さてさて。
 ようやくベゼルドの完結です。
 あまりリナの鈍さというかガウリナが活躍してなひ。
 ま、いっか(よくありません)
 ではでは、いくのですv

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        狭間の選択     ~ベゼルドの妖剣~
   

  
   「そもそもデーモンというのは。ま、一般に知られているあれは。
    ブラス・デーモンとかレッサー・デーモンね。
    ああいう亜魔族は自意識の低い動物などに精神世界から下級魔族が憑依して。
    その肉体と能力を変化させて具現化し変貌させたもの。という常識は知ってるわよね?」
   リナのその言葉にうなづくルークとミリーナ。
   まあこの定説はいまだに魔道士協会内部でも意見が分かれていたりするのだが。
   だがしかし否定する要素もないのでそうなのであろう。
   というのがそもそもの今のところの通説。
   というものの以前にスィーフィード・ナイトが、といっても今のではないが。
   その公式的な説を唱えたのが原因だとかそうでないとか様々いわれていたりする。
   「で、今あのシェーラが行ったのは。
    まああの剣そのものもどうやら気配からしてあのシェーラが作った部下であり、
    そして武器のようだけど。ともかくシェーラが呼んでたドゥールゴーファ?
    あれも剣の格好しててもあれでも魔族で意思あったし。
    でそれを媒介にして本来ならば多分そのままドォールゴーファの意思のまま。
    人間操ってデーモン化する。というのが多分目的だったんでしょうけど。
    どうやら、あれ、暴走してるみたいだしねぇ。」
   そういいつつ雄たけびを上げつつ何やら暴走を始めている巨体の影をちらりと具間みて、
   そんなことをいっているリナ。
   「とゆーか、リナ?さっきエルさんとミリーさんの力を感じたぞ?
    だからじゃないのか?あれが暴走してるのは?」
   「あ゛ー。なるほど。確かにやりかねないわ。だからか。
    あれ、町に向かってるの。」
   何気に何でもないようにさらりというリナの言葉に。
   思わずばっとそれの向かっている先をみるルークとミリーナ。
   あきらかに。
   そのちょっとした山ほどあるその異形の存在は。
   その先にある町-ベゼルドの町を目指し、突き進んでいたりする。
   「ちょっとまてぃぃ!」
   「ちょっとまってください!町が危ないじゃないですかぁぁ!」
   深い夜のカーテンが降りている森の中。
   ルークとミリーナの叫びが。
   静かにこだましてゆく。




   「とりあえずとめないか?あれ?」
   「そーね。」
   とりあえずはその気になれば一瞬にてその程度のものは消滅させれる実力をもっているからか。
   相手がちょっとした山程度の大きさを誇る異形のそれがあいてでも。
   はっきりいって動じていないリナとガウリイ、この二人。
   まあ普通に考えても。
   相手はかるくちょっとした竜よりはふた周り以上大きい巨体の持ち主。
   当然、雑魚デーモンとは比べものにならない力をもっているのも明白。
   「あれ、屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャウガナ)かれられてるしなぁ…」  
   「そね。でもやっぱり実験は大切よね。」
   などとにこやかに会話をしつつそんな言い合いをしつつも。
   町にと向かうそれの前にと移動するリナたち一行。
   

   ちょっとした山程度の大きさがあるということからして。
   普通の人間が使うような、しかも今町にと滞在している兵士たちの剣や槍が通用しない。
   というのは明白。
   それだけではなく、
   「?ガウリイさん?その、ラウ…何とかって何ですの?」
   走りつつ問いかけるミリーナのその質問に。
   「あれ?ミリーナ、知らないの?ディルスの前国王がかけられているあれ。
    簡単にいったら一種の不死の術。といっても原型をとどめない…ね。」
   あれはあまり趣味いいとはいえないわよねぇ。
   そんなことをリナは思いつつ。
   「まあ簡単に説明したら魔族のみがなしうる呪法でおぞましい不死を人に与える術。
    そんなところだけどね。これを受けた人間はその体を肉の塊にと変えられ、
    死ぬことすらできずに無限の苦しみを味わい続ける。
     その術をかけた魔が死ぬというか滅びるまで。」
   「あとはエルさんの術でも消滅できるけどな。」
   そんなリナの言葉に訂正を入れているガウリイではあるが。
   だがしかし。
   普通の人間が金色の王の術など使えるはずもない。
   というか使った時点でその力に飲み込まれるのは必死。
   まあ力そのものが彼女自身でもある、というような存在の力であるからして。
   その正確のことを把握しそしてまた強い精神力がなければそれは不可能であるであろうが。
   たとえ不完全版の術などを使えたとしてもそれはそれで、
   たとえどんな小さな術にしろ世界を滅ぼす諸刃の刃であることは明白。
   まあリナもガウリイもそのことにはまったく当てはまらないのではあるが。
   ―屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャウガナ)―
   魔族のみが使える呪法。
   元に戻す方法などは今のところはないとされている。
   だが万物の母たる力とそしてまた、その術をかけたその当事者を滅ぼせば。
   それは可能。
   まあ元に戻す=死ぬ。ということではあるのだが。
   「ま、論より証拠。みてて。」
   そういいつつ普通の術が通じないことを証明するかのように。
   走りつつ呪文を唱え始めるリナ。
   ちなみに。
   増幅付。
   ガウリイから以前もらった指輪の力でその魔力を増幅し。
   そしてまた、リナが姉からもらっているまた別のブローチにても、
   その魔力増幅は可能。
   まあ伊達に赤の竜神(フレアドラゴン)スィーフィードの力を受け継いでいる。
   というインバース一族の一員ではないというところか。
   「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋もれし 
    偉大なる汝の名において 我ここに闇に誓わん。
    我らが前に立ちふさがりし すべてのおろかなるものに 我と汝の力もて
    等しく滅びを与えんことを―」
   ストック的にはもっと威力のある術もリナは知ってはいるが。
   だがしかし、効果を示すのには一般に知られている術が無難。
   そんなことを思いつつそのカオスワーズをつむぎだす。
   「―それは―!?」
   「―な゛!?」
   リナのその呪文を耳にし驚愕の声をあげているミリーナと絶句しているルーク。
   この程度でこの反応。
   というのはちょっと困るような感じではあるが。
   リナが今唱えたのはこの世界の魔を統べる魔王。
   赤瞳の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ。
   その力を借りたこの世界では通説、知られている中では最大最高の攻撃呪文。
   威力によっては軽く町や国などを滅ぼすことも可能。
   という呪文。
   「竜破斬(ドラグスレイブ)!」
   
   グガォォン!
   
   リナの力ある言葉に答え赤い光が呪法デーモンに向かって収束し、
   爆発を引き起こす。
   本来の相手であればそれで終了。
   ―なのだが。
   「な゛!?まだたってやがる!?」
   ルークがそれをみて驚愕の声を上げる。
   リナが放った術をまともにうけてもいまだにその場に立ち尽くしている呪法デーモン。
   「ダメージはあるようですけどね。」
   そんなルークとは対照的にそんなことを冷静に分析していっているミリーナ。
   「まね。こーいうこと。」
   そんな二人に向かってかるくウィンクひとつ。
   まあ見た目小柄な女の子にとしか見えないリナのその動作は。
   何の違和感も持たないのだが。
   デーモン本体の肉の破片の一部が今の一撃でごっそりとそぎとられているものの、
   ごっそりというよりはほとんど残っている部分はすくなくなっていたりする。
   が。
   それは一瞬のうちにと再生を果たす。
   「…うそだろ…おい…」
   その一瞬にして再生したそれをみてルークがつぶやく声が風にと溶け消える。
   爆発で消滅しえぐられた肉の部分が瞬くまに一瞬にて回復を遂げる。
   「うーん。ま、ドゥールゴーファ、まだあれに組み込まれたままだからねぇ。」
   「だな。」
   絶句し冷や汗とも脂汗ともいえない汗を流しているルークとミリーナとは対象的に。
   のんびりとそんなことをいっているリナとガウリイ。
   やがてそんな会話をしつつ。
   デーモンの先回りをかねて町の入り口付近にとたどり着くリナたち四人。
   ちなみにスビードもそこそこあるそれは。
   やがて町から見える場所まで移動を終了させていたりする。
   「そういえばあのザインとかいうやつ、あの洞窟に置き去りだったけど。
    …ま、いっか。」
   ガウリイがリナをつれて移動した際、ザインはそのままその場に残していたのだが。
   ふとそんなどうでもいいことを思い出し。
   小さくつぶやくリナ。
   

   「ちっ。いくぞ!」
   そういいつつルークが疾る。
   デーモンの足元を目指して。
   「はぁ!」
   ざむっ。
   一応は無名ではあるがそこそこの魔力剣。
   その一撃にぞろぞろと生えている足のうちの一本がばさりと斜めに両断される。
   断面から足が一本ずるりと斜めにずれるものの。
   切れた部分の上下から黒い触手がわらわらと湧き出て。
   上下をつなぎ一瞬のうちには元通りと化してゆく。
   表現するなれば死体などに群がる蛆虫のごとくというところか。
   そのまま平然と町に向かって歩みを進めて行くそのデーモン。
   「ちっ!だめだ!切れることは切れるが!」
   などと叫ぶルークに。
   「氷の矢(フリーズ・アロー)!」
   その直後にミリーナの放った氷の矢がデーモンの足のすべてを直撃する。
   そんな行動をしているさなか。
   ばぁっ。
   一瞬空が明るく染まる。
   ベルゼドの町の上空にともる無数の小さな赤い光。
   一瞬の間ののちにそれらは一斉にデーモンに向かって飛来する。
   「炎の矢?」
   一瞬声を上げているミリーナの声に続くかのように。
   何百、何千という数の炎の矢が一斉にとデーモンに向けて飛び掛る。
   キュキュドドドォォン!
   それらが見事にデーモンにと直撃を果たし、盛大な爆音を響き渡らせる。
   闇夜がその明かりにて完全に明るく照らされるがごとくに。
   「なるほど。ベゼルドの警備隊かぁ。」
   そんなことをのんびりといっているガウリイに。
   「そーいや、今あの町にはかなりの数の警備の兵士やそれに魔道士がいるんだったわね。」
   そちらの方向をみていっているリナ。
   つい先日もデーモンの襲撃があったばかり。
   警戒態勢をひいていたその矢先。
   山から見たこともないようなでかい何かが近づくわ。
   誰かがドラグイレイブなどを使っているわ。
   いくら真夜中ともいえどそれだけ騒いで気づかないわけもなく。
   魔道士連中を呼び集め町に近づいてくる正体不明の何かのでっかいものに。
   とりあえず炎の矢をお見舞いした。というところか。
   「でもこんな術まったくきいてませんけどね。」
   さらりと冷静にそんなことをいっているミリーナ。
   ミリーナの言葉どおりそれをまったく意にも介さずにデーモンはどんどんと町にと近づいてゆく。
   町から飛んでくる様々な攻撃呪文。
   だが当然聞くはずもなく。
   やがて。
   町から出てくる無数の兵士やそして魔道士。
   さすがに町と目と鼻の先にまで近づかれては彼らとしても何もしないわけにはいかない。
   だがしかし、今まで様々な術をあっさりと何の効果もないまま受け流されているだけに。
   全員といっていいほどの顔が蒼白と成り果てていたりするが。
   無数の悲鳴と混乱が夜の街を支配してゆく。

   警備の兵や魔道士などでは太刀打ちできない相手と悟り。
   まともにパニックに陥っている町の人々。
   「おい!あんた!何か手はないのか!?」
   そう問いかけるルークに。
   「あるにはあるけど。とりあえず神魔融合呪文かもしくはエルさんの力を借りた術v」
   そんなことをちょうど町にとたどり着いたリナがルークの言葉に対して返事を返していたりするが。
   と。
   町の入り口より先にいる魔道士たちの隊列が崩れる。
   すぐ近くまで差し迫ってきているデーモンの姿に押されて。
   デーモンからはまったく攻撃は仕掛けられてはいない。
   いないが。
   その巨体のあちこちから蛇のような何ともいえない物体がうぞうぞとうごめいては
   その体を食い尽くしつつ歩くたびにべちゃりとその腐ったような肉の破片が飛び散る。
   そんな光景を目の当たりにしていったい普通の人間が正気でいられるはずもなく。
   「ひるむな!攻撃呪文を叩き込め!効いているはずだ!」
   恐怖を押して激励を飛ばしている隊長クラスの警備兵。
   「でもあまり派手なこと人前でやったら、私姉ちゃんにおこられるからねぇ。」
   などとしみじみいっているリナに。
   「いつもやってるんじゃないんですの?」
   しごく冷静に突っ込みをいれてくるミリーナ。
   「あれは人があまいないからいいのよ。それに相手はほとんど悪人だし。」
   きっぱり。さらり。
   そんなつっこみに即座に返事を返しているリナではあるが。
   そんな会話をしている最中。
   ひゅん。
   「ぐあぅ!?」
   風を裂く音とともにさきほど激励を飛ばしていた兵士の悲鳴がひびきゆく。
   呪文の声なども一瞬その光景に途絶えあたりの空気が凍りつく。
   黒くそれでいて長いかぎ爪のついた一本の触手。
   デーモンの肉の塊から伸びたそれがよろいごと彼の胸を貫いていたりする。
   そして次の瞬間には。
   ずくん。
   その貫かれた人間の体が大きく震え、その顔からは血の気がひき、
   みるみる頬がこけ肌が干からび髪がぞろりと抜け落ちて。
   やがて並み居る兵士などがいるその目の前でまだ若い二十代前半であろうか、
   というその隊長は見る間にミイラのような姿にと変わり果て、
   そしてその姿すらもやがては塵とかしてゆく。
   「なあ、リナ?あれに取り込まれて永遠に苦痛を強いられるのと。
    あのまま一瞬で生気を吸い取られて死ぬのとどっちがましと思う?」
   などとそれを指差しそんなことをいっているガウリイに。
   「―どっちもいやよ…」
   ため息まじりに答えるリナ。
   それを合図にし肉の塊から無数の触手があたりに伸びる。
   「……!烈閃(エルメキア)…」
   近くにいた魔道士の一人がそれに向かって術を唱えかけるが。
   それよりも早くかぎ爪のついていない触手がその魔道士を絡めとる。
   そしてそれだれならまだしも、肉から生まれた無数の蛇が、
   触手にて捕らえた人々をその本体の塊に押し付けそれらの蛇が食い荒らす。
   「だ…だぁぁぁあ!趣味悪いわねぇぇ!」
   ぷちり。
   さすがにその光景にはあまり大きな術を使わずに倒そうと思っていたリナの考えを。
   打ち砕くには十分すぎる素材をもっていたりする。
   何しろあたりに響くは絶叫の数々。
   光景としてははっきりいって好ましいものではない。
   ぴちゃりと食い散らかされた肉の破片が辺りにと飛び散ってゆく。
   まだこれが夜だから見えないからいいにしろ。
   辺りに漂うは濃厚な死とそして鉄さびのようなにおいが充満し。
   もし誰かがこの場で明かり(ラティング)などを唱えようものならば。
   間違いなくそこに広がる光景に普通の神経の持ち主ならば、
   気絶、もしくは気が狂う光景が実はそこにはあったりするのだが。
   幸運にもそこまで馬鹿をする人間がいないのは不幸中の幸い。
   というところか。
   町に近づいたそのデーモンはその触手を町中にまで伸ばし。
   そのまま無差別に人々をからめとりはじめ、本体にと引きよせ取り込み続けていたりする。
   ぶちちちちっ。
   もはや完全に我慢の限界を突破する。
   「だぁぁぁ!もう、あったまきた!こうなったら手っ取り早くやってやるぅ!」
   夜の闇に響くは絶叫とそして恐怖に彩られた声。
   そんな中。
   リナの叫びがこだまする。
   「ガウリイ、でもとりあえずあまり被害でないようにあいつの周りだけに結界、お願い!」
   そう叫ぶと同時に。
   リナはひとつの呪文を唱え始める。
   「闇よりも昏きもの 夜よりもなお深きもの 混沌の海よ たゆたいしもの
    金色なりし闇の王 我ここに汝に願う……」
   ―あら。
   どこかで凛とした涼しいきれいな声がリナの脳裏にと聞こえるが。
   それをまったく無視し。
   カオスワーズをつむぎだす。
   「とりあえず半径はあの程度でいっか。」
   リナの言葉に従いリナの術の威力が回りに被害を及ぼさないようにと、
   見えない結界の壁をデーモンの周囲にと張り巡らせていたりするガウリイではあるが。
   「おい、あんた、何だ?その呪文は?」
   そうリナに質問を投げかけるルークではあるが。
   だが言葉に従いリナの周りに生まれた闇―虚無をみて思わず絶句する。
   伸ばした手の平に収縮されてゆくそれ。
   エルの許可うけてるからこれ制御できるのよね。
   などと心のどこかでリナは思いつつ。
   「重破斬(ギガ・スレイブ)!!」
   その直後。
   リナの術は完成され。
   伸ばしたリナの右手に浮かぶ小さな虚無の球(オーブ)が。
   リナの言葉にと従って空間を移動しデーモン内部にと転移する。

   「グルワァァァァァ!!!!!」


   夜の闇にデーモンの断末魔が響き行く―……



   デーモンを中心に巻き起こる虚無の嵐。
   それらはガウリイが張った結界によりデーモンの周囲だけにとどまり。
   それはやがて黒い見たこともない光の帯となり。
   空にむかって突き上げる。
   「はぁはぁはぁ。」
   さすがにリナといえども完全版の制御には多少の力が必要。
   それゆえに今では不完全版ならば二、三発程度は保てる魔力すら。
   今の一撃に加えたことにより。
   普通はそこまでもしなくてもリナはできるのであるが。
   さすがにあまりのグロテスクな光景にリナはぶちきれていたがゆえに。
   もてる魔力のすべてをほとんど使い果たし、デーモンにとぶちかましたのである。
   リナの栗色の髪が一瞬にして白く染まり。
   荒くいきをつくリナをそっと抱きしめていたりするガウリイ。
   みれば。
   黒い虚無に侵食されつつ。
   闇の中でもはっきりと目だつほどの真性の、本当の…闇。
   まさにそう呼ぶ闇にふさわしい暗闇がデーモンの体を覆いつくし。
   やがて。
   あれほど術がまったく効かなかったデーモンは。
   黒い霧のようなもやとかし、空気中にと霧散してゆく。


   後に残るはぼっかりと広がる夜の闇よりも黒いクレーター。
   そして戸惑いの声をあげる町の人々のざわめき。

   
   「や…やっぱり、あの御方とかかわりがある…というのはどうやら事実だったようね。」
   そういいつつふいと。
   リナたちより少し離れた場所にと浮かんでくるひとつの人影。
   その声をききつけ。
   「ちよっとあんた!シェーラ!あれはいくらなんでも趣味悪すぎるわよ!」
   などと叫んでいるリナ。
   いきなり出現したシェーラに思わず驚き絶句しているルークとミリーナ。
   この二人は目を見開いていたりするが。
   「そうはいうけどね?リナ=インバース…さん。」
   どこか声を振るわせつつ、心なしかその声に恐怖が混じっているのは、
   気のせいではないであろう。
   「そもそも、あの御方の名前を連打されるわ。
    計画外にあなた方が入ってくるわ。計画は台無しにされるわ。
     私の今までのこの二十年ばかりの苦労はどうしてくれるのよぉ!」
   どこか本気で声に嗚咽が混じっているのは気のせいであろうか。
   ルークたちが知っているいつもの村娘の格好ではなく動きやすい神官の服を動きやすく、
   改造したようなコスチュームにと身をつつみ。
   上空に浮かんだままそんなことをいっていたりする。
   「おい。てめえ!いったい全体何がどうなっているんだよ!」
   さすがに半信半疑ではあったものの。
   そのせりふを聞き今度の騒動の黒幕がこのシェーラだと確信を抱き。
   声に怒りを含ませて叫ぶルークのその言葉に。
   「そんなに熱くならないでよ。ま、その怒りの感情も結構おいしいけど。
    そう。剣のうわさを流したのもこのあたし。」
   そういいつつルークの方をむきにっこりと微笑むシェーラ。
   「グレンさんっていうグータラ親父利用して。あの人結構便利だったし。
    娘と思わせておいて彼のところを拠点にいろいろと活動してたんだけど。
    あと剣のうわさを振り撒かしたりとか。
    でも彼の言葉に誰ものってこなかったのよねぇ。
    でそこにつけて冥王様は死亡するわ、魔竜王様は滅ぶわ。
    そして我らが魔王様はさらに弱体化されるわ。で。
    デーモン大量発生させてここは手っ取り早く混乱を招きだして、
    お仕事遂行しようと思ってね。」
   にこやかに何でもないようにいいつつも。
   どこか声を震わせていたりするこのシェーラ。
   「…獣神官といい、覇王将軍といい、ずいぶんと本当にお役所仕事なのね…」
   その言葉に思わずあきれた声を出すリナのその言葉に。
   「う、うるさいわね!あまり大きなことをするな!っていう魔王様の命令がでてるのよ!
     あの御方の怒りを買いかねないからって!」
   どなるシェーラに。
   「それで?いったい、あなたは何者何ですの?」
   リナさんからは聞いてますけど。
   などと思いつつ確認をこめて問いかけているミリーナ。
   「ああ。そういえば自己紹介をしてなかったわね。
    私はシェーラ。出身はカタート山脈。」
   「この星では、という注釈が抜けてるわよ?シェーラ?」
   「う、うるさいわね!と、とにかく、見ただけじゃあ、そこにいるリナさんや、
    ガウリイさんは別としてわからないかもしれないけど。
     これでもれっきとした魔族よ。」
   少し頬を高潮させて叫ぶシェーラ。
   その姿はちなみにリナたちだけでなく町の人々も当然のことながら目にいており。
   その声を聞いてさらに町の中にどよめきと恐怖の感情が浸透していっていたりする。
   そしてわなわなと手を握り締めて何やらつぶやくシェーラに大して。
   「で?私たちが出てきたから、短気おこしたったわけか。
    どうせ今のデーモン作るの目的じゃないんでしょうし。」
   「だなぁ。部下Sさんのかけら見つけるためなんだろうしな。
    …エルさんに突き出すための。」
   さりげに図星を言い当てているリナとガウリイ。
   「あら、ガウリイ、それは人身御供というかいけにえというのよ。」
   「おお、そうか。」
   なごやかにこの場の雰囲気に合わない会話をしているリナとガウリイ、この二人。
   「少しぐらい遊んでもいいじゃないのよ!
     それでなくてもいきなりあの御方の名前を聞かされるわ。
     さらには…こ、こんなあの御方の術まで!
      私でなかったらあっさりと滅んでるわよ!」
   まあ逃げていたからその直接的な被害は出なかったのであるが。
   リナが術を唱え始めたのに気づき。
   ガウリイが結界を張るよりも前にドゥールゴーファを呼び寄せておいて正解だったわね。
   などとおもいつつ叫び返しているシェーラ。
   「とにかく早めにこの剣を呼び寄せておいて正解だったわ。」
   そういいつつ腰にさしてある剣をすらりと抜き放つ。
   「な゛!?」
   それをみて絶句するルークとミリーナに対して。
   にっこりと微笑み。
   「まったく。いくら何でもこの私もあの御方とかかわりがあるらしい。
    という人たち相手に戦う気はまったくないし。
    それに…リナ=インバースさん、あなたはインバース一族の人間だしね。
    彼らに私たちのようなたかが神官風情が勝てるはずもないもの。」
   いとおしそうに剣にとキスを送り。
   緩やかな曲線を描くその黒い刀身を鞘にと収め腰にとすえる。
   まったく眼中にされていない。
   というのに気づきどこかむっとしているルークとは裏腹に。
   「でも、シェーラって、覇王(ダイナスト)グラウシェラーの部下でシェーラ。
     何とも安直な名前ですわね。」
   ぽつりとつぶやくミリーナ。
   ぴししっ。
   その言葉が耳に届きその場にて硬直しているシェーラではあるが。
   「お、確かにミリーナのいうとおりだな。ひょっとして仲間にグラウとかグロウとかいたりして。」
   ミリーナの言葉にそんなことをいっていたりするルーク。
   ぴししししっ!
   その言葉に今度は完全無欠に上空にてこおりついているシェーラの姿が。
   町の人々は手出しが出せないでいる。
   何しろ、人形の魔を見たことなどがないというのと。
   先ほどの一撃で倒したリナの実力。
   この場ですんなりと状況を飲み込めるものがいればそれはかなり変わっているというとが言えるであろう。
   「いるわよ。確かグルゥとかいう神官が。」
   あっさりと言い切るリナのその言葉に。
   「…お゛い゛。覇王っていったい…」
   「多分何も思いつかなくて考えたのでは?覇王は?」
   さりげにそんな会話をしているルークとミリーナ。
   「そ、そんなことはないわよ!人間には安直なネーミングセンスに聞こえるかもしれないけど!
     覇王さまにはきっと深いお考えのあってのことなのよ!」
   ほとんど泣きべそをかきつつ上空から叫んでいたりするシェーラ。
   魔族の威厳も何もあったものではない。
   「へん。どうだかな。覇王当人に聞いてみればいいじゃないかよ。
    案外笑いながら
    『いやー、何も思いつかないんで適当に名前をつけちまった。ははは。』
    とか答えが戻ってくるんじゃないか?」
   今までだまされていた、ということもありここぞとばかりにシェーラをいじめているルーク。
   「そ、そんなことはないわよ!絶対に由緒正しい名前なのよ!」
   顔を真っ赤に高潮させて叫ぶシェーラに。
   「その根拠はあるんですの?私もそのような気がしますわ。」
   「お、さすがにオレのミリーナ。意見があうな。」
   「誰があなたものですか。ルーク。」
   「ミリィナァ~…」
   そんな会話をしているルークとミリーナ。
   「…っ!」
   そんな言葉をうけて悔しげに奥歯をかみ締め剣をすらりと再び抜き放ち。
   ルークの方にと切っ先をむけ。
   「いいわよ!覚えてなさい!今回はこれで引くけど!
    次に会うときまでには必ずあたしの名前の由来をきいてくるから!」
   そう叫ぶと同時に。
   すいっと闇にと掻き消える。
   「あ、消えた。」
   のほほんとそれをみていうガウリイに。
   「うーん。ま、魔族はもともと精神生命体だからねぇ。
    心理的動揺とかに弱いし。」
   「そ、そうなのか?」
   少し腹がたったから、からかっただけなんだが。
   そんなことをおもいつつリナに問いかけているルークの声が。
   ようやく我にと戻り活動を再開した町の人々のざわめきに。
   かき消されてゆく。




   「じゃ、元気でね。」
   リナとミリーナたちがわかれたのはそれから三日後。
   それまでいろいろと質問やら何やらの事後処理につき合わされていたのである。
   リナたちは。
   ちなみにリナが放った術でできた黒いクレーターはそこに入るだけで、
   失神者が続出。
   それだけではまだいいもので精神異常者も続出。
   だがそれを逆手にとり観光名所として町を復興させようとしている町の人々。
   人間というものはどこかがずぶとい。
   「それで、あんたらはどうするんだ?」
   そう問いかけるガウリイの言葉に。
   「ふっ。オレとミリーナのラブラブの旅にはどうするもないのさ!」
   「何度もいいますけどラブラブではありません。」
   きっぱりとそんなルークの言葉をピシャリと言いくるめるミリーナ。
   「それで、リナさんたちはどうするんですの?」
   問いかけくるミリーナに。
   「私はとりあえずガウリイの剣、探してる途中だから。
    何でかあいつは私の実家に行きたいとか散々いってるんだけど。
     別にまだ葡萄の季節でもないのにねぇ?」
   そういいつつ首をかしげているリナ。
   実家にいきたい・・・って、それはどう考えても『実家への挨拶』というものなのでは?(汗)
   などとミリーナは心の中で突っ込みを入れていたりするのだが。
   当のリナはまったくそれには気づいておらず。
   ガウリイがゼフィーリアにいってみたい、いきたい。
   といっているのは葡萄が食べたいからだろう。
   そんな解釈をしていたりする。
   ぽんとガウリイの背中に手をふれ。
   「…あんたも大変だな。こんなのがあいてじゃ…」
   首をかしげているリナをみつつじと汗ながしつつガウリイにいっているルーク。
   「ま、絶対に逃がさないからいいけどな。」
   「?二人とも何の会話してるの?」
   きょとんとしそんな二人をみつめるリナに。
   「いや、何でもない。それじゃ、いくか?リナ?」
   「それじゃあな。いくぞ!ミリーナ!」
   「それじゃあ。」
   ルークの言葉にぺこりとお辞儀をし、その場から立ち去るルークとミリーナ。
   そんな二人の姿を眺めつつ。
   「ま、それじゃ、私たちもいきますか。」
   「だな。」
   いまだに混乱しているものの三日たちようやく立ち直りの兆しを見せ始めている町を。
   うららかな日差しの下。
   次なるまだ見ぬ場所に向かい出発してゆくリナとガウリイ。
   ま、本当に魔王が復活するようだったら、それこそ。
   エルさんがまたくるんだろうなぁ。
   などとリナは心のどこかで思いつつ。

   いつものように二人の旅はまだまだ続く。
   
    
   

   

                             -続くー

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    あとがきもどき:
          薫:ほとんど、小説のままvでもオチは違うけどね(笑)
            ちなみに、注記。
            ガウリイ、ことあるごとにリナの実家にいきたいな。
            とそれとなくいってますけど。
            リナいわく。
            『今もどっても名物の葡萄の旬はまだよ?』
            とまったくもって気づいてません!(笑)
            どうして実家=葡萄。という発想になるんだろう?(リナだし…爆!)
            まあ何はともあれ。
            また次回で。
            そういえばふと思ったこと。
            ドゥールゴーファ。某ゲームのシャルティエに何となく似てるな?
            と思うの…私だけだろうか?(笑)