まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
今回は、ほとんど話しすすんでませんvというかサプイベの回、です。
それぞれのルートさんの組み合わせでいっていますv
ゼロス&しいな&クラトス、の三人にしてみましたv(まて
神子コンビもすてがたしですけどね(こらこら
なので飛ばしても多分問題は…ない、はず?
ともあれ、いきま~す
あとがき別話19(しいな合流)
########################################
『過去に映るは暗闇の底からにじみでる怒り。
凍てついた心を焦がすのは劣化のごとく燃える憎悪。裁かの雷を我に与えん』
『我、心の底に眠る恨みを写すもの。己の闇に汝は立ち向かうことができるのか?』
『命とは産まれながらに罪を背負うもの。汝、その罪と向き合うか?裁かれるがいい、罪深きものよ』
それは問いかけ。
それぞれに対する、過去や今現在の心情、全ての心の奥底にある者に対しての問いかけ。
かつて、この試練にうちかったものがいた。
だからこそ、光によってよりつよく加護は強くそこにあった。
だが。
『汝は、影から光になった。光であったものはその力を奪われるであろう。
お前は、己の闇に打ち勝った』
『光は罪とともに闇におちた。汝は罪を背負いあらたな光となる。闇の力はここについえた』
『光は闇に逃げ、汝はあらたな光となった。闇に逃げたものはその力を奪われるであろう』
かの加護にも意思がある。
この決定はすでに連絡をうけたがゆえのこと。
一度、加護を彼から切り離す必要性があるがゆえの処置にすぎない。
が、その事実をロイド達はしるよしもない。
光と闇の協奏曲 ~心の試練~
「ここは……」
「どうやら、どこかに飛ばされてしまったようね」
気がつけば、二人っきり。
「ロイド、大丈夫かなぁ……」
ぽつり、とジーニアスがつぶやくが。
「とにかく、今はここから先に進むことを考えましょう」
周囲には何もない。
しいていうならば、目の前にあるガラスのような何か。
どこかに隠し通路がないか、注意深くガラスのようなものを観察していると、
目の前のガラスのような向こうに、二つの影がうかびあがってくる。
それは、二人にとってとてもみおぼえのある姿。
「どうして、村長がこんなところに!?」
おもわず声をあげているジーニアス。
ジーニアスの前には、イセリアの村長が、そしてリフィルの前にはバージニアの姿が。
ここにいるはずのない二人の姿がたしかに二人の目の前にと存在している。
「気をつけて、幻よ」
驚く弟にたいし、冷静に判断を下し、リフィルがいうが、
「わしが幻だとおもうのか?これだからハーフエルフは愚かだというんだ」
幻、とおもったそれから、まぎれもない聞き覚えのある声が、ガラスの向こうより投げかけられる。
そしてまた、
「リフィル。哀れな子。エルフの血を半分しか受け継ぐことができなかった穢れた子供」
リフィルの記憶にある口調で、聞き覚えのある声にて、目の前のリフィルそっくりの女性から投げかけられる声。
「…っ!お母様っ!」
母はエグザイアにて精神を病んでここにはいない、とわかっているのに。
しかし、母の声でそういわれて傷つかないわけはない。
「ハーフエルフはこの世に不要の存在だ」
淡々とガラス…鏡なのかはわからないが、すくなくとも、透明な壁らしきもの、
その向こうにいる彼らは幻、とはおもえないほどにリアル感がありすぎる。
「そんなことないっ!」
村長より投げかけられる声をうけ、ジーニアスがすかさず叫び返すが、
「あなた達がうとまれし狭間のものだからこそ、私はヘイムダールを追われたのです」
母から語られるその言葉にリフィルもさすがに冷静さをかいてしまう。
「っ!それなら、それならどうして私たちをうんだの!?」
たしかに自分のせいであったことは今ではわかっている。
自分の力、すなわち能力を欲したテセアラの研究院が自分を求めていたがために、
両親はそれにあらがい、そして結果として策略にはまり里を追われてしまった、と。
「仕方がなかったのだろう。だから産まれたあとに捨てられたのだ」
「消えなさい、この世から」
「死んでしまうといい。お前達が生きていることに意味などない」
「死になさい」
「死ね!一刻も早く」
村長がいい、それにつづくように、まるで畳みかけるようにそんなことをいってる二つの人影。
あの地にて、母の日記を読んでいなければ、そのままリフィルとて信じてしまっていたであろうほどの口調。
しかし、リフィルは今の母の現状を知っている。
そして、ジーニアスも。
だからこれが幻だ、と理解できているのではあるが、人は目に見える光景にどうしても惑わされてしまう。
「……人も、エルフも僕たちを邪魔もの扱いにする……」
幻だとわかっていても、母とおもわしき姿のものと、そして村長とおもわしき人物。
それからいわれて、おもわずジーニアスがぽつり、とつぶやく。
「そうだ、邪魔なのだよ」
「好きでこんな風に産まれたわけじゃないのに」
それにあわせ、たたみかけるような村長の台詞。
ジーニアスの呟きに、
「仕方ないわ。純血でないあなた達がわるいのよ」
母とおもわしきそれから非情な台詞が紡がれる。
「違う!」
それを否定するようにジーニアスが叫ぶが、
「違わないよ。ハーフエルフは生きているだけでうとまれ差別される。
僕たちは生きていることが罪なんだ、そうだろう?」
ふときづけば、母と村長の背後にみえるはミトスの姿。
そのミトスから淡々とした言葉が紡がれる。
その姿と言葉にジーニアスが一瞬ひるむとほぼ同時、
「違う!」
何やら聞き覚えのある声が虚空から聞こえてくる。
「ロイド……」
どこをどう進んだのかは覚えていない。
ふと、とある通路に入り込むと、周囲がガラス張り、正確にいえば鏡張りの部屋にと迷い込む。
そして、そんな鏡の向こうの一角にみおぼえのある姿が。
コレットがそちらを指差すと、そこには鏡の向こうにジーニアスとリフィルの姿がみてとれる。
そして、彼らはさらにその鏡の向こうにまた鏡らしきものがあり、
何やら…なぜにこんなところに村長や、しかも二人の母親らしきものがいるのだろう。
しかしこんな場所に彼らがいるはずがない、ゆえにあれらは幻である、とすぐさまに思い当たる。
聞こえてくるは、ハーフエルフを否定する言葉。
ゆえに、無意識のうちに、ロイドは否定の言葉を大きく紡ぎだす。
「違う!ハーフエルフは悪くない!」
ロイドの声がどこからともなくきこえてくる。
が。
「でも、私たちは…いえ、私は……」
自分が幼きとこから知識を追求していたから研究室に目をつけられた。
それを知った今では、いちがいに、悪くない、とはいえないとおもう。
すくなくとも、自分がそうでなければ、あのまま里で暮らせていた可能性が高いとなればなおさらに。
どこからロイドの声がしてくるのかはわからない、わからないが、リフィルも戸惑わずにはいられない。
この声もまた幻聴なのか、それすらもわからない。
「悪いのは、自分と違うやつを認めることができない心だ!心の弱さだ!」
それは、断言にもちかいロイドの叫び。
「ロイド、どうしよう?先生達、この向こうにいるのかな?でも、どうしてバージニアさん達がここにいるの?」
しかも村長まで。
「ええい!この壁が邪魔だ!なら、たたき割るのみだ!」
「え?ロイド?でも、それって危険じゃないの?」
「どちらにしても、先生達はこの向こうにいるんだ!だったら壁を壊して合流するしかないだろ!」
鏡の中に捕われているかもしれない、という可能性をまったくもって考えていないがゆえのロイドの行動。
そのまま、力まかせにその場において剣を振りかざし、リフィル達がみえている鏡とおもわしき壁にと、剣を振り下ろす。
ロイドが鏡を割り、中に入り込むのと、鏡が再生するのとほぼ同時。
「ロイド!…って……あ……」
ロイドが鏡の中に消えてゆくのとほぼ同時。
コレットの目の前にある鏡の中に、みおぼえのある姿が浮かび上がってゆく。
パリンッ。
何かが壊れるような音。
そして、それとともに、きえる鏡の向こうの人影二つ。
「ロイド!?」
そして、かわりにでてきたのは、壊れた鏡らしきものの中からロイドの姿。
ゆえにおもわずジーニアスがロイドの名を叫ぶ。
「迎えにきたよ。先生。ジーニアス」
どうやら怪我などがないことにロイドからしてみればほっとする。
だがしかし、消えたはずの二人の姿、そしてミトスの姿がまたたくまに壊れていない鏡の中にとうかびあがる。
「無駄よ。リフィル。あなた達はまた捨てられる。ハーフエルフであるかぎり、あなたは世界でうとまれつづけるの」
バージニアの姿をしたそれから何とも残酷な台詞が紡がれる。
だがしかし、これは幻。
おそらくは、自らの弱い心が産んだ幻。
ならばこそ、
「でも、ロイドはきてくれたわ。私たちをおいて先にすすむこともできたはずなのに」
ロイド一人なのがかなりきにかかるが。
「また、裏切られるわ。ハーフエルフだから」
「そうかもしれない。けど、そうじゃないかもしれないわ」
それに、裏切られるというのならば、それこそ種族は関係ない、とおもう。
エミルがよくいっていた台詞。
人は裏切るものだから、と。
それはハーフエルフとか種族とか関係なく、エルフもハーフエルフも全てを総合して称した言葉。
そして、おそらく、目の前にいるこの母親の幻影、それの根柢にあるもの、それは。
「……あなたが私たちを捨てたのは、私たちの血のせいじゃあ、ない。
それを疎む世界とその視線に耐えられなかった弱さ。
私はもう、その弱さを恨むことはやめることにするわ」
真実を知るまでずっとおもっていた。
両親に、母親に捨てられた、と。
おそらく目の前のこれは心の奥底にある自分自身の弱い部分。
ずっと親を産んでいたその部分が幻、として表にでてきたのだろう、とおもう。
少なくとも、これまで投げかけられた台詞は自分が心の奥底で、ハーフエルフだから母親に捨てられた。
とおもっていた台詞、そのまま、なのだから。
「…恨みは何もかえてくれないわ。世界を変えるためにはまず私がかわらなければ。
だから、私はハーフエルフに産まれてよかったの。
ロイドや大切な仲間達に会えたのもそのおかげ、なんですもの」
それに、長い人生だからこそ、できることがある、とおもう。
わからないから恐怖するのならば、時間をかけてわかってもらっていけばいい。
今では心からそう思える。
「……ジーニアス?君も?ハーフエルフでよかったなんてそんなふうにおもえるの?
ばかばかしい。ハーフエルフがまともに暮らせる世界なんてないんだ」
鏡の向こうのミトスはどのミトスなのかはわからない。
が、かつての記憶体だというあのミトスではないのであろう。
しかし、投げかけられた言葉は自分に対して、
だからこそ、
「……人間が、僕たちを嫌うから僕も人間が嫌いだ」
「…ジーニアス!」
ぽつり、とつぶやいたジーニアスにおもわずリフィルがたしなめの台詞を紡ぐものの、
「でも、ロイドは好きだよ?一緒に旅をしてきた皆も好きだ。
だって、皆は僕のこと、好きてでいてくれたとおもうから」
「馬鹿め。そんなものは幻想だ!」
「…どうでもいいけど、何で村長がこんなところにいるんだ?」
「あれは幻よ。ロイド」
「幻にしちゃ、やけに当人そっくりじゃないか?先生?」
「おそらく、これは……」
先ほどこの場にやってきたロイドも何がどうなっているのかわからない。
わかるのは、なぜか自分が出てきたとおもわしき鏡らしき壁。
そこに消えたとおもったのにまたバージニアと村長、そしてその後ろにミトスの姿がみえている、
ということ。
おもわず村長にたいしつかみかかろうとするが、それは鏡らしき壁にと阻まれる。
断言してくる村長の声に、
「うん。僕も同じなんだ。ハーフエルフを嫌う人みたいに、人間とかエルフってだけで腹がたった。
その人をよくしりもしないくせに、さ。でも、それじゃ、余計に嫌われちゃうよ。
……そう、僕も心が弱かったんだ」
これだから人間は、といつも見下していた。
それこそ無意識のうちに。
ゼロスに指摘され初めて気がついた自分のそんな心。
誰だって嫌悪感をもって接すれば嫌悪が先にきてもあたりまえ。
そんなことすら思いもしなかった。
自分がそのように扱われていた、というのにもかかわらず。
自分も人と同じことをしている、などまったく思ってもいなかった。
「……心の弱さは罪なの?誰もが強いわけじゃない。
誰もが疎まれることを耐えられるわけじゃないんだ」
「僕は、もう、逃げない」
いいつつも、目の前のこれらは全て幻。
自分の心の弱さがみせている幻なのだ、と心をつよくもち、
そのまま、懐より剣玉をとりだし、壁にとつきつける。
パリィン。
澄み切った音とともに、鏡がその場にとハゼ割れる。
それはきらきらとした光りをはなち、やがて何もなかったかのように鏡そのものがその場からきえゆいてゆく。
「えっと…ジーニアス?」
今の行動は、今までの自分の考えにたいする結別。
ゆえにしばし目をとじ、そして、しっかりと目をひらき。
「ロイド。迎えにきてくれてありがとう」
そこにいるロイドに改めてお礼をいう。
すでに、横やりをいれてくるであろう幻影二人の姿はそこにはない。
「ごめんなさい。迷惑をかけたみたいね」
ジーニアスの行動に苦笑しつつも、しかしリフィルは鏡を壊す、ということまでは思いつかなかった。
どうしても幻、とわかっていても母に手をかけるようなことはできはしなかった。
その点、弟は心が強い、とおもう。
それがどこか誇らしく、そしてすこしさみしい。
いつかは自分の元を旅立ち独り立ちするのであろう、それがより強く感がられたがゆえになおさらに。
「気にするな。仲間だろ?」
そんな会話をしている最中、ふわり、と何やら彼らの中心に何かがどこからともなく降ってくる。
それは淡い輝きをたもった小さな鏡の欠片のようなもの。
「鏡の欠片、だわ?どうしてこんなものが……」
それはくるくるとリフィル達の目の前に浮かぶようにして空中にととまっている。
「とっておけよ。それは二人があのへんな鏡にうちかったあかしだろ?」
「うん!」
「そうね。そうしましょう」
何か意味があるのかもしれない。
それゆえにそれにそっと手をふれる。
どこかひんやりとしながらもぬくもりを感じるそれ。
「それより、ロイド、一人なの?」
「え…あれ?そういや……」
一緒にいたはずのコレットがいない。
「え?あれ?コレット?」
「コレットをみつけたの?というかまさか、ロイド、コレットをおいて私たちのほうにきたというんじゃ……」
じとめのリフィルの台詞に、
「い、いや、さっきまでちゃんとコレットは一緒にいたんだ!」
「で?あの過去のミトスは?」
「……えっと……」
目をそらしたことからどうやら勝手に一人で行動していた、らしい。
「まったく、あなたという子は……とにかく、コレットが心配よ。
ロイド、あなたはもうすこしよく周囲を確認してから行動しなさい」
「う……」
自分の後ろからコレットも一緒にきているものだ、とおもっていた。
しかしそれはいいわけにすぎない。
「…え?レミエル…さま?」
自分の父親だ、と名乗っていたはずの天使。
しかし、ロイド達の手によって倒されたはずの天使。
「…って…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
震える手でその姿が映し出された鏡にと手を伸ばす。
刹那、光りとともに、コレットの姿はその場よりかききえてゆく……
「コレット?!」
壊れた鏡の向こう。
その先をぬけてゆくと、そこはさきほどロイド達が迷い込んでいた鏡の間。
しかし、その場にコレットの姿はない。
四方八方、全て鏡に閉ざされたその部屋は、ロイドですらどこからはいったのかすら見失っている。
周囲を探してみるがコレットの姿はどこにもみつからない。
「これがあやしい、わね」
出口すらも見当たらないそんな中。
一枚の鏡らしきもののみが、何も映し出していないのにリフィルが気づき、
その周囲を注意深く観察する。
その壁の一角のみ、何も映し出していない鏡らしきものがそこにある。
可能性としてそこが何らかの仕掛けになっている、とおもってまず間違いはないであろう。
ここは鏡の迷宮。
それこそ心の迷宮を示しているかのごとく、そんな感じをうける場所。
「っ!俺がもっとしっかりしてなかったから……」
「「あ」」
探せども探せどもコレットの姿はどこにもない。
せっかく助けだしたはず、なのに、また別れてしまった。
今度はどこにいるのかすらわからない。
ロイドが呟きつつも、無意識のうちにその何も映し出されていない鏡らしき壁にと手をあてる。
ジーニアスとリフィルの短い声はほぼ同時。
と。
『我、心の底に眠る恨み、つら身をうつすもの、己の闇に立ち向かうことができるのか?』
どこからともなく声がこの空間にと響いてくる。
刹那。
パリン、とした音とともに右も左も真っ暗な空間にいきなり引きずり込まれ、
目の前には異形の魔物のようでそうでないようなものがあらわれる。
それは視る存在によって姿はことなる姿。
「……え?」
ロイドは今現在、一番嫌悪している自分自身に。
リフィルは彼女の嫌いな蜘蛛の姿に。
ジーニアスは心の底から嫌悪している村長の姿に。
「何で俺が…」
「って、なんで村長が、ってくるよ!?」
「きゃ!何、この大きな蜘蛛は!?」
三者三様。
それぞれがそうつぶやくとともに、それぞれが異なる姿を目にしていることを自覚する。
「っ!くるぞ!」
しかし、とまどっている暇はない。
目の前のあきらかなる『何か』はロイド達三人にむけて問答無用で襲いかかってくる、のだから。
『お前はお前の闇に打ち勝った』
ロイド、ジーニアス、リフィル、それぞれ同じ敵を相手にしていたはず、なのに。
それぞれが感じる攻撃も全てがことなり、あるいみで一対一ともいえる戦いの末。
ロイドは自分と同じ技をもつ相手に、リフィルは巨大なる蜘蛛を相手に、
ジーニアスはなぜかヒトなのに術をつかいまくってくる村長に。
それぞれどうにか満身創痍ながらも勝利したのか、やがてその姿が霞のごとくにきえてゆく。
それとともに、空間に響く声。
再び、何かが割れるような音がきこえたかとおもうと、次の瞬間。
ロイド達の視界がぱっとひらける。
それはどこかの通路らしき場所。
「…ここは……」
どこかでみたことがあるようなそんな場所。
ざっと周囲をみてみれば、やはりというかみおぼえのある施設がちらほらと。
「間違いないわ。ここは……」
横のほうに、かつて自分達が調べたことがある端末のようなものがみてとれる。
まちがいなく、ここはウィルガイア。
天使達の街。
だがしかし、天使の一人もみえはしない。
「ミトスもコレットもどこにいっちゃったんだろ?」
「わからないわ。だけど、先にすすむしかないでしょう」
もしも過去のミトスが今のミトスに呑みこまれてしまったら、という思いはぬぐえない。
その可能性の危険性もロイドにいっていたはず、なのに。
自らの感情を優先し、ミトスとはぐれてしまっているというロイド。
あいかわらず、感情に流されるままに行動する、という欠点はここにきてまで直っていないらしい。
「ミトスがコレットを器に、という可能性を捨て切れていないのならば捕まっているでしょうけど…
そもそも、はぐれた場所が場所、ですものね。
私たちのように、あの迷宮のような場所に捕われていても不思議はないわ」
たしかにリフィルのいうとおり。
あの場からどこに飛ばされていても何ら不思議は…ない。
「こりゃまた、変なところに飛ばされたなぁ」
「ここは…まさか、デリスエンブレムの封印場所…か?」
ふとみれば、この場に飛ばされてきたのは、どうやらゼロスだけ、ではないらしい。
ぱっとみてみれば、この場にはクラトス、そしてしいなの姿がみてとれる。
右も左も関係ない、ぽっかりと浮かんだ丸い円状の足場。
周囲は何ともいえない空間が広がっており、空中に岩らしきものがふわふわと漂っているのがみてとれる。
「なあ、なんか、変な音がしないかい?」
何やらしゃかしゃか、というようなそんな音。
不快感を感じさせるようなそんな音。
まるで足が幾本もある何かが近寄ってくるかのような、そんな音。
と。
突如として、三人がたっている足場の中心に、魔方陣のようなものが浮かび上がる。
それは、瞬く間に渦をまき、
「な!魔方陣にのみこまれちまうよ!」
「しまった!」
「な!?」
その魔方陣から黒い触手のようなものがあらわれ、
クラトス、しいな、そしてゼロスの足元をからめとる。
それから逃れようとそれぞれにその場で足踏みのごとくにもがく三人。
と。
そんな三人のそれぞれの前に、それぞれ異なる人影がふいにと現れる。
「ほら、どうした。急いでにげないとつかまっちまうぜ」
しいなの前には、みおぼえのある服装を着こんだ男性が。
「な…何で、くちなわが……」
ありえない姿に思わずしいなが呟くとほぼ同時、
「ゼロス様。ブザマな格好ですわね」
ゼロスの目の前には、ゼロスがどんなことをしてでも護りたい妹、セレスの姿。
そしてまた。
「いい格好だな、クラトス」
クラトスの前にはなぜかロイド。
「ロイド!?あんた、どうしてここに!?」
しいながその姿に気づいて思わず叫ぶが、
「おちつけ。幻にきまってるだろうが。つうかロイド君があんないいまわしするかよ」
ぴしゃり、とものの見事にだまされているしいなにきっぱりといいきっているゼロス。
ロイドなら、あれ、皆何してるんだ?といい、いい格好だな、というような人を見下したようないい方はしない。
そんなゼロスの台詞に答えるかのように、
「馬鹿な人。現実から目をそむけてばかりだから何が真実なのか視えてないんですわ。かわいそうに」
ゼロスの前にあらわれたセレスがそんなことをいってくる。
そしてそれに続き、
「ミズホの里で育ちながら俺が幻が実体化すら見極められないとはな。
やはりお前はできそこないだな」
呆れたようなクチナワの声。
そしてまた、
「幻なんかじゃないぜ。ミトスのやり方に目をつむっていたあんただから視る目もくもっちまったんだな」
ロイドの姿をした何か、がそんなことをいってくる。
いまだ三人は必至に絡みついてくる触手のようなものから逃れようとあがいている。
そんな彼らを冷めた視線でみつめつつ、
「お前達は間違って産まれてきたんだよ。産まれてこなければ、皆、幸せになれたんだ。
そうだろう?瑞穂の民を不幸にした疫病神」
「神子にふさわしくないものが神子になってしまうから、仲間を裏切るようなろくでなしになるのですわね。
仲間をうらぎっておきながらしゃあしゃあと戻ってきたものと、里の仲間を殺してしまったもの。
お似合いの末路ですわね」
「あ、あたしは皆を不幸になんて!」
しいなが思わず叫ぶが。
「してない、とでもいうのか?ヴォルトにおびえて仲間を殺した臆病ものが。
さあ、闇にくわれて命をおとせ!逃げられるものなら逃げてみろ!」
「ミトスを引き留めることもできなくて、母さんを守ることもできなかった。
しかも、裏切りものにまでおちぶれた。最低だぜ。
ほんと、セレスのいうとおり。仲間をうらぎってしゃあしゃあと戻ってきたものと、
里の仲間を殺してしまったもの。お似合いの末路だな」
その場にあらわれている、セレス、くちなわ、ロイドが口ぐちにそんなことをいってくる。
「あれは!?」
ふと、魔方陣の下に、何かがうごめいているのがみてとれる。
それは巨大なる蜘蛛の魔物のような何か。
「あの怪物はお前達に永遠の苦しみを与えてくれる。
奴に喰われれば生かさず殺さず。未来永劫、真の闇の中で孤独にさいなまれるだろう」
くちなわがいうとともに、魔方陣の下にいる魔物の姿があらわになる。
それは巨大なる蜘蛛の魔物。
まるで獲物が自分のもとにおちてくるのをまっているかのごとく、
その口元をしゃかしゃかと動かしているのまで認識できてしまう。
「助けてあげましょうか?ゼロス様。私が一番ほしいものをくださるのでしたら助けてあけますわ」
「一番ほしいもの…だと?」
ゼロスがその言葉にびくり、と反応する。
セレスが自分から何かがほしい、と望んだことは一度とてなかった。
幻だ、とわかっていても、妹の姿をしたそのものの言葉に反応せざるを得ない。
「ええ。私が一番のぞんでいるもの。それは神子の力、ですわ!ゆずってくださるのでしょう?
まあ、ゼロス様がくださらなくても、ミトス様が約束してくださいましたもの。
神子のその力も地位も何もかも、全て私にゆずってくださるそうですわ。
助けてさしあげますから、クルシスに忠誠をちかいなさいな。ゼロス様。
そうすれば、以前のように兄妹でくらせますのよ?お兄様?」
お兄様、とよばれ、おもわずゼロスが目を見開く。
かつてまだセレスが幼いころには、そのように呼ばれ、共に遊んでいた。
優しい記憶。
「ぶざまだな。しいな。俺達に許しをこえ。ミトス様はミズホの里をいきしておいてくださるそうだ。
クルシスに忠誠を誓え」
くちなわの口からそんな台詞が紡がれる。
そしてまた、
「助けてやろうか?クラトス?俺と一緒にクルシスに忠誠を誓うんだ。
あんたはミトスのやりかたに一度は目をつむったんだろ?
それをもう少し我慢すればいい、それだけで世界は救われる。ミトスが救ってくれる」
「ミトスが…救う…だと?」
ロイドの姿をしたそれから紡がれるその台詞は、ロイドならば絶対にいわないようなもの。
「ああ、ミトスはあんたが裏切ったことも許してくれるってさ。
俺と父さんの二人でミトスのいう平等の世界をつくろうぜ、な?」
それは甘美なる誘惑。
「うわ!?」
転送陣に乗ったはいいものの、気づけばどこかまた別の場所。
「先生?ジーニアス!?」
どうやら転送陣によって離れ離れになってしまった、らしい。
しかし、ここで止まっていてもどうにもならない。
ふと、何やら聞き覚えのある声が奥のほうから聞こえてくる。
その声のする方向に、本能のままに進んでゆくことしばし。
ふと上を振り仰ぐとと、そこにはなぜか…
「…え?俺?って、皆!?しいな、ゼロス、それにと…クラトス!?」
部屋の中央あたりに視えない床らしきものがあるのだろうか。
その上に彼ら三人の姿がみてとれる。
なぜ下からみているのに姿がみえるのか、といえば、天井部分に彼らの姿が、
まるで反射しているかのごとくに映し出されているからの他ならない。
そしてなぜかそこにはクラトスの前にロイド自身の姿すら。
「ロイド!?今、ロイドの声が……」
今、たしかにロイドの声が別なところからきこえた。
ゆえに戸惑いの声をあげるしいなにたいし、
「そのロイドこそまやかし。怪物の声がきかせる幻聴だ」
何やら上のほうから聞き捨てならない台詞がきこえてくる。
それゆえに。
「皆、だまされるな!本物の俺は下にいる!第一、俺がミトスのいう理想に協力するわけないだろ!
本物の俺はこっちだ!俺は幻なんかじゃない!
ミズホの民は無機生命体の千年王国に残ったほうがいいのか?
いつ生贄になるかもしれない神子にセレスがなってもいいのか!?
俺は、身七を信じてる!俺達のやろうとしていることは大変だけど皆はにげないって!
生きているだけで価値があるんだ!産まれてきたったことだけで価値があるんだ!
それでも価値がないっていはるなら、俺が価値があるときまてやる!
その妖にうちかつって!」
どうして彼らが自分…しかも、ゼロスは妹と、しいなはくちなわと、クラトスに至ってはなぜか自分。
そんな幻のようなものと対峙しているのかはわからないが。
だがしかしこれだけはいえる。
あの場にいる自分は自分ではない、と。
自分は絶対にそんなことはいわない。
目をつむるとかそんなことは絶対にいわない、というより感情のままに動いて、
後先だめにする自覚がある。
それはもうおもいっきりに。
「…安心しろ。あれは私の心にすむ妖だ。現実から目をそむけ、
ミトスのいいなりになっていた自分を甘やかそうとする幻、なのだ。
……私を、仲間、と認めてくれるのだな」
クラトスがぽつり、とつぶやく。
「…じゃあ、このくちなわは、あたしの中のあやかし、幻なんだね」
こころの奥底でくちなわに申し訳ない、とおもっていた自らの心が実体化したもの。
と。
突如として、そんな彼らの頭上に別の影が浮かび上がる。
それは一つの姿を形づくり、
「僕を裏切ったクラトスやその人間に価値があってたまるものか!」
それは悲鳴にも近い台詞。
幻達の頭上にミトスの影が出現し、そんなことをいってくる。
「まあ、セレスが生贄、は洒落になんねぇからな。それはそうと、信じてるぜ、ロイド!
今から価値あるゼロス様がそっちにいくからな!」
からめとられている触手のようなものから逃れることをやめ、ながされるままに。
呑みこもうとしている魔方陣にその身をそのままにまかせ、そのまま魔方陣に呑みこまれてゆくゼロス。
その真下には口をあけて今か、今かとまちかまえている蜘蛛の魔物。
時折、ぶれるようにしてその姿がロイドの姿と重なってみえるようではあるが。
どちらが真実なのかはわからない。
が、ゼロスは、今のきこえてきたロイドの台詞を信じた。
ただそれだけのこと。
「……また、私を裏切るのか?」
「父さんは俺よりあの偽物を選ぶのか!?」
ミトスと、ロイドの口から発せられるまやかしの台詞。
否、ミトスの口から洩れた台詞はまやかしでも何でもなく、おそらくは本心、なのであろう。
ミトスの心の中に常にある、本心。
「失せろ。幻のミトスと幻のロイドよ。我が息子ロイドが私を必要だといっている。
私はこの罪から逃れるわけにはいかないのだ。
かつてミトスの具公を見逃した私の愚かさをつぐなわせてくれ、ロイド」
そういい、クラトスもまた、逃れようとする力をぬき、魔方陣の力のままにと流され、
そのまま魔法陣の中へ、すなわち蜘蛛の魔物のほうえとおちてゆく。
「ああもう!二人に出し抜かれちゃったよ!…信じてるよ、ロイド!」
ここでどうにかあがいても仕方がない。
それに、とおもう。
もしも、これがクラトス達のいう心の闇を具現化させたような罠、ならば。
仲間を敵、すなわち魔物にみせかけ惑わしてきても何ら不思議は、ない。
ゆっくりと床にとおちてゆく。
そこにいるのはたしかに蜘蛛の魔物。
だがしかし、心をつよくもち、それは魔物ではない、と自らにとそれぞれ自分自身にといいきかす。
それとともに、うすれゆく蜘蛛の魔物の姿。
そのかわりにあるのは、みおぼえのある紅い服をきこんだ一人の少年。
『……呪われた血を背負って生きるのにどんな価値があるのさ。
時には逃げることが救いになることだってある。人間は傲慢だね。』
どこからともなくミトスの呟きのようなものがきこえ、それとともに、
ふわり、と床におりたったクラトス、しいな、ゼロスの目の前に、
小さな蜘蛛のミニチュアがそれぞれういているのがみてとれる。
「蜘蛛のミニチュア?」
「逃げるなって戒めかもよ?」
「……我が手ではどうにもならぬ、とあきらめ、逃げだしたことは今は恥じている。
あのまやかしのおかげでそれを再確認できた」
不思議そうにしいながいい、ロイドがそういう最中、クラトスがそんなことをいってくるが。
「それより、ロイドくん。ナイスタイミング。って、一人なのか?」
「あ、それが、先生達と転送陣にのったとたんにはぐれちゃって……」
「ここはおそらく、まちがいなくデリス・エンブレムの封印場所、のはずだ。
ならば出口があるはずだが…その前にまちがいなく試練があるはずだ」
クラトスがそんなことを何やらいってくる。
「試練?って何さ?」
「……心の試練だ。おそらくは何かと戦うことになるやもしれぬ」
クラトスの言葉に思わず顔をみあわせる。
「…さっきもなんか変なのと戦ったけど、そんな感じか?」
「変なの、とは?何さ?」
しいなの問いかけに、
「それが、俺や先生、ジーニアス、それぞれ敵の姿が異なってみえてたんだ」
「…それはおそらく、鏡の封印、だろう。それぞれの怒りや憎悪、そういったものを乗り越えられるか否か。
おそらく、デリス・エンブレムの封印の鍵の一つだろう」
かわりにクラトスが説明を下してくるが。
「だとすれば、ここにある試練ってのは?」
「…さきほどの幻からいけば、自らの心の闇、悔いなどを表にだしてきた、となれば。
自らの闇の象徴、ともいえる何かと戦うことになるやもしれぬ」
それは、デリス・エンブレムがもつ特性をいくつかにわけたがゆえの試練であり、
かつて、ミトスもそれを乗り越えた試練の内容。
個人個人によって試練の内容は異なれど。
本質は皆、同じ。
「哀れな神子よ。世界を滅す疎まれし神子」
「これ…何?」
先ほどまでたしかに目の前にロイドがいたのに。
気がつけば光にとつつまれた。
目の前にいるのは、レミエルと、なぜか村長。
さきほどジーニアスが対峙していた人物と同一なのかどうかはわからない。
「哀れなる神子よ。天使の力をうけながら私が幻か実体化すら見分けられないとは。
やはりお前はできそこないだな。産まれてこなければ皆が幸せになれたのだ。
そうだろう。世界を滅す哀れなる神子よ」
「私…世界を不幸になんて……」
「してない、とでもいうのか?!お前が神子の役目をはたさなかったばかりにどれほどの人がしんだ!?」
レミエルの口から紡がれる台詞と、村長の口から紡がれる言葉。
「できそこないの神子。どうする?お前にながれる神子の血に従って僕に力を貸せば、世界は救われるよ?」
ふと背後をふりかえれば、そこになぜかミトスの姿が。
「そうだ。ここで命をすてて神子としての役目を果たせ。お前は生贄として産まれてきたんだ!」
「そう。生贄として産まれてきたはずのお前が命を惜しんだがために、多くの命が失われた。
もっとも劣悪種の命が、だがな。ユグドラシル様はお前がマーテルとなれば世界を統合してくれるそうだ」
「世界が…救われる?」
自分がマーテルになれば世界が統合される。
村長につづき、レミエルがそういってくる。
「……私、神子の血が流れてるんだよね。世界を救うために産まれてきたんだよね。
でも…だから、神子だから、村ではいつも一人ぽっちだった。
ロイドが学校にきてくれるまでずっと一人ぽっちだった。誰も友達になってくれなかった。
私は…神子、という生き物で人ですらなかったから……」
そんなコレットの独白に、
「当たり前だ!神子は世界を救ういきもの!それが出来ぬ神子などただの化け物ではないか!」
村長のあいかわらず、というか彼らしき台詞。
だけど。
「昔の私ならそう思いました。私は人間でないんだからそれでいいんだって。
でもそれは私が弱かったから。人がハーフエルフを認められないように、
私も死ぬ以外の生き方があるなんて認められなかった。私は心が弱かったんです。
だから、私は逃げません。私は私のやり方で世界を統合するんです。
死ねば全てがおわるって、間違ってるってロイドが教えてくれたもの」
死はあるいみ今ならば思う。
それは逃げているしかないのだ、と。
だからこそ。
「神子としてはできそこないかもしれない。でも神子だからこそ生きて責任をはたさなくちゃいけないんです」
「馬鹿な神子だ。使命から目をそむけているから何が真実か視えていないのだな」
「神子が改めてマーテルとなればそれだけで世界は救われるのだ。
よかったではないか。使命は果たせる。お前が逃げ出した罪はそれで帳消しになる。
そうなれば、お前が産まれてきた価値がある、というものだ」
レミエルと村長の交互の台詞。
そんな二人に対し、
「ううん。マーテルは、そんなことを望んでいなかった。
私はロイド達とともに、世界を真の意味で再生してみせます」
「ロイド達…ね。再生の神子。お前がいう仲間の絆というのはまやかしにしかすぎないよ」
「何を……」
ミトスが言うのと同時、コレットの視界が再びぶれる。
「リーガルさん!?プレセア!?」
ふと、視界にはいったのは、檻にとはいった二人の姿。
「?今、コレットさんがそこにいませんでしたか?」
「気のせいだろう。彼女はミトスに連れ浚われたままだ」
しかし、どうやらコレットはそこにいるのに二人には姿が視えていない、らしい。
「罠、か」
「そうだとしても、いつまでもここにいるのは」
気がつけば、牢のようなものの中に二人は閉じ込められていた。
そんな会話をしている二人の姿がそこにあるのに、こちらには気づいていないっぽい。
「どうにかしなきゃ」
横にあるパネルのようなもの。
それをどうにかわからないままに触るが、まったく意味がわからない。
と、
「んきゃ!」
こけっ。
そのまま前のめりに何もない空間にてこけてしまう。
それとともに、何かのはずみ、なのだろうか。
ガシャン。
「「・・・・・・・・・・・・・」」
プレセアとリーガルが囚われていた牢の檻がガチャン、という音とともに扉が開かれる。
「罠、か?」
「罠だとしてもこのままここにいるわけにはいきません」
「そうだな、よし、ロイド達を探そう」
どうして扉が開いたのか。
それはリーガルやプレセアにはわからない。
二人は今現在、あるいみ幻術にかかっているようなもの。
ゆえにすぐ近くにいるコレットにすら気づかない。
「二人とも!無事でよかった!」
「アリシア!?」
「そんな…馬鹿な…」
牢からでて少しいくと、目の前からみおぼえのある少女がやってくるのがみてとれる。
その笑顔も何もかも記憶にあるがまま。
プレセアにとっては幼き日の面影を残したままの、その笑顔で。
「まってください。今、ロイドさん達のいるところに案内します」
そういうアリシアはたしかにアリシアで。
かの空中庭園でみた魂だけの存在、というわけではなさそうである。
たしかにそこにいて、実体があることは、影があることからもみてとれる。
「幻だ!アリシアは…死んだ!」
「ええ、殺されました」
それも横にいるリーガルに。
アリシアの姿をみれば、仕方がなかった、ではどうしても納得がいかない。
特に、ロイド達から異形とかした姿でも人に戻せる方法があった、と聞いているからなおさらに。
最後にアリシアはたしかに恨まないで、とはいったが。
妹を理不尽な形で奪われたことにはかわりがない。
心と感情はそう簡単にはおいつかない。
「……その通りだ」
そして、そんなプレセアの台詞をリーガルは肯定するしかできない。
あのあと、ロイド達と知り合い、元に戻す方法があった、としってからこのかたずっと。
彼女をあのとき、殺すのではなく捕らえることによって彼女を救えたのではないのか。
という思いはずっとリーガルの心の奥底から捨て切れない。
だからこそ肯定の意を示す。
事実、リーガル自身がアリシアを殺してしまったことに偽りはない、のだからして。
「では、私は?お姉ちゃん、私は何?私はこうしてここにいて息をしているのに。
お姉ちゃんまで私を死んだっていうの?私は……」
いいつつも、プレセアの手を握る。
その手はプレセアからしてもても暖かい。
そしてそっと胸元に手をあてられれば、そこにたしかに命の鼓動が感じ取られる。
幻とか、そんな感じには到底みえない。
五感をも含んだ幻影なのだ、とプレセアは気づけない。
否、うすうすわかっていても、人はどうしても安易な方向へ流れようとする。
すなわち、奇跡、というその事実の方向へ。
「私はたしかに、リーガル様に殺された。でも、今こうしていきている。それでいいじゃない」
「まやかしめ。立ち去れ!」
いいつつ、リーガルが一歩前に進み出るが、その間にわってはいり、
プレセアがそのまま無言で武器を構え、リーガルの前にと立ちふさがる。
「プレセア!」
「まだ、幻、ときまったわけではありません!」
斧を構え、リーガルとにらみ合うプレセア。
コレットはとまどわずにはいられない。
コレットの目にもそこにアリシアの姿はみてとれている。
何がどうなっているのか、コレットにも理解不能。
ただ、わかるのは、彼女をめぐって今まさに、二人の間で仲間割れが発生しそう、ということくらい。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんは私を信じてくれるの!?」
リーガルからしてみれば、愛するものの姿を何ものかが偽りで纏っていることが許せない。
ゆえに攻撃すれば相手も正体を現すであろう、そんな思いで攻撃を繰り出そうとするものの、
一歩前にとでたリーガルにたいし、おもいっきりプレセアが斧をふりかぶる。
「やめて!」
それは反射的な行動。
先ほど一瞬とはいえ姿がみえたコレットの声がしたかとおもえば、
直後、プレセアの刃が何かをとらえたようなそんな鈍い感覚。
それとともに、ぽたり、とおちるその場にあらわれる…床にとおちている血だまり。
そこに誰の姿もない、というのに、である。
真実はそこにコレットの姿が…今、まさに振り下ろされたプレセアの刃によって傷ついたコレットがいるのだが。
二人の目にはその姿はうつってはいない。
「リーガル様…私を…殺そうとするなんて……」
さすがにぽたぽたと増えてゆく血だまりを目の当たりにし、はっと我にともどるプレセア。
先ほどきこえたコレットの声。
そして、目の前にみえる血たまり。
しかし、コレットの姿はそこにはない。
しかも、自分のもっている斧の刃にも血らしきものはついてはいない。
なら、目の前にふえていっているこの血は?という思いがぬぐいきれない。
リーガルをかばうようにして前にでたがゆえに、防御とか何もできず、
かといって、咄嗟的に割り込んだがゆえに致命傷、までにはなってはおらず。
かといって、コレットの肩はばっさりと、プレセアの斧によって切り裂かれ、
そこからぽたぽたと血がしたたりおちていたりする。
「どうして攻撃をやめるの!?お姉ちゃんは私を殺したあの人を憎んでいるんでしょう!?
リーガル様もどうして大人しく殺されてくれないの?
いつも私を殺したことで罪悪感を覚えていたくせに」
忌々しそうにそういうアリシアの言葉とほぼ同時。
「そうさ。それでいい。殺されれば罪悪感も感じなくなるだろう。
殺してしまえば復讐は終わる。背負った罪は罰せられるべきだ」
ふと、そんなアリシアの背後に空中に浮かんだ透けているミトスの姿が浮いているのがみてとれる。
「二人とも、正気にもどって!戦う相手を間違えないで。お願い。
相手を殺しても何の解決にもならないから!死んでしまったら何ものこらないもの!」
いいつつも、血にぬれた手でプレセア、そしてリーガルに手を伸ばす。
何かが触れたような、そんな感覚。
本来ならば、コレットが触れた場所は血に濡れているのだが、
幻影に惑わされている二人はそれに気づくことができない。
認識阻害がかかっている、といってもよい。
「それは理屈だ。理屈では人は動かない。愛するものを殺されれば憎いし、殺した罪には罰が必要だ」
「そうやって、相手を殺せば、また次の復讐が始まってしまいます。
…死んでしまってはそれで全てがおわってしまいます。
人を殺したことも、自分が何をしたかも、その苦しさも、全て忘れてしまう、だから。
死ぬということは、罪からあるいみ逃れる手段かもしれません」
気を抜けば意識が飛んでしまいそう。
だけど、そうはできない。
痛覚が戻っている、というのはこういうときにきついかも、とふとおもってしまう。
おそらくこの怪我はかつてのロディルによってうけた傷よりも浅い、はず。
なのに痛みが半端ではない。
あのときは、痛覚を失っていたから痛みも何も感じなかった、というのに。
「仲間とおもっていたものに傷つけられてもまだいうか。できそこないの神子」
「たしかに。私は神子としては失格かもしれません。
でも、わたしが命をささげて世界をマナで満たして救おう、とおもったのは。
誰もが傷つけあわない世界にするため。誰もが誰かに傷つけられる世界をなくすため。
でも、私のその思いも逃げでしかなかった。死ぬことでしか意味がない、そう想っていたか。
けど、今はそれが間違いだって、そうロイドが、ロイド達が教えてくれたから」
「…次の復讐が始まる……」
「…罪から逃れる…」
その言葉に、何か目からうろこがおちたような錯覚におちいるリーガルとプレセア。
それとともに、それまでみえなかったはずの姿。
すなわち、血だまりの上にうづくまっている少女らしき姿がぼんやりと確認がとれはじめる。
肩からぱっさりと傷をおい、血を流している少女の姿がそこにはある。
もっとも、確実にみえる、のではなく点滅したような感じでそこにいるのかいないのか、
というような認識ではありはするが。
「でも、私はすでに死んでしまったのよ?この思いはどうすればいいの?」
コレットの言葉にアリシアの姿をしているものから紡がれる台詞。
「たしかに、アリシアさんは死んでしまったかもしれません。
けど、あなたはアリシアさんではありえません。ありえるはずがありません。
だって、あなたは、成仏するとき、あの子達の…エクスフィアのことも感謝していたくらいなんだもの。
そんなあなたが、自分が愛していた二人が戦うことなんて望むはずがない」
エミルに感謝していた。
自分が捕らえられていたエクスフィアも助けてくれてありがとう、と。
そんな心優しい彼女が大好きな二人が傷つけ合うことを認めるはずがない。
というかそんなことをあおるはずすらない。
「…お前は…真実、コレット、なのだな。というかよくミトスの手から逃れることができたな」
「そして、あのアリシアは偽物、です。アリシアは決してあんなことはいわない」
怪我を押してでも、それでも相手を止めようとする心。
自分を犠牲にしてでも誰かを護ろうとするその心。
その肩の傷がぽんやりとではあるが確認でき、一瞬リーガルは顔をしかめるが、
怪我をしている、と確信がもてたからこそ決着は早めにつけたほうがのぞましい。
いいつつも、二人してプレセアの背後にいるアリシアの姿をしているものにと身構える。
そんな二人二対し、
「私を殺すの?お姉ちゃん?リーガル様?」
戸惑いの声をあげてくるアリシアの姿。
と。
「二人とも無事か……って…コレット!?って、何がどうなってるんだ!?」
それとほぼ同時、ちょうどこの場にやってきたらしいロイド達が目にしたのは、
その場にうづくまり、怪我を負っているコレットと、
そして死んだはずのアリシアにむかって対峙しているリーガルとプレセアの姿。
二人の背後には姿がすけているがミトスらしき姿もみてとれる。
「ロイド…それに、皆も。よかった、無事で」
無事な姿をみてほっとした声をあげるコレットとは対照的に、
「無事…って、あなたのほうが無事じゃないじゃないの!どうしたの。この怪我…とにかく、動かないで」
あわててそんなコレットのもとにかけより、回復術を施し始めるリフィルの姿。
右肩からばっさりと、何か刃のような…刃?
ふとみれば、プレセアの斧に血がこびりついている。
何があったのかはわからない。
が、どうやらこのコレットの怪我はプレセアが負わせたもの、らしい。
おそらくは、アリシアのあの幻に誘惑され、リーガルをあやめようとしたプレセアにたいし、
コレットが間に割って入った、というところ、なのだろう。
説明を受けたわけでもないのに的確に状況を判断し把握しているリフィルはさすがとしかいいようがない。
「って、何でアリシアさんがここに!?」
状況がわからずに、驚愕した声をあげているジーニアス。
「おそらく、我らがみたような幻、だろう。二人には有効な幻、だな」
クラトスが淡々とアリシアの姿をみとめ、そんなことをいってくる。
「本気でえげつねぇな……」
ゼロスがぽつり、とそんなことをつぶやいていたりするが。
「どうか、二人を惑わさないでください」
それはアリシアにむけたものでも誰にむけたものでもない。
そこにいるミトスとおもわしき人物にむけたもの。
誰だって大切だ、と思っていた人にいわれれば心揺らいでしまう。
それがたとえ当事者でない、とわかっていても。
「…すまない。私は、罰せられているという安ど感から罪を償う気持ちを忘れていた。
死ぬということは罰ではない。罰を背負ってつぐなう心が罰、なのだな」
手枷をし、自分を罰している、とそう思うだけで自分によっていたのかもしれない。
今さらながらにそのことにきづき、リーガルがぽつり、とつぶやく。
手枷をし不便になっているから罰せられている、とそう自分に言い聞かせていた。
思いこんでいた。
それは自己満足でしかない、とわかっていながらも安易な目に見える形なのでその方法をとった。
「私は…つぐなおうとしている人達に、目をつむり、耳をふさぎました。
怒りに身を任せるほうが許すより、ここちよかったから……」
自分を実験につかったケイト達をいまだに許せてはいない。
かつて、父の知り合いにいわれた自分の心の闇にまけるな、というその言葉。
その言葉の意味がいまさらながらに理解できる。
さきほどの一撃は、まちがいなく、下手をすればコレットを…コレットがいなければ、
まちがいなくリーガルを殺していたであろうことが容易に予測がついてしまう。
そして、リーガルを殺した、ということで、プレセアは罪にとわれるであろう。
公爵を手にかけたもの、として。
レザレノ・カンバニーの会長を殺したもの、として。
その背景にあるものは一切考慮されることもなく。
否、ほとんどの民意はまちがいなくプレセアをせめる、であろう。
すくなくとも、異形とかしたアリシアが罪なきものを手にかけ殺めた事実があるだけに。
「よくわかんねぇけど。死ぬ前にやれることはいくらでもあるんじゃないのかな。
それに、何もかも許さなくてもいいんじゃないんじゃないか?というか許せないものは許せない。
それでいいと思うけど。俺は。どんなにつらくても、苦しいことがあっても、後ろばかりをみていたらだめ。
前をむいていきていくだけでいいとおもう。相手にどれだけ愚痴とかいって喧嘩とかしてもいいからさ。
用は、気の持ちようだろ?よくわかんねぇけど」
コレットが怪我をしていたことに驚いたが、ミトスがいたことから、
どうせミトスが何かしたのだろう、とおもい、仲間を欠片も疑っていないロイド。
よもやプレセアの刃がコレットを傷つけた、など欠片すら思っていない。
「……まあ、確かにその通り、ではあるのだけど」
「というか、ロイド、状況がわからないのによくもまあそんなことがいえるね?」
「まあ、ロイド君だしねぇ」
『たしかに』
異口同音でその場にいるほとんどのものの声が重なる。
よくもまあ、この状況で、現状が意味不明なのにそんなことがいえる、とおもう。
それは言葉の端々のみをきいて、思ったことを素直に口にだすロイドだからこそ、といえるであろう。
「ひで!どういう意味だよ!」
何やらそんな彼らにロイドが文句を言っているが、
そんなロイドとは対照的に、
「デリス・エンブレムの封印の試練は、それぞれの人の心の奥底にある不安を映し出す」
クラトスのそんな説明をうけ、
「……この幻は、過去に捕われている私の心がみせているものだ、ということ、ですね」
「そういうこと、だろう」
二人に共通しているのはアリシア、という人物。
だからこそこのように姿が現れている、のだろう。
第三者たるロイド達にみえているのは何らかの力が働いているのかそうでいなのか、
そこまでリーガル達にはわからないが。
「…私は、なるべく過去に捕われることを…やめます。そうすることで間違いを起こしかねないから」
それでなくても、今、自分の斧がコレットの肩を切り裂いた。
コレットの服が真赤に染まっているそれは、まちがいなくプレセアがもたらしたもの。
リフィルの回復術でその怪我はどうにかなおっているらしいが。
感情のままに、その斧の刃をリーガルにぶつけようとした。
間に割って入ったコレットがその刃をうけてしまった、ということを除けば。
一歩間違えば確実に今の自分の刃はコレットを殺していた。
それはもう確信。
あの一撃は、プレセアは、リーガルが死んでもいい、とおもい振り下ろしたのだから。
「…新しい世界を求めるものが、過去をひこずっていても仕方がない、ということなのだろう」
『…そうして、お前達は過去を忘れてゆく。どれだけの命が犠牲になったのかもすらもわすれ。
そのために苦しんだものの悲しみも、その歴史も全てが失われる。
……罪には、罰と裁きが必要なんだよ』
ふと、そんな声がきこえたかとおもうと、アリシアの姿もきえてゆく。
「……ごめんなさい。コレットさん、大丈夫ですか?」
「ううん。平気。ちょっと私がドジだっただけだから」
「うわ、血だまりになって……え?」
ジーニアスがかがみ、その床にたまった血に手をおくとほぼ同時。
『命とは産まれながらに罪を背負うもの。汝、その罪と向き合うか?裁かれるがいい、罪深きものよ』
どこからともなく声がその場にいる全員の心の中にと響きわたってゆく……
――Go To Next
Home TOP BACK NEXT
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
あとがきもどき:
薫:今回は、サブイベントの、囚われの回のみでしたv(こらまて
戦闘シーンは面倒なのではぶきます(だからまて
さてさて、ようやく次から話しがすすむ…かな?過去ミトスとの合流にならないと話しがすすまない
ともあれ、ちょこっとばかりあとがきに別話しをばvv
しかし、改めてラストに近づいたから初期から読み直してみてたら…誤字脱字がかなり…あうあうあう
………ちまちまとなおしていきます……へんな変換になってるとこが多々とあるぅ…涙
「しいな!しいな、しっかりして!」
何がおこったのだろうか。
わかるのは、確実にあの人間達は瘴気に侵されているということ。
今の自分にその瘴気に対抗する術はない。
できるのはしいなに加護をあたえその瘴気からまもることだけ。
パルマコスタがヴァンガードとなのるある組織にとのっとられた。
そう噂できいたのがつい先日。
そのヴァンガードの総帥はこの世界で八百年前に滅んだというシルヴァラント王朝の王位継承権をうたっているらしい。
それだけではない。
どこからしったのか。
ここ、シルヴァランドがこのように衰退しているのはテセアラという国がこの国をないがしろにし、
ディザイアンにこの地を売り渡しているからだ、と高らかに宣言。
かならずその患者がまぎれているはずだ、といい、身元不明、さらにはこのあたりではみたことのない服。
それを着ているしいなにその疑いはむけられた。
どうにか式神で撃退し、にげたものの、未知の力をもつもの、すなわちテセアラの患者にすぎない!
とヴァンガードそのものから追手がかかった。
おいつめられ、崖からしいなが飛び降りたものの、そこは荒れた海。
いくらコリンが精霊の力をもっているといっても今の彼女にはそこまでの力はない。
ーーお願いします。助けて…助けてください。メルネス様、ラタトスク様!!!!!!!
私の恩人を・・・たすけて!私の存在すべてをかけてでもいい、しいなを…この人をたすけて!
声にならない悲鳴。
海を護りし精霊たるメルネス。
そしてあのときにみた神子達とともに行動している万物の王ラタトスク。
できるのは…彼らに救いを…求めること、のみ。
ぴく。
「……エミル」
「ああ」
声がきこえた。
切実なる助けをもとめる同胞の声。
「……パルマコスタの北東。そこから、だな」
セネルが目をつむり位置を特定。
「アクア」
「は~い」
セネルが位置を特定したのをうけ、エミルがアクアに指示をだす。
海を通じて聞こえたということはこの海のどこかにその声の主はいるはずである。
だからこそセネルは目をとじ、海にと意識を向けた。
結局のところいろいろとあったこともあり、人気のない海岸沿いに一度接岸し、
今日のところは休むことに。
いまだにパルマコスタのウィル達が心配らしくロイド達の顔色はわるいが。
「よほどヒトの鬱憤がたまってたようだな。あっさりと瘴気をうけいれてやがる」
空気よりつたわるかの地の光景。
「あいつらの食事はヒトの負の感情だからな。悲しみ、苦しみ、怒り、といった、な。
タチがわるいのはそれらをあおって増やしていくってところだが」
普通の負とは異なり…浄化の可能なそれとはことなり、歪まれた負の力。
コレットはあからさまに人から悪意をむけられたことにたいし、いまだに少し落ち込み気味。
「…クラトスのやつが報告にもどらなくてよかったな。報告にいってたらクルシスが攻撃にきてたぞ。絶対」
クラトスは報告すべきかどうかを迷い、とりあえず神子の安全を優先したらしい。
すくなくともミトスの最終的な目的はマーテルの復活。
ゆえにかの地のものには不干渉、ということにしたらしい。
かつて自分達が封じたはずの魔族の気配がしたことに何もおもっていないはずはない、というのに、である。
と。
「!先生!誰かが海岸沿いでたおれてる!!」
気持ちを落ち着けるべく海岸沿いをあるいていたロイドが何やらさけんでくる。
静かに打ち寄せる海の音。
その波打ち際に一人の女性がくったりとして倒れているのがみてとれる。
どうやらあそこからここに移動させただけで放置をきめこんだらしいアクアの行動に思わず苦笑してしまう。
「このこは…まずいわ。体がひえきってる。いそいで温めないと」
「あれ?このこ…しいなちゃん?しいなちゃん?ねえ、どうしたの?ねえ!」
「……パルマコスタの人達がいきなりしいなを襲ってきたの……」
ぽん、と出現したコリンとよばれていたリスのようなものがそうつぶやく。
その姿がすこしばかり透けているのはしいなをまもるために自分を構成していたマナを使っていたがゆえ。
「襲ってきた!?」
「…とりあえずこの子を回復させるのが優先よ。それからあなた、えっと……」
「あ、僕コリンっていいます」
「そう、コリンね。あとで詳しく話してちょうだい」
「…はい」
きづいたら青い光につつまれ、ここにいた。
リフィルのことばにただただうなづくコリンであるが。
「…ったく、厄介なことになりまくってるな。…ゲーテのやつに協力仰ぐしかないぞ。こりゃ」
「…穢れ流し必要かな?」
しばし海をみつめつつ、状態を感知しそれぞれがそれぞれに感想をいっているセネルとエミル。
二人の声はいつもの原語なので当然、ロイド達にはわからない。
わからないが精霊であるコリンにはその意味はわかる。
「…テネブラエ。お前ならばあいつらに気づかれないように調べるこどか可能だろう。いけ」
「は」
他のものでは下手をすればまたコアに戻されかねない。
もしコアに…孵化前の状態にまでされ力を悪用されてはたまったものではない。
「何かあればすぐによべ、扉をひらいてすぐさまに呼びもどす」
「わかりました」
『そんな……』
パルマコスタはたった一日でどうやら洒落にならなくなっているらしい。
マーテル教会とディザイアンが手を組んでいる、そう高らかに宣言し。
その証拠とばかりにマグニスの牧場をおそい、そこの資料を手にしてきた。
そこにはドアが密約した内容が含まれており、街の人々の感情はさらに爆発。
マーテル教会が旅業といって送り出したものたちも大多数が犠牲になっていることも判明した。
総督府や教会の関係者は全て捕らえられ今は牢へといれられているらしい。
家族に関しては監視がつき、今やバルマコスタはちょっとした要塞都市のようなありさまに成り果てている。
それもたったの一日で。
おそらく水面下でその機会をうかがっていたのであろうことは容易に予測がつく。
「でもおかしいわね。教会の関係者でもない、ましてや総督府とも関係のないあなたを
どうしてあのヴァンガードは襲う指示をしたのかしら?」
しいなが目をさまし、簡単に事情聴取。
さずかに助けられたことがわかる以上、恩にむくいないわけにはいかない。
ゆえに簡単な事情を彼らにはなしているしいなの姿。
「…しらないよ」
なぜ彼らがテセアラのことをしっていたのか、などという思いがある。
自分達はレネゲードよりその存在をしった。
なら、ヴァンガードは?
レネゲードが奴らにも加担している、とも考えられる。
だからこそ情報に関しては慎重にならざるをえない。
「…お前のもつ力を取り込みたかったのではないのか?」
それまで黙ってきいていたクラトスがぽそり、と意見。
「どういうこと?」
ジーニアスの素朴なる疑問に、
「そのコリンとかいったか?そのありようからしておそらくその子は精霊だろう。
ということは、お前は精霊と契約できる資格をもつ召喚士…なのではないか?」
精霊と契約できるのは召喚士、もしくは精霊に認められし存在のみ。
「…ごまかしは無駄みたいだね。たしかにあたしは召喚士の力ももってるさ。
だけどあたしは符術士さ。召喚士の力ももってるけどね」
「おそらく、仮説でしかないが。あのものたちは王朝の復活をうたっている。
ならば精霊と契約を、という思いもつよいだろう。精霊と契約することにより王国の反映は約束されるからな」
「つまり。彼らはこのしいなって人の力をねらって襲ったったてこと?」
「可能性の話しだ。しかしそうなると…精霊達を解放しただけでは危険だな。
…あらたに誰かが契約をする必要性がある」
「?どういう?」
「もしも、だ。彼らの目的が精霊の捕獲であったら?せっかく封印を解放したとしても、
意味がない、ということだ。しかし別の第三者が契約をすればすくなくとも奴らの手に精霊がわたることはない」
「なるほど。再生の神子は眠っている精霊を起こすこと。目覚めた精霊はその場にのこされるまま。
…たしかに、ありえるわね。精霊があっさりと捕まるかどうかは別として」
精霊を捕まえる何か、があれば別であろうが。
ちなみにあまりに力がそがれているがゆえに、コリンは自分の気配を隠すことができていない。
本来の心の精霊としての力であれば気配を遮断し隠すことなどはたやすい、というのに、である。
いうまでもなくエミルやセネルの気配はヒトのそれ。
それゆえに気づかれることはない。
「…もしも奴らの手に精霊がわたったとしたら…どうなるんだい?」
「八百年もまえの王国を復活させよう、なんてわけのわからないことをいっているひとたちよ?
精霊の力をつかって世界征服…もとい世界統一を、とか考えていても不思議ではないわ」
「何だよ!それ!」
ロイドが叫び、
「ひどいよ!」
ジーニアスもそれに同意する。
「問題は。コレットよ。彼らはコレットをも捕らえようとしていた。
おそらく彼らは精霊の封印を解放することはできないんだわ。
だからコレットを捕らえ、精霊達を解放させようとしている。そうするとつじつまがあうのよ」
あれほどまでに神子を捕らえよ、といっていたのである。
そう考えるとつじつまがあう。
「つまり…どういうことだ?」
どうやらロイドだけは話しについていかれないらしい。
「つまり。あいつらは、コレットに封印を解放させて精霊を自分達で使役するつもりなんだよ。
このしいなって人が召喚の力をもっているんだとしたらどうにかしていうことをきかせるんじゃないの?」
「人をあやつる技、というのがかつてのシルヴァランドにはあった、というわ。
あの継承者がそれを継承していたとすれば…あなたを傀儡にして、という可能性もありえるわね」
ジーニアスとリフィルが何やら物騒な会話をしているが。
「じ…冗談じゃないよ!あ、あたしを傀儡に!?」
それはいわば操り人形。
意思をもたない、相手のおもうがままにあつかわれる…道具。
「精霊の加護があればすくなくとも簡単には傀儡にはかからない、とおもうけど。
あなた、コリンだったわね?あなたからみてどう?」
「…むり。僕の力じゃ、簡単な加護はたしかにあたえられてるけど、もしもアレが傀儡をつかってきたら護りきれない」」
それは事実。
「ということは。あなたは少なくともあなたの身を護るためにも。
最低一人の精霊と契約を交わす必要があるわ。今解放されているのは火のイフリート。
…だけどここからイフリートがいる旧トリエット遺跡にもどるのは…危険ね」
話しをきくかぎり、追手がはなたれている、と考えてまず間違いないであろう。
「…とにかく。奴らの目的ば何ろしろ。…精霊と契約を結んだほうがいいだろう」
すくなくとも、それでミトスの楔の一角のみは解放となる。
この状態で下手に精霊達のみ解放すれば魔界の瘴気に呑みこまれてしまう可能性がたかい。
それに神子が巻き込まれること、それだけはさけなければ、とおもう。
そしてまた、ロイドが巻き込まれることだけ、は。
「一番は、どこに封印の箇所があるかわかれば…なのよね…」
そういうリフィルの言葉に、
「……ソダ間欠泉だよ」
「え?」
うつむいていたしいながぽそり、とこたえる。
「…あたしは、どこに封印の箇所があるか、情報の提供者はいえないけど聞いている。
水の精霊はソダ間欠泉ってのがあるソダ島ってところにいるらしい」
神子をとめるためにも、という理由でレネゲードからその情報はえている。
そして地図も。
だからこそ先回りができていた。
「それは本当なのかしら?」
「信じなくてもいいよ。だけど本当のことさ。水の精霊はソダ島ってところにいる」
一度あの地にもでむいたが、自分ではあの封印の扉からはいることはできなかった。
他に入口があるか探してみたが見つからなかったのであきらめた。
「ソダ島ならここから近いな。船でいけばそうかからないはずだ。どうする?いくならつれてくぞ?
何しろ俺もパルマコスタに戻れないッポイし。というよりこいつを野放しにはできない!」
いいつつ、ぴしっとエミルに指をつきつける。
「どういう意味だよ!セネル!」
「お前が捕らえられたら全てがおわりだろうが!あいつらにお前がわたったらおそろしすぎるぞ!」
『たしかに』
おもわずセネルの言葉にその場にいたリフィルたち全員…クラトスまでもが同意する。
エミルの魔物使い?の才能ははっきりいって脅威である。
「ひど!僕も簡単にはつかまらないよ!」
「そういってお前は幾度命ねらわれてやがる!」
「…やっぱり狙われてたことがあるのね・・・このこ……」
事実、命を狙われた殺されたことがある。
ここにいるクラトスたちに。
もっともセネルの懸念はそれによってキレたラタトスクがこの地をいっとき浄化しかねない、というのもあるのだが。
それができるから洒落にならない。
キレタだけで何をしでかすかあるいみつかめないのもまたじじつ。
そんなセネルの言葉に。
「…確かに、それは恐ろしすぎます……」
エミルが誰なのかわかっているがゆえにおもわず身ぶるいしながらこたえているコリン。
「む~。そんなことになったら魔物達にお願いして相手をせん滅してもわうから平気だよ」
「それがやばいってんだよ!すこしは自重しろ!シャーリーが巻き込まれたらどうする!」
確実にラタトスクが命じれば魔物達は嬉々としてヒトという種族を狩りつくすであろう。
何しろ以前が以前である。
いまだに魔物達はラタトスクを殺したことのあるヒトを許してはいない、のだから。
「…いってることは正しいけどさ。…でもそこで妹が基準なわけ?」
たしかにセネルのいっていることは正しい、とわかる。
わかるが、妹がまきこまれるかもしれないから、という理由はどうなんだろう。
おもわずジーニアスの突っ込みがはいってしまうのは仕方がない。
「ダメモトだとしても。一度ソダ島にいってみるのはいいだろう。
もしもそこが封印の場なのならば…その娘に精霊が解放されたときに契約をしてもらえばいい」
「え?えええ!?あ、あたしが!?」
「あいつらの傀儡になりたいなのならばすすめんがな」
「いやだよ、なりたくないっ!」
クラトスの言葉に即座に否定の言葉をはっするしいな。
「で?結局どうするの?ソダ島にいくの?」
「エミル…お前、どうじないなぁ?」
「だってなるようにしかならない、そうでしょ?」
「まあな。俺はそのソダ島っていうところにいくのは賛成」
「俺の船ならばソダ島の横に接岸は可能だから問題はない」
「コレット。あなたはどうしたいの?この旅の決定権はあなたにあるのよ?」
「え?えっと・・・私は、しいなちゃんの意見を信じてみたいです」
「…しいなでいいよ。ちゃんはいらない」
自分の身の安全がかかっているときかされれば、協力せざるをえない。
精霊との契約は確かに怖い。
もしも彼らのいうとおり…というかクラトスという輩がいうとおり、ならば
自分は確実に今後も狙われてしまうのが用意に予測ができてしまつったがゆえに同行の意をしめす。
傀儡にされては洒落にならない、から。
2014年1月1日(水)某日
Home TOP BACK NEXT