まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さて、ミトス達の決着につかった台詞、あれ?とおもう人がいるかもですv
あの台詞、すきなんですよね~v
判る人にはわかりますv
…何でアニメではあの台詞、取り入れてもらえなかったんだろう某アニメ…
いや、そりゃ、未来の自分設定もかえられてたけどさ…くすん……
というか、二十周年記念だからって…本屋にいったら完全版がまたでてたぞ…どうするかな。
いや、すでに初版本ももってるし、原画集ももってるし、さらには、
15記念だったかな?ボックス化したのものもってるし…
でも…当時のカラー再録…ううむ…なやむ……きにいったのは、切り抜いて、
そのままファイル閉じにしてるんですよね…あれ…(まて
さてさて、あとがきに別話21(ようやく間欠泉完了)

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「さて、マーテル。お前は何を選ぶ?やはり考えもなく自らを使うか、それとも……」
まあ、あのマーテルのこと。
何をしでかすのか容易に予測がつくが。
そもそも、後先考えなかったのはかつてから。
しかも、彼女は絶対にできる、と変なところで自信過剰のところがあった。
それらの性格からしてまちがいなく何かしでかしかねない。
「しかし、ラタトスク様。あれはいいんですか?」
あれ、とは今まさに、ミトスが置かれている状況。
「何。光が勝か。闇がかつか。…ミトスはもう、わかっているはずだ。
  どちらが正しいのか、くらいは、な」
一つの器に融合した、光と闇の心。
すでにもう、ミトスの中にあった枷となっていたものは取り除いてある。
ならば、
「…まあ、世界を一つにしたのちにあいつはあいつがしでかしたことの責任をとる必要があるだろうしな」
それは本音。
それに、とおもう。
そこまで自分が手をだせば、それは彼らの成長も、そして人の変化も望めはしない。

光と闇の協奏曲 ~光と闇と、そして……~

「が…う…あああああっっっっっ!?」
「ミトス!?」
光が収まったあと、きづけばミトスの姿は一つ、しかない。
どちらがかったのか、それとも……
「く…まだ抵抗するか、こざかしい!」
「いったでしょ!僕は君を元にもどすって!」
その口から同じ口調なれど異なる言葉が紡がれる。
どうやら、最悪なことに、ミトスの精神体はミトス本体に取り込まれてしまったっぽい。
だが、この現象は一体何だ、というのだろう。
ミトス自身が何やら苦しみあがいているようにみえるのは。
「僕は…僕は…みとめ…みとめられない!」
「って、下手にそっちに力をむけたら、それこそ!」
そんな二つの台詞とともに、のびあがるようにと手を伸ばす。
ピシピシとした音がミトスの体を覆い尽くす。
ミトスの体をも呑みこんで、何か巨大な別なるものへと変化する。
昆虫のようなものにもみえ、甲殻類のような何か。
ぱっと見た目、その体が水晶の用なものでできていなければ、ミトスを内包した蜘蛛、に視えなくもない。
「み、ミトス!?」
その姿をみてジーニアスが驚愕の声をあげるが。
「…まずい。ミトスの…僕の本体の心に残ってた負が石と密室につながって、変化してる。
  僕が何とかとめておくから、君たちは、この負の化身を倒して!そうしたら…」
どこからともなくきこえてくるミトスの声。
「で、でも、そんなことをしたら!」
震えるジーニアスの声に。
「大丈夫。お願い。内部にいる僕には破壊はできない、だから…それに、僕は死なない。絶対に。
  …ラタトスクとの約束を破るのは、もう、絶対に!」
約束を果たしていなかったというのに自分を信じてくれた彼のためにも。
「僕は僕で内部にいる僕の心を説得するから、そっちは…暴走した体のほうはよろしく!」
「え?」
「がぁぁぁぁ!」
意味がわからない最中、それとともに、突如とし、サンダーブレードとおもわれし術が周囲に降り注ぐ。
「ちょ!ミトス、やめて!」
ジーニアスがいうが、そこにいる何かに呑みこまれているっぽいミトスは何もいわない。
その瞳はまるで虚無。
何も写していないっぽい。
「とにかく、ジーニアス、さっきのミトスの言葉を信じてこいつを倒すぞ!」
「で、でも…」
ジーニアスはまだ決心がつかない。
「ジーニアス。のきなさい。フォトン!」
「姉さん!?」
姉の術が、異形と化したミトスの体にと直撃する。
「今はどうこういっている暇はないわ。今は一刻の猶予もないのよ」
そう、時は一刻、一刻と過ぎ去っている。
世界を襲っている異常もおそらくは今現在も続いている。
自分達がてこずればてこずるほど、世界に及ぼす被害は甚大。
事実、二つの位相軸が重なりあい、そしてまた、彗星の重力が解き放たれたことにより、
互いの世界が互いに互いを引き合いつつも、ところどころ。
つまりは、大地によっては消滅しているいま現在。
もっとも、別の視点からみれば、かつての姿にもどりゆいている、というのがみてとれるであろうが。
それに気づいているのは精霊達のみであり、当然人が気づくはずもない。
散沙雨あきさだめ!」
リフィルの術により、一瞬、動きがにぶったそれに、ロイドがすかさず連続攻撃の剣技を炸裂させる。
どうやら攻撃はきいている、らしい。
ミトスの声で唸り声をあげてくるが、しかしそこにミトスの心というものは感じられない。
まるで、そう。
目の前の水晶のような姿をまとっている何かがミトスの声を真似しているかのごとくに。
さらにいえば、取り込まれているっぽいミトスの表情にもまったくもって変化はない。
その瞳は虚無のまま。
この姿は、ミトスの心の闇、すなわち負が具現化したものといえる。
あるいみ彼が自らの負を昇華しきれていなかったがゆえに、
その心に迷いがでてきたがゆえに具現化してしまったにすぎない。
そして、この姿は…精霊石…すなわち、エクスフィアと人がよんでいるものを使用している存在達にとっては、
かならずたどり着く姿の一つ、といえなくもない。
人の姿のまま、エクスフィア…輝石とかしてゆくか、異形となりて輝石と化すか、ただそれだけの違い。

ジーニアスやロイド達が、ミトスを呑みこんで変化した何かと戦っているそんな中。
精神世界、心の世界の奥深く。
そこにて対峙している二人の姿。
「もう、君だってわかってるはず」
「だけど、もう、僕だってとめられない!僕の理想を信じてきてくれた人達のためにも!」
「彼らは君の理想、すなわち誰もが差別されない世界を、というのに共感しただけで。
  心云々まで絶対に賛同してるわけじゃない!」
互いの力が、心と心がぶつかりあう。
心の闇に呑まれてしまった今のミトスと、光にみちた心のときのままの過去のミトス。
光と闇。
二つの心が彼らの精神世界の再奥部にて激突する。
「僕が考えてること、君にはわかるよね?」
それは問いかけ。
自分だからこその問いかけ。
「…っ!甘い!人はそんなに甘くない!だけど…姉様に免じて、
  僕の中にお前がいるのかどうか確かめてみろ!」
彼が考えていることは、かつてマーテルがいっていたこと。
姉の言葉はミトスにとっては絶対なるもの。
それに、とおもう。
ジーニアス達とともに旅をする最中、過去のことをよく思いだしていた。
自分が行っていることが、かつて自分が一番嫌悪していたことである、ということも。
それでも信じてついてきてくれたものたちを裏切れない。
今さら方向転換云々、というわけにもいかない。
しかし、天使化させる過程でどれほどの犠牲を出したであろう。
それこそかつて人々が魔界の魔王を呼び出したあのとき、
血の儀式とよばれしあのときの数と大差ないかもしれない。
よくもまあ、これほどの犠牲をだしていたのに魔族がかかわってこなかった、ともおもわなくもない。
そういえば、精霊達がかつて、
その石の特性は魔族にとっては害となるとか何とかいっていたような気がする。
そのときは詳しくきかなかったのだが。
上も下もわからない空間。
重力すらおぼつかないような深層心理の奥深くにあるその空間。
いわばミトス達の深層心理の空間、といってよい。
その空間に、再び、剣が、術が、技がぶつかり合う音がひびいてゆく。
もう逃げない。
今の”自分”と向き合わなくて何とする。
もう、逃げない。
これまで過去からずっと逃げてきた。
だけど、今でなければ過去の”自分”と向き合うことすらできないであろう。
かつて自分が信じていた理想、そして今自分が信じている理想。
過去と現在、あるいみでは光と闇、どちらかかつか。
これは勝負。
「かつて、僕達はいったはずだよ?戦争をおわらせる、ときめたときに。
  …人は誰しも好き好んで戦争なんかしてるはずがない。
  戦争を起こす心が闇ならば、平和を望む心、それが光。ならば…」
「…ユアンが、甘い、といったあの台詞」
「「かけようか?人の心の光がかつか、闇がかつか」」
その台詞は二人同時。
かつて、そう、かつてミトスはそういった。
それをきき、ユアンが甘い、といっていた。
その後、ユアンもお前達が挫折するのをみてみたい、とかいいながら旅にと加わってきた。
それは過去の記憶。
まだ、戦争を終わらせる前のその記憶。
「今、一度、それを僕からいうよ?」
「それは、こっちの台詞だ」
「「かけようか?人の心の闇が勝か、光りがかつか…勝負だ!!」」
互いの全力ともいえる技がその言葉を合図にとぶつかり合う。

人は誰しも己の中に闇をもっている。
が、人はそれらをうちかつ光の力をももっている。
光と闇の狭間にいきるもの。
それが人。
”心”が芽生え、その理をもつもの全てが”人”…すなわち、”狭間にいきるもの”といってよい。
光と闇は常に表裏一体。
そして闇はいつでも光をたやすくのみこんでしまう。
だからこそ…常に、人は自らの内にある、光…人によってはその希望を”星”と称した。
その光を常に輝かせる必要がある。
暗闇の中でもその道しるべを見失ってしまわないように。
そして、闇はあふれれば、その器すらをも飛び出し、闇は全てをおおいつくそうとする。
そう、それこそ夜の闇、のごとくに。
何の灯りもない空間は深遠の闇。
そこに灯りがあるからこそ、人は活路を見いだしている。
それは夜空にしても然り。
輝きがたりなければ、暗闇の中での道しるべにはなりはしない。
かつて、魔族とよばれしものたちも人、とよばれし存在達であった。
だが、時のなかで彼らは闇にまけ、またその闇に順応して進化していった。
かつて、ラタトスクがこの惑星に来たとき・・・魔族達は、惑星をものみこんで、
消滅を、という考えを抱いていたほどに。
闇の究極ともいえるその思考。
全てを…無に。
母なる世界に自らの手で還りゆかす、それが魔族達がほとんどもっている思考。
全てを無に還さんとするその本能は、彼らが逃れたいがゆえに生み出し芽生えた心。
この惑星におりたち、彼らのそんな理も少しづつかえていってはいはするが。
しかし、本質的にはまだ彼らはかわっていない。
惑星ともども…すべての内部に”還りゆく”その本能そのものは。
しかし、理を少しづつとはいえ変化させていった結果、今の魔族達は少しはかわりゆいている。
それは、自らが惑星を滅ぼすのではなく、時のおもむくまま、自然のままに。
そういう一派と、人の手により滅ぼせばいい、という思考をもつものとにわかれている。
かつて、ミトス達が封じたリビングアーマー達は後者。

ドオ~ン!
「フィールドバリアー!」
倒れ込んだリーガルのかわりに、リフィルの援護をうけたプレセアが放たれた火のたまをくぐりぬけ、
そのまま斧をふりおろし、蜘蛛のようなそれの足を二、三本切り落とす。
「ジーニアス!気をつけろ!」
いまだに状況が理解できなかったのか、その場に茫然としており、
ゆえにミトスの至近距離にいたジーニアスをそのいきおいのままつきとばすロイド。
そして、そのまま剣を上段にとかまえる。
それはジーニアスを背後にかばうような形で対峙している格好となっていたりするのだが。
「な…なんだよ。ロイド、僕だって……」
かわってしまった友達。
目の前の化け物の中に、たしかにミトスはいるのに、それはまるで人形のよう。
表情もなにもなく、ただ取り込まれているだけ、のような。
「しっかりしなよ!あいつはあんたに何ていったのさ!」
そんなジーニアスにしいなの叱咤がはなたれる。
ミトスはあのとき、自分達にこの姿になった自分のことを託していた。
おそらくは、内部にて過去の彼と今の彼とでの戦いがおこっているのであろう。
それこそ、自分の心というか向き合うために。
しいなが、あのとき、ヴォルトの神殿で、自分の過去とむきあったように。
「…僕だって…僕だって、ミトスの…ミトスの友達だ!
  氷結よ、我が命に答えよ、敵をなぎ払え!…フリーズランサー!!」
ミトスが望んでいたこと。
それは、目の前の異形とかした自分を止めてほしい、ということ。
負が具現化したとかいっていたような気がするが、そのことに関してはジーニアスもよくわからない。
ジーニアスの放った氷の槍をまともにうけ、唸り声とともに身をよじるそれ。
「今だ!みんな!」
ロイドの言葉をうけ、
「幽玄凄符!」
しいなの術により、動きがにぶる。
体勢を立て直し、機をまっていたリーガルが、飛竜顎をくらわせる。
それに続き、ゼロスが間髪いれずに剣劇を下す。
それとともに、ロイドのマテルアルブレードがゼロスの剣劇とともにひらめきをみせる。
それはゼロスとロイド、二人による剣技。
左右から放たれたその技は、そのまま東部らしき場所…
すなわち、ミトスが取り込まれているその場所を直撃する。
「うぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、それがどうやら致命傷、というかとどめになった、らしい。
何ともいえない悲鳴のような、それでいてむなしいような声は、
そのままその場の空間にと吸い込まれてゆく。
そしてそのまま、自らの技で破壊した床にとぐしゃり、と崩れ落ちる。
「ああ!?ミトス!?」
「ミトスが!?」
その声は、コレットとジーニアス、ほぼ同時。
化け物が光とともにきえるとともに、そこにはミトス…しかも少年の体にもどって倒れていたりする。
やがて、その体も輝きとともに、はじけきえ、やがて、そこに浮かぶは一つの石。
ハイエクスフィア…クルシスの輝石、とよばれしものがひとつ。
淡く光る石とともに、ミトスの体が半透明にと透けている。
その瞳はいまだ閉じられたまま。
「アリシアと同じ…です。クルシスの輝石があるかぎり、ミトスは生き続けます」
プレセアが、アリシアの言葉を思い出しつついってくる。
あのときは、エミルが何かしたようではあったが。
今、ここにエミルはいない。
と。
刹那、まばゆいばかりの光りが、輝石であろうそれから発せられる。
光がおさまり、やがてその光りは一つの少年の姿をかたちどる。
そして、ゆっくりとその少年が目をあける。
おもわず身構えるロイド達。
目の前のミトスが、敵対していたミトスなのか、それとも……
「ミトス、だよね?」
ジーニアスがそんなミトスにたいし、語りかけるが。
「…うん。僕は僕でしかないよ」
「少しいいかしら、過去のあなたはどうなったの?それとも今のあなたは、過去のあなたなのかしら?」
それは問いかけ。
目の前のミトスからは敵意とかそういうものが一切感じられない。
「過去も…今も、僕は僕でしかないから。過去のときに決意したことも真実。
  そして…人に絶望し、千年王国を計画したのもまた真実」
いいつつも、
「…そんなことをしたら、姉様が悲しむ、というのも僕は耳をふさいで、目をふさいでた……」
一つになったからこそわかる。
共にいた彼、エミルが誰だったのか、ということが。
裏切っていたというのに、自分を心配してくれていたエミルのことを思い出す。
彼は…自分がかってにいったあの約束を覚えていてくれたのだ、とふとおもう。
世界が平和になったら一緒に旅をしようよ、そう自分からいったあのときのことを。
今は平和とは自分のせいでいいがたかったかもしれない。
けど、旅をしよう、というその言葉の口約束・・・ミトスが一方的にいっただけだ、というのに。
その約束を果たしてくれていたのだ、と。
自分で全てを追い込まないで。
そう、エミルにいわれたことを思い出す。
…彼も僕と同じでどこか不器用だよね、とふとおもう。
だからこそ、もう、間違えたくない、とおもう。
過去の自分までひっぱりだして…自分の目を覚まそうとしてくれた彼のためにも。
「…ねえ。クラトス。覚えてる?ユアンが僕たちの旅にはいるきっかけとなった、僕の言葉」
「…それは……」
クラトスが思わず顔をしかめる。
その言葉は、クラトスにとっても耳がいたいといってよい。
彼もまた、耳をふさいでいた当事者の一人。
「とりあえず、何とかなったってことでいいのか?
  というか、お前、あのユアンに何いったんだ?」
どうやら敵意がないらしいので剣をおさめ、のんびりとといかけているロイドに対し、
「おいおいおい。ロイド君よ~。まだ警戒はとかないほうがいいんじゃないのか?」
あきれたようなゼロスの台詞。
みれば、いまだにリーガルもプレセアも警戒をといていない。
まあ、それが当然、といえるであろうが。
「…秘密」
かけようか?人の心の闇が勝つか、光りがかつか。
まだその答えはミトスの中でもでていない。
何が闇で何が光なのか、それすらも。
だけども、一つだけいえることがある。
誰かが悲しんで、誰かを犠牲にするそんな世界は間違っている。
そうおもい、かつて行動をおこした自分。
そして、それに賛同してくれた姉。
そういいつつも背後を振り返る。
そこに浮かぶはかつてラタトスクより託された大いなる実り。
「……姉様……」
実りの中にいる姉、マーテルの姿。
だけども、今までは気づかなかったがふと気付いてしまう。
託されたときに感じていた大いなる実りのマナの奔流。
それが、今、この場にある大いなる実りからはまったくもって感じられない。
あるのは薄いマナの奔流のみ。
マーテルの傷つけられたハイエクスフィアが大いなる実りをくいつくし、
マーテルも実りも失われてしまうぞ!
それは、ユアンがいっていた言葉。
それに、とおもう。
永きにわたり、世界の元ともいえる種子の中にいた魂が無事でいられたのか。
それこそ、かつての人が躍起になって生み出そうとしていた人工精霊的な何か。
に変化していてもおかしくないかもしれない。
そうなれば、自分が望んでいた、姉であるマーテルの完全復活、ということは望めない。
それは姉でありながらも精霊となってしまったということであり、
そこに姉の記憶があるかどうかすらもあやしい。
まあ、呼びかけに応じてくれた以上、意識はまだある、みたいではあるが。
きになるのは、内部にいる姉の気配が希薄で今にも消えてしまいそう、ということ。
姉を補佐するために数多の少女達の精神体すらくみいれていたそれすらも今は感じられない。
と。
突如として、ロイドの鞘におさめた二つのマテリアルブレードが輝きだす。
『どうやら、王の好意を無駄にはしなかったようだな。ミトスよ。
  さて、古き契約の主、そして新たな契約をのぞみしものよ。
  お前達は、我に何をのぞむ?』
ロイドが手を触れてもいないのに、勝手に剣が鞘からぬけだし、
二つの剣は空中へとうかび、そしてそれらは重なり合い、
虹色の光りをもつ一振りの剣へと変化する。
この場にいないはずの第三者の声が周囲にと響く。
それは、かつてロイドたちが救いの塔の内部できいた声。
そして、ここにくるときに崩れた救いの塔できいた声に他ならない。
声の主は、いうまでもなく…目の前にうかびし、エターナルソード。
「クラトス…またせてごめんね。約束は果たすよ。ロイド」
「え?あ、ああ。いくぜ!」
ミトスが何をいいたいのか、説明されることなくロイドは察し、
そのまま二人して、剣にと手をかける。
そして。
「「二つの世界を、あるべき姿に(もどして)!!」」
ロイドとミトス、二人の声が、互いにより手をあわせてもった剣。
二人で一振りの剣をかかげ、そのまま高らかに宣言する。
刹那、まばゆいばかりの光りが、彼ら、そして世界を包み込んでゆく……


右も左も、景色すらもわからない空間。
ふと、気づけば周囲に精霊達の姿が認識できる。
それは感覚なのか、それとも実際にそこにいるのか、それはしいな達にはわからない。
「契約者よ。汝達のいっていた、二つの世界は統合された」
「我らにかした汝の契約、二つの世界が争わないようにするため、という契約はここになされた」
「目の前で困っている人を助けることを誓う。あなたはそう誓いました。
  が、その誓いによってあなたが人の動乱に手をかすようであれば、
  それは契約をたがえたことになる、と心得なさい」
精霊達から口ぐちにそんな言葉がしいなにと投げかけられる。
ふときづけば、そこにいるのはしいなのみで、ロイド達の姿がみあたらない。
「それは、いったい……」
しいなが声をかけるのと同時。
「すでに、決定はなされた。この後の結果は……しだい」
「ちょっとまっとくれ!」
何次第、といったのだろうが。
だが、ふとしいなの意識がどこかにぐんっとひっぱられてゆく。
「夢夢忘れるなかれ。人の世でおこったことは、人が解決すべきことなのだ、ということを。
  我らが手をだせば、そこに必ず歪みが生じる、ということを」
そこにしいながきいたことのない…否、どこかで聞いたような覚えがあるような、
深く、それでいて重苦しい声がきこえてくる。
刹那、まばゆい光のもと、しいなはおもわず目をつぶる。
リッン……
しいな、私はあなた達、人の心を信じています。それが私の今のありようでもありますから。
なつかしき鈴の音と、それでいていきたことのない声がしいなの心にと響いてくる。
「…コリン?」
声は違うけども、だけども判る。
今の声は、コリンのものだ、ということが。


「戻ってきた…のか?何がおきたんだ?」
ふとみれば、そこにいるはずのミトスの姿がないことに不安を覚える。
一緒にたしか、エターナルソードを掲げたはず、なのに。
久しぶりにみる空の青さ。
ここ最近は常に互いの世界の大陸がみえており、青空などみた記憶がない。
草木の臭いがここちよい。
が、突如として激しいばかりの揺れが、大地に降り立ったであろうロイド達にとおそいくる。
その揺れはとどまることなく、やがて、大地がうねりをあげるがことくに変化する。
まるで、大地が波のごとくに波打っている。
それとともに、周囲の木々が、草花が一気に枯れ始めてゆくのがみてとれる。
それをみて、思わずクラトスが顔をしかめる。
ちなみに、クラトスは羽をだして大地の揺れからどうにか逃れているがゆえに、
立っているのもままらないロイド達とはちがい、きちんと姿勢をたもっていることができている。
ミトスの姿がこの場にみえないのは気がかりなれど。
それとも、あのときのミトスは自分の願望が…ミトスをも助けたい、とおもった思いがみせた錯覚なのか。
「…やはりそうか」
クラトスがにがにがしくも、ぽつり、とつぶやく。
「…そういうこと、ね」
リフィルも何かに思い当たったらしい、表情ははてしなくけわしい。
大地の揺れはとどまることをしらない。
「どういう、こと、ですか?この揺れは、一体……」
プレセアが何とか自らの斧を大地につきさし、それを支えにしながら、
クラトス達にとむきなおる。
「……元々、世界は大地の滅亡を防ぐために、二つに分けられたのだ。
  あのままでは大多数の大地が消えてしまう。それほどマナが不足していた。
  だが、今、世界は一つに戻された。…あるべき姿にもどれば、かつてのまま。
  すなわち…世界を支えていたマナは不足していた」
「だから、どういうことなんだよ!」
信じたくはない。
それゆえにおもわずロイドが声をはりあげる。
「つまり、大地は死滅しようとしている、というわけね。この揺れはその前段階…」
「しいな、精霊達は?」
「それが…精霊達との繋がりが、今は断たれているんだ。さっき…
  ここに移動する直前に、彼らがいきなり出てきたのと関係あったのかもしれない」
しいなも何がおこっているのかわからない。
「そんなことはどうでもいい!それより、どうしたら、世界を、大地をまもれるんだ!」
せっかく世界を一つにし、互いの世界がマナを搾取し合うというような世界でなくなったのに。
大地そのものが消えてしまっては何の意味もない。
「考えられるとすれば、ただ一つね。
  二つの世界を…この世界を支えるための楔にするために、大樹をよみがえらせる。
  それしかないわ」
リフィルのいい分は至極もっとも。
しいなが呼びかけるが、精霊達からの返事はない。
それどころか、精霊達との繋がりが、幾体か完全にもはや閉ざされている。
それは、しいなが二つの世界、と誓いをたてたときにいれたときにいれた精霊達。
「…マナが……」
マナが、少ない。
極端に。
否、どんどんとマナが減っていっている。
マナを感じ取れるからこそ、ジーニアスが思わずつぶやく。
あれほど安定していたはずのマナが、今、まさに完全に消滅しようとしているかのごとくに。
「そうだ。大樹カーラーンの復活以外はありえない。
  ……ミトスのあのいいようからしてみれば、精霊も目覚めているようだから大丈夫。
  だとはおもうのだが……」
しかし、何というのか、不安がぬぐいきれない。
「みて!星が……」
ふとみあげれば、そこに空を覆い尽くしていたはずの惑星、否彗星があったはずなのに。
いつのまにかその姿は、月と変わり映えがなくなりどんどんと離れていっている模様。
「ロイド、いそぐのだ」
「このままでは、大いなる実りともども、彗星デリス・カーラーンとともに失われてしまう」
リーガルとクラトスの台詞はほぼ同時。
「つまり、大樹カーラーンを目覚めさせるんですね」
コレットもクラトスの様子をみて、おぼつかない体勢を整えるのは、どうやら羽をだしてうけばよい。
そのことにおもいあたったらしく、ふわふわと浮かびつつも、クラトス達にとといかける。
「ロイド、いそいで!デリス・カーラーンが遠くにいっちゃうまえに、
  デリス・カーラーンのマナを照射しないと!」
たっていることすらもままならない、大地の揺れ。
「そのマナで、大いなる実りを発芽させる。それが唯一の世界を助ける…再生の道だ」
ジーニアスにつづき、クラトスが淡々というが、その表情はけわしい。
何かをみおとしている。
それが何なのか、がクラトスにはわからない。
そもそも、あれからエミルの姿がみえないこともきにかかる。
そして、今、しいながいった精霊との繋がりがたちきられている、というその台詞。
だが、今はそれらを考えている暇はない。
このままでは、まちがいなく、彗星デリス・カーラーンは宇宙のかなたへと消えてしまう。
そうなれば…大地はどうなるのか。
精霊が目覚めている以上、世界の存続は果たされるであろうが、
そこに人が…人がいきられる世界があるか、といえば答えに窮する。
「よし、たのむ!エターナマルソード!」
ロイドが手にしていた剣をふりかざす。
と。
『……すでに、デリス・カーラーンは大地の引力圏を離れようとしている。
  これをひきとめることは、かつてのユグドラシル…ミトスですらできなかったことだ。
  だから、彼は我が力をもってして、マクスウェルの力を研究し自らが開発した、
  創世力をもってして、塔をつくった。惑星をとどめ置くために。
  そうして我をその中心におくことでそれをなしとげたのだ。
  すなわち、単体でそれを行うことは不可能であったといってよい。それでもやるのか?』
どこからともなく、その場にいる全員の心に響くような声がきこえてくる。
それはまちがいなく、剣から発せられている言葉、なのであろう。
「ああ」
ロイドの言葉に迷いはない。
『……ハイエクスフィアにて、体を強化し、さらにはお前の母親の加護があっても、
  体はもたないかもしれない。それでも本当にやるのか?』
そもそも、今の種子に力を解き放っても、今のあれは種子にあらず。
それゆえのといかけ。
まあ、それを人に説明するほど彼も寛容ではないし、聞かれてもいないので答えていないのみ。
母親の加護、という言葉の意味がわからずに、ロイドは一瞬、首をかしげるが、
「やるったらやるんだよ!やんなきゃどうしようもないだろうが!」
それはいらだったような声。
大地の揺れはだんだん激しさを増している。
傍からみれば、いくつかの場所では揺れとともに津波が押し寄せてきている場所。
そして、大地が陥没したり、また隆起しているのがより顕著に見受けられていたりする。
それこそ、これまでとは比べ物にならないほどに。
そして、世界は一つの姿を形どってゆく。
それは、もともとこの惑星が、大地が二つにわけられている前にとっていた姿。
空から大地をみていれば、かつての大地に戻っていることがわかるであろうが、
当然そのことにロイド達が気づくはずもない。
『・・・・・・・・・・・・・・承知した』
どうして人は無駄だとわかっているのに挑戦しようとするのであろうか。
しかし、契約者が行う、というのならばそれをあえて否定する要素はない。
そもそも、現実をみせつけないと、人という存在は納得しない、のだから。
また、現実をみせつけても、人は諦めようとはさらさらいない、という図太さももっているのだが。
ふとみれば、大いなる実りがどうしてなのか、
まるで真昼の流れ星のように地上に降ってきているのがみてとれる。
彗星からどうして落ちてきたのか、それはロイド達にはわからない。
だが、そこにあるのならば、力の照射というか対象を指定することはたやすい。
そうとばかりに、エターナルソードを掲げ、
マナの照射を、という願いのもとに力を発動させる。
が、エターナルソードより解き放たれたマナはことごとく、大いなる実りからはじき返されてしまう。
「な、どうしてだ!?」
ロイドがそれをみて思わずさけぶ。
「まさか…いえ、まさかとはおもっていたけど…」
「姉さん?」
リフィルの声が震える。
「覚えていて?ユアンのいっていた台詞。マーテルが目覚めれば、大いなる実りは失われてしまう、と」
大樹がよみがえればマーテルが消えるが、しかしマーテルがよみがえれば、
種子はマーテルに取り込まれてしまうであろう、と。
そして…あのとき、マーテルは一時にしろ蘇った。
コレットの体をかりた、とはいえ。
蘇る、という意味合いを、もしも意識の覚醒、という意味でとらえるのならば……
「まさか…大いなる実りは死んでしまってるというんですか!?」
コレットの悲痛ともいえる声。
と。
「あ」
力を解放するとともに、基本、エターナルソードに願える願いは三つ、と定められている。
「しまった…エターナルソードに願うのは、一人の契約につき、三つとたしか定められていたはずっ」
クラトスが今さらそのことにきづき、何やら叫んでいるが。
その点、ミトスはさすがとしかいいようがない。
一つの願いでいくつもの可能性を考えて組みこんでいたがゆえに、四千年ものあいだ、
その機能というか願いが継続されていたに過ぎない。
しかし、ロイドは一つの願いにつき、一つの事柄しかたのんでいない。
一つ目は、デリス・カーラーンへ運んでほしい、というもの。
二つ目は、世界を一つに。
そして今。
マナを大いなる実りに照射する、というその願い。
ゆっくりと落ちてきていたはずの大いなる実りは、やがて今度はゆっくりと上昇する。
「まて!いかないでくれ!頼むから、目覚めてくれっ!!!」
ロイドの叫びにまるで呼応するかのように、
ロイドの手につけているエクスフィアが輝く。
そして、その輝きとともに、ロイドの背に蒼くひかる翼が出現する。
それはクラトスの翼と似たようなもの。
少しばかり色彩が異なるにしろ。
それは、クラトスからうけついだ、天使化したときの特性のひとつ。
今までずっとロイドの中で眠っていた、微精霊達の力の特性のひとつ。
自分の背に翼がはえたことに戸惑いを隠しきれないものの、
しかし今はうろたえて狼狽しているときではない。
意を決し、そのまま翼をはためかせ、大いなる実りにむけてその場からとびたってゆく。

「ロイド」
ロイドが大いなる実りに飛んで近寄っている最中、
コレットも思うところがあったのであろう。
ロイドにつづいて、翼をはためかせ、ロイドの後ろについてきていたりする。
目の前にはいまだにゆっくりと浮上してゆく大いなる実り、花のような種子がひとつ。
コレットがそっと、自らのクルシスの輝石に手をかざすとそれはほぼ同時。
コレットの中から、きらきらとした輝く何かの欠片のようなものが、
まるで浮上する種子をとめようとするかのごとくに大いなる実りにとまとわりつく。

――やはり、考えもなしに行動したか。

どこからともなくそんな声が聴こえたような気がしなくもないが。
しかし、ロイド達の目の前で、浮上していたはずの種子は目の前にとどまっているのがみてとれる。
と。
「ああ!?エターナルソードが!?」
さっき、ロイドの手から消えてしまったはずの剣が、ロイド達の目の前にと突如として出現する。
「よかった!」
ロイドの驚愕した声と、コレットの安堵したような声。
そのまま二人は無言でうなづきあい、二人して、
さきほど、ロイドとミトスがしたように、今度はロイドとコレットがそっと剣にと手をそえる。
エターナルソードを二人で支えているその眼下に今まさに、大いなる実りは存在している。
「これが、最後の願いだ、エターナルソード!」
「大いなる、実りを目指せ冷めて、お願い…っ!」
「目覚めろ!大樹、カーラーン!!!!!」
ロイドの声とともに、剣が、振り下ろされる。

まばゆいばかりのマナが大いなる実りのもとにとおちてゆく。
それはマナを一新にあび、吸い込みながら、そのまま今度こそ大地目指しておりてゆく。


荒涼とした大地に達、少女はまちのぞむ。
大地の揺れは激しいが、少女には関係ない。
そもそも、少女の重さが姿勢を保つのに役だっている。
天空から大いなる実りが近づいてくる。
風の音と、大地の震えが時をつげる。
すでに、解き放たれていた少女たちの念というか魂の説得はおえた。
説得に応じなかった魂達は多々といたが、それは仕方がなかったとおもう。
そもそも、自分は彼女たちに糾弾されてもおかしくない立場でもあるのだから。
二つにわけられていた精神は、一つ戻ろうとし、自らのもとに舞いおりてくる。
一つは、コレットの内部にのこしていた自らの魂の一部。
その魂は、今や大いなる実りと同化している。
一つにもどったとき、自分はもう、自分ではない、であろう。
それこそ、数多の少女達との精神融合を果たす、そう理解している。
だけど、このまま種子を目覚めさせないままでいる、というのはどうしてもゆるせなかった。
愛している大地が死滅してゆくのはみたくない、それゆえの行動。
永きにわたり、直接、大いなる実りの波動を内部で感じていたのである。
他者のマナをまねることができていた自分ならばきっとできる。
それゆえの行動。
そこに、精霊ラタトスクから大樹を奪う、という概念はない。
ただ、命を失った種子にあらたな命…自らの命を宿した、そういう認識かないのもまた事実。
それがもたらす結果など、今の彼女は考えてすらいない。
ゆっくりとおりてくる水晶のような花の形をしたそれは、
両腕をひろげた少女をまきこみ、やがて翻弄し、かつて融合できなかった数多の魂とともに、
一緒に次なる段階へと進化をとげる。
かつて、人が躍起になって研究していたもの。
人工的に精神体を人工精霊とする、というその過程のままに。
分かたれていた魂からぬけだした、もう一人の自分の魂が、
祈りをささげている格好の少女…タバサの体を優しくだきしめる。
すでに、タバサの心はここにはない。
あのとき、ミトスの攻撃によって、完全にタバサは死んでしまっていた、のだから。

自らの命をもってして生み出したのは、小さな苗木。
それでも、芽吹いたことにほっとする。
自らの魂はこの苗木と直接つながっている。
この苗木が彼女ならば、姿を形どっているのもまた彼女。
どちらがかけても存続できない…その人工的ともいえる精霊のありよう。
簡単にいえば、彼女の核となったのが、この苗木、といっても過言でない。
しかし、まだたりない。
まだ誕生したばかりの人工的というか偶発的な精霊の彼女には、たりないものがある。
そして、それをもたらすためには……

ロイド達が種子にと剣を振り下ろしたその直後。
再びロイド達の手から剣が瞬時のうちにとかききえる。
成功したのか、失敗したのか。
それすらもわからない。
ゆえに、互いに顔をみあわし、種子が落ちていったとおもわしき場所に、
二人して手をつないだままゆっくりと降り立ってゆく。
二人が大地に降り立ち目にしたのは、どこかみおぼえのある…女性が、
そこに芽吹いている小さな苗木をいとおしそうになでている現場。
ふと、その女性がロイド達にきづいたのか、振り返る。
それは、どうみてもタバサそのもの。
だが、何というのか、雰囲気が違う。
それに手にしている杖は…それは、ロイドやコレット達が、
マーテル教の経典でよくみていた女神マーテルがもっている、という世界樹の杖。
とよばれしものに酷似しているのがみてとれる。
「あんたは……」
そこにあるのがもしかして大樹カーラーン、とでもいうのだろうか。
ゆえに、ロイドが戸惑いがちにその女性にと話しかける。
「ここは…」
きづけば、いつのまにか、周囲にはリフィル達が移動させられていた、らしい。
どうやら全員気絶していたらしく、頭をふりつつも、ゆっくりと立ち上がっているのがみてとれる。
「まさか…マーテル!?」
その驚愕にもにた台詞はクラトスの口から。
どこからどうみてもマーテルそのもの。
それゆえの驚愕。
ならば、まさかマーテルが蘇ったことにより、大いなる実りは…
そんな不安がクラトスの心の中を駆け抜ける。
「マーテルって……」
ロイドがクラトスの台詞に思わず目の前の女性をまじまじとみつめる。
緑の髪に緑の瞳の女性。
たしかにいわれてみれば、マーテル教の経典にある女神の姿に似ているような気もしなくもないが。
しかし、誰かによくにている。
雰囲気が異なっているがゆえに、それがタバサであることにロイドは気づけない。
「あなたは……」
リフィルがその女性にたいし、背後にジーニアスをそっとかばいつつも、問いかける。
何がどうなったのか、リフィルにも理解ができていない。
クラトスのいうように、マーテルが復活してしまったのならば、種子は失われてしまったる
という可能性がはるかにつよい。
それでなくても、種子にはもう力がのこっていなかった模様。
デリス・カーラーンのマナを注いだときにもすぐにはめぶかなかったほどに。
問われた女性は、ゆっくりとその場にいる全員。
ロイド、コレット、ジーニアス、リフィル、クラトス、しいな、プレセア、リーガル、ゼロスを見渡し、
かるくほほ笑みをうかべつつ、
「……私はマーテル。そして、大いなる実りそのもの」
穏和っぽいような声でそんなことをいってくる。
その顔には優しい笑みが浮かんでいるまま。
「人々の希望が、そして、ロイド、あなたの希望が、私を蘇らせた」
マーテル、という名、しかし大いなる実りそのもの、とはどういう意味なのか。
やはり、マーテルは大いなる実りを喰らいつくして、復活した、とでもいうのであろうか。
かつて、ユアンの説明をうけたとおりに。
「あなたが、ミトスのお姉さん?」
ジーニアスのどこかとまどったような声にたいし、
気配でわかる。
目の前のマーテル、となのったものは、人ではない、ということが。
かといって、精霊、でもない。
どちらかといえば気配的には、あのコリン、となのっていたあの子に近い。
しいなは、コリンのことを人工精霊だ、といっていた。
しいていうらなば、目の前のマーテル、となのった人物はその気配が一番近しい。
「いいえ。ミトスの姉であったマーテルは、私の中の一人にすぎません。
  私は、マナそのものであり、大樹そのもの。
  大いなる実りに吸い込まれていた、たくさんの少女達の象徴。
  大樹と寄り添うために誕生した、あらたな精霊。
  そして、種子は今、私とともに目覚めを迎える――」
マーテル、という女性がそういうのと同時、彼女の背後にあった小さな苗木。
それが瞬く間に成長したかのようにみえ、大樹となる。
が、その大樹の姿は透けており、その下のほうにはまだ小さな苗木でしかないものもみえる。
つまり、それが意味しているのは、今、ロイド達が目にしている、
この完全に透けて投影されている大樹の姿は幻影といってよいであろう。
頂きの枝には雲がかかり、その小枝は荒れ果てた土地をいだして眠るかのように優しく広がっている。
その姿は、かつての大樹の姿。
種子に記憶されていた、本来たる大樹カーラーンの姿。
その姿を模した幻影を、今ここに彼女が投影しているに過ぎない。
種子に刻まれていた記憶をもとに。
「これが…大樹、カーラーン!?」
「すごい。とても大きくて綺麗……」
ロイドが驚愕の声をあげ、コレットが思わず空をみあげてつぶやく。
「木が透けている、ということは…」
「幻影、だろう。あれは」
「…おそらく、予想でしかないけど、あれはもしかして、
  種子に刻まれていたであろう本来の大樹カーラーンの姿、ではないかしら?」
何やら大人組みのみは、冷静にそんなことをつぶやいているが。
ゼロス、リーガル、リフィルの淡々としたものいい。
彼らは、彼女がいった、大いなる実りそのもの、というのに違和感を感じざるをえない。
というか、リフィルからしてみれば違和感がありまくる。
何しろ、目の前の女性からも・・・背後の苗木とよばれしそれからも、
かつて、エミルがもっていた大樹の小枝のごとくのマナの奔流をまったくもって感じない。
マナの流れすらも。
だからこそ怪訝に思ってしまうのも仕方がない、といえよう。
しかし、子供達はそんなことは夢にもおもわずに、みせられている幻影の神秘的な光景に、
何ともいえず素直に感心している様子。
それゆえに、リフィルは思わず内心ため息をつかざるをえない。
「これが、大樹の未来の姿。でも、今はまだ小さな芽。
  このままでは、すぐに枯れてしまうでしょう」
リフィルのため息と、マーテル、と名乗った女性の声はほぼ同時。
それとともに、幻影であった大樹の姿はまたたくまにとかききえる。
枯れてしまう、という言葉をきき、
「どうしたら大樹を守れるんだ?」
今、幻影とはいえ大樹の姿を見せられたことにより、
ロイドはその背後にある苗木が大樹カーラーンであることをまったくもって疑っていない。
疑っているのは大人組、だけであろう。
クラトスのほうは、いまだにマーテルの姿をした女性の姿に動揺しているのがみてとれる。
「この大樹を慈しみ、愛すること。その約束が果たされるかぎり、私はこの木を守りましょう」
守る、というが、そもそもたしか、本来ならば大樹にはもともと精霊がいたはずである。
なのに、あたかも自分が大樹の精霊となったようなそのいいまわし。
それにどうしてもリフィルは疑問を感じざるをえない。
あのような枯れたような小枝ですら、ものすごいマナの奔流を感じたはずの大樹。
なのに、まだ苗木とはいえまったくマナの欠片も感じない、というのはあきらかにおかしい。
それこそ…ユアンが危惧していたとおり、力なきものに成り果てている。
という可能性も否めない。
空気中のマナもどんどんと涸渇していっているのが手にとるように感じられる。
もしも、目の前の苗木が大樹ならば、そのようなことはありえない。
だが、そんなリフィルの懸念を当然知るよしもない、のであろう。
「約束する。もしも木が彼そうになっても、必ず俺達がくいとめる!」
何やら勝手に一人でそのマーテル、となのった女性の声に耳をかたむけているロイドの姿。
そんなロイドの言葉に、マーテル、となのった女性はさらに笑みを優しくうかべる。
クラトスのみが、ぴくり、とどこか何かに反応しているような気がしなくもないが。
クラトスは、その表情をよくしっている。
それは、マーテルが深く怒ったとき、もしくは誰かを説得したりするときに、よく浮かべていた表情。
自分の思うがままの通りに相手がなったときに無意識のうちに浮かべていた表情。
それと、かぶる。
かぶってしまう。
「では、ロイド、代表として、あなたにお願いします。
  契約の証として、この大樹に新たなる名前を。
  大樹カーラーンはかつて、エルフがこの地にやってきたときに、この地を守るために植えられた木。
  でも、新たに蘇った木はエルフと人。
  その狭間のものを、全てを守る存在。だからこそこの木には新しい名前が必要です」
たしかに、傍からきけばもっともらしい台詞。
だが、リフィルは知っている。
大樹カーラーンのその存在意義の意味を。
しかも、契約、という言葉をもちいた、ということは、その在り様の理を書き換える、ということ。
しいなにおもわず視線をむけるリフィルだが、どうやらしいなはそのことに気付いていない、らしい。
「…なんか、胡散臭くないか?」
ぽつり、と語られたゼロスの心情は、まさにリフィルの心情そのもの、といってもよいであろう。
たしかに見た目は温和そうで無害そうな女性。
しかも、気配は精霊…否、人工精霊のようなそれと同じもの。
だが、子供達はどうやらその違和感にまったくもって気づいていないらしい。
リフィル達がその違和感を指摘するよりも早く、
「ねえ。ロイド、名前をきめてよ!」
「そうだね。あたしたち皆の木になるんだろ?これは」
目をきらきらさせていっているジーニアスに、しいなもそんなことをいっていたりする。
少し考えれば違和感があるであろうに。
彼らは、大樹カーラーンの精霊がいることをしっている。
しかし、完全にマーテル、となのった女性の言葉を信じ切ってしまっている。
それが何を意味するのか、彼らはまったくもって裏を考えてすらいない。
「ロイド。名前をきめてよ。あたしたち、皆の木に」
コレットが横にいるロイドにと語りかける。
どうやらコレットも気づいていない、らしい。
その少し考えればわかるような違和感に。
そして、その違和感に気づいていないのは、当然、ロイドも同じことであるらしく……
「ようし、きめた!この樹の名は…」
両腕を大きくひろげ、目をとじ、そして次に目を開いたときにその名をつげる。
新しい名を人がつける、ということ。
それは、人によってあらたな理を上書き、すなわち、精霊の契約を上書きするにすぎない。
それによって何がおこるか。
そのことに、ロイド達は気づいてすら、いない。

人による新たな名を授けられること、それは完全に精霊ラタトスクとの繋がりが断ち切られた。
といってもよい。
もともと、人工精霊ともいえる存在。
数多の少女達の念の集合体。
彼女達の思いは、自分達が護ろうとしたものは、自分達の手で。
自分達が産まれたときにすでになかった樹など関係ない。
自分達の手でどうにかできるから、というようなあるいみ傲慢たる理由。
四千年にわたり、種子の中にいたがゆえに、マナの感覚もつかめている。
そして、一番の問題は…その感覚がつかめているから模すことができる。
そう、思い込んでいる、この一点につきる……

「ロイド!…って……」
はっと、リフィルが気づいたときには、すでにロイドがジーニアス達に促され、
さらには勝手に名をつけていたりする。
しかも、マーテル達の名字ともいえるその名を。
たしか、きいたことがある。
精霊達の名をつけること、それはあらたな契約の証ではあるが、
名をつけることにより、あらたな理で結び付ける、と。
簡単にいえば、名をもって縛る、といってもよい。
ゆえに、みずほの里は、名に力があることをしっているがゆえ、
あえて通常は偽名で生活することを強いている。
名がもつ力により、その名の力をもってして動きを止めたりする術も存在しているがゆえに。
「なぜ、あたらしい名が必要なのかしら?そもそも…」
「私はあまり長くは表にでていられません。
  これより、この空間は大樹ユグドラシルの空間、となるでしょう。
  全てのしがらみから外れた、新たなる空間。それを育てていくのは、あなたたちひと」
それとともに、ゆらり、とマーテルの姿がとけきえる。
「あ、まって!」
リフィルが止めるものの、マーテルの姿はかききえる。
「…どうすんだよ?リフィル様ぁ」
ゼロスも思うところがある、のであろう。
「…もう、どうにもできない、わ」
すでに、ロイドが名をつけて、相手が了解してしまった。
それは、あらたな契約が、彼らの間に交わされてしまった、ということ。
「でも、これで世界は助かるんだね!」
ジーニアスが何やらそんなことを一人いっていたりするが。
「…ジーニアス。よく感じてみなさい」
「…え?」
姉にため息とともにいわれ、よくよく苗木をみてみるが、そこにマナの欠片も感じられない。
「え?どういうこと?だって、これが……」
さきほどみた大樹の姿。
なのに、目の前の苗木にはマナの気配はまったくもってない。
強いていえば、形をたもっているマナがあるのみ、というくらいか。
「……アステルに協力を要請する必要があるわね。これは」
もしかして、大樹を語った何かがおこりえている可能性もなきにあらず。
そもそも、これが本当に大樹カーラーンの再生した姿、ならば。
世界を存続させるほどの膨大なるマナを感じないと嘘、なのだから。
「…あれは、たしかにマーテルだった。…私は、ユアンを探す。
  あいつならば、何かわかっているかもしれん」
クラトスも、大樹カーラーンの精霊のことはしっている。
そもそも、新しい樹が再生したからといってあたらしい精霊?とかが必要なのか。
それすらもクラトスにはわからない。
だが、マーテルの姿をみたときに違和感を感じたのはまた事実。
まるで、そう。
あのミトスが間違った道にすすんでいったときに浮かべていた笑み。
まさに、彼女はそのような表情をしていた、のだから……


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あとがきもどき:
薫:あれ?とおもったひとはいるとおもいますv
  ミトスVSミトス。はい、あれ、エミルVSラタトスクとおなじようなものですv
  ついでに、リフィル&ゼロスが人工精霊マーテルの違和感に気づいたのは。
  ゼロスはその今までの経験から(人を見る目はかなり養われているので)
  リフィルは、時代の語り部の後継者とまでいわれていたがゆえの鋭さ、です。
  でも、結局、リフィルが指摘するよりもさきに、
  ロイドが何もかんがえず(ロイドらしいといえば彼らしいが)いわれるまま、
  相手の言葉を素直に信じてそのまま新しい名をつけましたv
  名をもって相手をしばり、新しい理。
  これは、ちなみに陰陽術とかでもありますよ~?そういう術はv
  名をよぶだけで相手の動きを制限する、というような術も存在してますしね……
  さてさて、シンフォニア編もそろそろおおずめ。
  まあ、本来、ゲーム本編は、ユグドラシルの樹の再生とともに終わり、ですけどね。
  この話しはもうちょい、シンフォニア編、つづきま~すv
  だって、樹がうまれたよ、それでおわりですよ~では世の中、そう簡単ではありませんv


~~~

おまけ21


「次の封印は北っていってたよな?どこだろ?」
「しいな。あなたは知っているといったわよね?」
「何とかの遺跡に鍵があるというのはきいたけど…たしか、何とかガードだったっけ?
  そこの鍵がないと封印の場所にははいれないってそうきいたけど……」
「何だよ。しいな。全部知ってるっていってもちゃんと覚えてないんだ」
「し、しかたないだろ!一日でたたきこめ!っていきなりいわれたんだよ!こっちにくるときに!」
「こっち?」
「あ、い、いや、何でもない!」
「終焉を望む場所、か」
「ってあぶない!」
ふときづけばコレットが石段からころげおちそうになり、とっさにコレットをだきかかえているしいな。
「コレット!?」
「またなの?封印を解放するたびにこれじゃあ、かわいそうだよ」
「さしずめ、天使疾患、とでもいうのかしらね?」
「また?また…って?」
「前の封印をといたときにも、コレット、倒れたんだ」
「へ…へいき…ありがと…しいなちゃ…」
「ちっとも平気じゃないだろ!と、とにかくどこかでやすませないと!」
顔色がとても悪い。
「ならふねを接岸してる海岸沿いがいいだろ。あそこは比較的野営をするにもいいし。
  それか船の中でやすんでもいいし」
「そうね。そうしましょ」
「ごめんね…皆……」
「ここにいたら間欠泉の熱気で危険かもしれないしね」
いまだにたえず間欠泉は湧き出してきている。
ここにいる間もその湯のしぶきがとんできているのである。
たしかにずっとここにいるのは体にもよくない。
「謝るなって。こんなのどうってことないさ。お前はやすんでいればいいんだ」
ひょい、っとコレットを抱き上げてにっこりわらっていうロイドではあるが、
その顔は心配そうに曇っている。
「うん、ごめん……」
「だから。あやまるなって。もう……」
「封印を解放するたびに倒れてる…だって?…どういう…ことなんだい?」
研究機関でも、レネゲードでもそんなことは聞かされなかった。
マナの神子はただの生贄というシステムじゃなかったのかい?
その命をもってして世界にマナを転換させる効果を発揮させる、いわばマナの運用の鍵となるべく存在。
クルシスと教会がひたかくしに隠しているマナの神子の真実。
みずほの里の情報網をあなどってもらってはこまる。
それくらいのことはすでにとっくに彼らはつかんでいる。
再生の旅を阻止しろ、という任務が王国からくだったときに。
何ごとも下調べというものは重要、なのである。
そこで知った驚愕の事実は、完全にかん口令がひかれているほど。


「…つうか、やっぱりなつかれてるじゃないか!」
しいなが確認のために野営のときに精霊ウンディーネを召喚した。
聞きたいことがあったがゆえに。
今世界中でおこっている異常気象について。
しかし精霊はそれにはこたえることはできない、とそういわれた。
コレットの体調についても答えられない、といわれロイドに役にたたないな。精霊も。
といわれて精霊も苦笑していたのが印象深い。
気づけばいつのまにか船の近くで精霊とエミルとそしてセネルが何やら会話っぽいのをしているのが目にはいる。
周囲にいくつもの魔物の姿がみえていたりもするが精霊はまったくもって動じていない。


うとうととしていたロイドはふと目をさます。
薪がはぜている。
ふと目がさめたのは、コレットのため息のようなものがきこえたがゆえ。
ふと目をあけると、満点の星のもと、なだらかな丘となっている砂丘の上にたち、コレットは月をみあげている。
月は満月の光りをたたえ、海とそして夜空をてらしだしている。
こころなしか海がかがやいているような気がするのは気のせいか。


…マナが、満ちる。
満月は海の変化に密接している。
そしてまた、海を司るセネル…否、メルネスにも少なからずの影響をあたえる。
ゆったりとその体をまかせるままにと海にとつけ、完全にマナを整えながら、また管理しつつ補充をする。
少し離れているのでまさか海にぶかぶかと浮いている、とは彼らは夢にもおもわないであろう。
そしてまた。
「満月。か。ねえねえ。セネル。月を二つにしたらどうなるかな?」
「…たのむから思いつきでやるのはやめてくれ~……」
やろうと思えばできるのがわかるからこそのセネルの言葉。
ちなみに、ぷかぶかと浮かぶセネルの横で、ちょこん、と海の上になぜかその下に何もない、
というのにもかかわらず海の上にすわってのんびりと天空をみあげているエミルの姿がそこにある。
まるで地面が海ではなく、普通の大地であるかのごとくに。
「今回は前と違った形にしたいんだ。…ミトスを、助けたい」
「…お前……」
「ならきくけどさ。あのミトスとマーテルに新たなる大樹の覚悟、あるとおもう?」
「・・・・・・・・・ないな」
あれば前回のようなあんな結果にはならなかった。
それだけは断言できる。
絶対に。
結局のところ人に枯らしかけられては、エミルが…否、ラタトスクが地上に介入する。
そんな歴史を繰り返していた彼ら、なのだから。
だからこそ、このたびは普通のヒト、に再び戻して転生させた、というのに。
また同じ過ちを彼らは行おうとしている。
それが…悲しい。
「よかれ。とおもったんだけどね。魂さえ無事ならば、マナが満ちれば新たに体を構築することも可能だから。
  …それをミトスは捕らえちがえたわけだけどさ」
自分をころしてマナを種に補充すれば姉はいきかえる、とおもってミトスはエミルに手をかけた。
そんなことをしても無駄だ、というのにもかかわらず。
よみがえったとき、マーテルの望む世界が…ヒトやエルフ達が自然に共存する世界になっていれば、
そうおもった。
かつてもできていたこと。
だからできないことはないはず。
そうおもった、なのに……
「ほんと、人の心はいつまでたってもわからないや」
「同感。でも…だからこそ、すてがたい」
「いえてる」
だからこそ、ヒトという種族の因子をもつ世界ではかならず人を誕生させている。
その結果がたとえどのようなことになろう、とも。
「で。神子の体はどうにかしないのか?」
「今はまだ、ね。一度完全になじませたあと、あの子は先祖がえりの体にするつもり」
かつて、元々この星に飛来したデリス・カーラーンの民のように。
「ロイドも資格と血筋からして十分、だしね。…護り手がいてもいいとおもうんだ」
人とは異なる時間をいきる種族。
それがデリス・カーラーンという場所にすんでいた種族のものたち。
もっともそれが当人達が望むか望まないかは別である。
「…まあ、当人達が否定するならばしないよ?普通の人、ですますよ」
「どちらを選ぶかもまた、あいつら次第、というわけか」
「そういうこと。今はとりあえずこの星に紛れ込んだ魔族達をどうにかしないとね…まったく。
  すでに新たな小窓は完全にとじてるし。魔界とも話しはつけてるから。
  窓にしてる書物さえみつければどうにかなるんだけどね」
ちなみに魔界の魔王というか冥王からは勝手に行動したものたちの処罰はまかせる、というお墨付きをもらっている。
「ヒトの欲望という負の中にまぎれるとあれは見つけにくいからな…ゲーテですら難しいだろ」
「うん。まあ、鍵となる人間は一人みつけたから、でもあれ、気配薄かったし。
  たぶんまちがいなくどこかに大本の契約者はいるはずだよ。それさえわかれば」
「一気にたたけるってか」
「そういうこと」

月あかりに照らされ、なぜかこのままコレットが消えそうな錯覚におちいってしまう。
「おきてたのか」
声をかけなければこのままコレットが消えてしまいそうで。
だから声をかけた。
「ロイド」
「少し調子がもどったからって、ダメじゃないか。ちゃんとねなきゃ」
「……なんだか眠れなくて……」
「悩み事か?」
幼馴染のまっすぐな言葉にコレットはただほほ笑むだけ。
「え?そう…だね。たとえば今日、お父様がちょっと怒っていらしたみたいだったな、とか」
「そういえば。なんかいつもより寡黙だったな」
いわれてみれば、いつもよりあのレミエルは寡黙だったともおう。
そのあとの精霊との契約が突拍子すぎてわすれていたが。
「そんなの気のせいだろ。俺、何も感じなかったけどな。ただコレットが頑張ってるから声がなかったんじゃないか?
  ほら、何と声をかけていいのかわからなくて寡黙になったんだよ」
いいつつ、星をみあげる。
「いい夜だなぁ。たしかに、寝るにはもったいないかもな。月も綺麗だし。
  そういえば、エミルとセネルもいないな?」
「あ。さっき見回りにいってくるって二人してでていったよ?」
「そうなんだ」
月にてらされ、停泊している白い船がまるで銀色にかがやいているようにみえている。
星がふってくるのではないか、というほどに晴れ渡った空。
「イセリアの星を思い出すよね」
「そうだな。って、いいか。コレット。明日の体調がよかったら。
  次の目的地。先生がいってただろ?次はハコネシア峠の近くに接岸するっていってただろ?セネルのやつも。
  船は…よくわかんないけど、方法があるらしいし」
「たぶん、テネブちゃんの闇収容じゃないのかな?」
イセリアで、コレット達はテネブラエが自らの闇の中にいろいろなものをしまえるのを目の当たりにしている。
だからそういわれてもすでに慣れてしまっている。
それがいかに異様なことなのか、ということにすらマヒしてしまっているこの現状。
「なるほど。あれは便利だもんな~」
二人はしらない。
セネルの船はあれはネルフィスを用いているがゆえに、どこでも海にしまえる、ということを。
また、セネル自身が身につけているネルフィスの中に収容できる、ということを。
「お!流れ星!コレットが元気になりますように、なりますように、なりますように。っと」
「ロイド……」
「今流れ星にお願いしたからな。コレット。今日はよくやすめ。いいな?」
「うん。もうすこししたら寝るね」
「ん、じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい…ロイド……私の分も…素敵なゆめをみてね…ロイド……」
立ち去ってゆくロイドをみつつ、小さく小さくつぶやくコレット。
その声はロイドにはとどかない。
目をつむっても眠れなくなっている、と気づいた、気づいてしまった。
皆が私のぶんまで素敵な夢をみれますように。
また、ひとつ流れ星が流れてゆく……


2014年1月3日(金)某日

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