アメリアの恋心 第7話
それなりに美味しい食事を出してくれる宿だったので、
連泊するのもかまわないと意見が一致したので、あたし達はとっていた部屋をそのまま使うことになった。
あたしが、昼間ちょっぴり凍らしてしまった事にも、宿のおばちゃんはちっとも悪い顔をせず、
明日から仕入れする食材を大目にしてくれる事を約束してくれた。
どこの世界にも、いい人はいるもんである。
夕方くらいから曇りだしていた空は、今はもう厚い雲に覆われている。
別にどこかに出かけるわけではないが、気が滅入るのは確かだ。
この街に来るまでに、結構順当に盗賊さんたちが現れてくれたおかげで、懐も充分暖かい。
思い出されるのは、ただただホワイトオリハルコン・・・。
このショックからは、よほどの事がない限り立ち直れないだろう。
しくしくしく。
まあ、過ぎた事をくよくよしてもしかたないけどさ。
こっちの世界に来てから、あんまりいいことがない気がする。
せいぜい、ゼルからホワイトオリハルコンを破格で購入できた事と、
フィリアのお金で、ほんの数日だけただ食いできた程度である。
なんか、ちょっぴしせつない。
「リナさーん。あれ、まだお風呂入ってなかったんですか?」
一応ノックはしたが、返事も待たずに扉を開けたのはアメリアだった。
どうせ、ゼルがいないもんだから退屈なのだろう。
一人部屋とってる時は、いつもゼルにベッタリだし。
まあ、ちょっとすると、ゼルが眠り込んだアメリアを部屋に運んでたけど。
アメリアは、いつの間にかあたしのベッドに座り込んでいる。
「ちょっとアメリア!あんたここで寝ないでよ。」
「寝ませんよー。」
信用できん。
これは信用できないぞ。
「どうしたの?アメリアちゃんってば、ゼルちゃんがいなくって寂しいんでしょ?」
アメリアの顔が真っ赤になる。
図星か・・・。
勝手にやってろって感じなんですけど。
別にいいけど。
「リナさんって、ガウリイさんの事が好きなんですよね?」
アメリアがニパッと笑ってあたしを見る。
「んなっ!何であたしがガウリイなんかを!!」
「違うんですか?」
「違うも何も・・・んなわけないでしょ。」
こひつ、いきなり何て事を。
頬が思わず熱くなる。
違う・・・とは言えないが。
違わないが、誰しもアメリアのように好きになったら一直線、ってな事はできないもんである。
「ガウリイは保護者よ、保護者。ただの仲間。」
「そうなんですか。」
何か、こんな会話前にもした事がある。
そのときはアメリアが、ゼルガディスさんといると胸がドキドキするのは病気でしょうか、と言ってきた時だった。
「あんた、馬鹿?」と言ってやったけど。あん時のゼルは気の毒だったなぁ。
「あんたこそ、何でまたいきなりそんな事聞くのよ。」
「いえ・・・ちょっと確認したかっただけです。」
ふむ。
まあ、いいけど。
そういえば、
「そういえばアメリア、あんた今回、何でまた都合よく旅装束なんて持ってきてたの?もともと公務であの港に来てたんでしょ?」
聞くほどの事でもなかったが、前々から気になっていたのだ。
フィルさんも一緒にいたし、まさかあの旅装束であそこまで行ったとは思えないし。
他の国の使者とかち合う可能性を考えれば、ドレスとまではいかなくても、それなりの格好をしていたはずである。
「ああ、それはですね、あの後ゼルガディスさんについて行く事になっていたんです。
・・・・・。
はい?
「ゼルにって・・・ゼルの旅に?」
「はい。」
アメリアが元気良く答える。
「だから、ゼルガディスさんもあの港にいたんですよ?」
いたんですよって、そんな事聞いてないし。
いやでも、だったらあんなやったら人の多い時に、わざわざあんな所にいたゼルにも納得いくけど。
でもそんなの、外の世界に行く船に、あわよくば潜り込もうとしてたのかと思ったし。
なるほどね。
「はっはーん。だからあんた、港であたしとガウリイ見て、あーんなに驚いてたんだ。」
「いえ・・・ま、まあ。」
やたらがっかりしてたり、わたしを巻き込むなとか言ってたしな。
そーゆー事だったのか。
「にしても、よくゼルが承知したわね。フィルさんはともかく、セイルーンのお偉方も。
一応、嫁入り前のあんたが、男と2人旅なんて。」
あのフィルさんだったら、そんなに反対しないだろうけど。
これでも、アメリア王女だしなあ。
「それはもう!すっごく大変でした!!」
アメリアが、苦労の日々とやらを語りだす。
ヘルマスターの件がかたずいた後、アメリアはセイルーンに帰った。
送っていったゼルは、そのまま何日かは滞在していたらしい。
アメリアとしては、その間にゼルについて行くべく手筈を整えるはずだったが、
あっさりとゼルに断られ、仕方なくあきらめたらしい。
が、そこで挫けるアメリアではない。
ゼルに、月に1度は会いに来てもらえるよう約束を取りつけ、長期戦を覚悟したのだという。
ところがである、年頃になっても正義かぶれで、
ましてや旅の仲間っだという男について行こうとする王女を見て、国の重鎮達は焦った。
ここは一つ、そんな気も起きないよう、見合いでもさせて、あわよくば結婚してもらおうと考えた。
アメリアのもとに連日届けられる見合い資料。
アメリアを無視して組まれる、お見合いの日程。
立場上、外交上、無下にするわけにもいかず、一応それなりに見合いをして、丁重に断ったらしいが、
あまりの数の多さに(それはもう公務に費やす時間がほとんどないほどだったらしい)、ついにアメリアは切れた。
「わたしがお慕いしているのはゼルガディスさんです!
ゼルガディスさん以外の方と結婚するくらいなら、一生どなたとも結婚しません。王位継承権も放棄します。
それも許してくれないのなら、ゼルガディスさんと駆け落ちします!!」
と宣言した。
大臣達は泣く泣く見合いを取り下げ、今度は躍起になってゼルガディスの素性を調べ出した。
指名手配をされていた事はあるものの、それは撤回されており、調べていくうちにとんでもない事がわかった。
彼が現代の五賢者である赤法師レゾの孫で、
降魔戦争時代の大賢者レイ=マグナスの子孫だったという事だ。
どちらもゼフィーリアの出身で、
たまたま、外の世界に向けて出発する船団を組む為の会議に出席する為にセイルーンを訪れていた、
ゼフィーリアの「永遠なる女王」の王弟殿下が、その話を聞いて、ゼルガディスの後見人となる事を約束してくれた。
もともと、アメリアとも面識があり、見合い相手の候補だったらしい。
そうとなれば、ゼルガディスはセイルーンから見れば、魔王の欠片を倒し、
サイラーグでザナッファーを滅ぼし、セイルーンのお家騒動を解決に導き、
魔竜王ガーブ、冥王フィブリゾを倒した英雄の一人ということになり、残る問題は身体の事だけ。
フィルさんもゼルのひととなりはよく知っているし、アメリアの結婚相手として申し分ないと保障した。
そんなこんなで、そのゼルガディスの身体を元に戻す為
(かつて、悪逆非道の魔導師をレゾと共に倒した際、運悪くキメラの身体にされた、という説が気がつけば肯定されていたらしい)、
王女がそれほどに望んでいるのならと、アメリアの希望は叶うにいたった。
この辺の事は、当然ゼルガディスは知らない。
まあ、自分の知らない所で話が進んでるっていうのは、ゼルガディスとしても面白くないだろう。
そういうわけでこの件には戒厳令がしかれた。
約束どおり、一ヵ月後にアメリアに会いに来たゼルガディスの目には、王宮内の空気が異常に感じられたらしいが、
それはそれ。
後は、ゼルガディスに一緒に行くことを許してもらうだけということで、
アメリアは、フィルさんも了解している事を含めておねだりを繰り広げる。
ゼルはなかなか折れなかったが、フィルさんと相談した結果、何とか了承し、一ヵ月後あの港で落ち合う事になったらしい。
さすが、アメリア。
やるとなったら、トコトンやる。
つまり、フィブリゾの一件の後には、アメリアとゼルガディスはいわば恋人の関係だったわけだ。
うーむ。
何ていうか・・・。
すごいわ、アメリア。
「へえ。けっこういろいろあったんだ。」
「そうなんですよ!」
あれだけ話した後でも、ちっとも疲れた様子は見せず、アメリアは甘いお茶をすすっている。
「にしても、あんたゼルのどこがそんなにいいの?」
ぶぴっ。
あ、きちゃない。
アメリアが口からお茶を吹き出す。
「何言うんですか、リナさん!?」
「いや、一度聞いてみたかったのよね。」
そうなのだ。
確かにゼルはいい男だと思うが・・・
今日はホワイトオリハルコンくれたし。
頭はいいけど。
でも、無愛想だし根暗だし甲斐性ないし。
けっこう難しい男だと思うのだが。
「そ・・・そりゃ、ちょっと無口で愛想ないですけど。でも、とっても優しいじゃないですか!」
そりは・・・。
あんたにだけ優しいってゆー説が濃厚なんですけど。
「それに、ゼルガディスさんは、ちゃんとわたしの事見てくれます。
セイルーンの王女じゃなくて、ただのわたしを見てくれるし・・・その上で、わたしを一人前に扱ってくれるんです。
それに、頭だっていいし、強いし、かっこいいし。素敵な人だなって思ったんです。」
まあ、確かに普通にアメリアに会えば、セイルーンのお姫様が一番最初についてしまうし。
ゼルはそういうの関係無しに、等身大のアメリアをホントに大事にしてたから。
そういうのって、口に出さなくても、ちゃんと相手に伝わるんだな。
「ゼルガディスさんって、普段はわたしの事子供扱いするけど、戦いのときとか・・・
真面目に話してるときとかは、ちゃんと大人として扱ってくれるんです。すごく、嬉しかったんです。」
大人っていうのは。
だから、抱いたんだろうし。
でも、あたし達の前ではそんな素振り見せなかった。
ゼルは、ガウリイみたいにあたしの事も子供扱いしないし。
戦いの時とかは、能力的にも必然的にあたしはガウリイと組むから、あんまりわからなかったけど。
安心して背中をあずけられる相手じゃないと、お互い認められないだろう。
アメリアにはあたしの知らないゼルが見えていて、
ゼルにはあたしの知らないアメリアが見えてたって事か。
「焦ってたんです。引き止めなきゃゼルがディスさんは離れていってしまうし。どうすればいいのかわかりませんでした。
でも、ゼルガディスさんしかいらいないって思ったんです。
きっと、もうゼルガディスさんしか好きになれないし、
ゼルガディスさんがいなくなったら、ちゃんと立って歩けなくなってしまうと思いました。だから、必死だったんです。」
「・・・すごいじゃない。」
思わず、口をついた。
たった一人のコに、こんなに愛されているゼルはすごい。
全身でゼルを愛してるアメリアはすごい。
前にゼルは言ってた。
アメリアのゼルに対する気持ちは、一種の風邪みたいなもんだって。
いくら何でも腹が立って、あたしはちょっとだけゼルを黒焦げにしたりしたもんだったけど、
言われてみればそうかな、とも思った。
確か、コピーレゾプチ倒した後だったっけ。
あん時は、ホントに非常時に会って、まともに話をする事もほとんどなくてってな状況だったし。
そのわりにアメリアは、よくゼルに懐いていたけど、
それはゼルがアメリアが今まで知らなかった世界の人間だったから、というゼルの言葉の方が信用できた。
確かに最初は風邪みたいなもんだったかもしれない。
でも、始まりは誰しも唐突に訪れるものだし、きっとどこかで2人の気持ちは変わったのだ。
あたしはどうなんだろう?
きっとアメリアは、何の躊躇いもなくゼルのことが好きだって言う。
もしも、ゼルにその気がなくても、アメリアははっきり言う。
あたしは?
怖くて聞けない。
ただの保護者だって言われるのが怖い。
「そんな事ないですよ。嫌われてはいないと思ってましたけど、
いつもわたしが一方的に話し掛けたりくっついていただけでしたし、邪魔とか煩いとか普通に言われましたし。」
「でも、真剣に話したい時はちゃんと聞いてくれたんでしょ?」
「わたしはいつでも真剣です!真面目な話だったらって事です。」
そりゃああんた。
四六時中、
ぜるがでぃすさーん、花がきれいですね♡、とか
ぜるがでぃすさーん、天気がいいですね♡、とか
ゼルガディスさんは正義が何たるか・・・云々かんぬん(以下省略)とか言って
まとわりつかれれば、普通はウザがられるぞ。
フィルさんとゼルが何話してたのか、興味あるけど・・・うーん。
いずれ、直接聞けばいいか。
「それでですねぇ・・・」
アメリアが、口をあたしの耳に近づける。
ぼんっ!!
あたしの顔は、一瞬で赤くなった。
音さえ聞こえたような気がする。
フィ、フィ、フィ、フィルさん・・・娘に何てこと教えるんだよ。
ウチの姉ちゃんだって・・・いや、言うかもしんないけど。
親が親なら、娘も娘。
アメリアが何を言ったのか。
あえて伏せておく事にする。
その後も他愛のない話をしているうちに夜も更け、雨音も強くなってきた時だった。
あたしもアメリアも、お茶の入っていたカップをテーブルに置く。
同時に扉がノックされ、ガウリイが顔を出した。
アメリアはパジャマ姿だが、あたしとガウリイはいつもの格好だ。
「リナ!」
「わかってる。」
シトシトと壁を打つ雨音は変わらない。
だが・・・。
試しに召還呪文を発動させてみるが、呪文を唱えるまでもなく、生まれた力は空に溶ける。
結界?
いや、空間ごと、あたし達は何かに捕らわれている。
「ガウリイ、何か他の気配する?」
「俺達以外は誰もいない・・・いや、ゼロスがいる。」
「ゼロス(さん)?」
あたしとアメリアの声が重なる。
確かに・・・ゼロスくらいの魔族だったら、こんなご丁寧な結界を張る事もできるだろうが。
でも、なぜ?
試しにガウリイの剣にエルメキアランスを打ちかけ、周囲の壁を切らせると、
澄んだ音がするだけで何も変わらない。
ラグナブレードは・・・
しかし、
ここにアメリアがいる以上、あいつは少なくとも手を出してこないはず。
その証拠に、息を殺してみてみても、特に殺気などは感じない。
むしろ、あたし達を守ろうとしている?
「うくっ・・・。」
「どうしたの、アメリア!?アメリア!!」
お腹を抱えてうずくまったアメリアの顔が、真っ青になっている。
「どうしたの、アメリア!?大丈夫!?」
どうして・・・。
「ダメ・・・駄目・・・です・・・。ヤメテ・・・」
「何?何がダメなの?ねえ、アメリア!!」
目を閉じたまま、アメリアは小さく呟いている。
あたしの声も、届いていない。
みるみるうちに、アメリアのパジャマが血に染まる。
滴り落ちた血が、小さな紅い池を作るのに時間はかからなかった。
「アメリア!ねえ、アメリア聞こえる!?返事して!!アメリア!!」
肌からは、どんどん血の気が失せていく。
倒れはしない。
だが、ガックリと座り込んだまま、ピクリとも動かない。
ただ、何かを呟いている。
「ゼロス!ゼロス、いるんなら出てきなさい!!」
声を張り上げてみるが、何の返答もない。
どうしよう・・・。
リカバリイなら・・・。
でも、こんなの。
どう見ても、原因はわからないが、流産しかかっている。
「はうぅっく!」
アメリアが大きな声を出した瞬間、そこにゼロスが現れた。
具現する力を使い果たしたのか、薄く霞んでいるが、間違いなくそれはゼロスだった。
「アメリア!ちょっと、ゼロス!!どうなってんのよ!?はやく、この結界解きなさいよ!」
「無理ですよ・・・これ、獣王様の結界ですから。」
「獣王って・・・何でそんなのが出てくるのよ!」
その時、アメリアの身体を、何か目に見えないものが包んだ。
何?
このプレッシャー・・・。
ガウリイも後退りこそしなかったが、息を呑んでいるのがわかる。
ゼロスが何か呟いたような気がしたが、何も聞こえなかった。
徐々にアメリアの身体が桜色に光り出し、その光がアメリアを抱きかかえるような人型に収束していく。
子供だった。
年の頃なら12、3歳。
光でぼやけてよく見えないが、圧倒的なプレッシャー。
―お兄様、急いで
どこからともなく、澄んだ高い声が聞こえた。
「時間がないから、話は後にさせてね。」
耳にではなく、頭の中に直接声が響くと、あたしはそのまま意識を手放した。
-第8話へー
######################################
管理人よりのあとがき:
薫:結構編集に時間がかかります・・・・。スミレちゃん過去・・・・ここにちらり、とのせるかなぁ?
そうしたら、直美さんが、ゼル作った経緯とかも。すんなりと納得されるかも(まてやこら
あの経験があるからなぁ(こらこらこら・・・・
とりあえずがんばって編集しますね・・・はい・・・・。(汗