If ~もしも…~白のハルシフォム~
長い廊下が左右にと伸びている。
というか無駄にこの屋敷って大きいような……
向かい合って並んでいる幾枚ものドア。
そしてドアの横にと並んでいる
ガーゴイルの像はみな一様に同じデザインで開いた口に石の球をくわえている。
い…いかにも何か罠がしかけてありますよ。
という感じである。
「まさか、この中に本物のガーゴイルが混じっている。ということは?」
ルルちゃんが多少怪訝そうな顔をしてルビアに対して問いかける。
混じってたらかなり嫌なんだが…私も……
「それは…多分大丈夫です」
多分って、何?
多分って……
「何度もわたし、吹き掃除をしてますし。正真正銘ただの彫像です。
ハルシフォム様が以前、『これは大切な球だから』といって赤い水晶球のようなものを、
タダの石のように表面をおおって、このガーゴイルの像のどれかに加えさせたことがありました。
おそらくはそれがそうなのではないかと……」
「なるほど。たしかにそれは怪しいですわね」
ルビアの説明に軽くその手を顎にあててうなづくルルちゃん。
「それってこの中のどれですか?」
回りをざっと見渡しながら問いかけるウィルの台詞に、
「そ…それが…二階の像の一つに加えさせるから、掃除のときは気をつけて
…と聞いただけでして……」
「ま、時間があれば一つ一つ調べる。というのもできるだろうけど。でてきたらどうだ?」
ルビアの説明に軽くため息をつきながらも、その気配に気づいて通路に並んでいる彫像の影。
その一つの闇にと言葉を投げかける。
ララもすでに気づいていたらしく、一応戦闘態勢にとはいっているようだ。
私の言葉をうけ、ゆっくりと、ゆらりと闇がそこから湧き出してくる。
深くかぶったフードの置くに張り付いている白い仮面。
「わざわざご足労ってか?セイグラム」
そんなソレにむかって投げかけるリナンの台詞に、
「時を稼げ。との命をうけた。家の中が在らされるのはお断りなのだそうだ。
なかなか勝手なことをいってくれるものだな…人間というものは」
などとそんこなとをいってくるが。
「あの?リナン?」
「何?」
「私達が探しているのって確か人の魂が込められている石らしきものですのよね?」
ララちゃんが確認をこめてリナンにと聞いてくる。
「そうだけど」
「それでは、もしかしてあれではないのですか?あの魔族の仮面から人の気配しますし」
さらり。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「ってそういうことははやくいえっ!」」」
さらっというララちゃんの台詞に思わず突っ込みをいれてしまう私、レナン、リナンの三人。
異世界の魔族とともにいるララちゃんだからこそ、そういった感覚は人一倍鋭いらしい。
当人はソレが当たり前…とおもっている節があるらしいが。
「?まさか…あれが契約の石?」
「よくわかりませんけど!つまるところ、あなたを倒せば万事解決というわけですねっ!
私達正義の仲良し六人組の使者が、悪の化身であるあなたを滅ぼしますっ!」
戸惑いをみせるルルとは対照的に、ぴしっとセイグラムにむけて指をつきつけ言い放つウィル。
「ほおう。よくわかったな。だが…きさまらにはこの私は倒せまい。
なぜかギオ=ガイアのやつは運よく倒せたようであるがな」
などといってくるセイグラム。
どうやらゴルンノヴァとアルテマのことは気づいていないらしい。
……同じ魔族…だよなぁ?
一応は。
異世界にあれは属しているとはいえ。
まあしかし、一つわかったことがある。
どうやらこいつは、私達が魔王の欠片を倒した当人である。
とは夢にも思っておらず、こちらの戦力を過小評価している。
ということ。
…いくら何でも魔王が復活しかけた。
というのは魔族の中では判っているはずである。
「ララちゃんへの文句はあとで言うとして。…喰わせたとして、結局のところ契約はどうなるの?ゴルンノヴァ、アルテマ?」
ララちゃんにのみ聞こえるように、
小声でララちゃんの腰にさしてあるそれと私の腰にある剣にむかって問いかける。
『『解約されます』』
完結な答えが脳裏に直接響いてくる。
ふむ。
「よっし!ならあれの相手はララちゃん!あんた一人にまかせたっ!」
「って!エリーさん!?それはいくら何でもララさんが気の毒では!?
というか、私も正義の鉄槌をくだしたいですっ!」
私の台詞に即座にウィルが抗議の声をあげてくる。
「それなら、ウィルはそっちのほうを説得してみれば?」
ウィルが手出しなどすればララちゃんの邪魔になることは請負だ。
というか、セイグラムはララちゃん…正確にいえばゴルンノヴァだけで十分のはず。
いいながらも、ゆっくりと後ろを振り向きながらも話しかける。
そんな私の言葉をうけ、
「ようやくおいつきましたよ」
そんなことを背後からいってくる声が一つ。
私達が視線を後ろにむけたその場所。
つまりは階段をのぼりきったその廊下。
そこにたたずむ人影一つ。
白いマントとローブをたゆわせにこやかに冷たい笑みを浮かべて立っていたりする。
「白のハルシフォム……」
その姿をみて警戒した声を出しているルルちゃん。
おそらく、ハルシフォムとセイグラムが同時に攻撃をしかけてきたらこちらに分がない。
というかかなり苦戦する。
とでも思っているらしい口調である。
そ~いや、ルルちゃんたちにはララちゃんのもっているアレ…
きちんと確か説明してなかったような、したような……
……ま、いっか。
「ルビア。さあ。こちらにいらっしゃい」
私達の背後にいるルビアにむかって優しく語り掛けているハルシフォム。
だがしかし、そんな彼女の言葉に悲しく首を横にふり、
「おねがいです。もう止めてください。こんなことは……これ以上、罪をかさねないでくださいっ!」
悲鳴にもにたルビアの懇願が廊下を伝わり屋敷の中にと響き渡る。
「何をいっているんです?ルビア。これももう二度とあなたを失いたくないから……」
いいながらもゆっくりとこちらに近づいてくるハルシフォムに対し、
「違いますっ!おかあさまっ!お母様が追っているのは死んでしまった人の幻ですっ!
わたしは…私は、あなたの娘のルビアではありませんっ!
いくら…いくら彼女の肉体をもとにしているといっても、
わたしは…わたしはあなたの本当のルビアじゃない!
わたしはお母様が作り出した
『……え?』
叫びにもにたルビアの台詞に、一瞬間をおいた声をだしているルルちゃんとウィル。
やはり。
何となくは想像していたが。
「何をいってるんですか。ルビア。それは違いますわ。あなたはルビアです。
そう、そのために様々な実験をしているのですからね。あなたはあの子の記憶をもっています。
もう少しであなたは本当にルビアとして復活をとげるのですよ。
さあ、こちらにいらっしゃい。愛しい私の娘……」
「もう、これ以上罪を重ねないでください!お母様っ!」
……記憶の転換。
魔道士の中であまり実用化されてはいないが、かなりのエネルギーを要するものにそれがある。
他人の記憶を他の…つまりはまっさらな別の入れ物にと転用する。
かつてのレテディウス公国でもよく研究されていた実験の一つ。
死を迎えたものたちが、新たな器をつくりだし、
自分の全てをその新しい器に移し替え、永遠の命をえる…という実験。
それには膨大なエネルギー…生体エネルギーが必要であったらしい。
人間の脳には様々な情報が詰め込まれているらしく、それを利用すればそれも可能。
というのが私やリナンやレナンが兄ちゃんやルナさんや永遠の女王から聞いている真実。
それをこのハルシフォムがもし知っているとすれば……
たしか、あの男がいっていた。
ハルシフォムは自分の娘の脳を
だが、それは当人ではなくまったく同じ記憶をもったもう一人の自分を作り出すことに他ならず。
それゆえにその実験はあまり重要視されなかったらしい。
何しろ記憶を転換したとしても、新たに作り出した器に新しい自我などでも芽生えればそこまで。
それは当人とはまったく別の固体となるのだから。
おさらくは……ハルシフォムはそのことを知り。
それゆえに、死んでしまった娘を再び現世によみがえらせるために……
「ハルシフォム殿。戯言はあとでもできましょう――」
そんな二人の会話にわってはいり、セイグラムが水をさす。
「戯言。ですって!?」
いってきっとハルシフォムはセイグラムをにらみつける。
彼女…ハルシフォムにとっては何よりも重要なことを戯言、といわれて怒り浸透らしいのが見てとれる。
「――まあいいでしょう。ともあれ決着が先ですね。あなたたちには私の娘のために。
その力、その魔力の全てを提供してもらいますわ」
「お母様っ!」
悲鳴に近いルビアの声はハルシフォムには届いていない。
いや、届いていても彼女は聞くきがないのだ。
―――自分の娘を復活させるために―――
「ルビア。私はね。私はただ、愛しいあなたを二度と失わないために永遠を手にいれたいだけなんですよ。
そう、あなたを二度と失わないために。そしてあなたと二人、永遠に暮らしてゆくために……」
そう微笑むその姿はまさに娘を案じる母親そのものの顔。
だが、その考えは待ちがった方向にと進んでいる。
親というのもは子供のためには命をかける。
それがこのハルシフォムは間違った方向にと進んでいるのだ。
「…ハルシフォム。それでルビアが喜ぶとでも?」
静かに問いかけるリナンの台詞に、ただただ笑みを浮かべながら。
「ルビアもわかってくれますわ」
静かにその場にたたずみそして。
「ルビア。みていなさいね。この人たちほどの力があればあなたは完全に復活することができる――」
「お母様っ!!!」
ルビアの悲しい叫びは何のその。
にこやかに言い放ちながら。
「セイグラム。あなたはそこで見物でもしていてくださいな」
いいつつセイグラムにと視線をむけるハルシフォム。
セイグラムさえ倒せばハルシフォムの不死は失われる。
一撃でしとめなければ確実に逃げられる。
「ゴルンノヴァ。アルテマ。手加減とかしたら今後アレの実験にずっとつきあってもらうからな?」
リナンの言った言葉に
ぴしっ。
あ、何か固まったような音がしたのは気のせいか?
アレとは何のことかゴルンノヴァとアルテマはわかったはずである。
『マスター……』
『エリー……』
弱々しい聞きなれたララちゃんを呼ぶ声と私を呼ぶ声が聞こえてくる。
どうやら理解してくれたようである。
「ウィル!ルル!レナン!いくぞ!」
ハルシフォムの右手が静かに上がるのを合図とし、三人に叫び体制を整えるリナン。
そして。
「
「
「
どうやら三人同じことを思ったらしく、まったく同じ術をハルシフォムに対して解き放つ。
精神にダメージを与える術。
不死の契約を結んでいる相手にそれが有効かどうかは別として。
…たぶん、というか絶対に無効……
それと同時。
「
幾数十のも小さな光の球が廊下全体。
すなわち、ハルシフォムの回りと、そして私たちの周りに着弾し、無数の小爆発を引き起こす。
ここが外ならば大地に干渉する術で目くらましをするところだが。
いかんせん、ここは建物の中。
「ララっ!エリー!」
一瞬、それらによって生じた爆炎によりハルシフォムとセイグラムの姿が掻き消える。
これぞこちらが狙っていたこと。
「闇よっ!!」
「光よっ!!」
ヴッン!
リナンの意図がララちゃんに通じていたのか、はたまたゴルンノヴァに通じていたのか。
それはまあどちらでもいいとして。
そのままその炎にまぎれて切り込むララちゃんと私。
「なっ!?よけろっ!セイグラムっ!」
こちらの意図に気づいたらしくハルシフォムがセイグラムに対して叫んでいるが。
はあっ!
気合ひとつ。
パキィィン……
ララちゃんが手にした光の刃と私の手にした闇の刃はものの見事にセイグラムの顔に掲げている仮面を叩き割る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ハルシフォムの絶叫が辺りにそれと同時に響き渡ってゆく。
「おお……わ…我が、契約の石が……」
セイグラムはララがもっている光の剣に驚いた雰囲気をみせるものの、
床にとおちた割れた仮面の破片をいとおしそうにと拾い上げる。
「これで。あなたの不死はとかれました。
これ以上ルビアさんを悲しませることはしなくてもいいのではないですか?」
未だにその衝撃が覚めやらぬのか、床に手をつきながらぜいぜいと息をついているハルシフォムにと向かい、
静かに淡々とルルちゃんが語りかけている。
ルルちゃんとてレゾの一件で肉親の情はよく理解している一人である。
だからこそ…自分自身の手できちんと決着をつけてほしいのであろう。
まだ…彼女たちはやり直すことが可能なのだから。
だがしかし。
「まだです。まだ……誰にも私と娘の幸せの邪魔はさせませんっ!
セイグラム!このものたちを殺してしまいなさいっ!死体になっても魔力は取り出せますっ!」
苦しそうにいきを突きながらも、セイグラムにむかって言い放つハルシフォム。
ふとみれば、破片を拾い集めているセイグラムにたいし、ララはララで未だに光の刃をつきつけたまま。
「さて。ハルシフォムはああいったけど。どうする?」
あまりウィルたちの目の前で魔族を剣が喰らうのを見せたくはないのが本音。
こいつの出方次第一つである。
「我があの人間と交わした契約を記した石が砕けた以上。あの人間に従う言われはない」
ふむ。
なかなかに潔い。
だが、どうやら…このままではおわらない…かな?
「しかし……汝らとの決着はつけておかねばなるまい」
いうなりゆらりと立ち上がる。
はあ……
いいながらもまずは目の前にいるララちゃんにとどうやら狙いを定めたようである。
「あの~?リナン?エリー?いいですか?」
まったく狙われている、と判っているであろうに恐れも何も抱かずに、
私とリナンにひとまず確認をこめて問いかけてきているララちゃん。
「本体からすべて食べさすからには喰らわせてくれよな?」
「私のアルテマはそんなに弱ってないからゴルンノヴァにあげるわよ」
下手に本体をのこして実体化しているのだけの精神を喰われたのでは後々が面倒だ。
それにどうやらこの魔族。
自力で実体化しているらしいからそこそこの実力はもっているはず。
あのギオ=ガイアを喰らっただけではゴルンノヴァの力は完全に回復していない。
そんなリナンと私の声をうけ、
「よかったな~。ゴル。少しはこれでましになるぞv」
『もとはといえば彼のせいですけどね……』
「なっ…にっ!?」
ララちゃんが手にしている光の剣が声を発したのにどうやら本気で驚いているらしいセイグラム。
……というか、本気で知らなかったんだろうか?
あれが異世界の魔族。
しかも異世界の魔王の腹心の一人だってこと……
セイグラムが驚愕した声をだすのとほぼ同時。
「喰らい尽くせ。ゴル!」
ララちゃんの力強い声が周囲にとこだまする。
ぶわっ!
それと同時。
ララちゃんが手にしている光の刃が黒い鞭のような細い無数の糸となり、そのままそれらは、
目の前にいたセイグラムを絡めとってゆく。
「…な!?あ、あれ何ですか!?」
それをみて驚いたような声をあげているウィルだけど。
「気にしない。それより。ハルシフォム。もう一度いう。これ以上ルビアを悲しませなくてもいいんじゃないか?」
それをみて驚愕の表情をこちらもまた浮かべているハルシフォムにと淡々と言い放つレナン。
『ぎゃぁぁぁぁ!…ば…ばかなっ…こ…これっ……』
何やらセイグラムの絶叫に近い叫びが耳に届いてくるけど、とりあえず無視。
今重要なのはあの魔族よりも目の前のこのハルシフォムのほうである。
『な…ぜ…
そんな声も何やら聞こえてきているが。
だがしかし、そんなこちらの声に耳を傾けることもせず。
「なるほど。どうやらあの剣にも私と同じ力が宿っているようですね。
他の存在を食うことによってその能力のいくらかを自分やモノに取り入れる。という力を」
というか、かなり間違っているハルシフォムの解釈である。
まあ訂正する気にもならないけど。
「どうやら。先に他の魔族を食っておいて正解だったようですわね。
おそらくギオ=ガイアが消滅したのもあの剣に食べられたのでしょう。
ですが…あなたたちはいくらこの私の不死を解こうとも勝てることはできませんわ。
私は娘との新たな永遠の生活のために様々な能力を身につけるべく、
かつて見つけた研究のひとつ。他人を食うことによってその能力のいくらかを自分に取り入れる。
その研究を成功させています。心配しないでください。あなたがたの死は無駄になりませんわ」
多少精神を集中させる目的があるのか静かに目を閉じていってくる。
どうやら精神を集中させることにより、体力や精神力を回復させる力をもった何か。
それをこのハルシフォムはすでに取り込んでいるらしい。
「……他人を…くう?」
その意味が理解できないらしく呆然とつぶやくウィル。
「…それはレゾでもしませんでしたわね。レゾはいくつもの魔族を掛け合わせた実験はしてましたけど」
さらりと何やらこちらはこちらですごいことをいっているルルちゃん。
まあ、レゾの目的の一番の目的は、自身の目を開かせること。
であったのだから。
そしてまた…たぶん、魔王の欠片が封印されているレゾがそれをおこなったとしても。
はっきりいって他人の能力を奪うどころか何のたしにもならなかったのだろう。
やがて、セイグラムの断末魔のような叫びが静かに響き渡り…やがてその声がまったく聞こえなくなると同時。
「リナン。こちらはおわりましたわ」
すでに黒い刃を収めた柄のみの剣のそれをもちこちらにとやってくるララちゃんの姿。
「お母様!もう、もうこれ以上は…っ!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしてさらにルビアがハルシフォムに対して懇願している様子が見てとれる。
「ルビア。少しまっていなさいね。このかたたちを元にして強力な
そしてこの方たちを食べてあなたとの新生活に備えますから。
大丈夫。噂に名高いリナン=インバース。レナン=インバース。それに白のルルティス。
そして…その、光の剣と闇の剣。おそらくはあなた達二人が戦乙女のララベルと閃光のエミリアでしょう。
それに…セイルーンの王族の血。これだけあればルビア。あなたは完全によみがえることができますわ」
そんなルビアににこやかに笑みを浮かべていっているハルシフォム。
「もう……もう、たくさんですっ!これ以上の罪は!おかあさまっ!」
ふらふらとした足取りでその顔を涙でぐしゃぐしゃにしてハルシフォムにと近づいてゆくルビア。
「…ルビア?」
「もう…もう、やめてくださいっ!これ以上こんなことはっ!こんなことをしてもっ!」
そういうルビアの手には小さな短剣が握られている。
「何をいっているんです?さあ。馬鹿なことはおやめなさい。
そんな短剣など振り回さないで、下にいってまっていなさい。すぐにおわりますわ」
「……違う……」
「さあ。いうことをきいて。私のかわいい我が娘……」
「―――違うっ!!」
叫んで走り出すルビア。
その手に短剣を握ったまま、ハルシフォムにむかって。
そのまま彼女は私たちの横をすり抜け、私達の目の前にいるハルシフォムのほうにとかけてゆく。
「ルビアさんっ!」
そんなルビアをみて驚愕した表情で止めているウィル。
そしてまた、ルビアの姿をみて両手をすっと前にと出しているハルシフォム。
その手の平に柔らかな光がともる。
あれは……攻撃の光ではない。
おそらく、ハルシフォムはそのままルビアを眠らせるつもりなのだろう。
「「「「ルビア!!」」」」
「「ルビアさんっ!!」」
私とララちゃんとリナンとレナン。
そしてウィルとルルちゃんの声が同時に重なる。
それと同時に交錯する二つの影。
―――あ……
そして…私達は言葉をうしなった。
ハルシフォムが放った柔らかな光は確かにルビアを包み込んだ。
だがしかし…ルビアが手にしていた短剣によりその光が打ち砕かれ。
そして…その短剣はそのまま、ハルシフォムの心臓を貫いていた……
「もう……やめてください。お母様……これ以上、罪を重ねないで……」
ハルシフォムの両腕に抱きしめられたままの格好で、
ハルシフォムの心臓を突き刺しているルビアがその胸に顔をうずめながらも言い放つ。
声からしてかなり泣きじゃくっているようである。
「ルビア……わたしは……ただ、あなたと……」
いいながらも、そっとルビアの髪をなでるハルシフォムの姿が目に入る。
彼女は…ルビアを傷つけることはできない。
いや、できなかったのだ。
…自身が創造った
「わたしは…あなたの娘です。ですけど…もう一人のルビアさんの変わりにはなれません……」
そのルビアの声をハルシフォムはどう捉えたのか。
「ルビア…わたしは…どんな相手でも、負けるわけにはいかなかったのよ……だけど……だけどね。
ルビア…あなたに倒されるというのなら…それはしかたのないことなんでしょうね……
愛しい私の娘……わたしの…たったひとりの……」
ルビアの髪をなでながらもとても優しい笑顔を浮べ、そしてそのまま。
くったりと体全体から力が抜けてゆくハルシフォム。
そして…そのまま、ハルシフォムの体は…まるで崩れるように塵となり。
パサ……
彼女がたっていた場所に一握りの灰を残すのみ。
そして……
カラッン……
手にしていた短剣をそのまま力なくおとし、その場に座り込み泣きじゃくるルビアの姿。
それが…不死をもとめ…娘とともに永遠の幸せをもとめた一人の魔道士…いや、
一人の母親の最後でもあった……
「これは……」
床におちている短剣を拾う。
短剣の柄にはこう刻まれている。
『お誕生日おめでとう。愛しいルビアに愛をこめて。ハルシフォム』
と……
-続く?-