愛する人達は、命に代えても―守ってみせる・・・。
絶対に・・・・屈しない――


       見果てぬ夢・第九話  ~覚醒の序幕~




「ぎゃあ・・ほぎゃあ・・ほぎゃあ・・。」
部屋の一室よりも声が聞こえてくる。
今回は、かなり難産だったようである。
なぜか、ここ最近、シルメリア様の体調が芳しくない。
医師達は、そんなシルメリア様の出産を反対していたが。
どうやら、無事にお子様は誕生したようである。
私も、心配が一つへってほっとしている。
―・・医師からは、半分、覚悟しておいてください・・・。
と事前通達があったから・・・・。
しかし、あんなに元気だった、シルメリア様に一体何が起こっているのか・・・・。

先日。
「失礼します。シルメリア様。フィリオネル様に言われて、ミプロス島名物の温泉の素を持ってまいりました。」
私がシルメリア様のお部屋にいくと。
シルメリア様は、夜風に当りにテラスへと出ていた。
「シルメリア様!!今が身体を大事にしないといけないときですのに!!」
私は、あわてて、シルメリア様にカーディガンを背中にかける。
空を見上げているシルメリア様。
「あ・・ドレイク・・・・。」
どこか戸惑ったようなシルメリア様の表情。
・・・何かが、あったのか?
あの、元気で、自信に満ちあふれているシルメリア様が、こんな表情をしているとは!?
「・・何かが、声が聞こえるの・・。」
シルメリア様が、空を見上げていう。
「・・声?」
私も思わず、耳を立てるが。
そんなものは、聞こえない。
「もしかして、シルメリア様のお子様が、おなかの中から、シルメリア様を呼んでいるのでは?」
私が、冗談まじりにいうと。
ふふっ・・。
小さくシルメリア様は、笑う。
長い黒髪が夜風になびく。
「さあ、夜露にあたっては、身体に毒ですので・・。」
いって、私は、シルメリア様を部屋へと戻す。
「・・そうね・・。それだと、夢でも、声が聞こえるのは、納得ね・・。」
潤んだような赤い瞳を床に向けて、シルメリア様は、小さく声をもらす。
・・・?
・・・・夢?
・・・・・・・一体??
「そうね・・。そうなのよね・・。ありがとう。ドレイク。リオにも、伝えて頂戴ね。
  温泉の素、ありがたく使わせていただきます・・と。」
そう言って、シルメリア様は、もう、寝るから、と私を部屋から追い出した。
リオとは、シルメリア様がフィリオネル様を愛称で呼んでいる名前である。
ちなみに、シルメリア様は、大の温泉好きなのだが・・。
それを踏まえての、殿下の心遣いである。
・・そのとき、私は、その言葉が、重要な意味を持っているとは・・・。
・・・・・・夢にも思わなかったのだ―。


「あ゛あ゛!!グレイシア様!!走っては危ないです!!」
私は、フィリオネル様たちのお供として、そして、護衛として城下町へとやってきている。
産後の健康状態が、あまり芳しくないシルメリア様を気遣って、フィリオネル様が、気晴らしに。
と家族で、城下町へと繰り出しているのである。
当然のことながら、かげながら、護衛している兵士達はいるには、いるのだが・・。
グレイシア様は、久しぶりに、家族で外に出た。
というので、はしゃぎまわり。
そして、路地を走り回っている。
私は、そんなグレイシア様を捕まえるのに、必死になっているのだが。
それも、グレイシア様にとっては、遊びに思えたらしく。
逃げ回っている姫である。
・・・どうにか、してくれ・・・・(涙)
それに、はしゃぎすぎて、魔法を使っていたりするもんだから・・・。
当然のことながら。
兵士達は、消化呪文や被害の拡大を抑えるのに、精一杯と成り果てている。
・・・グレイシア様ぁぁ(涙)
私が、姫を捕まえに、走り回っていると。
さすがに、ここ、四年余り見慣れた情景へと成り果てているためか。
町の人達の反応は、『いつものことね。』と大変に暖かいものがある。
中には、観光客などは、私が、姫を誘拐しようとして、追い掛け回している。
と勘違いして、私の進路をふさぐ者達もいるが・・・・。
そんな連中に、説明するのに、時間がかかる・・かかる・・・。
あまりに度々起こる出来事なので。
私は、殿下に、ある書状を作ってもらっている。
それを随時持ち歩き。
そういった場面に出くわした場合は、それを観光客にみせて、しのいでいるのだが・・・・。
・・ま、まあ、自分でいうのも、なんだが・・。
かなり、こんな外見をしている自分が、幼い子供を追いかけていれば・・・。
普通は、何かのトラブル・・と思うだろうなぁ・・。
と心の中で私は思いつつ。
私が、いつものように、グレイシア様を追いかけて、四苦八苦していると。
シルメリア様に、路地から走ってきた子供がぶつかったようである。



だだっ!!どん!!
「いったいぃぃ!!」
うずくまりひざを押さえる子供。
「大丈夫?」
「大丈夫か?」
先日誕生したばかりのアメリア様を胸に抱き、シルメリア様が心配そうに子供に向かっていう。
そして、フィリオネル様も、言葉にだし、子供に手を差し伸べる―が。
「うわぁぁん!!盗賊の親分!!こわいぃぃ!!」
ぷくくっっっっ!!!!
子供の台詞に。
通行人、全てが一瞬、含み笑いを漏らしているのを私は、姫を追いかけながら、聞いた。
(・・確かに。適切な表現・・ぷくくっ!!)
小声で話している人々もいたりするが。
・・そりゃ、確かに・・・。
いや、以前にも増して。
フィリオネル様が、ひげを生やしていることから。
以前にも増して、盗賊のおやぷん・・とと、首領にみえないことも・・ない。
・・・いや、見える・・・(汗)
兵士達も、うずくまって笑っている者達もいたりする。
・・・お゛い・・。
・・・・こら・・・・。
「はぅ・・。リオ・・。怖がらしては、ダメよ?」
言ってシルメリア様は、アメリア様をフィリオネル様に預けて。
子供を助け起こす。
「大丈夫?」
シルメリア様が手を貸すと。
子供は、すんなりとシルメリア様の手をとって起き上がる。
私の方から、みえるのは、感嘆にも似た周りの人々のうめき声。
どうやら、子供の容姿をみてのことらしい。
私が見て取れるのは、軽くウェーブのかかっている黒い髪の少年・・いや、少女か?
といったとこだが・・。
顔までは、遠くて、判別できない・・。
というか、早く、グレイシア様を捕まえなくては・・・。
すでに、グレイシア様が召喚した、無数のくらげに埋め尽くされてきている町のとある路地。
・・まあ、覚えた魔法を使いたい・・という気持ちは・・わかるが・・・。
「うん!!ありがとう!!お姉ちゃん!!」
言って、シルメリア様の手に、まるで、騎士のように、軽く子供は、キスをすると、
くるりと向きを変えて、私のいる路地のほうへと走ってくる。
・・なぜ、こっちに?
こっちには、民家どころか、何もないが・・?

「・・ふふ・・。み~つけた♡」
子供が、私の横を通り抜けたとき。
私は、その子供の顔を始めて見た。
―私に、見覚えがあるその顔。
そして、なにやら、含み笑いをしつつ、意味深な言葉をつぶやきながら。
子供は、路地の奥へと入って行く。
・・ま・・まさか!!?
いや、ここは、セイルーンの都市の真ん中!!?
いや、でも、もし、・・というか、今の気配は!!!!
「ま・・まて!!!」
私は、自分でも、無意識のうちに、子供を追っていた。
だが、子供が曲がったその先は行き止まり。
私が、角を曲がると。
子供の姿は、どこにもなかった・・・・。

・・・今、あの子供から感じたのは、間違いなく、魔族の気配・・・・。

それに・・あの顔は・・・。
忘れようにも、忘れるものか・・・・。

子供のころ。
カタート山脈で出会った。
あの顔をしていた子供。
そして、同じく。
カタート侵攻のとき。
私がルシオ達に、強制的に、空間移動させられる瞬間。
私の目に、飛び込んでいた、・・魔王のそばに、佇んでいた・・・魔族―・・・。

・・・はっ!!
シルメリア様!!?
私は、ふと、不安を感じ。
あわてて、シルメリア様の元へと走ってゆく。
なぜか、姫もシルメリア様とフィリオネル様のところに、戻っていた。

「・・どうした?シルメリア?」
フィリオネル様が、半場呆然としていたシルメリア様に問いかける。
「あ・・ああ。ごめんなさい・・。なぜか、あの子供・・。あったことがあるような・・。
  ・・なつかしいような・・・・。でも、避けたいような、感覚にとらわれて・・。」
ふと正気に戻ったような、シルメリア様の言葉に。
「・・ふむ・・。どうやら、疲れたようだな・・。城に戻ってゆっくり休むといいだろう・・。」
「・・そうね。疲れているのかも・・ね。」
殿下とシルメリア様が城へと戻ってゆく。

―おやおや、これまた、面白い展開になってますねぇ♡―

風のどこからか、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

私は、その声の主を気配で探し・・・・。

おもむろに。
背に封印してある剣を抜き放ち。
虚空の一点に焦点を絞り、突き刺した!!
すかっ!!
ちっ!!
手ごたえは・・ないか!!

―まったく・・。乱暴ですねぇ・・。
   言ったでしょう?貴方には、手出し無用と命令がでてるって♡
   ・・・ね♡ガイルス=パロ=ウル=ガイリアさん♪♡―

どこからか、私をからかうように声のみが響く。
・・どうやら、完全に精神世界(アストラルサイド)から声を出しているらしい。
・・気配が、この場所には・・ない。

「黙れ!!今度は、何を考えている!!!!獣神官!!!ゼロス!!!!!」
私が虚空に向かって叫ぶと。

―ふふふ♪それは、秘密です♡―

「あ゛!!待て!!!!」
私がさらに問い詰めようとすると。
だが。
完全に気配ごとなくなっていた・・・・。

今度は、絶対に守り抜いてみせる・・・・。
魔族が今度は、何をたくらんでいるのかは分からない。
だが、自分には手を出せないらしい。
ならば、この状況を利用しない手はない。
常に、シルメリア様とフィリオネル様の傍にいれば。
おいそれと、魔族も手を出してはこれないであろう。
・・魔族相手に、変わり身の術が通用するとも思えないし・・・。
実は、私は、イメージした相手と、同じ姿形。
能力なども、すっかり同様に姿かたちを変えることが出来る。
だらか、よく、この能力で、ルォン兄さんや、お爺様、果ては、国王などの身代わりを何度経験させられたことか・・。
・・私が、この能力が使えることに気がついたのは。
・・・初めてカタートに向かってから、生還して、しばらくのこと。
だが、今まで、これといって、私は、その能力を利用したことは・・ない。
なぜかというと。
この能力を使えるのが、自分だけだということ・・。
おそらく。
魔道士協会では、ガイルス・・つまり私のみがこの術を扱える。
という情報は握っているはず。
ならば、使ってしまえば、正体が必ず露見する。
・・それは、余り、喜ばしい・・ことではない。

数週間後。
顔色がおもわしくない、シルメリア様のために。
フィリオネル様は、来年は、イルマート公国にある別荘地にいくことを決定したようである。
・・あそこなら、シルメリア様が二番目に気に入っている温泉も、セイルーン王室お抱えであることだし・・。
ちなみに、余談だが。
シルメリア様の一番のお気に入りの温泉は。
エルメキア帝国にあるミプロス島にある温泉だとか・・・・。
まあ、そこまで、特級五つ星の温泉には届かなくても。
王室がもっている温泉も五つ星の温泉。
どうも、別荘を建てているとき。
建築士が、冗談で、『地精道(ベフィス・ブリング)』で、縦穴を掘ってみたところ。
みごとに、温泉の場所を掘り当てたのである。
ちょうど。
フィリオネル様の婚姻が決まった次期でもあり。
祝いを兼ねて。
道を二つにわけ。
一般の人々にも温泉を開放していたりする。
金貨一枚。というその安さで。
かなりな人気を生んでいるその温泉。
・・実は、そこの温泉に勤めている人々も、セイルーン王国に使えている人々なのだが。
だから、当然、彼らの賃金は、王国からでる。
そして、この温泉で儲けた利益は、各施設などへの寄付金として奉納しているのである。
ちなみに、本泉は、別荘の中にひいているので、屋敷の中で、露天風呂が楽しめるように設計がされていたりする。
・・・まあ、ほんとうに、どうでもいい余談だが・・・・。

とりあえず、来年の夏。
フィリオネル様たちは、家族全員で、イルマートへの避暑地旅行を実行に移すことになった。

私は、護衛として、ついていくのだが・・・・。

・・・なんだろう?このやるせない、不安の正体は・・・??



                                       -続くー


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「ずるい!!ずるい!!ずるい!!!ずるい!!!!ずるいぃぃぃぃぃ!!!!!」
栗色の髪の少女の言葉が、昼から、ずっと続いている。
今は、すでに夕食どきだというのに・・。
「まあ、しかたが、ないだろう?リナ?お前は、まだ小さいんだし・・。」
栗色の髪の少女・・そう、人間に転生してたりするリナスである。
人間の姿では、栗色の髪に紅の瞳。といった容姿なのだが。
そんなリナに言い聞かせているのは、
リナの父親でもある(人間の)マクスヴェルズ。
「いいじゃないの♪リナもそのうちに、旅行にいけるって♪」
青い髪の紅の瞳の少女がリナにいう。
もちろん。
家族みんなの食事を食べる手はとまってはいなかったりするのだが。
「だから!!ずるい!!いっつも!!ルナ姉ちゃんばかりぃ!!」
リナが抗議する。
リナがむくれるのも、どもっとも。
ルナは、リナが誕生したときの一件で。
とある世界には、『赤の竜神の騎士』として定着してしまっているのだ。
本当は、ルナ、本人なのにね♪
そんなわけで。
ルナは、セシルたちによく連れたって。
いろいろな国々へと旅行にでかけていたりする。
・・リナは、お留守番♡
留守番役の家庭教師&ベビーシッターと留守番なのである。
・・・・・・・・・。
リナが黙ったのをみてとって。
普通ならば、あきらめた。と思うだろう。
だが、いつものパターンを読みきっているルナ達は。
リナがぶつぶつと小声でいっているのを聞き取っていた。
「―我と汝の力持て、等しく、滅びを与えんことを・・。」
リナのつぶやきが終わると同時に。
「どらぐすれいぶ!!!」
リナの呪文が完成する。
さすがは、リナ♪
まだ、一歳をすこしすぎたばかりだというのに♡
だが。
ペシ♪
ルナは、あっさりと、リナが放った呪文を箸で、霧散させる。
もぐもぐもぐ・・。
「早く食べないと、シチューが、冷めるわよ?リナ?」
姉妹喧嘩は度々なので。
リナの行動をみこして、食事にすかさず結界を張って守っていたりするセシルである。
ぶぅ!!!!
リナは、大変にふくれている。
「まあ、リナも、もう少し♪大きくなったら、どこかに一緒につれれってあげるって♪」
ルナの台詞に。
「絶対だからね!!ルナ姉ちゃん!!!それに、父ちゃん!!母ちゃんも!!」
リナの言葉に。
『はいはい・・。さ、食事、食べましょ。』
あっさりと返答を返し、食事の続きをしているインバース家の人々である。
・・・絶対だからね・・・。
リナは、ぶつぶつと文句をいいつつ。
しっかりと、手には箸を握って食事を食べていたりする。
リナが、だだをこねていた理由。
それは、商用で、来年度の夏。
セシルとルナが、イルマート公国にいく。
という話しを聞いたから。
イルマート公国といえば、リナ達のところでは、かなり避暑地としても有名な場所。
そんな場所なので、リナは、自分もいきたい!!と駄々をこねていたのである。

とりあえず、リナを説得して。
ルナ達は、夏に、イルマートへといくことになった。
・・まあ、説得として、リナが、魔道士協会に入会することを了解させられたよ~だけどね♡

どうやら、リナは、少しでも、ルナに対抗したいがために。
見聞している魔法や、無意識で放っているものではなく。
きっちりとした知識を身につけよう。
と心に誓ったようであるのだが・・・。

・・・・そんなことしなくても、リナは、もともと全てを知っているだから、大丈夫なのに・・ねぇ・・・・♡


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あとがき:

かお:リナが、イルマートに向かったルナ姉ちゃんたちのことは、スペシャルでは、十歳のころ。といってますが。
    それ以前にも、同じことが、あったという設定にしてみました(笑)
    つまり、リナが小さくて、覚えてなかっただけ・・という(爆!)
リナ:・・つまり、姉ちゃんと母さんが、あたしと父さんを置いてけぼりにしたのは、あれが、初めてでは・・ないと(怒り)
    ↑スペシャル十三巻『PB攻防戦』参照(笑)
かお:いえいえ♪リナ様のお父さんは、今回の話しでは、一緒にいってますので♪
リナ:なんですってぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
エル:細かいことは、気にしないの♪
リナ:・・って・・?誰?
エル:面白くないわね♪じゃあ、ここだけでも♪覚醒♪(パチン♪)
リナ:あ゛あ゛!!お母様ぁぁ!!!??
かお:え~・・・。エル様とリナス様がなにやら話しこんでいますので・・・・。
    次回は、イルマートの話しに入ります・・。
    今回で、いけると思ったのに・・・・(汗)
    次回で、イルマートの話し・・・終了できるか・・(汗)
    さて・・と。
    物語は、いよいよ大詰めです。
    シルメリアの運命やいかに!?(笑)
    そして、次回で出てくる、使い捨てにされたも同然のとある腹心の部下の一人の『ヘル』の運命は!?(爆!)
    それでは!!


   ・・・ルナとリナが、ディルスに向かう話し・・。
     ・・・・・・何話先になるだろう・・(汗)←つまりは、最終回目前(汗)


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