If  ~もしも…~魔族、再び?~

こんこん。
竜の頭を形とったドアノッカーを二度たたく。
タリムの話によれば、ルビアという名の助手が一人、
未だに戻らぬ評議長の帰りを待ちながら屋敷にひっそりと暮らしているらしい。
今回の一件でその彼女には是非とも聞いておきたいこともある。
――しばしの沈黙。
「う~ん。留守かな?」
「誰かいるわよ?」
「でも。中に何か人らしき気配はあるけど」
今は二人っきり、というのもあり、猫かぶりを止めているララちゃんが私とリナンにといってくる。
「いや。人…らしき。って……」
ララちゃんのこの物言いは、必ずしも、そこにいるのは人ではない可能性もある。
ということに他ならない。
まあ、何か、といわない以上、それが魔族とかではないのは確実だろうが。
「は~い」
そんな会話をしていると、家の中の少し遠い場所らしきところから声がしてくる。
そして、ぱたぱたとした足音と、誰かが玄関に近づいてくる気配。
そして、ややあって玄関の鍵を外す音。
そして家の中より出てくる一人の女性。
「…あ」
「ん?」
「あれ」
その姿をみて、思わず私とリナンとララちゃんが小さく声を漏らす。
そこにいたのは、この前道をあるいていると私達にこの一件には関わらないほうがいい。
といってきたその当人に他ならなかったりする。
…やっぱり、失踪したハルシフォム評議長っ…って、かなり怪しいかも……
彼女のほうも私達に気づいたようであるが、だがしかし、そのまま扉を閉める。
みたいなことはせず、警戒の眼差しをこちらに向けたまま、
「何かごようでしょうか?」
まるで初対面のごとくにいってくる。
ふむ。
そうくるか。
ならば、こちらとしても行動に移すのみっ!
「ルビアさん。ですね」
うなづく彼女。
「始めまして。私達、評議長の失踪について調査しているものですけど……」
ある意味、嘘ではないし。
そんな私の台詞に、彼女の表情がわずかにうごき、
「話なら全て、評議会の方々に申し上げております。
  あなた方が本当に正式な調査員ならばわたしがお話することは何もありません。
  どうかお関わりあいになきよう、おねがいします」
いってそのまま建物の中に再びひっこんでゆこうとする。
その時。
「なら。一つだけ。評議長はとある研究をしていた。ということですけど。
  私達は命の研究…と聞き及びましたが、まさか研究、ではなく探求。なのでは?」
びくっ!
……あうっ。
どうやら図星らしい。
リナンの指摘にあからさまに体を硬直させながらも、そして。
「…どうか、かかわりにならずにこのままこの街をおでになってください」
多少震えながらもそのまま取り付くしまもなく家の中にとひっこんでいってしまう。
「…リナン?エリー?いったい?それに、今の女の人、普通の人じゃないみたいだし」
……ララちゃんがそこまできっぱりと断言する。
ということは…もしかして……
可能性としてはありえる。
そういう研究をしている…とならばなおさらに。
「…とにかく。これはただの評議長選び。というわけにはいかないみたいだな……」
ため息とともに空を仰ぐ。
……ウィル達のほう…どうなったのかな?


「……つまり。…留守だった。と?」
「まったく。門番さんにいくらいっても留守だ。といいはりまして。
  しかたないから印籠をだそうとしたらなぜかルルさんとレナンさんに止められまして……」
私達がタリムの屋敷にと戻ったのは夕刻近く。
タリムが用意してくれた夕食をたべて、それからそれぞれに与えられた部屋の一室で。
今日の報告をかねて集まっている私達六人。
最も、リナンとウィルとレナンが同室で、私とララちゃんとルルちゃんが同室という二部屋ほど与えられているのだが。
「…あんな場所でセイルーンの印籠なんかだされては…めだって困ります……」
「あまり職権乱用するな。」
いえてる。
「とりあえず。さらに興奮しそうなウィルさんをレナンさんと一緒にどうにかなだめて。
  明日、面会の約束をとりつけてきましたわ」
疲れたようにいっているルルちゃん。
…やっぱし、ウィルと一緒にいかなくてよかった……
何となくだけど、面倒な事なりそうそな予感がしたから私はララちゃんとリナンと共に行動したわけだし。
まあ、それはそれとして。
「なるほど。つまりは明日が勝負。というわけ…か」
いきなり大人数、つまりは六人で押し掛けても相手をさらに警戒させるだけだろう。
ならば、ウィルとルルちゃんとレナンにデイミアの所にいってもらって、
私とララちゃんとリナンで多分どこかに幽閉されているとみた、評議長を探し出すほうが能率的だろう。
魔族が絡んできている以上。
なまじ下手に動いて他の人々にそのことを知られれば、さらに相手のおもう壷。
さらにいうなれば、混乱し、負の感情を撒き散らすようになった街の様子は、
それこそ魔族にとっては格好の餌場であり、また力を発揮しやすい状況を作り出すようなもの。
わざわざそんな相手に有利になるようなことを好き好んでするような馬鹿はいない。
私達がそんな会話をしていると。
ぴたり。
それまで外から聞こえていた虫などの声がぴたりとやみ、
そしてまた念のためにと開け放っていた窓からいいようのない気配を感じ取る。
「…どうやらきたようですわね」
ちゃっ。
「きましたねっ!今度こそ正義の説得を!!」
腰にと挿している剣にと手をかけ、外を見ながらつぶやくルルちゃんに、
何やらどう考えてもどこか違っているのではないか。
というようなことを言いながらも、パタンと外にでてゆくウィルの姿。
そしてまた、そんな二人の反応とはうってかわり、
「リナン。もし魔族がいたらもらってもいいです?どうもゴルの調子があれから悪くて。
  このままだとゴルは普通の剣としてしかつかえませんし……」
ララちゃんがリナンに言ってくるけど。
「ま。別にいいんじゃないのか?」
はっきりいって、世の為、人の為になるならば魔族を別の魔族が喰らおうが問題はないはず。
……たぶん。
そんな会話をしつつも、ご丁寧に入り口からでていったウィルやルルちゃんやレナンとは対象てきに、
私とリナンはそのまま窓から身を乗り出して庭先にと出向いてゆく。
それとほぼ同時。
ギイッン!
鋼の音と、悲鳴とが日が落ちてまもない夜の闇の中響き渡ってゆく。
風にのって血匂がハナについてくる。
まずは味方同士…私やララちゃん、それにルルちゃんといった腕利きのものならば味方に攻撃をしかける。
といったことはしないであろうが、何しろタリムが雇っていたのはあまり力がどうみてもない。
といっても過言でないごろつきたちも多々といた。
それゆえに、ひとまず視界を確保するため、
明かりライティング
空にむかって多少、光の量を昼間の明かりと同じ程度にアレンジし呪文を解き放つ。
屋敷の上空にと投げられたそれは、明々と周囲を昼間のごとくに照らし出す。
そして、明かりの下に照らし出されたやってきた襲撃者達の姿は…はっきりいって人ではないのは明確。

十数人の男たち。
顔たちからすれば、まだ二十歳そこそこの男たちなのであろうが。
彼等に共通しているのはまったく同じ顔である、ということと表情がまったくない。
ということ。
むきだしの筋肉の体に下半身に申し訳なさそうにそれぞれズボンのみをはいている。
筋肉質の上腕にそれぞれ握られているのは、全て同じ獲物。
左の手には、握りも何もない荷車の車軸に使うような鉄の棒。
そしてまた、右手には斬首刀をそれぞれ手にしており、無表情で向かい来る人々を斬り倒していたりする。
どう考えても、これらは人の手によって作り出されている人造人間(ホムンクルス)であり。
しかも戦闘用として作り出されていることは明白。
こんなもんつくるより、もっと人のためになるものつくらんかいっ!
と思わず突っ込みをいれたくなってしまうのは…仕方ないとおもう。
絶対に。
そしてまた、闇の中に多々と光っている赤い点の正体はといえば。
それらの正体は紫のウロコに覆われた大きな狼の瞳であったりする。
そして、その体に無数の太い棘をもっていたりする。
はっきりいっておくが、こんな紫のうろこをもった狼…なんてものは自然界には存在していない。
つまり、これも作られた合成獣キメラである。
そんな狼もどきもまた数十匹ほど。
……竜破斬ドラグスレイブで綺麗さっぱり消し去る。
というのがてっとり早いんだけどな~。
さすがにこんな街中でやったら後々兄ちゃんとルナさんのお仕置きがこわい。
…一般人も巻き込むし……
案の定、というのか何というのか。
はっきりいってそれらに対して、タリムがやとっていた用心棒たちはまったく役にたっていない。
それどころか他のものの足をひっぱっているようですらある。
こいつらが、魔族とか関係だったら奥の手があるのに……
「まあ。…何だな。ずいぶんと面白いお客だな」
ララちゃんがそんな襲撃者をみてぽりぽりと頭をかきつついってるけど。
「とりあえず…どうもあいつら、相手になってないようだし……」
深くため息ひとつ。
どうみても、雇われ用心棒たちは逃げ惑っているばかり。
ならば。
そうおもいながらも、たんっと地面に手をつきながら、
「「「地精道ベフィス・ブリング」」」
淡々とある一つの呪文を唱える。私とレナンとリナン
大地の精霊に干渉して行う、いわば本来はよくトンネル掘りに使われる術であるが。
ちなみに多少のアレンジつき。
ぼこぼこぼこっ!
よしっ!
こちらのアレンジというか指定したとおり、周囲にたむろしている大男たちの足元。
つまりは、人造人間ホムンクルス達の足元の土を綺麗さっぱりと消し去り、
ちょっとした落とし穴を作り出し、彼等をその中にとおっことす。
いきなり襲い掛かろうとしていた大男たちの姿がきえて戸惑っている用心棒たちの姿が目にはいるが、
「そっちはまかせたっ!」
とりあえず彼等に伝わるように強くさけんでおく。
そんなリナンの声をうけ、はっと顔を輝かせ、
『おうっ!』
今まで完全に押されていたこちら側の…つまりはタリムの雇っている男たちから歓喜の声があがり、
そのまま、彼等は穴に落ちている人造人間ホムンクルスに対し、
その上から庭石を落としたり、油をまいて火をつけたりと何ともほほえましいことをし始める。
…弱い相手にはとことん強気になるであろう。
というのを見越してのことではあるが。
…何といっていいものか……
ともあれ、何よりも優先すべきはそんな刺客たちではないがゆえ、
魔風ディムウィン!!」
体中にとある棘を一斉に発射している狼もどきのほうにと向かい術を唱える。
ついでに続けざま。
氷の矢フリーズアロー!!」
こっきぃん。
うっし。
他にいる狼もどきたちにたいして氷の矢をお見舞いしておく。
相手が攻撃不可能に陥った。
というのをみてとるや否や、そちらと対峙していた男たちもまた、
「おらおらおらっ!」
「てめえっ!このっ!」
ここぞとばかりにたちまちそんな狼たちにとむらがって、何やら攻撃を仕掛けまくっている男たち。
…あいつら、男としての意地とか誇りとかあるんだろ~か?
「エリー!」
「わかってるわよ。」
「…あれはっ!」
どうやら、刺客たちは他の奴等に任せても大丈夫。
とおもったのか、ルルちゃんもまた庭にと出てきて私とララちゃんが見上げている方向。
つまりは正面近くにある白塗りの高い塀の上にと浮んでいるそれにと目をむけ叫ぶ。
闇夜にぽかりとうかぶ、白い仮面。
「……我等が言葉…無視するほうを選んだか…それもまたよかろう……」
昨夜でてきた魔族・セイグラムがそんなことをいってくる。
…つ~か。
何か一部の男たちがそちらに気づいて完全に硬直し固まってるようだけど。
でええいっ!
情けないっ!
「昨日の魔族。ですわね。もうひとりいた彼はどうしました?」
そんなセイグラムにむかって淡々と語りかけているルルちゃんの姿。
…どうやらルルちゃんは、レゾの元で他の魔族。
すなわち、ゾロムなど…というのを見知っていたせいかあまり動じていないらしい。
そんなルルちゃんの問いかけにまるで答えるかのごとく。
「はさみうち。ってわけ?」
思わず自嘲の笑みが浮んでしまう。
ふと気づけば、背後。
つまりはタリムの屋敷の上にもう一つの気配があったりする。
ぱっと見た目には雇われている魔道士かと思われるかもしれないが、
その異様に伸びている腕が人でない、というのを物語っている。
「ギオ=ガイア。手出しは無用。我等はこの戦いの行くすえを見届けるように命じられたのみ」
そんなちょうど真向かい側にといるもう一人の仲間にむかって話しかけているセイグラム。
そんな彼らの話を聞きながら、
「なあ?あいつら喰わせてもいいか?」
う~ん……
ぽそりとララちゃんが私に聞いてくる。
「とりあえず。やるやらあっちで」
どうやら、セイグラムという魔族のほうが指令をうけ、
こちらのギオ=ガイアという魔族のほうは、それにしたがっている。
という構図とみた。
つまり、このセイグラムを抑えれば全てのつながりがわかるはずである。
「さんきゅ~」
私とララちゃんがそんな会話をしているのをきき、横でルルちゃんが少し首をかしげているが、
と。
「ついに現れましたね!諸悪の根源っ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
思わずこめかみに手をあてるのは…仕方ないとおもう。
絶対に。
みれば、なぜか…よせばいいのに、セイグラムと同じ。
というか白塗りの壁にとつながっている門の柱の頂上にたち、
ぴしっとポーズをきめて何やら言い放っているのは……
「あなたたち!おそらくデイミアに召喚されて手をかしているのでしょうけど!
  魔族なんて因果な商売はやめて、今すぐに改心して真人間になりなさいっ!」
……お~い。
他にも人はいるんだぞ~…ウィル~……
びししっ。
…あ、案の定。
他にいた男たち…即ち、タリムが雇っていた用心棒たちがウィルの言葉に魔族二体に気づいて固まってる……
そして、一時のち、その場にいた姿勢のまま固まり。
次の瞬間。
『うわ~~!!?何だ!?あれ!?』
……根性がないことに騒ぎ始める護衛者たちの姿が。
そんな彼等の様子を気づいているのか、いないのか。
「さあ!改心しないのであれば、私達仲良し六人組の手によって成敗してさしあげますっ!」
「…何だ?あの人間は……」
あ。
さすがにギオ=ガイアと呼ばれてた魔族のほうもあっけにとられてそんなことをつぶやいてる。
ま。
普通はそういう反応だろうなぁ。
うん。
「かまうな。ギオ。我等は今は彼等と戦うわけにはいかぬ。そのような命令はうけてはおらぬ」
セイグラムと名乗った魔族がそんなことをいってくるけど。
「あなたたち!こちらの話をききなさいっ!そちらから先に仕掛けておいて、戦う意志がないだの。
  ましてや人の説得に耳を貸さないなどと。いいでしょう!
  ここは誠心誠意、実力をもってしてわからせてさしあげますっ!」
「……ウィルさん…何か自分の世界にあれ…よってませんこと?」
「気にしたらダメだとおもうよ。ルルちゃん」
「そうそう、気にしたら負けだ。ルル。」
「気にするだけ損だ。」
横でつぶやくルルちゃんに素直に感想をのべておく。
私とリナンとレナン。
実際にその通りだとおもうし。
「…ならば仕方ない」
いって、くるっときびすを返して夜の闇にきえてゆこうとするセイグラムに対し、
「逃げるなんて卑怯ですよっ!まちなさいっ!」
そんなセイグラムをそのまま追いかけていっているウィルの姿が。
しばし、そんなウィルたちをみつつも。
「…えっと。…どうするんですの?リナン?」
リナンにのんびりと問いかけているララちゃんであるが。
「あ~。一人でつっぱしるから…ウィルも。ルル。レナン。私達はあれ相手にするから、ウィルお願いしてもいいか?」
はうっ。
そんな私の言葉にため息ひとつつき、
「…いたしかたありませんわね。それでは、こちらはお任せいたします」
「後が面倒になるかも知れないからな。」
いいながらも、ウィルの後をおってゆくルルちゃんとレナン。
二人も判っているはずである。
…ウィルを野放しにしておいたら、後々面倒なことになる…というのは。
何しろ、身分が身分である。
下手にもしウィルの身元が回りにもれて、それでいらない騒ぎになるなどといったことは。
ルルちゃんにとっては絶対に本意ではない。
何しろルルちゃんは自分自身が目立つことを極力さけたいのが本音であるからして。
やがて、屋敷の敷地内からでてゆくそんなルルちゃんたちの姿を見送りつつも、
「さってと。とりあえず。これで心置きなく戦える…ということかしら?」
言い換えながらも、ギオ=ガイアと名乗った魔族のほうにと視線をむける。
すでにふと気づいてみれば情けないことに、庭先にとでていた他の用心棒たちの姿はまったくもって見当たらない。
どうやらあからさまに人あらざる魔族の姿をみてなのか、それぞれ逃げ出したりしているらしい。
…ま、こっちとしては足手まといというか邪魔以外の何者でもないから助かる。
といえばそれまでだけど。
「セイグラム様はああいったが…きさまらはここで始末しておくが得策だろう」
そんなことを相手はいってくるし。
「ま。あなたには無理よ。もっともあの白仮面と一緒だとこちらも苦戦するだろうでしょうけど」
それでも、先日の魔王との戦いよりはいくだんもまし。
というのは事実。
そんなこちらの台詞に、
「白仮面?…無謀のセイグラム様のことか?
  あのかたは今は命令を実行なされているがゆえに忙しい。
  汝等の始末はこのギオ=ガイア一人で十分」
いいながらも、ふわりと私達がいる庭先にとおりてくるそれ。
様をつけている。
ということはこいつよりあちらのほうが格上である。
ということ。
だが、そんな格上である魔族を無謀呼ばわりするとは……
……そう呼ばれるにふさわしい何かをあのセイグラムは行っている。
ということに他ならない。
「やめといたほうが身のため。だな」
「そうよ。」
右手を静かにあげて、
「「地雷波(ダグ・ウェイブ)!」」
ぴたりと手の平をギオのほうにとむけ呪文を解き放つ。
私とリナン。
魔族の足元の地面が大爆発を巻き起こす。
当然、魔族であるギオ=ガイアにこれでダメージを与えることは不可能。
何も打ち合わせをしてはいないが、どうやらララちゃんもこちらの意図を悟ったらしく、
その煙りにまぎれて起用にも気配を消してギオ=ガイアにむけて突進していっている。
同時に真上にとんでいるギオ=ガイア。
どうやらララちゃんが舞い上がる塵の中にいるとは夢にもおもっていないらしい。
「「烈閃槍エルメキア・ランス!」」
他と続けに呪文を解き放つ。
ギオの着地点を見越してはなった、精神を衰弱させる魔法のやりをギオは空中にてぴたりとやり過ごす。
「小娘共がっ!」
…あ
「私は男だぁぁ!」
…魔族にまで女に…まちがわれてるリナン。
「金色の海にたゆたいし 全ての力の源よ 優しくつつむ母なる息吹よ神滅矢ラグナアロー!!」
「…なにっ!?」
あ、驚いてる。
すばやく早口で混沌の言葉カオスワーズを紡ぎだし、ギオ=ガイアにむけて黒い矢を解き放つリナン。
ギオ=ガイアが驚き、すくんでいるその隙をつき、
「喰らい尽くせ!ゴルっ!」
「ごわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ほぼ同時にギオの絶叫があたりにこだまする。
みれば、ギオが硬直したその隙をついたらしく、ララちゃんの声とギオの絶叫はほぼ同時。
みれば、ギオの体を黒い何かが絡みつくように包み込み、今まさに収縮しようとしていたりする。
「「……グロテスク……」」
思わずぽそりともれる私とリナンの感想は何も間違ってはいないはずよ。
ゆっくりと、ゆっくりと黒いもやのようなものに飲み込まれ、その体をすこしづつ消してゆくギオ。
「…ば…馬鹿な…こ……」
何やらそんな最後の声も聞こえなくもないが。
とりあえずそれは気にしないことにする。
やがて、その黒いもやのようなものは収縮しながらもララちゃんの手にもつ柄の中にと納まっていき、
そこには多少の力を取り戻したらしき青白い光の刃が垣間見える。
「とりあえず。あっけないけど。…そいつの力、多少もどった?」
ララちゃんに聞いているリナン
確かにリナンが、本調子じゃない今一番大切なのはゴルンノヴァの力がある程度回復したかどうか。
この一つに限られる。
いくら私の術とアルテマとレナンの術があったとしても
「あまり」
「「…即答!」」
さらっというララちゃんに突っ込みをいれている私とリナン。
「……と、とりあえず。ここは他のひとに任せて。ウィルたちを追うわよ。」
多分、今の光景も屋敷の中にいたほかのものたちはみていたであろう。
深く追求されるまえに、移動するのが先決である。

「そうだな。」
「わかった」
リナンとララちゃんも追求されては面倒だ、とおもったのか。
とりあえず、未だに屋敷の中などでは騒ぎが収まりきらないその場をあとにして、
私達はそのままセイグラムをおっていったレナンとウィルとルルちゃんを追いかけてゆくことに――


                              -続く?-