第四幕~困惑~
フェスル、エル、ゼロスは困惑していた。
「シルファの力って、あたしたちより強いわけ?」
「…『無』の力ですからね。」
「でも、ゼロスの『有』も似たようなものでしょう。」
反乱や仕事そっちのけである。
「――あ、いたいた。フェスル様、ちゃんと仕事はしてくださいよ。」
いきなりルビレイが割り込んできた。
「それどころじゃないわ!わかってるでしょう!」
「お言葉ですがエル様、それはシルファ様に対してひどいと思います。
シルファ様がどれだけ仕事の維持に努めてきたか、エル様が一番よくご存知のはずですよ?」
「……シルファが戻ってきてからします。」
ゼロスの言葉に、ルビレイは深くため息をついた。
「そんなだから、シルファ様は……。いえ、今はいいです。とにかく、仕事はしてくださいね。…っと、失礼。」
通信機が鳴り出したので、ルビレイは回れ右をしてから通信回線を開く。
「ナスィルだ。混沌の都に幹部がいない。どういう了見だ?」
びっくぅぅぅぅぅぅ!
通信機越しにも伝わってくる殺気に、ルビレイは身を震わせた。
「はいぃっ!それじゃ……ウィンディナとフィアリーナと、アシュトとゾイスに都のほうに戻ってもらって…
ツィーナルグルドからも何名か派遣します、ハイ(滝汗)」
あわてにあわてていたせいか、ルビレイは失念していた。背後にあの3人がいることを。
「ルビレイ?おまえ、誰としゃべってる?お前の主は、私のはずだが?」
最初に気づいたフェスルが問いかける。目が怖い。
思わず固まってしまったルビレイに、追い討ちをかけるように
「あれ?フェスルもいるのか?」
通信機から声が流れた。
「んー…その様子じゃ、エルとかゼロスもいるんだろーな。
ま、いーや。俺はこの件が終わったらしばらくお仕置きタイムに入るけど、それまでは粘れよ。」
通信は、一方的に切れた。
今のナスィルの言葉を訳すと、
『反乱も何もかも終わったら、3人に私のほうからお仕置きしつつ説明するけど、
それまでは秘密にしといてね♪出ないとヒドイから(微妙な微笑み)』である。
(ああっ!見捨てられたっ!?)
そろーりと、後ろを振り向くと……満面の笑みを浮かべた3人。
こっちも怖い。
「ルビレイ。説明してもらえるわよね、もちろん。」
「ナスィルとは誰のことなんですか?」
「お前とどういう関係だ?」
ルビレイは冷や汗をかきつつ固まった。
「なぁ、リナ」
「なによ?」
「何でヴァリルとシェフルのとこに行くんだ?」
ルビレイが究極の選択を迫られているころ、リナとガウリイは古代竜神殿へ向かっていた。
「この、1~20区の境界を警備してもらうのと、ナスィルには絶対手を出すなって言うためよ。」
ため息をつきつつ説明するリナ。
「あ、なるほど。」
相変わらずである。
「リナ様、ガウリイ様、何かありましたか?」
瞬時に移動すると、ヴァリルとシェフルがたずねてきた。
「とりあえず、かくかくしかじか。」
『え、ナスィル?』
と、ヴァリルとシェフルの声が重なった。
「ルビレイ様も同じことを…」
「あ、そう?ならいいけど。直接会ったことがあるの、ルビレイだけみたいだし。」
「でもよぉ、リナ。ナスィルの性格とか強さとかって、俺たちにもなんとなくわかるだろ?」
「そりゃそうでしょ。でも、あくまで予想よ。根元は同じでも……性質がまったく違うわ。」
勝手に話し始めた二人に、ヴァリルが言った。
「――説明してください。」
一方、窮地に立たされたルビレイは。
(やっぱ、キレてますよね。でも……この3人より、シルファ様のほうが怖い!)
停止しかけた思考で、考えをまとめる。
「えっと……彼は知人です。シルファ様も、彼のことはよーくご存知ですよ。」
ぴた。
3人が動きを止めた。
「所在はいつも不明ですけどね。じゃ、私は古代竜神殿のほうに行くので。」
3人が止める暇もないほどすばやく、ルビレイは逃げ去った。
ところ変わって第18区反乱本部。
「ナスィル殿、それは本当なのですか!?」
「ああ。間違いなく、朱金王リナはゆがみの中心だ。もっとも、それは四皇のせいなのだが。」
「馬鹿な!?利用できる話ではありますが、信じられません!」
ナスィルは静かに言い放った。
「では聞こう。混沌と光と闇、そして時。これらが交われば何ができると思う?」
「もちろん、生命ですよ。」
銀刃神の答えにナスィルは頷き、
「だが、同時にゆがみも生ずる。」
「一時的なものと聞いていますが?」
「普通はな。だが……四皇が罪悪感を感じていたら?その罪悪感がゆがみを存在させ、朱金王とともに残った。
だが、そのゆがみが純粋であるゆえに朱金王は気づかない。だから、ゆがみを消すことができないんだ。
そもそも、四皇が作り出したものだからな。」
その場は完全な沈黙に包まれた。
「――間違っていると思うか?」
その問いに答えたのは、金刃神アウリトリス。
「つまり、朱金王リナがゆがみであるのは四皇のせいである、と。
確かに、濁族が多大に消え去ったときはたいてい朱金王の体調は優れないと聞き及んでいる。」
「とすると、やはり朱金王や精霊王よりも、四皇をまず何とかするべきか。」
銀刃神の出した答えに、一同が頷いた。
(何とか、成功したか。あとは、あの3人が……違うか。2人が意識を変えられるかどうか。)
ナスィル=シルファは内心ほっとする。
会議が終わってすぐ、反乱軍は噂を流し始めた。
「あれ、ルビレイ。どうしたの?」
「いえ、ちょっと。」
辛くも究極の選択から逃れたルビレイは、ウィンディナやアシュトたちに混沌の都に戻るよう言ってからリナたちと合流した。
「……いえ、少し心配なだけです。」
「何が?」
「シルファ様が、自分で自分の首を絞めるようなことをしていないか、と。」
リナとガウリイは沈黙した。
(ありうる。シルファなら、やりそうね……)
(今の状況がすでにそうじゃないかと思うんだが。)
なかなか鋭いことを思うガウリイだが、さすがに自信はなく、沈黙を守る。
「何か、おかしいんですよ。シルファ様らしくない。たとえナスィル様になっているとしても、何かおかしいんです。」
ルビレイは言った。
「よくない予感がしますね。いやなことに、私はフェスル様の直属神官ですから、予感が外れたことはないんですよ。」
数日後。1~20区全域が、反乱軍に加わった。