If ~もしも…~闇より出でしは…~
街全体はもはや漆黒の闇にと包まれている。
人通りの途絶えた道を歩いている私達六人。
正確にいうならば、かなり酔っ払ったらしいウィルを私が背負いながら歩いているんだけど。
いくら口当たりがいいはち蜜酒だからといって、のみすぎだってば…ウィル……
私やリナンやラナンにかんしては、
昔から郷里の兄ちゃんやルナさんのしごき…もとい、特訓において、
自力でアルコール類には強くなっている。
という経緯があったりするからこれくらいではどうってことないが。
何しろ、兄ちゃんやルナさん曰く、
『誰であろうと、アルコールに溺れることがあってはならない』
とかいって、物心ついたころから、きづいたらコップの水をいきなりお酒に変えられてたり…
といろいろされていた特訓の賜物である。
……あれを特訓というのかどうかは別として。
「しかし。ルルちゃん。あなたも酒に強いとは、結構弱いかとおもったけど」
道をあるきながら言う至極最もな私の意見に、
「ええ。昔は弱かったんですけど。あるとき、レゾが、私に何か術をかけまして。
それからですね。はっきりいって酔うことはなくなりました」
多少うつむきながらも、それでいて少し戸惑ったようにといってくるルルちゃん。
「?あるとき?」
「ええ。私はよくわからないのですけど。
数名の男たちに促され、お酒をかなりのまされて前後不覚になってしまいまして。
まだレゾに
で、気づいたら家にいたんですよ。確かに私は酒場に一人でいたはずなのに。
で、気づいた私にレゾが何か術をかけて。それから酔うということはなくなりました」
………いやあの、それって……
あ~……何があったのか何となく想像ついたかも……
私が思わずこめかみに手をやりうなっていると、ふとピタリ。
同時に足をとめる私とリナンとレナンとララちゃんとルルちゃんの五人。
ざわっ。
あからさまに異なる雰囲気が辺りを埋め尽くしている。
何といっていいのか…そう、しいていうならば…瘴気が満ちている。
こうこうと、空に浮んで周囲を照らし出している月の光。
それらが屋根の上にとたたずんでいる二つの影にとさえぎられている。
「……あれは……」
「魔族の人。ですね」
「いやあの。魔族の人…って。ララ~」
そちらにと視線をむけて立ち止まりつつ、ほぼ同時にいうルルちゃんとララちゃん。
そんなララちゃんの台詞に突っ込みをいれているリナン。
確かに魔族…って、『人』って称するもんじゃないとおもうんだが……
屋根の上にとたたずんでいるのは、仁王立ちでマントを風邪になぶらせるままにたたずんでいる、
石でできた白い仮面のようなものをかぶり、漆黒のターバンでその目以外の部分を隠した魔族。
月の影となっているせいか、
仮面から見えている目以外の部分は、たなびくマントの形をした黒い闇としか映らない。
実際にただのぼろきれのように実体化しているだけかもしんないけど。
その隣にうづくまっているのは、人の形を模しそこねたような黒い塊。
こちらはこちらで、のっぺりとした黒い仮面の上から角石を組み合わせて創造ったかのような、
白い仮面の左半分だけをつけている。
何でこう、私のいくところいくところ…こういった出会いたくないやつがでてくるんだろ……
ざわり。
辺りの空気が一瞬震え、
背の高いほうの魔族の異様に長い手が私たちのほうを指差してくる。
そして。
「タリムの客か……」
「まさかあやつの仕事、うけたのではあるまいな。やめておけ。長生きをしたいのならばな……」
ぷちっ。
こいつどこの誰にいってるんだか。
この私達が魔族の言いなりになるわきゃないでしょ!
「我等が言葉に耳を傾けるのもよし。何となればそは汝らの選んだ生き方なれば……」
ちらり、と横をみると、こくりとうなづいて小さくルルが呪文を唱え始めている。
先手必勝!
「何いってんだっ!魔族なんかにどうこういわれる筋合いはないっ!」
きっぱりはっきり言い切るレナンの言葉に。
「…どうします?セイグラム様?」
「構うな。ギオ。我等に与えられた任務は警告を与えることのみ。それを果たせばそれでよい。」
何やら屋根の上でそんな会話をしている二体の魔族たち。
そして。
「ともかく。この件からは手をひけ。わかったな」
そう、セイグラム、とよばれた魔族が言い放つと同時。
「「
「「…なっ!?」」
おっしっ!
ルルちゃんと私の放った一撃がまともに彼等のいる足元より青白い光となりて突き上げる。
これぞ精霊呪文最強といわれている、
下級魔族なんかひとたまりもないはずである。
あわてて、それから逃れている二体の魔族。
「…確かに、伝えたぞ……」
一体は言い捨てそのまま闇にと解け消えるが。
あ。
もう一体はどうやらかすったらしく、体の半分がなくなってる。
うっし!
とどめ!
「「
ルルちゃんと私に続いて解き放ったリナンとレナンの術に、
「…くっ……」
何やら呻きながらも、もういったい残ったほうの魔族もまた掻き消える。
「ちっ。逃がしたか。」
思わず舌うちする私に、
「もったいない。あのふたり、ゴルちゃんに喰わせたら少しは回復いたしましたのに。」
「……ララちゃん~。そういう問題でもないとおもうけど……」
ララちゃんの言いたいことはわかるが、それでもそんなララちゃんにひとまず突っ込みをいれておく。
まあ、確かに。
先日の一件でリナンが金色の王の呪文を上乗せしてからというもの。
ゴルンノヴァこと光の剣…かなり消耗して使い物にならなくなってるからなぁ~。
手っ取り早い回復方法は、何かの精神を『喰わす』こと。
それは郷里の兄ちゃん達による知識によって理解はしている。
魔族にしろ、神族にしろ、属しているのは基本的には精神生命体。
それゆえに、他の精神などを喰らうことなどによって比較的に力を増す。
人が、瘴気や神気に弱いのも、
それらのあまりに強すぎる気にあてられて、気が吸い取られているからに他ならない。
一般的には知られてないようだけど。
「?逃げられてしまいましたわね。しかし。魔族が絡んでくるなど…やはり……」
私とララちゃんの会話の意味がわからないらしく、多少首をかしげながら、
いってうつむきながらも考え込んでいるルルちゃん。
「とにかく。ウィルのこともあるし。宿にもどるとしよう。」
「ですね」
「そうね」
「だな」
「ゴルちゃんのご飯……」
…もしかして、このララちゃん…もしかしなくても多少よってるのかもしんない……
いつも、ゴルンノヴァのこと、ゴルって呼び捨てにしてるのに、ちゃんづけしてるし……
……ま、きにしないでおこう。
うん。
「う~。頭いたいです」
いいながらも、テーブルについて朝ごはんを食べているウィル。
翌朝、それぞれにおきて宿屋の一階にある食堂で朝食を食べている私達。
「くちあたりがいいからって飲みすぎるから」
そんなウィルにひとまず突っ込みをいれておき、そして。
「で。昨夜のやつら…一体何者だとおもう?誰が飼ってる魔族にもよるけど」
あむっ。
鶏肉の煮物の一切れを口にと運びながら、
私やレナンやララちゃんやルルちゃんをみつつ問いかけてくるリナン。
「?やつら…って?」
首をかしげるララちゃんの手が一瞬とまる。
そんな隙を見逃すことなく、
ララちゃんのお皿の上にとあるタコさんウィンナーを自分の口にともってゆくリナン。
「ああっ!リナン!ひどいですわっ!」
「隙があるほうがわるいっ!」
抗議してくるララちゃんの台詞をきっぱりはっきりと言い返す。
「ほぉう。そういうことをいいますか。ならば、こちらにも考えがありますわっ!」
「あああっ!私の目玉焼きぃぃ!」
コホン。
「…あの?リナンさん?ララさん?あまり目立つ行動は避けてくださいな……
それより、たしかに。気にかかりますね。昨夜の奴等は」
こほんと咳払いひとつして、こちらに注目している客たちの視線を気にしつつ、
小さい声でルルちゃんがリナンとララちゃんにといってくる。
「?う~。まだ頭いたいです。というか、その昨夜の奴等って何ですか?」
そんな私たちの会話にウィルが頭に手をあてながらも問いかけてくる。
どうやらまだ頭がいたいらしい。
…セイルーンって、男児にお酒の特訓とかしないんだろうか?
…って、するのはリナンとレナンのうちくらいなもんか……ふぅ……
「昨夜。ウィルさんは酔いつぶれていたのでご存知ないでしょうけど。
宿屋に戻るみちすがら、二体の魔族がでてきたのですわ。ね。ララさん、エリーさん」
いって、私とララちゃんに同意を求めようとするルルちゃんであるが、
「そう云えばそんなのがいたわね。」
「ああ。それなら覚えていません」
がしゃっ!
思わずさらっというララちゃんの台詞に椅子ごと転げ落ちてしまう。
「…あ、あの?ララ…さん?」
「いえ。私ってある程度以上飲むと、そこからの記憶が綺麗になくなるらしいんですの。
他人の話では、まったく酔ったようにみえないらしいんですけど。
昨日はタリムさんの家から記憶が飛んでいるので、そのあとのことはさっぱり……
いつも、大概、ゴルが宿に送り届けてくれたりしてるんですよ」
……ゴルンノヴァ…いらないところでもララちゃんの世話やいてるんだ……
『?』
そんなララちゃんの説明に、ルルちゃんとウィルが首をかしげてるけど。
まあ、今はともかく。
「ええ!?魔族がでてきたんですか!?ひどい!どうして私に一言いってくれなかったんです!?」
ウィルがどこか違うところで何やら叫んでるし。
どうにか椅子を直しながら座りなおし、
「ウィルは酔って完全に寝てたわよ。」
一応教えとく私。
「…しかし。あそこまで小馬鹿にされて、
しかもこのままひっこんだら、相手に臆したと思われるし。
というわけで、この依頼、受けるけど、依存はないよな?」
言いながらも、全員の顔を見渡すレナン。
「当然です!魔族なんて百害あって一理なしっ!かならずや黒幕をつきつめて、
そして真人間に更生させてみせますっ!」
一人何やら叫ぶウィルはひとまずほっといて……
「…お願いですから。人目もあるのにそんなに大きな声で叫ばないでくださいぃ~……」
そんなウィルにとルルちゃんが必死になって制止の言葉をかけてるけど。
ふっ。
甘い、甘い。
そんなので聞くウィルじゃないってば。
回りにいた客たちは、君子危うきに近寄らず。
といった感じでどうやら無関心を装うことにきめたらしい。
ま、普通、魔族とか単語きいただけで驚くし。
そもそも、魔族自体が眉唾ものの伝説だ。
とおもっている人も多くないこの世界。
この反応も最も…なんだけど……
とりあえず、そんなこんなで朝食を済まし、全員の意見も一致したところで、
私達は今回のこの依頼をうけることに。
今度でてきたら、あの魔族たち…絶対ににがさないわよっ!!
昨夜などとは違い、街は活気に満ち溢れている。
市場が開かれて、通りにあふれかえっている人間達。
とりあえず、そんな人ごみにまぎれつつ、タリムの屋敷にと向かってゆく私達ではあるが。
そんな中。
ふと。
「お願いです。この件には関わらないでください。」
すれ違いざまに何やら私達にといってくる女性が一人。
おもわず、ばっとそちらを振り向けば、そこには白い服をきて夕日の色をした髪の女性が一人。
彼女はそれだけいってそのまま、人ごみの中にと消えてゆく。
「…あ。あの…っ!」
ウィルも彼女に気づいて声をかけようとするが、
そのままその女性は人ごみの中に紛れ込み、やがて姿を見失う。
「……今のは?」
「さあ?すくなくとも…何か関係がありそうだな……」
「そうね。何かあるわよこの一件」
どうやらこの一件。
魔族が絡んでいるだけでなくてさらに奥が深そうである……
「ほほぉう。引き受けてくれる気になりましたか。よかった。それはよかった。」
本当に嬉しそうにタリムはバーベキューの串にと喰らいつく。
どうでもいいけど……まだ昼になってないけど……
朝ごはんにしても時間が遅すぎるし。
…もしかしたら、常に何かこの人、食べているのかもしれない。
「これでぐぅんと心強くなったよ。デイミアのばか者が、
わけのわからん暗殺者度もを差し向けてこようとも、枕を高くして眠れるというもんじゃ」
いいながら、口にお肉をほうばったままで陽気にわらってくるこのタリム。
はっきりいって行儀が悪い。
まあ、ソレは口にはださないが。
何かそんなタリムをみて言いかけるウィルの口をふさぎつつ、
「安心してもらっても別にかまいませんけど。油断はしないでくださいね」
とりあえず釘を刺しておき、
「それで。護衛の期間なんですけど……」
魔族が絡んできたがゆえに、ひこうにもひくことができなくなってはいるが、
それでも一応依頼主には変わりない。
「そうさの。評議長の選出会が開かれるのが半月後。
じゃから、とりあえずそれまで。ということで。あとの決着は儂がつけるさ。
報酬は……必要経費プラス、そう。一日……」
タリムのいった金額は私が予想していたものよりもかなり多かったりする。
まあ、一応私とレナンとリナンのフルネームは名乗ってるし。
それゆえの評価なのかもしれないが。
まあ。さすがに動揺してたけど私が【閃光のエミリア】だと知って。
おそらく、ルルちゃんに関しても、ロッドから【白のルルティス】だと話がいっている可能性あり。
とりあえず、タリムとの話をざっとまとめ。
私達はこの屋敷の間取りを確認するために一応あちこちをみてまわることにする。
何といっても、あいては魔族がいるのである。
そのとき、間取りをしっているのと、そうでないのとでは訳が違う。
…もっとも、魔族に関しては、空間移動などができるので、間取りとかは無関係。
といった差し迫った問題があるのも事実なのだが。
「よお。見物かい?あんたら?」
ウィルがぶちぶちと文句をいっているのをなだめつつ、
ひとまず屋敷を見回りながら外に出ようと差し掛かる私たちにと向けられてくる声が一つ。
「「……あ。この前の」」
さすがにルルちゃんは覚えていたらしく、私と一緒に小さく声をあげてるけど。
「あ。この前の女性の天敵の軟弱男さんですねっ!ちょうどいいですっ!
あなた!まさかいつもあのような行動をとっているんではないでしょうねっ!
同じ男としてそんな態度、絶対に許せませんっ!ここは是非とも心を入れ替えて…!」
あ~……
こりゃ、ウィルがさらにエキサイトするよりも先に話を進めたほうが得策とみた。
「見物じゃなくて。下見。それすらもわかんないのか?あんた?
防戦、退却、さらには侵入経路の有無。窓の有無や屋敷全体の間取り。
それらをしっかりと抑えておくのと、そうでないのとではイザというときの戦いが違うだろ?
ま・さ・か。そんな基本的なこともわからないわけじゃないよな?」
何やら言いかけてくる男を言葉で言いくるめる。
ぐっ。
そんなリナンの台詞に、男が何やら言葉に詰まってるけど。
「?リナン?知り合い?」
「…ララ~。このまえ、食堂でエリーとルルとあんたに絡んでこようとしてた軟弱男にきまってるだろ?」
「…そんなやついたっけ?」
「「……おい。」」
本気でそんなことをいってくるララちゃんに対し、思わずうなるリナンとその男。
「ま。基本的なことすら視野にいれてなかった軟派男はおいといて。
後は、デイミアの屋敷と…そしてハルシフォム評議長の家だな。調べるべきなのは」
「おいこらっ!無視するなっ!」
何やらいってきている軟派男はひとまず無視。
「あ。なら分かれたほうがよくありませんか?
六人で一緒に行動しても時間かかるだけですし。何よりアレらに時間を与えるのは……」
「ルルちゃんの言うとおり。というわけで、ルルちゃんとウィルとレナン。私とララちゃんとリナンに別れて調査。それでいい?」
「判りました!それでは、私はルルさんとレナンさんと一緒にデイミアという人のところにいきますっ!
さ!ルルさん!レナンさん!いきましょうっ!」
「え?あの?…ちょっと。ウィルさん…まってください…っ!」
「ウィル。ちょっとまて」
「ゼンは急げですっ!さあ!」
「…ち、ちょっとぉ……」
「お~い」
・・・・・・・・・・・・・・・・
あ、ルルちゃんとレナン、ウィルにひこずられるようにつれてかれてる。
……ま、いっか。
たぶん、ルルちゃんとレナンならウィルの暴走…多少は止められるかもしんないし。
……あくまでも多少だけど。
「それじゃ。私達は、ハルシフォム評議長の家。…って、ララちゃん?きいてる?」
「…よくわかりませんけど。リナンとエリーについていけばいいんでしょう?」
「……だめだ。こりゃ……」
「おいっ!おまえらっ!」
何やらわめいている軟弱男をそのままに。
私達は二組にとわかれて、ひとまずそれぞれに調査をすることに。
さて…魔族を操っているのは、デイミアか…それとも、失踪している、というハルシフォムか……
-続く?-