まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ちらり、とでてくる過去のシルヴァラントの魔導砲の供給源。
はい、エクシリアにでてきたあれと同じ原理です(まて
ある程度うちこみして、別話をのっけたら、それぞれのサブイベント。
あの闇にうちかつシーンは次…かな?とりあえずいっきまーす。
あとがきに別話18
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「なぜ……」
クラトス達はトレントの森へと再びはいっていった。
だけど、問題なのはそこではない。
というか、クラトスは気づかなかったのだろうか。
否、気づかなかったのであろう。
でなければ、彼もまたここにのこっていたはずである。
「どうして、今さら…なぜに、今さら、なのだ!?」
そう、今さらといえる。
あのとき、この器をつくったときに彼女がこちらに移動していれば。
ミトスもあそこまで堕ちることはなかったとおもう。
確定的だったのは、コレットの前の時代の神子。
他人をかばって命をおとすその様は、マーテルを連想させた、というのに。
ミトスは何の感情も示さなかった。
「…あなたは、ミトスを幾度も止めようとしてくれた。そのことには感謝しているわ。
けど、あの子の心には届いていなかった」
「…お前がここにいる、ということは、まさか、種子は……」
「種子は何としてでも目覚めさせるわ。そう、何としてでも……」
「……マーテル?」
「次にあうときは、私はおそらくあなたのしっている私、ではない。
けども、心は、記憶はのこる。のこる…はず…」
「まて、どこにいく!?」
「やるべきことがあります。…解き放たれた少女達の怨念。それを回収しなければ」
「お前に何ができる?」
違う。いいたいことは山とあるのに。
だけどもどうしてもこのようなものいいになってしまう。
そう、今さらといえる。
彼女があのとき、ほんのすこしでもはやく、目覚めていれば、ここまでひどくはならなかったはず。
それがあるからなおさらに。
「…四千年」
「え?」
「永きにわたり、マナの源流ともいえる中にいた魂は、それはかつての人、といえるのかしら?」
「それは、どういう……」
「ありがとう。私にすぐにきづいてくれて。…どうか、あとのことは……」
「あ、おい!」
いいたいことは山とあるのに、そのまま駆けだしてゆく彼女の…タバサの後ろ姿。
何がおこったというのだろうか。
コレットにマーテルのマナを注ぎ込んだことが原因とするならば、
だが、それは失敗し、大いなる実りにそのままマーテルの精神体は戻ったのではなかったのか。
しかし、あれは間違いなく彼女だった。
だとすれば、今、大いなる実りに彼女の魂は宿っていない、ということになる。
彼女が宿っていたエクスフィアがどうなったのか、大いなるみのりを食いつぶしたあげくなのか。
聞きたいことは山とある、あるのに。
しばし、誰もいなくなった村の中で、ユアンのつぶやきのみが風にと吹き抜けてゆく……
光と闇の協奏曲 ~彗星デリス・カーラーンへ~
「…ミトスは、本当は悲しいのかもしれないな」
「?どうしたんだい?」
結局のところ、記憶だという過去のミトスもともにいくこととなり、向かう先はシルヴァランド。
何でも記憶体というか精神体でしかないミトスは自在に空を飛べるらしく、
ロイド達がレアバードで移動している間も、その横を羽をだして飛んでいる。
それは虹色の翼。
もっとも、体が多少透けているのは気にはなるが。
何でも実体化をずっとしているとかなりの力を消耗するので、力の省エネらしい。
エネ、という意味はロイドには意味がわからなかったが。
そんなロイドに横並びでレアバードで飛んでいたしいながおもわず問いかける。
「さっき、ミトスが俺にとりついたとき、俺の中にミトスの記憶が流れてきたんだ」
それはまるで自分が経験しているかのごとくに。
「……たくさんの人に裏切られて、それでも前をみて、人を信じようとして……」
それはまだ以前の記憶でしかなかったが。
クラトス達とともに旅をしていたころの記憶。
まだ、ユアンが合流する前の記憶でしかなかったが。
「そうか。ミトスはあのミトスなんだよね。お伽噺にまでなった勇者ミトス」
しいなが何ともいえない表情をうかべるが。
「その、お伽噺って?」
その横で首をかしげるミトスにたいし、
「あら、あなたはしらないのかしら?当事者なのに?」
「僕らがあの書物の中にそれぞれ自らの魂の一部、記憶の一部を封じたのは。
戦争が終結するより前だったし。そもそも、聞いてからびっくりしたし。
あれからもう四千年もたってるなんて……」
魔族の影響で人々は戦争をどんどん悪化させてゆうことしていた。
特に国の上層部のものが侵されていたのだからどうしようもない。
「きっと、本体である僕は、姉様が殺されてしまったときに、諦めてしまったんだとおもう。
それほどまでに悲しみが深かったんだとはおもうけど。
けど、あきらめたときが、僕ら加護をうけているものにとっては、格好の魔族達の餌食になる。
ともわかっていたはずなんだけどな……」
加護をうけている自分達は、魔族にとってもいい餌ともいえる。
そして何より授かっていたあのデリスエンブレム。
あれは、光がより強ければつよいほどに効力を発揮する。
それは逆にそれに宿りし闇の力もまた強くなる、ということに他ならない。
そんなミトスの顔をいまだにロイドは直視できない。
コレットを連れ去った今のミトスと、過去の記憶でしかないミトスとは別人でしかありえない。
とはリフィルにいわれたが、感情が、心がおいつかないのもまた事実。
「だけど、感じたのは、あきらめたことを悲しんでいるようにも感じたんだ」
そんな言葉をききつつも、それを何と表現していいのか、ロイドにはうまく表現ができない。
ゆえに無意味に黙りこむ。
「でも、ほんと、どうしてクラトスは僕をとめてくれなかったの?
僕がいいだしたら聞かないのはそりゃ、わかるけど。時間をおけば僕でも……」
「…あのときは、そんな余裕は一切なかった」
そのときの過ちが、その後の選択が今の状況を生み出した。
「そして、精霊達の信頼も結果として裏切って…ほんと、僕の本体、何してるんだろ……」
おもわずつぶやく、かつてのミトスの気持ちはまあわからなくもない。
それはエミル、否、ラタトスクや精霊達とて同じ思い、なのだから。
「それに関しては何ともいえないわ。だけど、これだけはいえるわ。
ミトスは、諦めた瞬間に、仲間をも失ったともいえるわ」
そんなミトスに淡々とリフィルがつぶやく。
「僕たちが望んだのは、全ての命が共存できる、そんな世界、だったのに。
人も、エルフも、狭間のものも、精霊も魔物も、全ての命が…なのに、こんなのは間違ってるよ。
人を利用して精霊石を…エクスフィアを生産するのも一番嫌悪していたことなのに」
そんなミトスの台詞に。
「それなんだけどさ。あんたたちはそれをしってたのかい?」
エクスフィアの生産方法、目覚めさせる方法。
ミトスが始めからしっていたのか、それともそうでないのか。
ふと気になったがゆえにしいながといかける。
「え?あ、もしかして今の人間達にはつたわってないの?
あの技術を発明したのは、テセアラだよ?
当時の精霊研究所のものたちが、軍事的に利用し、開発した結果。
その集大成ともいえるのが天使化、だけど」
いいつつ、どこか遠い目をし、
「…あのときも、ハーフエルフ達が主に素材、として利用されてどれほどの仲間達が殺されていたか。
その技術はある研究院が寝返ったことによってシルヴァラントにも提供され。
…当時、かなりの人達が犠牲になったんだよ?…今はつたわってないんだ。そっか……」
人は都合のわるいことは隠すことがある。
特に国などにおいては、歴史においても常に偽りを後世にと伝える傾向がある。
「…当時は、国をあげて、人狩り、なんてものが公然とまかり通っていた時代だ。
……ミトスもその記憶は抹消すべきもの、として全ての公式記録を消し去ったからな」
ミトスがエクスフィアを生産する、といいだしたのは、まださほど時としては経過していない。
そんなミトスの説明にクラトスが説明を追加する。
「人狩りって…ディザイアン達よりタチがわるいじゃないか!」
おもわずその言葉にジーニアスがくってかかるが。
「それを国が率先してやってたからね。…人々はいつも不安がってたよ。
いつ、その人狩りに自分達が巻き込まれるかって。
だから、僕は、僕たちはそんな世界を変えたかったのもあるんだし」
なのに、今自分がしていることは、嫌悪していた互いの国がしていたことと同じこと。
「当時は、家族が、友達が、仲間が、同じ里や村、町のひとが。
誰かを国に実験体として売り飛ばすなんてどこにでもありえたんだよ。
それこそ、些細なお金目当てに、ね」
人が互いを思いやる心を失っていたあの当時。
常に誰かを疑い、疑心暗鬼になっていたあの時代。
「古代大戦…記録にのこっていない事実、か」
リーガルがぽつり、とつぶやく。
「あげくは、シルヴァラントなんて、少ないマナの中で、
マナを大量使用した魔導砲なんてものを開発しようとしてたし……」
「「「え?」」」
何やらききなれた台詞がでてきた。
「マナが少ないからって、その動力源に選んだのが、何だとおもいます?」
ミトスの問いに、何か思うところがあったのであろう、はっとし、
「まさか……」
リフィルの顔色がさっと曇る。
リーガルもおもいあたったらしい。
表情はよろしくない。
「全ての命は、マナにて構成されている、なら、命からマナをとりだせばいい、っていって……」
「…シルヴァラントの研究所はそのマナの供給源を、ヒト、と定めた」
『!』
ミトスとクラトスの重い口調に全員が絶句してしまう。
「それをあおっていたのが、あの禁書の中に封じていた魔族なんだよ。
だから、僕はそれからどうなったのかはしらないんだけど…クラトス、どうなったの?」
「あの開発は、どうにか阻止した。研究所も破壊した」
関係する書類も全て、破棄したというのに。
まさかユアンがその知識をロディルに与えてしまうなど予想外であったといってよい。
彼も切羽つまっていたのではあろうが。
「……人は、過去に学ぶことなく、同じことを繰り返す…まさに歴史は繰り返す、になっているのね」
リフィルがぽつり、という。
「っと。暗い話しはそれくらいにしとこうぜ。そろそろイセリアがみえてきたぜ?」
ゼロスにいわれみてみれば、いつのまにか視界にイセリアの村がはいってきている。
どうやらシルヴァラントペースからいつのまにかここにまでたどり着いていた、らしい。
途中から、あまりに気流の乱れがひどく、歩きに変更していた、のだが。
いつのまにかどうやらイセリアの近く、にまでやってきていたらしい。
「つまり、この俺に、契約のゆびわをつくれっていうんだな?
地上暮らしで技術を失いつつあるこの俺によ?」
クラトスからの一通りの説明をきき、おもわずうなりつつも、濃すぎる髭をひねるダイク。
結局のところ、ロイド達一行はダイクの家へ何ごともなくたどり着いた。
まあ、ミトスに関しては、以前にここで世話をしていたこともあり、ダイクは素直にうけいれたのだが。
最も、姿が透けているのには驚いたが、精神体というものはドワーフたる彼は見慣れている。
まあ、それが人、というのはあまり見慣れてはいないにしろ。
彼らが説明しないかぎり、深くきくもの何なので、あえて追及はしていない。
「もう、あなたしかいないのだ。技術を手にしていたドワーフは怪我で動けない」
「頼むよ。おやじ」
「ここに全ての道具をそろえてある」
いいつつも、クラトスが袋の中より道具全てを机の上へと並べてゆく。
「こいつは、研磨用のアダマンナイトだな?ん?この木は何だ?」
「これ、もしかして神木ですか?」
ダイクにつづき、プレセアも気づいたらしく、首をかしげてクラトスをみあげて声を発するが。
「火を起こすのはこれでなくてはならないのだ。アイオニトスを溶かすのに高熱が必要になってくるからな」
「もしかして、これを準備するためにあんたはテセアラを……」
「絶対にそれだけじゃねえぞ。こいつは」
何やら自分のために行動してくれていたのか、とおもい胸を熱くするロイドにたいし、
おもわず横からゼロスが突っ込みをいれていたりする。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そんなゼロスの視線をうけ、クラトスはおもわずそっぽをむくが。
「というか、あのクラトスが人と恋愛したというのに僕としてはびっくりしてるんだけど、いまだに。
だって、クラトスは絶対、彼女のことを……」
「ミトス、前にもいったが、彼女とはただの……」
「でも、すくなからず、クラトスはおもっていたんでしょ?
でなければ、王女の親衛隊長まで勤めているはずがなかったもの」
それは初耳らしく、おもわずロイド達が目を見開くが。
「テセアラにクラトスあり、とまでいわれたクラトスが、結婚して子供…なんだか不思議な気分」
その言葉で、ダイクも完全に確信をもつ。
よく似ている、とはおもっていた。
そしてロイドにむけるまなざしからも、家にくるたびにアンナの墓にまいっている姿からも。
「そうかい。そこまで準備してあるのかい。もうここまでされたらやらないわけにはいかねえな」
「まあ、かわいい息子のためにも力をあわせるのも悪くはねえよ。同じ、父親としてな。
ドワーフの誓い、第一番。平和な世界が産まれるように皆で努力しよう、だ。よし、やってやろう」
そんなダイクの台詞に、クラトスは一瞬、目を見張るが、ダイクが黙ってうなづくのをみて、彼もまたうなづきかえす。
「よし、ロイドも手伝えよ!」
リフィル達は親子三人での作業のじゃまをしないようにと、そっとそのまま外へとでる。
何やら中から会話がきこえてくるが。
「今日はなら、このあたりで野宿でもしましょう」
「姉さん、イセリアには?」
「…コレットのことを説明しなければならないのよ?」
「……そっか」
確かにもどれば、コレットは、神子はどうした、ときかれるであろう。
まさか、クルシスに捕われた、と説明するわけにもいきはしない。
ゆえに、ただだまってリフィルの提案にジーニアスはうなづく。
うなづくしかできない。
結局のところ、今日はこのあたりにて彼らは野宿をし、一夜を明かすことに。
「これで、エターナルソードを扱えるんだな」
何やらおおきな、できた~とかいうロイドの声が野宿をしているあたりにまで聞こえてきた。
ゆえに、リフィル達がダイクの家へとむかってゆくと、どうやらちょうど契約の指輪、
エターナルリングができた直後であったらしい。
ロイドがしみじみと指輪を手にし、そんなことをいっている様子が目にはいるが。
「ロイド、頼みがある。今一度、お前達の旅にくわえさせてはくれまいか」
そんなロイドにと、クラトスが多少ふらつきながらも何やらいっくてる。
「ああ、そういってくれるっておもってた」
「でもあんた、体は平気なのかい?」
しいなの心配はしごく当然。
何しろ、クラトスは自らのマナを放射して、オリジンの封印を解いたばかりといってよい。
いくらユアンがマナを分け与えたとはいえ、普通の状態であるわけがない。
「…当事者が動くというのだ。私がじっとしているわけにもいかないだろう。
それに、私はミトスの師として責任を放棄していた。…今さら、といわれてもかまわない、がな。
私も、ミトスを止めたい、のだ」
ちらり、と精神体であるミトスをみつつ、クラトスがいう。
過去のミトスが動くというのに、常に傍にいた自分が動かない、というのは、
ミトスの師として、そして仲間としてどうしても許せるものではない。
本来ならば、かつて、自らが命をとしてミトスを止めようとしていたのだから、
それを他人にまかせっきり、というのはクラトスの矜持が許さない。
「わかった」
「なら、お前にはこれをわたしておこう」
ロイドがうなづくのをみてとり、クラトスが自らの剣のうちの一つをすらり、とひきぬく。
そのまま、それをロイドにと握らせる。
それは、炎の剣。
「これは?」
思わずロイドがそれを手にし、その含まれている力に絶句する。
今まで使っていたものとはわけがちがう。
もっているだけで力が満ち溢れてくるような、そんな感覚。
「そいつぁ、かなりの名刀、だな。ふむ。お前の手持ちの剣でそいつと対になるような剣はないだろう。
よし、こいつをもっていけ。昔約束したお前へのプレゼントだ」
いいつつも、一端、部屋の奥にひっこんだかとおもうとすぐにもどってきて、ある包みを机にとおく。
その包みをあけてみれば、そこにあるのは氷でできた剣が一振り。
「一人前、にはとどかねぇかもしれないが。しかし、コレットちゃんを助けだすんだろ?
なら、このダイク様生涯最高の剣を預けるに何の問題もないだろ。
囚われの御姫様を救いだすのは王子様の役目だ、わかってんな?ロイド」
「ああ」
一人前、という言葉で、旅立ちの荷物の中に紛れていた手紙の内容を思い出すロイド。
一人前の男になったらプレゼントをやる、そう手紙の中には書かれていた。
「ありがとう。この二本の剣があれば、俺、もっと強くなれるような気がする。
ありがとう。おやじ、そしてと…クラトス」
それぞれの両手で、炎と氷の剣をもち、たかだかと天井にむけて掲げる。
こころなしか、対となる獲物をえて、互いの剣が喜んでいるように感じるのはロイドの気のせいか。
「炎と氷の対の剣。名付けてマテリアルブレードってのはどうだい?」
「さっすがダイクさん。…ロイドに名付けさせたらへんな名をつけそうだもんね」
「どういう意味だよ。ジーニアス!」
「では、いくか。最後の決着をつけるために」
「ああ。いこう」
「気をつけていってこいよ」
「ああ。いこう、皆!」
そんな会話をしつつ、外にとでると、ノイシュがまってましたとばかりに移動してくる。
「親父をたのむな。ノイシュ」
く~ん。
また、お留守番?といいたいばかりのそんなノイシュの言葉に。
「あ、ノイシュだ。元気そう」
「?あなた、ノイシュをしってるの?」
ミトスがそういうので、リフィルが問いかける。
「え?もしかしてきいてないんですか?ノイシュって昔、クラトスが飼ってたんですよ?
僕らと旅を始めたときすでにクラトスはノイシュをかってましたし。
姉様がつかれたときとかよくノイシュに乗せてもらって旅をしてたんだし」
いいつつ、クラトスとロイドを見比べて、
「どうせ、クラトスのことだから。
ロイドが産まれたときに、ノイシュにロイドのことを頼むとかいったんじゃないのかな?
ノイシュって進化の最終形態で人形態をとるだけあってかしこいから。
いわれたことは素直にきくとおもうし」
ずばり、と真実をいいあてられて、クラトスとしては何ともいえない気持ちになってしまう。
おもわず目をそらしたその動作が、事実だ、と物語っているようなもの。
「…いってそうだな。この親ばかは」
ぽつり、とゼロスがつぶやくが、なぜかそれに同意をしめし、うんうんとうなづいているリーガルの姿。
事実、産まれたときにいっているのでクラトスからしてみれば何ともいえない。
言い返すこともできはしない。
「ノイシュはここで、ダイクさんってひとをお願い。どうなるかがわからないからね。
二つに分かれていた世界を一つにもどすにしろ、その後がどうなるにしろ。
……そういえば、大樹のことにまったく触れてこなかったのはなんでだろ?」
そういえば、ともに傍にいたときに、今の種子のありかたについて説明をされていないことに今さらきづく。
どちらにしろ、自分達が盟約を交わした約束は約束。
たがえるつもりなどは今のミトスからしてみればさらさらない。
「この竜巻の中でも、君ならばダイクさんを安全に避難させられるでしょ?」
たしかにミトスのいうとおり。
ゆえに、ノイシュとしては素直にうなづくしかない。
今のノイシュは、大地の申し子、ともいわれている進化の過程の一つ、なのだから。
「土台だけは残っていたんですね。救いの塔」
ふきすざむ、竜巻と強風、そして雷をともなった豪雨。
精霊を呼び出してはどうか、という意見にたいし、ミトスの意見からしてみれば、
今現在、マナが不安定になりまくっているので精霊を呼び出したとしても、
それに使用されるのは術者のマナとなり、精神力の消費が通常よりも半端なく大きくなる、
と指摘された。
何がこれからあるかわからないから温存したほうがいい、ともいうその意見にリフィルもうなづき、
結局のところ自力での救いの塔のあった場所までやってきた今現在。
たどり着いた先でみたのは、土台のみがのこっており、
かつての面影をまったく感じさせないありさまとなっている塔の姿。
「ひでえな~」
ゼロスが無残に折れた塔の残骸を飛びこえながらそんなことをいっているが。
「エターナルソードだ」
土台の部分に残されし、この場には不釣り合いな剣が一振り。
それをみてロイドが声をあげかけよってゆく。
「ロイド、準備はよくて?これが最後の戦いになるのかもしれないのよ?」
そんなロイドにリフィルが問いかけるが、うなづきを一つかえし、剣の前へ。
―新たなる資格をもつものよ。そして我と契約せしミトスよ。我に何を望む?
刹那、彼らの脳裏に響き渡るような声が聞こえてくるが。
それは、かつてもきいたことのある声。
「俺達をデリス・カーラーンへ運んでくれ。ミトスと、大切な仲間のいる所へ!」
―承知した。
「あ、その前に、その偽りの器から、ロイドの二つの剣に宿りしことは可能?」
ロイドの声にエターナルソードとおもわれし声が答えるのと同時、
ミトスが剣に近寄り、何やらそんなことをいっているが。
――それでは、彗星をつなぎとめておくことが難しくなるぞ?ミトス?
「それでも、必要だ、とおもうから」
――よかろう。しかし、お前の剣でなくてもいいのか?
「今の僕はみてのとおり、精神体でしかないから、実体がないし」
――了解した。
その言葉をうけ、剣がまばゆくひかり、二つの光りになったかとおもうと、
ロイドのさしている剣、それぞれにと吸い込まれてゆく。
「うわ!?剣がきえた?」
おもわず身構えるロイドだが。
「うん。彼はそのロイドがもっているそれを器にしただけだよ。
そもそも、あの姿はもともと精霊体であった彼が僕にあわせて剣になってくれてただけだし」
「あら?私はオリジンがあなたの為に剣をつくった、ときいたけど?」
「そういや、なんかユアンがそんな提案していたね。それが真実としてつたわってるのかな?
何でもオリジンが託したという形にしたほうが人心の心をつかみやすいとか何とかいってたな~」
『・・・・・・・・・』
その言葉に、一瞬、その場に沈黙が訪れるが。
「と、とにかく。いこう、皆!」
そんな空気を振り払うかのように、ロイドが剣をかかげ、
「エターナルソードよ。俺達を、彗星、デリス・カーラーンへ!」
まあ、剣の中にいる、というのならばいる、のだろう。
ロイドがいうと、二つの剣がまばゆいばかりの光りをはっし、やがて二つの剣は一つへと融合し。
そこには、先ほどまでそこにあったはずの一振りの剣。
それから発せられる光りはそのままロイド達をも包み込んでゆく。
ロイド達の体は一つの球体となり、そのまま空高く舞い上がってゆく――
ふと気がつくと、ロイド達がたっているのは、どこかみたことのある場所。
たしか、ウィルガイアとかいわれていたような場所のような気がしなくもない。
みおぼえがある通路のような気がするが、その両脇には何もない。
そこにいたはずの天使達の姿すら。
ただ、何やら混沌とした空間がそこには広がっているのみ。
「コレット、どこにいるんだろ?」
ジーニアスがつぶやくが。
「姉様の心を宿してたんでしょ?可能性として大いなる実りの間?とかいうところとか」
ミトスがそんなジーニアスに返事を返す。
「ワープ装置はいきているようね。とにかく、コレットを探しましょう」
ワープ装置をぬければ、そこはやはりウィルガイアの一角、であったらしい。
だが、あれだけたくさんいたはずの天使達の姿はどこにもなく、
また、魔科学の粋をきわめていたはずの施設も跡かたもなくきえていたりする。
「あのミトスはまだコレットと一緒なのかねぇ?」
しいなががらん、とした町並みをみつつもそんなことをつぶやくが。
「どうだろう?僕なら、たぶん、魂を分ける過程で、宿るべき石も複数つくってるような気がするし。
というか、たぶん、表だってつかっていたのは通常元からつかってた石じゃないんじゃないのかな?
万が一に備えて」
伊達に自分のことではない。
そのあたりの思考は手にとるようにわかる。
事実、ミトスは何かあったときの為に、自らの本体ともいえる輝石は常に大いなる実りの傍にとおいていた。
その精神体のみを別のそれに宿し、行動していたに過ぎない。
「…そうだ。ミトスは人が裏切ることを前提にしていたから。我らもそれには同意した。
……人は、目先にあるものを信じ、それ以外のものには目をむけようとしないがゆえな」
クラトスがそんなミトスに対し、返事を返す。
それは肯定の台詞。
「人は、裏切る、か」
しいながぽつり、とつぶやく。
裏切り、といって思い出すは、くちなわのこと。
自分への復讐心に捕われ、里すらをも売り渡した人物のこと。
「ミトス達を裏切った人間達は四千年前にしんじまってる。でも…人はかわらなかったんだね」
しいなの言葉はどこか暗い。
「みたいだね。人も、ハーフエルフもかわっていない。当時よりも悪くなってるかも。
…僕らがいくら歩み寄る必要性をといても変わらなかった。いつかはかわる、とおもっていたのに。
結局、変わろうとしないかぎり、誰かが何かいってもどうにもならないんだね」
しいなの台詞にうなづかざるを得ない。
いつかは、とおもい頑張っていたのに。
四千年が経過してもまったく変わっていない、否、以前よりも悪化しているような気がしなくもない世界のありよう。
「ミトス……」
クラトスが何かいおうとするが言葉が続かない。
「当時だとまだわかるよ?歩み寄って、その結果、裏切られ、殺されて、というのが常に身近にあったし。
けど、今はそうじゃない、んでしょ?なのに…どうして歩み寄ろうと、理解しようとしないんだろ?」
「人は、自分と異なるものを受け入れようとしない、どうしても嫌悪と恐怖が先にたつ。
そう、それぞれの個人でみるのでなく、全体でしか物事をみようとしていない以上は、な」
ゼロスが吐き捨てるようにいう。
そう、彼自身を神子、としてしかみないテセアラの人々のように。
「その努力を放棄したといってもいいでしょうね。…私もそう、だったわ」
「先生?」
いきなり、自分もそうだった、といわれ、首をかしげるロイド。
「でも、人はかわれる。変わることができる。それをロイド、あなた達が証明してくれた。
そして、イセリアの人達が」
まさか、ハーフエルフとわかっても受け入れてくれるとはおもわなかった。
援護してもらえるなどとは思ってもみなかった。
普通ならばあの村長のいったように、自分達をないがしろにし、追い出すのが今まで当たり前だったのに。
「今の僕の本体がやっていることは、ただの殺戮だよ。過去、僕らが一番嫌悪していたことと同じ。
それは決して許していいものじゃないはずなんだ。
でも、僕はそのことを知っているはず。それから目をそむけているだけで。
それにきちんと向かい合ってもらって反省してもらわないと。…会わす顔がないとはまさにこのことだよね」
誰に、とはいわない。
ミトスのそんな台詞をききつつも、
「ともかく。オリジンがロイドについたことでエターナルソードによるデリス・カーラーンの捕縛は効力を失っている。
そう考えたほうが妥当、でしょうね」
「ってことは、ぶっちけゃけた話し、デリス・カーラーンは離れようとしているってことだな?」
リフィルの提案にゼロスがいい、そんなゼロスにリフィルがうなづく。
「あのままではいけなかったのですか?ミトスさん?」
あのまま、剣をあの場においたままだと彗星が離れることはないのかもしれない。
そうおもったがゆえの問いかけ。
そんなプレセアの問いかけに、
「あのままだったら、たぶん、僕の本体がいる場所にまでたどり着けないとおもうんだよね…何となくだけど。
絶対にエターナルソードの力をつかって空間をゆがめてそこを拠点にしてるような気がひしひしと」
そう、それはもうひしひしとそんな予感がする。
それはもう確信。
「たぶん、二つの位相軸の中心として救いの塔?とかよばれるのをつくって。
そこにエターナルソードをおくことによって、互いの位相軸による歪みを修正がてら、
ついでに上空に彗星をとどめ置いていたんだとおもうけど。
その救いの塔がない以上、二つの位相軸に存在している互いの世界は、
それぞれに隣接しあい、下手したら互いに干渉しあって消滅しかねないし」
今は彗星しかみえていないがわからないが、もしも互いの大陸がみえているじょうたいならば、
確実にそれはわかった、であろう。
世界各地でおこっている異常気象。
それはかつてのそれとは規模がまったく異なっている。
大地が空に吸い上げられるかのごとくの竜巻がいたるところで大量発生している今現在。
そんな会話をしつつも、人気のまったくない空間をワープ装置を利用し進んでゆくことしばし。
「何にしろ、ロイド、お前はとにかくエターナルソードを使いこなせるようになるようになれ」
「わあってるよ」
クラトスにいきなり話しをふられ、おもわずそっぽをむきつつも答えるロイド。
「そういえば、僕らを運んだ直後は剣になったのに、また二つにもどってるよね。それ」
そんな素朴なるジーニアスの問い。
事実、今、ロイドのもっている剣はエターナルソードという一振りの剣でなく、二対の剣でしかない。
「力が足りないから、であろう。その剣は使い手を選ぶ」
「………」
クラトスにいわれ、おもわず黙りむしかないロイド。
「使いこなせたとして、どんな技がつかえるの?それって?」
そんなロイドとは裏腹に、気になるらしく、ミトスに問いかけているジーニアス。
「え?エターナルソード?使用勝手がいいのは次元斬だけど。
けど、精霊の力を使用しての勝利はあまり意味をなさないから。
つかってたのは対魔族達にたいしてだけだけどね」
ジーニアスのといににこやかにこたえているミトス。
そう、過去においてミトスはそれを人に振るったことは一度とてない。
巨大な力は人がもてあますから、という理由にて。
もしくはその力をまのあたりにし、よからぬ思いを抱くものがでてきかねない。
そんな危惧があってゆえ、だったのだが。
「次元、ですって?」
「ええ。時空を利用した技の一つ。剣技の一つなんですけど。
相手の周囲の次元ごと叩き斬るのでどんな障壁を相手がもっていても届くんですよね。
ちなみに、攻撃の形態とすれば、巨大な闘気を纏った剣で空中から叩き斬るんですけど」
周囲の次元ごと、といわれリフィルからしてみれば絶句せざるをえない。
それはどう考えても回避不能の攻撃、ということではないだろうか。
「とりあえず、次の転送陣がみえてきたみたいだよ」
何やら難しい会話になりそうな気がしていたその最中、
がらん、とした空間の先に次の場所にむかうための転送陣らしきものがみえてくる。
しいなの台詞に、次なる転送陣をぬけると、がらん、とした空間に移動する。
そこは、何ともいえない空間。
足元のみの足場はあるが、周囲は何ともいえない混沌としたような、不可思議な空間と成り果てている。
いくつかの道に別れているらしいが、その先をすすんでゆくと、四角ほどある道の中央。
そこに足を踏み入れるとともに、足元にある魔方陣らしきものが輝きはじめ、
先を進んでいたリフィル達全員をそのまま魔方陣の光は包み込んでゆく。
「な、何だ!?」
「いけない!罠だわ!」
「わわ!?」
「な、何だ!?」
光にはばまれ、身動きすらできはしない。
「まって、これは…」
一人、唯一うごけるミトスがその場にかがみこみ、そこにある魔方陣に手をあてしばし思考する。
「皆!?」
思いだすは、先日乗り込んだときの一件。
あのとき、ロイドは何も考えずに先走った結果、もう少しで仲間を失うところであった。
魔方陣に捕われた仲間達。
脳裏にそのときのことがよぎる。
仲間をみすてて先にいくしかなかったあのときのことが。
「私たちのことより、この罠を回避する方法を探しなさい」
近づこうとするロイドに対し、ぴしゃり、といいきるリフィルに、
「あたしのことは気にするな!」
きっぱりとこちらもまたいいきっているしいなの姿。
そしてまた、
「この魔方陣は…まさかとおもったけど、僕の本体、デリスエンプレムを利用した罠をかけてるの!?」
魔方陣をざっと眺め、驚愕した声をあげているミトス。
「そうか、こいつが、例の……」
ゼロスが思わずつぶやく。
以前、プロネーマから聞かされたことがある。
コレットを連れていったときに、道すじに罠がある、と。
「ロイド、デリス・エンブレムの欠片を集めて。この魔方陣は、あれを欠片にしてると示してる。
この罠は完全なるデリス・エンブレムがない以上、問答無用で生命体を取り込んでしまうから」
いいつつも、リフィル達は動けない、というのにするり、と光の中より移動して、
ロイドの目の前にたっていっているミトス。
「この仕掛けにみたところ殺傷能力はありません。心配しないで」
「ロイド、お前達が無事ならまだ間に合う。大いなる実りを」
プレセアとリーガルが交互にいうと同時、彼らの姿は光の中にとかききえてゆく。
後に残されたは、ロイドと、そしてミトスのみ。
「くそ!どういうことなんだ!?皆はどうなっちまったんだよ!」
ロイドが八つ当たり気味に横にいるミトスにくってかかるが、
「大丈夫。この罠は、彼らを心に救う闇と向かい合わせる効果でしかないよ。
けど、急ごう。…疑心暗鬼になった人の心、ほど厄介なものはないからね」
そんなロイドをいなしつつも、淡々とこたえているミトス。
このようなくってかかるような態度をしてくるものたちのあしらい方はかつて身につけている。
感情に流されてはダメだ、ということをミトスは身にしみて知っている。
「どういう意味だ?」
「これは、かつて僕がうけた加護を、世界の加護を分けてつくられている罠だとおもう。
それは、人の心に必ず一つはある心の闇を暴きだす。
それを乗り越えることができてこそ、初めて加護をうける資格を得るんだけど…
心弱きものはその闇に呑みこまれ、二度と目覚めることはできない。
…まさか、欠片に分解してるなんて……」
でもそれはいうなれば、その罠を突破するものがいれば、
自らのうけていた加護の対象が他者にうつる、という代物。
しかし、罠としてはこれ以上なく効率はいい、であろう。
大概のものは、自らの心に救う闇に打ち勝つことすらできないのだから。
「急いだほうがいいのは事実だとおもう。…君たちの仲間の繋がりがどれほどなのかはわからないけど。
下手したら仲間われとかで命をおとしかねない心の闇とかもありえるかもしれないしね」
「だから、どういう意味なんだよ!」
ロイドはまったく意味がわからない。
「そうだね。何と説明したらいいんだろ?たとえば、ロイドにとって、コレットって子は大切なんでしょ?」
「当たり前だろ!」
「なら、その子がでてきてこういうんだ。ロイド、私をたすけて。って。
彼らが私を殺そうとしている、とかとでもいうとするよ?ロイドはどうする?
ちなみに、相手にはロイドが異形の何かにみえているじょうたいで君にきりかかってくる」
「これは、その人がもっとも強くおもっている人の形をとって、
自分自身の心の奥底にある不安などを表にひっぱりだす効果があるんだ。
デリス・エンプレムの加護とは、そういったものを乗り越えてこそ得られるもの。
そして、この魔方陣はそれらを具現化するための組み合わせっぽいんだよね……」
精神体であるがゆえに、この魔方陣の効果はミトスには意味をなさない。
「仲間といえ、傷つけられても相手を信じることができるか。
そういう試練も含まれてるんだよね…僕は無条件で信じた。
彼らは絶対にわかってくれるって、君は?」
「俺は…俺は…とにかく、皆を探しにいこう」
具体的ともいえる例を示されても、ロイドにはぴんとこない。
自分が異形の何かにみえている、なんていわれても意味がわからない。
「かろうじて、加護の反応はわかるから、そっちにむかってみよう。君はどうする?」
「っ、いくにきまってるだろう!」
自分一人では何もできない。
そのことをつくづく思い知らされてしまう。
いくら過去の魂の分離体、すなわち精神体とはいえ、加護における繋がりはもっている。
ゆえに、どこにあるか、ということくらいは漠然とわかるがゆえのミトスの台詞。
沈黙が痛い、が、何をいえばいいのかロイドはわからない。
道の中央にあった魔方陣に触れればロイドも呑みこまれる、というミトスの意見に従い、
別なる道からの移動をとっているロイド達。
どれくらい、転送陣を乗り継いで進んでいったであろうか。
ミトスとともにいれば、八つ当たりをしてしまいそうで、一人でずんずんと先にすすんでゆくことしばし。
いつのまにか迷路のよう通路に迷い込んでしまったらしい。
と。
「でていって!」
聞き覚えのある声が、ロイドの耳にと届いてくる。
はっとし、声がきこえたとおもわしき方向に駆けだすロイド。
やがて、開けた空間にでたかとおもうと、その中央で、コレットが一人、たたずんでいるのが視界にはいる。
「く、なんて抵抗力だ、このままでは……」
そんなコレットの声とともに、重なるようにして異なる声。
「っ!ミトス!コレットから離れろ!」
その声をきき、かっと頭に血がのぼり、コレットのもとへと駆けだしてゆくロイドであるが。
それとともに、コレットの姿がぶれ、コレットの背後にミトスの姿が目視できるようになる。
「僕に指図するな!人間のくせに!クラトスの…血をひくくせに!」
コレットの胸元にあるクルシスの輝石、ハイエクスフィアとおもわしきそれがまばゆく光る。
それとともに、ロイドの視界全てが真っ白になりゆき、
ふと気がつけば、目の前には倒れているマーテルらしき女性。
そして、ミトスはといえば、そんな姉の体にすがりつき、ロイドを睨みつける。
その右手からユアンが、左からクラトスが現れる。
周囲の景色はいつのまにかどこかの外、森の中らしき場所に移動しており、
彼らは怒りをあらわにし、ロイドを睨みつけてくる。
「な、何が…?」
どうなってるんだ?
ロイドがとまどう中。
「よくも…よくも姉様を!人間なんて…きたない!」
吐き捨てるように言い放ち、歯ぎしりをし、姉を守るようにしてロイドの前に立ちふさがるミトス。
そしてまた、
「これだから人間は!そこまでしてマナを独占したいか!」
「恥をしれ!」
いいつつも、それぞれが剣を抜き放ち、ロイドにつきつけてくる。
「と…父さん?」
みたことのないような、侮蔑にみちたクラトスの表情。
その表情にロイドはちくり、と胸がいたくなる。
「どうしてわからないのさ!マナがなくては命は、世界は存続できない!
なのにどうして人間は力を独占し、滅びの道を選ぶのさ!しかも、姉様まで!」
それは悲鳴にみちた声。
「……もう、許さない。人間なんて…っ!」
それはあきらかにロイドにむけられている声。
「ち、違う、俺じゃ……」
この状況からして、彼女を殺したのが自分、と思われているらしい。
ゆえにロイドが何かいいかけようとするが、
ふと、自分のもっている剣…なぜか普通の剣、ではあるが。
それが血にそまってみるをみて驚愕してしまう。
血でぬれた剣。
この状況が意味するのは、ロイドが手にしている剣が目の前の女性をきった、ということに他ならない。
「あ…ち、ちが…俺…」
混乱するロイド。
と。
”ロイド!そこはミトスの記憶の中だよ、惑わされないで!”
ロイドの心にコレットの声が響いてくる。
はっと我にともどると、そこは先ほどの空間で、目の前にはコレットの姿。
「……僕だって、世界も、姉様も、精霊達を助けたかった。
誰にも迫害されない世界がほしかった。なのに、人間達は……」
コレットの背後にいたミトスはそう呟くと、そのまま霞のようにときえてゆく。
「!コレット、無事か!?」
その場にしゃがみこんでいるコレットに気づき、ロイドがあわててかけよってゆく。
「ありがとう。来てくれて」
ロイドに手をとられ、立ち上がると、胸元にはコレットの輝石だけでなく、
ミトスのそれもまだくっついているのがみてとれる。
「とれないのか?それ?」
ロイドが気になるらしく問いかけるが、
「うん。でも、もうさっきまでの頭の中を浸食されるような感じはなくなったから、大丈夫だとおもう」
いいつつ、きょろきょろと周囲を見渡し、
「ねえ。皆は?」
ロイドだけしかこの場にはいない。
それゆえの問いかけ。
「それが、罠にはまっちまってちりぢりになっちまったんだ」
「大変!それじゃあ、早く皆を探さないと!」
「ああ、いこう」
コレットが無事であることにほっとする。
しかし、先ほどの光景が頭から離れない。
視界にはいった血に濡れた剣は生々しかった。
倒れたマーテルらしき女性。
そして、ミトス達の言葉。
おそらくあれは、マーテルが死んだときの光景。
しかも、なぜかその視点が殺した側にたっていたのであろう。
もしもあのとき、コレットの声がきこえてこなければ、ロイドは混乱し取り乱していたという自覚がある。
一人でずんずん進んだのでどこをどうきたのかすらロイドは覚えていない。
だけど、コレットを取り戻せたことによる安心感で、ロイドはそのことにまったくもって気づいてすらいない……
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あとがきもどき:
薫:さてさて、別話もようやくヴァンガードの触りに。
こちらのほうはこういった感じにしてたりしたという(まて
とりあえず、シンフォニア編のこちらの協奏曲もあとわずかv
さ、最後までがんばります……
わ~、わ~
人々から歓声が鳴り響く。
「私はここに宣言する!虐げられしこのシルヴァランドの解放と、この地をもってして、
意図的に葬られた我が王国、シルヴァランド王朝を再生することを!」
国王万歳!
シルヴァランド王朝万歳!
正統なる後継者、万歳!
街に乱入してきたマグナス。
ドアの妻が元にもどったことをしらないままに、ドアにその打診をしてきたディザイアン。
罪の償いをかねてここで彼らを倒そう、とおもい罠にはめたが、
そこでマグニスが、うらぎるのか、ドア!と叫んでことにより人々は混乱した。
そこにあらわれた一人の人物。
街に長くすみそしてその人柄から次の総督にぜひ、ともおされている人物。
その人物が高らかに、今までのドアの罪を暴きたてた。
今までドアは自分達をうらぎり、ディザイアンに協力していたのだ、と。
遊戯兵、といってはしかけていたのは、彼らに牧場の働き手を提供するためなのだ、と。
さきほどのマグニスの裏切った、という言葉と、彼の言葉。
しかし彼の手で実際に牧場にいたひとたちが助けだされ、
そして彼らの証言という徹底的な証拠。
混乱した人々がどちらを信じたらいいか迷っていたとき、彼がとりだした切り札。
それはここ、シルヴァランドに住まうものならば誰しもしっている紋章。
…失われた、古代のシルヴァランド王朝の正統なる継承者のみがもつことがゆるされる、という一つの紋章。
それをかかげ、彼は高らかに宣言した。
自分は、シルヴァランド王朝の正統なる継承者、だ。と。
虐げられている民をこれ以上犠牲にしないためにも、自らがたちあがる、と。
わっとあっというまに広場は歓声にとつつまれた。
そんな彼の口からマーテル今日が旅業、として送り出していた存在達のほとんどが、
ディザイアンの餌食になっていること、マーテル教会はディザイアンとつるんでいる、と高らかに宣言。
興奮した人々は真偽をたしかめることもなく、あっというまにその矛先を総督府と教会へとむけた。
「……なんなんだよ。あれっ!」
ぎり、と悔しそうにいうロイドの視線はどこかけわしい。
あるいみ暴徒とかした民間から逃れられたのは一重に魔物の存在と、そしてセネルの協力があってこそ。
あの処刑場はまたたくまに、ショコラの母の処刑ではなく、ドアの処刑場にとなりはてた。
コレットが必至で人々を説得したが、教会側のディザイアンの仲間の言葉に耳はかさない。
と人々はきかなかった。
コレットが羽をみせても逆に、マナの神子がディザイアンとつるんでいる、といいつるの始末。
「…あの男からは魔族の…リビングアーマーの気配がした」
「ああ」
街の人々が正気をうしなってしまったのもあるいみ仕方のないこと。
微弱ながらその男から瘴気が発せられていたのだから。
簡単に人の思考などは狂わせられてしまう。
「ということは、あいつが魔界の書をもってる可能性があるな」
二十年ほどまえにエルフの里から持ち出された禁書。
ある程度陸からはなれ、今は船を停滞させている。
咄嗟的にテネブラエとイグニスが配下の魔物を上空に召喚し、
人々を混乱させたがゆえに脱出できたといってもよい。
「でも。たしかにあの紋章は伝説の正統なる継承者しかもてないものよ。
…八百年前に滅んだシルヴァランド王朝、のね」
そういうリフィルの顔色はどこかわるい。
「…ウィルさんたち、大丈夫かなぁ……」
自分達を逃がすために盾になってくれた総督府の人達。
自分達の長がしたことで関係のない…否、神子たちに迷惑をかけるわけにはいかないから。
といって逃がしてくれるための盾となった。
それゆえのコレットの台詞。
海をみつめつつも険しい表情で会話をしているエミルとセネル。
そしてまた離れた場所でかたまり、暗い表情をしているロイド達。
あのまま海を越えて陽動が広がるのだけは避けたい。
それゆえに。
「…アクア。そしてセネル。わるいが…」
「わかってる。俺としても広がるのは不本意だ」
あの場からあの騒動が広がらないようにするために、船を出入りさせなくさせる必要がある。
この世界には空路といった移動手段がない。
ゆえに海路をふさげばどうにか別大陸への進出だけは免れる。
「アクア。海の配下のものに命じろ。あの地のものを別大陸にいかせるな。
少しでも瘴気の気配を纏ったものはとくに、な」
「はい!」
元気よく答え、アクアが配下のものを水面下にと召喚し指示をだす。
「…魔族…だと?馬鹿な……」
感じた気配は間違えようがない。
かつての古代大戦のときに散々経験したあの気配。
彼はクルシスでも様子をみていたヴァンガード、という組織をたちあげたプルートという人物のはず。
その人物から魔族の気配がしてきた。
しかもあの気配は…自分達が記憶をもってして封じたはずの魔界の書にいるはずの魔族のもの。
ミトス、ユアン、そして自らの記憶をもってして、最後の封印の要とした。
時がみち、封魔の石のマナが満ち溢れるそのときまで。
すこしでも世界樹の負担を減らすために。
まだマーテルがいきていたとき、理想に燃えていたミトス達の手にておこなわれた封印。
「で?どうすんだ?あんたたち?あの様子だとあの暴動はそのうちに広がっていくだろう。
今まで一度も成功させたことがない神子と、実際に救われるかもしれない王家の継承者。
人がどちらを選ぶかは…まあ、いうまでもないな」
確かに存在するのもに人はすぐにさますがってゆく。
そこにどんな罠があろうとも。
眼に視える奇跡に人はたよりきってしまう。
「エミルのおかげでさきに再生の書が閲覧できていてよかったわ。
…バルマコスタも気になるけど。まずは再生の旅を優先させましょ」
セネルの問いかけに淡々と答えるリフィル。
女好きのようですから配下のものをよんでみては?
とテネブラエにいわれ、とってり早くインキュスパスを召喚したところ、あっさりと書物はみせてもらえた。
妖艶たる美女ともいわれているインキュスパス。
どうやら女好きの男にはたまったものではなかったらしい。
まあそのままその男をつれて一時どこかにいっていたのはきにしない。
「だけど、先生!」
「コレット。私たちがあの街にもどったとしても、逆に私たちが街の人達に殺されかねないわ。
今の彼らは失われた王朝の復活、という夢によいしれている。善悪すらわからなくなってるのよ?」
リフィルの指摘は至極もっとも。
「…神子が再生をはたせば、彼らもおちつくだろう。どちらが正しいかはおのずとわかるはずだ」
クラトスもそんなリフィルに対し同意をしめす。
「じゃあ、ウィルさんたちはどうなるんだよ!先生!」
「彼らを信じましょう。…それしか、ないのよ」
そう、それしかない。
不幸なことに、というか真実ではあるが。
あの人物はロイド達がマーブルを殺した、ということも知っていた。
あのとき、それをたからかにつきつけた。
イセリアにつれていかれていたこの街の道具屋のマーブルを神子の一行にいるロイドとジーニアスが殺した。と。
それで余計に人々が神子一行に敵意をむけた。
嘘よね。といってきたショコラにロイドがこたえられなかったことがさらに拍車をました。
神子はディザイアンと手をくんでいる、という人々の確信をあおってしまった。
魔族がエクスフィアを自分達に使用しないのはいたって至極簡単な理由。
魔族は基本、精神生命体。
そしてまた、エクスフィアは本来、精霊達といった精神体の力をすこしづつとりこみ成長してゆくもの。
そんなものを精神命生体の塊である彼らが使用したとすれば、
あっというまに彼らそのものがエクスフィアの糧となりあっというまに消滅してしまう。
ミトスがそれにまだ気づいていないのがあるいみ幸いといえるであろう。
魔族を吸収し成長したエクスフィアは人で培養するよりも格段に性能がいい、のだから。
ゆえにエミル…否、ラタトスクはかの地につづく門を徹底的に封印している。
また、魔族たちも自分達を餌にされてはたまらないのでクルシスには積極的にかかわっていない。
かかわらすのは、あくまでも人、という媒介をとおして。
彼らの目的はクルシスの壊滅。
自分達の敵となりえるものの排除。
その利害が、鬱屈してたまっていたヴァンガードの総帥の思いと一致してしまった。
とある少女が差し出した一冊の本がすべてのはじまり。
どさり。
いきなり目の前におかれる大量の書類。
「いろいろわかったんだ!大樹カーラーンに宿っていた精霊のこと!」
「カーラーンはマナを大量消費した戦争のために枯れたんだろ?」
うんざりした様子でいきなり大量な書類とともにあらわれた親友の姿をみてあきれつつも声をだす。
レネゲード、というものと王宮がつきあいはじめ、そしてアステルの研究にも注目された。
結果として王立図書館の禁止書物の閲覧許可もあたえられ、
ひたすらに調べまくっていた。
すでにひとかかえ以上にもなる研究結果のファイルができあがっていたりする。
「でも。精霊は宿り木を無くした、っていうだけでいなくなったわけじゃなかったんだ」
いくら人の記憶からその存在の事実をけそうとも、書物まで処分していたわけではない。
「王立図書館の禁書コーナーにかなりの数の古書がのこっててね。当然リストにはのっていないやつ。
それをしらみつぶしにあてってみていんだよ。精霊はラタトスクっていうんだけど……。
大樹が枯れたあと、どこかで彼は眠っているはずなんだ」
「そのどこか、というのはどこなんだ?」
「古書によると、ラタトスクはキンヌンガ・カップっていうところで眠っているらしい。ちなみに場所は不明」
「精霊ならなんでお前にわからなかったんだ?お前精霊研究においては一目おかれていただろう?」
事実、そのとおり。
「それが、ラタトスクはこれらによると、精霊であり、また魔物の王でもあるんだよ。
盲点だった。魔物を支配する精霊がいるなんて。魔物をつかってマナを安定させてたんだ。
ラタトスクはセンチュリオンという八体の水や火や風など。
それぞれの八属性を司る部下をもち、彼らが世界にマナを運んでいたらしいんだ。
念のために許可をえてエルフの里の語り部のところにもいってみた。
そうしたら、大樹の周囲にそれぞれの属性を司るという文様がかかれている壁画があった。
語り部いわく、大樹の精霊を護りしものたちの文様だ、といっていたけど」
そこまでいってあらたな資料を手にとりその場にひろげつつ、
「以前に研究していたことが証明されたといってもいいんたけど。この資料は。以前に話したことがあるよね?」
「ああ。月の満ち欠けにたいする現象か?」
月の満ち欠けを含めた自然現象が世界のすべ手の生き物に影響を与えている。
そう前提した場合、そこにマナの干渉がはいれと、例え精霊の強い影響下でもブレが必ずでる。
火や水を司る精霊の微妙な力が熱帯や寒冷地に働いているように、それだけでは絶対に証明できないものがある。
それがマナの循環。
テセアラのもともとの成り立ちを考えれば衰退世界という場所にもっていかれているのかともおもったけども、
だけどもレネゲードがいうにはあちらにはそんな技術はないはず。
しかもあちらの精霊解放になるまえにすでに数値にブレは生じていた。
しかもあちら側の精霊が解放された、とこちらに連絡がはいると同時、
こちらでも数値の変動を調べたけっか、いつのまにか数値は安定していた。
何かの意思が確実にかかわっている、そう確実に第三者にもわかるほどに数値がそれを証明していた。
「…精霊、ラタトスク…か」
大樹の精霊である彼は今どうしているのであろう。
「できたら接触とりたいよね」
しかし可能性がある異界の扉にいく統べがない。
ここ一年ばかりあの周囲の海域はそらですら入り込むことが不可能なほどに荒れている、ときく。
「そいつらはどうしてるんだ?」
「…わからない。すくなくとも僕がしっている精霊の神殿や封印され祀られているという場所には
今までそれらしき生物はいなかった。ただ、語り部は気になることもいっていた。
勇者ミトスの話しをすることなかれ、って。あまりに不思議におもったからきいたら…
しつこくきいたらようやく教えてくれたよ。……これは絶対に内緒だよ?」
いいつつも周囲に自分達以外にいないことを確認する。
「…何をきいた?」
「勇者ミトスは大樹カーラーンの加護をうけて、そして世界における戦争をたしかに収束した。
そのとき、大樹は自らの守護者たるディセンダーっていう人を彼らのおともにつけたらしいんだ。
ディセンダーとは大樹の分身体。…だけど、そのディセンダーをミトス達が殺した、らしいんだ」
「な!?」
「その結果、大樹は枯れた。エルフ達がハーフエルフを異様に毛嫌いしている理由はそこにあるって。
…ミトスとその仲間達は一人を覗いて全員ハーフエルフだったんだって…」
勇者ミトスとその仲間たち。
勇者がハーフエルフであったことにも驚きだが、大樹の使いを殺したとは穏やかではない。
「…そして、ミトスはラタトスクの指示をうけたマクスウェルからあるものをうけとっていたらしいんだ。
大樹とは世界をうみだせしもの。つまり簡単にいうと創造の力をもっているものらしいんだ。
そんな大樹の加護をうけたとあるもの。…それをつかって世界を二つにわけた、らしい。
…今のようにいびつな世界、をね。ミトスの正式名を、ミトス・ユグラシドル」
「まて!ユグラシドル、だと!?それはクルシスの!」
「…そう。つまりそういうこと、みたいだよ。…これはマーテル教の人達や国には絶対にいえないよ。
しかも、古代の文献にはどこにも女神マーテルの名前はない。
あるのは…勇者ミトスの姉、マーテル・ユグラシドルの名だけだ」
天界…クルシスとよばれし場所における最高神、その名がたしかユグラシドル、のはずである。
そしてその姉の名が、マーテル教の女神とあがめられているマーテルという名。
どう考えてもおかしすぎる。
あきらかに意図されてつくられているといってよい。
「…マーテル教では、女神マーテルが世界をつくった、とされている・・・けど。真実は、そうじゃ、ない……」
「…世界樹が世界を創世せし、…か」
「そう。そして、世界樹カーラーンの精霊、それがすなわち…」
「ラタトスク…か」
古代の遺跡により、世界樹から全てが始まったと描かれていた。
世界樹が芽吹き、大地をつくり、そして命をつくった。
すなわち、世界樹が全ての源。
この世界の根源たる存在。
「ラタトスクが死ぬことはすなわち、世界の滅亡。この大地がある限りそれが精霊が生きている証。
…ずっと不思議におもってたんだ。なんで大樹がかれたのに、
いくら衰退世界と繁栄世界という仕組みになっているとはいえマナが涸渇しないのか、と。
よくよく考えてみたら、わかったんだよ。…はっきりしたのはユミルの森の湖面をみてからだけどね。
あの湖面下には…視たこともない根がぴっちりとしきつめられていた。
…おそらく、あれは大樹カーラーンの根、だとおもう」
「根、だと!?」
「そう。たしかに地表の樹というものはかれたのかもしれない。けど根はのこっていたんだよ。
…だから根から微弱ながらにマナは生み出されていた。ゆえに世界は滅びはしなかった」
「全ての精霊はラタトスクが生みだしたもの。いわば手足とすべく世界を循環させるために生みだした、んだとおもう。
魔物にしても然り。うまくできてるよ。こう理解すると。
王がいて、配下がいて、さらにその配下のものがさらに下っ端に世界を循環させてゆく。
そしてヒトはその中間地点にある精霊、という存在にすべての思考をうばわれそこで思考力をなくす。
属性を彼らが完全に司る、と勘違いしてしまうからね」
事実、普通それが当たり前、とされている。
精霊達がそれぞれの属性を司るマナを操り安定させている、と。
なのに封じられているはずのそのマナが使用できるのはどうしてか。
という意見はずっと黙殺されてきていた。
「とりあえず、センチュリオンを示すという文様は書き写してきたよ。これがそうさ」
それぞれに特徴のある文様がえがかれている。
「…きになるのは、大樹にも文様がかかれてたんだ。…蝶、のような」
「蝶?」
「うん」
そこだけ丁寧にしかも色つきで紅くそめられて。
属性をつかさどる文様も様々な色で染められていたが、その蝶だけの色彩はとても鮮やかだったのが印象深い。
「マナの数値を示す装置をつかっていろいろと調べてみたんだ。間違いはないよ。
ユミルの森はマナに満ち溢れている。信じられないくらいにね。かといってそのマナが周囲にもれることもない
…たぶん、あの地は大樹の結界にまもられているんだとおもう」
「僕の予想では、ギンヌンガ・カップってほら、あの異界の扉、といわれてるところだとおもうんだ」
「なるほど。…あの地は冥界にいざなう、といわれているからな。しかしその根拠は?」
「レネゲードもいってたでしょ?あの地からときおりもう一つの世界、シルヴァランドに道がひらくことがある、って
そんなことができるのって大樹の精霊以外にかんがえられなくない?」
「…アステル。お前はたしかに天才だよ。で、いくのか?」
「無理。異界の扉の周囲の海は荒れてて、空からでもいかないとむりだよ」
「レアバードをかしてもらえないのか?」
「レネゲードにこの話しをして?無理なような気がするな」
「なぜだ?」
「ここにもかかれてるんだけど。加護を与えし存在達をかの地から排除せん、とかいてあるんだよ。
大樹の精霊の加護をうけながら、その精霊を裏切ったヒトにたいする牽制なんだとおもう。
で、この説をたしかめたいから、精霊にあいにいきたいんだけど……」
「は~。わかった。つまり護衛をかねてついてきてほしいんだな?」
「うん!最近は雷の神殿ははいれないし、氷の神殿は異常気象が多発してるっぽいし。
なら土の神殿かな、とおもってさ」
「ダメだといっても一人でいくきだろうが。ついていっていってやる」
「ありがと!リヒター!」
いってさらに上目遣い。
「・・おい。まだ何かいいたいことがあるな?」
「え?あ。うん、それがさ。話しをきかせてもらうひきかえにお願い事をされちゃった。
今から十六、七年前にエルフの里からとある書物が盗み出されたんだって。
それをみつけだしてほしいって依頼なんだ」
「その書物とは?」
「言葉を濁してくれたけど、禁書として保管していたのにある事件のときにユミルの里をおいだされた家族とともに
その書物はなくなってたらしい。そのとき追い出された家族の名は……」
バージニア、というエルフとその夫たる人、そして…子供の名。
「?それはたしか死んだ、といわれてた名前ではないか?研究院がこぞっておいかけてた天才児の」
その頭脳をみこし、王室がひつようにおいかけていたはず。
その資料もみている。
「だけど、本当に死んだのかもわからないよ?異界の扉の地においつめた、という報告はあがってた。
けどそれ以降…子供達の姿をみたものはいないんだよ」
両親の姿はいたが、両親もいつのまにか姿をけしていた。
よもや上空にうかんでいる島にいるとは誰もおもいはしない。
「しかし…最近の教皇のやつ、何をかんがえてるのかわからんな…たしかにこれは上に連絡あげられないな」
「そうなんだよね?なんか教皇の傍にいたら自分までおかしくなってくるような気がするよ。最近」
なぜかわからないが突発的に怒りが、そして欲がこみあげてくる。
その理由を彼らはしらない。
教皇、とよばれしものが、ソルムのコアをもっているから、だなどとは。
2013年11月20日(土)某日
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