スレイヤーズSTS 第3話
**** LINA ****
「…って…あの…突然、何をなさるんですかあなたは?」
「ふっ…何をですて…それはあなたの胸に聞けば解ることですわ♡この顔を見忘れましたか!」
そしてそう叫んだ彼女は自分の覆面を剥ぎ取った──
『…………………!!』
3人は息をのんだ…ガウリィは寝てるけど…
しばし──
『………………………』
沈黙──
「思い出しましたか?ゼロス!!」
「…いいえ…全然…」
「な!…あなたと言う人は!!それでも人間って…人間じゃ在りませんでしたねそういえば…この顔を見てもまだ気付かないんですか!!」
「…そういわれましても…」
「…まだ覆面してるし…」
『………………………』
またまた沈黙──
「…え?あ…そういえば…2枚重ねで被ってたんだっけ?いや~忘れてた忘れてた!」
…忘れないって普通…
「というわけでもう一回最初っから…ゼロス……ええ…実はですね…ってとこから初めてね♡」
「なんで!そこからなんです!」
「もう一回、チョップ食らわせられるから♪あ♪今度は奮発しておもいっきし殴ってみるのもいいわね♪」
「奮発って…」
「うんにゃ…こーゆう時は、問答無用の攻撃魔法をたたっこむってーのが通なのよ…ミリィ♪」
「おおーー!さすがリナちゃん♡太っ腹!!」
「まーね♪」
「あの…太っ腹って…それ以前に僕の意見は?」
『絶対無い♡』
「…しくしく…」
…あ…またいじけた…
…ほんと…いつものことだけど…こいつをからかうのは面白いわ♪
「じゃ…話もまとまったことなので最初っから…」
「まとまってません!…ってリナさんも呪文唱えないで!!しかも、神滅斬の呪文じゃないですか!それ~(泣)」
ちっ…
あたしは寛大にも呪文の詠唱をやめたのである。
「まあいいわ…で…ゼロス…話戻すけどこの騒動の原因は教えてくれないの?」
「あ…はい…そうでしたね…え~と……実はですね…」
再び、にこ目で説明をしようと…
『そこまでです!!』
…したゼロスの言葉を遮るかのように、上空から朗々と響く──
「また、今度は何ですかあああぁぁぁーーーー!!!」
あ…面白い♪ゼロスったら…言葉に何か…泣きが入ってる♪
上空──怪しく照らす満月を背に2つの影──
「悪があるとこ正義あり!」
………やっぱし出たか………鉄筋コンクリート娘……
「正義があるから世は平和!」
屋根の上で何ごとか、きゃいきゃいと叫んでいる怪しい…ゼロス以上に怪しいものは存在しないが…二人組み…え?2人?
その顔は影がかかって見えないが…一人の金色の長い髪が風に揺らめく………金色の長い髪…
もう一人は結構小柄な…以前のあたしぐらいか…14、5歳ぐらいの子…
「…世にある悪を滅するため……ため……ため………た~…め~…え~……えっと……
う~んっと…アインさん…次、何だったっけ?いきなり本番に入っちゃったからセリフ忘れちゃった…」
何?本番って?セリフって?
「え?え~っと…ですねぇ…」
そう言って金色の髪の女性は懐から一冊の本を取り出し、それをめくり始めた。
…ぺらぺらぺらぺら…(ページをめくる音)
「………心の…おー…っと…ああ…ここよ、ここ、マイちゃん」
「うう~んと、心の…闇を…こ…こらすたあめぇ…」
その本を読みながらぎこちなく朗読する…誰だあれ?
「…なあ…あれってアメリア…じゃないよなあ…」
とガウリィ…って、起きてたの?あんた?
さっきまで、グーグー寝てたやつが?
「おもいっきし違うでしょうが…」
2人とも声が違うし、1人は結構背が高いし…多分…二十歳前後…もう一人はアメリアと背や年は変わんないみたいだけど…
「…天に…天に代わってあたひの!…………さいき?…」
「裁き」
「…さ…さばきを受けなさい!」
「よくできましたあ」
ぽひっ!
彼女が本を投げ捨てる。
そして拍手。
そしてその本があたしたちの足下に落ちてくる………その本には……
──アメリア名言集──
…と書かれていた…
『………………』
三人無言。
「あ…これ…今、セイルーンで2番目に売れてる本だ♪」
とミリィ。
『売れてる?これが?』
「はい♡」
「ちなみに1番目は?」
「さっきリナさんが読んでた『デモン・スレイヤー』シリーズ♪」
びきっ
「うわあああああーーーー!どうした!リナ!!足元がいきなり凍り始めてるぞおおぉーーーーー!!!」
「…お願い…ほっといて…ガウリィ…」
「???」
上では更に話は続いていた。
「いきます!とおうっ!」
掛け声一発、屋根から1人飛び降りる…少女が…
その時、あたしは呆れながらこりこりと頭をかくと…屋根から飛び降りた彼女が空中の3分の1で1回転し、
後は着地へ──そこをすかさず。
「炎の矢」
「火炎球」
ぎゅおおーん!
じゅぐおぉおがびごしゃ!
どごがぎゃあぁん!
「ぷぴぎぃやあーー!」
あたしともう一人が放った攻撃魔法を食らい、その人物は悲鳴を上げ、 ぺちっ… 地面と同化──
「…お、おい。リナ。今のはちょっとひどくないか」
青ざめて言うガウリィ…ちょっとなのか…
「だあってぇ~こういうシュチエーションに1回だけでも茶々入れてみたかったんだもん…アメリアじゃあ絶対抗議がかえってきそうだったし…」
「アメリアじゃなくても抗議されるって…」
「さすがリナさんですね、容赦がありません」
「…なによ、そのさすがってーのは…」
あたしはぎろりとゼロスをみすえる。
「…あ…いや…えっと…あの………それは秘密です…」
いつもの人差し指スマイル…ただし今回のニコ目はぎこちないが…
「自分で言って悲しくない…そういう誤魔化しかたって…」
「ええ…まあ…」
「まあいいけど…それよりあたしは炎の矢しか使ってないわ…火炎球を使ったのは別人よ」
「炎の矢でも十分ひどいと思うが…」「びえええぇぇぇー。いたいーよおおー」
うわっ!
…も…もう復活してる…こういうやつって全員、体が丈夫なのか…
「…なら…よし…ここでもう一度、火の矢でとどめを…」
「…悪人かお前は…」
ガウリィが突っ込む。
どごっ…
「あう…」
「…あ…」
ぴーぴーぢめんで泣いてた少女の頭の上に金髪のねーちゃんが降り立つ。
「先にとどめを刺されましたね…」
『………………』
しばし無言。
ぐあばああっ
『ずげげっ!』
いきなし少女は起き上がった。
金髪ねーちゃんを頭の上に乗っけながら…
「…ああ~ん……お気に入りの洋服がすすだらけ~」
なかなか珍しい服…今のをくらってすすだらけ?
…普通はボロボロになるだろ…を眺めながら1人明後日の方をむく少女…確か…マイとかって呼ばれてたっけ?
すたっ
彼女の上から、何事もなかったかのように飛び降りるねーちゃん。
年の頃は二十歳前後か…あたしと似たような癖を持つ金色の長髪。なかなかの…いや…かなりの美人である…
胸は…結構あるな…くそっ……
炎の矢で、マイを吹き飛ばす振りして…彼女に当ててやろうか…
「…ふう~ん…そう…まだそれだけの余裕があるのね。だったら、もう数発くらいくらっても大丈夫よねマ・イ・ちゃん♪」
奥の方から一つの女の声がマイにかけられた。
「…どきしーん…」
何じゃ、その「どきしーん」ってーのは…
女…いや…建物の影から一人の美少女が現れいでいた。
薄い空色に真っ白なアンダーシャツ。
そしてシャツの上にボタンがごじゃごじゃとくっつく、ズボンと同色の服を羽織っている。
こちらもまた彼女と同じく珍しい服と言えよう。
そして……
「………あ…あははははは…メ、メグちゃんじゃない…偶然ねぇ、こんなとこであえるなんて……」
「言う事はそれだけ?…んじゃそういう事でもうイッチョ…ファイヤー…」
「…きゃー!!ちょっとまって、ちょっとまって。あたしが悪かったです。誤ります。ごめんなさい。
メグちゃんのケーキをつまみ食いしたのはあたしです。反省してます。ごめんなさい。
すみません!ゆるしてっ!エクスキューズミー!!お願い!ぷうりぃずう♡」
早口で冷や汗たらたら平謝りする彼女。
白旗もふってたりするし、最後には「アブラカタブラ」…とわけのわからんことをぶつぶつ唱えてたりするひ…
「………………」
「ね、ね、ね、ね♡」
両手を眼前で合わせ片目をつぶりながら言う彼女に、
「…だめ♡」
メグ一言。
「…え…」
マイの顔が蒼白になる。
「…つー訳でさらばじゃ…マイ…」
「…な…なに…たっくんの口真似をして…」
「火炎球」
「…るのおおおおおぉぉぉっっっーーーーー!!!!!」
ぶどおぉぉぉーん!
少女の笑顔で放った一撃は、彼女を中心に紅蓮の炎と化した。
「…食べ物の恨みは恐ろしいのね…」
うんうんと頷き明後日の方向で手を組む金髪のねーちゃんであった──
「メグミの場合、ケーキだけに関してだけど…」
さらにぼつりと──
「…あんた誰…何もんなの…平謝りする人物に容赦のないその攻撃魔法…」
「リナさんも似たようなことを、よくなさっていると思うのですが、僕は…」
「あたしは悪人にしかやらないからいいの!」
「…そうかあ…」
ガウリィが首を傾げる。
少女が作り上げた、人火事も収まりつつあるところで、かすれたような声であたしは彼女に問いかけていた。
「ああ~…いーのいーの。この人、体が丈夫だし。
このぐらいやんないと反省もせず、すぐにしょーこりもなく同じことをやらかすから。
まあ…それでも二日ほどで再び同じこと繰り返しちゃうんだけど…」
「つまり…ガウリィみたいな人って、所かしら?よかったわねぇ…ガウリィ。お仲間さんができて…」
「…おい…リナ…どういう意味だ…それは…」
「極上のお褒め言葉。クラゲバージョン」
「………………」
と話がまとまったところで、
「あなた、あたしと会ったことないどうも…前にあったような気がするんだけど…」
「ぎくぎくぎくっ!」
「ぎくってことは…あったことあるのね!あたしと」
「いえ!ありません!!」
きっぱりはっきり言い放つ彼女。
「ぎくぎくって言ってたし…知っていたってことじゃあ…」
「あ…今のは物語を面白くするためだけの、ただの擬音効果なので気にしないで下さい」
「いや…普通は気にするって…」
「えええぇーー!そうなんですか?!!あたしの友達は全然気にしないのに!!!」
「…あんた…もう少し…まともな友達選べよ…」「その、まともじゃない友達1号…」
そう言って…人火事があった場所を指差すメグミ…だっけ?
それにうなずく金髪ねーちゃん。
「…そして2号…」
次にマイにアインと呼ばれたねーちゃんを…
「…あ…あたしもですかああぁぁぁーーーーー!!!」
「当然」
「でもでも…」
2人だけで、話し始めちゃったし…
「…あ…あの~…リナさん…」
「ん?何?ミリィ?」
「…申し訳ないんですが…あたし…急用を思い出したのでここでお暇させてもらおうかと…」
「え?あ?うん…」
「というわけでお友達になった記念としてこれ…プレゼントです♪」
そういって、ミリィに手渡されたのは綺麗なブルーメタリックの──
「綺麗な腕輪ねぇ~」
「でしょう♪しかし…それにはもっとすごい秘密があって…実はここだけの話…………それ…魔力増幅装置何です…」
こっそりと耳打ちするミリィ。
ふ~ん…魔力増幅装置ねぇ~
「じゃあ…あたしはこれで♡また会いましょ。リナさん♪」
「うん…じゃあね…魔力増幅装置ねぇ…」
………………………………………………………………
…………………………………………………………
…………………………………………………
………………………………
……………!!!!!
「…魔力増幅装置って!!!…ミリィ………ああーーー!もうあんな遠くにいぃーーーーーっ!!!!」
「おおーあいつ足速いなあ~」
…ア…アサッシン♡だけのことはあるわねぇ…
消えていくミリィ…その姿をあたしたちは黙って見送るしかなかった。
「なあ…リナ…あいつ、あの3人から逃げるように消えた気がしないか?」
う~ん…確かに…いや…
それよりもこの魔力増幅装置って…どうやって使──
その時、急に視界が急変した──
岩肌だけが埋め尽くす、だだっ広い荒野に。
草木も何もない。
『………………………』
何が合図だったのだろう?
「なに?なに?なに?なに?」
最初に騒ぎ始めたのは、既に復活をなしていたマイだった。
「結界?」
「いいえ…これは違いますね…」
自分自身に説いたあたしのセリフにゼロスが反論する。
「多分、空間を転位させられたのでしょう…しかも、この僕に気付かさせずにです…」
「転位ねぇ…んじゃ…ここはどの辺何だ?」
これはガウリィ。
「僕たちがいた街からはそこそこ離れていますね…言い換えれば、結構暴れても…他の人には気付くことのない場所……」
周りを見渡していたゼロスがある1っ箇所に目が止まり、
「…というべきでしょうか…」
ニコ目から除かれる瞳。
全員の目が一つに集中する。
そこには一人の人間──
フードのついた上着にホットパンツ。
フードを目深に被っているため顔と表情は解らない。
人間ではあるが……が…このいやな感じはいったい?
「誰?」
「私の名はシノブ…あなたがリナ=インバースさんね…」
その人物の口から紡ぎだされた声は女性だった。
「…そう……だけど…」
あたしが、警戒しつつそう答える瞬間。
『!!』
彼女が動いた。
思わず全員が身構える。
彼女は深々とお辞儀をしてくる。
あたしたちに動揺が走る。
「迎えにあがりましたわ」
「迎え?」
「はい…」
彼女がそう答え、笑顔を投げてくる。
だが、その表情は何かがおかしい…あえて言うなら…ゼロスのような…
あれ?
何故かあたしは何かしらの概視感(デジャヴ)を感じる。
?
何だろう?気のせいだろうか…
「あるお方の命によりわたしが迎えにあがったしだいに…」
「あるお方?」「はい…あなた様にとても会いたがっておられます」
「なにいぃー!」
「えええぇー!」
彼女の言葉に、同時に声を上げるガウリィとゼロス。
「そのお方、気は正気ですか?!!」
「言っておきます。それだけは止めたほうがいいです。リナさんがいくとこと絶対トラブルが生じると思いますよ。僕は」
…おい…ゼロス…
「それでもあのお方の命令です。いやだといっても、無理についてきてもらいます…」
「正気なのかあんた!」
ガウリィが叫ぶ。
「正気ですわ♡あら?…もしかして怒ってます?」
「当たり前だ!」
ガウリィが怒ってる?
いつもとの穏やかな笑顔とは違って真剣になったその表情。
…あっ…やだ…そんなガウリィの顔を見てたら、心臓がドキドキしてきちゃったじゃない…
「…もしそんなことをするとしたら…」
…どきどきどきどき…更に鼓動が早くなっていくのが解る。
「…そんなことをしたら…」
……ガウリィ……
「…リナが暴れて、街中が火の海になっちまうじゃないかー!」
「は?」
こけけっ!!
「あっガウリィさんもそう思います…いいえ…もしかしたら街なんかが消滅するんではないかと思うんですが…」
「おお~なるほど。それは言えてる」
その2人の会話を横目にジト目でメグミが、
「リナさん…今までどういう人生おくってきたんですか?」
「聞かないで!お願い…」
「まさか…無傷でという条件まで入ってるんじゃないでしょうね…もしそうでしたら…それは不可能への挑戦ですよ!」
「は…はあ…」
ゼロスのその言葉に、困ったような困っていないような顔のしのぶに、
「うんうん…確かに…」
しみじみのガウリィ。
…あ…あんたら………
………ふ…ふっふっふっふっふ…
「僕は止めましたよ…その後は知りませんからね…」
「俺はまだ…我慢強いからいいが…」
「あの~」
「はい?どうかしましたか?確かメグミさんでしたか?」
「え~と…なんか…リナさん…呪文唱えてるんですけど…」
『へ?』
「…偉大なる汝の名に…」
「うどわあああぁぁぁーーーー!リナ!!それ竜破斬じゃないか!!やめてくれーーーー!!!」
「おやおや…」
「んで…そのお方ってーのは何処のお方なのよ…」
「それは申し上げられません」
「それじゃあ…話になんないわね…その人はあたしに合いたい。だから、迎えをよこした。そこまではいいわ。
でも、その人物は何処の人なのか誰なのかさえ教えられない…そんなんじゃ…温厚なあたしでも珍しく怒っちゃうわよ…」
「…温厚って…」
「…珍しくって…」
うるさい外野!
「さっき、怒りながら呪文唱えてませんでした?」
「それは、乙女のいたずら心♡」
「どこが?」
「あ♪それ解る~♪」
今ので解るんかい!マイ!!
「では、来ていただけないと…」
「そう……交渉決裂ってところかしらね…」
「…ですね…では…」
彼女から生まれるすさまじいほどの殺気。
「…では、さようなら~♡」
ぱたぱた…
『おい…』
この状況を気にせずにこにこ顔で、パタパタと手を振るマイに全員の突っ込みが入った。
「……………と…と…とにかく…来ていただけないのでは…」
「では?」
「無理にでもついてきていただきます!!!」
再び殺気が膨れる。
ところがどっこい──
「──竜破斬」
開口一番に口火を切ったのはあたしの呪文だった。
いきなりの大技である。
そして光の帯が彼女を捉えた瞬間──
空間がきしんだ悲鳴を上げると同時に
ヴオォーン!
爆発と大音響、そして衝撃波と熱風があたしたちを薙ぐ──
煙と粉塵が辺りを覆い尽くす。
「…うぷっ…」
「…す…すごい…」
「…ふ…ふえ~…」
煙があたしたちの視界を少しばかりさえぎる。
「…いきなりだったな…リナ…」
目を点にし、苦い表情でガウリィが剣を収め言ってくる。
「まあね…ちょっといやな予感がしたから…今回は…」
「まあ…確かに…」
きゅわあんっ!
「…がっ!」
彼の右肩を一つの光りが貫いていった。
戦いは終わった──
──いや、はずだった。
おもむろにあたしの方向へ、倒れ掛かるガウリィ。
「ガウリィ!」
「…くう…は…」
右肩の痛みをこらえ立ち上がろうとする彼。
そしてすぐに光りが飛んできたほうへとにらみつける。
左手ですぐに鞘から剣を抜き構える。
強烈な爆発により、舞い上がりつづけていた煙が、徐々にではあるが晴れていく。
──まさか──でも──
全員が目を見張る。 ゆっくり薄れ出す煙の中で佇む人影一つ。
竜破斬をくらって生きてた!
フードを被る彼女の姿は見えない。黒色の腰まで伸びる髪。
格好は格闘家見たいな人たちが着ているそんな格好。
黒く艶やかな長髪に見事なくらい整った顔立ち。
身長も女性にしては高いほうか………?
「…………うそ…」
「…………おや?」
メグミは驚き、ゼロスが不思議そうな表情をする。
「…………期待はずれね…」
…じょ…冗談ではない!
中級の魔族ならわかるが、こんな奴、程度に竜破斬が聞かないなんて!
これじゃあ…シャブラニグドゥの威厳なんてありゃしないじゃない!
魔王のこんじょーなしいぃぃーーーーーっ!!!
ほんとに、なんなのよあいつ─
─はっ!
「魔族っ!!」
突然、膨れ上がる、巨大な瘴気。
「いや…こいつはちょっと違うぞ…」
「ガウリィ?」
「ほら、リナ…なんて言ったっけ?あれ?魔族と人間がくっついたやつ?」
「へえ…よくわかりましたね…」
その言葉に意外な感じで感嘆を上げ……
「魔族と人間がって…それ…もしかして?人魔?」
「そうそう♪その秋刀魚!」
ずざざざざーーーーーーっ!
て…うつ伏せで地面を滑るシノブ……哀れ…
「ああ!!この人、たっくんみたい♡」
彼女の姿を見て喜ぶマイ。
誰?たっくんって?
「ガウリィ。秋刀魚はないでしょうが…秋刀魚は…」
「えーー!俺は今、人魔って言ったぞ!」
『言えてない!』
全員の言葉がハモった──
「はっはっはっはっは…さすがですねぇ♪ガウリィさん♪」
「って!ゼロス!!何がさすがよ!!それより、あんたあいつの正体気付いてたんでしょ?何で教えてくんないの!」
「そうは言われましてもリナさん──」
「言う、義理はないですし?って言うんじゃないでしょうねぇ…」
「いいえ──僕にも解らなかったんですよ」
え?解らなかったって…え?え?え?
「信じられます?この僕がですよ…」
「……………………おい…」
…確かに………信じられないことではある…彼は腐っても魔族…
…生ゴミは腐るからとはいえ…ゼロスは高位魔族…
飛んでくる赤い光球。
やば…
「みんなよけて!」
あたしの掛け声に、全員がその場を離れ─
─なに?!
『メグミ(メグちゃん)!!』
「え?」
全員じゃない。
メグミと呼ばれた娘だけが逃げ遅れた。
かああぁぁーーーっ!!
光が彼女を包む──
激しく煙が巻き上がる。
悲鳴もあげる暇はなかっただろう。
「まず…一人……どうします?まだ続けますか?リナ=インバースさん?このまま続けると更に人が死にますが?」
こいつ!
「誰が?死んだんですか?」
その声は唐突──煙の先からかけられた──
煙が晴れる。
姿を見せる、光に包まれたメグミ。
ふう~…結界か…驚かせる…
「勝手に殺さないでください…」
鋭いまなざしに、あふれ出る気。
この娘…かなり出来る。
「危ないところでした…もう少し遅かったら…メグミのこんがり焼きの完成でしたね♡」
舌を出して、こちらに笑顔を向けるメグミ。
怪我も…なし…か…
「では…継続?」
「そうなるわね…」
がきぃぃっ!
いつの間に接近していたのか、ガウリィが彼女に剣を振り下ろしていた。
だがその剣は全て見えない壁に遮られている。
その彼の真上からいきなし、出現する赤き光の火炎球。
「…くそっ…」
慌てて、その場から距離をおくガウリィ。
「火炎球っ!!!!!」
ぎゅあががががっ
マイの叫びと共に生まれ走る光球──6つ。
あれは?まさか?暴爆呪(ブラスト・ボム)?
でも、彼女は火炎球って──それが走る。
ぐおぉぉーーーん!
全て、クリーンヒット。
激しい振動が伝わってくる。
やはり──これは、暴爆呪の威力──でも…どういうこと?
「無駄なことを…」
煙の先からかけられてくる声。これでも駄目か。
メグミが走る。姿を隠しているシノブへと。
その彼女の右手にはブルーメタリック色に輝く剣…何処からあれを?
そして左手には何かのカードが──緑色に輝く。
「直風陣(レイ・フーリン)」
直、彼女の走る速さが増加した。
いや、翔封界のように飛んでいる?
しかも、翔封界より早い!
一瞬、見えるシノブの姿。そこにメグミの剣が──
ぎぃんっ!
ガウリィの時よりも甲高い音をたて、彼女の風の勢いに乗せた突きが止められる。
あの結界、かなり厄介…
「無駄よ」
そのシノブの言葉は、メグミではなく、ゼロスにかけられていた。
「ぐはあぁ…」
ゼロスがひざま突く。
「ゼロスっ!」
「…し…信じられませんね…これは…」
「何が…」
「精神世界から攻撃したんですが…逆に反撃食らっちゃいました♪」
…おい…ゼロスがか…
「よそ見していいのかしら?」
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげ、吹き飛ばされていくメグミ。
慌てて、構えなお…………?
………彼女の手がその場所を消しゴムで消したかのように、ふと消えていた…その腕だけが…
「リナ!右だ!」
「え?」
虚空から腕が現れる。
「なっ!しま…」
反応が遅かった、その腕にあたしはとらわれ…その手はとてつもなく冷たい…おもわず魔法を使おうかと考えたが、このままでは自分も巻き込む。
唱えかけた、呪文を取りやめて、自由な右手で慌てて剣を鞘からぬき、振る。
がきいいぃぃーん!!
「…つうぅ…」
その剣が何か見えない壁にはじかれ、右手に衝撃が走る。
ガウリィやメグミの攻撃を防いだ物と同じか…
「…こ…この…」
しびれている手を再び動かし、もう一度彼女の腕を切…
「…きゃんっ!」
瞬間、突然の電撃を浴びせられ──意識が一瞬途切れかかる。
力が抜ける。
そして足がその場で崩れへたりこんだ。
だがやつはあたしの腕をまだ放そうとしない。
「んにゃろお!」
あたしのところへ駆けるガウリィは叫び、斬妖剣でその腕に斬りかかり、
がちいぃーん!
あたしと同じように、彼の剣も見えない壁に跳ね返される…とまたあたしを電撃が襲う。
さっきのよりも強力──
「!」
悲鳴もでない。
攻撃が止むとあたしは腕をつかまれたまま上半身が倒れ──
──ず何かに髪を捕まれ、倒れることを拒絶された。
「…くっ…」
拒絶させたのは先ほどの腕だった。
…………………………………………待って……この展開って…確か?
目のすみで人魔・シノブの笑みを捕らえる。そしてまだ消えていない反対の手には1本の短剣。
その姿に、思わず背筋が凍る。
そうだ…この展開は…多少の違いがあるといっても…あの小説どおり…
「やめろー!!!」
あたしの近くでガウリィが叫ぶ。
だけど、彼とあたしの間には見えない壁に遮られガラス越しで見つめるだけのように…
ガウリィはその壁をこんしんの一撃で剣を振り下ろすが、うち破ることはできず、あたしに近づくことも出来ない。
ガウリィの剣が生半可な代物ではないのに──
あの斬妖剣の封印をといているのに──
彼の腕前が一流以上であるのに──
「もう一度聞く。リナ=インバース。私とともについてくる気はありますか?」
「…こ…答えは………NOよ…」
…ここは…違う…わね……そんなことを考えて苦笑する…
「…仕方ありません…残念ですが…………ぐああああぁぁぁぁ!!!」
突然、彼女は吹き飛ばされた──