管理人より:
続きです。
今回のオマケはスミレちゃん側近(?)のフェアリーの独白ですv




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        アメリアの恋心    第8話



混沌宮は、かつて訪れた時のまま、金色に光り輝く外観を保っていた。
次元回廊に繋がっているコンソールを叩くレゾが目にはいったが、そんな事はどうでもよかった。
永遠に子供の姿をしたままの本来の主が、泣き顔のまま俺に飛びついてきた。
「ゼルちゃん!!」
「スミレ!!」
小さな身体を受け止めると、俺はしゃくりあげるスミレを宥めすかしながら、彼女の側近であるフェアリーに説明を求めた。
エルは、離れた場所でレイスをこずき始めていて、とても話のできる状況ではない。
アメリア達が、空間の歪みに飲み込まれた。
俺が、一瞬でも力を発した事が原因だった。
おそらく、あの時アメリアの封印も解けたに違いない。
少し考えてみれば、当然の事だった。次元の穴を塞いでいたとはいえ、すぐに戻らなかった事が悔やまれる。
だが、それならばアメリアは自力でこの世界に留まれる。
それができない状況というのは・・・。
魂が傷つくような何かがあったとしか、考えられない。
「おそらく、幻影宮にいらっしゃいます。
  あの時、一瞬ですがまちがいなくユエリア様とユーシア様が降臨なされていらっしゃいました。
  だとすれば、その先は幻影宮かと・・・」
「ユエリアとユーシアが?」
「今、幻影宮の次元回廊の扉へ、通路を接続しております。」
石の精であるフェアリーは、その硬い声をさらに硬い口調で、絞り出すように語った。
「ごめんなさいっ・・・ごめんなさい、ゼルちゃん。
   一緒に・・・わたしも一緒に行こうと思ったんだけど間に合わなかったの。だから・・・」
「いや・・・あの時アメリアの封印も完全に解けていた筈だ。
   どうにもならなかったという事は、よほどの干渉力のあるヤツがいたんだろう。
   お前も、エルと一緒にあそこであいつらを守ろうとしていたんだろ?」
アメリアの封印は解けた。
もし、その前に何かが起こっていたとしたら・・・
もともと可能性は皆無ではなかった。
スミレやエルがどうにもできなかった事など、回避するすべなどないのだ。
俺が空けた次元の穴は、相当に大きかった。
閉じる為には、俺はエルの力を使うしかなかったが、
その為にエルの力の一部を魔方陣に封じてしまった。
何があったかは知らないが、
そのせいで混乱を極めていただろうあちらの注意がそれたのだろという事は、想像に難しくない。
「何があった?」
「レティウスだと思うの。でも、レティウスはいなかったの。レティウスの力を使っている何かが急に襲ってきて・・・
   ゼロスちゃんが結界になったみたいなんだけど、わたしが行った時にはゼラスちゃんが結界作って戦ってて、
   ダルフィンちゃんもいて、力使えないうちにいなくなっちゃったの。」
・・・・・・。
わからん。
「つまり・・・突如レティウスの力を使う何かが現れて、襲ってきた。
  護衛についていたゼロスは、ダークスターの時のダメージが残っていたのか、
  自分の身体であいつらを包んで何とか守るのが精一杯だった。
  獣王や海王が駆けつけて、敵を何とかしようとしたが、
  下手に力を使うと結界になっているゼロス自体が滅びかねない。
  仕方なく外から結界を何重にか張りなおし、戦っていたが、芳しくなかった。
  スミレとエルが向かったときには、辺りは混乱していて、下手に手を出す事もできなかった。
  そんな時に、俺が歪みを消す為にエルの力を大量に召還したから注意がそれて、気がついたときにはもう、
  あいつらはゼロスごとユエリア達に幻影宮に転送された、とこういう事でいいのか?」
「左様でございます。」
泣きじゃくるスミレの代わりに、フェアリーが答えた。
「なぜ、レティウスが動き出したのかはわかりません。調査はさせておりますが、手が足りていない状況です。
   そもそも、今はこの件でユニット様やエル様が直々に動かれるわけには参りません。
   ご心痛はお察しいたしますが、なにとぞ、御寛恕のほどを・・・」
フェアリーの言葉に、俺は溜息をついた。
俺は、別に怒っても焦ってもいない。
確かに心配だ。
心配でたまらない。
だが、不安はないのだ。
レティウスの真意は明らかだ。
それが、どこかの勢力と結びついて暴挙に出たのであろうが、それは調べればわかる事である。
アメリアに何かあったのは確かだ。
苦しい思いをしただろう。
それに対しては激しい怒りが渦を巻くが、それは彼らの責任ではない。
むしろ俺の責任だ。
何より自分に腹が立つ。
ただ、アメリアが無事である事はわかる。
アメリアに何かあれば、俺は必ずわかるのだ。
「エル!頼みがある、聞いてくれ。」
消滅寸前までズタボロになったレイスにスコップを刺したまま、
エルはレイスを引きずってきた。ルナは、一応お仕置きを免れたらしい。
「なに?」
「レティウスとぶつかるのは、まだまだ先だ。だが、暴挙に出た奴等を放っておくわけにはいかないだろう。
  それは、俺が叩く。まだ、あんたやスミレが表立って動くわけにはいかないからな。
  その間、俺があんたの力を使う事を許可してくれ。」
エルは、少し考えてから頷いた。
「確かに、ゼルちゃんの力使うわけにはいかないものね。
  わかったわ。じゃあ、今回の事はゼルちゃんに任せるから、上手くやって頂戴。
  そもそもあんたがアメリアに手を出すの辛抱してればすんだんだからね。」
「あ・・・ああ。」
あの時は、まだ記憶も何もなかったのだが・・・という言葉は言わないでおいた。
触らぬ神に祟りなしというか、エルに余計な事を言うのは、リナに余計な事を言うのと同じくらい危険である。
「ウチの部下達は好きに使っていいわよ。ついでに力もご自由に。それっくらいで滅びるような根性なしはいらないからね。
   次元回廊、時空回廊も好きに使って頂戴。いちいち許可は要らないわ。」
俺が口答えをしなかった為か、エルはご機嫌は麗しく饒舌に語る。
まあ、力を使ったらあっという間に底が尽き、消滅街道まっしぐらなのでその辺の事はともかく、
無許可で次元回廊と時空回廊を使えるのはありがたかった。
「あと、手を出してきた奴の身元の割り出しは、無能な部下Sとルナが責任もって引き受けるそうだから、安心して頂戴。
   そのかわり、くれぐれもリナスとカウリスが覚醒しないようにしてよ。
   記憶の操作はかまわないけど、しばらくはあくまでも人間でいてもらいたいのよ。」
 「承知した。あと、戻り次第、関係者には俺から事の顛末は説明するが、それでいいか?」
「そうしてちょうだい。わたしはあんたに任せたんだし、とりあえず傍観させてもらうわ。」
エルとの話しがすむと、俺はしがみついたままのスミレを抱き上げた。
俺達は、あくまでも精神の存在であり、厳密に言うと肉体は持たない。
だが、肉体を持った存在として具現する事も可能で、よほどの事がない限りそれを解かない。
こちらの世界のように、アストラスサイドに本体を置くというのではなく、どちらに本体を置く事も可能なのだ。
そのように創られている。
スミレも、そんな俺たちに合わせ、いつもこの姿だ。
スミレはどのような姿にもなれるのだが、大凡この子供の姿をしている。
菫色の瞳が、俺の姿を映していた。
「幻影宮に帰ろう。アメリアも、会いたがってるぞ。」
スミレの瞳から、また大粒の涙が溢れる。
「ゼルちゃん、怒ってない?」
「今までよく頑張ったな。後は任せろ。」
しがみついてくるスミレの頭を、子供をあやすように撫でた。
「アメリアは大丈夫だ。心配するな。ユレイアとユーシアの事も信頼してやってくれ。」
しばらくすると次元回廊の接続が終わり、幻影宮と通信が繋がった。
モニターには何も移っていない。
おそらく、気がついていないのだろう。
エルに了承を得て、アストラルサイドから呼びかけると、ユレイアが答えた。

―父様!
―そっちはどうだ?
―母様が・・・母さまが大変なんだ。ユーシアが回復してるけど、魂が傷ついちゃってて、僕達じゃどうにもできないんだ!
―わかった。今すぐにそっちに行く。次元回廊の扉を開け。後、一緒にいた3人だが、そっちの歪みは俺が何とかする。
  回復してプロテクトをかけておけ。
―うん。わかった!早くしてよ父様!!


身体は元に戻っても、人間として過ごして20年は決して短い時間ではない。
俺は、久々に聞く息子の声に頷き、スミレを抱きかかえながら、次元回廊の扉を開いた。
レゾを一瞥すると、苦笑している。
滅びてもなお、その目は開かれぬままなのだろうか?
会釈に片手を上げる事で、俺は答えた。
いつか、話をする機会もあるだろう。
その時は、今でない。








ゼルガディスとユニット様のやり取りを見て、今までの疑問が形になる。
「エル様。一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
次元回廊の扉は閉まり、今はもう、もとの静かな空間に戻っている。
わたしの言葉に、エル様は首から上だけ振り返った。
「わかってるわ。ユニットとゼルちゃんの関係でしょ?」
「はい。」
まるで兄と妹のような。
父と娘のような。
そんな感じなのである。
ユニット様は、エル様と同じく唯一絶対の存在であるはずなのに。
「昔の話よ。」
エル様の言葉に、わたしだけでなくフェアリー様やレイス、レゾも耳を傾けた。

遠い昔。
遥かなる時の彼方。
まだ、ユニットが唯一の存在だったとき。
ユニットは、いつものように遊びに来ていたエルの世界で、仲のいい人間の家族を見た。
無口でも厳しくても、優しくて労わり深い父親。
明るくて、元気で優しい母親。
彼らの無償の愛をいっぱいに受ける子供達。
ユニットは、自分にもそういう存在が欲しかった。
だから、世界を作るよりも何よりも先に、力のほとんどをつぎ込んでゼルガディスとアメリアを創った。
自分を愛してくれる、唯一の存在を創った。
ゼルガディスとアメリアは、ユニットの部下であり腹心である以前に、ユニットにとっては自分を愛する両親のような存在だった。
それは、夢だ。
自分を愛する為に創った存在なんて。
おまけに、ゼルガディスとアメリアは、最初からお互い以外の伴侶を許されていない。
だが、長い長い時間をかけて、彼らは彼らなりに愛情を育んで、同時に世界を造っていった。
長い長い時間をかけて、本当の親子のような存在になっていった。
やがて、ゼルガディスとアメリアの間に子供が誕生したが、彼らの関係は変わらなかった。
ユニットは嬉しかった。
だから、どんな姿にもなれるのに、永遠にあの子供の姿のまま、2人の子供でいたいと思った。
他の誰がどうでも、ゼルガディスとアメリアとその子供達だけは、ユニットにとって家族であり、それ以外でもない。
腹心として世界を統括する部下であっても、彼らだけはユニットを叱る事ができるし、言いたい事が言える。
ユニットにとっては、そういう存在でなければならない。
そして、彼らはそういう存在だった。
ユニットも、エルと同じように世界で遊んだりして、
ゼルガディスの逆鱗に触れる事があるが、それは子供が親にかまって欲しくてする行為と同じ事。
だから、ユニットは、ゼルガディスとアメリアに嫌われる事を唯一恐れるのだ。


「わたしには、わからないけどね。
  叱られたり怒られたりしたら腹が立つし、そんなことされた事ないし、されたいとも思わないわ。
  でも、わたしとユニットはこれでも親友だしね。
  ユニットがあの2人に許している事は、わたしも許してもいいと思ってるわ。」

それは、遥かな過去から続く、一つの家族の物語。

「それよりも、あんたたち!さくさく手下達の力回復して、馬鹿者達の素性洗い出しなさいね!!
   ゼルちゃん達が何時戻ってくるかは知らないけど、時空回廊開くだろうから、
   すぐよ。キリキリ仕事する!!レゾ、あんたもしばらくはそっちに回ってね!」

エルの声が高らかに、響いた。



                       -第9話へー




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おまけv


それは、エル様ですら知らない事実。
エル様はどうして姫様が彼らを作り出したのかは、ご存知はない。
それは…はるかな、本当にはるかな昔のこと。
まだ私がこうして、具現化するより前のできごと。
かつて、姫様は…自らが作り出した世界において。
だけど、誰も自分に気づいてもらえることがなく。
それをすごく孤独に感じ、いつも私にと話しかけていた。
いつのころからか、私もそんな姫様の力をうけ。
意思をもち、話すことも可能となったけど。
だけども、それでもまだ、姫様の心は晴れなくて…
そんなとき。
姫様は自ら、誰にも気づいてもらえないのならば、姿を見せて降りてみればいい。
そう思い立ち・・・・とある世界に降りたのがほんの始まり。
そこで親切な夫婦にと引き取られ。
姫様にとって、『家族の暖かさ』というものを始めて体験され・・・・
だけど、姫様はやはり、すべてなる母でもあるがゆえに。
姫様にとってはどうでもない些細なことが、それらが人の目には脅威とうつり・・・
姫様の力を求めて人は、姫様を手にいれようとし・・・
姫様を助けようとして、その夫婦と、そしてその星の人々は。
心無い人々にと星ごと消滅させられた・・・
あのときの姫様の悲鳴は今でも私の心にと残っている。
自分が惑星にと下りたから・・・家族なんてものを求めたから・・・
その後悔と自責の念をもったまま。
その場所すべての時間を元に戻し。
何事もなかったようにとした姫様。
だけど・・・・その心の寂しさは晴れるわけではなく。
だから。
だから、私はあのとき。
姫様のそばで、いつも姫様にと視える形で存在しよう。
そう心に決めたのは・・・
まだ、エル様たちと姫様が知り合う前の遥かなる過去…


エル様の世界で見たあの夫婦は・・・
かつての姫様の記憶を揺さ振り・・・・
その記憶の寂しさから・・・・自分で間違っている、そうわかっているのに。
姫様は彼らを創り出した。
私も姫様が何を望んでいるかわかっているからこそ。
そしてまた、姫様には誰よりも笑っていてほしいから・・・
だから・・・・・・




誰であろうと、姫様の心を乱すのもは・・・・許さない。






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管理人よりのあとがき:
薫:はい。フェアリーの独白をおまけにもってきたりして(まてまてまて!
  エル様も知らない事実があってもいいとおもうんですよねぇ。何しろ私の中でもそう設定してるし。
  それぞれのすべてなる母なる彼女たちは。心に様々な思いを秘めている、そう思うんですよね。
  そして、一番、スミレちゃんに近いところにいるのが、フェアリーなので。
  彼女もまた、スミレちゃんの幸せのみを考えている。というところがありますからね。
  長く、それこそ気の遠くなるほどの彼女の孤独をみているがゆえに・・
  ちょぴっと、スミレチャン側の説明をば。あとがきにもってきたりして・・・・(汗)
  さって、編集、がんばろう・・・・