まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやく、二か月半ふりのお休みの本日(5日)
さてさて、二か月半やすんでいない間の代休をとらせる、とはいってますけど、
いつまでつづきますやらね?
とりあえず、木曜日が代休扱いお休み、になったのでこれが進めはいいなぁ……
あとがきに別話16(バルマコスタ編突入)

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内部に入り込んでいた様々な負の思念。
それらはすべて、魔物に転換、という形で浄化、もしくは転生させた。
内部にのこりしは、種子を護ろう、とするマーテルの意思のみ。
もっとも、ミトスの様子を見ている以上、自分から行動を起こすであろう。
その後、また内部にもどるか、それとも止めようと行動するか。
おそらくは後者。
ならば内部の力を全て抜き出してしまえばいい。
ほんのすこしの普通の樹木、としての力のみを残したままで。
精霊石達にやどりし微精霊達も全て移動させおわった。
新たな界、精霊界に。
海と、そして魔物たちを通じ、世界に新たな理となる物質を行き渡らせる行為も順調。
位相軸の統合とともに、その理は一気に実行されるようになっている。
それゆえに地上のマナは完全に認識されなくなるであろうがそれはそれ。
しばらくは薄いマナが感じられるであろうが、時とともにマナそのものが感じられなくなるはずである。
あとは人に利用されないように、精霊達がうまくやればいい、ただそれだけのこと。
人は、目の前にある現物に目をうばわれ、精霊達のことを失念してゆくであろう。
それならそれでかまわない。
すくなくとも、今のように精霊達を利用しよう、という悪意ある行動がなくなるのだからして。
その象徴としてかつての種子を利用する、ただそれだけのこと。

光と闇の協奏曲 ~マーテルとミトスとそして……~

大いなる実りの中で、まどろみつつも、周囲の状況がここ最近手にとるように理解できた。
それはいまだかつてなかったこと。
自らのマナが強制的に別の器に移し替えられようとしている。
あのときも、あのときも。
そして、今も。
もう、とめなくては。
これ以上、間違ったことを弟が起こすまえに。
おそらくは種子の力、なのだろう。
同じく種子にやどりし幾多の少女達の念は、魔物、として蘇った。
きのせいか、これまで強く感じていた種子の、大いなる力がここ最近は感じられない。
それは自分が種子の力を、エクスフィアにて食いつぶしているのか。
それはわからない。
すくなくとも、エクスフィアと大いなる実りはあるいみで近しいとはおもいはすれ。
人の魂によって、負により強制的に狂わされているそれをうけ、
種子が歪まない、ともかぎらない。
そう、すでにもう歪んでいるのは実感している。
正規なる形でこの種子が発芽すらできなかったあのときに。
花のような種子の中にうかびしマーテル自身の体。
その体が粒子となり、別な方向に注ぎ込まれてゆく感覚。
あらがうことすらできない、幾度も抗っていた結果がこうならば、今はとにかくうけいれてゆくしかない。
おそらくこれが最後のチャンス。
きちんと話しあいをするためにも。
少女の体を一時的に借りることにになりはするが、それは謝るしかない。
謝って許してもらえる、とはおもわない。
だけど、もう、自分に残された手段はこうしかない、とおもうから。

青白い光をはなちつつ、浮かぶ巨大な蓮の花のような水晶でできたかのようなもの。
それこそが大いなる実りとよばれし、大樹カーラーンの種子、といわれしもの。
全ての命の源。
その花のような種子の中に不釣り合いな女性の姿がみてとれる。
青い髪の目をつむった女性。
その女性の体から一筋の光りが、下の棺のようなものに注ぎ込まれていっているのが目にとまる。
じっと、そんな女性をみあげている一人の青年の姿が目にはいる。
「いよいよだよ。姉様、この体は姉様の固有マナに一番近いんだ。
  今まで何度も失敗したけど、今度は絶対にうまくいく……」
「マナの充電が完了したようです」
魔方陣の上、コレットの入った容器の点検をしていた女性が何やらそんなことをいっているが。
「よし、やれ」
青年…ユグドラシルが命令をくだしたその直後。
「コレットをかえせ!」
「ロイド!?」
大いなる実りの間であるこの部屋へは幹部しかはいれないはず。
よもや、この間にはいったとき、ゼロスがその入口に剣をつきさし、
入口の扉を完全に閉じていなかったなどとはゆめにもおもわない。
だからこそ、肩眉をつりあげる。
「きさま、どうやってここへ。ここの鍵はクルシスの幹部にしかあけられないはずだ」
だからこそいわずにはいられない。
最悪、罠を通り抜けたとしても、ここにくるあの入口は、
四大天使にしかあけられないようにしているのだからして。
クラトスは部屋からでているという報告はうけていない。
ユアンはテセアラから戻ってきていない。
ユアンが手引きしたようにもみえはしない。
「そんなことどうだっていいだろ。どっちみちお前の身勝手な千年王国の夢はここでついえるんだからな!」
一人乗り込んできたロイドの背後に彼の仲間らしきものの姿はない。
だからこそ嘲笑せざるをえない。
「それに、ここにくるまでには、クルシスのもの以外が解除すれば罠が発動するようになっている。
  そうか、仲間の命を犠牲にしたか。よくいったものだな。誰も犠牲にしたくない、といいながら。
  仲間を犠牲にしてお前一人、ここにたどりついたというわけか」
しかも、よりによって、ジーニアスやリフィルまでも犠牲にしたっぽい。
それが彼には許せない。
「皆は俺を先にすすませてくれた!だからこそ、コレットをたすける!」
「お前一人で何ができる。所詮、お前のいっていたことも戯言でしかないということだ。
  誰も犠牲にしない世界をつくる?そのお前が仲間を犠牲にしてここにたどりついたというのに?」
かつて自分もそうおもっていた時期があった。
それこそロイドのように。
皆で力をあわせれば、一人もかけることなく、絶対に道は切り開ける、と。
だが、その結果まっていたのは人間達の裏切りと、姉の死。
「どうせ、お前のことだ、罠のわの字も考えず、敵陣地に乗り込むといっておきながら。
  つきすすんだんだろう。思考することは仲間に完全にまかせっきりで。当然の結果だな」
どうせ何も考えず、感情のままに自分のほうからしかけよう、といったに違いない。
まあ、そのような報告を実際にプロネーマがうけているので呆れる以外の何でもない。
「っ!」
それはまさにその通りなのでロイドは言葉につまるしかない。
「お前のそれは、ただ子供が理想をわめいているにすぎん。今、ここでその理想もついえる」
いいつつも、すっと手を真上にとかざす。
大切なこのときに、邪魔をされてはたまらない。
遮るものは何もない。
ロイドを護る仲間の存在も。
おそらくは魔術を放ってくるのであろうが、ロイドにはそれをさけるすべがない。
ユグドラシルの指先にと光がともる。
その一撃を交わすことができるかどうかでロイドの今後はきまるといってよい。
もっとも、その術の威力の大きさにもよる、であろうが。
始めの一撃は威嚇、であったのか、ロイドの真横すれすれにと直撃する。
それは光の槍のような攻撃。
かろうじてよけたが、次の攻撃にまでほとんど間があいていないらしく、次なる手をうってきているのがみてとれる。
卓越した術者は術後硬直がない、とはジーニアスがいっていたが、ミトスはその分野にはいるらしい。
「これで、終わりだ」
すでに次なる詠唱、ジャッジメントの詠唱はすんだ。
あとは力ある言葉を解き放つのみ。
と。
ふと、みおぼえのあるマナを感じ、思わずミトスはその手をとめてしまう。
心のどこかでほっとしたのにミトス自身も気づく。
気づかざるをえない。
もっともそれを表情にミトスは表わさないが。
攻撃はミトスの背後から。
そのまま、すばやくその攻撃をそれるようにして横にとぶ。
その攻撃が放たれた方向をみて、おもわずロイドはぽかん、としてしまう。
「あれ?俺夢をみてるのか?」
そこには、さきほど自分のせいで罠にとりのこされたはずのジーニアスの姿が。
よく人は死ぬ間際にいろいろと大切な人などのことを思い出す、というが。
これがそう、なのだろうか、とおもってしまう。
そこには剣玉をかかえている見間違うことなくロイドにとっての親友の姿がみてとれる。
どうやら、一段高くなっているそこは、もう一つの入口らしきものがある、らしい。
その背後をみておもわずロイドは目を見開いてしまう。
「みんな!?どうして…無事だったのか!?」
そこには、これまでの道筋で残してきたはずの仲間達全員の姿が。
「いったろ?メインイベントまでには間に合ってみせるって」
さらり、とした口調のしいな。
「私と同じ苦しみを味わいたくなかつたのだろう?」
淡々というリーガル。
「せっかく新しい世界ができようとしているのに。それを見逃す手はないわ」
さも当然、とばかりにいいきるリフィル。
「まだ、たたかえます。戦えるかぎりあなたの傍にいます」
あの石から無事であったらしいプレセア。
「へへ~ん。どう?みなおした?」
どうやって彼らが助かったのかは気にはなる。
けど今は、これほど心強いことはない。
「よし、皆、一緒にたたかおう!」
それとともにジーニアスがロイドの傍にとよってくる。
「やれやれ。雑魚どもが。プロネーマ、お前の不始末だ。やれ」
「は、はい!」
ユグドラシルからいわれ、プロネーマがにがにがしい表情をし、ロイド達にとむきなおる。
そして。
「ええい。どうやってここまで…汚点はすべて取り除いてくれよう!」
いいつつも、手下、なのであろう、イドゥン…機械らしきものがつけられていることから、
どうやら魔物をその機械で操っているらしい。
機械で操っているらしき魔物を二体、ひきつれて、ロイド達にと挑みかかってくる。
イドゥンは大きな鎌をもった魔物。
その大きな鎌を振り回し、一体はリーガルに、そしてもう一体はプレセアに狙いをつけてくる。
「相手になろう!」
リーガルは獅子燕連脚を目の前のイドゥンにはなち、あっというまに蹴り倒す。
「私も、やります。崩襲撃!」
振り下ろされるカマの下をくぐりぬけるように、斧がイドゥンにと叩きつけられる。
しかし、魔物達はあまりつよくなかったのか、それとも本調子でなかったのか。
イドゥン達がその攻撃とともに、光となってはじけ消える。
それはあるいみであっけないといえばあっけない幕切れ。
魔物達が倒れるをみてプロネーマは舌打ちし、すばやく詠唱を開始する。
「スプレッド!」
力ある言葉とともにスプレットが発動され、その水によってジーニアスが足元を救われてしまう。
「ジーニアス!?」
ジーニアスを心配した声をあげつつ、降りかかる水を透かし、剣でプロネーマの体を水平に薙ぎ払う。
その攻撃をさけようと、そして反撃しようとしたのであろう。
体の向きをかえてくるが、そこに一瞬の隙がうまれる。
すかさずリーガルが三散華で背中に回し蹴りをあびせ、
よろけたところにプレセアの斧の峰がプロネーマの体をおおきくとらえる。
「が…あ……」
プレセアのもっている斧の一撃はかなり重い。
よろけるプロネーマにたいし、
「プリズムソード!」
次なるジーニアスの詠唱がおわった、らしい。
巨大な光の剣が降り注ぐ。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
プロネーマは叫び声をあげると、その場にどっと倒れ込む。
念には念を、とおもったのであろう。
しいながそんなプロネーマのクビスジに一撃、くわえ、かくん、とおちたのがみてとれる。
「さあ、これでもう、あとはお前一人だ、覚悟しろ!」
そういい、ロイドが言うのと同時、ロイドの背後にリフィル達も移動し身構える。
「それで、どうするというのだ?」
ちらり、とプロネーマをみるとマナのありようから死んでいないのはみてとれる。
情けをかけたのかどうかはわからない。
背後ではあいかわらず、マナが常にコレットに注がれていっている。
「俺は、お前を、ユグドラシルをとめる!千年王国なんてつくらせないし、コレットを器にもさせない!
  そして、ミトス、お前のそのねじ曲がった根性をたたき直してやる!
  間違った道に進んでいる友達を元の道に戻してやるのは友達の務めだ!」
何やらそんなことを言い放ってくる。
「は。何をいいだすかとおもえば。この私をとめる、だと?」
「そうだ。ここでユグドラシルは死んで、ミトスとなってまたお前はやりなおせばいい。
  いや、そうさせてみせる。ユグドラシルはユグドラシルであり、ミトスはミトス。
  俺達とともにいた友達のミトスと、指導者ユグドラシルは別人でしかありえない。
  だから、ここでユグドラシル。お前をたおし、ミトス。お前を本来の姿にしてみせる!
  お前だって、かつては勇者とまでいわれた人物なんだろ!?」
ロイドが何やら言い放ってくるが。
その言葉に、一瞬沈黙し…みれば、ロイドの後ろでは、こめかみに手をあてているリフィルの姿がみてとれる。
まさかそんなことをいう、など思っていなかったらしい。
リーガルなどは盛大にため息をつき、しいななどはどこかあさってをみていたりする。
どうやら彼らはそれぞれ、ロイドのその言いようを予測していなかったらしい。
その言葉は、一瞬、ユグドラシルの思考をとめるには十分。
次の瞬間。
「あは…あはははは!」
「み、ミトス?」
ふとみれば、いつのまにかユグドラシルの姿から、ミトスの姿になり、
いきなり笑いはじめているミトスの姿。
目の前で自在に青年の姿と子供の姿を使い分けられ何ともいえない気持ちになってしまう。
「やっぱり、ロイド、君はクラトスの子だよ!クラトスと同じことをいうなんて!
  僕がユグドラシルとは別人?ミトスじゃない?
  そうさ。クラトスはずっと、そういって自分をごまかして僕についてきてくれていた。
  それと同じことを君が…息子のお前がいうか!
  人を家畜扱いする僕は、僕じゃくて、ユグドラシルという青年でしかなく、別人…
  僕は、僕、でしかないのに……僕は、ミトス・ユグドラシル。それ以外の何ものでもない。
  なのに……綺麗ごとばかりをいわないでよね!
  じゃあ、君たち人間は何なのさ!僕達ハーフエルフを家畜どころか道具扱いにして!
  テセアラで国が率先してやってる計画をしらないとはいわせないよ!」
きっと、笑いながらも、どこか殺意のこもった視線でロイドをみているミトス。
その視線はしいなたちにも注がれる。
その台詞と視線にしいなが目をそらす。
「あれは人が勝手に初めてること。僕は関与していない。
  それに気づいて僕が手をまわし幾人かは救いだしているけど、だけど完全じゃない。
  ハーフエルフのマナを使用して、あらたな合成物キメラをつくりだす?
  僕たち天使のような自分達のいうことをきかせられる新しい命を、戦士を創りだす。
  そんな構想…かつてのテセアラと今のテセアラはまったくかわってない!」
つくづくおもう。
人は愚かでしかない、と。
それに関してはおそらく精霊達全ての総意、であろう。
そこに魔物を使用しようとしている時点で自分達の首をしめていることすら気づいていない、のだから。
はっとジーニアスが背後をふりむけば、しいなは顔をそらせている。
リーガルも顔をしかめていることから、どうやらそれが事実らしい、と嫌でも思い知らされてしまう。
「しってる?ロイド。それにジーニアス、リフィルさんも。
  テセアラの王立研究院ではね。ハーフエルフを閉じ込めているだけじゃない。
  ハーフエルフの女性は、まるで子供をうむ道具として扱われたりしてるんだよ?
  しんじられる?能力のたかい人間との間に無理やりに子供をつくらせ、
  その子供があまり能力がない、と判断されたらそのまま子供の体をきりきざみ、
  合成物の実験体…被写体にしてるんだよ?
  僕がやっていることと、人がやっていること・・・どっちがひどいか君達だってわかるはずだ」
あるいみでどっちもどっち。
その台詞に、おもわずばっとしいなやリーガルに視線をむけるロイド達。
が、あからさまに視線をそらすいしなに、苦い顔をしてうなづいているリーガル。
そのことから、彼がいっているのが事実だ、と嫌でもおもいしらされる。
人は、どこまでも残酷になれるもの。
かつて、エミルがぽそり、といっていた言葉の意味。
それを今さらながらに痛感してしまう。
「僕はただ、人を素体にしてエクスフィアを覚醒させているだけ。
  素体になった人達だって感謝してるはずだよ?うすぎたない人の器から解放され、
  エクスフィアとして新たな生を得られるんだからね」
「違う!そんなのは間違ってる!」
「なら、人がやってることが正義だとでも?」
そういうミトスの姿は、再びユグドラシルへ。
「人も間違ってるけど、だけど、お前もまちがってる!」
「ああ、無駄話しをしてる暇はなかったね。…成功だ。姉様が…目覚める!」
コレットの体が、ユグドラシルの背後で輝きだす。
ゆっくりとコレットの入った容器が開いてゆく。
容器のチューブが外れ、蓋が開く。
そこからゆっくりと、コレットが体を起こす。
ロイド達が固唾をのんで見守るまえを、彼女はまっすぐにユグドラシルの元へとあゆみよる。
「姉様…!やっと…やっと目覚めてくれましたね!」
感極まったユグドラシルの声。
「嘘だろ?これっと…コレット!」
ロイドは叫ぶが、コレットはロイドのほうをふりむきもしない。
リーガル達がはっと、大いなる実りをみれば、ほのかに光をはなっているものの、
先ほどまであったはずの光沢といったものが完全にと種子であろうそれからは失われているのがみてれる。
「ミトス…あなたは、何ということを……」
コレットの唇が動く。
だが、その声はコレットのものではない。
「え?姉様?ああ、この体のことですか?クルシスの指導者としてふさわしくみえるように、
  成長速度を速めたんですよ。まってください、今、昔の姿にもどりますから」
いいつつ、すぐさまミトスの体が幼い、ロイド達も見知っているミトスの姿へ、
十四くらいの少年の姿にと変化する。
そんなミトスにたいし、コレットはゆっくりと首を横にふる。
「ミトス…そうではないのよ。私はずっとあなたをみてきました。
  動かぬ体で、ただ、なすすべもなく。あなたがしてきた愚かな行為を。
  忘れてしまったの?私たちが古の大戦を食い止めたのは、
  エルフと、人と、狭間のものが、全ての命が皆、同じように暮らせる世界を夢みたからでしょう?」
精霊達とも。
「何をいっているの?姉様?せっかく、新しい体を用意したのに。
  やっぱりそれでは気にいらなかったんだね……だって姉様の本来の姿とは似てもにてつかないものね。
  …とくに何が、とはいわないけど」
特に胸。
「……ミトス。前にもいいましたけど、女性の胸をそういうものではありません」
ちらり、と視線をむけたミトスにたいし、ぴしゃり、とマーテルであろう女性が何やら言い放つ。
「「あ~」」
その台詞に思うところがあったのか、おもわずジーニアスとしいなが同時に声をあげる。
たしかに、種子の中にいた女性の姿はかなりプロポーションは整っていた。
それは眠っている状態ですらわかるほど。
だが、コレットはその、どちらかといえば……
「ミトス。これは私からの最後のお願いです。私の話しをきいて。
  ミトス、あなたのしたことは間違っている。すくなくとも、私たちが目指したものとは違います。
  あなたは、あの彼との約束をも忘れてしまったの?」
それは、ミトスがラタトスクと交わした約束。
精霊達とも共存できる世界にしてみせる。
彼はそういったのである。
様々な種族が暮らせる世界を、と。
「何いってるの?姉様?僕は約束を覚えてるよ?だから姉様を目覚めさせるために頑張ったんだよ?
  姉様が目覚めさえすれば、クラトスも、ユアンも元にもどってくれる。
  そうしたら、僕たち四人と彼とで一緒に世界を旅しよう。そう約束したじゃない」
それに、ともおもう。
「それに、いってくれたの姉様も知ってるでしょう?いつまでも、まつ、と」
それはたしかにかつて、ラタトスクがミトスにいった台詞。
「だけど、オリジンとの約束は、彗星が接近するそのときまで、だったはずよ?」
「…!愚かな人間達のせいで、姉様が殺されたというのに、そんなことをいうの!?
  少しくらい姉様のために、その約束を引き延ばしてもいいじゃないか。
  人間達が世界のために何をしてくれたの?逆に世界を滅亡させることしかしてない!」
たしかにそう、そうなのだが。
「…だからといって、ヒトをまるで道具のように扱い、エクスフィアを量産するなど…
  ミトス、あなたも嫌悪していたはずでしょう?あのありようをしっていたからなおさらに。
  その嫌悪していた人とあなたが同じことをしてどうするの?それは違うでしょう?
  あなたを否定するわけじゃない。けど、思い出して。お願い。
  あなたのしてきたことは間違っている。こんなことはもうやめて、もう一度、昔のあなたに……」
姉にいわれなくても。
ロイド達の旅に同行し、最近それは思い出していた。
自分がもっとも嫌悪していることを自分は今、している。と。
しかしそれは大事の前の小事だ、と思い込むことでつきすすんでいた。
なのに、姉はそれをわかってくれない、というのだろうか。
否、わかってはいるのだろう。
だが、あの優しい姉は、それが許せないのだというのも理解できる。
姉は、そういう人なのだというのをミトスは身をもってしてしっている。
だけど。
「…姉様まで、僕を否定するの?幾度も僕を裏切ったクラトスみたいに?
  ううん。違う、姉様がそんなことをいうはずがない。そんなこと…絶対に!」
ミトスの感情によって吹きだされた強力な魔力。
それをうけ、部屋の柱がいくつか破壊されてしまう。
「ミトス……お願い、どうか昔のあなたに……」
コレットの口からもれる優しそうな感じをうける別の女性の声。
「!みんな、よけろ!」
ミトスは自分の体をだきしめ、何やらわめいている。
どうやら暴走する魔力をとどめることができないでいるらしい。
今が好機、とばかりにロイドがコレットのほうへかけよろうとする。
このままでは、近くにいるコレットにその魔力の暴走の被害があたりかねない。
と。
「大丈夫か!?ロイド!」
声の主は、ロイドよりもはやくコレットにたどりつくと、
コレットの体からはずされていたであろう要の紋を装備してやる。
「何をするんだ!どういうつもりだ?マナの神子から解放してほしいんだろう!」
そんな現れた人物にたいし、ミトスが魔法を放つが、いともあっさりとよけられてしまう。
やはり、姉に傷をつけるのを恐れ、威力をへらし、さらには横のほうを狙ったことが原因、であろう。
「あ、わりぃな。それもういいわ。お前らクルシスを倒しちまえばそんなこと関係なくなるからな」
「ゼロス!やっぱり戻ってきてくれるのか!」
あらわれた人物をみて、ロイドが感極まった声をあげる。
「悪かったな。こうでもしないとコレが手にはいらなかったんだ」
いいつつも、ゼロスは何やら小さな鉱石っぽい何かをロイドに投げてよこしてくる。
「ほらよ。そいつをドワーフの技術で精製するんだ。人間でもエターナルソードを使えるようになるらしいぜ」
「アイオニトスね。やっぱり」
リフィルは苦笑せざるをえない。
やはりとはおもっていたが。
まあ、彼が翼をもっていたことにも驚いたが。
何しろあの落ちる床の中で、光り輝く翼をもってして助けだしたのはほかならぬゼロスであった。
彼いわく、あっけらかんと、テセアラの神子は神託をうけるとともに翼をもつ。
といわれ頭がいたくなったのが記憶にあたらしい。
「お前、これを手にいれるために、まさか、わざと……」
ロイドがようやくここにいたり、ゼロスの真意に気づき、そんなことをぽつり、ともらす。
どうやら本当にわかっていなかったらしいことがうかがえる。
「そうさ。このあほ神子があたしたちをトラップ地獄から助けだしてくれたんだよ」
もっとも、しいなの場合は少し違っていたのだが。
しいなは気がついていないが、落ちる最中、しいなの懐が光り輝き、
次の瞬間、そこに尻尾がいくつもある動物のような何かがあらわれ、
しいなを床にまでおしもどした。
ゼロスがやってきたのは、そんな動物らしきものがじっとしいなをみていたとき。
コリンか?
ゼロスがといかけたが、それは首を横にふり、自分はヴェリウスだ、とそう名乗り、
しいなを頼みます、といってその場からきえた。
しかし、ゼロスには確信がある。
その首元についていたのは、まちがいなくしいなのもっていたコリンの鈴。
私はしいなによってかつて消えかけていたところを、命をすくわれた。
だから、今、しいなをたすけました。あとは人の手にゆだねます。
私たちは本来、人の生に関することに干渉することは許されてはいませんので。
そういって消えていったその動物もどき。
ゼロスはここにくるまで、しいなをたすけたのはコリンだ、と説明している。
その証拠にお前のスズがなくなっているはずだ、とも。
ふとみれば、たしかに大切にしまっていたはずの懐のスズがない。
だけど、たしかに何かに護られたようなそんな暖かな感触はあった。
ゆえにしいなは、ぎゅっとコリンをおもい、こぶしを握りしめるしかできなかった。
二度もコリンに助けられた。
その意味は、しいなにとってはとても重い。
「でも、だましてたのは本当だ。今まで散々足をひっぱってきたからな。
  これくらいやらねぇと許してもらえねぇだろ?」
「ああ。当然だ。許してほしかったら、さっさと一緒にたたかえ!」
ロイドがいうと、
「了解~」
何ともかるい口調で、ひらり、とロイドの横にまいおりるゼロスの姿。
「くそ!姉様をかえせ!」
ミトスがじれる。
そのとき、ふとコレットの唇がうごく。
「さようなら。ミトス。どうか…私の最後のお願いです。
  この歪んだ世界を元にもどして。あなたは、彼との約束を果たして…お願い……」
「嫌だ!姉様!いかないで!」
コレットの姿をしたマーテルはゆっくりと首を振る。
「こんなことになるのなら、エルフはデリス・カーラーンを離れるべきではなかったのかもしれない。
  そうしたら、私たちのようなものは産まれおちなかった、の…に…」
コレットの体が床にくずれおちる。
その体から輝きが離れ、やがてその光りは周囲にはじけるようにとけきえる。
一部が大いなる実りの中にのこったような感じをうけるが。
しかし、そこには、先ほどまではっきりとみえていたマーテルの姿は薄くしかみうけられない。
「なぁんだ…そうか、そうだったんだ!」
ミトスがなぜか笑いだす。
「あはは!姉様は、こんな薄汚い大地をすてて、あの星にもどりたかったんだ。
  そうだよね。あの星はエルフの血をひくもの全てのふるさとだものね」
「ミトス?」
そのミトスの変化のしように、不安そうなジーニアスの声がもれる。
何だろう。
ミトスは何かとりかえしのつかないことをいうような気がする。
だからこその不安。
「そうだよね?姉様。だから……デリス・カーラーンへ二人で、かえろう?」
ミトスが両手を動かすと、それにあわせて大いなる実りが上昇をはじめる。
さきほどまで青く輝いていたそれは、今は白く淡い光をはなちつつ花のようなそれはゆっくりとのぼってゆく。
と。
「みんな!ミトスをとめて!」
意識を取り戻したらしきコレットがふらつきながらも思わず叫ぶ。
叫ばずにはいられない。
「私の中にいたマーテルが、私によびかけるの!マーテルはミトスをとめてほしいのよ!」
まだ、コレットの中にはマーテルが残っている。
意識が二つあり、表層にコレットの意識がでているといって過言でない。
「ふざけるな!姉様がそんなことをいうはずがないだろう!このできそこない!」
「いってたもん!いってるもん!これ以上、人やエルフを苦しめないでっていってたもん!
  マーテル、泣いてるよ?悲しみでいっぱいいっぱいになってたもの!」
その言葉にミトスは顔をゆがめ、次の瞬間、なぜか青年の姿へと変化する。
「「ミトス」」
コレットの口からもれる、コレットの声とマーテルの声らしきもの。
その言葉にミトスが一瞬ひるむ。
「姉様、まだそこにいたんですね?今、そのできそこないの器から解放してあげますから」
コレットの精神が邪魔をしているのならば、その精神を殺してしまえば、
その体はマーテルのもの。
間違っていると心のどこかで叫んでいる自分の心にもきづくが、感情が、思いはとめられない。
「ロイド、わかってんだろうな。ここで大いなる実りをうしなったら、レネゲードの機体を裏切るんだぜ?」
「そうさ。あたしたち、みずほの民もだまっちゃいないよ」
「あれがなければ、大樹の発芽もできなくなるわ」
「マナがなければ大地も死んでしまいます」
「お前が目指すのは、世界の統合。ならば…」
口ぐちにいってくる、ゼロス、しいな、リフィル、プレセア、リーガルの声。
「わかってる。ミトスをとめる。全力でな!」
「僕の邪魔はさせないよ。きえろ!」
「皆、全力でいくぞ!」
口でいってわからないのならば、もうあとは力同士でぶつかるしかない。
男はこぶしでかたりあうもの、とはダイクの台詞だったが。
それはよくいったものだよな、ともおもう。
ミトスを助けたい、ユグドラシルを止めたい。
その思いは本当。
だけど、ここで手をぬけば、世界は死滅する。

「ユグドラシル!お前のために犠牲になった人達の気持ちを思い知りやがれ!
  お前はわかってたんだろ!勇者ミトス!全ての人々の希望の象徴のお前は!」
そう、勇者ミトスの英雄話には、人々の希望がこめられている。
人は、困難であってもかならず乗り越えられるのだ、というその希望が。
ミトスの背には七色の美しい虹色の翼がみてとれる。
それは、絵本でみしった翼。
女神マーテルより勇者ミトスが力をさずかり、そして女神のもとに還ったとされるときの挿絵。
まさにその姿そのもの。
「フィールドバリア!」
ミトスがホーリーランスの詠唱をすばやくしているのにきづき、リフィルがすかさず防壁をはる。
ミトスの詠唱の時間は半端ない。
が、一度、かの禁書の中でたたかっているロイドからしてみればどこか違和感を感じてしまう。
あのときよりも確実に、そう、確実威力がちがう。
どこか、何か芯がぬけている、そんなような錯覚をどうしても覚えてしまう。
もうひとつの理由は、コレット、であろう。
あからさまに、彼はコレットの体を傷つけないようにしているのが嫌でもわかる。
それは先ほどのコレットの言葉でまだ中にマーテルの精神がいるとわかったからの戸惑い、なのだが。
その甘さがミトスに全力をだすことをためらわせている。
しばし、そんな光景をロイド達の補佐をしつつ補っているコレットの心に、
ふとした声が響いてくる。
どうか、ミトスを……
それは切なき願い。
そして、そのための言葉もコレットにと流れ込んでくる。
「…うん、わかった。私、やるね」
すっと目をとじ、今まさに教えられた、流れ込んできた詠唱を開始する。
「その力、穢れ無き澄み渡り流るる…」
その言葉をきき、ミトスが目をみひらく。
「その、技は…姉様の!きさま、姉様を犠牲にするきか!?」
ミトスの叫び。
だが、コレットの詠唱はとまらない。
「魂の輪廻に踏み入ることを許し給え…」
それは、味方全ての状態を回復させ、敵たいするものに聖なる光で攻撃するという、天使術。
だいたい目算敵に、味方の体力を半分程度まで回復させ、
さらには全ての状態異常・変化を解除する術。
かつて、マーテルが得意としていた技。
だが、この術にともなう副作用、というものがある。
威力がおおきいものにはそれなりの対価が必要。
「「リヴァヴィウサーりう゛ぁう゛ぃうさー」」
コレットの詠唱が完了する。
聖なる光がミトスを覆い尽くす。
「そんな…姉様、どうし…て……」
コレットの口からでたのは、コレットの声ともう一人のもの。
自らの命を…マナを犠牲にして成り立つその技。
マーテルがミトス達が危険になったときによく用いていた。
そのたびに危篤状態になり、ミトス達全員でマナをマーテルに注いで命をたもっていた。
その手をコレットにのばし、やがてその両腕を交差させるようにしてがくん、と膝をつくミトス。
そのまま光の泡のようなものになり、ミトスの姿はその場から消失してしまう。
大いなる実りはゆっくりと、上昇をとめ、元の場所へとおさまってゆく。
だが、さきほどまであったはずの輝きはそこには、ない。
まるでそれは普通の水晶のような輝きをたもっているようにしかみうけられない。
カラン。
ミトスが消えた場所にのこされしは、ひとつの石。
それにきづき、ジーニアスが拾い上げる。
そのままぎゅっと、しばしジーニアスはその石をいだき、そのばにしゃがみこむ。
止めたかった。
ミトスを、友達を。
だけども、こんなのをジーニアスは望んでいたわけ、ではない。
しばし、ジーニアスの声なき鳴き声がその場に響き渡ってゆく……


クラトスはもうずいぶん長い間、まちつづけている。
待つことになれ、無為に時がすぎることを何ともおもわなくなって久しい。
そのはず、なのに、今のクラトスには時は穏やかにしか感じられない。
フラノールから連行され、再び自室への監禁。
かなりの時間が過ぎ去っているはずであるが、だが、様子をうかがうかぎり、
大いなる実りの間に何かが起きている気配はない。
ゼロスはおそらく、神子コレットをかどわかすように密命をうけているはず。
そして、コレットを連れてゆくとみせかけてユグドラシルの元へといけば、
アイオニトスを手にいれる機会がつくれるであろう。
少なくとも、彼ならばそう算段するはず、である。
だからこそ、彼に頼んだ。
彼しかできない、とおもったからこそ。
ゼロスがその計画を実行すれば、ここクルトスはハチの巣をつついたような騒ぎになるはず。
仮にコレット救出のためにロイド達がうごけば、クルシス側も迎え撃つ必要がでてくる。
どちらにしてもゼロスがアイオニトスを奪えば、クルシスに混乱が生じるはず。
いずれにしても、クラトスの…執務室に軟禁状態とはいえクラトスのもとに報告がやってくるはず。
一応は幽閉というか軟禁状態とはいえ、クルシスの四大天使の一人であり、
シルヴァランドの管制官としての任を担っているクラトスのもとに報告がくるのは必然。
ゆえに、クルシス全体にたいする命令権もクラトスは所有している。
むろん、それはユアンとて同様。
と。
「クラトス様!大いなる実りの間に族が侵入し、アイオニトスを奪って逃走!
  現在、ユグドラシル様と交戦中とのことです。
  おそばにおりましたディザイアン階級のプロネーマとも連絡がとれず、
  ただいま、親衛隊を向かわせておりますが、到着まで時間がかかります。
  ウィルガイアからの地下の大いなる実りの間へつづく転送装置がつかえれば、
  すぐにユグドラシル様をお助けできるのですが、あれは……」
「四大天使にしかつかえない転送装置。――そうであったな」
「は、はい。このままではユグドラシル様が危険です。
  どうか、大いなる実りの間へおもむき、ユグドラシル様をお助けください」
駆けこんできた伝令兵がクラトスの執務室の鍵をあける。
そんな伝令に背をむけ、クラトスは無言ですすみだす。
伝令の天使にかける言葉を今のクラトスは持ち合わせてはいない。
クラトスが大いなる実りの間にむかう、それが意味することは。
ミトスとの…自分達の過ちの決着をつける、ということに他ならないのだからして。
どうやら天使達もユグドラシルの現状を聞かされているのか、
それぞれ、クラトスの姿をみて道をあけてくる。
そのまま転送陣をつかい、実りの間へ。
大いなる実りの間に足をふみいれると、辺りは戦いが起きているとはおもえないほど静まりかえっている。
だが、よくよく耳をすませてみればすすり泣くような声がきこえてくる。
そのまま、声のするほうへ、大いなる実りが安置されている広間へと足をすすめる。
そこには大いなる実りの前でうづくまっているジーニアスの姿と、
そしてつったっているロイド達の姿。
壁際のほうに吹き飛ばされたのかプロネーマの姿もみてとれる。
マナのありようから死んではいないようだが、完全に気を失っているっぽい。
「…おわった……ミトスの馬鹿野郎……」
「それはどうかな?」

どこまでも世界を愛し、人を愛し、そして裏切られた。
そんな彼がたどり着いたのは、嘘で塗り固めた平等なる世界という構想。
人も、エルフも、ハーフエルフも、全てが天使になればいい。
そうすれば差別は失われる。
彼が、ミトスが本心からそれを信じていたとはおもえない。
だが、それを一つの指針にするつもりだったのだろうというのはよくわかる。
その極端ともいえる世界を構築させてしまい、四千年にもおよばせてしまったのは…
マーテルであり、ユアンであり、そしてクラトスでもある。
誰も、彼を本気で止めようとはしなかった。
誰かがどこかでミトスを止めることができれば、世界はかわっていたかもしれない、というのに。
オリジンの封印のときも。
精霊達の封印のときも。
精霊達を封印するといったときのミトスの歪みにクラトス達は気づけなかった。
気づくことができなかった。
全てはマーテルを蘇らせるため、世界を存続させるためだ、そういわれ。


何ともいえない気持ちのなか、やりきれない台詞をつぶやく。
と、ロイドの耳に聞きなれた声が背後からきこえてくる。
ふりむけば、そこにはクラトスの姿が。
クラトスは淡々とした口調で、
「まだ、世界は引き裂かれたまま。大樹も発芽していない。何がおわったというのだ?」
ちらり、とみる大いなる実りの輝きが失われているのがきにかかる。
ユアンのいうように、一時でもマーテルが蘇ったのならば。
あの種子にもうそのような力が残されていない可能性もありえる。
「ちょうどいい。あんたにききたかったことがあるんだ」
そんなクラトスにたいし、ロイドがふりむきつつも
「答えてくれ。あんたはミトスの何に共感したんだ?
  どうしてオリジンの封印に命をかけてまで協力したんだ?」
「ミトスは……」
ロイドの台詞に、クラトスの中で、これまでのことが思いだされる。
戦争をしかけようとしているというシルヴァランドの情報を命をかけて伝えに来たミトスたち。
しかし、その声は国にはとどかず、戦乱にうまったテセアラの王都。
そのときのミトスの台詞。
そこから全ては始まった。
そして、終わりの始まりは…人の裏切り。
「…私の剣の弟子であり、かけがえのない仲間であり、同士であった。
  理由は、それだけで十分、ではないのか?裏切りをしたのは人。
  ならば、人である私が協力して何がおかしい?」
そう、裏切ったのは人なのである。
あのとき、種子を発芽させるためにデリス・カーラーンをとどめおいて力を解放しようとしたあのとき。
「仲間、だから?仲間ならどんなにひどいことをしても許すのか!?あんたは!」
ロイドが何やらいうが、しかし、リフィルのみは何かに気づいた、らしい。
「…これ以上、何かをいう必要はない」
おそらく、その視線からしてリフィルは気づいたはずである。
どうして、クラトスが結果としてオリジンの封印に協力することになったのか、を。
オリジンの封印をほどこしたのは、かなり後とはいえ。
そもそも、基本の封印は精霊達の封印だけでどうにかなっていたのである。
それでも、万全をこめて、という意味でオリジンの封印は成された。
クラトスが…ミトスを裏切らない、証、として。
しかしロイドはそんなことを知らない。
知るよしもない。
また、その言葉に含まれている意味、人として、の意味すらも理解していない。
理解できない。
否、理解しようとしていない、といったほうがいい。
感情にながされ、また肝心なことを考えずにそのまま行動してしまっている。
ゆえに、ロイドは仲間ならどんなことでも許すといったクラトスの言葉をそのまま素直にうけとり、
くやしさからこぶしをにぎりしめる。
彼はいつだって、旅の最中、ロイドが間違っていることを指摘して指導していた、というのに。
それがロイドにはくやしくてたまらない。
どうしてミトスにもそうしてやらなかったのだ、と。
「ロイドよ、オリジンの封印をときたければ、私を倒すがいい。…オリジンの封印の前でまつ」
「まて!」
引き留めるロイドの声をそのままに、クラトスはその場をあとにしてゆく。


救いの塔からでてきたクラトスを待ち構えていたのはユアンであった。
なぜユアンが、ともおもうがそれはありえる、とおもってしまう。
少なくとも、ユアンもまたミトスに正体を…レネゲードを率いていることを知られていた。
ならば、ロイド達に協力しようとしても不思議はない。
彼の目的は、マーテルの解放、なのだから。
敵対したり、援助したり忙しいものだ、ともおもうがそれはクラトスとて同じこと。
あるいみでにたもの同士だというのがよくわかる。
だからこそ、クラトスにとってユアンは親友ともよべるべき存在にまでなっている。
「おわったのか?」
ユアンの問いかけにクラトスは苦い顔をするしかない。
「……終わりが、ミトスの死をさすのならば、おわったといっていいだろう」
かかんで泣いていたジーニアス。
それがまさに全てをものがたっていた。
大いなる実りの間にたどりついたとき、そこにはミトスの姿はなかった。
「そうか…ミトスは…いったのか……」
エクスフィアが破壊されたのかどうかまではわからない。
エクスフィアがあるかぎり、その精神体…魂は死ぬことがない。
「ミトスを倒したのは…状況的にロイド達だろうが、滅びの道へ誘ったのは我らだ」
「……そうだな。マーテルを失ったあのとき。
  私もミトスもお前も、未来に絶望した。誰もミトスをとめなかった。
  ……私たちは気づくのが遅かったのかもな」
いいつつ、ユアンは救いの塔をみあげる。
この先に、ウィルガイアが、デリス・カーラーンがある。
救いの塔はまさにミトスの幻想の塔といってよい。
「ミトスは…やり直すことを良しとはしなかった。
  マーテルへの四千年への思慕がそれを許さなかったのだろう」
ユアンがぽつり、という。
ことあるごとにミトスにそういさめていたユアンの言葉だからその重みは深い。
止めようとした、だけども本気で止めよう、としただろうか、とユアンももおう。
いつも口だけで、心の底からミトスと向き合おうとしていなかったようにおもう。
ユアンの言葉にクラトスもうなづく。
この結果は自分達、三人の罪といえる結果。
そのすべてをまたあのときとおなじようにミトス一人におしつける形になってしまっている。
人の象徴、として勝手にあがめたてまつられ、さらには人から抹消されようとした勇者ミトス。
「…一つ、ききたい。お前はこれからどうするつもりだ?」
しばし、目をとじこれまでのことを思い起こしていたのであろう。
すっと目をひらいたユアンのといに、
「…私には、まだやるべきことがある」
「やるべきこと、だと?」
「私には、ミトスを救ってやることも、ともに堕ちてやることもできなかった。
  引導を渡すことすらロイドにまかせ、ここにいる」
「それは私も同じだ」
「お前はマーテルの言葉をまもろうとした。私とは違う。
  私は過去と決別しなければならない。そうしなれば、前にすすむことも消えることもかなわぬ」
「……死ぬつもりか」
オリジンの封印がある以上、その結末は不可避。
「しかし、おまえはロイドにエターナルソードを使わせようとしていたのではないのか?
  おまえが死んだら誰が契約の指輪をあたえるのだ」
「必要なものは用意できた。指輪の製造方法はお前もしっているだろう。
 それに、お前は私を殺そうとしていたのだぞ?あのときもいったはずだ。お前にあとをたのむ、と」
それは、ユアンがかつてクラトスのもとを、ロイドがうまれて二カ月たったころ訪ねてきたときのこと。
「私は…そのとき、そのとき最善と思うことをしてきたまでだ」
「私も今はそうしている」
いいつつ、じっと己の手をみる。
「……この四千年で星の数ほどの人々がエクスフィアの犠牲となった。
  おそらく、ミトスは人類史上もっとも多くの人間を殺した存在だろう。
  私の中にはそのミトスの理想を信じた自分がまだいるのだ。私も大量殺りくを担った咎人だ」
「お前はロイドの理想に共鳴したのではないのか?」
「一度はミトスを信じた私が、ミトスが倒れたからといってロイドのもとにいくのは虫のいい話しだろう。
  咎人であることはかわらないのだ。ロイドがミトスを倒したように、私も倒されなければならない」
「ロイドと戦うのか?お前は自分の息子に父親殺しの咎を負わせることになるのだぞ?」
ユアンのあきれたような言葉にクラトスの心が一瞬ひどくきしむ。
そのことは幾度も考えた。
それでも、クラトスにはこの結論しか導きだせなかった。
我ながら情けない父親だと情けなくなってしまう。
「……私は、ロイドの父親だが。同時に四千年前からのミトスの同士でもあるのだ。
  私は、過去の人間だ過去を清算し、未来を預ける義務がある。
  ロイドとともに未来を歩むのは私ではなく、ロイドの仲間たちでいい」
「老兵はさるのみ、か」
「我らはいきすぎた。違うか?」
四千年。
それだけの時間わいきた人間など普通はいない。
あまりに不自然なものはやはりどこか歪みを生んでしまう。
「……強情な男だ。お前がそう、ときめたのなら、好きにするがいい。
  私も自由にさせてもらおう」
ユアンはそういうと、遠くに控えているレネゲード達の元へと歩きだす。
「ユアンよ。私がオリジンの前で命をおとしたあとは、ウィルガイアの天使達をたのむ」
ユアンの背にむけたクラトスの言葉。
そんな彼の言葉をうけ、任せておけといいたげに右手をあげてその場をあとにしてゆくユアン。

精霊オリジン。
あの気高き王は、ロイドを新たな資格の持ち主と認めてくれるかどうか。
全てはそれにかかっている。
だが…おそらくは、認めてくれる、だろう。
だからこそ、クラトスはロイドに全てを託す、ときめたのだから。


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あとがきもどき:
薫:ようやく、一時期のミトス脱退。
  あれ?ミトスは生存、なのでは?とおもうひと。ええ、生存ですよ?
  実際、エクスフィア、壊れてませんし(まて)
  次回でオリジンの封印解放…にまでいけるかな?そこまでいけば、勇者ミトス(まて)
  との合流もちかし。…エミル、いれるかなぁ(まてこら)
  いや、パターンがふたつありまして、ミトスのみ合流と、エミルとともに合流の。
  …しばらく打ち込みそこにまでたどりつくまでに考えよう……


港町パルマコスタ
イセリアのようにディザイアンと不可侵契約を結んでいない為、常にディザイアンの影に怯えている街の一つ。
だが、街の人間は誰一人ディザイアンに怯えてなどいない。
自分達にはドア総督がいる、という理由で。
そんな希望に満ちた活気のある街の地下室に一人の男と少女がみてとれる。
暗い面持ちをした男の後ろに立つ少女は無表情で男の背中を見上げている。
「必ずお前を元の姿に戻してやる。もう少し辛抱してくれ」
光が限りなく少ない地下室の中、人目を遮るように被せられた布の向こうにいる人物に声を掛ける。
男の声に返ってくるのは呻き声にも似た、何を言っているのか聞き取れない不明瞭な声。
以前とは比べ物にならない不気味な声に男の顔が歪む。
嘆き悲しむ男の背中を少女はただ感情のこもならい視線にて見上げ続けていることに男は気づきはしない。


「早いわね。普通、船旅ならば半日はかかるのではなくて?」
数刻もしないうちにみえてくるパルマコスタの都。
波はずっと穏やかで魔物は…まあ横を並走していたりはしたがそれはそれ。
なぜかイルカなども一緒に平行していたりもしたのだが。
「特別制だからな。シャーリーに不自由させ……」
「はいはい。わかったから。それで?セネルの雇い人ってどこにいるの?」
「ああ。ここの総督府、海上保安部の部長だ。ウィルっていってな」
「ねえねえ。みてみて!この船すご~い!」
みれば同じ港に停泊している船の中、異様におおきな船が一隻。
巨大な蒸気船、それはこの世界ではここにしかない一応ここでは最新式、とよばれているもの。
「うわ。大きい」
「すごいね。ロイド」
「おお、すげぇ!…って、い、いや驚くほどのものじゃない」
「村の聖堂くらいはあるかなぁ?」
「まさかそんなにはないでしょう」
「おう。驚いたか。坊主たち。これがバルマコスタが誇る最新鋭の蒸気船イザベル号だ」
「…へぇ。遅れている。とはきいていたけどこいつはまたずいぶんと旧式だねぇ。
  まさかいまだに動力源は蒸気か?」
「何だ、てめえ。俺達のイザベル号を侮辱する気か!?」
「なんだよ。何あつくなってるんだよ。あたしはただ……」
「あ。おまえ」
「あ。このまえのしいなちゃんだ~」
何やら横からそんな声がきこえみてみれば、例の件のしいながそこにいたりする。
「ちゃんづけするな!…じゃない!覚悟…ってここで騒ぎはまずいか。っ!
  つ、次にあうときこそきさまたちの最後だ!」
「……あいつ、この前も同じようなこといってたよな?」
「ほら。やっぱり悪い人じゃないんだよ」
「…ディザイアンではないのは確実だね。あれは」
「お。なんか昨日から海がおだやかになってやがるな。ここ数年ではみられなかったいい兆候だ。
  きっと神子様の世界再生の旅がうまくいっている証拠だろう。
  あんたら、どこかにいきたいのかい?」
「え?えっと……」
「いえ。今イズルートから渡ってきたところよ?」
「今俺が連れてきたたんだよ」
「おお。セネルじゃないか。今回のはちょっとばかし長かったな。
  いつもならばその日のうちにもどてきてたりしたのに」
「すこしあちらで商品がなかなかそろってなくてな」
どうやらセネルはこの船乗りというか蒸気船の船長と知り合いらしい。
「ふむ。セネルの知り合いか。よし。もしもどこかにいきたいのならいってくれ。
  どうせ海が凪いだこともあり船の試運転を改めてしなきゃらなないからな。
  そのついででよければのせていってやろう」
「ほんと!?ありがとございます~!」
「とにかく、一度総督府にいくぞ。あんたらはどうする?」
「そうね…まずは私たちはここの教会にいきましょう」
「お祈りならあとにしようぜ。って先生。顔色がわるいけど大丈夫か?」
「平気よ。もうのらなくてすむのだし。う…今になって……」
今さらながらに恐怖心がわきあがり、すこしばかり顔色をわるくしているリフィル。
「姉さんって、実はね」
「ジーニアス!何でもありません」
  まずは教会に行くべきよ。この街の教会には『再生の書』があったはずよ」
「何だ、それ?」
「マーテル教を開いた、最初の神子スピリチュアルが行った世界再生の旅の全てを記録した書の事よ」
それがどうしたとロイドは首を傾げ、ジーニアスはそれが何でパルマコスタの教会に繋がるのかと首を傾げた。
コレットとクラトスは納得したように頷いたが、リフィルは分かっていない二人の為に言葉を続ける。
「一冊だけ作られた『再生の書』はバラクラフ王家に納められたんだけれど、
  王朝が滅んだ時に持ち出され、この街の教会に保管されているはずなの。
  パルマコスタは、スピリチュアルが最初に説法を行った場所だから」
その言葉にジーニアスは納得したように頷き、ロイドは益々首を傾けた。
「確か今の祭司長は前にイセリア聖堂で修行をしていたマーチ司祭だったはずよ。コレット、覚えていて?」
「はい。穏やかな、立派な司祭様でした」
「彼に頼んで『再生の書』を見せてもらいましょう。
  そうすれば、この先の旅はずっと楽になるはずだわ。よもや神子に見せないなんてことはないでしょうから」
そこまでリフィルが言ってロイドはその『再生の書』は世界再生の旅が楽になるような事が書いてある事を理解した。
どれほど貴重な書物であるのか理解していないが。
「流石姉さん!伊達に遺跡マニアをやってないよね!」
調子に乗ってそう言ったジーニアスの頭を叩くリフィル。
「教会?ならどちらにしても総督府の近くだし。案内してやるよ」
「珍しい。セネルが優しい……」
ごんっ。
「お前のせいだ!ったく、何ヒトに迷惑かけてやがったんだよ。
  お前のことだ、どうせ魔物とか普通に村とかにも呼んでいろいろとやってたんだろうが」
「「「たしかに」」」
かるくエミルの頭をたたきつつ、腕をくんで言い放つセネル。
どうやらこのセネル、という人物はエミルのことをよくわかっているらしい。
ゆえに思わず突っ込みをいれているリフィル・ロイド・ジーニアスの三人。
実際エミルのせいで魔物にたいする常識が完全に壊された、といっても過言でないイセリア村の面々。
と。
ぐ~~
「…先生。はらへった……」
「かまぼこぐみたべたじゃない」
「あれだけじゃたりないよ!」
「たしかに。朝食を食べてからまともにたべてないからね。コレットは平気なの?」
「え?あ。うん」
というよりまったくお腹がすいていない。
ときおりノドが乾く、くらいで。
それもだんだなくなくってきているのもまた事実。
「とりあえず、いつまでもここにいても何だしな」
「そうね。いきましょ」
とりあえずたしかにいつまでも港にいても何だというので、
ひとまず彼らはそのまま街の中へと向かうことに。

街の中心にむかおうと大きな石造りの建物の角を曲がろうとしたとき、
向こうからやってきた少女とおもいっきり出会いがしらにぶつかっているコレットの姿。
それと同時。
バリッン。
「ああ!」
少女がもっていたのであろうワインの瓶がすべりおち砕け散る。
あたりには赤ワインの芳醇な匂いがたちこめる。
「ちょっと!何するのよ!この名物のバルマコスタワインを…せっかくもらったのに!」
少女は三人の友達らしき人物と一緒であったが、こぼれてしまったワインをみてわめきだす。
「す、すいません」
「すぐ変わりをかってきますから」
「かわり?弁償すりゃいいとおもってんのか?こら?」
少女と一緒にいた男がすごんでくる。
「そうだぞ。ばぁか」
ふと目の男も口をそろえていってくる。
「コレット。こんなやつらのワインなんてほっときゃいいぞ」
あまりの品のなさにあきれつつ、そもそも飛び出してきたのはむこうである。
ゆえにこちらにあるいみ日はない。
向こうが走ってきたがゆえにそのままぶつかってしまったのは一目瞭然。
「なんだとぉ!?俺達を誰だとおもってんだ!」
「しるかよ」
「てめぇ!」
「まあまあ。まちなよ。ただでさえ早いところこの街をはなれたいんだ。騒ぎをおこすんじゃないよ」
そんな男たちをとめたのはとんがり帽子をかぶっている仲間うちではいちばん歳をましているっぽい女性。
「そうですわ。早い所ワインだけ弁償してもらって、この街をずらかり…いえ、参りましょうよ。おわかり?」
先ほどまで叫んでいた少女は急にすました口調になると、コレットをあごでしゃくる。
「わかりました。ロイド、悪いのはわたしだからやっばりワインかってくるよ」
「そもそも飛び出してきたのはそちらじゃない。コレット。買う必要はないわ」
「うむ。目撃者もかなりいるしな」
事実、この騒ぎをみて周囲のひとが彼らが走っていたのをみていたのか、
その言葉に幾人かうなづいているのがみてとれる。
「え?で、でも」
「だけど、私がぶつかったせいでワインが……」
「は~。仕方ないわね。このご時世だからワインは値上がりしてるときいてるんだけど……」
「異常気象でワインの質がおちてる、ともきくな」
事実、この数年の異常気象でワインの質がおちており、
過去のワインはその質の上質さからどんどん値上がりしてるらしい。
「さっさとかいにいけよ!」
「ロイド。いこうよ。皆も」
「コレット。あなたが優しいのはいいけど、時にはきちんと断ることもおぼえないと。
  あなたのこころいきは神子としてすばらしいわ。だけどね?」
ぶつぶついいつつも、さっさと先ほどの三人は近くにある橋の上でまつ、といってこの場からはなれている。
「まったく。何てやつらだよ。いいがかりにもほどがある。そもそもぶつかってきたのはあいつらだろうが」
ぶつぶつといまだに文句をいっているロイド。
そして。
「大きな都ってどうしてもあんな人がいるんだよ。まああの人達は街のひとじゃなかったみたいだし」
あの村に定住するまでいろんな場所にいっているがゆえのジーニアスの台詞。
「…あんたらも大概人がいいな。まあここの雑貨屋というか道具やは一つしかないからな」
いいつつも、セネルは苦笑しつつ、彼らをその場所へと案内してゆく。
「…セネルも人のこといえないとおもうな……」
それでも裁きを下すときには容赦はしない。
それはエミルにもいえること。
「あ。本当だ。あそこに雑貨やさんがあるよ」
「パルマツルーズってかいてある」
「ワインってどれくらいするのかな~?」
「…のんきね」
「買うにしてもやすので十分だろ。そもそも買う必要もないものだ」
「そうね」
そもそもあんな態度をとるものたちがワインの質をみただけでわかる、とはおもえない。
ひとまず、店の前でセネル達とはわかれ、コレット達は店の中へ。

「ふざけないで!そんな安い値段で売れるもんですか!」
店の開けると同時に女性の怒鳴り声が聞こえ、驚く。
カウンターにいる女性は顔を隠した二人組の男を睨んでいた。
その二人組がディザイアンだと分かり、ロイド達の目付きが剣呑なモノになった。
「こんなちんけな店の品物に金を恵んでもらえるだけでもありがたいと思わないのか」
「薄汚いディザイアンが偉そうに!こっちはあんた達みたいなのにグミ一つだって売りたくないのよ!」
「ショコラ、やめて!」
娘の言葉に母親らしき人物は血の気の引いた顔で声をあげた。
悲鳴にも似た制止の声にショコラと呼ばれた女性は一歩も引かないという態度で母を見た。
「だってお母さん!こいつ等、おばあちゃんを連れてった悪魔なんだよ!」
「いい度胸だな、娘!そんな態度でいるとこの街やお前自身がどうなっても知らないぞ」
「やれるもんですか!ドア総督がいる限りあんた達になんて屈しないんだから」
「こいつ!」
ディザイアンの手が武器の伸びる。
ここで暴れるようならと柄に手を触れるが、そのディザイアンを止めたのはもう一人のディザイアンだった。
「よせ!今年の間引き量を超えてしまう。これ以上はマグニス様の許可が必要だ」
「ちっ……」
止められた男は今にも殺してやりたいと女を睨む。
それとは対照的に止めた男は女を馬鹿にしたような笑みを浮かべ、警告にも似た言葉を告げる。
「マグニス様の御意向次第では命の保障はできないぞ。命の補償はできんということだ。覚えておけ!」
男たちは腹いせなのかカウンターの上の食料品などを派手に払い落すと、
反抗的な目で睨む女を前に店を出るディザイアン達。
必然的にロイド達の前を通り店を出ていったのだが、ロイドはディザイアン達をずっと睨み続けた。
ディザイアンの姿が見えなくなるとショコラは母に微笑み掛けた。
「じゃあお母さん。私、仕事に行ってくるね」
「気を付けてね」
元気よく店を出ていく娘に母親はホッと安堵したように息を吐いた。
だが、この後の事を考えたのか、暗い表情を浮かべる。
それでもロイド達の姿に気が付くと弱々しいものの笑みを浮かべて見せた。
「お客さん、ごめんなさい。驚かれたでしょう。でももう大丈夫ですから」
ショコラの母が頭をさげてくる。
「いえ。あのう。ワインがほしいんですけど」
「安物でいいですわ」
「それでしたらパルマコスタワイン、ですわね。ですがここ数年のワインは質がおちて安くなっていますが。
  以前のものはかなりのお値段がいたしますが…」
「近年のものでいいです」
「あら。お土産ではないのかしら?」
「お金は節約したいので」
「ああ。料理とかにつかわれるのですね。でしたらこれがいいですね」
提示された金額は百G。
確かに無難。
そのまま提示されたワインを手にとりそのまま店をあとにしてゆく。

「……ほらよ」
先程買ってきた替りのワインを男に渡すと男は満足気に笑い、頷いた。
品のない笑みだと心の中で毒気吐く。
「よーしよーし。いい子ちゃんじゃねーか。これに懲りて二度と人様に迷惑を掛けるんじゃねーぞ」
「はい、気を付けますね」
笑顔で頷くコレットの少し後ろで青筋を立てるロイドとジーニアス。
リフィルはリフィルで「品のない男ね」と小さく呟く。
その呟きが唯一聞こえたクラトスはいつものように黙したままだった。
「ほら行くよ!」
「それにしても、ドア総督って大したことありませんのね~。ほいほいと家宝をくれるなんてチョロいですわ~」
「それで、アニキ!あれはどうするんだ」
「ばぁーか。俺達があんなもん持ってても役に立たねぇだろ。
  がらくたを集めてるっていうハコネシア峠のジジイに売っぱらうんだよ」
「さっ、行くよ!」
立ち去る男達の後に取り残されたのは怒りのやり場がないロイドとジーニアス、
怒られたと苦笑を浮かべるコレット、男達の言葉に眉を潜めるリフィルとクラトスだった。
「へへ、怒られちゃったね」
「……何かむかつくぜ、アイツ等」
納得いかないと呟くしかなかった。


総督府の中にとある海上保安部。
「遅かったな。めずらしく」
「ただ今戻りました。今回の依頼の報告書です」
船の中でかいた今回の依頼の報告書を丁寧にと提出する。
びしっと敬礼をするのをわすれない。
「うむ。たしかに。それで…そっちの子は?」
街にはいり、すでにセンチュリオン達三人の姿は一応消すようにと指示してある。
ゆえにそこにいるのに普通の存在からしてみれば姿はみえない。
「あ。はい。以前にいっていました友人です。ようやくみつかりまして」
「ほう。君がか。セネルがかなり心配してたぞ?ほっといたらなぜか厄介事にまきこまれる奴だって」
「…セネルー……」
「事実だろうが」
巻き込まれるというよりは巻き込まれにいく、というほうが正しいが。
まあセネルは嘘はいっていない。
「しかし。まいったな。お前がここと契約したのはその子を探す目的もあってだろ?
  お前のような腕のいい操縦士は滅多といないからな……」
「まあ、契約したばかりで契約破棄というのも自分も嫌なので」
「そういってくれると助かる。そういえば…お前契約してからこのかた休みとかとってないよな。
  …よし。ここはせっかくだし。お前に長期休暇をあたえよう。
  久しぶりに妹のところにでもいってやれ」
セネルに妹がいるのはウィルは知っている。
もっともどこに住んでいるのか、という答えにフラノール、といわれ、きいたことがない地名なので首をかしげたが。
そもそも今のフラノールはここシルヴァランドにはない。
それゆえに知らなくても不思議はない。
ウェイグがいるからシャーリーをあそこに残してきていても心配がないといっても過言でない。
そもそも妹のことをかたらすと延々と妹自慢がつづいてゆくのである。
それはウィルが自分の娘を自慢するのと同じであり、保安部のものたちは、
彼らに家族の話題をふるのは禁止、とすらいっている始末。
ちなみに、リフィル達は教会にいっており、今ここにはいない。
「そういえば、ここで契約していると聞いたのですけど。セネル役にたってます?」
「うん?ああ。凄腕だな。よくこんな人物が埋もれていたとおもうが。
  聞けば孤島に住んでいたとか?契約した直後にこのあたりの異変を解決してくれてな」
「異変?」
「異様に海が荒れた時期があってな。まあそれも解決したわけだが」
『何があった?』
『愚かな人がこともあろうに魔物を実験材料につかってやがった。
  とうぜん綺麗に海で浄化したぞ?』
ここより少し南の地にて魔物を強制的にとらえて合成実験を行っていたヒト。
それに気付いた魔物達が本来の役目たるマナの調整をわすれ騒いでいた。
ゆえにこそこのあたりのみのマナが乱れ、海があれていた。
ざっと確認というか調査しただけであまりに非道なる行いがされていた。
ゆえに、海岸沿いであったことからそこに高波をひきよせ、その施設全てを呑みこんだ。
そこに捕らえられていた魔物達も全て保護し、乱されたマナの持ち主は海のマナにてよみがえらせた。
もっとも、そのときに使ったのはネルフィスであることから海のマナが大量につかわれた、
とミトスにも誰にも気づかれなかっただけのこと。
『すまん』
魔物に関しては自分の管轄なのにどうやらセネルが解決してくれたらしいことに一応謝りはいれておく。
「?おまえらのとこの言語か?それ?」
聞きなれない、言葉のようで歌のようで、旋律のようなそれをきき、首をかしげているウィル。
たしかに第三者がきけばその言葉は旋律のようにきこえ、逆をいえば歌のようにもきこえなくはない。
「セネル。休暇に入る前に一つ依頼をうけてくれないか?」
「何ですか?」
「…前にお前にいったことがあるとおもう。…秘密裏の依頼だ」
「何か進展が?」
それはこの街の総督のこと。
組織だって抵抗している、というのにあの彼らがこの街を壊滅しにこない、というのに疑問をもったのが事の発端。
「ああ。しかし……」
「あ。僕は外にでてますね」
「いや。部長。エミルにも手つだってもらってもいいですか?
  こいつこれでも再生の神子の一行に一緒にいるので、何かと都合がいいかと」
「なに?!再生の神子…だと!?」
「え。あ。はい。イセリアのコレット達と一緒にここまできてますけど……」
「ふむ。神子に何かあるまえにきちんと把握しておいたほうがいいだろうな…実は……」
総督府のトップたる長のところにディザイアンが出入りしている、というまこしとやかな噂。
その噂の真意をたしかめようと聞いてみても笑い飛ばされる。
ゆえに秘密裏に調査をしていたが、たしかに定期的にディザイアンが訪れているのを確認した。
信じたくはないが総督とディザイアンが繋がっている可能性がある以上、
神子にも危害がおよびかねない。
しばし、ウィルによる秘密依頼の内容が語られてゆく……


2013年11月1~5日(金~火)某日

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