まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

だそうかどうしようか悩みましたが、やはり子供バージョン。
セネル(メルネス)とゲーテの登場ですv(まて
ラタ様、二人を生み出していますよ~、ええ。
つまり、誕生から間もない二人、なのですよ。ふふふふふv
ちなみに、メルネスの子供姿は、某漫画高橋先生のエルを想像してくださいなv
あれを基本にしてるからなぁ、海の精霊(かなりまて

別話17(次からラタ要因のヴァンガード発足の触り)

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「そうか。トレントの森へいかれるか」
「ああ」
翌朝。広場にて一夜をすごし、どうにか決心がまだぐらつくものの覚悟はできた。
それゆえに、森の入口にまでいくと、プラムハルドがどうやらすでにまっていたらしい。
ロイド達をみてそんなことをいってくる。
「クラトス殿は伝説の鉱石、アイオニトスを求めて世界中を探していた。
  もちろん、ここにもきた、なぜだかおわかりか?」
いきなりクラトスの名をよばれ、どきり、とする。
どうやら覚悟をきめているとおもったが自分の心はそうではない、らしいことに苦笑せざるをえないロイド。
「それって、エターナルソードを人間にも装備できるようにするため、だよね?」
ジーニアスが問いかけるようにそういうが、
「然り。だが、少しちがう。それは、あなたに装備させるためだ」
「え?俺?」
いきなりいわれ、ロイドはとまどうしかできない。
「しかし、結局、地上にアイオニトスはなかった。
  デリスカーランから奪ってくるしかなかったという」
最も、ミトスがアルタステを探しに地上にいけ、といわなければ、クラトスもそこまではできなかったであろう。
「…だから、ゼロスにとりにいかせたのね」
リフィルが納得したように思わずつぶやく。
「いきなりフラノールであいつ、用件だけいってきやがったからなぁ。ほんとむかつくったら」
ゼロスがあのときのことを思い出して何やらぶつぶつと文句をいっているが。
「戦いは避けられぬとしても忘れるな。クラトス殿は常にお前のことを気にかけていた。
  お前達の九人目の仲間だったということを」
「わかった」
「ひ~、ふ~、み~…あれ?エミルがはいってないよ?エミルをいれたら十人だよね?」
ついでにミトスやアステル、リヒターをいれればかなりの数になりえるのだが。
指折りぞえ、ジーニアスがそんなことをいってくるが。
「…あの御方はそういう分野に収まるような御方ではない、からな」
それこそ大樹にかかわりがありしもの。
仲間云々でいうならば、彼はどちらかまちがいなく精霊達より、すなわち世界より、であろう。
人の枠にいれられるようなものではない。
「…トレントの森はこの先だ。入口まで案内しよう。
  だが、かの地では精神力がものをいう、心するように」
かの地は一歩はいれば、常に精神力が、マナが削がれてゆく。
そして気力がつきたとき、きづけば森の入口へと戻されてしまう。
それは狩りに入るときですらかわらない事実。

「ようこそ~」
「こそ~」
『・・・・・・・・・・・・・』
森に入ってすぐ。
なぜかエルフ達が固まっているのが気にかかるが。
そこには小さな子供が二人。
銀の髪に蒼き瞳の子供に、左右の瞳が金と銀のオッドアイの子供が一人。
おそらく歳のころならば三歳か四歳、といったところか。
ちょこん、としたしぐさが愛らしい。
ここはトレントの森。
エルフの聖域。
部外者は絶対にはいることができないはず、そう、絶対に。
それぞれ長い髪とその胸元に蝶のプローチのようなものがみてとれる。
それはコレットが以前、エミルからもらったものとほぼ同じ。
銀髪の子供は真っ白い、どこに繋ぎ目があるのかわからない白い布を、
オッドアイの子は真っ黒いこれまたどこに繋ぎ目があるのかわからない布を、
それぞれ服として纏っているのがみてとれる。
「あななたちは……その感じからして…もしかして、精霊、なのかしら?」
感じる気配は人のそれではない。
まぎれもなく精霊のもの。
だが、何というか、今まで出会った精霊達とはまた異なるような感じがするのはリフィルのきのせいか。
「うん。僕はメルー」
「僕はケン~」
それぞれ完全に名は異なるが、まあ愛称なので嘘ではない。
嘘では。
「あのね、あのね。皆を奥にまで案内するようにっていわれたの~」
「おう。仕事仕事~」
彼らにとっては初の仕事といってよい。
ゆえに多少気分が高揚しているのはまあわかる。
わかるが、そんな理由をリフィル達、もといロイド達がしるよしもない。
と。
『二人とも、いきなり出ていかないでよ』
ふと、これまた全身を黒いマントとフードで覆った今度は子供らしき人物がでてくるが。
その言葉はロイド達にはわからない。
「あなたは?」
リフィルがいうが、その人物のかろうじてみえる口元には笑みがうかぶのがみてとれるのみ。
「は~い」
「とりあえず、案内するね~」
『いったとおもうけど。事がすむまではこちらの名をどちらでも呼ばないように、いいね?』
「「はい!」」
それはげんきのいい返事。
そのまま、笑顔にて二人の頭をくしゃり、となでる。
ほんと、産まれたてのときは精霊達もこう素直なのに、どうして年月とともにかわってゆくのやら。
そんな思いをひしひしと抱かずにはいられない。
そのまま言葉を発することなく、すっと手をかざし、彼らを奥にといざなう行動をし、
二人の子供をひきつれて、そのまますたすたとあるきだす。
時には立ち止まり、ロイド達を振り返っているのをみるかぎり、
「…どうやら、招いている、ようね」
「なあ、先生?あの子供らが精霊って…まじか?」
「ええ。あの子達からは人でもハーフエルフでもない感じをうけるわ。それこそ精霊達と同じ感覚よ」
「あ。族長さんとかいう人はまっててって~」
「て~」
そんな彼らにたいし、ここまでついてきていたプラムハルドはすっと頭をさげる。
その黒い服に身をまとったものが誰なのか。
それはいわずもがな。
さきほどその子供らしきものが語ったのはまぎれもない、精霊原語。
エルフの中でも一部のものにしか理解できないその言葉。
だからこそ理解せざるをえない。
彼もまた精霊にかかわりがあるものなのだ、ということを。
しかも気配は人のそれ。
だとすれば、気配をごまかせる力をもつものか、もしくは…考えるまでもない。
幾度かこの村にきたことがある、あの少年なのだろう、という予測は聞くまでもなくわかること。
そのまま黒服の少年に案内されるようにして、ロイド達はトレントの森、
とよばれし森の中にと足を踏み入れてゆく……

光と闇の協奏曲 ~親子と勇者とオリジンと~

「そういえば、エルフは長命なんですよね?」
ふと、コレットが気がついたようにと問いかける。
昨夜の話しではないが、気にはなっているのはまた事実。
「うん。そうみたいだね。ざっと千年くらいはいきるってさ」
ジーニアスがそんなコレットに答えてくるが。
「気が遠くなるねぇ…千年って…」
おもわず遠い目をしてつぶやくしいな。
「うん。そうだね。僕もたぶん、それくらいは生きるんだろうな」
「ハーフエルフも寿命がながいんですね」
ジーニアスのつぶやきに、プレセアが俯きか加減につぶやいてくる。
「うん」
そんな彼らの会話をききつつも、ふとおもう。
彼らは千年が気がとおくなる、といった。
自分達にとってはそれはほんの一瞬の時でしかありえない。
悠久ともいえる時の中を生きてきている以上、その感覚はどうしようもない。
先導し、彼らを奥へと連れて行っているそんな最中、背後からきこえてくる彼らの会話。
「我々もいきるだろう」
「私たち人間の寿命はせいぜい、八十年です」
リーガルの言葉に、プレセアが訂正をいれる。
「そうではない。ジーニアスやリフィルが死なない限り、我々も心の中で生き続ける」
それはかつて精霊達とともに暮らしていた人々がいっていた台詞。
なつかしくもある台詞。
自分達が生きたあかしは、あなた方が覚えてくれている、それだけでいい。
まだ、世界が全ての命が共存してくらしていたときにいわれていた言葉。
デリス・カーラーンの、かつての惑星においても、そしてこの惑星においても然り。
「うん。僕、皆をわすれない、忘れないよ」
「だいじょ~ぶ?」
ふと感傷に浸っていたのを気づかれたのであろう、不安そうに身あげてくる小さな瞳が二対。
『問題はない。でもお前達も覚えておけ。彼らのいう思いは我ら精霊にも繋がるのだ、と。
  我ら以外はどうしても我らよりも先に逝く、のだからな』
「「は~い」」
まだ産まれてまもない彼らはそういった感情に左右されたということがない。
だが、精霊とて感情はある。
これから後、彼らは学びとってゆくであろう。
リフィルは常に前をあるく人物達を観察しているが、どうも彼が話している言葉。
それがどうもかつて覚えた精霊原語に近しいものであるような気がしてならない。
天使言語やエルフの古代語の元にもなったといわれている精霊原語。
今ではその元たる原語は失われて久しい。
「それにしても、おかしいわ」
「何がだ?」
「ここ、トレントの森は、一歩はいれば、まちがいなく衰弱してゆく、というのが定説なのに」
だけど、先ほどからそんな感覚は一切ない。
「だから僕たちがいるんだよ~?」
「ちゅ~わとかいうやつだっていわれたけど」
そんなリフィルにたいし、首をちょこん、とかしげて交互にいってくる子供達。
事実、源流たるマナを預かることになったメルネスと、マナの対極に位置する負と瘴気を預かるゲーテ。
二人の力を使用し、ついでに力の利用方法の活用の仕方をおしえがてら、ここに連れてきている今現在。
ゆえに、二人がいう台詞は正しい。
正しいのだが、人にその感覚がわかるはずもない。
「中和?それはいったい……」
リフィルがいいかけるが。
「うわ!?」
何やらいきなり声をあげているしいな。
「どうしたんだ?」
「あ、あれ」
みれば、先にてわさわさと木が、なぜか移動していっているのがみてとれる。
「あれは、トレントとよばれし木の魔物達よ」
リフィルが思わず身構えるが、魔物達は襲ってくる気配はさらさらない。
むしろ、道並みに並びつつ、きちんとした道をつくりだしているようにみえなくもない。
ずらり、と並んだトレントを始めとした木の魔物達。
いつのまにか左右の木々は魔物達で埋め尽くされているっぽい。
「トレントの森…か」
リーガルがぽそり、とつぶやく。
これほどまでにトレントの魔物がいるのならば、その名もうなづけるというもの。
魔物達にまったく攻撃してくる意思がないのが不気味ではあるが。
「魔物が道案内…してるのかな?」
「まっさか~…いや、でも……」
違う、とはいいきれない。
コレットの呟きに何ともいえない気持ちになるロイド達。
と。
「もうすぐつくよ~」
はっときづけば、いつのままにか奥のほうにきていたらしい。
メルと名乗った少年の言葉にはっと我にともどる。
もうすぐつく、それが意味すること、それはつまり。
「……もうすぐ、クラトスさんと戦うんだね」
誰にともなくぽつり、とコレットがつぶやく。
実の親子が戦う、それは何と残酷なことだろう、とおもう。
しかも実戦形式で。
「…なあ、俺、強くなったかな?」
「ロイドは強いよ!」
「勉強はできないけどね~」
ロイドの呟きに、コレットが即答し、ジーニアスが気分を和らげようとしたのかちゃちゃをいれてくる。
「うっせ!……クラトスよりも?」
ジーニアスに否定の言葉をいったのち、ぽつり、とつぶやくロイドの気持ちは分からなくもない。
「そ、それは……」
ざっと視線をめぐらせてみるが、リフィル達ですらおもわず目をそらすほど。
「あいつとは、今までに何度もたたかったけど。あいつは本気じゃなかった」
いつも手加減をされていた、と今ならばよくわかる。
「…うん」
それに関してはジーニアスもコレットもうなづかざるをえない。
あのとき、救いの塔で、コレットのたしかに肉体を通じては声をだすことすらできなかったが、
その魂は常にそこにあり、その様子を体の外から眺めていた。
クラトスが手加減していたのをコレットは精神体、すなわち幽体を通じて視て知っている。
ジーニアス達は直接対峙したがゆえにそのことを知っている。
「今度、あいつが手を抜いたら、俺はあいつを許さない」
「ロイド……」
「本気で戦って、あいつに勝たないといけないんだ」
そうでなければ、おそらく、自分もクラトスも納得しないだろう。
そんな漠然とした予感がたしかにある。
だからこその台詞。
「それは、お父様に自分を認めてほしいってこと?」
ロイドのそのいいようは、クラトスに認めてほしい、といっているようなもの。
だからこそ首をかしげてといかけるコレット。
クラトスが父親だ、と信じ切れていないとはいいながらも、やっぱりロイドも判ってるんだよね。
そんなことをおもってのその台詞。
「な!?ち、違う、というか」
コレットにいわれ、自分はどうしてここまでムキになっているのか、と改めて考える。
いわれてみればたしかに認めてほしい、という思いがない、というのは嘘になる。
いや、間違いなく認めてほしい、のだろう。
あのときの旅の最中でも無意識にクラトスに認めてほしかったということが否めない。
「ロイドの気持ち、きっとクラトスさんに通じるよ。大丈夫、大丈夫だよ」
「ああ」
と、ざっと視界が開ける。
ぽっかりとした木々の間に囲まれた空間。
その奥には黒い石碑らしきものがみてとれる。
その前にたたずんでいる紅き髪。
「きたか」
改めてみてみれば確かによくにている、とおもう。
自分は父親にだったんだな、と今さらながらに理解する。
目もとも髪の色も口の形も瓜二つ。
違うのは、自分が感情をあらわにするのにたいし、クラトスはつねに無表情に近い、というところくらいであろう。
「やはり、戦うのか?」
「今さら何をいう。中途半端な覚悟では、死ぬぞ。
  オリジンの契約がほしければ私を倒すがいい」
そんなクラトスの台詞に、やっぱりどうにもならないんだな。
「……それが、あんたのいきかたなのか」
決意をこめ、そして息を大きくのみこみ深呼吸。
そのまま背後を振り返る。
そして。
「皆、ここは俺にまかせてくれ」
「一人で大丈夫なのか?」
背後にいる仲間達にいうロイドの台詞をきき、クラトスがそんな台詞を投げかけてくるが。
「あんたが過去と決別するなら、それに引導を渡すのは息子である俺の役目だ!」
そう、これはおそらく自分にとってもクラトスにとっても必要なことなのだ、とおもう。
全力でぶつかり合うことにより、きっと何かがかわる、とおもうから。
「ロイドはまけません。クラトスさんやクルシスが犠牲にしてきたもの全てをロイドは背負っているんだもの」
「ロイドをなめないでよね。ロイドはにげなかった。あきらめなかった。
  それだけでもあなたにかってる。僕はロイドを信じてる」
「覚悟しなよ。こいつ本当に強いんだから。あんたと旅をしていたころとは比較的にならないくらい」
「こいつは、暑苦しいやつでな。おまけにしつこくて、単純で始末におえないときている。
  だから、あんたの相手くらい、こいつ一人で十分ってわけだ。ま、せいぜいがんばってくれや」
「ロイドさんは一人じゃありません。私たちがいます。
  たとえ武器をとらなくても、私たちはロイドさんと一緒に戦っています」
「むしろ、貴公とロイドは一騎打ちをすべきだろう。
  それこそが貴公が望んだ結論なのではないのか?貴公は私以上に不器用のようだ」
クラトスの台詞に口ぐちにそんなことをいってくる、コレット、ジーニアス、しいな、
ゼロス、プレセア達。
案内してきた子供二人と黒いフードとマントに身をつつんだ人物は
いつのまにやら石碑の横のほうへと移動しているのがみてとれる。
結局、ここまでくるのに、ロイド達が理解できる言葉をその人物は発することはなかったが。
しかし、どこかであったような、そんな気がしたのもまた事実。
しばし、互いに無言で向かい合うロイドとクラトス。
やがて、どちらともなく間合いをついて剣を抜き放ちきりこんでゆく。

「あまいな!」
クラトスがロイドの剣をさえぎり、そのまま振り下ろす。
衝撃派に浮き上がりそうになるのをこらえ、ロイドは後ずさると再びクラトスの胸へと飛び込んでゆく。
「やぁぁ!」
「うぬ」
ひらり、と身をかわすと振り向きざま、ロイドの胸に剣をつきつける。

「…人間ってかわってるんですね~」
「これって意味があるの?」
横では何やらそんな会話をしている子供の姿が見て取れるが。
『こういうものもいるのを覚えておけ。特にお前達はな。
 すくなからず、お前達の役目は人ときっても切れない関係になるであろう。
 よくもわるくも、海を荒らすのも人なれば、負をまき散らすもまた、人なのだから』
「「は~い」」
だからこそ、彼らをここにつれてきた。
こういう形でしか気持ちの整理ができない、という人間のいい例をみせる機会だという理由にて。

「……つよく、なったな」
片ひざをつき、血の流れる体を手で支えながら自分に言い聞かせるように何やらいっているクラトス。
どうやら勝負はついた、らしい。
「あんたのおかげだ」
「とどめをささないのか?」
いいつつも、手にしていた剣をしまうロイドにたいし問いかける。
「俺は、俺達を裏切った天使クラトスをたおした。
  そして俺達を助けてくれた古代大戦の勇者、クラトスを許す。それだけだ」
見下ろすようにいうロイドの台詞に、
「ふ。ようやく死に場所を得たとおもったのだが。お前はとことんまで甘いのだな」
薄く笑いつつも、だけどもロイドらしい、ともおもってしまう。
こういうところがよくミトスににている、とおもう。
彼も決してとどめをさそうとはしなかった。
相手がどのような非情なことをしていようとも。
だからこそ、ミトスが牧場といったときには耳を疑った。
しかもそれが人をつかって、といったときには。
いいつつも、ふらける体をおこし、石碑の前にと進み出る。
「ま、まて!まさか封印を解放する気か!?」
「それが望みだろう?」
「それじゃ、あんたが!」
ロイドが何やらいいかけるとともに、
「え?」
「…うわ!?」
ジーニアスのポケットより、何やら小さな石らしきものがうかびあがり、
それはロイドの体にまっすぐとんでゆき付着する。
それとともにロイドの体の自由が利かなくなる。
「……時間がない。お前の体を借りる」
何がおこったのか理解できない彼らの前にて、その背後にうっすらとした少年の姿が目にとまる。
透き通ったその姿は、ジーニアス達もとてもよく見慣れているもの。
「や、やめろ!」
自分の中に誰かが、ミトスが入り込んでくるそんな感覚に抗おうとするが、
そのままずんずんと中にはいりこまれてゆく感覚がロイドを襲い、体の自由がまったくきかない。
「いけない!ミトスだわ!クルシスの輝石に宿っていきてたんだわ!
  このままではロイドの体がのっとられてしまう!」
リフィルがそのことに気付き、思わず叫び声をあげるものの、体がまったくうごかない。
と。
「ロイド!」
「…うわ!?」
それをみて、だっといきなりロイドを突き飛ばすような格好となり、
ロイドに付着していたクルシスの輝石ことハイエクスフィアを手にとり、
何の躊躇もなく自らの胸にとそれをあてがうコレットの姿。
ほとんどロイドに同化する寸前であったミトスの影は、あっという間にコレットへと移動する。
その影はまたたくまにコレットの内部へと吸い込まれてゆく。
「…くそ。邪魔されたか。クラトス、結局本当に僕を裏切る選択をしたんだね。
  でもいいよ。この子は、この体ごともらってゆく」
コレットが口をひらくと、その口から洩れいでるはコレットの声とミトスの声が重なったような声。
以前と異なるのは、以前は完全にコレットではない声がしていたというのに、
このたびはコレットの声も重なってきこえる、ということであろう。
「ま、まて!コレットをかえせ!約束したんだ、この旅がおわってもまた旅をしようって!」
ふわり、と浮き上がるコレットにたいし、ようやく体の自由がきくようになったロイドがあわてて手をのばす。
が、コレットの体はふわり、とうきあがり、すでに手をのばしても届かない位置にとたどり着いている。
「……僕らも約束したさ。全てがおわったら全員で旅を、と。あの方をも含めてね。
  けど、人は僕たちを裏切った。クラトスですら!…もう、しらない。
  いつまでも待つ、といわれてるんだ。だったら一度ここを離れて次にきたときでも問題ないしね。
  そうすればうすぎたない人間はもういない。
  姉様と僕と、そして…裏切りもののクラトスもいない世界で僕らは約束を果たすんだ、あははは!」
「コレットをかえせ!」
ロイドが必至でジャンプしては手をのばすが、その体はぐんぐんと上層し、
周囲の木々の頂ほどにと移動する。
「僕に指図するな!クラトスの…クラトスの血をひくくせに!
  信じていいっていったのに、クラトスは僕を裏切った。そんなクラトスの血をひくくせに!」
きっとロイドを見下ろし、何やらそういう口調は、まさにミトスのもの。
「ミトス、やめろ!」
クラトスがそんなミトスに声をなげかけるが、
「クラトス…クラトスは本当に僕のことを理解していなかったんだ……この体はかえさないよ」
その声に悲しみが含まれているように感じたのはおそらく気のせいではないであろう。
そういい、そのまま光とともに、コレットの体はその場からかききえる。
「コレット~!!」
ロイドが叫ぶが、どうにもならず。
「ミトスのやつ…よくもコレットを!」
何もできなかった無力さから、そのまま膝をがくり、とつき自らの手を地面にとたたきつける。
「おちつきなさい。ロイド」
そんなロイドにリフィルが冷静に諭そうとするが、
「また、コレットを護れなかった……俺は……」
コレットを守りたい、とおもっているのに、いつも守られてばかり。
先ほどのことにしても、そして以前にしても。
自分の無力さに情けなくなってしまう。
ジーニアスなどは、自分が石をもっていたからこうなった、という自責の念から俯いたまま。
「お前は、あきらめないのだろう?彼女を取り返せばいい。まだ間に合う。
  …が、こっちのほうは時間がない」
「ま、まてよ!クラトス!まさか……」
「ミトスがあらたにエターナルソードを使用する前に、解放を」
いいつつも、石碑の前にたち、自らのマナの解放を開始する。
「コレットは…無事なのかしら……」
「ミトスは自ら動くための体として神子をつれていっただけだ。殺しはしない」
誰もどうしようもない中で、クラトスがマナを解放している最中、
ぽつり、というリフィルの台詞にクラトスがマナを解放しつつ淡々と答える。
そう、彼女をどうこうするとはおもえない。
すくなくとも、まだコレットの中にマーテルの精神の欠片でも残っている可能性があるかぎりは。
やがて、クラトスの頭がぐらり、と傾いたかとおもうと、そのまま背後にと倒れ込む。
「クラトス!」
思わず駆け寄ろうとするロイドだが、倒れ込むクラトスを抱きとめたのはロイドではなく、
いつのまにやってきていたのか、この場にはいなかったはずのユアン。
「ユアン!?」
その姿をみて驚きの声をあげているしいな。
そもそも、ユアン達は合流したのち、この場にやってきたのがついさきほど。
たまたま、光が登ってゆくのをまのあたりにし、急がないと、という理由でこの場にやってきた。
どうにか間に合ったといってもよい。
「…私のマナを分け与えた。大丈夫、クラトスは生きている」
「とうさ…クラトス。本当に大丈夫か?」
その言葉にほっとする。
どうしてユアンがここにいるのか、と聞きたいことはいろいろとあるのに、
クラトスが無事、ということが何よりもそんな些細なことを吹き飛ばしてしまう。
コレットをまもれず、そして目の前で父親まで失えばロイドは自分が正気でいられる自身がない。
おそらくまちがいなく自分をせめてあたりちらしかねない。
それこそ仲間達に対してすら。
そういう自覚があるからこそ、余計にほっとせざるを得ない。
「また、死にそこなったな」
自嘲じみたつぶやきがクラトスの口から洩れいでる。
その声をきき、いろいろと悩んでいたことも重なり、おもわずかっと頭に血がのぼる。
「ばかやろう!死ぬなんていつでもできる。でも死んじまったらそれで終わりだ」
それゆえにおもわずクラトスにたいし、おもいっきり怒鳴りつけているロイド。
普段のロイドならばクラトスにたいし、そんないい方は絶対にしない、であろうに。
「生きて地獄の責め苦を味わえと?」
相変わらず後ろ向き、というか何というか。
「誰がそんなこといったかよ!死んだら何ができる?何もできないだろ?
  死ぬことには何の意味もないんだ!」
おもわずかっとしてロイドがいうが、その言葉はまさに本心。
もっとも、死んだら何もできない、という彼のいい分はある意味で間違っている、のだが。
死んでもその気があればどうとでもなる、ということをロイドは知らない。
自らの強い念と根性などでそれらの不都合を可能にかえることができる、というその事実を。
「…そうだな。そんな当たり前なことを息子に教えられるとはな」
「クラトス!?」
ふっと力が抜けたようになり、だらり、と体をユアンに預ける姿をみて、ロイドが不安そうな声をあげるが。
「クラトスなら大丈夫だ。お前ははやくオリジンと契約しろ」
そもそも、限界ぎりぎりというか限界以上、マナを放出したのである。
いくら無機生命体化…天使化しているとはいえ、マナを失うことは死に等しい。
ゆえに体の疲労はクラトスには著しい。
天使化していなければまちがいなくそのまま死んですらいたであろう。
無機生命体化しているがゆえに他者にマナを分け与える、というようなことができたまで。
本来、マナはそれぞれ異なる形を人によってとる傾向がある。
ゆえに、他人のマナがその当人に受け入れられないこともしばしば。
だが、無機物にとってのマナはあるいみで近しい形をとっているがゆえに可能な方法。
ユアンにいわれ、石碑にと目をやる。
しばらくみていると、やがて光とともに、石碑の上方に光に包まれた男性があらわれる。
四本の腕をもった、たくましい体つきの男性。
それこそがオリジンの具現化した形態。
「資格なきものよ。私は全てに、人に失望している。お前も私を失望させるためにあらわれたのか?」
ふわふわと背中にはえた七色の翼にてうかびつつ、ロイド達を見下ろしつつもそんなことをいってくる。
姿をあらわしたその一瞬、ちらり、と横をみてかるく頭を下げたことに気づいたものは、ロイド達の中にはいない。
「オリジン。お前はミトスとの契約に縛られていないのか?」
いつもと、精霊が現れたときとの口調が違う。
それゆえに疑問におもったロイドの問いかけ。
いつもならば、私はミトスと契約をかわすもの、の口上で始まっていた。
だからこその素朴なる疑問。
「我の解放とともにミトスとの契約は破棄された。もはや何人たりとも我と我そのものを行使することはできぬ」
淡々としたそんなオリジンのものいいに、
「誓いをたててもだめなのかい?あたしたちにはエターナルソードが必要なんだ」
「エターナルソードで二つの世界を一つに統合したいんだ。
  そして大樹カーラーンを復活させる。このままじゃ、世界は永遠に搾取されあって、皆絶望しちまう」
しいなとロイドが交互にオリジンにむかって言い放つ。
「それは、自らと違うものを認められないという人という生き物の弱さから発生したことだろう。
  かつてあの御方はそんな人に猶予をあたえた。が、結果人はかわらなかった」
あのとき、ミトス達のような人間がいなければ間違いなく実行されていた事柄。
地表の浄化。
だが、人はかわらない。
昔も今も。
かつてのように共存しよう、という存在すらほとんどいない。
いてもそんな人々は異端、とされて排除される。
「たしかに、そうかもしれない。でも間違いは気づけば正せるはずだ」
そんなオリジンにロイドがなおも言いつのるが、それは過去をしらないがゆえの人の台詞。
過去から何も学びとろうとしていない証拠でもある。
「取り返しのつかないこともあろう。げんに人は大樹を枯らした。
  あのときですら。大いなる実りを独占するために互いの国々は兵をあげた。
  全ては、自分達さえよければいい、他者をないがしろにする人の心がもたらした結果でしかない」
枯れてゆく大樹。
あのとき、もはや再生しても人は過ちに気付かない、という理由で放置された。
にもかかわらず、人は力をもとめることをやめなかった。
あげくは生きているものたちからマナを吸い上げ初めていたかつての人同士の争い。
「それでも、できるかぎりのことをしなくちゃ……」
「そうだ、俺はあきりめたくはない。誰だって産まれたその時からいきる権利がある。それを取り戻したいんだ。
  人も、エルフもハーフエルフもドワーフも精霊も…皆、自分であるってだけで生きている価値があるはずだろ!?」
しいながぽつり、とつぶやき、ロイドが力づよくいいつのる。
その言葉はかつてもきいたことがある。
だからこそ、呆れる以外の何ものでもない。
深くおおきく息をはいたようにみえるのはおそらく気のせいではないであろう。
そもそも、オリジンだけでなく、黒い服に身をつつんでいる少年も大きくため息をはいているのがみてとれる。
「…オリジン。私は長い間、この世界を救うのはミトスの理想にすがるしかないとおもっていた。
  かつて、あなたがミトスの理想に共鳴したように。私もそれしか手段がないとおもっていた」
いつのまにか意識を取り戻したのであろう。
ふらつく体にて、ユアンに支えられながら、クラトスがオリジンにむかって話しかけるが。
「我が共鳴したのは、あのような同一種族云々のではないのだがな」
そう、共鳴したのは同一種族にするという理想ではない。
全ての種族の共存。
それは過去もできていたのだから、できないはずはない、というミトスのいい分。
だが、人はそれを放棄した。
「それは……たしかに、あのときのミトスは今、ロイドがいったように。全ての種族の共存、を唱えていた」
その言葉にロイド達全員が息をのむのがみてとれる。
まさか、かつてのミトスもそのようなことをいっていたとはゆめにも思っていなかった、らしい。
少し考えればわかるであろうに、考えてすらいなかったらしいことがよくわかる。
「しかし、ミトスは最愛の姉を殺され、負に侵され、堕ちて今にいたったのであろう。
  それをお前達はとめることすらしなかった。八大精霊達すら閉じ込めてまでな」
契約のもと、かの地に捕われてしまい、身動きすらとれなくなってしまっていたこの四千年。
よもや彼らとて姉を失ったミトスがあのように変化するとは思ってもいなかった。
あれほど前のみをみていたミトスが、という思いもあった。
もっとも、彼の傍にいれば彼が負に侵されているのは嫌でもわかったので、
あるいみで諦めてしまったのもまた事実なれど。
下手に干渉すれば自分達も負に侵されてしまう。
そうすれば、今現在、止められるものがいなくなる。
だからこそ、唯々諾々と時を過ごしていたにすぎない。
いつかはきっかけがある、とそう信じ。
最も、その前に肝心なる王の目覚め、という事実がまっていたりしたのだが。
「……あのとき、私はミトスがいうのが全て正しい、とおもっていた。
  しかし、ロイドは違う。何かを変えるためには自分が動かなければならないことを教えてくれた。
  誰かの力にたより、理想に共鳴しているだけではだめなのだ、と」
「今さら何をいう。あのときですらミトスがいっていたではないか。
  理想を掲げるだけならば誰でもできる。自分から動かないとどうにもならない。
  だから、僕に力をかして、とな。その結果が、これだ。
  ……まあ、人がしでかしたことは人の手で、といわれるお気持ちはわからなくもないが……
  そうであろう?そこで自分の本体が何をしでかしたのか理解して固まっている、かつてのミトスよ」
盛大にため息のようなものをはきつつ、横のほうの茂み、木の陰をみすえて言い放つ。
「…え?…えっと…ご、ごめんなさい?やっぱりきづいてた?」
その言葉をうけ、申し訳なさそうな顔をしてでてくる一つの人影。
ユアンとともにここにきていたはず、なのに出るタイミングを失っていたらしい。
「然り。そもそもお前を使うという連絡はすでにうけている。
  禁書の中で魂のみで別れていたお前ならば、自らの後始末をつけられるであろうから、とな。
  あいかわらず甘すぎませんか?」
「…あはは。まあ、そういわないでよ。オリジン」
横をみつつ、何やらため息まじりにそんなことをいってくるが。
そんなオリジンににこやかに返事を返す言葉は、今の時代の人が使いし原語。
『え?』
何やら聞いたことがある声。
だからこそ驚きの表情を隠しきれないロイド達。
そもそも、先ほどミトスはコレットを連れていったはずなのに。
では、このミトスは何だ、というのだろうか。
しかも、今、オリジンは禁書、といった。
ならば、このミトスはあの中にいた彼だ、ということなのではあろうが。
何が何だかロイド達にはまったく理解ができない。
「このミトスはあの中にいた以上、しかも瘴気の塊である彼らとともにいても堕ちることがなかったんだよ?
  彼ならば今のミトスを正気に戻すことは可能でしょ?すでにもう布石はまいてるわけだし」
そう、一緒に旅をしてゆく中で、ミトスの体内にたまっていた、魂そのものに蓄積していた、
大量の負の気はすでに浄化を終えている。
当人が考えを改めないかぎり新たな負は発生するものの、これまでたまっていた量ほどではない。
『エミル!?』
黒いローブをまとっていた少年の顔があらわになり驚愕の声をあげるロイド達。
「ああ、それで、あの魔物達の態度、あるいみ納得だよ。エミルだったんだ」
魔物達がまるで先導するようにここまで道をつくっていた。
いたのがエミルならばうなづける。
今までもそのような光景は幾度もみてきていたがゆえのしいなの納得。
まあ、魔物達の行動があからさまに顕著であったのがイフリートの神殿であったわけだが。
「…って、長話ししてる暇、なさそうだね」
すこしばかり上空をみあげる。
「どうやら、ミトス。君の予想通りのことを君の本体のミトスはしでかすみたいだよ」
「……え゛」
エミルが上空を見上げ、呟いたその刹那。
突如として何ともいえない地鳴りのようなものが鳴り響く。
それとともに、足元がぐらぐらと揺れ出し、その揺れはよりいっそう激しくなってゆく。
「な!みて!」
エミルやミトスにつられ、ふと上空を眺めていた彼らの目に飛び込んできたのは、
そこにあったはずの救いの塔が崩れ落ちる光景。
天にまでとどいている…実際に惑星の上空にある彗星と繋がっているので届いているのだが、
ともあれ、その塔が傾き、崩れ落ちてゆく光景。
それはありえざる出来事と偽りの真実を教えられている人々からしてみれば思わずにはいられないほどの。
救いの塔は、まさに女神マーテルのあるいみ救いの象徴。
それが崩れる、ということがどういう意味をもつのか。
「な!?救いの塔が…崩れる!?」
ロイドがそれをみて驚愕の声をあげる。
やがて、地鳴りのようなものをともない、塔は崩れ落ち、その瓦礫は隕石のごとく、
地上にむけて降り注ぐ。
「っ!デリスカーラーンへの道をふさいだのか!?」
ユアンがそれをみて思わず驚愕の声をあげていたりするが。
「うわ。まさかとおもったけど本当にやる!?僕の本体、どこまで穢されてるの!?」
たしかに、きちんとした思考ならば絶対にしないであろうに。
本当に自分の本体は何をしているんだ、と思う過去のミトスの記憶体はまず間違ってはいないであろう。
「っ、あれが崩壊すれば、ウィルガイアが……」
先ほど一瞬、気を失っていたクラトスであるが、今の衝撃でどうやら気がついたらしい。
よろける体にて何とか上半身をおこし、空をみあげてそんなことをいっていたりする。
「あ、それなら大丈夫ですよ。ね、ミトス」
そんなクラトスの言葉に、ミトスをみてにこやかに何やら意味不明なことをいっているエミル。
「え?あ、うん。えっと、エミルにいわれて、とりあえず、繋ぎをとってみたし。
  皆素直に移動してくれているとすれば、たぶん平気だとはおもうんだけど……」
意味がわからなかったが、とりあえず記憶球メモリーオーブに自分の声を保存し、
彼にと託した。
仲間を大切におもう彼ならばきちんとしてくれている、とおもいたい。
何でもエミル曰く、彼は同族、もしくは仲間に関しては信用がおける、とのことであったが。
もっとも、出会ったとき、相手がかなり驚いていたのがミトスからしてみれば記憶にあたらしいが。
ユグドラシル様、そのようなお姿をとられるとは、何かあったのですか?
ときかれ、とまどった。
そもそも、様づけをされるなど思ってもいなかったが、しかしそれはそれ。
伊達にかつて、国々相手に立ちまわっていたわけではない。
演技することもミトスは身につけている。
だからこそ違和感なく、彼に伝言を頼むことができた。
最も、相手側、フォスティスのほうは何らかの違和感を感じたかもしれないが。
「……どうやら本気であの彗星ごとこの惑星を離れる気、のようだな」
それをみて、オリジンが背後で盛大にため息をつきながらそんなことをいっているが。
ちなみに、今の状態は、オリジンの真横といっても少し前にエミルがいる状態で、
その手前にロイド達全員がいたりするという構図にこの場においてはなっている。
「だね。…まあ、そうはさせないけどね」
そもそも、そんなことをしたらノルンにどんな影響がでるか。
あの子はまだ幼い。
下手に人の穢れた思いを受け止められても困る。
「…いつまでも待つ、といったのが悪かったのかなぁ……」
あのとき、種子を授けたときにたしかにそういった。
が、まさか四千年も経過していたとはおもわなかったが。
たしかに自分達にとって四千年という時間は微々たるもの。
だが、大地に、世界にとってはそうではない。
いくら何でも千年もあればどうにかなるであろう、という意味合いでの台詞であったというのに。
「……我も、次なる彗星が、という格言はとっていませんでしたからな。
  ネオ・デリス・カーラーンの飛来とともに、という契約でしたから」
彗星の飛来とともに、種子の発芽を。
それがオリジンがミトスとかわした契約の一つ。
崩れ落ちる塔。
それは、互いの世界にと瓦礫となって降り注ぐ。
上空より降り注ぐそれはまさに彗星のごとく、天より飛来する岩の塊は、
塔の高さも手伝い、さらには周囲をとりまいていた気流の乱れ。
まるで孤を描くようにして、瓦礫は四方八方へと飛び散り、おちてゆく。
巨大な瓦礫の追突は、大地にとてつもない振動と、そしてそれにともなう被害を引き起こす。
「救いの塔が、くずれる?そんな……」
轟音が鳴り響く中、エミルやオリジンより今はこの現状を把握するのが先。
とばかりに視通しのいい場所をもとめ、走ってゆくロイド。
どうやらその思いはほとんどのものが同じだったらしく、ロイドにつづいて走ってゆく人々。

降り注ぐ瓦礫の中、どれくらいはしったのかすらもうわからない。
それとともに、何やら悲鳴のようなものがきこえてくる。
どうやらいつのまにか森の出口付近にまでやってきていたらしい。
そして、ロイド達の目にはいったのは、降り注ぐ瓦礫によって村が破壊されてゆく光景。
「くそ!とにかく、エルフ達を避難させよう。このままじゃあ、村は全滅だ!」
戸惑い、逃げ惑う彼らであるが、空からふってくるものにたいして何の対処もできはしない。
最も、エミルからしてみれば、それらを黙認していたエルフにも罪がある、と思っているので、
まったく手をかすつもりはさらさらない。
彼らは知っていながら黙認、すなわち中立を決め込んだ。
今いるウィルガイアのような人々とはまた違う。

村へと立ち入ったロイド達がみた光景は、予想以上といってよい。
被害状況は甚大といってよい。
倒壊した家を一軒、一件まわり、ロイド達は逃げ遅れたエルフを村から外へと避難させる。
外が安全か、といえば答えは否としかいいようがないが。
なぜかみたところ、トレントの森や水鏡の森には瓦礫はまったくおちてきていない。
というよりは視えない何かに阻まれるようにして、瓦礫がおちてきてもはじかれている。
正確にいうならば、何かに阻まれると同時、瓦礫が光となってはじけ消えている。
「これで最後かな?」
「いえ、まだプラムハルド様がいないわ」
とりあえず村にある家々をまわり、水鏡の森へと住民を避難させた。
エルフ達は人に助けられるなんて、などといっていたが、しかし、ともおもう。
げんにトレントの森や水鏡の森には一切被害はでていないのに、エルフの里のみは被害をうけている。
それが意味することをわからない彼らではない。
ただ、信じたくない、信じようとしていないだけのこと。
自分達エルフから、加護が失われてしまっている、というその事実に。
「おい、何やってるんだ。早くにげろ!」
リフィルの言葉をうけ、族長プラムハルドの家に赴くロイド達。
プラムハルドは瓦礫の飛来をうけ崩れ落ちているといっても過言でない、家の中。
そのかろうじて形を何とかたもっているっぽい部屋の中に座っている一人の男性。
そんな彼にとロイドが声をかける。
「他の民より先に逃げるわけにはいかん。私は最後までここにのこる」
ロイド達の姿をみとめたが、頑固として首をふる。
「残っている人はほとんど避難させました。水鏡の森はみたところ被害が及んでいないようですので。
  さあ、族長もはやく」
リフィルが一歩前にでて、そんな彼にと言いつのる。
「…人間と、ハーフエルフに助けられる、とはな」
そんな彼らの台詞に複雑な顔をし、そんなことをいっているプラムハルド。
「こんなときにまで何いってるんだよ」
そんな彼の台詞にジーニアスが呆れ混じりにおもわずいうが。
「…そうじゃな。我らが愚かじゃったのかもしれぬな。だからこそ……村のものを、たのむ」
だからこそ、自分達から加護が失われてしまった、のであろう。
希薄なマナ。
使用する術すらも制限されている。
おそらく、とどめとなったのは、あの少年に対する暴言だったのか、それは彼にはわからない。
だが、あの少年が再びこの村にきたときに、エルフ達がいったとある台詞以降、
全てのエルフ達がことごとく術の解放ができなくなったのもまた事実。
彼らとてわかっていたはず、なのに。
かつて、センチュリオンとなのりしものとともにいたものが、世界樹と必ずかかわりがある。
ということくらいは。
なのに、人間風情が、といって侮蔑し暴言を吐きまくった結果なので、自業自得、としかいいようがない。
盛大なるため息をつきながらも、リフィルに促され、プラムハルトも外にでる。
いまだに瓦礫は降り注いでいる。
それはまるで自分達エルフが何もしなかった、しようとしなかったことを責めているように、
彼が感じてしまっているのは…まあ、あるいみ正しいのかもしれない。

海は荒れ、港の船をも容易に呑みこんでゆく。
そこにある町すらも。
山や森は強風にあてられ、枝などをひきちぎってゆく。
それらはあるいみで嵐のようなもの。
しばしの間、塔が完全に崩れ落ちるその瞬間まで、世界中にその轟音は鳴り響いてゆく――

「こりゃ、天から塔がふってきたって感じだな。
  こりゃ、おそらくあちこちに被害がでてるぜ」
エルフをすっかり避難させ、今はからっぽになっている村でゼロスがため息をつく。
「あれは何だ!?」
と。
突然、空の色が、先ほどまでみえていた別大陸のそれからうってかわる。
赤身を帯びた紫がかった何か。
それが空をほとんど覆い尽くしている。
「あれが、デリス・カーラーンだ」
クラトスも結局、まだ完全ではないものの、ロイド達とともに村にとでむき、人々の避難を手伝っていた。
ユアンにしても然り。
あの場、オリジンの元に残っているのは、エミルと、そして記憶体のミトス、そして幼き精霊達のみ。
「まさか!あんなところに星が存在できるわけがないわ!」
クラトスの言葉に、リフィルが即座に意義を唱えるが。
「その不可能を可能にするのがエターナルソードだ」
淡々としたユアンがそんなリフィルに説明をする。
「救いの塔から発せられていた障壁によって隠されていたが、四千年の間、常にあの場所に存在していたのだ」
ユアンがそう説明すると、
「そうです」
ふいに、別方向から第三者の声がする。
「タバサ?どうしてここに?」
その姿をみてジーニアスが驚きの声をあげるが。
「ミトスは今、大いなる実りをもって、デリスカーラーンごとこの大地を去ろうとしています」
「タバサさん!」
「元気になったのね?」
何かがおかしい。
リフィルが何か違和感を感じつつも声をかける。
何かがおかしい。
自分達の知っているタバサ、ではない。
それが何か、とはリフィルにもわからないが。
そこになぜか硬直しているユアンに気づくこともなく。
そんなユアンに気づいた、のであろうかるく優しくほほ笑みかえすタバサの姿。
「ええ」
「?なんか、タバサ、前と喋り方がちがってないか?」
ロイドがそんな感想をもらすが。
「まあ、タバサは自動人形だったからね。再起動の関係でこうなったんじゃ?」
しいなが至極もっともらしい理由を何やら述べているが。
ユアンの口元が小さく、とある名を呟いたのにきづいたのはこの場ではゼロスのみ。
クラトスはまだ完全なる調子でないがゆえ、その体の機能のほとんどを停止させている状態なので、
聴力も今は人のそれとほぼ同じ。
ゆえにそのユアンの言葉がもつ意味、言葉をつむいだこと自体すら気づいていない。
「ふむ。アルタステ殿にプログラムを組み直してもらったのか?」
リーガルがそういうが、タバサはほほ笑んだまま。
何だろう、どこかできいたことのあるような話しかたなんだけど。
ジーニアスがふとそれに気付き、そのことを考えようとしはじめたその矢先、
「…ちょっとまってよ。デリス・カーラーンってのまはマナの塊なんだろう?
  でもって、大いなる実りは大樹の種子なんだよね?どっちももってかれちまったら世界はどうなるのさ」
しいなが、はっときづき、その疑問を口にする。
「マナ不足で滅びます。確実に」
冷静、ともいえるリフィルの指摘。
そう、本来ならばそうなる、はずである。
リフィル達は世界にあらたに施された新たな理をしらない。
それゆえにその認識は当たり前。
当然、この場にいる誰もそのことを知るはずもない。
「何だって!?」
「世界統合どころの騒ぎじゃないよ!」
その台詞にロイドとジーニアスが思わず叫ぶが。
「何いってんだ、お前ら、大事な仲間が浚われたんだぞ!おい、どうすんだよ」
「決まってる。ミトスをおいかけるんだ!」
ゼロスの言葉にロイドがすぐさま反応する。
そうだ。
コレットが浚われているんだった。
一瞬でも、救いの塔が崩壊したこの惨状にてそのことを失念していた自分に気づき、
またまた一瞬、自己嫌悪に捕われているロイド。
目先のことのにみ囚われて、肝心なことが視えていない、みようとしていない。
かつてエミルにいわれたそのことを、いまだにロイドはなおせてはいない。
「しかし、救いの塔は崩壊したのだぞ?」
険しい表情をうかべたまま、リーガルが空を見上げる。
あのもう一つの大陸の様子がみえいた光景と、この何か巨大なものが覆い尽くしている光景。
あるいみでどっちもどっち、といえるかもしれないが。
人々の不安はこちらのほうが甚大、であろう。
何しろ、救いの象徴、として産まれたときから信じていた塔が失われてしまった、のだから。
「エターナルソードだ」
クラトスの言葉に、
「確かに、オリジンと契約を交わせば、エターナルソードは必ず答えるであろうが。
  その時間と空間を操る強力なる力で何とかなるはずだが」
ユアンがうなづきつつも、そして、
「しかし、アルタステはまだ起き上がれまい。契約の指輪は誰がつくるのだ?」
デリス・カーラーンにいるドワーフ達からはすでにその技術力は失われている。
だからこそ、ミトスはクラトスにアルタステの捜索を命令、した。
「オヤジだ!」
「ダイクおじさん!?」
「ああ、おやじにかけるしかない」
ドワーフ、ときき、おもいつくのは、ロイドにとって一人しかいない。
だからこそ、ロイドが叫び、ジーニアスが首をかしげる。
「…その前に、今一度、精霊と話しあう必要があるとおもわれます。
  というか、ロイドさん、私たちはまだオリジンと契約すらしていません」
至極もっともなプレセアの突っ込み。
たしかにそのとおり。
ロイド達は精霊との会話の最中、塔が崩れたのをきっかけとしてあの場から駆けだした。
ゆえに契約も何もしていない。
「…あら?そういえば、あの場にエミルと、そしてあの子を残してきてるのね。ここにはいないわ」
森にも降り注いだ瓦礫。
だから村が心配になり、あの場から真っ先に駆けだしたのはほかならぬロイド。
そんなロイドにつづいて、彼らもまた後につづいたが、
どうやらエミル達は後からついてはきていないっぽいらしい。
この場にいないのが何よりの証拠。

「結局、僕の本体は、姉様を失ったときに、あきらめてしまって。
  そこからたぶん、負に呑みこまれていっちゃったんだとおもうんだよね」
「然り。そうであろうな」
オリジンの今の姿は、石碑に寄りかかっている状態。
いまだに空をみあげつつ、ため息まじりにそんなことをいうミトスに同意を示しているオリジン。
「負って、あるいみで面倒だよね。各自で処理できなければ具現化しちゃうし」
それは過去にもあったこと。
いわば負の連鎖反応といってもよい。
「だから、新たにゲーテを産んだんだし。ね。ゲーテ」
「うん。がんばる!」
エミルがそんなことをいいつつも、横にいるオッドアイの子供に話しをふれば、
げんきよく手をあげて答える、ゲーテ、と呼ばれた幼子一人。
「でも、何だか違和感があるなぁ」
そんな彼らの様子をみつつもおもわずつぶやく。
「?何が?」
ミトスの様子にエミルがちょこん、とかるく首をかしげるが。
「だって、その姿のときはエミルって呼んでといったからそうしてるけど。
  口調も何もかもラタトスクのそれとは違うんだもん」
地上にでるにあたり、そのように呼べといわれたのでそうしているが。
口調も何もかも、しかも雰囲気すら異なっていることに驚きはした。
まあ、ミトスも自分自身を使い分けていたので何ともいえない気持ちになったのだが。
「…それは我らも同感ですな」
しみじみというミトスの台詞に、なぜか心底同意したとばかりにいっているオリジン。
「…別に、口調なんてどうとでもいいだろうに」
いつもの温和な口調ではなく、本来の少し威厳のある深みのある口調にておもわずつぶやくラタトスク。
どうも精霊達はこの口調とあの口調、違和感がある、と口ぐちにいうが。
たしかに、この世界においては地上にでていなかったので慣れていないのもあるのだろうが。
しかし皆が皆、同じようにいわなくてもいい、とおもうラタトスクの気持ちはまあわからなくもない。
もっとも、その気持ちは精霊達とて同じなのだが。
なぜにそこまでかえる必要が?という思いは全ての精霊達の間で共通している思い、なのだから。
「それより、結局、あのロイドっていう人たち、オリジンとの契約より優先して、はしっていっちゃったね」
一瞬、その緑の瞳が深紅にそまるが、すぐさま緑の瞳にもどり、温和な口調でそんなことをいうエミル。
結局、ロイド達が優先したのは、オリジンとの会話よりも、被害の把握をすること。
エミルがすっと手をかざしたさきに浮かぶは、そこにある霧のスクリーンにおいて、
ロイド達がエルフの民を逃がしている光景。
「お前もいきたかったのではないのか?ミトス」
「ううん。今の僕は精神生命体でしかないし。
  それに……僕らはいまだにエルフ達からは追放処分をうけている身、だからね」
ラタトスクがミトスに加護を授けたことにより、手のひらをかえし、里に迎え入れようとしたかつてのエルフ達。
世界を存続させるために世界を二つわけるという決定をしたときに、
世界の形を変えるなどもってのほか、といってこれまた手のひらをかえし非難したエルフ達。
このままでは大地のほとんどが死滅する。
そういってもエルフ達は文句ばかりで聞きいれようはしなかった。
あげくは、永久追放とかいいだし、さらには自分達はその決定には不干渉、とまでいってきた。
過去のエルフも、今のエルフも、この光景を見ている限り、かわらない、とおもう。
人の心は変えられる。
そうおもい頑張ってきていたかつてのミトス自身。
そして、その思いは最愛の姉を人に裏切られ殺されたことにより崩壊してしまった、のだろう。
それが容易に予測がつくから、ミトスからしてみれば何ともいえない。
「それより、どうなさるおつもりですか?ラタトスク様」
そんなエルフのありようは、オリジンもしっている。
エルフ達のあのときの態度をみて、改めて失望したといってもよい。
改めてエミルに向きなおり、といかけるそんなオリジンの問いかけにたいし、
「ひとまず、デリス・カーラーン内部の人工的な品物は全てマナへと還す。
  どちらにしろ本来の軌道にもどしたとき、ノルンに影響をおよぼしかねないからな。
  まあ、あれを残したままであったのは、たしかに失敗だったかもしれぬな。
  ……面倒だからほうっておいたのだが。
  おそらく、あれの存在もあってこそ、あのミトスがこのような世界にしたのであろうが……」
あの中には疑似的なマナを調停する装置も存在している。
かつて、彗星として移動しているときに、いちいちセンチュリオン達に命じて、
調停させるのも狭い空間でもあるので彼らの負担を少しでも軽くするために、
と創っていた装置が、まさかこのような利用の仕方をされるとは。
おそらく、あれをミトスはデリス・カーラーンへ力を解放しにいったときにみつけた、のであろう。
だからこそ、このような世界を思いついたのだろう、と用意に予測ができる。
本来ならば精霊達だけの力においてマナを循環させようとした、のであろうが。
あの装置がいわば世界の後押しをしてしまった可能性は否めない。
「それで、ミトス。お前はどうするつもりなのだ?」
「え?僕?僕は……」


「契約の資格をもつものよ、誓いをたてよ」
トレントの森の奥深く。
先ほどよりも濃くなった霧の奥。
小さな蝶に導かれるようにしてやってきたここ、石碑の間ともいえる空間。
なぜかロイド達が戻った時には、先ほどの小さな子供二人の姿はなく。
かわりに、ミトス…先ほどよりもしっかりとした輪郭の、どうみても実体化しているっぽいミトスと。
そして、すっぽり顔を覆い尽くしていたフードをはずしているエミルの姿。
実際は、姿を消しているだけで、精霊二柱はそこにいる、のだが。
それは人の目には、無機生命体の目にも視界にはいらないだけのこと。
精霊体、というものは基本的にそのようなもの。
通常、世界と繋がりがない以上、その目にうつすことはできはしない。
ロイド達が改めてこの場にもどってきて、しいながもう一度とばかりに、オリジンに契約をもちかける。
そんなしいなにたいし、オリジンが盛大にため息をついたのち、その言葉を紡ぎだす。
「オリジン?それじゃあ」
しいなの表情がぱっとあかるくなる。
「勘違いをするな。人を信じてみようとおもったわけではない。
  が、人がしでかした後始末は人の手で、という意見に従うまで。
  我との契約は、世界が統合されるそのときまで、と心得よ」
「ああ。それでかまわない、な、みんな」
振り向きざまにしいなが全員に確認をもとめるが。
意見に従うとかいうが、その意見をだしたのが誰なのか、という突っ込みをはげしくしたいが。
しかしここで今それをきき、やはり契約はしたくない、といわれても困る。
ゆえに聞きたい衝動を何とかこらえ、うなづくリフィル。
それぞれがこくり、とうなづくのをみて、あらためてオリジンに向き直るしいなの姿。
「あれとはお前達であらためて契約を引き直すがよい」
「あ、ああ。…あれ?試練とかはないのかい?」
オリジンの言葉におもわずしいなが聞き返す。
精霊との契約にはかならず試練がつきもの。
もっとも、やく一体ほど、それがなかった精霊もいたにしろ。
「すでにお前達には試練がかけられている。ゆえにわざわざ試す必要もあるまい」
「…エミル、あんたまた何かしたの?あの間に?」
淡々というオリジンの言葉に、おもわずあきれたようにエミルをみていいはなつ。
「え?また、とは?」
「…以前のイフリートのとこのことを忘れたとはいわせないよ!
  あんた、なんかイフリートに延々と何やら説教もどきをしてたじゃないかい。
  あのとき、イフリートは試練を施す力ものこってないとか何とかいってたし」
あのときのことは覚えている。
これ以上具現化することもきついとか何とかあの精霊は、しかも火の大精霊がいっていた。
ゆえにしいなが思わず叫ぶのはまあ、間違ってはいない。
そう、普通の、人の感覚からしてみれば。
「……何をなされてるんですか、何を」
しいなの台詞に思わず、ため息をふくめて、エミルに…否、ラタトスクにいっているオリジン。
「え?ただ、ちょこっとお話ししただけだよ?ふふ」
にっこり笑みを含めていいはなつその光景は、何ともいえないもの。
にこにこと笑いながらいっているので何ともいえない気持ちになってしまう。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
おもわずその笑みをみて、無言になっているしいなたち。
そしてまた、
「……イフリートのやつも気のどくに。……次にあったときにはねぎらうか」
ため息とともに何やらそんなことをいっているオリジン。
おそらくは、あの説教をうけたのであろうことは予測がつく。
懇切丁寧に説教をうけたときの苦痛は・・・オリジンにも覚えがあるがゆえに何ともいえない気持ちになってしまう。
「…というか、私としてはエミルさんがいきなり現れたこと。
  それに精霊と親しそうなことに突っ込むべきだとおもうのですが」
そんな中、一人、プレセアがあるいみ冷静ともいえる突っ込みをしてくるが。
たしかに、突っ込むところは多々とある。
どうしてエミルがここにいる、とか、精霊とおもわれし子供達といたとか、
さらには、かこのミトスの記憶とともにいるのか、とか。
さらにいえば精霊王オリジンと親しそうなのはいったいどういうことなのか、等。
数をあげればきりがない。
「ま、エミル君だし」
そもそも、ゼロスは以前から、エミルは精霊ラタトスクの関係者だ、とおもっていたのでまったく違和感はない。
「……まさか、とはおもっていたけど。大樹の小枝なんてものをもっていたのだもの。
  …そうね。精霊と繋がりがあってもおかしくはないわね。エミル、あなた、いったい何なの?」
しかも、精霊達の神殿では隠されていた通路すらもエミルは知っていた。
「え?僕は僕ですよ。前にもいいましたよね?」
リフィルの問いかけに、すこしばかり首を横にかしげたのちにさらり、といいきるエミル。
「それは、答えになってないだろ」
「なら、ロイドは、自分が何か、といわれて答えられるの?」
「そりゃ、俺は俺…」
「ほら、同じでしょ?」
『違うとおもう(のだが)(います)』
なぜかものの見事にこの場にいる精霊達以外の声が一致する。
「とりあえず。オリジン、あとはたのんだよ?」
「はい」
「って、エミル、どこいくのさ?」
ふと、エミルがその場から立ち去ろうとするのをみて、おもわず声をかけているしいな。
「僕はまだちょっとやることがあるからね」
この奥のあの場があらたなる大樹の空間となりえる。
もともと、ここには解放点をもってきていたのでさほど変更するのに問題はない。
あの真下にある空間などをこちらに移動する必要性があるにしろ。
いいつつも、エミルがすっと石碑の後ろに茂っている木々の間にゆくと、
淡い光とともに、そこにぽっかりとした道のようなものが出現する。
「あ。エミル。僕の後始末は僕自身でつけるから」
「うん、まあ、そのほうがいい、とおもうしね。じゃ」
そのまま、その現れた道にとエミルがはいるとともに、
道はまるで始めからそこに道などなかったかのように一瞬のうちにとかききえる。
「…ここにも、隠された通路…だと?」
リフィルがおもわずそんなことをつぶやくが。
精霊の神殿といい、ここ、トレントの森の隠し通路といい。
エミルにはやはり何かある、とおもう。
「…我ら精霊との契約、それは世界統合そのときまで、とこころえよ」
それだけいいつつ、オリジンは光りとともにかききえる。
しいなの手にダイヤモンドの指輪、のみをのこし。
しばし、そんな消えたオリジンとエミルが消えた先をみていたが、
「シルヴァラントへいこう」
ここでどうこうしていてもどうにもならない。
少なくとも、オリジンとの契約は果たせた、はず。
とにかくエターナルなんとかというのを手にいれなければどうしようもない。
だからこそのロイドの言葉。
「まて、私もいかせてもらおう」
「ああ、わかった」
この場にはユアンはいない。
あの場にタバサ一人をのこしていくのは心配、といったジーニアスの言葉をうけ、
ならば自分がのこる、といってこの場に共にきたのはクラトスのみ。
彼らはしらない。
どうしてユアンが一人、そこに残る、と自ら提案したのか、その意味を。
クラトスの申し出をうけて、ロイドはうなづく。
いろいろと考えたいことは山とある。
「ところで、あなたはどうするつもりなのかしら?
  あなた、あの書物の中にいた、記憶だというミトス、なのよね?」
「え、はい。えっと、たしかリフィルさん、でしたよね?
  今のこの僕のこの姿は根性で実体をたもっているだけで、基本は精神体でしかありませんけど。
  自分の本体がしでかしている不始末は自分の手できちんと尻ぬぐいをしないといけないとおもいまして」
「尻ぬぐい…ですか?」
どうも姿が同じなので違和感がありまくる。
旅をしていたときのミトスとはまた異なり、こちらはどこか大人しいような、
どこか丁寧な口調のような気がするのはおそらく気のせいではないのであろう。
だからこそ戸惑い気味にプレセアがつぶやくが。
ロイドからしてみれば、コレットを浚った当事者とまったく同じであるので何ともいえない気持ちになる。
理屈ではわかる。
この目の前のミトスはあのミトスとは違う?ということが。
だが、口を開けば、話しかければどうしても彼にあたってしまいそうで、あえて話題をふっていない。
「まあ、まちがいなく僕の本体の方、ですか?負に侵されるんだとおもうんですよね。
  でないと、聞いたところによれば、人をエクスフィア製造につかってたとか何とか。
  …以前、僕らが一番嫌悪していた方法で……」
いいつつ顔をしかめるミトス。
そう、嫌悪していた。
「しかし。我らのときとおなじく。記憶体でしかないお前が本体に接触すれば。
  お前のほうが本体に呑みこまれる、それは必然ではないか?
  げんに我らの過去の記憶体も我らがそこにいたことにより内部にもどってきている」
クラトスのそのものいいに、
「だってそういう約束だったでしょ?クラトス。
  魂をわけることには負担がかかるから、だから役目がおわれば元の魂にもどす、という。
  そもそも、あれを僕らが封印する、と提案したのは、あれ以上、精霊達に負担をかけたくなかったわけで」
しかも人が原因で。
「まあ、僕がもし、今の僕に呑みこまれ、僕まで狂っちゃったら。
  とめてくれるんでしょ?クラトス?でも何でクラトス、僕をとめてくれなかったのさ?
  前に約束してたよね?もしも僕が間違った道にふみいろうとしたら腕づくでもとめてって」
「それは……」
「どうせクラトスのことだから。姉様が殺された原因は人だったっていうし。
  裏切ったのが人なら、自分も人だから、自分は協力する義務があるとかそんな感じかな?
  変なところでクラトスって責任感あるからね」
いいよどむクラトスにたいし、ぴしゃり、とあるいみで真実をいいあてているミトス。
「あなたは…マーテルが、あなたの姉が殺されたことをしってるの?」
そんな二人の会話にリフィルがわってはいり、しばし何やら考え込むようなそぶりをみせるが。
そもそも、約束などというのを誰としたのか、とか聞きたいことは山とある。
「え?あ、うん。エミルに教えてもらったし」
ちなみに、大いなる実りが記憶していたという当時の記憶光景つきで。
「その、エミルだが……」
クラトスが問いかけようとするが、
「ともかく、いそご?前にもらっていたリングはもうないんでしょ?
  急がないと、引力圏から彗星が移動してしまったらもうどうしようもないし」
そういいつつ、
「えっと、そのダイクさんって人ってドワーフなの?」
ロイドに問いかけるが、ロイドは何やら苦虫をつぶした表情のまま。
「あ、うん。ロイドを育ててくれた人なんだ」
「そうなんだ」
そんなロイドにかわり、ジーニアスが答える。
ジーニアスからしてみれば、いくら過去の記憶の存在とはいえロイドと仲良くしてほしい。
が、今のロイドにはおそらくいっても無理だろうな、という思いもある。
「おまえさんは、ロイド君の態度に何ともおもわないのか?」
そんなミトスにゼロスが問いかけるが。
「しかたないよ。あっちも僕なんだし。それに、他人がしたこととかですら僕らのせいにされて、
  人から虐げられるのには、慣れてるから」
仕方ない。
その言葉にジーニアスもリフィルも何ともいえない気持ちになってしまう。
それは、彼らが常におもっていたこと。
「あまりに人が僕らハーフエルフをないがしろにし、さらには実験体にするから、
  マクスウェルに頼んで、彼らを安全な場所に避難させてもらったんだし」
慣れている、それに実験体にされていた。
その台詞にロイドは何ともいえない気持ちになってしまう。
このミトスにあたってもしかたがない、とわかっているのに、感情がおいつかない。
「それより、急ごう。それとも、僕がいたらやっぱり迷惑かな?
  なら僕は僕で一人で動くしかないけど。クラトス、もしものときには僕を殺してでもとめてね?」
「ミトス…おまえは…お前が今のミトスに組み込まれでもしたら、
  今のミトスはさらに力をつける、とわかっていっているのか?」
「でも、自分のしたことは自分で。これはいつも姉様や、それにクラトスがいってたことだよ?
  自分の後始末で人に迷惑をかけてはいけないって」
「あなた一人で動いて何ができるのかしら?」
「今の僕は精神体でしかないから、根性で実体化をたもってるだけだけど。
  とりあえずは、エターナルソードにいって、彗星まで移動、かな?
  問題は、たぶん僕のことだから罠とかはってるとおもうんだよね」
可能性とすれば、ラタトスクより授かったかの加護を分けてつかえばそれこそ完全なる罠となる。
「もしも、あなたが罠をかけるとしたら、どんな罠かしら?」
「たとえば、そうだね。僕たち以外が装置とかあったとすれば触れたら、どこかにおっこちるようにみせかけて、
  どこぞにまとめて収容するような罠とか。いちばんきくのはその人の心にすくう負の感情。
  その源や不安、それをあえて表にだして当人をまどわせたり、とかかな?
  これってけっこう、前の軍人とかにはきいたし」
「…お前はそういえば、闇の術の幻惑などにもたけていたな……」
クラトスのどこか疲れたような口調。
「私からすれば、彼をつれてゆくことに賛成よ。
  そもそも、彼一人が行動していてもしもあのミトスに組み込まれでもしたら。
  それこそ今よりも力をつけるかもしれない、と今クラトスがいっていたし。
  それに、乗り込むにしても過去とはいえ当人の思考なんですもの。罠の裏をかくこともたやすいはずよ」
リフィルの台詞に。
「ね。ロイド、いいでしょ?」
ジーニアスがいまだにそっぽをむいているロイドに問いかける。
「たしかに。当人の記憶とはいえいるのといないのとでは罠の突破の仕様もかわってこよう。
  以前のようにはならないはずだ」
以前、その言葉にはっとする。
あのとき、もしも彼らをゼロスが助けていなかったら?
ゼロスもともない、敵の陣地にそのままつっぱしっていっていたとすれば、
まちがいなく全員が自分のせいで死んでいた。
そのことを今さらながらに痛感し、ロイドは何ともいえない気持ちになってしまう。
「少しでも可能性があるほうにかけたほうがいいもの」
「うむ」
「たしかに、合理的、です」
リフィルのことばにリーガルがうなづき、プレセアがぽつり、という。
「でも、あんたが以前に精霊達を裏切っていた、というので精霊達は気分を害さないかねぇ?」
しいなの台詞に、
「そのあたりは、よくわからないけど。けど、エミルがいうには、もう連絡つけたとかいってたけど?」
事実、ラタトスクより精霊達には、過去のミトスを使用する、という伝達はいっている。
まだ、堕ちていないかつてのミトス。
それは精霊達にとって好ましい姿でもあった存在。
「「「エミルが連絡つけたって……」」」
おもわず異口同音でつぶやくリフィル達の台詞にミトスはただほほ笑むのみ。
「あれ?でも、ミトスがいるなら、わざわざ契約の指輪は必要ないんじゃあ……」
たしかに、今現在契約をしているのはミトスのはず。
「エターナルソードはたしかにまだ僕との繋がりをもっているはずだけど。
  でも僕とオリジンの契約は解除されたみたいだし。
  いってみないとわからないけど、お願いをきいてもらえるかどうかまではわからないよ?
  まあ、彗星に移動させてほしい、くらいのお願いくらいならばかなえてくれるとはおもうけど」
「なら、このまま彗星にのりこもう、コレットを助けださないと」
そんなロイドの台詞に、
「ダイク殿のところへいきなさい。今のお前ではあの剣に触れることもできないのだから」
ため息まじりにいうクラトスに、
「で、いったとしてどうするつもりなのさ?ロイド君?
  たしかに、コレットちゃんを助けることはできるかもしれないけど。でも、それからどうするのさ?」
「どうするって、コレットをたすけて、それから…」
「それから?エターナルソードなしに、世界の統合、それに大樹を芽吹かせることができるとおもって?」
「…う」
ゼロスとリフィルに交互にいわれ、ロイドはおもわずだまりこむ。
そう、このまま彗星に乗り込んだとして、たしかにコレットは助けられるかもしれない。
けど、そのあとは?
その後のことをまったく考えていなかった。
「ロイド、あなたには毎回いうようだけど、もうすこし物事をきちんと考えてから物事をいいなさい。
  あなたの悪いくせよ?おもったらそのまま突き進むのは。
  それがいいときもあるけど、時にはそれが悲劇をうむことを忘れないで」
「……はい、先生」
突き進んでいままでまともであったことはなかった。
イセリアの悲劇にしても、何においても。
だからこそロイドはうなだれるしかない。

しばし、彼らによる今後の予定がこの場において話しあわれてゆく……


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あとがきもどき:
薫:ようやく記憶ミトスの合流です。あれ?ユアンはどうして?とおもわれたひとは、
  おそらく、展開がよめるかとvさて、…まあ、とりあえず別話をば…


「だって俺、さみしくて我慢できないよ」
六、七歳くらいの男の子の声がする。
体格のいい金髪の男性にむかって必至の形相で何かをうったえているのがみてとれる。
「父ちゃん、いつかえってくるの?ずっといいこにしてたらかえってくるなんて嘘じゃないか!
  牧場につれていかれた人はもうもどってこないって、近所のおばちゃんがいってたの、俺きいちゃったもん!
  ほんとなの!?ドア様!」
ドアさまって、さっきの店できいたような…
ロイド達は足をとめ成り行きを見守った。
男の子が泣きだすと、ドアの横にいた少女が優しく髪をなで、
「元気をだして?」
「そうだ。約束したろう?私が必ず牧場につれいていかれた皆をたすける、と」
「大丈夫。お父様はこの街みんなの味方だもん。私のお母様は病気でなくなってしまったけど。
  あなたのお父様はまだいきているはずだからきっとかえってくる」
「…ほんと?」
男の子は涙にぬれた顔をあげる。
「本当だとも。皆ディザイアンを倒そうと勇気をだして戦って…牧場につれていかれてしまった。
  だが、必ず救出するからもう少しまっていておくれ」
わかった、と男の子はうなづきそのままはしってゆく。
「さ。いこうか。キリア」
「はい。お父様」
二人はロイド達にはきづかずにそのまま連れたって歩み去る。
「なあ、ドアって誰だっけ?」
「ええ?!ロイド。もうわすれちゃったの?」
さっき聞いたばかりの名だ、というのにジーニアスはあきれざるをえない。
「ここの総督だよ。さっきショコラって子がいってたじゃないか」
「ど、度忘れしだたけじゃんか。ドアとその娘、だな、うん」
「中のよさそうな親子だったね」
コレットがそうしうと、
「あんたら旅のひとかね?」
散歩をしていたであろう街のひとらしき人物が声をかけてくる。
「え?」
「イヤ。ドア総督のことを離しているのがきこえたのでな」
「ええ。あのかたはディザイアンと戦っているのね?」
リフィルの問いかけに、
「そうともさ。義勇兵をつのり、にっくきディザイアンに対抗しておられる。
  奥様を病でなくされてからも男で一つでキリアちゃんを立派にそだて…まったくすばらしいおかたですわい」
「義勇兵だなんて。この街のひとは皆勇気があるんだね」
ジーニアスが心底感心したようにいってくる。
ヒト、など他人がどうなってもかまわないような人種だ、というのに。
たやすく他者を見捨てるようなヒトが義勇兵などといったものをつくっているのが信じられない。
「当然じゃよ。わしらはドア様がいるかぎりディザイアンには決して屈しない。
  たとえ牧場につれていかれてもきっとドア様がたすけてくださる。
  そう信じて戦っているのじゃ。怖がってなどいられるか」
老人はかっかと笑い、そのまま残橋のほうへとあるいてゆく
「ディザイアンには決して屈しない…か」
もしも、ドア総督みたいな人がイセリアにもいたならばちょっとは結果がちがっていたなかな。
そんなことをおもい、ぽつり、とつぶやいているロイド。
「とりあえず教会についたわね」
いつのまにかどうやら目的地である教会についたらしい。
そのまま彼ら一行は教会の中へ、
「み、神子様!?神子様ではありませんか!」
中へはいるとコレットの姿をみて一人の神官らしき人物がかけよってくる。
「マーチ祭司。今は祭司長になられたのですね」
コレットがその服装をみてほほえむ。
「知り合いか?」
「うん。マーチ様が大聖堂で修業していらしたときにお会いしたことがあるの」
「へぇ」
このたびにでる前にもコレットには神子としての生活があったんだな、といまさらながらにきづいていたりする。
「聖地へつづく救いの塔の出現で、神子様のおいでをおまちしておりました。
  この地にのこるスピリチュアの伝説がきっと神子様のお役にたちましょう」
「たしか…スピリチュア様はここで最初の説法を行われたのですよね」
「そうです。当時の世界再生伝説は『再生の書』として時の王家に納められました」
「ええ。全ての封印である場所が記されている、ともいわれているわ。それがあれば封印さがしにこまらない。
  とおもってここにたちよったのだけども。みせてもらえるのかしら?」
「現在はドア総督のもとにございます」
「ありがとうございます。さっそく総督府へいってみますね」
コレットはお礼をいうと聖堂の入口近くにパルマツールズのショコラがいるのにきづき足をとめる。
彼女のほうもどうやらコレット達に気付いたらしい。
「お客さんじゃないですか。さっきはごめんなさいね。あわててとびだしちゃったから。ご挨拶もしないで」
「いや。そんなことはいいけど…ここで何をしてるんだ?」
ロイドはショコラの机の上にたくさんの書類やノートがおいてあるのをみて訪ねているが。
「私、ここで旅業のための案内の仕事をしているんです」
旅業、というのはマーテル教の教えの一つであり、
自分はここでツアーの予約をうけつけているのだ、と彼女の説明。
「さっきのディザイアンが追ってきたりはしないの?」
そんなコレットの心配そうな声にたいし、
「いやだ。お客さん。なにも知らないのね。ディザイアン達は一年間の規定殺害数をきめてるの。
  先月それをこえたから、年があけるまでは大丈夫ってわけ。
  それに、私たちにはドア総督がいるわ。あのかたは力をたくわえ
  間もなくディザイアンを倒してくださるでしょう
  マナの神子様も世界再生のために旅立たれたそうだし。
  あなたも神子様がすくってくださるまでがんばってね」
「は、はい。がんばります!」
「……神子っておもわれてないよ」
「嫌だわ。冗談を。あ、旅業をするならぜひともうちでうけつけてね!」
どうやらジーニアスのつぶやきを、冗談、ととらえたらしい。
さきほどの祭司長との会話をきいていればわかったであろうに、どうやら気づいてなかったらしい。
「とにかく。総督府にいってみましょう」
リフィルの促しに、誰も反対するものはいない。

総督府はパルマコスタの象徴、といわれているだけあって巨大で堅牢たる創りになっている。
この中にはそれぞれの部署、地上、海上、治安などといった各分野における安全対策部署があり、
それらを一括してとりしまっているのが総督という立場のもの。
入口は武装した番兵達によって護られていたが、ドアにあいたい、というと少しばかりの手続きののち、
あっさりと謁見は許可される。
さきほどロイド達が外でみたドア総督らしき人物とその娘だというキリア、
そしてドアの部下らしき人物がその部屋にいるのがみてとれる。
「ようこそ。旅の方。我々はマーテル様の教えのもと、旅人を歓迎します。
  旅するものにマーテル様の慈悲がありますよう。ところで旅のかた、あなたたちはどちらから?
  やはりマーテル様のために旅業を?」
「私たちはイセリアからきました。世界再生の旅をしているんです。こちらにいる神子コレットとともに」
ドアの言葉をうけて代表してリフィルが説明する。
「世界再生?」
「ここにいるコレットはマナの神子なんです。ほら、救いの塔もあらわれたでしょ?」
「…そなたが神子だと?」
「あ。一応そういうことになってるみたいです」
「!ドア総督!」
「うむ。神子様はつい先ほどここにおこしくださったばかりだ!この恥知らずな偽物め!」
「に、にせもの!?ちがうよ!」
ジーニアスが叫ぶが。
「ええい。うるさい!神子様の名をかたる不届きものめ!ニール!兵士をよべ!
  即刻とらえ教会に引き渡すのだ!いや、私が直々に処刑してくれる!」
「承知いたしました」
ニールと呼ばれた部下の呼び声に兵達が執務室にとなだれこんでくる。
と。
「あれ?なんだ」
「あれ?どうしたの?皆?」
騒ぎをきいて保安部からやってきているエミル達。
ちなみにウィルも気になったのかこの場にとやってきていたりする。
さすがに同じ総督府の建物の中で騒ぎがおこればわかるというもの。
「保安部長のウィルか。そのものたちはこともあろうに神子の名をかたる不届きものだ。そっこくとらえよ」
「え?このコレットが再生の神子ですけど?コレット、羽だして?」
「え?あ、うん。こう?」
ウィルの姿をみて指示をだす総督の台詞に、きょとん、と首をかしげコレットに話しかけるエミル。
いわれるままに意識をして羽を出現させる。
ぱたぱたぱた。
コレットの背中に桃色の輝く翼が出現する。
「ほう。これは…なるほど。天使の羽…か。神子は天使の子供、というからな」
それをみて感心した声をあげているウィルに、
「なっ!?」
その場にいる兵士達全てがそれをみて絶句して立ち止まっていたりする。
「この少女の背中にみえているものは、まぎれもなく天使の翼!あなた様が再生の神子。
  我らの御無礼をお許しください、神子様」
「あ、あの、どうか顔をあげてください。
  ええと。別にいいんです。皆にもよく神子じゃないみたいだっていわれてるし」
「…すると、再生の書をさきほど渡したあのものたちは偽物だった…というのか?」
茫然としたようにつぶやいているドア。
そんな中。
「皆ここで何してるの?」
首をかしげつつもロイド達に近づき、といかけているエミルに対し、
「もう。エミルにも説明したでしょう?教会に再生の書をみせてもらおうと立ち寄ったら、
  その書物がここのドア総督がもってるってきいて。ここにやってきたのよ」
「そうしたらいきなり偽物よばわりさ」
リフィルの説明につづきジーニアスが答える。
「再生の…神子…」
その呟きは兵士の誰がもらしたものか。
輝く翼はまぎれもなく、人あらざるものの証。
マナの神子たる証。
「再生の書?ああ、あのスピリチュアが残したという。ドア総督。再生の神子にそれを渡すのは我らの役目では?」
ウィルの鋭いまなざしに、
「なんということだ……。では、さきほどのものたちは……」
何やらそんなことをまだつぶやいているドア。
「先ほど、とは?」
「先ほど、神子を名乗る一行に旅の手助けになれば、とすでに再生の書を渡してしまったのだよ」
「な!何ですと!すぐに手配しなければ!そのものたちの特徴は!?」
総督の台詞に驚きあわていいつのるウィルであるが。
「ちょっとまった。あまりおおげさにしないほうがよくないか?
  そもそも総督が神子を勘違いしたのはともかくとして、街の人に混乱まねかないか?」
セネルの指摘は至極もっとも。
「そもそも、その偽物ってやつらそれを手にいれてどうするってんだ?
  たしか再生の書は封印の場所を記したといわれてるやつだろ?」
あのスピリチュア再生のとき、セネルも少しばかり関与してはいる。
あの水晶に記憶を保存する方法を教えたのもまたセネル。
もっとも遺跡でやり方を覚えたと勘違いされるような言い回しで。
「そんなのがあるんだ」
「…おまえ、もうちょい地上のことに興味もてよ……」
「あはは」
関係ないことはあまり気にしていないのがよくわかる。
おもわず素でつぶやくエミルにおもいっきりじと目でいっているセネルであるが。
「つまり、再生の書はここにはない、ということか?」
クラトスが腕をくみつつといかける。
「は。はい。神子様がこちらに向かった、という情報ははいっていたのです。ですからてっきり……」
火の封印解放は誰にでもあきらかであった。
異常なまでに降っていた雪…ここでも多少の雪はふっていた。
が、それがぴたり、とやんだのだから。
「馬鹿じゃないの?で、あっさりと偽物にだまされてわたしちゃったんだ」
ジーニアスがそんな総督を一蹴し。
「すご~い。偽物さんがいるなんて、なんだかわたし有名人になったみたい~」
「…あのなぁ。お前な。お前は今、世界中が注目する有名人なんだぞ?」
「え?そうなの?」
「お前が神子だろうがっ!…頼むから自覚をもってくれ……」
「え?でも神子がたくさんいたらそれだけ世界が平和にならないかな?可能性がふえていいよねぇ」
「そういう問題じゃないだろ!」
「…コレット。マナの神子の自覚もとうよ……」
何やらマンザイ?のようなものをくりひろげているコレットとロイドとジーニアス。
ちなみにいまだにコレットは羽をだしたまま。
無意識のうちにすこしばかり浮いていたりするのはお約束。
「偽物…ちょっとまって。もしかしてさっきのワインの一行…あれが偽物じゃないかしら?
  たしかあのうちの一人がこういってなかった?
  『ほいほいと家宝をくれるなんてドア総督ってちょろいですわ』って。
  家宝というのが再生の書ならばつじつまはあうわ。あの子達が急いでいたわけもね」
「何だと?すまん、えっと、あなたは…」
「リフィルよ。リフィル・セイジ。この子達の担任にして、今回神子の護衛についているわ」
「そのものたちの特徴をたのむ。神子の名をかたるものどもを無視するわけにはいかん。
  各村にも注意を促すべきであろう。
  そのようなことをするものがまた同じようなことをしでかさない。とは限らぬからな」
「ウィル。お前は海上保安部だろうが」
「お言葉ですが。総督。治安をまもるのに部署は関係ないかと。
  すぐさま地上保安部にも連絡をしたいとおもいます」
「……まかせる。ニール」
「は!では、ウィル殿」
「…あのものたちの特徴ならば私が覚えている。私が説明しよう」
腕をくみつつ様子をみていたクラトスが珍しく自分から立候補していたりするが。
クラトスからしてみても神子を名乗るもの、というものはきにかかる。
クルシスの関係者か、もしくはネレゲードか、はたまた最近、新しくできたというヴァンガードか。
見極める必要性がある、と感じての立候補。
「ふむ。それは助かる。きこうは?」
「クラトス・アウリオン。…傭兵だ。今は神子の護衛をしている」
そんな自己紹介のあと、手配書を作るにしても、
また事情を説明するために一度クラトスは部屋からニール達とともにでてゆくが。
コケッ。
「きゃぁぁ!」
「コレット!?」
何もないところでころんだあげく、なぜにごろごろところがるのだろう。
「!そ、そっちは!」
なぜかドアの顔色がわるいが。
コレットが転んだのは扉の入口付近。
なぜか転んだあげく、ごろごろと転がりその先にある地下へつづく階段へとむかっていっているのはこれいかに。
「…ドア総督。ですからこの老朽化しかけてる建物の改善したほうがいい、といっていたではないですか」
それをみて一人の兵士があきれたようにいってくる。
この建物、年月がたっているせいもあり、ちょっとした歪みが出現していたりする。
つまり…傍目からはよくわからないがすこしばかりかたむいているのである。
さらに詳しくいえばこの建物の土台となっている地面がすこしばかり地盤沈下をおこしているにすぎない。
理由は簡単。
この安定していない海沿いの街に地下道をつくりすぎ、地盤が不安定になっているがゆえ。
「羽をだしたままころがるなんて。器用だな。あのこ」
「…セネルっていったわね。そういう問題じゃないとおもうわ…はぁ……」
たしかに羽をだしっぱなしであったので階段?でも大丈夫、だとはおもうが。
「とにかく、コレットをおいかけようぜ」
「ま、まて!そっちは立ち入り禁止だ!」
ドアがあわてておしとどめる。
が、すでにおそし。
すでにコレットは地下につづく階段にすいこまれるようにおちていっており、
それをあわててロイド達が追いかけているのがめにとまる。
「…くっ!」
彼女をみられるわけにはいかない。
そしてまた、あそこにおいてある金塊も。
もうそろそろ定期報告の時期もあり、すぐにわたせるように用意しておいたのが仇になった。
金塊の山をみられてどういいわけするか、そのいいわけすらおもいつかない。
だが、今は彼女をみられてしまうことの懸念のほうがおおきい。
ゆえに。
ドアもあわててそんな彼らのあとを追うようにと地下室へとむかってゆく。

「ここは、地下室?」
「えへへ。ころんじゃった」
「コレット。大丈夫?怪我はない?」
「うん。羽だしてたせいか大丈夫だったよ?」
「どうでもいいけど、何で一番下までころげおちてるんだよ。お前は」
無事な姿をみて安心するものの、その姿をみて逆にあきれてしまう。
「怪我はないようね。まったく…」
リフィルもぱたぱたとコレットの体をたしかめほっとしたように問いかける。
ここはどうやら地下室らしく、横のほうには牢やのようなものがみてとれる。
と。
「うわ~。すげ~。何でこんなところにこんなものがあるんだ?」
ふと、そこにある小さな机の上に大量の金塊がおかれているのをみてロイドがそんなことをいっているが。
「あれ?ここから何か……」
何かくるしそうな声がきこえる。
助けをもとめるような声。
牢屋の一つに布がかけてあり、声はどうやらそこかにきこえてきている。
「何だろ?」
いってコレットがその布にと手をかける。
と。
「よせ!」
ドアが制止の言葉をかけるのと、コレットがその布を取り去るのとほぼ同時。
「うわ!何!?この化け物!?」
それをみて思わずさけんでいるジーニアス。
「ないてる…このひと、苦しいって泣いてる。化け物なんていっちゃだめだよ」
牢やの中にいるヒト型のような異形のもの。
何だかどこかで似たようなものをみたような気がするのはロイドの錯覚か。
「…ヒト?…ま、まさか……マーブルさんと…同じ?」
ふとみればその左手に埋め込まれているエクスフィア。
脳裏によみがえる、マーブルの最後。
「まさか!まさかこの人…マーブルばあちゃんと同じようにディザイアン達に姿をかえられた人なのかよ!?」
ロイドもそれにきづいたらしく驚愕の声をあげていたりする。
「総督さん?これはどういうことなのか説明してくれよな?」
総督の後ろからやってきていたセネルが腕をくみつついってくる。
そこにつまれている金塊、そして牢屋の中にいるヒト。
「これは、私の妻、クララだ」
「クララ?でもあんたの奥さんは死んだと俺はきいてたが?」
ここと契約するときにセネルはそう聞かされている。
「我が妻クララの変わり果てた姿なのだ……」
愛しそうに、そしてつらそうにそっとその牢屋にふれつついってくるドア。
さすがに姿を見られたこともあり勘念したらしい。
しかも、神子の一行にいた子供達はヒトが姿をかえられている、というのをみたことがあるのか、
何やら聞いたことのあるような名前を叫んでいた。
マープル、それはこの街の道具屋の主人の名前。
「ま…まさか…」
「…そうだ。これが私の妻、クララの変わり果てた姿だ」
「…そんな!?やっぱりマーブルさんと同じだっていうの!?」
「だから亡くなったことにしていたのね」
リフィルも詳しくきいたわけではないが、すぐさまに納得する。
たしかにこれでは人前にだせば魔物として殺されてしまうであろう。
弟からきいた話しによれば、異形とかしても人の心はのこっていた、という。
最後の力で自らを自爆までさせて自分達をまもろうとしてくれた、と。
「先生。この人、たすけられないの?」
「わからないわ」
「人が異形と化すのはその人がもつマナが狂うからじゃないのか?マナを正せばよくないか?」
「そんな説は初めてきくよ」
「そうか?でもよくあることだけどな」
事実、よくある。
人為的に狂わされたり、もしくは負や瘴気に侵されたり、と。
「ん~。正すとしたら、レイズデットかなぁ?多分。先生、やってみてください」
わかってはいるが、すこし考えるようなそぶりをしリフィルにと提案しているエミル。
「え?」
「お願い!姉さん!もしこの人がマーブルさんと同じなら、ほうっておきたくない!」
「たのむよ!先生!ダメモとでもいいからさ!」
目の前で殺してしまったがゆえの二人の意見。
「わかったわ。だけどあまり期待はしないでちょうだい。この治癒がどこまできくのか……
  レイズテッド!!!!!!」
リフィルの詠唱とともに、あわい光りが異形のそれをつつみこんでゆく……

迷いのある術は決定打にとかけている。
が、ここには補佐するものが存在している。
『あるべき姿に』
ぽそり、とつぶやかれる言葉はエミルとセネルほぼ同時。
ラタトスクとメルネスの力はリフィルの術に上乗せされ、その威力をさらにたかめてゆく。
はたからみればリフィルの術によって治療がされているかのごとくに。
どさり。
鈍い音ともに、牢やの中に誰かが倒れ込むおと。
「な!クララ!?」
みればそこには異形とかしていた妻が本来の姿のまま倒れている姿がみてとれる。
「…馬鹿な。エクスフィギュアで異形とかしたものを元にもどすだと?!」
あわてて牢をあけてかけこんでゆくドアとは対照的に、
その場にたちすくみつつも、子供らしからぬ声をあげているキリアの姿。
それはキリアでありキリアの声にあらず。
「姉さん!やったね!ありがとう!」
「…本当にきくとは。びっくりだわ。でもこれで活路がみいだせたわ。
  …それより、あなた、今、何といったのかしら?」
気になるのはキリア、という少女のつぶやき。
リフィルの目ははてしなく鋭い。
「ああ。キリア。キリア。妻は…お母さんは無事だ。
   これでディザイアン達に協力する必要はなくなった。街の人達をこれ以上裏切らなくてすむ」
倒れている妻はたしかに意識はないが、それでも呼吸もしっかりとしており、安心する。
耳元で名をよぶと、なつかしき声でちいさく自分の名をよばれたのもその想いに拍車をかける。
「ドア。裏切る、というのか?所詮は愚かな劣悪種、ということか」
「キリ…」
ドシュ。
そのまま無言で牢屋の中にとはいりこみ、背後からその腕をドアにむけてひとつき。
「な!何をするんだ!?」
「キリ‥」
「ふん。所詮は愚かなる列悪種か。まあいい。元にもどったという劣悪種も研究するにはいい道具になるだろう」
異形とかしたものが元にもどるなど、今までありえないとされていた。
ならばこのものの生体組織をしらべればより高度のたかいエクスフィギアが生産できる可能性がある。
「お父さんでしょう!?どうしてこんな!」
「ふざけるな。私はディザイアンをすべる五聖刃の長、プロネーマ様の僕。
  五聖刃の一人であるマグニスの新たなる人間培養法を観察していただけ。
  すぐれたハーフエルフである私にこんな愚かな人間など、ない」
「愚かな父親、ですって…?」
「愚かではないか!すでに娘が殺されているのもしらず、そしてまた、元にもどす薬などもありはしない。
  といのうにありもしない可能性にすがっていたものなどはな。
  安心しろ。このクララという劣悪種は貴重なサンプルとして我らがもらいうけてやる」
「あなたはすこし眠ってなさい!」
どごがっ。
「「「あ」」」
一人悦にはいり向上?をのべているキリアの背後にいつのまにかリフィルがしのびより、
おもいっきり横からキックをかましていたりする。
ラチがあかない、と判断したのかリフィルのなぜかケリが炸裂する。
そのケリにけりだされ、キリアが牢の中からはじきだされ、
「しっかりして。リザレクション!!!!!!」
あらたに術を倒れているドアにとむけてはなつリフィルの姿。
「おいおい。あのヒト、かなり術の制度たかいな?…おまえ、何かやったか?」
「え~?ただユニセロフと戦わせてその覚悟のほどを見極めてもらっただけだよ?」
「ってやってるじゃないかっ!…そりゃ、治癒はきめわめてやがるな。…あとは器の問題か。
  いくら覚えていても器がすくなけりゃ扱えないしな」
「…前と少しくらいはかえたっていいじゃないか」
「…まあな。まったく同じっていうのもたしかに進歩ないよな」
そんな二人の呟きは、ロイド達にはわからない。
そもそも、彼らは彼らの原語ではなしているのだからして意味がわかるはずがない。

「私の父はディザイアンとの対決姿勢をみせていた。
  そのために先代の総督であった父はころされ、そして妻はみせしめとして悪魔の種子をうえつけられた。
  私が奴らと手をくめば妻をたすける薬をもらる。そういわれ私は奴らに協力してきた……」
「それじゃ、あんたはこの街の人達をうらぎっていたというのか!」
「しったことか!所詮、ディザイアンの支配からはのがられん。
  いくら一つの牧場を破壊しても別のところからあなたなディザイアンがやってこよう。
  私は、妻を家族をまもりたかっただけだ!」
「コレットが…神子が世界を再生してくれる!」
「…神子の再生の旅は絶対ではない。事実、前回も失敗しているではないか。
  それにこの街の連中は私のやり方に満足している。ただ、私がディザイアンの一員だ、と知らぬだけだ」
「総督っ!?」
さすがにクララのこともあり、あの騒ぎをききつけて地下室にとやってきている各部署の長たち。
どうやら偽神子の対応を話している最中、地下室のほうから騒ぎがきこえ全員でやってきたらしい。
そこでみたのは大量の金塊と、そして牢やの中で倒れている死んだはずのドアの妻、クララ。
そして…みたこともない異形のモノ。
リフィルにけられたことによりその擬態がとけて本来の姿をとりもどし、その場に気絶していたりする。
「黙れ!何がお前のやりかただ!あんたの奥さんはたしかにかわいそうだったかもしれない。
  でもな。あんたの言葉を信じたばかりに牧場におくられたばかりに、
  あんたの奥さんのようにされた人だっているかもしれないんだぞ!」
「だまれこぞう!自分だけが正義だとおもうな!お前に何がわかる!」
「ふざけろ!正義なんて言葉ちゃらちゃら口にするな!俺はその言葉が一番嫌いなんだ!
  奥さんを助けたかったなら総督の地位なんかすてて薬でも何でもさがせばよかったじゃないか!
  あんたは奥さん一人のためにすら地位をすてられないくずだ!」
「ロイド。やめて。皆が強いわけじゃないんだよ。だからもうやめてあげて」
「コレット……」
「奥さんは先生の力でたすかったんだよ?もうドアさんだってディザイアンのいいなりにならなくていい。
  そうでしょ?」
「…神子よ…私を許す…というのか?」
「いいえ。あなたを許すのは私達ではなくて街の人達。そしてマーテル様もあなたをお許しになるでしょう。
  私がこの世界を再生したい、とおもっているように、神様もきっとあなたの心の中にいて、
  そしてあなたの再生をまっているのだとおもいますよ?」
「…神子……私の中に……」
まったく、いつもいつもヒト、というものは。
どうしてたった一人のために周囲すら巻き込むのだろう。
それで世界がどうなろうと一人のために狂わそうとしてしまうその心。
すべて一人でかかえこみ、そして周囲をまきこみそして周囲もろとも自滅する。
そんな彼らの会話をあるいみ冷めた視線でみているエミル達。
そういった輩には同じようなものがちかよってくる。
その空気と雰囲気にひかれ。
しかし当事者達は気づかない。
否、きづくことができない。
そしてそれをうけいれることすら。
それをうけいれることでヒト、は新たなる道を次なる段階にむけることができる、というのに。
しかし気づくことで人はかわれる。
その想いはエミルにしろセネルにしろ同じこと。
だからこそヒトを完全に嫌いになれない。
たとえ人が世界にとって有害な存在になりえる、とわかっていても。
「…あんたの今後は、街の人達がきめることだ。…そこにいる人達と、な」
やってきているメンバーはドアが自分がディザイアンの仲間だ、と告白しているのを目の当たりにした。
今後をどうするかは、彼ら次第。


2013年11月11~日(月~)某日

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