突き飛ばす。
―ざんっ!!
―キィィィィン!!!!
精神世界(アストラル)よりの攻撃を防ぐキュリア。
キュリアが助けなければ、確実にレティシアは滅んでいたであろう。
「ほう、結構勘がいいな!!」
虚空より、一人の男性が、いきなりキュリアの目の前へと出現する。
歳のころなら、二十歳過ぎのその風貌。
隠れてみている幼いシルメリアの目に、その姿は焼きついてゆくのだが。
がっちりとした体格を象牙色のコートで身を包み。
右手に無造作に握っている大降りの赫い片刃の長剣が一振り。
「くぅ!!!!」
うなっているキュリア。
「ほう、俺がどうして、来たのかが、分かっているようだな。」
にやりとすこぶる楽しそうに笑い。
「―っ!!?私は、理性で抑えてますわ!!なのに!!どうして!!!!」
その人物に語りかけるキュリア。
「家族がいるんです!!!!!魔族には手を貸しません!!!!」
「・・だが、こちらにも、事情ったもんがあるんだよ!!この俺が生きるためにな!!!!」
「何を!?」
『ガーヴ!?』
キュリアから発せられる二つの声。
男の長く伸ばしている赤い髪が窓の風に揺れる。
「というわけで!!滅ぼすことは、できねえが!!悪いが死んでもらうぜ!!赤瞳の魔王さんの欠片よ!!!!」
「ガーヴ様!?」
「魔竜王様!?」
ここにいたって、レティシアとウラヌスは、この攻撃が魔竜王ガーヴが起こしたものだと、理解する。
「ちっ。ダルフィンのところの神官と将軍か。わりぃが、邪魔すると、容赦なく滅ぼすぜ。」
力をそちらに向ける魔竜王ガーヴ。
「!!!!させません!!!!!!!」
ふわり。
自らの中に封じている魔王の力を使い。
『キュリア様!?』
骸骨のような錫仗をフリかざし、彼女達を逃がすキュリア。
娘が人質にとられていた状況下にあったのにも関らず、彼女達を助けようとするのは、キュリアの優しい心。
瞬時に、彼女達は、海王宮殿へと送り出される。
「ちっ。やってくれるな。わるいが、ゆっくりは出来なくなったぜ!!!!」
ガーヴが言い放ち。
どすっ!!!!!!!!!!!
一瞬の出来事。
「あぅ・・・。」
崩れ行くキュリア。
全身を自らの血で真っ赤に染めて。
『魔竜王ガーヴ!?その方!?』
倒れ行くキュリアの口から先ほどと同じ声が漏れる。
隠れている扉の隙間から母親が倒れるのを見て。
「ママ?ママ?」
ぎぃ・・。
扉を開けて母親の方へと歩いてゆくシルメリア。
「来ちゃだめ!!シルメリア!!!」
息も絶え絶えの下から、キュリアが声を出す。
「ちぃ!!子供か!!あまり派手にやるとフィブの陰険やろ~に気がつかれるな・・。」
ちっ・・。
はき捨てるようにいい。
男……魔竜王ガーヴは空間を渡った。
「・・・ママ?ママ?」
まだ、二歳にもならない少女―シルメリアには、なぜ母親が倒れているのか。
理解できるはずもない。
「・・無事だったのね・・・。」
赤い手を娘に手をあてて。
母親は、自分の娘を見つめている。
ごぶっ・・。
キュリアの口から血が吹き出る。
と。
『ほぅ・・・。これは、これは・・まさか、娘の方まで、我の・・。』
血まみれの口から声が漏れる。
気づいたのだ。
キュリアの中の魔王が、娘にも、自らの欠片がいることに。
「-!?シルメリアには、手を出させません!!!!!」
このままでは、娘が毒牙にかかる。
そう判断し。
自らが魔王を封じたまま、混沌へ帰りゆこうと決心するキュリア。
娘には、自分のように、魔王に覚醒してほしくはないゆえに。
キュリアは、懐に忍ばしている護身用の守り刀を自らののどにつきたてる。
ばちゃっ!!!!
幼子の顔に、そして、体に、冷たい・・なまゆるい赤いものが飛び散る。
『お・・おのれぇぇ!!そこまで、我を拒むか!!たかが、人間の分際で!!』
「人間だからこそ!あなたの好きにはさせません!!娘は命に換えて守ります!!」
『おのれぇぇ!!!では、せめて!!我が目覚めるのに、少しの出助けを!!』
キュリアが倒れる直前。
魔王は、シルメリアの中へ、自らの意思を飛ばす。
キュリアに封印されれているとはいえ、まがりなりにも魔王である。
分離して、送り込むことは、たやすいこと。
直後。
キュリアの中から、シルメリアの中に、赤い光が吸い込まれる。
―だめぇ!!!!
キュリアは最後の力を振り絞ろうとするが、力がでない。
どさぁ・・・・・。
キュリアは、血を失いすぎて、倒れ付す。
バタン!!!!!!
「王妃様!!!!!」
「キュリア!!!!!!シルメリア!!!!!!」
複数の兵士とシルメリアの父親でもありアストリア公王でもある人物が、部屋に入って目にしたものは。
ちょうど、キュリアが、深く剣を自らの胸につきたてているときであった。
「・・シル・・メ・・リ・・ア・・。」
か細い声で娘を呼ぶキュリア。
「ここにいるぞ!!しっかりしろ!!何があった!?」
夫の励ましに。
側にいそいで駆けつけた魔法医は首を横にふる。
シルメリアをキュリアの手に握らせるアストリア公。
「よかった・・。無事で・・・・。シルメリア・・・赤き炎に気をつけ・・・て・・・・・。」
娘の手を通して。
なんとか、今、魔王が送り込んだ、精神を押さえ込むキュリア。
いつまで、保てるのか・・・・。
娘の精神力にまかせるしかない。
その封印で、完全に力を使い果たすキュリア。
ぱた・・・・。
静かに、キュリアの手が落ちる。
瞬間、部屋が静まりかえる。
「っつうぅぅぅぅ!!!!キュリアぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
ゴーン・・・ゴーン・・・・・。
静寂な鐘の音。
「パパ?ママは?どこ?」
母親が死んだことすら、理解してない幼い娘を抱きしめて。
「・・・赤き炎に・・気をつけろ・・・とは、なんだったのだ?キュリアよ・・・・。」
呆然と、突如として命を落とした妻にとむけて虚空に話しかけている国王の姿がしばし見受けられてゆく……
「え!!キュリアお姉ちゃんが死んじゃったの!!?」
「・・ヘルちゃん・・・・。」
葬式に参列しているむちゃくちゃにかわいい男の子。
「・・・賊に殺されたようなものだ。・・・・すまん。おそらく、ウラヌスとレティシアも・・・・。」
娘を抱きながら、声を詰まらせるアストリア国王。
宮殿に、無造作に転がっていた、身元不明の数十以上の死体ともいえない、肉片を脳裏に駆け巡らせ。
「・・・・そうなの。じゃ、僕がここにいる理由・・なくなったんだね・・・・。」
シュンとなる男の子。
「・・・・すまんな。だが、いつでも、たずねてきていいのだよ?」
「いいよ。だって、ここにいると、お姉ちゃんたちを思い出してしまうから・・。また、縁があったら、会おうね。じゃあね。」
くるり。
背をむけて駆け出してゆく男の子。
「・・・・すまん。本当に・・・・ヘルちゃん・・・・。」
かわいがってくれていた人物が三人も一気にいなくなって。
家庭に問題を抱えているあの少年は、これからどうするのだろう。
不幸というか、彼の正体を知らない国王は。
心から冥王フィブリゾにわびていたのだった。
「あ~あ・・・・。まさか、ガーヴが出てくるとはなぁ・・・・・・。いいせんいってたのに・・・・・・」
ぶつぶつとつぶやくフィブリゾ。
「ま、過ぎたことをいってもしょうがないね♡ルビーアイ様に力をつけてもらうには、どうしても、欠片の復活が必要なんだし♡」
心の中で、お父様・・・・とフィブリゾはつぶやきながら。
なぜ、表面でもその呼び方でいかないのか。
理由は簡単。
創り出された当時は、そう呼んでいたのだ。
だが、金色の魔王のことを知り、父親の母で、自分達の母親でもあるあの御方をお母様。
そして、創り出した実際の魔王をお父様。
・・・・・とうぜん、かの御方から、するどい注意があったのは・・・・。
・・・・・・想像するだに気の毒である。
もしかして、そのせいで、こういう性格になってしまったのかもしれない。
『あのねぇぇぇぇ!!!!!そんな呼び方だと、この部下Sと、このあたしが夫婦みたいじゃないのよぉぉぉぉぉ!!!!!!!』
と、百億年以上も怒りが続いたのは・・・・。
彼らにとっては、根強い記憶。
「そうだなぁ。そだ♪もう一人、確定しているあの人間にチョッカイかけようっと♪」
ルンルン♪
美少年な容姿とは裏腹に。
魔王腹心の中でのリーダー。
実力的にも、トップの彼は。
次の作戦を考え始めていた。
―分かっている人物。
それは、人間の中では、聖者として名高い―赤法師レゾ。
―今はまだ、キュリアがシルメリアにかけた封印のせいで、冥王ですら、シルメリアの中の欠片に気づくことがなかった―。
ー続くー
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あとがき:
薫:余談ですが・・・・・。
このとき、アヴァロン(ガイルス)は25歳です。
フィルおうぢは4歳・・・・・・・・。
ルナ・リナ・ガウリイ・三人ともまだ生まれてません♡
この回は、シルメリアの番外編にて、視点が変わって書いてたりします(爆!)
ううん・・・・・。
ヴァルキュリアの花の話・・・・・。
どれにいれるかなぁ・・・・・・????
フィブリゾの番外編に組み入れるか。
はたまた、別の番外編を創るか・・・・(笑)
ま、のんびりとかんがえよう♪
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