遥かなる記憶の彼方に・・
なでなでなで。
くすくすくす。
「あのね・・・ミリー?」
お腹を毎日のようにさすってくる娘をみつつ。
くすくす笑っているのは。
その少女と同じ・・いや、少女の方が少し凄烈な髪の色か。
同じ、淡い金色の髪をしている女性。
「なぁに?母様?」
きょとんと。
見上げてくる、深く澄んだ青い瞳。
その瞳孔は・・・果てしなく、深遠の闇。
瞳を見ているだけで吸い込まれてしまいそうなほどに。
青く―果てしなく闇が広がる。
「そうやって、毎日のようにお腹をさすっても?赤ちゃんは来ないのよ?」
そういう母親の言葉に。
「だってぇ・・・・。私も・・・・姉妹、兄弟・・・欲しいんだもん・・。」
まだ完全に学園で習ってないので。
それがどうして赤ん坊が出来るのかは、知らないが。
それでも。
母親のお腹から、赤ちゃんが出てくるのは知っている。
・・・どうやって、そのお腹の中から、出てくるのかもかなり疑問だが。
一度、両親に聞いたところ、真っ赤になって、二人とも答えてくれなかったし。
ましてや、自分が持っている石の精霊たるファーに聞いても。
― それは・・・・そのうちに分かりますし・・今のフィラ様には・・。―
といって、くすくすと笑っていた。
ようやく、前代未聞の、銀河連邦本部への、一般の学園による『社会見学』による、余波の騒ぎは。
ある程度落ち着きをみせているが。
何でも、これからは。
少しづつ、そんな試みをしてみるとか何とか。
正式に、先日、銀河連邦より発表があったばかり。
「それより、早く学校にいかないと?遅刻するわよ?」
ふと、時間を見れば・・。
「ああああああ!急がないと!それじゃ、お母様、いってきまぁす!」
バタン!
「あ!こら!ミリー!窓から出ないの!!」
フワ。
そのまま、二階にある、リビングの窓から出てゆく娘をみつつ。
くすくす笑う。
見れば、ミリーは、その窓から、飛び出して。
空を飛んで、学校にと向かっていたりするのだ。
「まったく・・・・しょうがない子。」
そういいつつも、目は優しく笑っている。
大切な娘だから。
ミリーの父親であり、彼女―マリアの夫であるリュクは朝食が終わってから、すでに仕事にいっている。
「さて・・・・私も行動を開始しますか。」
そういって、立ち上がり。
エプロンを付けてゆくマリア。
彼女は、この家―ノクターン家の夫人でありながら掃除洗濯なども自分でやるのである。
始めのころは、メイドと、それでよく少しもめたが。
『奥様は働かなくていいんですぅぅぅ!そんな、恐れ多い!』
『だって、自分達が使ったところくらい・・・やらないと・・悪いわ・・。』
『奥様は、この家の主です!お願いですからぁぁあ!!(涙)』
そんなこんなで。
メイド頭との、話し会いの末に。
自分達夫婦の寝室と、そして、夫の書斎。
そして、自分自身の仕事部屋と。
― そして、今では子供部屋。
それらは彼女が自ら掃除しているのである。
何でも、自分達が寝ている場所を・・人に見られるのは・・・かなり、シーツが乱れているので恥ずかしいらしい。
書斎などは、何が大切なのか、
メイドたちでは、理解ができない部分もあるので。
彼女が率先してやっているのだが。
子供部屋に関しては、彼女が掃除し。
さらには、メイドたちまでもが掃除し・・で。
いつも、かなり清潔に、綺麗にと保たれている。
そんなこんなで。
いつものようにと、初めに掃除を済ませてから。
彼女が副業でしている仕事。
それは、空気を清浄化させる、香水の開発。
さすがに、文明が発達していれば。
空気の汚染などといった、現象もでてくる。
そんな汚染を取り除く物質を。
精霊たちの指導のもとに、意見をききつつ、彼女は作り出しているのだ。
彼女の一族がずっと昔から行ってきているその香水の創作でこの星は、ここまで文明が進んでいるのに。
大気汚染や砂漠化現象などといった、当然起こりえる社会現象が起きていないのである。
太陽の光を元に、エネルギーにと転換する方法を開発したのも、このノクターン家の先祖。
今では、宇宙(そら)にと打ち上げられている太陽エネルギー補給装置で。
それから、各個人などにもエネルギーが配布され。
エネルギーにはこの星では困っていない。
ちなみに。
一応、その定期的なメンテナンスのための、お金は各個人にとかかるが。
それは、ごくごく些細な金額。
まあ、この星の人口が四十億として。
一人、一ミラルクとしても。
この星の、一番最低な金額ミラ。
ミラ、テラ、ギラ、リラ、ピラ・・といった具合に。
この星の共通硬貨。
この星では、お金の単位をルクと呼ぶ。
一番、細かいお金の硬貨をミラといい。
次が、テラ、その次がギラ。
硬貨の一番大きいものをピラ。
その次からは、紙幣にとなる。
それか。
大概、そんなに持ち歩くのが面倒なので。
殆どがそれらを電子金額として。
その、機械上で殆ど買い物とか、取引などをしている状態ではあるのだが。
いつものようにと。
布団を干してシーツを取り替える。
「・・・・そんなに赤ちゃん・・・ほしいのかしら?あの子は?」
自分としては、ミリーがいるのだから。
それ以上のわがままは言いたくない。
子供ができなかった自分達の元に・・・・まるで授かるようにして、この家にとやってきたミリアム。
ある日の夜。
屋敷の前にと捨てられていた。
両親の手がかりは一切無し。
唯一、持っていたのは不思議な光沢を持っている石のみ。
届け出ても・・両親が見つからなかったので。
マリア夫婦は喜んで、自分達の養女にと迎え入れた。
あのときから、いや、ずっと。
ミリーは、自分達の本当の子供だと想っている。
ふと。
そんなことを思い出しつつ。
「・・・・・・・・・・・・・赤ちゃん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
・・・・・・・ええと・・・・・。
ふと。
気付いたようにと、指を折り始める。
一つ・・・二つ・・・・三つ・・・・・・・・。
ミリーが社会見学から戻って、約六ヶ月。
「いやあの・・・ちょっとまって・・・・・・・・・・////」
ふと。
ここ、三ヶ月。
あるべきはずのその日が、来てないことにようやく思い当たる。
「ま・・・・・さ・・・・か?/////」
ふと、お腹に手を当てて。
目をつむり、瞑想するかのように、意識を自らのお腹の中にと移動させる。
ノクターン血筋の特徴。
彼女の一族は、その血による力により。
精霊たちの力を借りて、または自らのその深層なる眠りし力によりて【視る】ことが少しは可能なのだ。
完全とは言いがたいにしろ。
目をつむり。
自分のお腹の中にと目を向けて、視たとき。
― マリアは、そこに、想像通りというべきか。かなり、驚く光景を脳裏に映し出していた。
「・・・・あ・・・あの///リュク?」
「ん?何だ?」
ベットの横で、仲良く裸でぐったりと横になっているマリアが横にいる夫にと話しかける。
そんなたくましい胸にと顔をうずめて。
「その・・・ね・・・・・できたみたい・・・・なの////」
小さく真っ赤になってつぶやくマリア。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
その言葉に一瞬呆けた声を出す。
そして、ふと。
我に戻り。
「まさか・・・マリア!?」
がばっ!
「きゃ!いきなり起き上がったら寒いじゃない!」
いきなり起き上がるリュクに、布団が持っていかれて。
素肌が空気にさらされて。
すこし照れつつ、毛布を掴むマリア。
「本当なのか!?何処か・・体の調子がおかしいとかないか!?」
真っ青になっていっているリュクに。
「・・・・・リュク?」
少し驚く。
「そりゃ・・・・おかしいといえばおかしいけど・・・。・・・・だって・・・・あの日・・・全然来てないもの///」
ぽそぽそとつぶやくマリアに。
「・・・・・医者にはいったのか?」
「まだ。リュクにいってから行こうと思って。」
そういって、ぽすんと。
上半身を起き上がらせている夫の胸にと顔をうずめる。
「・・・・・・・・・一緒にいってくれる?///」
「あ・・・・・ああ。」
少し戸惑いかちな夫の声に。
「・・・・リュク?うれしくないの?」
少し寂しい感じがする。
夫なら・・もっと喜んでくれるかと思ったのに。
「・・・え?そんなことないさ。ただ。きちんと分からないうちに、大喜びして。・・・・・ミリーを悲しませたくはないしな。」
そういう優しい夫の声に。
「・・・・そーなのよ。だから、まだミリーにも言ってないの。」
赤くなっていっているマリア。
完全に確信は持てるが。
それでも。
やはり、第三者の目で確認してもらわないと。
・・・・・・・・・・・今まで、結婚してからこのかた、一度タリとて、妊娠など、したことがないのだからして。
二人の寝室の横には、子供部屋。
間違いなく、ここで大声を出せば、隣で寝ているミリーにと聞こえるはずである。
まあ、部屋の広さが広さなので。
かなりの距離はあるにしても。
「まあ、ミリーは耳がいいからなぁ。」
「そうね。」
昔、二人に、【夜なにやってるの?】と聞いてきたときには・・。
かなり焦ったものだが。
それも、今は昔のこと。
それでなくても、ミリーはときどきというか、よく絶対に聞こえてないはずの言葉もよく聞こえていたりする。
というか、どうしてかなり離れている場所の声が聞こえるのか、不思議ではあるが。
まあ、それは、リュクに関しても、マリアに関しても。
その血のなせる業で出来ないこともないので、あまり気には留めてないが。
「・・・・・・・・・行ってくれるわよね?リュク///」
「ああ。もちろんだよ。マリア。」
「リュク・・・・。」
「・・・マリア・・・。」
そのまま、しばし見詰め合い、やがて再びシーツの海にと沈んでゆく・・・。
「ご懐妊ですね・・。丁度。三ヶ月に入ったところです。」
医者からの言葉。
「本当ですか!?」
目をきらきらさせるマリアに。
「それは!?本当なんですか!?」
うれしいけど・・・怖い。
そんなリュクに気付いたのか。
それとなく。
「ええ。何も問題はありませんよ。
健康そのものの、女の赤ちゃんです。母体ともに、健康。・・・・・太鼓判が押せますよ。」
そういって、リュクを見つめる。
視線で。
それが事実だと彼に伝えるために。
「あ、マリアさんは、初めてでしたよね?一応、妊婦の心得を伝授しますので・・こちらにどうぞ。」
看護婦が、マリアを別の部屋にと案内してゆく。
マリアがいなくなった後に診察室に残るは、医者と夫であるリュク。
マリアがいなくなったのを確認して口を開く。
「あ・・・あの・・・先生?」
以前。
医者から宣告されたのは・・・・妊娠したとしたら、母子ともに危険となる可能性が・・・・高い。
という事実。
それが思い出されて、素直に喜べない。
「・・・・・・・世の中不思議なことがあるんですねぇ・・・。」
カルテをみて、唸る医者に。
「・・・・・・・はい?」
「いや・・・・奥さんの体質・・・変ってるんですよ。まるでこのためだけに強くなったかのように。
まず、見られる、受精されたとされる卵子ですが。・・・・奥さんのそれとは考えられないほどに。普通です。かなり。
しかも、妊娠、出産に耐えられる体では、到底なかったのに。・・・それがことごとくに普通の数値にとなってます。
・・・・・・こんなこと・・・初めてです・・・・。」
様々な血液検査や。
全てのカルテを見合わせても。
・・・・こんな結果はあるはずもない。
本来ならば、マリアは、子供が出来ない体であったはずなのだから。
― 出来たとしても、それは、育たずに、流産か、もしくは・・・・母子ともに死亡するはず。
そこまで弱かったのだ。
それなのに・・・・。
検査の結果、出された数値をみつつ、唸る。
こんなことは・・・常識で考えても・・・・・・まずありえないことであるからして。
そして、首をかしげて唸りつつ。
「・・・・・・・・・何か自然治療でもやりましたか?」
自然治療でここまで回復するとも思えないが。
何しろ、相手は、あのノクターン家の血筋の夫婦。
何かあっても不思議でないかも。
などと思いつつ、医者が問いかける。
「・・・・いや・・・・別に・・・何も・・・・。」
そういいかけて。
ふと。
社会見学の旅行から戻り。
毎日のように朝と夜。
マリアのお腹をさすっていたミリーの姿が一瞬脳裏によぎる。
・・・関係ないよな・・・
その脳裏によぎったそれをどうにか振り払い。
「で・・・・・では!?」
ようやく、今更ながらに喜びが持ち上がってくる。
「ええ。奥さん・・・・マリアさん、無事に出産できますよ。これなら。母子ともに、問題ないです。」
首をかしげつつも、にっこりと微笑む医者に。
「あ・・・・ありがとうございます!やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
それが一番心配だった。
― 妊娠したかもしれない。
そういった、妻の声を聞いたときに。
まず浮かんだのは・・・医者の宣告していた『死』その二文字。
彼女のことだから、事実を話しても、まず子供を産もうとするであろう。
たとえ、そのために命を落としたとしても。
その子供が・・・・育たない弱い命だったとしても。
それが、心配だった。
ものすごく。
・・・・だから、うれしいというよりは・・・・・・・・不安だった。
このまま、マリアがそれが原因で・・・・出来ているお腹の子供ともどもに、死亡してしまう・・・・と。
だから・・・・素直に喜べなかった。
まさか・・・・マリアに『実は、お前の体は子供が出来ない体なんだ。』
そう告げることなど・・子供を欲しがっていた妻には言えるはずもない。
今では、ミリーがいるから、あまり言葉にはしないが。
それでも。
欲しがっているというのは、よくわかっているから。
「・・・・・あの人ったら・・・今頃になって、ようやく実感がわいたみたい・・・・。」
くす。
何かトロイのよね。
リュクって♡
そんな周りが聞いたら完全にのろけ以外の何ものでもないことを考えつつ。
くすくすと、初めての母親になるための簡単な講習をうけているマリアは、一人しのび笑いを漏らしてゆく ―。
「ミリーvいい報告よv」
「なぁに?」
本を読んでいた手が止まる。
「ミリー、お姉ちゃんになれるわよ?本当に♡」
がばっ!
「本当!?お父さま!?お母様!?やっぱり、あの気配赤ちゃんだったんだ!わぁぁぁぁぁぃ!」
その言葉に。
ソファーから立ち上がる。
いやその・・やっぱりって??
両親、二人がそう心で突っ込んだのは、当然であろう。
「何か、三ヶ月くらい前から、お母様のお腹の中に。別の命の気配がしてたのv」
にっこり。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何で分かるの(んだ)?(汗)
にっこりと無邪気に笑って喜びつつ、娘をみつつ。
両親二人は、同時に心の中で突っ込みを入れていた。
ミリーがそのことに気付いてたのは・・。
妊娠したすぐ次の日のこと・・・・・・・・・。
「ミリーが名前をつけてもいいわよ?女の子だって。」
娘であるミリーが姉妹を欲しがっていたのは知っている。
「ええ!?いいの!?じゃぁね・・・・・・・・・ミレア!!」
ミレア=パール=ノクターン。
ミリーの新たな家族の名前。
その名前は、ミリーと、そして、マリアとリュクが話し合って。そう決定していた。
赤ん坊が生まれてくるまで・・・・あと数ヶ月・・・・・。
-続くー
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・・・・・リュクさぁん・・・。
だったら、毎晩はやめましょーよ(笑)
ちなみに、このマリアとリュク。
万年新婚ラブラブカップルですvvはいvvv
ふふふふふふふふふふふふふv
ようやくミレアの登場ですぅぅぅぅぅぅぅぅ!
ミレアとは・・・菫ちゃ・・・じゃなかった。
ミリアム(ミリー)の妹ですvはいvvv
んではではvvv