スレイヤーズSTS 第2話
**** LINA ****
「火炎球っ!」
きゅごおぉぉーん!!!
あたしの口から紡ぎ出された呪文が発動し派手な爆発音と煙が上がり、
「ひ、ひいえぇーーー!」
ずざざざざ…
その威力に驚いたか、乾いた悲鳴を上げ、周りの連中は慌てて後ずさる。
その中の一人が叫ぶ。
「…な…なななな…なんだ、てめえは!突然何しやがる!!」
ふっ…
あたしは1つ含み笑い。
やはりどこの盗賊だろうとあたしが登場するたび、どこでもここでもあそこでも、セリフが決まっている。
あたしは、ふさっと赤に近い栗色の髪をかき上げると
「誰が言ったか騒いだか、天才美人魔道士と言われるこのあたし…」
「…いや…おれが思うには…恐れおののいた…という方が似合うと思うんだが…」
「ふんっ!」
めしっ! 問答無用の左アッパーが、あたしの横に立つ見るだけなら美形な兄ちゃんの顎を見事にとらえ、
彼は勢い宜しく吹き飛ぶ(ちなみに盗賊の方へ)
「いてー、いてー!リナ!なにすんだよいきなり!!」
「いやっかましい!せっかく人が格好よく登場している所を、妄想こみのつっこみで、ちゃちゃを入れるんじゃない!!」
「…妄想……って………リナっ!」
突然真剣な表情になりあたしを見つめるガウリィ。
「…な…なによ…」
「…妄想って…何だっけ?」
「炸弾陣!」
『どうわあああぁぁぁー!』
吹き飛ぶガウリィくん…ついでの盗賊ご一行様…であった──
「…う~ん…久しぶりのいい収入だわあ♡」
ほくほく顔であたし達は…ガウリィは多少、呆れ果てた目であたしを見てはいるが…帰路へと進む。
もうこれだけ言えば解っていただけるだろう。
そう、盗賊・い・じ・め♡
…ああ…なんて甘美な響きなんでしょう…魔法を問答無用でぶっ放せる上に、懐は暖かくなる。
しかも今回なんて、依頼込みによる盗賊いじめなもんだから、一石三鳥てーやつなのよ。
え?だったら盗賊がため込んだ宝を持っていくのはまずいんじゃないかって?
大丈夫大丈夫。盗賊を何とかしてくれっとは言われたけど…宝を取り戻してくれっとは依頼の中には入ってなかったしね♡
正論、正論。
「…すごく嬉しそうだな…リナ…俺まで吹き飛ばしておいて…」
「あったり前じゃない♡それにガウリィを吹き飛ばすのはいつものことだしねぇ♡
…まあ…竜破斬をぶちこめれなかっただけありがたいと思いなさい♡」
「…竜破斬をねぇ…なるほど…竜破斬なんぞ使えば盗賊たちのアジトもろともお宝は埋もれちまうからなあ…」
…ぎ…ぎくうううぅぅぅ…ちょっ…ちょっと…ガウリィ……何でこういう時だけ(←”だけ”を特に強調)は鋭いのよ…
思わず引きつるあたしの顔を見つつ、にやにや笑う彼。
むっ!
…な…何よガウリィ。
そのしてやったりっつー顔はっ!
ガウリィのくせに生意気よっ!
くらげっ!
脳味噌ヨーグルト男!
……etc…
えーっとそれから…えーっと……
うだあああぁぁぁぁぁ…こいつを罵れる言葉がいっぱいありすぎて…全部、言いきれないいいぃぃぃぃぃーーーっ!!
ガウリィ=ガブリエフ。
自称・天然おおぼけ剣士、及びあたしの自称保護者で、あたしは彼と出会ってから3年半位のつきあいである
…も…もちろん…パートナーとしてのつき合いだかんね!
…………………………………………………………………………………………と言いたいんだけど…
…えっと…その……あたしとしては…え~と……その……もごもごもごもご…
ああぁぁぁーーー!
…やっぱり今の無し!忘れなさい!!
忘れなきゃ…竜破斬、ぶっ放す!!
…と…とにかく…ガウリィのことに戻るけど…剣の腕は超一流。
金色の長髪に整った顔立ち。
一見、気の良さそうな兄ちゃんに見えるが、
これでもかあれでもかって言うぐらい解りやすい説明をしてあげてんのに、6割方は理解できず、
2割方は忘れ、残りの2割は聞いていないと言う、何も考えていないクラゲの親戚。
こんなんでも光の剣の戦士の末裔でもあり、半年前までは光の剣を持っていたりしちゃってたんだけど、
どこで捨てたか忘れたか…って、ホントはある人物に返しちゃったんだけどね…今は持っていない。
そう言う理由もあってか、ダークスターとの一戦後は、彼の光の剣に変わる魔力剣を探しに旅をしてたのである。
──が──世の中そう甘くはなかった。
やはり、なかなかいい剣は見つからないのが実状。
近くで剣の噂があれば足を運び、うまい飯屋で全メニューを2制覇し──
西で噂を聞けば、盗賊いじめに生をだし──
東にあれば、山が一つ消え果てる──
北にあると、温泉を掘り当てて商売し──
南に行くと、アンデッドに求婚を迫られる──
え?あんたらはいったい何をやってんのかって?
うっさいなあ…ほっといてよ…全部が全部、偽の情報だったし…そのたんびにやっかいな事件に巻き込まれるし…魔族は出てくるし…
あたしが何したって言うのよ!!
「…類は友を呼ぶ…」
…ぼそりっ…
ほほーう…ガウリィいい度胸してるじゃない…
「…ま…まあ…いいじゃないか…どちらにしても今はこの剣があるんだし…」
あたしの殺気に臆したか、冷や汗たらたらのガウリィは後ろに引き下がり、そのまま腰にくくりつけている一本の剣に目を落とした。
まあね…確かにそんなこんなの騒動の中でも何本かの魔力剣は見つけたわよ…何本かはね…
けどさあ…
レッサーデーモンあたりを難なく切り倒した!
すごいっ!!
……と思ったら、なんでかゴーストあたりが全然倒せない……普通は逆なんだけどね…
また時には…
魔力を持たない者でもその意識だけでで炎の矢、位の魔法を発動するという剣。
これもまた今まで探していた物の中でもなかなかなものともいえる
…が…炎の矢を3本ほど放つと、まるで疲れ果てたようにぐんにゃりとしおれ、それ以降は剣としての役割もたたない…
いいのかおい…こんなんで…なんてーのもあったし…
だが、その中でも──ついに一年前──
なんと言うことか、なかなかとんでもない代物をあたしたちは手に入れてしまったのだ。
それは伝説にもなっている剣。
その名を──斬妖剣(ブラスト・ソード)──
その切れ味と言うと超一級…………を…さらに上回る…超非常識。
なにせ、切っ先を下に向けて落としただけでも、石畳の上に深々と突き刺さり、石を切り裂きながら横倒しになる。
鞘に納めて一振りすれば、ぱっくり鞘が斬り割れる。
この鞘が木や革なんぞで出来ていたら、納める前には手応えも無く斬っていることだろう。
こう、すぱすぱすぱすぱ切れまくられると、危なかしいったらありゃしない。
それ以前にどうやって持ち運ぶのよ…こいつを…
まったく…ガウリィの脳味噌みたいに非常識な剣である(我ながら見事なたとえ)
今こそ、少し前に再会した竜の峰の長老・ミルガズフィアさんに切れ味を鈍くする細工をしてもらって何とか事なきをえてるんだけど…
それでも、まだ切れ味は非常識だったりするのよねぇ…
そうそう、本当か嘘かは定かではないのだが…
この剣についてはこんな話もある…しかもこの話は世間一般には知られていないらしく…
数十年前──正義と悪にわかれた二人の剣士がいた。
悪に染まった剣士が持つ剣の名は『斬妖剣』──
正義を貫く剣士が持つ剣の名は『光の刃』──
…この『光の刃』とは多分、以前ガウリィが持っていた光の剣ではなかろうかとあたしはにらんでいる…
二人の技量は互角。
光が空を切り裂けば──
邪が大地を割る──
その戦いは日中夜続いた。
疲れ果て肩肘をつく、光の戦士。
同じように邪の戦士。
光の刃を杖代わりに立ち上がろうとする戦士。
斬妖剣を杖代わりに立ち上がろうとする戦士。
その時、斬妖剣は地面深くにまで、突き刺さった。
崩れ落ちる邪の戦士。
しかも剣は深々と突き刺さったため引き抜くことができず………………そのまま光の戦士に倒された…
……なんちゅうか…情けない結末である。
…世間一般には知れ渡らない理由がその辺にあったりして…
さて、申し遅れたが………その非常識な物を持っている非常識なガウリィくんと並んで歩くのは絶世の美人。
世紀の天才美人魔道士リナ=インバース…19にもなって『美少女』じゃあ、なんかこっぱ恥ずかしいので『美人』に変更…
行くとこゆくとこトラブルに巻き込まれながら、世界中を旅する19歳の乙女。
誰が言ったか怯えたか………『盗賊殺し』……や……『ドラまたリナ』………とも……呼ばれていたりする。
…が、実は最近『魔を滅する者(デモン・スレイヤー)』と言う名で呼ばれ初めてたりするのだ。
しかもその呼び名を広げたのが、何をかくそうあのアメリアだったりするわけなんだなこりが…あんまりうれしくないけど…
1年半ほど前である─
─あたし達は、竜神スィーフィードのお告げにより、フィリアと言うスィーフィードの巫女であるゴールドドラゴンに出会い、
異界の魔王・ダークスターと一戦を構えることになってしまった。
まあ、結局はこうして、今でも無事に旅を続けているのだから、その事件は片が付いているのだが
…それが今回の騒動の発端だったのだと言えなくもないのだろう…
そのダークスターとの戦いを終えて、王宮に帰宅したアメリア。
そのとたん、王宮に使える者達に今までどこに行っていたのかと追求されたのだ…ようするに連絡をおこたっていたのね、あの子は
…その前に連絡の方法がなかったような気がするが…それに港町を破壊してそのまま逃げたからなあ…
あえて誰のせいだかは言わないけど。
そして、その執拗な追求についこらえきれなくなったアメリアは話してしまったのだ。
あのダークスターとの戦いのことを…しかもあろう事か…調子こいて、ガーブやフィブリゾの時の戦いまで話す始末。
と、言うわけで今やあたしは…いや…あたし達は…ガウリィとゼルガディスも…一躍有名人になってしまったわけである。
……………目立ってるだろうな……ゼル……特徴ありありだし…
…今頃、
「…目立ってる…目立ちまくっている…」
とかぶつぶつ言いながら、あっちの世界に行っちゃってるとか……ちと、見てみたい気もする…
…ガウリィは…
…ちらっ…
ガウリィの顔を盗み見る…
…相変わらずのほほんとした顔…
……多分、なんも考えてないんだろうな…
「…それにさ、これからは当分、盗賊いじめ出来そうにないし…このぐらいあってもいいじゃない」
「…ああ…えっと……やっぱりセイルーンにいくせいだからか…」
自信なく言うガウリィ。
そうあたし達は今、セイルーンへと足を運んでいる。
セイルーンの近くでは盗賊なんぞほとんどいやしないから
…盗賊いじめができる今のうちに懐を暖めておかなければいけないわけ…
ちかっても、向こうではストレスがたまりそうだから今のうちに発散させておこうと言うわけではないからね…お願い、信じて♡
「…そういや…リナ…アメリアにあうのって4年ぶりだけか?」
…おい…
「…ちょっと…何言ってんのガウリィ。アメリア達とわかれてからまだ1年半でしょうが!」
「…え?……そうだっけか?」
…ったく…
「…で、セイルーンに何しに行くんだ?」
ずべしっ!
「…どうしたんだ?リナ…んなところで寝ると風邪引くぞ…」
「誰が寝るか、このクラゲ!3日前、連絡が来たとき散々話したでしょうが…
セイルーンのエルドラン先王が亡くなって、フィルさんが即位することになった。
そこで是非ともあたし達にも即位式の出席をお願いしたいって!アメリアから!!」
その言葉をきいて、ガウリィはぽんと手をたたくと、「おお~そうだったそうだった、覚えてる覚えてる…」
これである…さっきまで忘れてただろうが、あんたは…
たぶん、この連絡はゼルにも届いているはずである…あの子が一番合いたがっている人でもあるしね…
ガウリィの新しい剣・『斬妖剣』も見つかり、その後のトラブルも無事乗り越え…あまり話したくないことなのでその辺は省くけど…
その後、あたしはガウリィのリクエストに答え、新たな恐怖に怯えながらも故郷ゼフィーリアに帰還。
ガウリィと一緒に帰ってきたことにより…ねーちゃんには、冷やかされ、からかわれ、
壁越しに聞こえてくる…あたしとねーちゃんの部屋は隣同士である…
「姉の私を差し置いて…」
なんていう呟きを夜な夜な聞かされ、とーちゃんはガウリィを
「息子よ!」
とか何とか言いながら毎夜酒を交わし…そういやとーちゃん、ガウリィのこと知ってるふうみたいだったんだけど…、
かーちゃんは
「リナが決めたことなんだし…」
と言って後はいつもと変わりなし…いいのか?そんな簡単に割り切って…
そんなこんなで一ヶ月間──
いつもどおり大ボケガウリィをスリッパではたいていた時。
アメリアから手紙が届いたのは…セイルーンのエルドラン先王が亡くなり、フィルさんが即位することになったという知らせが…
この連絡によって、今回の即位式はかなり盛大な式になることは明白だ。
なにせアメリアの友人であり、フィリオネル新王にも面識があり、
かつてのお家騒動での尽力な功績…まあ…ちょぴっとセイルーンのある一角を吹き飛ばしちゃった事もあったけど…
それにもまして──
今や『魔を滅する者』として名を発している大魔道士である、このあたし。
そして『魔を滅する者』の相棒であり、なおかつ『光の戦士』の末裔であるガウリィ。
『魔を滅する者』と共に戦った魔剣士にして、あの五大賢者の一人・赤法師レゾの血を受け継ぐ者、ゼルガディス。
──という、ネームバリューバリバリの3人が出席するとなると、即位式に箔がつくてー物だ…
…ちょっと…誰よ…別な意味で泊が付きそうって言ったのは!
「けどよ…リナ」
「うん?」
「アメリアのヤツ。おまえさん見たら驚くんじゃないか。背、かなり伸びたもんな」
「…う…う~ん……まあ…ね…へへへ…」
この時期があたしの成長期だったのか、アメリア達とわかれて急に延び始め出した。
前までのあたしはガウリィと比べると彼の胸よりちょい下ぐらいだったが、今ではガウリィの肩にまでに達している。
この1年半でここまで延びるなんて、はっきし言って思ってもいなかった…まあ…うれしいことは間違いないんだけどね…
…これであいつも少しは…あたしを大人の女として見てくれ…
「…けど…あいかわらず胸はぺったんこだな…」
ずべしっ!
「色気もないし…」
「………………」
お、おにょれ、ガウリィ…せっかく…どきどきしていた乙女心に茶々いれおって…
その後、怒りをやどしたあたしがどの様な行動をとったのかは言うまでもないであろう──
セイルーンまであと3日って言うところだろうか──
「…リナ…ちょっと待った…」
ふとしたガウリィの一言であたしの足が止まった。
「どしたの?ガウリィ?」
それと同時にガウリィが腰の剣を鞘から抜き放つ。
「……何?…敵?」リナの問いに、彼は一つ首を縦に振り、
「あぁ…多分な…」
と言いながら彼は身構えた。
………………無言、静寂…
『………………』
「………………くしゅん!………」
………………クシャミがよぎる。
『………………』
………………
再び…無言、静寂…
「…あ…ごめん…今のなし…聞かなかったことにして♡」
………………訂正の声がよぎる。
『…おひ…』
『………………』
………………三度…無言、静寂…いや…あの…
『………………』
がさ…
再び草木が揺れる。
揺れる草木から人、一人。 そいつは両目以外の部分は全て黒一色で被っていた。
表情を読みとることは全く出来ない…が、その体を改めて見れば腰はかなりくびれており、胸元には2つの膨らみがあるのがわかる……
…で……
…胸は…ちっ…結構ありやがる…
「女の暗殺者…」
ガウリィが静かに言いあたしが返事をする。
「…そうみたい…って言うか…さっきの声で十分わかるでしょうが…」
「ああ…そりゃそうだ…」
けど…気配をほとんど感じない…
「かなりの使い手だな」
「まあね…ただ者じゃないわね…」
暗殺者はそこから微動だにしない。
…………………………
再び沈黙が続く。
彼女が両腕を横へ広げる。
瞬間、あふれんばかりの殺気が膨れ上がり、あたしたちには緊張が走り出す。
そして、動きを封じられた──
え?
ぱらぱらぱらぱら…
彼女の周りに舞い散るものに目が点になったからだ…
…か…紙吹雪……?
そして沈黙を破ったのはあろうことか暗殺者だった。
「はろー、えぶりばあぁでぃー」
能天気な甲高い声。
『は?』
「おまたせしましたあ。暗殺者界のアイドル、ミリィちゃんでーす。きゃぴ」
『………………』
──暗黙──
「あら?どうしたんです、お二人さん。体が白くなってきてますけど…」
暗殺者には有り得ぬ明るさに、高ぶった緊張感にいきなり冷水をかけられたような状況であたしたちは固まってしまった──
「何なのよあなたは!いったい!!」
そう言いながら鳥の唐揚げさんを口に放り込む。
「だから言ったでしょう。暗殺者界のアイドル、ミリィちゃんでーす、て…あ…おばさーん!紅茶のおかわりくださーい!!!!」
…いや、そういうことを聞いてるんじゃないんだけど…
本当にただ者じゃなかったな。ある意味で…あっ、Aセットおかわり追加!」
ざわっざわっざわっざわっざわ…
ここは大きくもなく小さくもないちょっとした街。
セイルーンに結構近い街でもあるので、簡単にセイルーンの情報を手に入れることだってできる。
その一角にある、ある飯屋──
あたしたちが現れた時から、店の中にいた連中は騒ぎ続けている。
その顔にはある種の驚きの入った表情。全員が全員、あたし達を見ていたのだが…
一人は絶世の美女。
一人は美男子(いかに頭がスライムでも)。
そして、暗殺者の格好をしためっちゃやたらたと怪しいやつ。
そんな組み合わせの3人がテーブルを囲ってるとしたら、やはり気にはなるのだろう…
『…なあ、似てないかあの二人…』
『…ああ…似てる似てる…』
……って…かんじとはちょっと違う…はて?いったい、なんだ?
手配をかけられたときの雰囲気にも似てるが……
けど…ここセイルーンであれば、あのアメリアの目に真っ先に止まり
「こんな手配書、嘘です。正義の仲良し4人組がこんなことするはず…いや…リナさんなら何となく…いえ、やっぱりあるわけありません」
とか何とか言って手配書を破り捨てると思うし…途中の
「リナさんなら何となく」
って所、ホントに言っていたら体裁を加えておかなければ…
「………………………」
そんなことにはミジンコ並にも気付いていないガウリィは、一生懸命、皿の中のピーマンをより分けている。
「…ピーマンぐらい食べなさいよね…ガウリィ…」
「えー…でもよー…ピーマンって苦いじゃん…」
…子供か…あんたは…
ざわざわざわざわ…
更に店内が騒ぎ始めた。
『……ガウリィ?……』
『……まさか……』
……はて?
……ま、いっか……考えてもしょうがないか…
「食うかリナ?」
ガウリィがそのピーマンをあたしに食べさせようとする。
どおぉぉぉぉっ!
『…リナ…』
店内に更なるざわめきが起こる。
なんだなんだなんだなんだっ!
あたし、なんか変なこと言ったか?
「ほ~ら~ほ~ら~…リナ!ピーマンだぞお~」
にこにこ顔でピーマンを串刺しにしたフォークでぴこぴこ上下にふって遊ぶガウリィ。
…をひ…これだけ騒がれてもまだ気付かんのか、おまいは…
ミリィが注文した紅茶とガウリィが注文したAセットを運んできたウェイトレスのねーちゃんは、
その2つをテーブルにおくとしばらくその場所でそわそわしながら無言で立ちつくした。
?
どうしたのだろうか?
ごくっ
姉ちゃんが喉をならすと、
「あ、あの…す、すみません。じ、実は一つ、お尋ねしたいことが…」
『?』
ウエイトレスの姉ちゃんが息咳きって口を開く。
「お二人方はもしや、リナ=インバース様とガウリィ=ガブリエフ様では…」
『え?』
あたし達はそのセリフにしばし呆然。
そして沈黙──
店内にいる全ての人たちがあたし達の返事に注目しているみたいだった。
──手配書──
いや、なんか違うか…あたしはありありといぶかしげな表情をしながら、
「…ええ…………そだけど…」
「ああ…確かに俺はガウリィ=ガブリエフだって…なあ…リナ。俺たちこの人と合ったことあるけか?」
「ないわよ」
「そうです!このお方こそ!『魔を滅する者』という2つ名を持つリナ=インバースさんたちです!!」
芝居じみたそのセリフと一緒にテーブルに片足をのっけ拳を天に掲げるミリィ。
おおおおおおぉぉぉぉっ!!!!
そのあたし達の返事に、この店に入って一番大きなざわめき…いやもうこれは歓声と言うべきか…
そして津波宜しくほとんどの人たちがこちらに押し寄せ、あたし達の席を中心に囲い込んだ。
「…あわわわわわわわ…」
「ななななな…なんだなんだなんだ!リナ!いったいみんなどうしちまったんだ!」
「…あ、あたしが解るわけないでしょ!…み…みなさん落ち着きましょう…ね、ね、ね(はーと)」
一人の女性があたしの目の前にまで顔を近づけ…なにかその目は微妙に潤んでいたりするのだが…
「あああああ~ほ、本物のリナ=インバース様。あたしもう大感激ですう~」
と言いながら手を胸元で組む…
「…へ?感激って…」
「…あぁぁ~…もう死んでもいい…」
「…あのお…」
「…しあわせ(はーと)」
…は…はあとをまき散らしながら、あっちの世界に行っちゃってるよ…この人…
「え?なんだ…」
一人のがたいのいい傭兵らしいオッちゃんがガウリィの肩をたたき、それにガウリィは反応していた。
そして、
「うおおおぉぉぉぉぉおー!光の剣士様に俺さわっちまったよ。もうぜってい手を洗わん」
肩をたたいたその手を天にかかげ、涙流して吠えまくる。
いや、一生洗わないってのはどうかと思うよ、あたしは。
「くうううぅぅぅぅ~やっぱしリナちゃんは可愛い~」
…え?
か、可愛いって?
「ほんとほんと、すげー可愛いー!」
なんか次から次と見も知らぬ男どもが、あたしを見て「可愛い」という単語を連発してくれるが、
この勢いに押されて何が何だかもう訳がわからない。
「リナ様、ガウリィ様」
…あ…ウエイトレスの姉ちゃん。
「あたしお二人方の大ファンなんです。ぜひ、サインを!!」
突き出される一冊の本とサインペン。
え?大ファンって?
…いや…ちょとまて…いくらファンだからとはいえ、あたし達の顔をなんか知ってる風なんだけど…
どこで知ったんだ、おまいら…
「何いってんのファンていうのはねえ、プロマイド全シリーズに写真立て、等身大ポスター、なんかを全て揃えていなけりゃだめなのよ!」
と彼女の反対側にいた女性が叱責する。
「そのくらい持っています!!」
プ、プロマイド?写真立て?等身大ポスター!!
…をひをひ…なんなんだそひは…
「ふっ、あまいな…」
いつの間にかあたしの隣の席に座っていた一人の男が髪をかき上げながら言い、一本のバラをあたしへと差し出す。
…あ、どうも…
「…私ならそれに限定品の4人全員が書かれた超特大ポスターに、今では入手困難なぴこぴこリナちゃんを加えるがね…」
…げ、限定品…超特大…ぴこぴこリナちゃ…あ!これはかすかに覚えが…
……てっんなもんはどうでもいいよの……これって一体全体、なにがどうなってんのよーーーー!!!!
既に日は沈み、街の店にはちらほらと灯りがつきだした頃である。
「…ぜい…ぜい…ぜい…ぜい…な、何とか逃げ切ったわね…」
「…な、なんとかな…」
「いやあ~さすがすごい人気ですねお二人さん♡」
あたしとガウリィはとりあえず街の裏道で珍しくへばっていた…ミリィは疲れた様子全然ない…
……そして…そして…………………
10人分しかご飯食べられなかったのよー(泣き)
どっぱーんっ!
津波をバックに涙流しつつ拳を握りしめるあたし。
「…何やってんだ?リナ?…」
「………………」
……む…むなしい………
…ううううぅぅぅっ……あんなんじゃたりないよおおぉぉ………
あの後、あたし達は延々と1時間、ファンの人たちに握手を、サインを求められた。
いつものようにあたしが呪文の一つ唱えて沈黙させればいいのだが…いや…一様、3、4回ほどやってみたんだけど…
ただあたしたちがここにいますよーって知らせているだけのようで、
魔法で黒こげになった人数の3倍が別なところから、所狭しとやって来て増えてしまうだけだった…
そこで否応なしにあたしとガウリィはその場から退散したってわけ…そして3時間。
その間中、ファンというやからに追いかけ回された…そして今に至る。
…くそお…なんかよく考えたらあたし達が何で逃げなきゃならないのよ…だんだん腹がたってきたぞ…
「ん?リナ。その手にもってるのは何だ?食いもんか?」
「へ?」
そのまま手をみる。
それは一冊の本だった…確かこれって、あの時のウエイトレスの姉ちゃんが渡してきたような…思わず持ってきちゃったんだろうか?
『デモンスレイヤー』
とタイトルがついている…デモンスレイヤーって?
その本をめくってみる。
「…こ…これは…………」
<突然、あたしは左腕を闇からあらわれた手にとらえられた。>
「………………」
長~い、長い沈黙が続く。目がその本から離せない。
<…恋しちゃったのかな?こんなのに…>
「………………」
さらに続く。
<静かな風が吹き、あたしの髪が流れ、ガウリィの髪と重なり2色の妖精が舞う。あたしは自然と目を閉じた。唇と唇が重なる。そして──>
「……そしてっ…………って…だあああ~なんなのよこりわああ~」
顔を真っ赤にしながら本を地面にたたきつける。
なんかまだ…”おまけ”とか書かれて続きがあったようだが…んなこたあどうでもいい…
「…お…おおい…どうしたんだ?リナ?」
あたしの剣幕に驚きながらも、恐る恐るたたきつけられた本をガウリィは拾おうと…
「見るなっ!」
ぼうんっ
…する前にあたしの魔力弾でそれは消滅する。
…じょ…冗談ではない…こんなのをガウリィに見られた日にゃあ…
「…リ…リナ?」
ぎろっ!
ガウリィをにらむ。
「…い…いやなんでもない…」
その思いにガウリィは黙ってくれた。
「…ま…まあ…とにかく…あれっていったいどういうことなんだろうな…」
「…し…知らないわよそんなの…」
まだ、何となく顔が赤い気が…
少なからず、あそこの食堂で聞いたことは
…あたし達4人(あたしにガウリィ、アメリアにゼルガディス)のプロマイドに写真立て、
ポスターにゴーレム印の『ぴこぴこリナちゃん』シリーズ、リナちゃん・アメりん・ガウくん・ゼルやんの各種大中小のぬいぐるみ、
子供達に大人気・『爆裂戦隊・ドラグレンジャー』の人形&変身セット(なんじゃ…そりは…)……etc,etc…
それに加えて…
「リナ様がお書きになられている自英伝。毎週欠かさずに読んでいますわ!」
………って……あたしはんなもん書いた覚えはない…
…そ…それがさっきの本であるということは用益にわかる。
…し…しかも…あたしとガウリィが…な…なんで…キ…キ…キス…うだああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!
思い浮かべて再び顔が赤くなる。
「…リナ?」
ガウリィがいぶしかげな顔をする。
その姿を見てくすくすと笑ってるミリィ。
あの話…ダークスターとのあの事件…が誰かの手によって小説になったらしい。
しかも、過去記録更新のベストセラーになり、それが皮切りに、あたし達の生写真が爆発的に売れまくり、
ポスターやらプロマイド、大中小のぬいぐるみ…等々…のグッツまで販売されたそうだ。
そしてその勢いはとどまることを知らず…
…リナ=インバース宗教が出来たり、男の間では金髪のサラサラストレートが流行のヘアーファッションになったり、
結構有名だった大悪党が当然正義に目覚め無償で盗賊狩りをしてるとか(…もったいない…)、
魔道士協会に自分を石人形と邪妖精のキメラにしてくれとやってくる者がいたとか…
もう、てんやわんやの大騒動。
だからとはいえ何であたしがこんな目に…
ぐうきゅるるるるるううううぅぅぅ~
と怒りあらわにしようとしたあたしの意思とは裏腹に思わずお腹がなってしまった─
─なんてはしたない…
「腹減ったな…リナ…」
…言うな…ガウリィ…
「ゆっくりと飯が食えるところがあればなあ…」
ないからこういう状況におちいってるんでしょうが…
ごきゅるるるるる~
今度はガウリィのお腹が盛大になる。
「腹減ったな…」
だから言うなってば…この乙女のあたしが我慢してるんだから、大の男がぐちぐち言うんじゃない…
「おやおや…こんなところでどうなさったんですか?お二人さん?」
その声は唐突──
その声に慌ててあたし達は声の方へ振り向く。
その先には上空でたたずむ黒影一つ。
そいつは──
「お久しぶりです。リナさん。そし…」
いつも絶やさぬにこにこ顔に──
「炎の矢」
──黒髪のおかっぱ頭──
「…てガウ…わわわ…」
ちいいぃぃぃー
…よけたか…
──そして黒い神官服を──
「…ち、ちょっと、リナさん、いきなり何をするんですか!」
──まとった獣神官ゼロスだった。
「あ、気にしないで♡たんなる憂さ晴らしだから」
あたしは手をぱたぱた仰ぎ、
「…あのですねぇ…リナさん…僕のこといったいなんだと…」
「たんなるマト」
きっぱり言い放つ。
「…しくしく…」
その辺の家の壁に『の』の字を書くゼロス…いじけるなよ…
この一見、何が楽しいのかわからんくらいに、四六時中にこにこ顔の兄ちゃん。
こう見えても赤目の魔王の腹心、獣王ゼラス=メタリオムに仕える高位魔族である
…ちなみに強引な交渉にはめっぽう弱いというのは実証済み。
「…ゼロスいつまでいじけてるんじゃないの…それよりも…さっき、なんか教える言ってたけど…もしかしてあんた、この騒ぎの原因知ってるの?」
そのあたしの言葉に何事もなかったかの様にすくっと立ち上がったゼロスは…やっぱひ嘘泣きかい…
「ええ…実はですね…」
びすっ
「いたっ」
いきなり──ミリィがゼロスに向かってチョップをかます。
「…って…あの…突然、何をなさるんですかあなたは?」
「ふっ…何をですて…それはあなたの胸に聞けば解ることですわ♡この顔を見忘れましたか!」
そしてそう叫んだ彼女は自分の覆面を剥ぎ取った──