If  ~もしも…~悲劇、そして……~

キラッ
「……あ、これ……」
ぺたりとしゃがみこみ、ただただ泣きじゃくっているルビアを前にし。
どう声をかけていいのかわからない。
それは誰に対してもいえることだろう。
それゆえか、気まずそうに周囲をきょろきょろと見渡していたルルちゃんが、
廊下に並べられているガーゴイルの一つがもっている石がキラリと光っているのを発見し、
そちらのほうにゆっくりと近づいてゆく。
それがもっているのは先ほどルビアが言っていた赤いオーブ
それにゆっくりと手を伸ばすとカコンと静かにそれは外れる。
赤い球がウィルの魔力に反応してか。
はたまた誤作動を起こしたのか。
それは私にもわからない。
両手でも抱えて少し大きめの水晶玉。
ウィルが手にとり、私たちのほうにと歩いてきたその刹那。
ほのかにそれが淡い光を発生させ、水晶の中が光りだす。


『ルビア。誕生日おめでとう。あなたもそろそろお年頃ね』
『お母様ったらっ!』
水晶球の中に映し出されたのは、ルビアと…そしてハルシフォムの姿。
そして、どうやらこれは声まできちんと保存しているらしい。
「……記憶珠メモリーオーブ……」
誰ともなくぽつりとつぶやく。
そうつぶやいたのは、私なのかそれともリナンかレナンかウィルかルルちゃんなのか。
『はやいものね。あの人がなくなってもう十年……』
水晶の中にと映し出されたハルシフォムはご馳走を前にして何やら思いにふける表情をしている。
水晶の中の母娘には、何も問題は見受けられない。
そう。
いたってどこの家庭にもあるような、平和な風景。
『お母様……』
『でも、わたしにはルビア。あなたがいるわ。わたしの大切な宝物』
『お母様。私、お母様の娘に生まれて幸せよ?』
『ルビア……』
どうやら誕生日のお祝いをしているようである。
感極まっているらしいハルシフォムに対し、
『お母様。それより約束だったわよね?私が十六になったら研究の手伝いをさせてくれるって』
『そう。そうね。もうあなたも今日で十六。今日からは二人で研究しましょうね』
『ありがとう!お母様!』
『これは、あなたに。誕生日のお祝いよ。特殊な材料でつくっているの。
  あの人のように魔族に殺されないように特殊な呪文や材料を交えて造った護りの短剣よ。
  いつも肌身離さずにもっていてね。魔よけの効果もあるから』
あれは……
映像の中でハルシフォムがルビアに手渡している短剣。
まさにそれは今、私が手にしている短剣とまったく同一のもの。
確かにみたことのないような材質であり、何らかの魔力をこれからは感じるが。
『お父様がなくなったのは私がまだ六つのときだもんね。
  …未だにゆるせない。あの顔半分がなかったあの人の形をした魔族……』
ぴくっ。
その映像の中のルビアの台詞に、ぴくりとルルちゃんの体が一瞬震える。

『そうね。あれの目的は何だったのかはわからないけど……
  だけど……あなたが無事なのは赤法師様に感謝しないとね』
水晶の中のハルシフォムはくしゃりとルビアの髪をなで、そして。
『それに、あの方は知識を与えてくれたわ。そう。魔族に対抗するための知識を……』
……ちょっとまてっ!
今…今、レゾとかいわなかった?
……
「……ルル?」
気まずそうに聞くリナンに対し
「……おそらく、事実……でしょうね。レゾは私の両親が…得に母親が死んでから変わってしまいましたから……」
悲しそうな表情でぽつりとルルちゃんがつぶやく。
『大丈夫よ。この研究が完成すれば誰もが幸せになれるもの。
  そう、それに不治の病に苦しんでいる人たちも助けられるのよ。素敵なことじゃない?お母様』
『そうね。ルビア。あなたのいうとおりね』
そんな母娘の会話がしばし続けられ…そして。
やがてそんな柔らかな水晶の中にと映し出されている映像が一転する。
『きゃぁっ!!!!!!!!』
『ルビ…ルビアぁぁぁぁ~~~!!』
周囲に散らばっている機材の数々。
ルビアの悲鳴と、ハルシフォムの血を吐くような叫び。
水晶の中に映し出されているその光景はまさに大事故があったことを物語っている。
周囲に散乱している合成獣キメラらしきものの肉体の破片。
そして…崩れた機材の真下に潰されるように横たわっているルビアの姿…
ハルシフォムが叫ぶと同時。
ぐわっ!
水晶の中の景色が再び炸裂する。
どうやらまたまた何か大爆発か何かがおこったらしい。
そして…次に映し出されたのは…横たわるハルシフォムと…血溜まりの中に横たわるルビアの姿。
そして……
『……汝、死を免れたいか……?』
闇の中より現れる黒い漆黒の闇……

ピシッ…
パッキィィン……
そこまで水晶が映像を映し出すと水晶そのものにヒビが入り、
そのまま赤い水晶球はまるでもろいガラス細工のようにと壊れてゆく。
壊れる前の誤作動なのか、はたまたウィルの魔力に影響されたのか。
どうやら今映し出されていた光景は、水晶の中に記憶されていた過去の記憶の一部。
それは疑いようのない事実……
声にならない泣き声をあげて、床にとこぼれている灰に対し、ただただないているルビアの姿。
「…今のは……」
「たぶん。ハルシフォム評議長が記録していた過去の映像の一部でしょうね。」
ウィルがその手にしていた水晶球の欠片をその手の平から床にとこぼしつつ、
多少ほうけたようにと、誰にともなくつぶやく台詞にひとまず答える。
今の映像だけでは正確なことはわからなかったが。
とにかく、研究の一環として何かの研究をしていたときに事故はおこったようである。
そして…ルビアは死に…ハルシフォムも瀕死の重症をおい…そこにあのセイグラムが現れた。
そのタイミングに多少かなりの疑問が残るが。
ハルシフォムやセイグラムがいない今となっては確認のしようがない。
もしかしたら、喰らったゴルンノヴァが何か掴んでいるかもしれないから、
それはあとで問いただすとしても……
「と。とにかく。まずは残された合成獣たちをどうにかするのが先決。だな」
「…あ、そうですね」
心なしかウィルも先ほどまでの元気がない。
泣きじゃくっているルビアをその場に残したまま。
未だにうようよと発生しているらしきハルシフォムが作り出している戦闘用合成獣たちに対し、
私達はどこにむけていいのかわからない怒りを抱えたまま、挑みかかってゆく……

ただ、何も考えず。
相手を倒すことのみに重点を置いている人造人間ホムンクル合成獣キメラたち。
いったいハルシフォムがどのような考えでこれらを作り出したのか。
それは私達にはわからない。
だがしかし、これらがこの屋敷より外。
つまりはアトラスの街の中に解き放たれることだけは何としても避けねばならない。
「とにかく!手分けして始末すること!いいなっ!」
数がどれだけいるのかわからない。
おそらく、指揮をしていたであろうハルシフォムやセイグラム。
その二人がいなくなったことをうけ、それらは暴走してもおかしくない。
何としても人々が起きだしてくる前に全ての決着をつけておかなければならないのもまた事実。
ルビアのことも気にはかかるが、そのままその場にルビアを残し、
私達は私達でそれぞれ手分けをし、開放された合成獣達と相対することに。


黒妖陣ブラストアッシュ!!」
バシュ!
よっし。
これでラスト!
まったく、いったい全体どれだけの数の合成獣もどきを解き放っていたのか。
私達六人がどうにか屋敷の中でそれらを倒していっていたそんな中。
そのなかの数匹が何を考えたのかどこかの馬鹿たちがハルシフォムの屋敷の扉を開き。
それゆえに街の中にと解き放たれた数十匹のそれらたち。
騒ぎになる前に何とかし止めないと大変なことになる。
だから全力でそれらを退治していたのだが。
ようやく夜が白々と明け始めるころ、最後の一体をどうにか倒す。
「どうやら、どうにかなったようですわね」
ルルちゃんもまたほっとした声をだしながら私の近くに近づいてきながら言ってくる。
「これは終わったようですけど。ですが……」
空を仰ぎながらウィルがつぶやく。
そう。
確かにハルシフォムが作り出していた合成獣達の攻撃はおわった。
だけども…大変なのはこれから。
「で。どうするんです?」
ララちゃんもまたその手にもっていた普通の剣モードのゴルンノヴァこと光の剣を腰にとおさめつつ、
リナンに対して問いかけてるけど。
「早いほうがいいだろう…な」
何よりもあのルビアの為に。
いって、私やウィルやルルちゃん、そしてララちゃんとレナンに視線を移し、
「とりあえず。魔道士協会にいくか。
  …ウィル。ルル。レナン。説明は…できるよな?こちらからも説明はするけど……」
といっているリナン。
あのハルシフォムがどのように封じ込められていたのかなどといった詳しいことはリナンや私では説明できない。
開放した当人たちでなければ。 「しかし、夜もまだ今からあけるというこんな時間に大丈夫かなぁ?」 ぽつりとララちゃんがそんなことをつぶやてるが。 まあ、普通に考えればこんな時間に出向いても門前払いをされることは請負いである。 だがしかし…… 「あ。それならこの私に任せてくださいっ!」 きっぱりと自信満々にウィルがそんな私達にといってくる。 「まあ、ともかく。少しでも早いほうがいいだろうし…いくか」 このままここにとどまっていても状況がよくなるわけではない。 ひとまず、全て人の目につかないようにするために、綺麗に合成獣キメラ達は消し去った。
人気がまだないうちに、魔道士協会にと向かうことに。


「し…失礼いたしましたっ!すぐにお取次ぎいたしますっ!」
『・・・・・・・・・・・』
にこやかに、つっと片手を突き出しているウィルの手に握られているのは、
セイルーンの王家の紋章の入った印籠。
そんなウィルを思わずじと目でみている私達。
「どうです?」
「…いや、それはある意味裏技なのでは……」
にっと笑うウィルに対し、ぽそりとルルちゃんが正論をいってるし。
「ま、まあ使えるものは親でもつかえ…というし……」
私の家ではそんなことはある意味死を招くのでことわざどおりにはできないが。
使われるのはほとんど私だったしなぁ。
それは別に彼等に説明することではないからいわないにしても。
そんな会話をしていると。
何やらばたばたと建物の中が騒がしくなり、そして
バタンっ!
勢いよく開かれる扉。
ようやくうっすらと明るさがましている東の空。
まだ街全体としては静まり返っているそんな中での扉の音はかなり響く。
「こ…これはっ!わざわざセイルーンの方…って!?ウィリアム殿下!?」
…どうやら、出てきたこの初老の男性はウィルのことを知っているらしい。
ウィルをみて驚愕の表情をうかべ、そして。
「ど…どうして、殿下がここに……」
などといってくるその男性。
「たまたまです!実はこのたびの魔道士協会評議長の選出のことについて。
  少しお話がありまして。こんな時間とはおもいましたけど。早いほうがいいとおもいまして……」
少し含みを込めたそんなウィルの言葉に。
「…何かお手を煩わすことでも…?デイミアが何かしでかしたのでしょうか?」
……どうやら、青のデイミアと呼ばれていた人物はすぐに何かしでかしたかもしれない。
と思われるような人物であったらしい。
「落ち着いて聞いてください。…紫のタリム。青のデイミア。…二人とも、殺されました」
『……なっ?!』
ざわっ!?
魔道士協会の中から出てきた人々が静かにいった私の台詞にざわざわとざわめきだす。
「…そ…それはまことなのですか?」
震える声でいってくる初めにウィルに話しかけた人物に対し、
「正確には、青のデイミアはまだ生きてはいますけど…ですけど……
  ……デイミアの屋敷にむかって確認していただければわかるとおもいます」
言葉で説明するより、自分達の目で見たほうが早いはず。
…下手にこちらから説明して疑われたりするのは面倒だし。
そんな私の言葉に、無言でうなづきながらも後ろに控えている魔道士らしき姿をしているものたちにと目配せする。
それと同時、彼等は奥にとひっこんでいく。
おそらくは、支度を整えてデイミアの屋敷を調べにいくのであろう。
「とりあえず…こちらの話をきいてもらえますか?」
ウィルの言葉にここ、アトラスの魔道士協会に属している彼等はこくりとうなづき、
そして
「とりあえず…中へどうぞ」
いって私達を協会の中にと案内してくる。
そのまま彼等に従い中にと入ってゆく私達。
これから…彼等にとっては辛くもあり、そして信じられない説明をするために……

アトラス・シティの魔道士協会。
それほど大きな町ではないにしろ、そこそこの規模をもっており。
そしてまた、死霊都市サイラーグにほど程近い。
それゆえにそこそこ交通の要などもあいなって、人の出入りはかなり頻繁。
もし、そんな状況の中で。
このたびの一件に魔族が…しかも、自力で具現化できる純魔族。
それが関わっている、と一般人たちに知られたら…それこそその混乱は想像できない。
だからこそ…この一件は一般の人々に知られることなく…関係者のみで対処しなければならない。
そう、心に留め置きつつも、ゆっくりとこの街の魔道士協会の関係者たちに経緯を説明してゆく……


                              -続く?-