遥かなる記憶の彼方に・・
・・・・・たすけて・・・・。
「?姉様?今何か聞こえなかった?」
ふと、外に耳を向ける、淡い金色の髪の女の子。
歳のころは、三歳程度。
三歳児にしては、しっかりとしたその口調は、物心つく前から、いろいろと姉が教えていた結果に他ならない。
まあ、直接、その脳に、いろいろと知識を伝えていれば。
いくら記憶力に疎いどんな存在や生き物でも天才的になるもので。
三歳になったばかりというのに。
他の子供と異なり、はきはきしているのは。
ミレア=バール=ノクターン。
淡いふわふわの少しウェーブの入った髪質の金色の髪に、両親の譲りの深い水色の瞳をしている女の子。
「・・・あ、本当だ?・・・ファー?何か分かる?」
何となく、ファーなら、すぐわかるのではないかと。
自分の胸元にある石にと話しかける。
シュン。
その言葉を受けると同時に。
石から、一人の小さな羽の生えた女の子が出現する。
ミレアは物心つく前から、見慣れているのであまり気にはしてない。
目の前にいる姉である、ミリアム=フィラ=ノクターンから。
この、石の精霊である『ファー』のことは聞かされているからして。
ちなみに、いまだに、ミリアム・・愛称ミリーの両親は、このファーの存在に気づいてないが。
いくら、特殊な一族といっても、やはり、この精霊のファーは、特別なわけで・・。
まず、普通はこの存在には気付かない。
ミリーがノクターン家の門の前に捨てられていた赤ん坊のときに。
その手に唯一持っていた、不可思議な色合いをした石の、精霊である。
「はい。・・・・どうやら、先ほどの爆発で発生した、磁場に掴まって。
・・・あれでできたブラックホールにどこかの船が・・囚まったようですよ・・。」
ふわふわと。
淡い虹色の光を周囲に振りまきつつ。
その、小さな愛らしいその口から、その助けを求める主の声を言い当てる。
普通、まだこの文明の発達具合からして。
ブラックホールと呼ばれているそれに、巻き込まれた人の声など聞こえるはずもない。
いまだに、宇宙の不思議として、プラックホールは位置づけられ、その仕組みすらも解明されてないのだからして。
あっさりと、答えるその台詞に。
「ええ!?姉様!?大変なんじゃ!?すぐに警備隊に連絡しないと!」
そのファーの説明にあわてるミレア。
「・・・・・呼んでたら、間に合わないわよ。・・・・仕方ない。助けますか。ミレア、ちょっと、戻るの遅くなるけど・・いい?」
そう言い放ち。
「軌道、修正!目的地!ミゼットカスタム435−4!」
―ピピ。了解シマシタ。
機械的な声がコックピットに響き渡る。
グン!
ミリーの言葉を受けて、彼女達が乗っている船のコンピュータが了解の言葉を発して一気に加速しはじめる。
「ええええ!?大丈夫なの!?姉様!?」
さすがに、向かっているのが、そのブラックホールだと気付いて驚愕の叫びを上げているミレアだが。
ミレアとて、まだ三歳になったばかりではあるが。
その、ブラックホールの恐怖は学園で教え込まされている。
まず、飲み込まれたら、助かったものなどはないいという。
宇宙に存在する、巨大な・・いや、小規模のものもあるが。
それは、別名死への空間とも言われ。
その仕組みは、科学的には解明されたものの。
いまだに、その内部や、仕組み、その全てが不明なままの、ブラックホール。
一般の定説では、質量の重い星が爆発し、その質量によって、その核の重みで空間が捻じ曲げられてホール……
……つまり、穴が、空間上に出現する。
そう定説にはなっているものの。
いまだにそれが事実なのか、否か。解明はされていない。
「大丈夫よ。」
にっこり笑って言い放つ姉に。
・・・・まあ、姉様がいうんだったら・・間違いないかな?
それで済ませているミレア。
いつも、そう。
姉が大丈夫といったら、大丈夫なのだと。
今までの経験上からすでにいろいろと理解しているミレア。
・・さすがに、宇宙空間は今回がはじめてであるが。
そのまま、一気に加速しているというのにも関らずに。
市販されている船では、かなりゆれなどがあるにも関らず。
まったくの振動なしで、光速のスピードで、目的地にと突き進んでゆく、ミリーとミレアをのせた宇宙船。・・シップ。
やがて、窓の外に、見えない圧迫が押し寄せてくるが。
光が、一点に向かって吸い込まれている様子がよく見える。
「・・・・ええと・・・・う〜ん。どうやら、少し入り込んだみたいね・・。」
ちらりとみて。
入り口付近に、目指すそれがないのをみて。
そのまま。
「全速、前進。」
指示を出す。
「姉様ぁぁぁぁ!?」
光や塵の全てが。
目に見えない速さで、向かっているその先の闇にすいこまれているのが普通の肉眼でも見てとれる。
その闇の向こうに行って・・・戻ってきた船のことなど、いまだに聞いたことがない。
「だいじょうぶだって。この船は。」
半分涙目になっている妹の頭にそっと手を置いて。
そのまま、船を走らせて、その中心の闇の中にと進んでゆく。
ピシピシピシ・・・。
船の周りから響く、破壊音。
「・・・・駄目です!もう・・・・キャプテン!」
「・・・ここまで・・・・か・・・。」
もはや、エンジンも全ていかれている。
頼みの機器も、全て使えない。
強力な磁場がこの空間の中では発生しているがゆえに。
宇宙を・・・いや、爆発を甘くみていた。
そろそろ、銀河の終わるところがあるから、調査に来ていた彼等。
だが、まさか。
その銀河の爆発とともに、ブラックホールが出現するなど、彼等は思っているはずもなく。
そのまま、あっさりと、ブラックホールの重力にと掴まって。
そのまま、闇にと引きずり込まれていっている。
噂というか、定説では。
その、重みと重圧に押しつぶされて、ぺちゃんこ・・いや、それよりかなり悲惨なことになるはずだと。
そういう風に解釈されてはいるが。
実際に中に入って、経験した存在がいない以上。
それは、あくまで想像上のもの。
今から自分達にどんなことが待っているのか。
まあ、その前に。
空気がなくなり、窒息死・・かな?
空気製造装置ももはや、使い物にはならなくなっている。
いつまでここの空気がもつか・・。
そして、船がこの重圧に耐えられるかにかかっている。
・・・・が。
もう、完全に重力にはまった彼等が、助かる方法などあるはずもなく。
もはや、クルー、全員が、死を覚悟し始めたその矢先。
「―生きてますかぁ?」
のんびりと聞こえてくる、通信機器からの声。
・・・・・・・・・え!?
「生きてたら返事願いますね?誰も生きてる人がいないんなら。このまま、ほっときますけど。
まだ生存者がいるのであれば、お助けしますけど?」
通信機から聞こえてくる、まだどうみても子供のその声は。
女の子の声。
声からして、十三か四程度であろうか。
「・・・・き・・・君は!?」
まさか、こんな所で・・子供がいるはずもない。
それに、どうして、この声だけ、様々な妨害が生じている、このブラックホールの中で聞こえてくるのか。
「・・・姉様、どうやら、生きてるみたいよ?」
通信機から聞こえてくる声を指していっているミレア。
視界の先にあるのは、ゆらゆらと。
その姿を全長を伸ばしたり、縮めたりと、その姿が歪んでいる、一隻の宇宙船。
どこかの調査隊の船であるらしいが。
「・・・みたいね。じゃ、助けますか。」
そういいつつ。
さらに通信を開始してゆくミリー。
「今から、そちらに剣引きのワイヤーを投げますね?そのまま、ドッキングして、ここから脱出しますので。
全ての装置・・生命維持装置以外のセキュリティをチェックしてください。手動で動かせるように。」
そういいつつも。
船にと整備されている、剣引きワイヤーを取り出すミリー。
とはいえ、こんな中で、外にでて作業・・・出来るはずもなく。
少し、そのワイヤーに力を込めただけで。
ミリーの思うようにそれは、ミリーの思うとおりにと動いてゆく。
無意識のうちに力を使いこなしているミリーなのだが。
それに当人がいくら記憶を封じているとはいえ。
まったく気がついていないのであるが・・。
ミリーの意思に従って、どんな船にも設置が義務つけられている、ワイヤーをかける場所にちゃんと収まって。
しかも、こんな重圧がかなり周りからかかっている中だというのに、ミリー達がのっている船はまったく無傷。
「・・・・一体、この船・・・材質は何でできてるんだろ?」
こんこんこん。
普通なら、このまま、力に押しつぶされてしまう。
というのは、幼い子供だからこそすぐさまに理解ができる。
壁を叩いているミレア。」
まあ、最もな素朴な疑問であるが。
何しろ、すでに、殆ど、そのブラックホールの重力の内部。
そこに、今、自分と姉が乗っているシップは入り込んでいるのである。
普通なら、こんなに耐久性がいい、素材など。
一般にはいまだにこの宇宙上、販売されてもいなければ、確認すらもされていない。
とりとあえず、疑問がるミレアを横に。
スムーズにドッキングまで成功し。
そのまま、牽引するようにと、その後ろに他の調査船を結びつけたまま。
すでに、闇のぼっかりあいた空間に飲み込まれていた、そのシップを。
無事にと外に連れ出しているミリーの運転する船。
無事に、何でもないように、すでに、重力に掴まっていた船を。
牽引しつつ、そのまま、プラックホールの重力圏から。
二つの船は無事に滞りなく抜け出したのは。
ドッキングからわずか、数分も経過していなかった。
「それじゃあねぇ!」
とりあえず、近くの星まで送り届け。
遅くなったので、あわてて家にと戻ってゆくミリーの姿が。
何事もなかったかのような、宇宙の空間に。
あわてて、家にと時間的に遅くなったので、戻る子供達の姿が。
そこに見受けられてゆく。
何が一体、どうなったのか・・。
呆然とするうちに、あれよ、あれよと。
いつのまにか、吸い込まれていたはずのプラックホールから生還していた。
しかも、助けてくれたのは、子供が運転しているシップ。
気が緩んで気絶していたクルーたち、全員が目を覚ましたときには。
すでに、そこには、ミリーの姿は・・・どこにもなかった。
彼等が目覚めたのは、警備隊の医務室。
呆然とする説明の中、プラックホールに吸い込まれた。
そういう説明を受けて、彼等は、ここに入院しているのである。
「・・・・・一体・・・・あの子は?」
何でもないように、自然に振舞っていた。
気になって・・気になって・・・仕方ないが。
「あら、遅かったわね。二人とも。夕飯できてるわよ?」
「はぁぃ!」
「あのね!今日はね!姉様と一緒にお星様を見に行ってきてたの!」
夕食どきに。
楽しそうに今日の一日の出来事を母親に話してゆくミレアの様子をみつつ。
「・・・ま、名乗らなかったら、面倒なことにはならないでしょうv」
何とも楽観的に見ているミリーの姿が、ノクターン家の夕食時にみうけられてゆくのであった。
だが。
ミリーのことは、すでに、警備隊にも、警察にも、その機密事項として。
少なからず、情報が・・・数年前に行き届き。
助けられたクルーたちの証言から。
再びミリーにと全ての視線が向き始めてゆくきっかけになってゆくことになるとは……
まだ、今のミリーは知る由もない。
小さな出来事ではあったが、確実に、動きは表面化してゆく。
−続くー