管理人より:
お話が、元の時間率に戻ってきております。さて・・・・元の場所にと戻ったリナたちは?




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 アメリアの恋心    第15話



朝の光が、カーテン越しに室内に光の帯を作る。
窓を開けなくても、鳥の鳴き声程度は、否応なしに耳に入ってくる。
下の食堂からは、かすかな声と香ばしい朝食の匂いがする。
日の高さを見ると、早朝というわけでもなさそうだった。
目覚めは決してよくない。
どこか頭がボーっとしていて重たいし、見たところ何ともないのに、身体が何とも重たい。
頭痛や吐き気がないだけで、二日酔いをしているみたいだった。
服は昨日のまま。
昨日・・・。
確か、アメリアの事でゼルと言い合いになって・・・
その後、ゼルがアメリアの部屋に行ったからちょっと盗み聞きでもしてやろうと思って・・・。
覚えていない。
いつの間に寝たんだろう。
起き上がると、軽く眩暈がしたがさほどでもない。
朝に弱いって程でもないのだが。
軽く身だしなみを整えて階下に下りると、ゼルとアメリアがすでに朝食を食べ終えて、食後のお茶をすすっていた。
あたしに気がついたアメリアが、元気に
「おっはようございます、リナさん!」
と立ち上がった。
あたしが応えると、ゼルも手を上げることで応じた。
「ガウリイはまだ?」
「ああ。」
短く応えるゼルに、アメリアは昨日までの落ち込みようが嘘のように、明るく話し掛ける。
メニューを一瞥していると、ガウリイも現れたので、あたし達は軽い食事を注文する。
ほんの5人前程度である。
なんか・・・釈然としない。
これと言って、別に変な事はないんだけど。
ガウリイはいつもみたく食べてるし。
ゼルは、アメリアの話を煩そうに聞いているし。
あたしも普通にお腹が空いてるし。
違うと言えばアメリアの機嫌が良くなっている事だが、あの単純なアメリアだし、
ゼルがちょっとフォローしてやれば、簡単に機嫌が直るのも頷ける。
昨日、何かあったのだろうか?
「アメリアってば、今日はやぁけにご機嫌じゃない?」
「ええっ!?いえ・・・そんな。」
真っ赤になりながら、最期の方は声も小さくなる。
「なぁんか、いい事でもあったのかしらぁ?」
努めて普通に言い、ふと、周りを見回す。
朝食の時間を過ぎてしまっている為か、あたし達の他に客はいない。
けっこう、大きな宿だし繁盛してそうだから、他にいても不思議はないのだが。
だからだろうか?
「あの・・・リナ=インバース様でいらっしゃいますか?」
小太り気味のおばちゃんが、料理を運ぶついでにあたしに尋ねる。
「・・・そうだけど?」
「これを預かっているんですけど。」
差し出されたのは、何の変哲もない封筒。
あれ・・・これ?
差出人を見て・・・。
「ひいぃ!!!」
フォークを取り落とし蒼白になったあたしに、
「どうしたんですか、リナさん?」
アメリアが首をかしげる。
「どうしたんだ、リナ?」
ガウリイが何か言ってるしゼルが怪訝な顔をしているが、はっきり言ってそんな事はどうでもいい。
何で・・・
何で姉ちゃん・・・
「何で姉ちゃんがこの場所しってんのよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?」
ううううう。
見てる。
姉ちゃん、絶対どっかで見てる。
姉ちゃんだったら、それぐらいできる!!
きょろきょろ辺りを見回すが、別段そんな気配はない。
だが!!
「お姉さんって・・・リナさんのお姉さんですか?」
「言わないで!何も言わないで!!」
まさか・・・。
いやでも、あたし今回ギガスレイブの使いかけたし・・・
とりあえず。
あたしは、勇気を振り絞って封を切った。
「あのリナさんが、ご飯も後回しにして怯えてますよ?」
「のようだな・・・(汗)」
ゼルとアメリアが、無責任な会話をしている。
ふふふふふ。
あの姉ちゃんがどんだけおっかないか知らないから、そんなのんきにできるのだ。
ぶるるっ。
うう、口にするのも恐ろしい!!
便箋を開くと・・・



―18の誕生日までには戻んなさい! 姉より


確かに姉ちゃんの文字で書かれている。
・・・・・。
18?
「ふふっ・・・・ふふふっ・・・ふふふふふ。」
思わず、口から笑みが漏れる。
「リ・・・リナさん?」
微妙にアメリアがゼルにしがみついてたりはするが、そんなこともどーだっていい。
この手紙は!!
ダークスターの件、報告にいかなくてもいいって事じゃない!!
ってことは、つまり!!
「姉ちゃん怒ってなかったわぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
あたしは、さっきまでのモヤモヤが、いっぺんに吹っ飛んだ!!
この手紙に比べれば、あんなモヤモヤなんてすぺぺのぺいってなもんである。
とりあえずこれで、当面の心配事はなくなった。
何の気兼ねもなく、ガウリイの剣を探しに行けるって物である。
あたしは心も軽く、新たにBセットを3人前ほど注文しなおし、心ゆくまで舌鼓を打った。





リナが訝しがるのは当然だ。
俺達は、襲撃されてから3日後の朝に時間率を調節して戻った。
眠り込んだリナの身体の跡を消し去り、記憶を消してその足で戻ってきた。
当然俺は、部屋で眠る時意外は姿をキメラに戻している。
ただし、見かけはともかく触れられれば一発で何かがおかしい事に気がつかれる。
その辺りは、ガウリイが当然のようにリナの傍にくっついて、事なきを得るのに苦労はしない。
ルナが、リナ宛に手紙を残しておいてくれたおかげで、リナの疑惑も有耶無耶になってしまったので助かった。
努めて普通に過ごすと言っても、少し気が抜けるとボロが出てしまう。
ガウリイや俺はともかく、アメリアは顔に出やすいので、目が離せなかった。
朝がゆっくりだった為に、次の町に着いて時にはもう夜になっていた。
約束どおり、俺は混沌宮に向かった。
空間転移くらいは、俺の力で行ってもさほど影響はないらしいが、
念のためという事で、ゼロスがパシリ魔族よろしく迎えにきたのは、夜も更けた時間だった。
待ちくたびれたのと、疲れてもいたアメリアはウトウトしていたので置いていくつもりだったが、頑として聞かなかった。
押し問答をしていても仕方ない。
時間を無駄にするわけにもいかないので、俺達は一緒に混沌宮に行った。
その場にいたのは、エル、ルナ、レイス、獣王、海王、ゼロス、天竜王、地竜王といった面々だった。
ルナとレイスは憔悴しきり、影もかなり薄くなっているが。
獣王、海王、天竜王、地竜王は、初対面である。
怯えられる事が心外だったのか、アメリアは最初は不機嫌だったが、その場にスミレもエルもいることを思えばいたしかたない。
スミレは、今は基本的にはアメリアの胎内にいる。
もっとも、必要があればいつでも具現して出てくるのだが。
「まず、それまでの経緯だが・・・」
妊娠の事を話すとアメリアは否応なく赤くなるが、こればかりはそもそもことの発端でもあるので、端折るわけにはいかない。
アメリアもそれはわかっているらしく、無神経と罵倒される事がなかったのは幸いである。
ガウリイの記憶があることと、力のいくばくかを使えるようになっていることは、
エルは当然知っていたが、他の者を驚かせるには充分だった。
なるべく簡潔に、そして事実を事実のままに話すのに、時間はかからなかった。
大方のことは、ゼロスを含めてルナやレイスの口からも説明があったのだろう。
質問も特になかった。
「次にだが・・・当面の敵は火竜王の一派だ。それは、俺が叩く。
  ただし、俺の力は使わないにしても、エルの力を大量に召還させてもらう事には変わりない。
  それで次元が歪む確率はどのくらいある?」
「先日程度でしたら問題はありませんが・・・それ以上となると、8割方歪みは生じるかと存じます。」
レイスが答える。
「であればだ、次元の穴が開いてもすぐに塞げるように空間を安定させるのに、どのくらいの時間がかかる?」
「一定期間であれば2ヶ月あれば可能です。」
2か月?
俺の力を使う事を前提に考えるならばともかく、
普通に空間を固定するだけならば、ある程度広範囲でも10日やそこらで可能なはずなのだが。
「・・・・・何でそんなにかかるんだ?」
俺の言葉に、スミレが手を挙げて答える。
「それはね、エルがこの世界を造るときに、後先のことなんて何にも考えないで、
  やりたい放題好き放題でてきとーに造ったからよ!」
・・・・・。
案の定、全員が固まった。
エルの性格をよく知っている俺やアメリアはともかくとして。
まあ、自分達の世界が思いつきで造られたとは思いたくないだろうが。
だが、スミレも含めて、高尚な理由で造った世界や魂なんぞ、ついぞ話は聞かないが。
「・・・・・エル。」
「まあ、そんなこともあったわね。いいじゃない、過ぎた事だわ。何か文句あるの?」
エルに何を言っても無駄である。
機嫌を損ねない事が一番の良作である事が、疑いようのない事実に違いない。
ここで文句の1つでも言って、じゃあわたしの力は使うな、とか臍を曲げると後々厄介なのだ。
「・・・・・わかった。俺はセイルーンにいる。準備ができたら呼んでくれ。
 念のために言っておくが、腹心クラスでなければ相手にならない。下っ端の面倒はしっかり見てくれよ。」
この場にいる腹心クラスの4人が一斉に頷いた。
「わたしからもあるわ。グラウがルーカスたちの件で動いてるのよ。リナ達も関わっていく事になるわ。
  その件には、あんた達は介入しないでね。
  もし、人間としてのあんた達に助けを求めてきたとかいうならいいけど、あんた達からは一切手を出さないで。」
エルの言葉にアメリアが声をあげる。
「リナさん達・・・また危ない目に遭うんですか?」
「危ないというか・・・危険ではないわ。結果は決まっているもの。でも、辛い想いはするかもね。」
アメリアがヒートアップしそうになるのを、俺は止めた。
アメリアの言いたい事はもちろんわかる。
だが、先のことを知っているからといって、それに介入していいとは限らない。
むしろ、いいことはない。
特に、俺達のような存在は、そういう事をしてはならないのだ。
例えアメリアが納得していなくても、この場の話は終わりだった。
去り際に、
「ゼルちゃん。アメリアの事もあんたに任せてるんだって事、忘れないでよ。」
というエルの言葉に頷いて、俺達は宿に帰った。
やはり納得できずに泣き出したアメリアを宥めすかし、
そのときになってからまた考えようとごまかして、その日はベッドに入った。



10日後には、もうと言うか、やっとと言う旧結界内の世界に辿り着いた。
例の港を避けたのは、当然の事である。
もっとも、おそらくまだまともに結界内の世界に向けて出ている船など、ろくにないだろう。
各国の外交の船ばかりのはずだ。
そういうわけで、あたし達は陸路を使ってここまでやってきたのだ。
いや、長かったと言えば長かった。
かれこれ半年くらいはこっちにいたし。
「じゃあ、わたし達はここからセイルーンに向かいますね!!」
滞在した小さな村で、ちょっとした剣の噂を耳に入れたのがつい昨日。
残念ながらセイルーンとは反対方向で、アメリア達との別れは唐突にやってきた。
「近くにきた時は、ぜひ来てくださいね!」
元気に言うアメリアは、この半年であたしとの身長差もなくなってしまった。
「あんた達も、元気でね。ゼルも、無理すんじゃないわよ?」
「ああ。」


昨日の夜。
付き合いも長いし、何となく持ち寄ったお酒とかつまみとかで、お別れパーティーの真似事のような事をしたのだが、
ゼルも珍しく文句もいわず、ささやかな時間を楽しんだ。
アメリアをセイルーンに送っていたら、彼はまた旅に出る。
アメリアは、どことなく寂しそうだったが、それはもう彼等の間で話がついているらしい。
酔った勢いというヤツで突っ込んでみようかとも思ったが、不機嫌になったゼルに話を振られそうだったのでやめた。
アメリアは、しばらくは公務に専念しなければならないだろう。

そして、ゼルはまた身体を元に戻す方法を探す旅を再開する。
あたし達もまた旅の空の下。
だが、今までこれだけ縁があったのだから、今後もどこかで道が交わる事はあるだろう。


みんな、同じように思っていた。
だから、別れといってもそれほどしんみりとしたものではなかった。
ただ、ゼルとアメリアには幸せになって欲しい。
もう、このメンバーで旅をすることはないだろうけど、あたしは行ける所まではガウリイと歩いていく。
少なくとも、ゼルとアメリアの道もちゃんと寄り添っているんじゃないかと思えるくらい、2人もいい雰囲気だった。
「今さら躊躇なんてできないんでしょ?」
と言ったら、
「俺は諦めが悪いからな。欲しいものは手に入れる。」
と、わかりやすいとは言えないが、ゼルもはっきり答えた。
ガウリイとアメリアは何のことだかわかってなかったけど。
だいたい、あの2人はゼルさえ決心すれば、あとはアメリアの気合と根性とパワーで何とかしそうなものである。
「じゃあね!また縁があったらね!!」
「リナさん達も、無理しないで下さい!何かあったら、また声をかけてください!!」
街道の分かれ道で、あたし達は軽く握手をして別れた。
振り返らない。
道は、道は未来にしか続いてないから。


                        -第16話へー




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管理人よりのあとがき:
        薫:リナの心情がいいのです。
          リナらしい、というかvリナのポリシーですね。ふりかえらずに前に進む。
          というのはvv
          次回はアメリアサイドですv