闇の行方  第17話


「・・・・つまり、リナさんに手配がかかっているのは。とある国の馬鹿王子がリナさんを?」
「そうなんですよ。フィリアさん。」
はぁ。
溜息一つ。
会話をしている彼女達の横では。
泣きつかれたらしく。
目を腫らして胸リについているリナの姿。
そんなリナを横目に。
夜、宿屋にて話しをしているリナスとフィリア。
どこか、このリナさんとは他人のような気がしないのは。
私の気のせいかしら?
などとフィリアは思うが。
それを聞いても、笑顔で交わすだけで答えてくれず。
にこにこと。
「フィリアさん?私がここにいるのは。『金色の母ロードオブナイトメア』様の意思でもありますから。
  あまり詮索は無用になさってくださいね?♡」
「・・・・・・・・・・・うっ!」
――ぴしり。
どうにかやんわりと聞き出そうとしていたフィリアは。
その言葉に凍りつく。

―全てなる母が関っている。

それが意味するのは・・・一体・・・・。

かといって・・。
はっきりいって。
・・・・・・・・・・・・・追及するのは恐れ多い。

「そ・・・・そうなんですか・・。」
どうしてリナさんにあの御方が関ってくるのか。
理解はできない。
出来ないが・・。
まさか、嘘でそんな恐れ多いことをいうはずもなく。
ただただ、冷や汗を流すしかないフィリア。


「・・・・・まあ、リナ姉様がガウリイさんから逃げているのは・・。私は間違いと分かっているんだけどね・・。」
遠い目をして、言葉を選びつつそうつぶやくリナスに。
「・・・・・でも気持ちは分かります・・。」
リナスから、リナがガウリイから離れている理由を聞いた。
自分のせいで・・・怪我をしたガウリイ。
そして・・・・狙われ始めたガウリイを守るため。
自分が側にいなければ・・。
そう思う切ない気持ちは・・・嫌でもわかる。
・・・・そう。
それがたとえ・・・間違っていると理解をしていても。
それの思いは違うかもしれないが。
自分も・・・・何か出来ないかとあがいたことがあった。
助けたかった。
自分達の先祖がしたことで・・。
今の彼があるのだと。
事実を知ってしまったあのときから。
おそらくその思いと同じなのであろうと。
それは切実に伝わってくる。


「・・・・問題は・・・・リナ姉様・・・・自分がそういうように他の男の人に。
   見られているのにまったくといっていいほどに、気付いてないことなんです・・・・。」
今回の一件の原因になったことも。
かいつまんでフィリアに説明した。
リナスから聞いたのは。
ある国の王子が、リナに色目を使い。
いや、それだけで済むのならまだいいとして。
こともあろうに王宮に招き、そして。
痺れ薬に近い媚薬をもって。
リナをいいようにしようとしたということ。
それをすんでのところでリナスが助けて。
そのまま、王宮から出て行ったこと。
その王宮にいくのに、リナスは散々、リナを止めたのにも関らず。
リナはまったく身の危険など微塵も思ってなかったということ。
その王宮は、はっきりいって知らないものがいないというほどに。
そのことで有名である国であるということ。
それだけではなく。
道などを歩いていても、あからさまに下心があって言い寄ってくる、そんな男達の様子にも気付いてない。
ということ。
「・・・・・・・・リナスちゃん・・・苦労・・してるのね・・。・・・さすがリナさん・・・」
未だに鈍いままなのかと。
思わず溜息がこぼれてしまう。
自分と一緒に行動していたときもそうだった。
・・・・ま、まあ。
あれから、ようやく婚約しているだけましということであろうか。
「しかも、あの馬鹿がいるし・・。」
ぶつぶついっているリナスのその言葉に。
「それは私も同感です。」
どこまで神族の名前を汚せばいいものか。
どうやら、人と手を結び。
今後こそ、自分達の世界にとしようとしているらしい。
すでに北の封印が解かれてしばらく時は経過している。
今ここで。
行動を起こすのが、世界を守るためなどと。
大義名分を立てて。
だからといって、罪もない関係のない村などを襲ってもいいものか。
二度。
人の心に封印されているといわれている魔王が目覚めかけ。
一人は、その瞳が赤く。
一人はその髪が赤く。
それゆえに。
魔力の高い人間や、紅い髪や瞳をもっている人間達を。
問答無用で殺していっている彼らのやり口。
それは、竜王の地位を罷免されたと聞いてから。
より、ひどくなっているような気がする。
そんなリナスの言葉にうなづきつつ。
「でも、どうしてこの私の協力を必要とするんですの?」
リナスから頼まれたのは。
リナスとリナをつれて。
この大陸から違う場所に連れて行って欲しい。
そういうもの。
自分達だけで。
この大陸までやってきている彼女達の言葉とも思えないが・・。
「今リナ姉様は、あまり無理をして欲しくないんです。そろそろ、その・・・・臨月ですから。」
「・・・・・・・確かにそーみたいね・・。」
逃げ回っているその間に。
すでにリナのおなかは今にも生まれそうなほどに大きくなっている。
それほどまでに。
数ヶ月間。
彼女達はいろいろと人里などを極力さけて。
移動していたのだが。
今下手に『力』を使うと。
リナの力だけでなく、その体の中にいる二人の『力』まで。
悟られかねない。
それでなくても今のリナの魔力は不安定。
初めての出産ということもあり。
そしてまた。
何しろ、リナにとって・・・いや。
リロード=ナファレスにとって。
初めての実の子供である。
リナとガウリイ、その二人の力を受け継ぎし、その子供達。
・・・・只者ではないことは。
リナスは姉と兄であるがゆえに。
それはよく知っている。
・・・・・・・・・今の時点のリナはまったく知らないが。
「リナ姉様、今がこの状態ですから・・。魔力が不安定なんです。
   ・・・まあ、デモンブラッドを飲み込んでいるので。
   普通、世間一般でいうところの、『妊婦は魔力を使えない』というのには当てはまりませんけど。」
そういいつつ、ベットで寝ているリナを見るリナス。

「・・・ん・・・・がう・・・・りぃ・・。」
しずかに。
涙の後が残っている頬に透明な雫が流れ落ちる。
眠っている中でも、愛しくて、愛しくて、世界よりも大切な人の名前を呼んでいるリナ。


夢の中だけでは素直になれる。
いつでも会える。
常に側にいて、自分の横で微笑みかけてくれていた、あの碧い瞳。
二度と・・・そう、二度とあってはいけない。
大切な・・・人。
自分が微笑みかけるだけで微笑み返してくれる。
・・・・本当は側にいたい。
ずっと・・・・側に。
だけど・・・・・・。
・・・・・・・自分のせいで・・・・ガウリイが・・。
あいつが傷つくのは・・・・みたく・・・・・ない・・・・・。


残酷すぎる夢。
目が覚めたら、二度と会ってはいけないという現実が待ち伏せている。
だけどそれでも。
確かに感じる、自分の中にある二つの命。

・・・それだけが。
今、自分とガウリイとの間の絆だから。


残酷すぎる幸せな夢。
ガウリイがいて、子供達がいて・・そして、自分がいる。
一つの小さな家で、笑って過ごしている・・・・そんな夢。

・・・・そんなことはありえるはずなど・・ないと分かっていても・・・・
夢だとわかっていても・・。
望んでしまう・・・・・自分の望み・・・・。


眠ったままで涙を流して。
ガウリイの名前を呼ぶリナをみつつ。
「・・・・・・・・・分かりましたわ。」
リナの思いが痛いほど分かるから・・。
ならばせめて。
少しでも、リナが安心できる場所に。
それがリナスの望み。
その理由が痛いほど切実に伝わるから。
リナの寝顔をみつつ。
そして、本気でリナを心配しているリナスの表情から。
一つの決意を固めるフィリア。


そんな会話が繰り広げられているとは。
リナはまったく知らずに。
ただ。
夢の中で、残酷すぎるほどの平和な光景に浸ってゆく・・・・。


「・・・・・・え?フィリアの?そりゃ、手っ取り早くて助かるけど?」
起きたときの無力感。
それはもういつものことでなれたこと。
だけど今は。
少なくとも、もうすぐ生まれてくるはずの子供達。
この子達からいるから乗り切られる。
「そう!フィリアさんの背中なら、手っ取り早く、船代もいらないし!」
ずるっ。
思わずリナスの言葉にずっこけそうになるフィリア。
「・・・・リナスちゃん・・私は乗り物代わりですか?」
「そう!」
きっぱり!
言い切るリナスに。
ズベシャ!
おもいっきりそのまま。
地面にとキスをしているフィリアの姿。
「まあまあ、いいじゃない。フィリア、あ?人参いる?」
「リナさぁぁぁぁぁん!」
どこから取り出したのか。
木の枝の先に人参をくくりつけてにっこりと笑っているリナ。
そんなリナにフィリアの抗議の声が。

人里離れた草原の中。
そんな彼ら、三人の姿が見受けられていたりする。


「まったく・・・。」
ぶつぶつ文句をいいつつも。
リナがいつもどおりに振舞っているのが。
逆に痛々しくもある。
「では、いきます。」
そういいつつ、精神を集中する。

一瞬、フィリアの体が金色の光に包まれて。

次の瞬間。
その姿が揺らめくようにとうごめき。

やがて、そこに、
尻尾にピンクのリボンのついた黄金竜が出現する。
フィリアの正体でもある黄金竜。
彼女が人の姿になっているのは、
術で人の姿を成しているにしか他ならない。

「それでは、リナさん、リナスちゃん、背中に乗ってくださいね。」
確かにここでは。
首になった元火竜王の目が届く範囲であろう。
ならば。
彼の手が届かない場所に移動するのが。
やがて生まれてくる子供にとっても。
それが好ましい。

それは昨夜、リナスと話し合ったその結果。


パサリ。

リナとリナスを背中に乗せた黄金竜が一匹。

町里から離れた草原から。
東に向かって飛び立つのを。

たまたま空を見上げていた人々は。
飛び立つ竜を目撃はしたが。
初めてといっても過言でない竜の姿をみて。
大騒ぎとなってゆくのは。
当然といえば当然のこと。

何しろ。
彼らは。
竜など、絵本などでしか見たことないような人間達なのであるからして・・・。


パッサパッサ・・・・。


「・・・・・!リナ姉様!後ろ!」

大陸をとび立ち、しばらく後に。
やがて眼下には海原が広がり始めたその矢先。
後ろから聞こえてくる同じような羽音が数個。
リナスの言葉に振り向けば。
フィリアの後ろに、ついてくるように、まだ視界のかなたではあるが。
間違いなく。
ついてきている竜達が数十匹。

その言葉に気配を感じ取り。
「・・・・・・やられましたわね・・・。」
フィリアがリナと関りを持っていたことは前もって彼らは知っていた。
万が一、フィリアがリナ達を連れて。
大陸を脱出する可能性もまた見出していたのである。
飛び立つフィリアをつけてすでに破門されたヴラバザードに未だに、仕えている彼らが。
そんな彼女を見逃すはずもなく。


やがて。
海原の只中で。
四方八方、ふさがれるように道を閉ざされてゆく・・・・。


                -続くー

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まえがき:
・・・・・気分が欝になるから打ち込みしたくないぃ・・・。
かといって・・このままだとずっとここから抜け出せない・・・。
しくしくしく・・・・。
とりあえず、欝になりつつ打ち込みます・・・・。

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あとがきもどき:
薫:・・・・うーん。またまたちやさんとメッセをしつつ、打ち込んでいるのですが・・。
  やっぱりこれは気分が欝になりますねぇ(汗)
  ・・・・少しでもフィリアを暴れさせてから。回復させるか・・・・。
  なので、またまた次回にフィリアの暴走は繰越です。
  ・・・・ああ・・・・・リナが暗いぃ・・・・(涙)
  ハッピーエンドまでの道のりは・・・まだぁ~!!!!?(涙)
  遠いよぉ・・・・あうあうあぅ・・・・・。
んではでは・・・・。
2003年5月13日・・・・・。

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