狭間の選択 ~その身に宿りしは…~
「…ぐっ。」
あせりの色が見える。
覇王の瞳に。
「…というか、あのガウリイ殿は本当に人間なのか?(汗)」
などとその光景をみて半ば呆然とそんなことをつぶやいているミルガズィア。
それもそのはず。
ガウリイが一撃、一撃を繰り出すたびに。
ごっそりと、覇王の本体である精神生命体が、そがれているのが見て取れる。
黄金竜である彼の目にもその衰退はあきらかで。
思わず冷や汗が流れ落ちるのは、何も彼のせいだけではない。
そしてまた。
ルークにいわれ、震えつつも気力を取り戻し。
視線をガウリイと覇王にと映したメフィが目にしたのもまた。
先ほど自分が感じたのは、ガウリイが覇王に圧されている。
―そう、彼女は思い込んでいた。
だが、実際はどうであろう。
「…というか、どうして人間風情が魔族の腹心の上をいっていますの?」
ほとんど呆然としたメフィのつぶやきがもれ出てゆく。
そんな彼女の目の前では。
いまだに全身の肌色が真っ白いままのミリーナの姿が。
先ほどの、ルークが手にしていた剣を覇王の空間干渉により、
その心臓よりは少し外れたものの、おもいっきりその胸にとつきたてられたミリーナ。
もしここにリナがいなかったら、間違いなく彼女は心臓を一撃で貫かれて。
普通生きてはいなかったであろうが。
…もっとも、この場にリナ、そしてガウリイがいる限り。
そう簡単には死亡することはないではあろうが。
何しろ、ミリーナの体から魂が抜け出そうになるのをリナはその【力】を使い、
その肉体にとどめおき。
どう考えても助かるはずもない致命傷、ともいえるその怪我を。
見る間にふさいでいるリナ。
それは、彼女の一族が【赤の竜神(フレアドラゴン)スィーフィード】の力を使える種族。
ということもあるにしろ。
もっぱらのところ、【金色の王】より教わった術が効を示している。
剣を引き抜くと同時にその体の半分以上の血液が大量にと流れ出し。
はっきりいって通常ならば失血死、もしくはショック死。するであろう。
そんな大怪我を覆っている、というのに。
リナの回復術によって、その傷は見る間にとふさがり。
後は体力、そしてその失われた血液を生成させるのみ。
流れ出た血を清めて、そのまま体内に戻してもいいのではあるが。
それでは、何か衛生的にもあまりよくないと思い直し。
故に、今リナはミリーナの体内にと干渉し。
ただいま新たな血液を作り出す促進を促しているまっさい中。
そしてまた、メフィはメフィで失われた、ミリーナの気力を。
自然界の気をもってミリーナに分け与えていたりする。
「ミリーナは…」
ほとんど顔面蒼白状態になりつつつぶやくルークに。
「大丈夫よ。命はね。後はミリーナの気力しだいよ。
今体内で血液を生成させてるから。」
いいつつ、ミリーナにと手をかざしているリナ。
そんなリナの言葉に少しほっとし。
「…俺のミリーナを頼んだぜ。リナさんよ。」
いいつつつ、きっと、いまだにガウリイと剣を混じり合わせている覇王にと向き直る。
「…ゆるさねえ。」
許さない。
俺の大切なミリーナを傷つけるものは。
―どくん。
何かが、体の中が…何かが熱い。
そんなことをふと思うが。
だがしかし、大切なミリーナを傷つけられた今のルークに。
そこまで気にかけている余裕などあるはずもなく。
「てめぇ!よくもやりやがったな!俺のミリーナに!」
言い放ち、その手にした【魔王剣(ルビーアイブレード)】を手にし。
そのまま、一気にとガウリイと相対している覇王にむかって突き進む。
「あ、おい!」
ふいにさすがというか、やはりというか。
それに気づいて思わず叫んでいるガウリイではあるが。
ルークはその感情を怒りに支配されていて気づいていない。
自らから微妙ではあるが瘴気が放たれつつあることに。
「おおっ!」
ガギッ!
そんなルークを見て取り、思わず歓喜の声を上げる覇王。
そして、それと同時に。
間合いをつめたルークの一撃が覇王のその剣を捕らえゆく。
「だんな。あんたはミリーナを頼む!」
リナとガウリイの力があれば、ミリーナは大丈夫のはず。
そう確信しつつ。
そして、すちゃりと剣を構えなおし。
「こいつの相手は…俺がする!」
いいつつ、その手にした剣の魔力をさらにと高めてゆく。
冷静に考えればどうしてそんなことがすんなりと可能なのか。
いつもの彼ならばわかるであろうはずなのに。
今の彼にはそんなことは考え付くはずもなく。
「おい…あんた…」
ルークの中で息づくそれに気づき、思わず声をかけるガウリイではあるが。
「頼む!ミリーナを!」
まるで血を吐くようなそんなルークの言葉に。
どうしたものかと一瞬思い悩むが。
「あんただって…もし、あのチビ…でなかったリナさんが、
俺のミリーナみたいな目にあったら…わかるはずだぜ?」
そういい、覇王の剣を受け止めつつ、まるで掻き消えるようにとつぶやくルーク。
その言葉に。
一瞬、ガウリイはもし、リナがミリーナのような目にあったら…
それを空想し、思わず一瞬身震いする。
絶対に自分はそんなことにはさせないが。
そんなことをおもいつつ、だがしかし。
覇王に殺意というか怒りを向けているルークの気持ちは。
そう考えることによっていたいほどに伝わるようにと理解ができる。
「…わかった。だけどな。赤い闇にとらわれるなよ。」
「??サンキューな。とにかくミリーナを頼む!」
ガウリイの言葉の意味はルークには理解不能。
首を傾げつつも、
それでも、これでミリーナは大丈夫。
という確信をもち。
「…よくもやってくれたな。覇王…グラウシェラー!」
そう目の前の覇王に言い放ち。
そして。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫び声とともに、そんな彼にと切りかかってゆくルークの姿。
-こいつだけは、絶対に許さない。
ルークの心の中を怒りが取り巻いてゆく。
――我が好むのは、怒り、悲しみ、といった負の感情…
??
どこかで声がしたような気もしなくもないが。
だがしかし、気のせいだ。
と一人で勝手にそう解釈し。
そのまま、覇王にむかって剣を繰り出してゆくルーク。
そんなルークを見つめつつ、覇王の口元に浮かぶはかすかな笑み。
やはりだ。
人間というものは、大切なものが傷ついたときなどには。
我を忘れ、その心を負の感情で満たすことは、これまでの経験で明らか。
今目覚めた北の魔王様もまた、それにて覚醒されたのだから。
そんなことをおもいつつ。
覇王の顔には歓喜すらとも取れる笑みが浮かびゆく。
だがしかし、それはルークの目からは余裕の笑みにと捉えられ。
「なめるなぁぁぁぁぁ!」
いいつつ。
右手に剣を出現させたまま。
「崩霊裂(ラ・ティルト)!!!」
ゴウッ!
呪文詠唱も何もなしに放ったルークのその術が。
剣の間合いの距離のそんな至近距離にて覇王にと直接ぶつかってゆく。
「…何だ!?この瘴気の高まりは!?」
悲鳴に近いミルガズィアの声。
「…何ですの!?いったい!?」
それに気づき思わず同じく悲鳴に近い叫びをあげているメフィ。
部屋全体を明らかな瘴気、としかいいようがない気配が埋め尽くしてゆく。
「だぁぁぁ!ルーク!馬鹿!怒りにその感情というか心を捉えさすんじゃない!」
それに気づき思わず叫んでいるリナではあるが。
「…なあ?リナ?今のルークにはオレたちの声…絶対に届いてないぞ?」
そんなリナの言葉にぽりぽりと頬をかきつつつぶやくようにといっているガウリイ。
とりあえず。
ガウリイがルークに頼まれ、ミリーナの元にといき。
そして、何やらつぶやくと同時に。
ミリーナの顔色が一瞬のうちにと変化する。
さすが、【宇宙の姫】の側近ともいえる、【宇宙の石】の化身である精霊の、
フェアリーの血と力を受け継ぐ子供だけのことはある。というべきか。
ちなみに、それプラス。
ガウリイは育ての親ともいえる、【金色の王】の力すら自在に使いこなせるがゆえに。
まず、彼にかなうものなど…かの二人以外には…何人とているはずもなく。
いや、もう一人。
ガウリイはリナにはからっかしではあるが。
だが、当のリナ本人がそのことにまったくもって気づいていない。
というのも今の現状。というか真実。
そんなガウリイの言葉を肯定するかのように。
ゆるさねえ。
こいつだけは、絶対に。
それだけを心にと思いつつ。
思うがままに【力】を振るい始めるルーク。
何か攻撃を繰り出すたびに、体が軽くなるような気がする。
一撃、一撃に退いてゆく覇王。
「てめぇだけは!絶対にゆるさねぇぇ!」
言い放つ、ルークの瞳が…一瞬さらにさらに深い紅き色染まりゆく。
それは、まるで…血のような、黄昏の空のような色の赤…
『…な゛!?』
明らかな…瘴気。
それも強い。
かつて、この気配は感じたことがあった。
そんなことをおもいつつ。
「…まさ…か…」
いいつつ、ミルガズィアの視線がルークにとうつり。
それはそのまま硬直してゆく。
瘴気が発せられているのは【覇王】からではない。
あきらかに、それが発せられているのは。
紛れもなくルーク本人から。
「…まさ…か…そんな…」
そういうメフィの声もまた震えていたりする。
「だぁぁぁぁ!ルーク!正気にもどれぇぇ!」
思わずリナが叫ぶものの。
「つーか、リナ、ルークのやつ、正気に戻すには。
ミリーナ復活させたほうがてっとりばやいぞ?」
今、ミリーナは傷も完全にとふさがり。
そして呼吸もまた正常にと戻っている。
体内の血液量も通常にともどりゆき。
今、肉体的な状態はほぼ通常通り。
後は。
覇王の攻撃、ともいえるそれをうけたときに魂そのものにうけた、
瘴気の残骸。
それらをすべてリナは浄化させているものの。
それで残る魂の痕跡はそうそう消えるものではない。
一息にそれをしようと思えばできるのではあるが。
今の体力のおちているミリーナに、それをやると。
またミリーナの命を危険にさらしかねない。
そう判断し、ミリーナが完全に平常状態にとなるまで。
その痕跡はまだ取り除いてないリナ。
それはまた、ガウリイとて同じこと。
【もし、それをやってミリーナに何かがあったら。 リナに何といわれるか。】
などと思いつつ。
もっとも、ガウリイの本音はそこにあるのだが。
そんなガウリイの言葉に、思わずルークとミリーナを見比べ。
やがて。
ボンv
軽く手をたたくリナ。
確かに。
リナたちのいうことはルークは聞かないであろう。
というか無理に聞かせる。ということもできるが。
だが、それ以上にルーク自身にあれが魂のうちに封じられていることを。
今の彼には教えたくはない。
それがリナの本音。
もし、今それをルークが知れば。
ミリーナを傷つけた、覇王、それの上司たる存在が自らのうちにいることを恥じ。
自害すらもしかねないがゆえに。
「それもそーね。で?ガウリイ?もうミリーナ、目を覚まさせても大丈夫そう?」
とりあえず、一気に怪我を治したのである。
はっきりいって致命傷、ともいえるその傷を。
体にかかっている負担などは肉体的などは取り除いたものの。
だがしかし、いくらリナとて、その精神的にとかかった重圧を取り除くことは不可能で。
怪我をした。
という事実はミリーナの精神に深く刻まれている。
「うーん、肉体的には問題ないぞ?あとはミリーナの気力しだいかな?」
などといっているガウリイ。
そんなガウリイの言葉に。
「んじゃ、とりあえず、ミリーナ、目覚めさせるわね。」
いいつつ、そっと、ミリーナの額に手をかざすリナ。
ポウ。
ミリーナの額から、まるで広がるようにと淡い金色の光が彼女の体全体を覆い尽くしてゆく。
「…う…ん…」
頭がだるい。
というか、体そのものがけだるいような気がするのは。
私の気のせいかしら?
などと一瞬おもい。
そうだ。私は…
何か思考が定まらないそんな中。
ミリーナは自分の置かれている状況を理解しようとつとめゆく。
確か、私はリナさんの声に振り向いて…
いきなり目の前の空間から剣が突き出てくるのをみて、そして…
覚えているのは、焼けるような痛みと。
そして、ルークの悲痛なる声。
それ以外のことは、思い出せない。
ゆっくりと思いまぶたを開く。
そこにいたり、自分が目を閉じていたのだ。
ということにようやく気づくミリーナ。
まず目に入ったのは。
自分を覗き込んでいるリナとガウリイの顔と。
そして。
無意識にその視線が何かを探し。
そして、ある一点にとその視線は向けられ、そこにそのまま定着する。
「…私…は…」
ぼんやりとした視界に映りこむのは。
覇王と合間見えているルークの姿。
だが、そのルークの体から、何か黒いようなものが噴出しかけているのは気のせいか。
「気がついた?ミリーナ?体の調子はどう?
とりあえず急激に怪我をふさいだから、違和感あると思うけど…」
そうリナにといわれ。
…あ。
そこにいたり、ようやく、頭をふりかぶりつつおきあがり。
貫かれたはずのそこには傷ひとつ、服すら裂けてなどおらず、
さきほど、というか自分が感じたのは一瞬夢なのではなかったのか。
などと一瞬おもうものの。
だがしかし。
ふと起き上がるときに目にした。
自分の周りにとあるどす黒いような紅く広く横たわるその染みというか、その液体が。
夢ではなかったことをミリーナにと突きつける。
―そうだ。私は確か、あのとき、そのままルークが手にしていたはずの剣で、
心臓を一突きされたのでは?
ようやく思考がまとまってくるものの。
だが。
そんなミリーナの耳に。
「てめぇはじっくりと滅ぼしてやる。いや、滅ぼすなんて生ぬるい…」
どこか、以前聞いたことのあるような、低い、低い、男性の声。
かつて、この声は聞いたことがある。
そう、かつて。
そうおもいつつ、上半身を起き上がらせつつ、その声のしたほうにと視線を向ける。
ミリーナが視線を向けたその先では。
ザシュ!
その手にした紅い剣と。
もうひとつ、それとは異なるちょっとした大振りの剣がそこにはひとつ。
それは、間合いを縫ってはその姿を一瞬のうちにと変化させていっていたりする。
そして、それはやがて。
まるで骸骨のような杖にと変形を開始し…
―いけない!
「螺光衝霊弾(フェルザレード)!!」
気がつけば、ミリーナはすばやく呪文をとなえ。
そんな会話をしている二人の間にと。
彼女が得意とする術のひとつを解き放ち。
そして。
重い体をどうにかおこしゆく。
どん!
「な゛!?」
いきなり横手から光の螺旋がルークと自分の間をかすめていき、思わず驚愕の声を漏らす覇王。
あと少し。
あと、少しだというのに。
そんなことをおもいつつ、憎しみすらにた視線をその攻撃が飛んできた方向にとうつしゆく。
覇王の目にと映ったのは、先ほど、確かに致命傷を与えたはずのミリーナが、
体半分を起き上がらせて術を自らにと放ってきた姿と。
そして。
「…ミリーナ!!!!」
ふっ。
その色が変化していたその瞳が。
本来の彼の瞳の色、つまりは澄んだ赤い色にと戻ってゆく。
そして。
そのまま。
声を高まらせ。
喜びの声をあげるルーク。
そんなルークの周りからは。
先ほどまでその身にまとわりつくようにあった瘴気の渦ともいえるそれが。
ミリーナの術とともに一瞬のうちにとかきけされてゆき。
「「…え?」」
思わずそれを感じ取り戸惑いの声をあげているミルガズィアとメフィ。
そして、一方で。
「何をしてるんですか!ルーク!一人で!
いくらなんでも覇王相手に一人で立ち向かうなんて!無茶をするものではないですわ!」
そう言い放ち、よろめきつつも、すくっとその場にと立ち上がるミリーナ。
そんなミリーナの姿をみて。
「ミリーナァァァァ!!」
だだだだっ!
がしっ!
そのまま、唖然としているようにしか回りにはみえないが。
実は実際には悔しがっている覇王の姿はまったく眼中にすら目もとめず。
くるりと身を翻して、そんなミリーナの元にと駆け寄り、そのままがっしりと。
ミリーナを抱きしめていたりするルーク。
「よかった。ミリーナ、怪我はないか?」
「…ルーク…」
そんなルークの言葉に思わず小さなつぶやきがもれるが。
「って、この非常事態に何をあなたは考えてるんですか!?」
すぐさまにいつもの調子にと戻り、ルークに一括をいれているミリーナ。
「だって、俺のいとしのミリーナがあんな怪我してたら心配するぞ?普通?」
そういいつつ、さらにそんなことをいいつつ、さらに強くミリーナを抱きしめているルークではあるが。
「ルーク、誰があなたのものなんですか!誰が!」
スバコォン!
その言葉とともに。
なぜか、ミリーナの手に握られているのはスリッパが…
「ってぇぇぇえ!って、何でミリーナそんなものもってるんだ!」
「今リナさんが手渡してくれましたわ!」
そんなまるで、というか。
はっきりいって夫婦漫才、以外の何ものでもないことを繰り広げているミリーナとルークではあるが。
「…なあ?おい…今はわれわれは覇王と戦っているのだが?」
一人、ミルガズィアのつぶやきが、ただただ場の空気にと流れてゆく……
-続くー
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あとがきもどき:
薫:何か後半、ギャグですね(笑
さあ、次回で覇王との本当の決着だ!
さあ、どうする、どうする、アイ○ルぅ(まて!
エル様出すか、名前だけというか声だけにするか。
もっとも、間違いなく彼は不幸決定でしょう(笑
んではではv
ようやく終わりが見えてきたぞっとv
でも私としては結構ミリーナが瀕死状態になるこの回。
自分的にはお気に入りv
(それでルークが気づかないままに覚醒しかける・・・というところが
次回のセレンティアははっきりいってギャグだもんなぁ(そーか?
何はともあれ、そろそろ終わりが近づいてきましたが。
ではまた、次回にてv
ではではv
2004年1月10日某日