第6幕~静~


神魔世界第18区が消滅した。
事態を理解した混沌幹部らは深い沈黙に落ちた。
「シルファ様がやったとしか考えられない…。」
「でもヴァリル!シルファ様は無関係な生命をむやみに奪うようなことをなさるお方じゃないわ!」
「わかってる。シェフル。」
かなり混乱が生じている。だが、ルビレイがその混乱に終止符を打った。
「分かっていないな。シルファ様はお前たちが考えているより残酷だ。」
「なにを…!」
むきになって言い返そうとして気づく。ルビレイは主にシルファに育てられている。
「シルファ様はもともと生命を奪うことに何の抵抗も感じない方だった。存在を消すことをためらうような方ではなかった。」
静かにルビレイは言った。
「リナが生まれてから少しずつ今の性格になってきていた。だが、今それが戻りかけている。」
「シルファ、相当無茶してるってことね。」
リナがルビレイの言葉を引き継いだ。
「無茶して、無理に自分の感情を押し殺してるんだわ。
  無の力を使うのに精一杯で、余裕がないから多少の犠牲なんて感情が追いつかない。」




「時がたってから、後悔するのよね。」
シルファはつぶやいた。
「私の力は何も生まない。ただ、消すだけ。」
「本当にそうでしょうか。」
「…銀刃神フェリトリス…。」
「あなたが、ナスィルだったのですね。」
力ない瞳で、シルファは肯定した。
「そうよ。でも、エル姉たちは気づいていない。利用してみるといい。私を……」
そう言ったきり、シルファは動かなくなった。


「さすがに、フェスルの妹だな。したたかだ。」
フェリトリスはうつろに開いたシルファの瞳を閉じてやり、言った。
「いいだろう、君とフェスルに免じて協力しようじゃないか。」
フェリトリス…いや、彼の者は言った。
「ルビレイとの約束もあるしな。」




「シルファっ!?」
彼の者がシルファにちょっとした細工をしていると、エル、ゼロス、フェスルがやってきた。
「どきなさい!フェリトリス!」
すさまじい剣幕で言うエルにフェリトリスは涼しい顔で言った。
「嫌だな。何のためにこの娘が自我を失ったと思っている?貴
   様らの想いがこの娘を追い詰めた。まあ、フェスルはさすがに分かっているようだが。っていうか、分かって当然だな。」
「僕らの想い?」
ゼロスが眉をしかめつつたずねた。
シルファの自我が失われたと聞いて気が気じゃないのだが、目の前の存在は何故か抵抗する気を起こさせない。
「お前らの想いはそれだけで大きな力になるって自覚してるのか?
  お前ら、ここが消えたとき、この娘の自我も消えるんじゃないかって思っただろう。だから、この娘は追い詰められた。」
彼の者の言葉に2人がはっとしてフェスルを見た。
「フェスル……」
「だから、『想うな』って、言ったんですね?兄さん。」
泣きそうな顔で2人がフェスルにたずねた。
「そうだ。」
すっ、とフェスルがシルファの元に寄った。
「そもそもゆがみ自体が、お前たちの罪の意識が具現化したものだからな。」



「ああ、どうやら彼は約束を守ってくれたみたいだな。よかった。」
「ルビレイ?」
「……ほんと、世話の焼ける。」



絶対者たるものが自らの分身―部下でもなく友でもなく―となるような存在を生み出そうとすることは禁忌。
けれど、「子供」は、分身ではないのですよ。

世界は意思…心の器。
器が違えば、育つ心も違ってくる。
だけど、心はどこから来ると思います?
心によっては器を越えることもある。
ねえ、わかりますか?
同じ心なんてないんです。
だからこそ、分身…複製は禁忌なんです。あ、分割は別ですよ?



――ちゃんと気づけましたか?父上、母上。




「客観的に見たほうが、この場合は『わかりやすい』。」
「ルビレイ?大丈夫?」


あなた方は、気づいていましたか?
あなた方にだって、心は生まれていたではありませんか。


それに、ね。


「私は、あなたたちが作った、世界の器そのものだから。」
「……ひとりごと?」



 「うん、気づいたよ。」


ふと、返事が返ってきた。
「ルビレイ。あなた、『記憶』そのものなんてどこで知り合ったの。」
そう、彼の者は『記憶』そのもの。
「もちろん、フェスル様に教えられたんですよ、シルファ母上。」
「おかげで自我を失わずにすんだわ。記憶の復元のおかげで。……それで、彼の人は帰ったけど……。
  今、私の代わりにフェスルがキレちゃって…しばらく、エル姉とゼロス、戻ってこれない…違うか。
  まともに身体を保てないと思うから、後お願いね(滝汗)」

「ええええええっ!?フェスル様がキレたッ!?(顔面蒼白)」
「シルファ?ルビレイ?それがどうしたの?」
「リナ。この世の中には、知らないほうが幸せなこともあるわ。フェスルが切れたら、誰も止められないのよ…。そう、誰もね……。」
あの、シルファが冷や汗浮かべてこんなことを言うのである。フェスルの恐ろしさ、いかに。



なお。
フェスルのお仕置きが終わったころには、
シルファがかろうじて保護した19区以外は、神魔世界は90億区域くらいが吹っ飛んで跡形もなく消え去っていたという。


実は、最強はシルファでなくフェスルドーリスだった。