スレイヤーズSTS 第4話


**** ZELUGADHISU ****


『 突然、あたしは左腕を闇からあらわれた手にとらえられた。とてつもなく冷たい手──
  ええーい。自由な右手で慌てて剣を鞘からぬき、振る。
  ざあうん…闇から生まれる腕を難無く切り裂さ──くが腕はすごい速さで再びくっ付いていく。
 「…こ、この…きゃんっ!」
 もう一度、切ろうとした瞬間、突然の電撃を浴びせられ──意識が一瞬途切れかかる。
 力が抜ける。
 そして足がその場で崩れへたりこんだ。だがやつはあたしの腕をまだ放そうとしない。
 ドクンっ
 心臓の鼓動が速くなる。
 それとも…その青い瞳で…その笑顔で…そしていつまでも…いつまでも、その横であたしを支えてくれる、守ってくれる夢…
 …恋しちゃったのかな?こんなのに…
 そのことに驚きはない…何となく気付いていたから…
 『女の子らしく、恋だってしてみたいし…』
 魔王と戦う前に、ある2人の前で拳を握りしめながら言った言葉。
 脳天気でなかなかのハンサムで…
 クラゲで剣の腕は超一流で…
 どんなときでもあたしを守ってくれて…
 時々、何となく…カンかな?…であたしが思っていることに気付いちゃうし…
 でも、気付かない時もあるし…
 あたしのために怒ってくれて…
 叱ってくれたこともあった…
 初めてあった時は理想の男性像とはかけ離れていたけれど…女の子らしく…あはは…何となくかなってるのかな?
 静かな風が吹き、あたしの髪が流れ、ガウリィの髪と重なり2色の妖精が舞う。
 あたしは自然と目を閉じた。
 唇と唇が重なる。
 そして──』

「………………」
「ねぇ(はあと)ゼルがディスさん。とっても!!素敵なお話でしょ」
太陽のようにまぶしい、屈託のない笑顔と一緒に、
「とっても」と言う所に力一杯力説する彼女に同意を求められ、俺は思わず返答に困ってしまった。
…いや…それ以前に空に突き立てるその握り拳はなんなんだ?
「…アメリア…おまえさん…この話を真に受けてるんじゃないだろうな…」
アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
それが彼女の正式な名。
少し大人の階段を上り始めたのだろう。大きな瞳は全然変わっていないが、以前の童顔だった顔がやや細身がかかり始めている。
身長もそこはかとなく伸びただろうか…
以前はおかっぱ頭だったのだが、どういう心境だったのか…あの事件以降、彼女は髪を伸ばしていたようだ。
ここセイルーンの元第一王位継承者、
そしてこのたび国王に即位することになっているフィリオネル=エル=ディ=セイルーンの二番目の娘である。
「もちろんですとも!!」
どおんっ!
そんな轟音のような音を立てながら、椅子の上に立ち片足でテーブルを踏むアメリア。
その動作に片下まで伸びた光沢のある黒髪が激しくゆれた。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

しばし──

「今の…かなり痛かったんだろ?…アメリア?」
「…はい…そのとうりです…」
ここはセイルーンから北西へ10キロ離れた場所の宿屋にいた。
よく見かけるような店で、1階では飯屋も経営している。
俺たちはセイルーンへと向かっている。
理由は至極簡単。
ある占い師に予言され、その言葉に従って行動にでただけだ。
まあ、占いなど信じちゃいなかったが、
今では何も情報を持っていなかった俺はたまにはそんな運命に付き合うのも一興かと思い立ったわけだな。
昔の俺ならそんなこともしなかっただろうが…
その占いを持ってきたのがここにいるアメリアだった。
占いなんぞと最初は思ったりもしたが…
…ふっ…俺のためにそのことを伝えに来てくれえたアメリアの姿を見ると、悪い気はしないな…
アメリアと合流した俺たちが、
最初に向かった場所はセイルーンに程近い過去の伝説にもある有名な者たちが数多く生まれている国・ゼフィーリア。
確かあいつがここの生まれだったと聞いたが…
「ここである飯屋にいるある女性に合えとのことだが…」
「そこでウェイトレスのアルバイトをなさっているそうです!」
「………………」
「どうかしましたか?ゼルガディスさん?」
「アメリア…なんなんだ…そのウェイトレスのアルバイトって…」
「え?何かいけません?」
「何故?ウェイトレスに合わなきゃならんのだ…」
「でも占い師さんが彼女に合いなさいと予言してくださったんですよ!それを信じで突き進むのも正義の印!!」
思わん、思わん…
「あたしたち。正義の4人組が再び結集するまで正義を貫き通すのです!!」
「………………」
どっかその明後日方向にでも向かって、燃えまくるアメリア。
「………さて……バカやってないでとっとといくぞ…」
「ああーー!待ってくださいよ!ゼルガディスさーん!!!」
そして俺たちは占い師が言っていた彼女に合うことになる。
まるで何もかも分かっているかのようなそんな目をした赤い瞳を持つ…そいつは唐突にこう言い放った。
「ここ最近、数多くの大きな光と闇がセイルーンへと向かってるわ」
「正義と悪ですね!」
「そんなの俺には関係ない…」
「何を言ってるんですか、一緒に旅をしていたころの、あたしたちの熱く燃える正義の心を忘れたんですか!!」
燃えるアメリア。
「…そんなものは最初っから持ち合わせていない…」
「あううぅぅぅぅ…(泣)」
「それよりも俺が聞きたいのはこの体を元に戻す方法だ…」
「この世界にはそんな方法、存在しないわ」
「……………そうか…邪魔したな…」
「…まだ…話は終わってないわよ…」
「…あんたには…だ…俺にとっては話は終わっている…」
「ゼルガディスさん。話ぐらいは聞いていっても…」
「邪魔したな…」
「…待ちなさい…ゼルガディス=グレイワーグ」
「?!…………何者だきさま…」
「いいから座りなさいって♡」
「………………なぜ俺の名を知ってる…」
「そんなの誰だって知ってるわ…ね…アメリアさん」
「何?」
「あの…もしかしてあの小説ですか?」
「ま、あたしはそれ以上によく知ってるけどね…あの子の手紙のおかげで…」
『………………???』
「話を続けるわよ…確かにあなたのその姿を元に戻す方法はこの世界にはないわ…けど…それはここの世界だけのことかもしれない…」
「どういうことです?」
「………なるほど…異界ならあるかもしれない…か…そいつは考えてもいなかったな…」
「ここ最近、数多くの大きな光と闇がセイルーンへと向かってるわ」
「…ああ…先ほど言っていたことか…その光と闇と言うのは神族と魔族のことだろ?」
「やはり、正義と悪ですね!」
「正義を燃やしているところ悪いが…アメリア…テーブルから降りろ…」
「…ま…この際、彼女は無視して…」
「いいのか…無視して…」
「…光と闇が集うことにより…再び災いが始まるわ…」
「…ほう…それで…その災いを止められるのがこの俺だと言うんじゃないだろうな…」
「その一人よ」
「じゃあ…あたしは?」
「アメリアさんもその一人よ」
「ますます、燃えてきました!」
「…はっ!…ばかばかしい…」
「あなたならそう言うと思ったわ…まあどっちにしてもあなたがその災いにかかわっておいた方が、今後のためにいいと思うけど…」
「何故だ?」
「光と闇の中に異界から来た者たちがいるから…しかも異界から異界へと簡単に行き来できるらしいわ…」
「…ほおう…異界を………つまり…そいつから異界へと行く方法を教えてもらう訳だな?」
「まあね…」
「…ふむ…面白そうだ…やってみるのも悪くない…」
「やっと解ってくれたんですね!ゼルガディスさん!さあ、あたしたち2人力をあわせ…」
「…その話から離れてくれ…アメリア…」
「今回の事件はあれの続きみたいなものだから…あなたがたちが、かかわる理由にもなるしね…もちろんあの子も…」
「…あれの続き?」
「え?あの子?」
「…いいえこっちの話よ……そうそう…もしセイルーンへ行く気になったのなら…伝言を頼めるかしら?
  …その子もセイルーンに向かっているはずだから…」
「伝言か?だが、あのセイルーンで一人の人間を見つけるのは…」
「大丈夫、大丈夫…あの子が行く所…常に騒動ありってね♡」
「誰かさんみたいなやつだな…」
「まあ…それでも駄目なら伝えなくてもいいわ」
「…あ…ああ…それでかまわないのなら…で…そいつになんと伝える?」
「──全部終わったらとっとと帰って来い──姉より」
「……お…おもいっきしアバウトな伝言だな(汗)…で…その相手は?」
「それはね──」

その名前を聞いた時ははっきりいって驚いた。
彼女があいつの姉だったとは…あまり似てないが…
そういえば、あの時の手紙もまたアバウトな手紙だったな…
あいつがこの伝言を聞いたらさぞかし取り乱すだろう。
あのときの手紙のように。
その姿を思い出し、再び口元がゆるんだ。
「…ああ…なんて素敵なんでしょう…」
そんなアメリアのセリフに俺は現実に引き戻された。
先ほど、アメリアが俺に見せていたのはセイルーンで売り出されている『ドラゴンマガジン』で出版されていたある本。
あいつがこんなものを書くとは思えんが…
そこの出版社では俺たち…
リナ、ガウリィ、アメリア、そして俺…とダークスターとの戦いや、ガーブやフィブリゾの時の戦いを小説として、連載している。
それが今回の火種でもあり、原因でもある。
そして先ほど読んだのは、なんと…リナが眠っているガウリィにキスをするという内容。
まあ…あのリナにこれだけの積極性があれば、今ごろはもっと言い方向へと向かっているんだろうが…
…あの二人に限ってはあまり期待しないほうが得策だろう…
いつものようにガウリィがボケて、リナがそれに突っ込む…
…そう考えたら少し笑えた。
そんなおりに、それは始まった──
「大変だぁっっ!!!!」
扉の向こうから慌てた声が聞こえてくる。
店内にいぶしかなざわめきが起こる。
「デーモンっ!デーモンが現れた!!!」
その声の主が息せき切って扉から入ってくる。
レッサー・デーモン。亜魔族であり、それほど上位のものではない。
しかし、その強さは、一般人にとっては脅威であり。かなりの力量を持つ戦士・魔道士でないと、返り討ちにあうのが常だからである。
瞬間!
ごうぅ!
彼の体が炎に包まれる。
「ひいぃっ…」
誰かとも突かない悲鳴が店内に沸きあがると、それが合図だったかのように、店にいた各々が逃げ惑う。
倒れる、テーブルや椅子、床に叩きつけられる皿。
悲鳴が蜘蛛の子を散らし、床が激しく踏み叩かれる。
人と人がぶつかり合い、他人を押し倒し、倒れる人を踏みつける。
だが、この場はまだましなほうであった。
外は阿鼻狂乱──
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の中に、燃える人柱、肩や足、最悪な者では首をもがれた屍──
確かにあの者が言ったとおり、そこにはデーモンが存在していた。
そのデーモンに向かい、必死で剣を振りかざす男達が数人ほどいたが、相手にダメージを与えている様子は全く無い。
中には魔道士もいたが、彼らは驚愕の目を見開いて呪文を唱えてる様子が無い。
俺の脳裏に意も言われぬ疑問がよぎる。
デーモンはたったの1匹。
俺やアメリアにとってたいしたことの無い雑魚だ。
だが…
「なんですか?あれは?」
アメリアが驚くのも無理はない。
そいつは確かにデーモンのように見えたが、違うものに見える。
特異すべきはその背に昆虫のような羽根が生えていること。
ただのデーモンではないということだろうか…
「行くぞ!アメリア!」
「はい!」
デーモンが吼えた。
それを合図に俺たちはその場を退った。
こあっ!
同時に立ち上がる光の柱。
先ほどまで俺たちがいた場所にだ──

あれから10分ほどたっただろうか。
状況はまったく変わっていない。
「崩霊裂!」
アメリアの呪文が完成する。
力ある言葉とともに、デーモンの体を青い火柱が包む。
やがて、青い火柱はふっつりと消える。
デーモンは何事も無かったかのようにその場に佇んでいた。
「ええ~ん(泣)全然、効いてませんよおぉ~(泣)」
やはり駄目か──
奴を見たとき脳裏によぎった疑問。
そのヒントはゼフィーリアで聞いた、
<光と闇の中に異界から来た者たちがいるから…しかも異界から異界へと簡単に行き来できるらしいわ…>
この言葉に隠されていた。
俺たちは以前、異界の魔王とも戦ったことがある。
その時に、その世界の神族から聞かされているのだ、<異界の存在には俺たちの魔法は利かない>ということを。
俺たちとってデーモンなんてものは雑魚でしかない。
だが、それはこの世界のものであって、異界のものになれば雑魚と同じ力しかないものでもあっという間に脅威となる。
そう、俺たちが対峙しているこのデーモンは異界からやってきた闇だったのだ。
デーモンが吼える。
慌てて、その場からしりのける。
「ぎゃああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
逃げ送れたか、一人の魔道士の体を包み込む光の柱。
これもまた厄介だった。
奴の攻撃方法は今のようなもの一つのみ。
だが、その攻撃には一種の火線なるものが見えない。
精神世界面から直接、精神世界に叩きつけてるのだろうが…
今のところデーモンが吼えた直後に攻撃が来るので何とかかわせている。
だが、これも時間の問題だろう。
デーモンが、俺たちが交わすだろう場所に予測して攻撃を仕掛けてきたら一環の終わりなのだから。
魔法は効かない。
相手の攻撃は確実にはかわせない。
そうなると──剣を抜き放つ。
「魔皇霊斬!」
俺の剣に魔力の光がまといつく。
そう、今、打てる手はこれしかないであろう。
そして、デーモンへ向け俺は駆け出す──