狭間の選択     〜セシル〜


 
    「・・・・・・・で?それで隠れているつもり?」
    その言葉と同時に。
    ざあと。
    窓が開かれる。
    それはもう予想していたこと。
    黒い闇の中。
    そこに佇む人影一つ。
    全身を黒い服装で覆い。
    目だけが少しばかり覗いている。
    リナの言葉にすっと目を細め。
    「・・・・・・・・・・・・。」
    「ま、無言を決め込むのは別にいいけど。
      しかし、乙女の部屋に侵入しようとするなんて。
      まったくもっていけないことよね。」
    「まったくだ。」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・
    「というか、何であんたまでここにいるのよぉぉお!
      ガウリイ!!!」
    バン!
    いきなり自分の横から声がする。
    リナはベットに腰掛けて、髪をといていた状態。
    ついでにもう夜なので寝間着に着替えていたりする。
    その声に思わず驚き。
    横を振り向くと。
    そこにいるはずのないガウリイの姿が。
    なぜか、ガウリイは、ここ、セイルーンに到着してからというもの。
    ずっと、男性の姿のままで、リナに付きっ切りになっているのだ。
    その理由を・・・リナはまったくもって気づいてないが。
    かなり驚き、ベットに手を叩きつける。
    「ん?いや、リナに殺気が向けられていたから。
      とりあえず、始末しておこうかとおもってな(はあと)」
    何でもないように言い切るその言葉に。
    「あのねぇ!ガウリイ!この私の獲物を横取りするき!?
      ずるいわよ!私だって、この部屋にこいつが逃げられないように。
       結界張って、それでもって。
        試してみたい、神魔融合呪文とかあるんだからね!」
    「そうはいうけど、リナ。もしリナの綺麗な肌に傷の一つでもついたら。
      俺が後悔するからな。」
    「だぁかぁらぁ!どうしてあんたが後悔するのよ!」
    というより。
    乙女の・・しかも、深夜。
    年頃の娘の部屋・・しかも寝室。
    しかも、二人が言い争っているのは・・・ベットの上。
    そのことを突っ込み、警戒するのが普通ではないのであろうか。
    しかも、リナは・・・すでに寝間着姿なのである。
    だがしかし。
    そういった警戒は。
    まったくもって、抱いてもいないリナなのであった。
    「だってなぁ。いくら雑魚っていっても。
     リナに傷つけるやつは誰でも許せないんだよ。俺は。
      当然の反応だとおもうぞ?大切な人に対するその想いはv」
    にっと笑うガウリイに。
    「・・・・?そーお?仲間にそこまで思いを入れる?
      私だったら、個人で頑張れ!というとおもうけど?」
    ・・・・ずる。
    その言葉に。
    思わずガウリイがベットにずり落ち。
    そしてまた。
    無言で部屋に入ってきていた全身黒尽くめの男性もまた。
    思わず崩れ落ちそうになる。
    
    ・・・・リナは。
    あからさまな告白ともとれるその言葉を。
    まったくといっていいほどに。
    ・・・・・・・・全然理解してないのであった。

    「・・・・・我を無視するは・・・・いい加減にやめて欲しいのだがな・・・。」
    そんな二人の・・・どうみても、恋人同士のじゃれあい。
    もしくは、鈍いリナに言い寄るガウリイ。
    ・・・・後者の方が正しいのであるが。
    二人の姿をみつつ、声をだしているのは。
    アルフレッドに雇われている、とある刺客というか暗殺者。
    「ともかく!私はちょっと試してみたい術あるしv」
    そういいつつ、嬉々として言い放つリナに。
    「・・・・というか、俺は人間相手にエルさんの術はどうかとおもうぞ?」
    ぽりぽりと鼻をかいているガウリイ。
    「ちょ!?何でガウリイ、分かるのよ!?」
    そんなガウリイの言葉に目を見開くリナ。
    「リナのことだったら、俺は何でもわかるさ(はあと)」
    「?????何でよ?」
    いいながら。
    後ろから、呪文を唱えさせないためか。
    抱きしめているガウリイに。
    まず警戒を示すのが・・・普通の反応ではないのであろうか・・・。
    「と・・・ともかく!これは私の獲物!」
    そういいつつ。
    ぱしりと。
    リナにとってはなぜか自分の腰に手を回して抱きしめている、
    ガウリイの手を軽くはたく。
    ・・・・・・・普通はここまでされていれば。
    気付くと思うのだが。

    ガウリイが、リナに対して好意・・・つまり、恋愛感情を持っている。
    ということに。

    しかし、まったくその可能性の欠片も感じていないリナなのであった。


    「でもリナ、どうせだったら、一度無に戻してから。
     際構造したほーが、こいつのためじゃないのか?」
    のんびりというガウリイのその言葉に。
    「・・・?どういうことよ?」
    キョトンとして問いかけているリナ。
    くうう!
    かわいい!
    などとガウリイはそんなリナをみて心で思っていたりするのは。
    当然リナには分かるはずもなく。
    「だって、こいつ、ズーマだろ?
     暗殺者の中では一応トップクラスの。
      それでもって、本名がラドック=ランザード。
       ・・・確か子供というか息子にアベル=ランザードとかいう名前の子が一人、
        いるんじゃなかったっけ?
         ヴェゼンディの商人の家柄で。」
     『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
     つらつらと、事実をさらりと何でもないように。
     挙げてゆくガウリイに。
     思わず絶句しているリナ。
     かなり、いつも冷静を心がけているはずなのに。
     そのまま、つったったまま、いきなり正体を言い当てられて。
     固まっていたりする・・・今窓から入ってきた暗殺者(アサシン)ズーマ。
     「・・・・ガウリイ、熱でもあるの?あんたが人の名前を。
       すらすらと言い当てれるなんて。」
     そういいつつ、ガウリイの額に手を当てていたりするリナ。
     「あ・・・あのなぁ。俺だって、ボケていいときと。
      そうでないときの区別はついてるさ。」
     まあ、見ただけで。
     その本質を見抜く訓練なんかも俺・・・エルさん達にやられているからなぁ。
     などとしみじみ心でつぶやいていたりするガウリイ。
     「・・・・なるほどヴェゼンディのランザード・・・・。
       確か今はあまり有名でない商人の家柄ではあるわね。」
     実家の関係上。
     その関連のことには詳しいリナ。
     「うーん。子供がいるんじゃ、殺すわけにもいかないか。」
     さらりと。
     何でもないようににこやからさらりと言い切っているリナの言葉に。
     思わず慣れているはずであるのに。
     冷や汗が流れ出ているズーマ。
     「ちっ。悪人だから人権ないから。
      せっかく、金色の王の呪文の実験材料・・もとい。
       実験体にしよーかとおもったんだけどなぁ。」
     本気で残念そうにつぶやいていたりするリナ。
     そのまま、しばし腕をくみ考えて。
     「よっし!じゃぁ、ルナ姉ちゃんに送りつけよう!
      一応、商人だし、こいつも。そうなんでしょ?ガウリイ?」
     にっこりと笑うリナに。
     「まあな。」
     「??????」
     自分の正体が知られている。
     というのにかなり驚いている最中。
     彼・・ズーマの前で繰り広げられているのはそんな会話。
     そして、意味が分からず、ただ、自分の正体がいきなり、
     ばれているので。
     かなりの冷や汗をかいているズーマの前で。
     ごそごそと。
     何やらベットの横にかけている袋から。
     何かを取り出しているリナ。
     
     袋から取り出したのは。
     ちょっとした手の平サイズの小さな水晶。
     それに少しばかり手をかざし。
     フワリと空中に浮かべるように投げると。
     ふわふわと、リナの目の前にそれは力も何も使わずに浮かんでゆく。
     
     ゆらりと。
     その水晶が一瞬揺らめいたかとおもうと。
     そこに出現する、栗色の髪の女性。
     『―あら、リナじゃない。あら、とうとうリナにも恋人ができたのね(はあと)』
     にこやかに、水晶の中から話しかけてくるのは。
     どうみても、二十代そこそこの若い女性。
     「あ・・・・あのねぇ・・・母さん・・・・ガウリイはそんなんじゃないって。
        こいつ、私達の一族以外で同じよーに性別転換可能なのよ。
         珍しいでしょ?」
     そういいつつ、未だに・・・・リナのベットの上に一緒になって座っていたりする、
     ガウリイを指差して。
     水晶の中に浮かんだ女性に説明しているリナ。

     「始めまして。ルシフェル=ララァ=ガウリイ=ガブリエフといいます。
      そのうち、正式にご挨拶に伺います。
       リナのお母さんですね?とりあえず、この場で、ご挨拶いたしておきます。」
     にこやかに。
     挨拶しているガウリイ。

     リナの取り出した水晶は。
     リナの実家にダイレクトに通信が取れるという品物。
     何処にいても、どんな距離を隔てていても。
     どういう理屈なのか。
     何しろ、これは、リナの姉であるルナ特性。
     ルナ曰く。
     この惑星上の何処ででも、通信が可能らしい。

     そして。
     水晶に映し出されているのは。
     リナの母親でもある、セシル。
     セシル=アスヘナ=ドナ=インバース。
     ちなみに。
     彼女はというと。
     女性のときは大概セシル。
     男性のときは、セアスと名乗っていたりする。
     リナの一族は、その全てといっても過言でないが。
     ・・・・まあ、一部普通の人間などもいたりするが。
     ・・・・あと、多少人でない・・・・たとえば竜族などもいたりはする・・・。
     そんな事実はとりあえずおいておく。
     その一族はその体質というか特徴で。
     男女、そのどちらにもなれる。
     という特異の特徴をもっている一族なのである。


     ちなみに、余談ではあるが。
     姉の髪の色。
     紫がかった青い髪は。
     リナの父親の女性になったときの髪質である。


     『まあまあねご丁寧に。リナ、里帰りするとき、
      孫を期待しているわね(はあと)』
     にっこりと、いってくる母親のその言葉に。
     「だから、恋人とかじゃないってばぁぁぁあ!!!!!」
     顔を真っ赤にして抗議の声を上げていたりするリナ。
     そんなリナを完全に無視して。
     『ガウリイさん、こんなリナでよければ、どうぞv
       先に既成事実作られてもかまいませんよ(はあと)』
     「何馬鹿なこといってるのよ!母さん!?
      というか、ガウリイを紹介するために連絡したんじゃないのよ!
        こいつ・・・知ってる?」
      ぜいぜいと。
      息をきらせつつ抗議の声を上げるリナに。
     『まあ、だって、リナってば。その手のことには疎いから。
      リナ、駄目よ?好意を持ってくれている、しかも、
       そんなに腕がたって実力もあっておまけにハンサムの人を。
        のがしちゃ(はあと)』
     ほのぼのと。
     ほほほほ。
     口に手をあてて、笑っているセシルの姿が。
     水晶から小さな立体映像として映し出されていたりする。
     か・・・・母さんには何をいっても無駄だった・・そーいえば・・。
     そんなことを思いだし思わすこめかみを押さえつつ。
     「とにかく、こいつ、アサシンズーマとかいうやつなんだけど・・。
      どーやら、ヴェゼンディのランザード商会のラドック。」
     そういいつつ、ズーマを指差すリナ。
     『まあまあ、いけないわねぇ。商人が暗殺者なんかに、
      手をそめちゃ、やるんだったらハンターにならないとv』
     にっこりと微笑むセシルの言葉に。
     「そーよねぇ。というわけで、こいつの根性を叩きなおすのに。
       そっちにこいつ、送ってもいい?」
     『あら、別にかまわないわよ。そうねぇ。
      ルナにでも言って、根性を叩きなおしましょうかねぇ。』
     「・・・・・・何・・・・。」
     そんな会話が繰り広げられている中。
     確かに見おぼえのある。
     確か・・。
     ゼフィーリアの・・・インバース商会の・・・・・確か、あれは・・。
     などとそんな姿をみて心で突っ込みをいれていたズーマ=ラドックは。
     セシルの言葉に思わず声を上げ。
     「じゃ、決まりね(はあと)」
     リナがにっこりとそう笑って、その浮かんだ水晶を。
     何の前触れもなく、ズーマの方向にと向ける。

     カッ!!!!


      「・・・・・・な゛!?」


      その直後。
      水晶から光があふれ出て。


      そのまま、光にと飲み込まれてゆくズーマ。


      ・・・・この水晶、実は、通信機能だけでなく・・・。
      こういった物流運搬の機能も・・・・そなえていたりする・・・・・。



      後には。
      ただ。
      ぱたぱたと。
      開け放たれた窓が広がるのみ。

     ばたん。
      「うう。まだ少し寒いわね。」
      文句をいいつつ、窓を閉める。
      「だったら、リナ、一緒に寝るか?俺暖かいぞ?」
      その言葉にしばし考え込み。
      ・・・・確かに今日は少しいつもより冷え込んでいる。
      寒さが極端に苦手なリナである。
      「・・・・じゃ、ガウリイ、ララになってよねv」
      ・・・・・・・・・女性の姿ならば。
      一緒に寝るのは・・・何の抵抗というか問題も感じないないらしい・・・・。


      ・・・・・どこか絶対にかなり疎いというか抜けているリナであるのであった・・。






      備え付けられている水晶から。
      出現する黒い服装に身を纏っている人物が一人。
      「へえ、こいつがアサシン・・・ズーマ。」
      そういって。
      にっこりと。
      なぜか、その手にすりこぎをもって、目の前で彼を見つめている若い女性。
      歳のころならば二十歳より前くらいであろうか。
      「さて、とりあえず、中から負の要因を搾り出しますかね(はあと)」
      にっこりと。
      まるで何も知らない人が見れば。
      完全に見惚れてしまうほどの極上の笑みを浮かべているのは。
      紫がかった青い髪に紅の瞳をしている女性。
      動こうにも動けない。
      目の前に突き出されているのは・・。
      ・・・・・・・なぜか少し大きめのすりこぎ・・・。
      「あ、痛くないない、すりこぎで負の要因をすり出しましょうねv
        明日の朝のその辺りの雑魚を手なずけするるのにちょうどいいかも。」
      そういって。
      にっこりと笑いつつ。
      彼に詰め寄ってくる女性の姿に。
      しばし、意味が・・・何が起こっているのか理解できずに。

      その直後。


      「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!?」



      いつものことながら。
    
      ・・・・・・・夜遅く。
      といっても深夜にはまだ早く。
      未だに夜の町などが活気づいているその時間帯。
      ズーマの叫びが・・・・ゼフィール・シティの中を。
      こだましていっていた。

                                     −続くvー

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    あとがきもどき:

         薫:・・・・・・・ラドック・・・・ルナさんというか・・。
           インバース家に送られちゃいました(まて!)
        エル:・・・・あんたが早く打ち込まないから・・・。
           もう次の日の二時じゃないのよ!
         薫:しくしくしくしく・・・・。
           すいません・・・・(涙)
       エル:それにまったく私が活躍してないけど?
        薫:・・・・・名前は出てます・・・名前は・・・(おどおど)
      エル:生ぬるい!

      グシャ!


      エル:えーと。どこかにいってしまった薫は無視するとして。
          とりあえず、次回、反撃開始?(笑)
          のアルフレッドですv
          それでは、またv